説明

固定治具

【課題】 建入れ治具による建入れ調整が終了した上方柱体の下方柱体に対する一時的な連結状態たる仮止めを安定的に保障する。
【解決手段】 上下の柱体P1,P2の軸線方向となる上下方向に延びるフレーム体1が下方柱体P1側に位置決められて下方エレクションピースE1を挿通させる下端側部11と、上方柱体P2側に位置決められて上方エレクションピースE2を挿通させる上端側部12と、上下方向の中央部に形成の螺条部13と、この螺条部13に上下動可能に螺装されるナット体2と、このナット体2に上下動可能に担持される当り部材3と、下端側部11に螺入されて下方エレクションピースE1をこの下端側部11に連結させる下方ボルト体4と、上端側部12に螺入されて上方エレクションピースE2を当り部材3との間に挟持する上方ボルト体5とを有し、当り部材3における上方エレクションピースE2に当接される当接面を湾曲面3aとしてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定治具に関し、特に、下方となる既設の柱体に上方となる新たな柱体を一時的に連結する、すなわち、仮止めを可能にする固定治具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上下で複数本となる柱体を利用して構築物を構築する場合には、下方となる既設の柱体に上方となる新たな柱体を連結する建込みの際に、建入れ調整と称して上方の柱体における垂直度を調整する。
【0003】
そして、この建入れ調整が、たとえば、鉄骨製の柱体に対して行われる場合には、柱体が大重量になるから、多くの場合に、専用治具たる建入り治具が利用されるとし、それゆえ、この建入れ治具については、従来から種々の提案がある。
【0004】
その一方で、鉄骨製の柱体を建込む実際を看ると、上方柱体を、たとえば、クレーンなどで吊り下げた状態で下方柱体の上方に位置決め、この状態で、仮止めと称して、同じく専用治具たる固定治具の利用下に、上方柱体を下方柱体に一時的に連結し、爾後の建入れ調整に際しての上方柱体における一応の安定状態を保障する。
【0005】
そして、上方柱体の下端部と下方柱体の上端部とに掛け渡すように配設される建入れ治具による上方柱体への建入れ調整を終了する際に、同じく上方柱体の下端部と下方柱体の上端部とに掛け渡すように配設される固定治具で上方柱体における調整された状態を維持し、爾後の、たとえば、溶接や高張力ボルトの利用による両者の連結で、上方柱体の建て込みを終了する。
【0006】
ところで、固定治具としては、たとえば、特許文献1に開示の提案があるが、この特許文献1に開示の固定治具による仮止めの場合には、たとえば、特公平6‐80270号公報に開示されている接合板を利用する仮止めに比較して、上方柱体における安定性を得易い利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007‐224636号公報(要約,明細書中の段落0013から同0015の記載および図1,図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の固定治具にあっては、上方柱体を下方柱体に仮止めする、すなわち、一時的に連結する上では問題がある訳ではないが、利用の実際を勘案すると、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0009】
すなわち、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、先ず、構造が複雑であり、したがって、その分、操作性に劣り易くなり、仮止め作業に手間を要することになる不具合がある。
【0010】
次に、構成が複雑になるだけでなく、構成部品の質量を大きくするから、重量の増大化や製品コストの高騰化を招き易くなる不具合がある。
【0011】
さらに、固定治具が上下の柱体に連設の被連結部材たるエレクションピースに連結されるのにあって、エレクションピースの柱体への連設状況によっては、仮止め時に上方柱体における安定性を保障し難くなる危惧がある。
