説明

固定化酵素の製造方法

【課題】エステル化反応に使用した使用済み固定化酵素の固定化担体を有効利用し、使用前と同等の性能を有する固定化脂質分解酵素を製造する方法の提供。
【解決手段】エステル化反応に使用した固定化脂質分解酵素に溶剤を添加し、油分残存量が固定化担体100質量部に対して50質量部以下になるように洗浄し、次いでアルカリ溶液を接触させた後固定化担体を回収し、当該固定化担体に脂質分解酵素を吸着させる固定化脂質分解酵素の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化酵素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンと脂肪酸を原料としてエステル化反応を行う際に、酵素を効率的に使用するため、無機又は有機の担体に脂質分解酵素を固定化した固定化酵素が用いられている。この固定化酵素は、長期間に渡り反応に使用されるにつれて、その活性が低下するため、ある程度活性が低下した時点で回収し、新たな固定化酵素と交換する必要がある。
【0003】
回収された使用済み固定化酵素を有効利用する手段として、これに付着している蛋白などをアルカリを用いることにより全て除去し、担体として再利用する方法がある(特許文献1)。また、エステル交換反応やエステル転移反応に使用した活性の低下した固定化リパーゼを、溶剤又は溶剤とリン脂質を用いて湿潤処理して反応に寄与する水分をコントロールすることにより、残存するリパーゼを再活性化する方法(特許文献2)がある。
しかし、上記の従来技術のうち、アルカリを用いて酵素を除去する方法は、固定化担体が限定されたものであり、その他の固定化担体を用いた酵素に即応用できるものではない。
また、活性が低下した固定化酵素を溶剤又は溶剤とリン脂質を用いて湿潤処理する方法は、一部のリパーゼの脱離により活性が低下した固定化酵素を再生するものではなく、あくまでも残存するリパーゼを再活性化する方法である。
【特許文献1】特開平1−187086号公報
【特許文献2】特開平9−56379号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エステル化反応に使用した使用済み固定化酵素の固定化担体を有効利用し、使用前と同等の性能を有する固定化脂質分解酵素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで、固定化脂質分解酵素を用いてジアシルグリセロール(以下、「DAG」と記載する)を製造する場合、上記の従来技術による再生固定化酵素を使用すると、DAG純度が低下することが判明した。そこで、本発明者は、DAGの純度が低下する原因について種々検討したところ、再生した固定化酵素中に活性が低下した酵素が残存していることに原因があることを見出した。すなわち、脂質分解活性が低下しても転移活性が残っているため、1,3−DAGから1,2−DAGへの転位を経てトリアシルグリセロール(以下、「TAG」と記載する)が生成し、DAGの純度が低くなっていたのである。そこでさらに検討したところ、固定化酵素を溶剤で洗浄した後、アルカリ溶液によって処理すれば、エステル化反応に使用された固定化担体から活性が低下した酵素をほぼ完全に脱離できることを見出した。そして、その後、回収した固定化担体に新たな脂質分解酵素を吸着させることによって、目的とする固定化脂質分解酵素を製造することができることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、エステル化反応に使用した固定化脂質分解酵素に溶剤を添加し、油分残存量が固定化担体100質量部に対して50質量部以下になるように洗浄し、次いでアルカリ溶液を接触させた後固定化担体を回収し、当該固定化担体に脂質分解酵素を吸着させる固定化脂質分解酵素の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エステル化反応における使用済み固定化酵素の固定化担体を有効利用し、使用前と同等の活性を有する固定化脂質分解酵素とすることができる。そして、本発明の方法により製造された固定化脂質分解酵素を用いれば、純度の高いDAGを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法の対象となる固定化酵素(使用済み固定化酵素)は、エステル化反応に使用され、脂質分解活性が低下した固定化脂質分解酵素である。エステル化反応としては、例えば後記に示すグリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとのエステル化反応が挙げられる。
