説明

固体高分子電解質膜、その製造方法、および電気分解素子

【課題】触媒が固体高分子電解質内に残留することによって発生する不具合を抑制し、電極としての寿命を延ばすことを課題とする。
【解決手段】 膜状の固体高分子電解質膜を、あらかじめ還元剤水溶液に浸し、その後、触媒化合物水溶液に浸漬することで、触媒イオンと触媒の固体高分子電解質の内部への残留量を削減する。またさらに固体高分子電解質を還元剤水溶液に浸漬して表面に存在することのある触媒イオンを還元する。電気分解素子では、固体高分子電解質膜の一方の触媒層を陽極とし、他方の触媒層を陰極とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜、その製造方法、および電気分解素子に関し、詳しくは両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜、その製造方法、および上記固体高分子電解質膜を電極材として使用してなり、水の電気分解素子、燃料電池、湿度調節素子などとして好適な電気分解素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、固体高分子電解質と触媒粒子とを含んでなる多孔性の固体高分子電解質―触媒複合電極母体を作製した後、該電極母体に無電解めっき処理を施すことによって電子伝導性物質を該電極母体に担持させ、電極母体表面に電子導電性物質層を形成し、または、電極本体内の細孔内表面に電子伝導性物質を担持させ、または、固体高分子電解質層中のイオン伝導領域に電子伝導性物質を担持させる固体高分子電解質電極の製造方法は、後記の特許文献1から公知である。また上記の無電解めっき処理の方法としては、例えば、電極母体中の固体高分子電解質に白金族金属化合物イオンを吸着せしめ、該白金族金属化合物イオンを、水素化硼素塩水溶液または水素ガスで還元処理することも特許文献1から公知である。
【0003】
【特許文献1】特開平11−217687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術によって製造された白金族金属化合物を担持させた固体高分子電解質膜において、当該電解質膜を電極として、水が存在する状態でその両面から直流電流を流すと、触媒作用により固体高分子電解質膜の内部に蓄えられたプロトンが膜内部を移動し、その結果、電極表面のアノード側では酸素が、カソード側では水素が発生する。またそれと同時に、膜表面や膜内に存在する白金イオンが白金となる。この白金部が、酸化、還元反応の触媒となるため、この部分で、酸素、水、水素等の気体が発生し、その気体によって固体高分子膜が膨張、破断し、電極としての性能が失われるといった問題点があった。本発明は、この触媒が固体高分子電解質内に残留することによって発生する不具合を抑制し、電極としての寿命を延ばすことを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る固体高分子電解質膜は、膜状の固体高分子電解質の両面に、白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種からなる触媒層を有する固体高分子電解質膜であって、上記固体高分子電解質の内部に存在する上記触媒の質量が0.1質量%以下であることを特徴するものである。
【0006】
本発明に係る他の固体高分子電解質膜は、膜状の固体高分子電解質の両面に、白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種からなる触媒層を有する固体高分子電解質膜であって、上記固体高分子電解質の内部に存在する上記触媒の質量を、上記固体高分子電解質の乾燥質量で除した値が0.001以下であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明に係る固体高分子電解質膜の製造方法は、膜状の固体高分子電解質を還元剤水溶液に浸漬する第一工程、上記第一工程から得た固体高分子電解質を白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種の水溶液に浸漬する第二工程を含むことを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係る電気分解素子は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜における一方の触媒層を陽極とし、他方の触媒層を陰極とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の固体高分子電解質膜によれば、固体高分子電解質中に存在する触媒残留量が、0.1質量%以下と少ないので、あるいは上記固体高分子電解質中に存在する触媒質量を、上記固体高分子電解質膜の乾燥質量で除した値が0.001以下であるので、当該固体高分子電解質膜を電気分解素子の電極として使用した場合には、その寿命が従来の固体高分子電解質膜を電極として使用した場合より長くなる極めて優れた効果がある。本発明の固体高分子電解質膜の製造方法によれば、固体高分子電解質中に存在する触媒残留量を0.1質量%以下とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用されるプロトン伝導性を有する膜状固体高分子電解質を構成する固体高分子電解質としては、デュポン社の商品名ナフィオン、旭硝子の商品名フレミオン、旭化成(株)アシプレックスやW.L.ゴア&アソシエーツ社の商品名ゴアセレクト等で、斯界で従来から公知あるいは周知のものであってよい。その厚さは、50μm〜500μm、好ましくは50μm〜300μmである。