【0012】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、既設となる下方柱体に対する新たとなる上方柱体の仮止めを可能にするのはもちろんのこと、仮止め状態の上下の柱体における安定した連結状態を保障すると共に、建入れ治具の撤去を可能にしてその建入れ治具の使い回しを可能にし、その汎用性の向上を期待するのに最適となる固定治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、この発明による固定治具の構成を、基本的には、下方柱体およびこの下方柱体に連結される上方柱体の軸線方向となる上下方向に延びるフレーム体を有し、このフレーム体が下方柱体側に位置決められて下方柱体に連設の下方エレクションピースを挿通させる下端側部と、上方柱体側に位置決められてこの上方柱体側に連設の上方エレクションピースを挿通させる上端側部と、上下方向の中央部に形成の螺条部と、この螺条部に上下動可能に螺装されるナット体と、このナット体に上下動可能に下端側から担持される当り部材と、下端側部の下端部に螺入されて上端を下方エレクションピースに当接させこの下方エレクションピースを下端側部の上端部との間に挟持する下方ボルト体と、上端側部の上端部に螺入されて下端を上方エレクションピースに当接させこの上方エレクションピースを当り部材との間に挟持する上方ボルト体とを有してなるとし、より具体的には、当り部材における上方エレクションピースに当接される当接面を上方エレクションピースに向けて突出する湾曲面としてなるとする。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、この発明にあっては、フレーム体の下端側部が下方ボルト体の螺合で内側に挿通される下方エレクションピースに固定的に連結されると共に、フレーム体の上端側部が上方エレクションピースを挿通させてこの上方エレクションピースに対して上下方向の相対移動を可能な状態にするから、建入れ治具によって上方エレクションピースが下方エレクションピースに対して昇降されるとき、その動きを阻害せず、建入れ治具による上方柱体に対する垂直度の調整、すなわち、建入れ調整を可能にする。
【0015】
このとき、固定治具にあっては、フレーム体の下端側部が下方エレクションピースに固定的に連結されるから、前記した特公平6‐80270号公報に開示されている接合板に比較して、仮止め時における上方柱体に対する安定性を得易くなる。
【0016】
そして、前記した特許文献1に開示されている固定治具に比較して、外側フレーム(1)に相当するフレーム体が内側フレーム(2)およびスリーブ(4)を有しない分、フレーム体における下端側部の下方エレクションピースへの連結作業が容易になる。
【0017】
このとき、上端側部にあって、ナット体および当り部材が上方エレクションピースに干渉しないようにいわゆる後退されていることもちろんである。
【0018】
そして、この発明にあっては、上方柱体が建入れ調整を終了したときに、ナット体の回動操作で当り部材を上昇させて、上方柱体に連設の上方エレクションピースに当接面を当接させると共に、上方ボルト体を螺合して上方エレクションピースを当り部材との間に挟持するとき、建入れ治具による建入れ調整終了状態を安定的に保障し得る。
【0019】
このとき、当り部材における当接面が上方エレクションピースに向かって突出する湾曲面とされるから、この当接面が平坦面に形成される場合に比較して、たとえば、上方エレクションピースが上方柱体に対して軸線方向を前傾させたり後傾させたりする場合であっても、上方エレクションピースの当り部材に対する安定した接触状態を保障し得る。
【0020】
その結果、この発明によれば、上方柱体を下方柱体に溶接や高張力ボルトの利用などで一体的に連結する前でも、上下のエレクションピースからの建入れ治具の撤去が可能になり、建入れ治具の使い回しが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明による固定治具を建入れ調整装置と共に上方エレクションピースと下方エレクションピースとの掛け渡すように連結した状態を示す正面図である。
【図2】図1中のY‐Y線位置で示す固定治具の縦断面図である。
【図3】図1中でフレーム体に螺装されるナット体が当り部材を担持する状態を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による固定治具は、図1および図2に示すように、下方となる既設の柱体P1に上方となる新たな柱体P2を仮止めと称して一時的に連結する際に利用される。
【0023】
すなわち、この固定治具は、建入れ治具と併用されるもので、建入れ治具による建入れ調整が終了した上方柱体P2を溶接や高張力ボルトの利用下に下方柱体P1に固定的に連結するまでの状態を安定的に保障する。
【0024】
ちなみに、図示する実施形態では、各柱体P1,P2は、それぞれ鉄骨製とされていて、下方柱体P1が上端部に被連結部材たる下方エレクションピースE1を溶接で一体的に連設させると共に、上方柱体P2が下端部に同じく被連結部材たる上方エレクションピースE2を溶接で一体的に連設させてなる。
【0025】