【0009】
本発明の製造方法の対象となる固定化酵素における固定化用担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、特にイオン交換樹脂が好ましい。
【0010】
イオン交換樹脂としては、多孔質の陰イオン交換樹脂が好ましい。このような多孔質担体は、大きな表面積を有するため、酵素のより大きな吸着量を得ることができる。樹脂の粒子径は100〜1000μmが好ましく、細孔径は10〜150nmが好ましい。
【0011】
陰イオン交換樹脂については、特許文献1に、疎水性に基づく吸着が強いので担体から酵素が脱離しにくく、使用することにより失活した酵素を脱着して担体を再利用することは困難であることが記載されている。これに対し、本発明は、固定化酵素を溶剤で洗浄した後、アルカリ溶液で処理すれば、酵素が疎水性吸着した担体においても酵素が容易に脱離し、また新しい酵素も吸着するため、担体を再利用できることを見出したものである。
本発明において、陰イオン交換樹脂の材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、特に本発明の効果を良好に発揮する点からフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohmand Hass社製Duolite A-568)が好ましい。
【0012】
本発明において、脂質分解酵素としてはリパーゼが挙げられる。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。微生物由来リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor) 属、リゾムコール(Rhizomucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の起源のものが挙げられる。
【0013】
使用済み固定化酵素の洗浄に使用する溶剤としては、n-ヘキサン、アセトン、クロロホルム、エタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトニトリル、酢酸、ペンタン、オクタン等が挙げられ、酵素の油分の除去性の点からn-ヘキサン、アセトン、エタノールが好ましく、特に酵素の油分の除去性の点と溶剤の除去性の点からn-ヘキサンが好ましい。
洗浄方法は、バッチ式混合、連続式接触等が挙げられるが、操作性の点からバッチ式混合が好ましい。洗浄後、固定化酵素から溶剤を濾過・減圧留去等の方法により除去することが好ましい。
【0014】
洗浄は、洗浄後の油分付着量が少なくなり、アルカリ処理工程で油分とアルカリとのケン化が低減し、操作性が良くなる点から、洗浄後の油分残存量が固定化担体100質量部(以下、単に「部」で表す)に対して50部以下になるように行う。洗浄後の油分残存量は、同様の点から、更に1〜50部、特に同様の点及び処理コストの点から10〜40部が好ましい。洗浄操作は、一回だけ行ってもよく、数回繰り返し行ってもよい。
油分残存量は、固定化担体質量に対して残存する油分の質量を測定し、下記式より固定化担体100部に対する質量比として求めることとする。
油分残存量=(a-b)/b×100 (a:固定化酵素質量、b:固定化担体質量)
【0015】
溶剤により洗浄した後、アルカリ溶液を接触させて使用済み固定化酵素から酵素を脱離させる。本発明においてアルカリ溶液に使用するアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、使用済み酵素の除去性の点から水酸化ナトリウムが好ましい。
アルカリ溶液との接触方法は、バッチ式混合、連続式接触等が挙げられるが、操作性の点からバッチ式混合が好ましい。接触方法は、静置、攪拌、振とう等が挙げられる。
【0016】
使用済み固定化酵素から酵素を脱離させるために使用するアルカリ溶液の温度は、製造した固定化酵素の活性を有効に引き出し、DAG純度の低下を防止する点から、0〜70℃が好ましく、30〜65℃がより好ましく、特に40〜60℃が好ましい。なお、ここでいう「DAG純度」とは、DAG及びTAG中のDAGの質量%(以下、単に「%」で表す)をいい、式で表すと、DAG/(TAG+DAG)×100である。