【0011】
触媒として用いられる白金族金属およびその化合物、金またはその化合物、あるいはニッケルまたはその化合物としては、Pt、Co、Rh、Pd、Ir、Au、Niなどの金属類、[Pt(NH34]Cl2、H2PtCl6、Co[(NH36]Cl3、Co[(NO2)(NH35]Cl2、Rh[(NH3)6]Cl3、[Pd(NH3)4]Cl2、[Ir(NH3)6]Cl6、NH4[AuCl4]、AuCl3、NiCl2、Ni(NO32・6H2Oなどの錯体であり、就中、白金およびその化合物類が好ましい。
【0012】
本発明の製造方法で用いられる上記金属およびその化合物の水溶液としては、Pt、Co、Rh、Pd、Ir、Au、Niなどの金属類、[Pt(NH34]Cl2、H2PtCl6、Co[(NH36]Cl3、Co[(NO2)(NH35]Cl2、Rh[(NH3)6]Cl3、[Pd(NH3)4]Cl2、[Ir(NH3)6]Cl6、NH4[AuCl4]、AuCl3、NiCl2、Ni(NO32・6H2Oなどの水溶液が例示される。
【0013】
本発明の製造方法で用いられる還元剤としては、上記水溶液中で上記金属類のイオンを還元して金属を析出させることができる物質が用いられ、例えばホルムアルデヒド、次亜リン酸、水素化ホウ酸ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン等である。これらのうちでは、水素化ホウ酸ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミンボランが好ましく、それらは特に白金イオンを金属に還元析出するうえで特に効果が高い。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における固体高分子電解質膜の概略断面図であり、図2は従来の固体高分子電解質膜の概略断面図である。図1、2において、膜状固体高分子電解質2の両面には触媒層1が存在するが、図2に示す従来の膜状固体高分子電解質2の内部には触媒イオン3が数10質量%オーダの多量で存在する。これに対して図1の実施の形態では、触媒イオン3は存在しないか、あるいは存在しても0.1質量%以下の少量に過ぎないので図示していない。
【0015】
以下、本発明の実施の形態1と従来技術との相違に就き、詳細に説明する。従来技術においては、触媒を担持させる膜状固体高分子電解質の両面の清浄化処理、触媒化合物水溶液吸収処理、還元処理(触媒担持処理)、清浄化処理の4工程を順次経て製造される。この場合、清浄化処理後、膜状固体高分子電解質を触媒化合物水溶液に浸漬して膜中に触媒化合物を吸着させ、その後、還元剤に浸漬することで触媒イオンを還元して、膜表面に触媒を担持させる。還元剤は、液中から膜状固体高分子電解質の表面へ供給されるため、還元反応の進行と共に膜表面が触媒で覆われると、触媒イオンへの還元剤の供給も停止する。その結果、担持反応は停止し、膜内部に未反応の触媒イオンが残る。
【0016】
これに対して本発明の実施の形態では、従来技術と同様の清浄化処理の後、還元剤吸収処理、触媒化合物水溶液への浸漬処理(触媒担持処理)、清浄化処理の4工程を順次経て製造される。なお、各工程間にはイオン交換水もしくは純水での洗浄行われる。本発明では、特に膜状固体高分子電解質中に事前に吸着させる物質が、(触媒イオンでなく)還元剤であることに特徴がある。
【0017】
次に、本発明の実施の形態においては、実質的に表面にだけ触媒が選択的に担持される理由を説明する。還元剤は予め、膜状固体高分子電解質に吸収されている。この還元剤を含んだ膜状固体高分子電解質を触媒イオンの水溶液に浸すと、還元剤が固体高分子電解質の内部から表面へ、触媒イオンが水溶液から固体高分子電解質の表面へ移動する。固体高分子電解質の表面から滲み出た還元剤と水溶液中の触媒イオンは、固体高分子電解質の表面で電子を受授し、表面に触媒が担持される。反応が進行し、固体高分子電解質の表面が触媒で覆われると、膜中への触媒イオンの拡散と水溶液中に存在する触媒イオンへの還元剤供給が阻害され、反応は停止する。すなわち、反応停止時点で、固体高分子電解質の表面は触媒で覆われ、触媒イオンの内部拡散が阻害されるため、その結果、固体高分子電解質の内部における触媒残留が防止できる。
【0018】
実施の形態2.