また、各エレクションピースE1,E2は、鋼板で板状体に形成されて、各柱体P1,P2の軸線方向に沿うようにいわゆる立てた状態にして各柱体P1,P2に連設されるが、沿革的には、建入れ治具を連結させるために設けられる。
【0026】
そして、各エレクションピースE1,E2は、各柱体P1,P2にあらかじめ、すなわち、構築物の構築工事現場に搬入される前に工場などで溶接され、爾後に溶断されて撤去されるのが常態であるが、これが各柱体P1,P2に残存されても、この発明が意図するところからは、基本的に、不都合はない。
【0027】
それゆえ、この発明による固定治具は、図示するところでは、建入れ治具と並列するようにして上下のエレクションピースE1,E2に着脱可能に連結されるが、連結される順番としては、この発明による固定治具が先に連結され、その後に、建入れ治具が連結される。
【0028】
なお、この発明による固定治具の機能するところを勘案すると、建入れ治具が連結される各エレクションピースE1,E2にこの固定治具が併せて連結されることは必須でなく、したがって、たとえば、建入れ治具が連結されない別の被連結部材、すなわち、柱体に別途に連設されるエレクションピースなどにこの固定治具が連結されても良い。
【0029】
そして、固定治具は、図示しないが、柱体の複数箇所に、すなわち、たとえば、柱体が角筒状に形成されて四角形の横断面を有するように形成され、この柱体の各側面となる計四面に建入れ治具が配設されるときに、これを真似るように配設されるのが常態となる。
【0030】
そしてまた、この固定治具は、図1および図2に示すように、建入れ治具と同様に下方柱体P1と上方柱体P2との連結部分に、すなわち、突き合わされるようになる下方柱体P1の上端部と上方柱体P2の下端部とに架け渡されるように配設される。
【0031】
ところで、建入れ治具については、凡そ上方柱体P2における垂直度を調整し得る限りには任意の構成のものが選択されて良いが、図示するところでは、伸縮体からなるとしており、特に、流体圧利用の流体圧シリンダJ(図1参照)からなる。
【0032】
そして、この流体圧シリンダJは、シリンダ体J1と、このシリンダ体J1に出没可能に挿通されるロッド体J2とを有してなり、図示するところでの下端側部材たるロッド体J2が下方エレクションピースE1に連結されると共に図示するところでの上端側部材たるシリンダ体J1が上方エレクションピースE2に連結される。
【0033】
それゆえ、この建入れ治具にあっては、図示しない流体圧源からの流体圧の給排でロッド体J2がシリンダ体J1に対して出没して伸縮作動し、下方エレクションピースE1に対して上方エレクションピースE2を昇降、すなわち、固定状態にある下方柱体P1に対して上方柱体P2を昇降させて、上方柱体P2における垂直度を調整する。
【0034】
一方、固定治具は、図中で上下方向に、すなわち、下方柱体P1と上方柱体P2の軸線方向に延びる本体たるフレーム体1を有してなり、このフレーム体1は、下方柱体P1側に位置決められて下方エレクションピースE1を挿通させると共に爾後にこの下方エレクションピースE1に連結される下端側部11と、上方柱体P2側に位置決められて上方エレクションピースE2を挿通させると共に爾後にこの上方エレクションピースE2に連結される上端側部12とを有してなる。
【0035】
そして、このフレーム体1にあっては、軸線方向のほぼ中央部、すなわち、上端側部12における下端近傍部13の外周に螺条13aを有すると共に、この螺条13aに上下動可能に螺装されるナット体2を有し、このナット体2に上下動可能に担持される当り部材3と、下端側部11の下端部14に螺入される下方ボルト体4と、上端側部12の上端部15に螺入される上方ボルト体5とを有してなる。
【0036】
以下に詳しく説明するが、先ず、フレーム体1は、下方エレクションピースE1を挿通させる下端側部11と、上方エレクションピースE2を挿通させる上端側部12とを有すると共に、ナット体2を上下動可能に螺装させる部位、すなわち、螺条13aと、当り部材3を上下動可能に配設させる部位とを有する限りには、任意の形状に形成されて良い。
【0037】
とは言え、フレーム体1が軸線方向のほぼ中央部にナット体2を螺装させる螺条13aを有することからすると、この螺条13aの外形に倣うように下端側部11および上端側部12の外形が、すなわち、フレーム体1の軸線方向を横切る方向の横断面形状がほぼ円形になるように形成されるであろう。
【0038】
もっとも、下端側部11および上端側部12は、それぞれの内側たる各内空部(符示せず)に相応する各エレクションピースE1,E2を挿通させることからすると、この下端側部11および上端側部12については、各エレクションピースE1,E2の横断面形状に相似するように矩形の横断面形状を有するように形成されても良い。
【0039】