【0017】
また、アルカリ溶液の濃度は、製造した固定化酵素の活性を有効に引き出し、DAG純度の低下を防止する点から、0.25〜2規定が好ましく、特に0.8〜1.5規定が好ましい。
【0018】
アルカリ溶液との接触時間は、製造した固定化酵素の活性を有効に引き出し、DAG純度の低下を防止する点から、2〜48時間が好ましく、特に20〜30時間が好ましい。
アルカリ溶液を接触させた後、水洗、pH処理等によりアルカリを除去するのが好ましい。
【0019】
新たな脂質分解酵素を固定化する場合、固定化担体に酵素を直接吸着してもよいが、高活性を発現するような吸着状態にするため、酵素吸着前に予め固定化担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理することが好ましい。脂溶性脂肪酸又はその誘導体と固定化担体の接触法としては、水又は有機溶剤中にこれらを直接加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体の使用質量は、固定化担体100部に対して1〜500部、特に10〜200部が好ましい。接触温度は0〜100℃、特に20〜60℃が好ましく、接触時間は5分〜5時間程度が好ましい。この処理を終えた担体は、ろ過して回収するが、乾燥してもよい。乾燥温度は室温〜100℃が好ましく、減圧乾燥を行ってもよい。
【0020】
予め担体を処理する脂溶性脂肪酸又はその誘導体のうち、脂溶性脂肪酸としては、炭素数4〜24、好ましくは炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基を有していてもよい脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、リシノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。また前記脂溶性脂肪酸の誘導体としては、これらの脂溶性脂肪酸と一価若しくは多価アルコール又は糖類とのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加したもの等が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセライド、ジグリセライド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これら脂溶性脂肪酸及びその誘導体はいずれも常温(20℃)で液状であることが酵素を担体に固定化する工程上好ましい。これら脂溶性脂肪酸又はその誘導体としては、上記2種以上を併用してもよく、菜種脂肪酸、大豆脂肪酸等の天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
【0021】
酵素の固定化を行う温度は、酵素の特性によって決定することができるが、酵素の失活が起きない0〜60℃、特に5〜40℃が好ましい。また固定化時に使用する酵素溶液のpHは、酵素の変性が起きない範囲であればよく、温度同様酵素の特性によって決定することができるが、pH3〜9が好ましい。このpHを維持するためには緩衝液を使用するが、緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。
【0022】
上記酵素溶液中の酵素濃度は、固定化効率の点から酵素の飽和溶解度以下で、かつ十分な濃度であることが望ましい。また、酵素溶液は、必要に応じて不溶部を遠心分離で除去した上澄や、限外濾過等によって精製したものを使用することもできる。また、用いる酵素量は、固定化担体100部に対して5〜1000部、特に10〜500部が好ましい。
【0023】
固定化担体への酵素の吸着率は固定化酵素の活性を高める点、及び酵素コストの点から高いほど好ましい。酵素吸着率は50%以上、更に80%以上、特に92%以上、殊更94〜99%が好ましい。なお、ここでいう「酵素吸着率」とは、酵素吸着前の酵素溶液の活性に対する酵素吸着後の酵素溶液(固定化酵素を除いた部分)の活性の残存率をいう。
【0024】
本発明においては、脂質分解酵素を固定化用担体に吸着固定化した後、乾燥せずに、脂溶性脂肪酸、脂肪酸トリグリセライド若しくは脂肪酸部分グリセライド等に接触させながら脱水することにより、残存水分量を調整するのが好ましい。