実施の形態2では、本発明の固体高分子電解質膜の具体的な製造方法について説明する。ここでは、触媒としては白金を、膜状固体高分子電解質としてナフィオン117(デュポン社製:厚さ170μm)を用いた。なお上記ナフィオンなど、本発明で使用される固体高分子電解質は、一般的に、その表面から内部にかけてプロトンを保持・透過する微細経路があるため、希硫酸水溶液などと同様に電解質として挙動する。
【0019】
先ず清浄化処理について述べると、ナフィオンには前述したプロトン伝達用の微細経路がある。そのため、この微細経路に空気中の有機物や無機物が吸着され易い。ナフィオンの実質的に表面にのみに触媒を担持させるには、表面と微細経路内を清浄にしておくことが好ましく、その方法として、例えば70℃に加熱した30質量%濃度の希塩酸中でナフィオンを20分程度煮沸した。なお、その清浄化を一層高めるために塩酸と等量の過酸化水素水を混合させてもよい。続いて、清浄化で用いた塩素イオンをナフィオン内部から十分に除去するために、ナフィオンを25℃の純水あるいはイオン交換水に15分以上浸漬して水洗した。
【0020】
次の還元剤吸収処理において、還元剤として、水素化ホウ素ナトリウム2.0g/リットルの濃度の水溶液を水酸化ナトリウムでpHを12に調節して用いた。前述したプロセスを完了させたナフィオンをこの還元剤水溶液に浸漬し、還元剤成分をナフィオンに吸収させた。実施の形態2の場合、還元剤の温度は50℃、浸漬時間は2時間とした。吸収した還元剤の流出を防ぐため、吸収完了後の水洗は1分とし、表面近傍の余剰成分を洗浄する程度にとどめた。洗浄が過剰に行われると、ナフィオンに吸収させる還元剤のpHが下がり、還元力が低下する。その結果、白金イオンが還元できず、触媒が担持できなくなるため注意が必要である。なお、上記浸漬時間と還元剤温度とを調節することによりナフィオンに吸収させる還元剤の量を任意に制御できる。例えば温度を上げるとナフィオンが膨張し、還元剤の吸収量を増加させることができる。
【0021】
続いて担持処理について説明する。白金水溶液として、40℃に保持したテトラアンミン白金ジクロライド0.25g/リットル水溶液を用い、還元剤吸収処理されたナフィオンをそれに10分浸漬した。この浸漬により、ナフィオンの両面のそれぞれに1.1mg/cm2の白金層が形成担持された。なお浸漬だけでは触媒付着量が不足し、電気抵抗が大きくなる場合には、必要に応じて触媒担持後、無電解めっき、電解めっきなどによって上記触媒上に金属を成長させ、触媒面での電気抵抗を下げても良い。
【0022】
最後に、清浄化処理を施す。これは、担持処理完了後、ナフィオンに付着した余分の白金イオンを除去し、触媒の安定化を図るために行うものであって、具体的には、最初の正常化処理と同じく、70℃に熱した30質量%の希塩酸中でナフィオンを10分程度煮沸する。ついで25℃の純水あるいはイオン交換水に15分以上浸漬して塩素を十分に除去する。