そして、図示するところでは、フレーム体1が鋳造され、下方ボルト体4,上方ボルト体5,後述する各調整ボルト体7,8,9を螺入させるネジ孔および後述する連結ピン6を挿通させる孔の開穿の際に、さらには、ナット体2を螺装させる螺条13aの形成の際に、また、各ボルト体4,5,7,8,9の螺入操作の際にいたずらに破損したり変形されたりしない機械的強度を有するように形成される。
【0040】
フレーム体1が鋳造される場合には、これが鍛造され、あるいは、切削形成される場合に比較して、製品コストを廉価に設定できる。
【0041】
上記のように形成されるフレーム体1において、下端側部11および上端側部12は、それぞれの内側たる各内空部に相応するエレクションピースE1,E2を挿通させるが、このとき、各内空部は、各エレクションピースE1,E2の遊びのある無理のない挿通を許容するように形成される(図2参照)。
【0042】
つまり、下端側部11および上端側部12に各エレクションピースE1,E2を挿通させるときに、各エレクションピースE1,E2の上下左右において、下端側部11あるいは上端側部12にあって内空部を形成する内側面(符示せず)に干渉しない大きさを有するように形成される。
【0043】
そして、この発明にあっては、上端側部12が当り部材3を上下動可能に配設させることから、上方エレクションピースE2を挿通させる内空部は、下方エレクションピースE1を相通させる下端側部11における内空部より軸線方向に長くなるように大きく形成される。
【0044】
ちなみに、フレーム体1における上端側部12は、下端近傍部13に、すなわち、下端近傍部13の外周に形成の螺条13aにナット体2を螺装させること、および、このナット体2が下端近傍部13の内側となる空部(符示せず)に配設の当り部材3を下方から担持することもあって、下端側部11に比較して、軸線方向に長くなるように大きく形成されている。
【0045】
なお、図示するフレーム体1にあっては、下端側部11の内空部と上端側部12の内空部とを画成する隔壁部16を有し、この隔壁部16を有することでフレーム体1における機械的強度を向上させる一方で、下方ボルト体4の螺入でこの隔壁部16と下方ボルト体4との間に下方エレクションピースE1を挟持する態勢にして固定的に連結させることが保障され、さらには、この隔壁部16を下端側部11における上端部に設定すると共に上端側部12の下端部に設定する。
【0046】
上記のナット体2は、フレーム体1の軸線方向のほぼ中央部となる上端側部12における下端近傍部13の外周に形成の螺条13aに螺装されるもので、手動操作あるいは工具利用の回動操作を可能にするように外周に変形部(符示せず)を有し(図1参照)、内周に螺条13aに螺合する螺条2aを有する。
【0047】
その一方で、このナット体2は、上端に外周側に張り出すフランジ部21を有し、このフランジ部21の上端で当り部材3を下端側から担持する。
【0048】
当り部材3は、図3にも示すように、正面の断面形状をT字状にするように、すなわち、図3および図1において横長に形成される担持部31と、この担持部31の軸芯部に垂設される軸部32とを有してなる。
【0049】
そして、この当り部材3にあっては、軸部32がナット体2の内側、すなわち、下端側部12における下端近傍部13の内側たる空部に挿通されると共に、担持部31が下方のナット体2におけるフランジ部21に載置されて、いわゆるセット状態に置かれる。
【0050】
それゆえ、この当り部材3にあっては、ナット体2が回動されて、図示する状態からは、上昇するとき、当接面が上方エレクションピースE2の下端に接触され、この状態のとき、上方ボルト体5の螺入でこの上方ボルト体の下端たる先端との間に上方エレクションピースE2を固定的に挟持する。
【0051】
ところで、この発明にあっては、フレーム体1における上端側部12への上方エレクションピースE2の固定的な連結は、ナット体2および当り部材3の利用で実践される。
【0052】
それに対して、前記した特許文献1に開示されているところでは、上記のナット体2および当り部材3と同様の作動をする下方固定ボルト(5)と、この下方固定ボルト(5)を螺合させながら外側フレーム(1)における下端側部(12)の下端部に螺入されるスリーブ(4)とを有してなるが、スリーブ(4)が外側フレーム(1)における下端側部(12)の下端部に螺入されてなることから、このスリーブ(4)の回動操作が容易でない不具合がある。
【0053】
それに対して、この発明では、ナット体2がフレーム体1の軸線方向の中央部に螺装されるから、その回動操作が容易になる。
【0054】