【0025】
残存水分量は、保存安定性の点から固定化担体100部に対して1〜50部、特に1〜30部になるように調整されることが好ましい。
【0026】
残存水分量を調整するのに使用される脂溶性脂肪酸としては、菜種油、大豆油、ひまわり油等の植物性の液状油脂若しくはイワシ油、マグロ油、カツオ油等の魚油から生成された脂肪酸が好ましい。なお、使用する脂肪酸、脂肪酸トリグリセライド又は脂肪酸部分グリセライドは、本発明方法により調製された固定化酵素を用いた実際のエステル化反応において、油相基質とするものを選択することが好ましい。
【0027】
残存水分量を調整するのに使用される脂肪酸又は脂肪酸グリセライドの量は、固定化酵素との接触を十分なものとし、かつ過剰量の使用による無駄を回避する点、及び流動性を高め脱水効率を向上させる点から、固定化担体100部に対して20〜3000部が好ましいが、100〜1000部とすることがより好ましい。
【0028】
本発明方法により得られた固定化酵素を用いてDAGを製造すれば、高純度のDAG含有油脂(DAG+TAG中のDAGが高比率)を調製することができる。DAG純度は生理機能の点から50%以上が好ましく、さらには65%以上、特に80〜100%、殊更93〜98%が好ましい。また、DAG含有油脂中のTAG含有量は20%以下が好ましく、更には10%以下、特に5%以下、殊更4%以下が好ましい。
【0029】
本発明におけるDAGの製造方法としては、グリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとのエステル化反応が挙げられる。
ここで、エステル化反応に用いる脂肪酸又はその低級アルキルエステルとしては、直鎖又は分岐鎖の炭素数4〜22、好ましくは炭素数8〜18の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ゾーマリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いることができる。また上記脂肪酸とエステルを形成する低級アルコールとしては、炭素数1〜6のもの、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール又はt-ブタノールなどが挙げられる。これらの脂肪酸又はその低級アルキルエステルは、2種以上を併用することもできる。また、上記脂肪酸の混合物、例えば大豆脂肪酸などの天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
【0030】
この反応において、脂肪酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンの反応モル比R〔R=脂肪酸又はその低級アルキルエステル(mol)/グリセリン(mol)〕は、1.5〜3.0が好ましく、更には1.6〜2.8、特に1.8〜2.6であるのが好ましい。
また、エステル化反応の反応温度は、特に限定されないが、20〜80℃、特に30〜70℃が反応性の点で好ましい。また反応時間は工業的な生産性の観点から10時間以内が好ましい。
【0031】
エステル化反応により得られたジアシルグリセロール高含有油脂は、後処理を行うことにより製品とすることができる。後処理は、脱酸(未反応の脂肪酸及び副生したモノアシルグリセロールを除去)、酸処理、水洗、脱臭の各工程を行うことが好ましい。脱酸工程は、エステル化反応により得られたジアシルグリセロール高含有油脂を減圧蒸留することにより、反応生成物から未反応の脂肪酸及び副生したモノアシルグリセロールを除去する工程をいう。酸処理工程は、前記脱酸油にクエン酸等のキレート剤を添加、混合し、必要に応じて更に減圧脱水する工程をいう。また、得られた酸処理油は、色相、風味を更に良好とする点から、吸着剤との接触による脱色工程を行っても良い。水洗工程は、前記酸処理油に水を添加して強攪拌し、油水分離を行う操作を行う工程をいう。水洗は複数回(例えば3回)繰り返し、水洗油を得るのが好ましい。脱臭工程は、前記水洗油を減圧水蒸気蒸留する工程をいう。脱臭は、バッチ式、連続式、半連続式等が挙げられ、薄膜脱臭装置またはトレイ式脱臭装置の単独で行う方法の他、これら薄膜脱臭装置を用いた脱臭処理とトレイ式脱臭装置を用いた脱臭処理とを組み合わせて行ってもよい。
【実施例】
【0032】
[固定化酵素の活性測定方法]