【0023】
以上の方法で試作したナフィオンの表面状態を撮影した図3の写真に示す。図3に示された通り、ナフィオンの表面には、白金触媒が鱗片状に担持されていることが分かる。ナフィオンを断面方向にEPMAで分析したところ、ナフィオン内部の白金濃度は0.1質量%以下であった。さらに、実施の形態2で得られた固体高分子電解質膜を電極(電極面積:16.5cm2)とした湿度調製素子を組み立て、両表面間に直流電流を通じて特性評価を行った。その結果、電流0.5A、電流密度3A/dm2の時に、1時間あたりの除放湿水分量が170mgという結果が得られた。この条件で3000時間の連続通電テストを行ったところ、除湿性能は低下しないことが確認できた。
【0024】
なお、ナフィオン内部への白金の拡散を防止するためには、還元剤はできるだけ多くナフィオンに吸着させること、および還元剤の濃度はできるだけ高くすることが重要である。また、触媒浸漬処理液の白金濃度はできるだけ高く、担持処理時間はできるだけ短く、短時間で触媒を担持させることが好ましい。
【0025】
また還元剤として、ヒドラジン、ジメチルアミンボランを利用することも可能である。なお、還元剤は触媒イオンを還元すると共に水素ガスを発生して分解する。そのため、ナフィオン内に吸着した還元剤のpHが大きくなり還元力が変動するが、ナフィオン内部にはプロトンが蓄えられており、この部分から還元剤にプロトンが供給されるため、pHは一定に保たれるといった効果もある。触媒担持処理液として、実施の形態2で示した以外の材料、たとえば、四誌塩化白金をアンモニア水溶液に溶解した水溶液でも同様の効果を得ることができる。
【0026】
実施の形態3.
実施の形態3は、前記実施の形態2とは、担持処理における白金水溶液として、テトラアンミン白金ジクロライド0.5g/リットル水溶液を用いたことのみが異なり、その他の条件は同じであって、この水溶液への浸漬により、ナフィオン膜の両面のそれぞれに1.7mg/cm2の白金が形成担持された。
【0027】
実施の形態4.
実施の形態4は、前記実施の形態2とは、担持処理における白金水溶液として、テトラアンミン白金ジクロライド1.0g/リットル水溶液を用いたことのみが異なり、その他の条件は同じであって、この水溶液への浸漬により、ナフィオン膜の両面のそれぞれに1.8mg/cm2の白金が形成担持された。
【0028】
実施の形態5.
実施の形態5は.前記実施の形態2とは、還元剤吸収処理において前記還元剤の温度を40℃、浸漬時間は4時間としたこと、担持処理において25℃に保持した前記テトラアンミン白金ジクロライド水溶液に2時間浸漬したのみが異なり、その他の条件は同じであって、この水溶液への浸漬により、ナフィオン膜の両面のそれぞれに0.9mg/cm2の白金が形成担持された。
【0029】
実施の形態6.