また、前記した特許文献1に開示されているところでは、外側フレーム(1)における下端側部(12)の下端部には、下方固定ボルト(5)とスリーブ(4)とが螺装されるから、この下端部に下方固定ボルト(5)のみが螺入される場合に比較して、下端部の機械的強度をより大きく設定しなければならない不具合がある。
【0055】
それに対して、この発明では、下端側部11の下端部14に下方ボルト体4のみを螺入するだけであるから、下端部の機械的強度をより大きく設定する必要がない。
【0056】
さらに、前記した特許文献1に開示されているところでは、外側フレーム(1)における下端側部(12)の内側に下方のエレクションピース(E1)を挿通させる内側フレーム(2)を有するから、この内側フレーム(2)部の重量が大きく影響して、固定治具全体の重量を大きくする不具合がある。
【0057】
それに対して、この発明では、内側フレーム(2)に相当する部材を有しないから、その分、固定治具全体の重量を大きくしない。
【0058】
ところで、上記のフレーム体1は、つまり、この発明の固定治具を利用するのに際しては、まず、下方エレクションピースE1にフレーム体1の下端側部11を連結させるが、そのため、下方エレクションピースE1には連結ピン6(図2参照)のピン部61を挿通させるピン孔62(図2参照)があらかじめ開穿される。
【0059】
そして、このピン孔62は、連結ピン6を利用してフレーム体1における下端側部11を下方エレクションピースE1に言わば仮に連結させることからして、いわゆる誤差を許容するように、ピン61の径より大径の孔とされたり、ピン部61と下方エレクションピースE1との間における相対移動を許容する長孔とされたりする。
【0060】
また、下方エレクションピースE1にフレーム体1を連結する際には、先ず、フレーム体1を手前に倒すようにして全体を斜めにした状態で、フレーム体1における下端側部11の内側たる内空部に挿通される下方エレクションピースE1に連結ピン6の利用で連結する。
【0061】
そして、その後に、連結ピン6を回転中心にしてフレーム体1を起こすようにして直立させ、フレーム体1における上端側部12の内側たる内空部に上方エレクションピースE2を挿通させる。
【0062】
そしてまた、フレーム体1における下端側部12に下方エレクションピースE1を挿通させるとき、および、フレーム体1における上端側部12に上方エレクションピースE2を挿通させるときには、後述する下方ボルト体4および上方ボルト体5を相応の位置に螺入しないで、あるいは、螺入するとしても、各側部11,12の内側に出現される内空部をいたずらに侵害しないで大きく残し、各エレクションピースE1,E2の挿通性を良くする。
【0063】
なお、連結ピン6は、所定位置への挿通後は、先端部(符示せず)が折れ曲がって、ピン部61の所定位置から抜け出しが阻止される。
【0064】
また、この連結ピン6は、フレーム体1を下方エレクションピースE1に連結する際に、必須とされない、つまり、フレーム体1を下方エレクションピースE1に連結するのにあっては、絶対的に連結ピン6が必要な訳ではなく、この連結ピン6がなくても、フレーム体1の下方エレクションピースE1の連結が可能になるのはもちろんで、その意味でこの連結ピン6の利用は必須ではない。
【0065】
ところで、下端側部11および上端側部12は、相応するエレクションピースE1,E2を挿通させることから、原理的には、同一形状に形成されて良く、また、それで足りるが、この発明にあっては、フレーム体1がナット体2と当り部材3とを有することから、また、後述する調整ボルト体7,8,9の螺合を許容する点で構造的な差異がある。
【0066】
そして、フレーム体1は、下端側部11および上端側部12を一体に有するように形成されて良いことから、たとえば、鋳造され、爾後の切削加工などのいわゆる整形時に上記のナット体2を螺装させる螺条13aが形成され、また、各ボルト体4,5,7,8,9の螺合を許容するネジ孔(符示せず)が形成され、さらには、連結ピン6のピン部61を挿通させる孔(符示せず)が開穿される。
【0067】
ちなみに、鋳造されたフレーム体1に対する整形は、上記のネジ孔などを形成する場合の他に、前記した隔壁部16たる下端側部11における上端部の下方エレクションピースE1の上端を接触させる当接面(16a)を形成することでも実践される。
【0068】
もっとも、下端側部11における上端部の当接面(16a)が形成されることについて、ネジ孔などの形成と同様に整形が必須とされるものではなく、鋳造時に湾曲面に形成されることで足りるとされて、整形が省略されても良い。
【0069】