三日月羽根をセットした4つ口フラスコに固定化酵素を4部仕込み、大豆脂肪酸約20部で3回洗浄した。その後、大豆脂肪酸を加え、50℃・400rpm・15分間攪拌した。次にグリセリンを加えて反応を開始し、真空ポンプで減圧にした。エステル化反応は温度50℃・攪拌400rpm・真空度400Paで行い、大豆脂肪酸とグリセリンはFA/GLYモル比を2とし、仕込みの合計量を80部とした。30分毎に反応液をサンプリングし、AV値・水分・グリセリド組成の分析を行い、各組成(FA・GLY・MAG・DAG・TAG)の経時変化を追跡した。収率(DAG+TAG)が70%に到達した時間とDAG純度(DAG質量/(DAG+TAG質量)×100)を経時曲線から読み取り算出した。
【0033】
[新規固定化酵素の調製]
Duolite A-568(Rohm and Hass社)10部を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液100部中で1時間攪拌した。濾過した後、蒸留水100部で洗浄し、500mM酢酸緩衝液(pH5)100部で1回、50mM酢酸緩衝液(pH5)100部で2回、pH平衡化を行った。濾過後、エタノール40部でエタノール置換を行った。濾過した後、大豆脂肪酸10部とエタノール40部の混合液を加え30分間攪拌した。次に50mM酢酸緩衝液(pH5)50部で30分ずつ4回洗浄し、濾過して担体を回収した。その後、リパーゼ(リリパーゼ A-10FG、ナガセケムテックス株式会社)10部を50mM酢酸緩衝液(pH5)180部に溶解した酵素液と2時間接触させ、固定化を行った。固定化後に濾過して固定化酵素を回収した後、50mM酢酸緩衝液(pH5)50部で30分間洗浄を行い、固定化していない酵素や蛋白を除去し、濾過して固定化酵素を回収した。酵素吸着率は98.0%であった。次に回収した固定化酵素とナタネ油40部とを16時間接触させ、濾過して油処理した固定化酵素を回収した。以上の操作で調製した固定化酵素の収率70%の到達時間は64.1分で、DAG純度は95.1%、TAG含有量3.4%であった。
【0034】
[使用済み固定化酵素の調製]
前記新規固定化酵素を用い、50℃にてエステル化反応時間1000時間相当の操作を行い、活性が低下した残存活性を有する使用済み固定化酵素を調製した。このときの油分残存量は固定化担体100部に対して150部であった。使用済み固定化酵素の収率70%の到達時間は220分で、DAG純度は92.9%、TAG含有量は5.0%であった。
【0035】
[油分残存量の測定]
固定化酵素a部に対し10質量倍のヘキサン、アセトンで交互に各3回洗浄後、70℃で15時間放置することにより脱溶剤し、固定化担体のみの質量を秤量し(b)、下記式より固定化担体100部に対する質量比として求めた。
油分残存量=(a-b)/b×100 (a:固定化酵素質量、b:固定化担体質量)
【0036】
[酵素吸着率の測定]
酵素固定化操作における吸着前後の酵素溶液の酵素活性を、リパーゼキットS(大日本製薬製)を使用し、37℃・15分反応させ測定し、酵素吸着率は下記式より求めた。
酵素吸着率[%]=(吸着前の活性−吸着後の活性)/吸着前の活性×100
【0037】
実施例1
使用済み固定化酵素10部(乾燥基準)に対しn-ヘキサン85部を加えて30分間攪拌した。洗浄後の油分残存量は、固定化担体100部に対して36.9部であった。ヘキサンを減圧留去した後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液100部と50℃、24時間接触させて、残存酵素の脱離を行った。水酸化ナトリウム水溶液を除去し、蒸留水100部で洗浄後、10%の酢酸水溶液4部と蒸留水100部を加えて中和した。その後、500mM酢酸緩衝液(pH5)100部で1回、50mM酢酸緩衝液(pH5)100部で2回、pH平衡化を行った。濾過後、エタノール40部でエタノール置換を行った。濾過した後、大豆脂肪酸10部とエタノール40部の混合液を加え30分間攪拌した。次に50mM酢酸緩衝液(pH5)50部で30分ずつ4回洗浄し、濾過して担体を回収した。その後、リパーゼ(リリパーゼ A-10FG、ナガセケムテックス株式会社)10部を50mM酢酸緩衝液(pH5)180部に溶解した酵素液と2時間接触させ、固定化を行った。固定化後に濾過して固定化酵素を回収した後、50mM酢酸緩衝液(pH5)50部で30分間洗浄を行い、固定化していない酵素や蛋白を除去し、濾過して固定化酵素を回収した。酵素吸着率は97.7%であった。次に回収した固定化酵素とナタネ油40部とを16時間接触させ、濾過して油処理した固定化酵素を回収した。