本発明の固体高分子電解質膜、例えば前記ナフィオン膜における触媒活性を向上させるには、それに担持された触媒と反応に寄与する液体、ないし気体との接触面積を増加させれば良いことが知られている。そのため、一般に固体高分子電解質膜の触媒活性を向上させるため、次に述べる方策を行う。はじめに、固体高分子電解質の表面に平均表面粗さ0.5〜1.0μm程度の粗面化処理を施す。その後、表面の凹凸上に触媒を担持させて触媒と反応物との接触面積を増やし、かつ、析出した触媒粒子の連続性を確保しつつ、各触媒核を粒状に析出させる。しかしながら、この粒状析出物では、粒と固体高分子電解質の表面との間に微小な空隙が存在するため、前記実施の形態1で示した還元方法によると、図4に示す通り、触媒1における最表面の粒子の一部がイオン状態(白丸で示す。)で残留することがある。かかる残留イオンがあると、通電初期に残留イオンの還元反応のために通電した電流が消費されるため、電極性能が不安定となり、最悪の場合、本発明の電気分解素子の動作が正常になされないことがある。この現象を防止するには、実施の形態1の方法で触媒1を担持した固体高分子電解質2の表面を再度還元すればよい。以下その手法について説明する。
【0030】
実施の形態1において触媒イオンが、図4に示すように、表面に担持した触媒1の空隙部に存在する場合は、固体高分子電解質膜を再度還元剤水溶液に浸漬して、空隙部の触媒イオンの還元処理を実施する。即ち、前記実施の形態1において説明した、清浄化処理、還元剤吸収処理、触媒化合物水溶液浸漬処理(触媒担持処理)、清浄化処理の4工程の内の触媒化合物水溶液浸漬処理と清浄化処理との間に空隙部触媒イオンの再還元処理を挿入する。
【0031】
上記再還元処理における再還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウムの0.5g/リットル水溶液を水酸化ナトリウムでpHを12に調製したものが用られる。これは前記還元剤吸収処理の場合と同じ水溶液を用いているが、還元すべき触媒イオンの絶対量が触媒担持処理の場合より少ないため、その濃度を吸収処理のものより低くしても良い。一例として、具体的な条件を示すと、実施例3の場合から、担持処理に用いる触媒化合物水溶液のテトラアンミン白金クロライドの濃度を0.25g/リットル、浸漬温度を40℃、浸漬時間を10分とし、続く再還元処理の温度は50℃、浸漬時間は2時間とした。この浸漬により、ナフィオンの両面のそれぞれに2.2mg/cm2の白金層が形成担持された。以上の方法で作製した固体高分子電解質膜の表面触媒再還元処理後の断面の概略図を図5に示す。図5に示した通り、表面の触媒は、再還元処理によって空隙部に存在した触媒イオンは触媒に還元されていることが分かる。
【0032】
また、実施の形態1において述べたように、実施の形態6においても、触媒量が不足し電気抵抗が上昇してしまう場合は、必要に応じて再還元処理後に無電解めっきや電解めっきによって触媒上に金属を成長させて触媒面での電気抵抗を下げても良い。
【0033】
比較例1.
前記実施の形態例2と同じナフィオンに対して、70℃に加熱した30質量%濃度の希塩酸中で20分煮沸して清浄化処理し、次いで25℃に保持したテトラアンミン白金ジクロライド1.0g/リットル水溶液に2時間浸漬して触媒担持つ処理し、次いで水素化ホウ素ナトリウムの0.5g/リットル水溶液を水酸化ナトリウムでpHを12に調節したものに40℃で2時間浸漬して還元処理し、70℃に加熱した30質量%濃度の希塩酸中で10分煮沸して清浄化処理して、比較例1の固体高分子電解質膜を得た。
【0034】
比較例2.
前記比較例1とは、水素化ホウ素ナトリウムの0.5g/リットル水溶液を水酸化ナトリウムでpHを12に調製したものに60℃で2時間浸漬した以外は同じ条件の処理を行って、比較例2の固体高分子電解質膜を得た。
【0035】
比較例3.