なお、下端側部11および上端側部12は、内側の内空部に各エレクションピースE1,E2を挿通させるため、図2に示すように、側面から見て、細巾で縦長となる内空部を有するが、ここに挿通される各エレクションピースE1,E2は、上記した当接面(16a)を除いて、この中空部を形成する内壁面(符示せず)などに接触しないから、この内壁面などがいわゆる仕上げのために切削などされて整形されることを要しない。
【0070】
もっとも、見た目を良くするためや、仮に各エレクションピースE1,E2が下端側部11や上端側部12の内壁面などに接触する場合の弊害を除去するためなどで、この内壁面などが切削などされて整形されることは妨げられない。
【0071】
また、後述する下方ボルト体5および上方ボルト体6を螺合させるネジ孔については、両方のボルト体5,6が同一形状に形成されて良いことから、図示するところにあっては、各フレーム体1,2にいわゆる付き物として切削整形、すなわち、開穿される。
【0072】
以上のように形成されるフレーム体1における下端側部11および上端側部12には、各エレクションピースE1,E2を固定状態に連結させるための配慮がなされているので、以下にはこれについて少し説明する。
【0073】
まず、フレーム体1における下端側部11は、内側に挿通される下方エレクションピースE1に固定状態に連結されるようにするために、下端部14に下方ボルト体4を螺入させる。
【0074】
そして、同様に、フレーム体1における上端側部12は、内側に挿通される上方エレクションピースE2に固定状態に連結されるようにするために、上端部15に上方ボルト体5を螺入させる。
【0075】
このとき、各ボルト体4,5は、軸線方向が各柱体P1,P2の軸線方向と同一とされながら、各側部11,12の軸芯部に螺入され(図1参照)、各先端が各エレクションピースE1,E2の下端あるいは上端にいわゆる真芯に当接される(図2参照)。
【0076】
そして、この各ボルト体4,5が各端部14,15に螺入されて各先端を各エレクションピースE1,E2の下端あるいは上端に当接させた状態でさらに捩じ込まれるとき、各エレクションピースE1,E2が各フレーム体1,2に固定状態に連結される。
【0077】
すなわち、下方エレクションピースE1にあっては、下端側部11における下端部14への下方ボルト体4の捩じ込みで、上端部たる隔壁部16に押し付けられ、この状態で下方ボルト体4の先端と下端側部11における上端部との間に固定状態に挟持される。
【0078】
そして、上方エレクションピースE2にあっては、上端側部12における上端部15への上方ボルト体5の捩じ込みで、当り部材3に押し付けられ、この状態で上方ボルト体5の先端と当り部材3との間に固定状態に挟持される。
【0079】
なお、各ボルト体5,6の各端部14,15への螺入操作には、スパナなどの適宜の工具が利用されるであろう。
【0080】
ところで、各エレクションピースE1,E2は、あらかじめ各柱体P1,P2に溶接されるが、この溶接の際に、いわゆる曲がった状態に溶接されて、各エレクションピースE1,E2の軸線方向が前傾したりあるいは後傾したりして、上端あるいは下端が前傾したり後傾したりすることがある。
【0081】
また、各エレクションピースE1,E2は、鋼板を切断するなどして形成されるが、この形成の際に、上端や下端となる辺が傾斜しており、そのまま各柱体P1,P2に溶接されて、結果として、各エレクションピースE1,E2の上端あるいは下端が前傾したり後傾したりすることもある。
【0082】
このとき、下方エレクションピースE1の上端を接触させる下端側部11における上端部たる隔壁部16の当接面、および、上方エレクションピースE2の下端を接触させる当り部材3の当接面が平坦面に形成されている場合には、各エレクションピースE1,E2の各当接面に対する安定した接触状態を保障できなくなる。
【0083】
そこで、この発明にあっては、下方エレクションピースE1の上端を接触させる下端側部11における上端部たる隔壁部16の当接面と、上方エレクションピースE2の下端を接触させる当り部材3の当接面の一方または両方が平坦面に形成されずして、各エレクションピースE1,E2の上端あるいは下端に向かって突出する湾曲面16a,3aとされるとし、各エレクションピースE1,E2の各当接面に対する安定した接触状態を保障する。
【0084】
一方、下端側部11を下方エレクションピースE1に固定的に連結させ、また、上端側部12を上方エレクションピースE2に固定的に連結させるのにあっては、上下方向となる下端側部11の軸線方向と同じく上下方向となる上端側部12の軸線方向とが一致することが肝要になる。
【0085】
つまり、固定治具の原理からすれば、また、固定治具が機能するところからすれば、下端側部11は、基本的には、下方柱体P1に連結され、また、上端側部12も、基本的には、上方柱体P2に連結されて良いが、実際に連結状態を具現化するにはそれぞれエレクションピースE1,E2が利用される。