以上の操作で製造した固定化酵素について、前記「固定化酵素の活性測定方法」に従って測定(以下同じ)したところ、収率70%の到達時間は64.3分で、DAG純度は95.0%、TAG含有量3.5%であった。
【0038】
実施例2
水酸化ナトリウム水溶液との接触時間が2時間である以外は実施例1と同様に固定化酵素を調製した。酵素吸着率は95.5%であった。得られた固定化酵素の活性を測定したところ、収率70%の到達時間は66.2分で、DAG純度は94.7%、TAG含有量3.8%であった。
【0039】
実施例3
使用済み固定化酵素10部(乾燥基準)に対しn-ヘキサン85部を加えて30分間攪拌し、ヘキサンを減圧留去した。この操作を2回行い、油分残存量が固定化担体100部に対して6.7部のものを使用して、実施例1と同様に固定化酵素を調製した。酵素吸着率は96.7%であった。得られた固定化酵素の活性を測定したところ、収率70%の到達時間は65.2分で、DAG純度は96.7%、TAG含有量2.3%であった。
【0040】
実施例4
使用済み固定化酵素10部(乾燥基準)に対しn-ヘキサン85部を加えて30分間攪拌し、ヘキサンを減圧留去した。この操作を3回行い、油分残存量が固定化担体100部に対して2.4部のものを使用して、実施例1と同様に固定化酵素を調製した。酵素吸着率は98.6%であった。得られた固定化酵素の活性を測定したところ、収率70%の到達時間は66.8分で、DAG純度は95.8%、TAG含有量2.9%であった。
【0041】
比較例1
前記使用済み固定化酵素をヘキサン洗浄を行わずに1Nの水酸化ナトリウム水溶液100部と50℃、24時間接触させて残存酵素の脱離処理を行ったが、濾過する際に液体の流動性が悪くて濾過ができず、固定化酵素が調製できなかった。
【0042】
比較例2
前記使用済み固定化酵素10部(乾燥基準)に対しn-ヘキサン30部で洗浄し、油分残存量を固定化担体100部に対して100部とした後、1Nの水酸化ナトリウム水溶液100部と50℃、24時間接触させて残存酵素の脱離処理を行ったが、比較例1と同様に流動性が悪くて濾過ができず、固定化酵素が調製できなかった。
【0043】
比較例3
実施例1において、ヘキサン洗浄後、アルカリ処理による酵素の脱離を行わずにエタノール置換を行い、その他は実施例1と同様に固定化酵素を調製した。酵素吸着率は91.1%であった。得られた固定化酵素の活性を測定したところ、収率70%の到達時間は69.5分で、DAG純度は92.6%、TAG含有量5.2%であった。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、使用済み固定化脂質分解酵素を溶剤で洗浄して、油分残存量を固定化担体100部に対して50部以下とし、次いでアルカリ処理した後に脂質分解酵素を吸着させることにより、新規に製造した固定化酵素と同等の活性を有する固定化脂質分解酵素を製造することができ、これを用いてエステル化反応を行えば、純度の高いDAGを製造することができることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル化反応に使用した固定化脂質分解酵素に溶剤を添加し、油分残存量が固定化担体100質量部に対して50質量部以下になるように洗浄し、次いでアルカリ溶液を接触させた後固定化担体を回収し、当該固定化担体に脂質分解酵素を吸着させる固定化脂質分解酵素の製造方法。
【請求項2】
アルカリ溶液の温度が0〜70℃で、濃度が0.25〜2規定、接触時間が2〜48時間である請求項1記載の固定化脂質分解酵素の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造された固定化脂質分解酵素を用いて、グリセリンと脂肪酸又はその低級アルキルエステルとを反応させるジアシルグリセロールの製造方法。

【公開番号】特開2009−254322(P2009−254322A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−110202(P2008−110202)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】