前記比較例2とは、触媒担持処理液として25℃に保持したテトラアンミン白金ジクロライド0.25g/リットル水溶液を用いたこと、および還元処理に水素化ホウ素ナトリウムの1.0g/リットル水溶液を水酸化ナトリウムでpHを12に調節したものを用いた以外は同じ条件の処理を行って、比較例3の固体高分子電解質膜を得た。
【0036】
前記実施の形態2〜6および比較例1〜3の各固体高分子電解質膜を電極とし、電極面積が16.5cm2、電流密度が3A/dm2の除湿素子を作成し、下記の測定方法および条件にて初期除湿量(mg/時間)、除湿素子の寿命、および固体高分子電解質膜の内部に存在する白金量(質量%)を測定した。なお、除湿量は、除湿素子を30℃60%の雰囲気に密閉空間に設置し、その後、素子を動作させ、単位時間あたりの湿度変化を記録し、その湿度変化から、測定した。除湿素子の寿命は、除湿素子の初期除湿量の値が50%以下となる時間、あるいは電流が流れなくなった時点とした。固体高分子電解質膜の内部に存在する白金量はX線マイクロアナライザー(検出限界量:0.1質量%)で測定した。
【0037】
上記の測定の結果、初期除湿量については、実施の形態2では170mg/時間、実施の形態3では165mg/時間、実施の形態4では168mg/時間、実施の形態5では159mg/時間、実施の形態6では185mg/時間であり、除湿素子の寿命については、実施の形態2〜6のいずれも3000時間以上であり、内部に存在する白金量については実施の形態2〜6のいずれもが白金検出限界量以下、固体高分子電解質中に存在する触媒質量を固体高分子電解質膜の乾燥質量で除した値は、0.001以下であり、当該固体高分子電解質膜を電気分解素子の電極として使用した場合には、実施の形態2〜6のいずれもが3000時間後も除湿素子としての特性および機能を維持しており、また各除湿素子の固体高分子電解質膜器の断面を観察したところ、白金の凝集は認められなかった。
【0038】
これに対して、比較例1では初期除湿量が98mg/時間、除湿素子の寿命が47時間、内部に存在する白金量が2.5質量%であり、比較例2では初期除湿量が102mg/時間、除湿素子の寿命が78時間、内部に存在する白金量が1.2質量%であり、比較例3では初期除湿量が121mg/時間、除湿素子の寿命が240時間、内部に存在する白金量が0
.5質量%であった。
【0039】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、触媒として白金以外の白金族金属あるいはその化合物、金またはその化合物、あるいはニッケルまたはその化合物を用いても白金に場合と同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の固体高分子電解質膜は、水の電気分解素子、燃料電池、湿度調節素子などにおける電極としての利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態1における固体高分子電解質膜の概略断面図である。
【図2】従来の固体高分子電解質膜の概略断面図である。
【図3】実施の形態1における固体高分子電解質膜の表面の電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施の形態6における表面触媒再還元処理前の固体高分子電解質膜の概略断面図である。
【図5】本発明の実施の形態6における表面触媒再還元処理後の固体高分子電解質膜の概略断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1:触媒、2:膜状固体高分子電解質、3:触媒イオン、
4:再還元処理で還元された触媒。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状の固体高分子電解質の両面に、白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種からなる触媒層を有する固体高分子電解質膜であって、上記固体高分子電解質の内部に存在する上記触媒の質量が0.1質量%以下であることを特徴する固体高分子電解質膜。
【請求項2】
膜状の固体高分子電解質の両面に、白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種からなる触媒層を有する固体高分子電解質膜であって、上記固体高分子電解質の内部に存在する上記触媒の質量を、上記固体高分子電解質の乾燥質量で除した値が0.001以下であることを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項3】
上記触媒層は、白金またはその化合物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
膜状の固体高分子電解質を還元剤水溶液に浸漬する第一工程、上記第一工程から得た固体高分子電解質を白金族金属またはその化合物、金またはその化合物、およびニッケルまたはその化合物のうちの少なくとも1種の水溶液に浸漬する第二工程を含むことを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
上記第二工程から得た固体高分子電解質を還元剤水溶液に浸漬する第三工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
上記第二工程において、白金またその化合物のうちの少なくとも1種の水溶液に浸漬することを特徴とする請求項4または請求項5に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜の一方の触媒層を陽極とし、他方の触媒層を陰極とすることを特徴とする電気分解素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−223118(P2008−223118A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66977(P2007−66977)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】