【0086】
しかし、前述したように、各エレクションピースE1,E2を各柱体P1,P2に溶接することを鑑みるとき、各エレクションピースE1,E2の軸線方向と各柱体P1,P2の軸線方向とが絶対的に一致するとは言い得ないのも事実である。
【0087】
したがって、たとえば、下方柱体P1に溶接された下方エレクションピースE1の軸線方向が下方柱体P1の軸線方向と一致しない場合、すなわち、芯ズレしている場合に、この下方エレクションピースE1に下端側部11をいわゆる同芯に連結すると、上方エレクションピースE2に連結される上端側部12に同芯に直列し得ないことになり得る。
【0088】
そこで、この発明の固定治具にあっては、下方エレクションピースE1の下方柱体P1に対する連設状況が如何様にあっても、この下方エレクションピースE1に下端側部11を連結するとき、下端側部11における軸線方向が下方柱体P1の軸線方向と一致することになるように、下端側部11が上下となる調整ボルト体7,8を有する。
【0089】
このとき、この各調整ボルト体7,8が上下に配設されるのは、下方エレクションピースピースE1が下方柱体P1に一体に設けられているので、この下方エレクションピースE1に下端側部11を言わば固定的に連結させる状態を具現化させるためである。
【0090】
それゆえ、この下端側部11にあっては、上下となる各調整ボルト体7,8の下端側部11に対する螺入量の調整で、下方エレクションピースE1における軸線方向に拘わりなく、下端側部11における軸線方向を下方柱体P1における軸線方向に一致させる、すなわち、芯ズレを修正することが可能になる。
【0091】
上記に対して、上端側部12にあっては、この上端側部12が上方柱体P2に対していわゆる偏芯可能に連結されることが肝要となる。
【0092】
つまり、上方柱体P2は、下方柱体P1に延長されるように連結されるので、基本的には、軸線方向が上方柱体P2と下方柱体P1との間で一致する必要がある。
【0093】
しかし、上方エレクションピースE2が上方柱体P2のいわゆる中心に溶接されているとは限らず、実際には、偏芯していたり、あるいは、僅かに傾斜していたりすることがある。
【0094】
そこで、上端側部12は、内側に挿通される上方エレクションピースE2を図2中で左右方向から挟むようにする一対の調整ボルト体9を有してなり、このとき、この左右となる各調整ボルト体9は、上方エレクションピースE2における下端側でこの上方エレクションピースE2を挟持するように配設される。
【0095】
つまり、上方エレクションピースE2は、これから垂直度が調整されようとしている上方柱体P2に連設されているから、一対の調整ボルト体9は、上方柱体P2における垂直度の調整作業の妨げにならないように下方エレクションピースE2をその下端側で挟持する。
【0096】
以上のように、上端側部12が左右で一対となる調整ボルト体9を有するから、この上端側部12を上方エレクションピースE2に連結したときに、左右の調整ボルト体9の上端側部12に対する螺入量を調整することで、上端側部12の軸線方向を上方柱体P2の軸線方向に一致させる、すなわち、芯ズレたる眼違いを修正することが可能になる。
【0097】
上記の調整ボルト体7,8,9については、所定の機能を発揮すれば良いから、これが前記した下方ボルト体4および上方ボルト体5と同様に、すなわち、符示などしないが、ボルト頭の大きさを同じにし、螺条軸の太さ長さを同じにし、また、ネジピッチを同じにして、いわゆる共用を可能にして、部品点数の削減を意図しても良い。
【0098】
また、前記した各ボルト体4,5および上記の各ボルト体7,8,9は、工具を利用しての回動操作の際に、破損したり変形されたりしない機械的強度を有するように形成されていれば足り、その意味では、汎用されている普通鋼などからなる六角ボルトからなるとして良い。
【0099】
以上のように形成される固定治具は、その利用時にあっては、まず、フレーム体1の下端側部11の内空部に下方柱体P1に連設の下方エレクションピースE1を臨在させると共に、フレーム体1の上端側部12の内空部に上方柱体P2に連設の上方エレクションピースE2を臨在させる。
【0100】
そして、この状態下に、フレーム体1における下端側部11の下端部14で下方ボルト体4を螺入操作して、内空部に挿通されている下方エレクションピースE1を図中で上昇させるようにして上端側部11の上端部たる隔壁部16に押し付け、下方ボルト体4と隔壁部16との間に下方エレクションピースE1を挟持する状態に固定的に定着、すなわち、下方エレクションピースE1をフレーム体1における下端側部11に固定的に連結させる。
【0101】
この状態でフレーム体1が下方柱体P1に連結の下方エレクションピースE1に一体的に連結され、それに対してフレーム体1における上端側部12は、上方柱体P2に連結の上方エレクションピースE2と分離された状態に維持される。
【0102】
そこで、上下のエレクションピースE1,E2に架け渡されるように連結されている建入れ治具を作動して、上方柱体P2における垂直度を調整し、この調整が終了した時点で、フレーム体1における上端側部12における下端近傍部13に螺装されているナット体2を回動操作して、当り部材3を上昇させる。
【0103】
そして、当り部材3が上昇してその上端面たる当接面を上方エレクションピースE2の下端に当接した後は、上端側部12の上端部15に螺入の上方ボルト体5を螺入して上方エレクションピースE2を当り部材3に押し付け、上方ボルト体5と当り部材3との間に上方エレクションピースE2を挟持する状態に固定的に定着、すなわち、上方エレクションピースE2をフレーム体1における上端側部12に固定的に連結させる。
【0104】
これによって、この発明による固定治具は、建入れ治具によって調整された上方柱体P2の下方柱体P1に対する安定した仮止め状態、すなわち、一時的な連結状態を保障する。
【0105】
そこで、建入れ治具については、これが用済となっているので、これを再度利用し得るように使い回すことが可能になり、その一方で、建入れ調整された上方柱体P2は、既存の下方柱体P1に溶接や高張力ボルトなどの利用で一体的に連結されて、建入れ調整に係る作業が終了する。
【0106】
以上のように、この発明よる固定治具にあっては、上下の柱体P1,P2が一体化される前に建入れ治具の撤去を可能にするから、その建入れ治具の使い回しが可能になるのはもちろんのこと、たとえば、上下の柱体P1,P2を溶接する場合の溶接スパッタが建入れ治具に付着して建入れ治具における故障の原因になるような事態を招来させないで済む。
【0107】
前記したところは、この発明による固定治具にあって、フレーム体1における下端側部11が下方エレクションピースE1側に位置決められると共に上端側部12が上方エレクションピースE2側に位置決められるいわゆる正立仕様とされるが、この固定治具が機能するところからすれば、これに代えて、上端側部12が下方エレクションピースE1側に位置決められ、下端側部11が上方エレクションピースE2側に位置決められるいわゆる倒立仕様とされても良い。
【産業上の利用可能性】
【0108】
既設の下方柱体に新な上方柱体を連結する際の仮止めを可能にすると共に、仮止め状態の上下の柱体における安定した連結状態を保障し、建入れ治具の撤去および使い回しを可能にするのに向く。
【符号の説明】
【0109】
1 フレーム体
2 ナット体
2a,13a 螺条
3 当り部材
3a,16a 湾曲面
4 下方ボルト体
5 上方ボルト体
6 連結ピン
7,8,9 調整ボルト体
11 下端側部
12 上端側部
13 下端近傍部
14 下端部
15 上端部
16 隔壁部
21 フランジ部
31 担持部
32 軸部
E1 下方エレクションピース
E2 上方エレクションピース
J 建入れ治具を構成する伸縮体
P1 下方柱体
P2 上方柱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方柱体およびこの下方柱体に連結される上方柱体の軸線方向となる上下方向に延びるフレーム体を有し、このフレーム体が下方柱体側に位置決められて下方柱体に連設の下方エレクションピースを挿通させる下端側部と、上方柱体側に位置決められてこの上方柱体側に連設の上方エレクションピースを挿通させる上端側部と、上下方向の中央部に形成の螺条部と、この螺条部に上下動可能に螺装されるナット体と、このナット体に上下動可能に下端側から担持される当り部材と、下端側部の下端部に螺入されて上端を下方エレクションピースに当接させこの下方エレクションピースを下端側部の上端部との間に挟持する下方ボルト体と、上端側部の上端部に螺入されて下端を上方エレクションピースに当接させこの上方エレクションピースを当り部材との間に挟持する上方ボルト体とを有し、当り部材における上方エレクションピースに当接される当接面を上方エレクションピースに向けて突出する湾曲面としてなることを特徴とする固定治具。
【請求項2】
フレーム体の下端側部における上端部が下方エレクションピースの上端を当接させる当接面を下方エレクションピースに向けて突出させる湾曲面にしてなる請求項1に記載の固定治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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