説明

固定素子

【課題】取り付け作業中の倒れやすさを大幅に低減し、かつ製造コストを削減した、硬い基盤用の固定素子を提供する。
【解決手段】固定素子(21)は、円筒状の基部(22)を有する。基部(22)は、長手軸線(23)に沿って延びており、第一の端部(24)及び第二の端部(25)を具え、外面(26)上の少なくとも一部にセルフタッピングねじ(27)を設けてなる。セルフタッピングねじ(27)の端縁(28)は、第一の端部(24)から離間して基部(22)の外面(26)上に配置されており、非ねじ部分(31)を形成する。基部(22)は、内側作用手段(32)及び軸部(33)を具える。軸部(33)は、内側作用手段(32)に係合し、負荷作用手段(34)を具える。非ねじ部分(31)は、内側作用手段(32)の軸線方向延長部(F)よりも大きな軸線方向延長部(E)を具え、内側作用手段(32)は非ねじ部分(31)の領域内に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特許請求の範囲の請求項1の前文(プレアンブル)に記載されたような硬い基盤用の固定素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような固定素子は、コンクリート、石塀等の硬い基盤内への固定に用いられる。固定素子は、基盤内に予め形成された下穴に、適当な取り付け工具を用いてねじ込まれる。これにより、セルフタッピングねじは相補的なねじ山を基盤すなわち下穴側壁に形成する。固定素子は形成された凹凸により基盤に固定される。軸部に設けられた負荷作用手段は例えば雌ねじであり、この雌ねじには、固定を確立するために、ねじ棒又はボルト等の固定手段をねじ込み可能である。雌ねじの代わりに、差し込み継手を負荷作用手段として設けることもできる。
【0003】
特許文献1には、長手軸線に沿って延びており、固定素子の取り付け方向を横切る第一の端部及び、第一の端部の逆側にある第二の端部を具える円筒状の基部を有する一般的な固定素子が記載されている。基部の外面上には、らせん状に三周巻き付く切削刃を有するセルフタッピングねじが設けられる。その切削刃は第一の端部の端部領域の円周面上で終焉し、基盤内に形成された穿孔に固定素子を設置することによって三点支持が構成される。基部は、取り付け工具のための内側作用手段、及び第二の端部側が開いた軸部を具える。軸部は、第一の端部の方向で内側作用手段に係合し、負荷作用手段として雌ねじを具える。
【0004】
【特許文献1】国際公開第01/88387号パンフレット
【0005】
この公知の解決法は、基部の第二の端部への取り付け工具のための作用手段の配置のために、固定素子が取り付け作業中に倒れやすいという点で不利である。このため、取り付け作業は複雑になり、下穴の口部が望ましくない方法と様式により広げられる。
【0006】
特許文献2には、長手軸線に沿って延びており、固定素子の取り付け方向に第一の端部及び、第一の端部の逆側にある第二の端部を具える円筒状の基部を有する一般的な固定素子が記載されている。基部の外面上にはセルフタッピングねじが設けられ、そのセルフタッピングねじの端縁は、第一の端部から離間して基部の外面上に配置されており、第一の端部から第二の端部の方向へと延びる非ねじ部分を形成している。基部は、取り付け工具のための内側作用手段、及び第二の端部側が開いた軸部を具え、その軸部は、第二の端部の方向で作用手段に係合し、負荷作用手段を具える。負荷作用手段は、セルフタッピングねじの終端と軸方向高さが同じである基部の第一の端部の端部領域に配置される。
【0007】
【特許文献2】欧州特許公開第1 536 149号明細書
【0008】
この公知の解決法は、少ないながらも固定素子が倒れやすく、そのような固定素子の製作は複雑で高コストとなる点で不利である。そのため、そのような固定素子を製造する可能性は著しく限定されている。したがって、このような固定素子を、大量生産によって経済的に製造することは、本質的な競争優位性となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の課題は、取り付け作業中の倒れやすさを大幅に低減し、かつ製造コストを削減した、硬い基盤用の固定素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題は独立請求項の特徴により解決される。有利な実施態様は従属請求項に述べる通りである。この発明によれば、外周面上にねじが形成されていない部分である非ねじ部分は、内側作用手段の軸線方向延長部よりも大きな軸線方向延長部を具える。その内側作用手段は非ねじ部分領域内に配置される。
【0011】
下穴側壁に固定素子のねじの先端が穿入すると、固定素子には半径方向の力が作用するため、固定素子が動いて望ましくない倒れ込みが起きようとするが、この発明に従う固定素子では、予め形成された下穴に非ねじ部分を挿入することによって、かかる力に対して、下穴内に対する固定素子の位置決めを行う。非ねじ部分領域内に内側作用手段を配置することにより、取り付け工具によって生ずる回転モーメントが、下穴の開口部及び固定素子内のねじの先端から取り除かれる。それにより、倒れやすさを一層防止し、又は低減する。
【0012】
さらに、非ねじ部分は、この発明に従う固定素子の加工に際して、基部の範囲にさらに把持性を付与する。それにより、セルフタッピング雄ねじの加工に際して、取り付け工具用に既に形成されている駆動手段の変形を防止する。それに伴い、加工性は実質的に増加し、製造技術の進歩に応じた変更が可能となるので、経済的で、したがって費用効果の高い固定素子の製作が可能となる。
【0013】
負荷作用手段は、基部の第二の端部から作用手段にまで延びることが好ましい。これによって、全ての部分が、固定素子上に負荷を伝達する役割を果たす。変形例において、負荷作用手段は、軸部の固定手段にまで、作用手段及び/又は第二の端部までの距離で延びる。
【0014】
非ねじ部分の軸線方向の延長部は、基部の谷径の少なくとも0.5倍とすることが好ましく、これによって、この発明に従う固定素子の挿入又は設置に際して、十分な案内及び位置決めを保証する。さらに、この発明に従う固定素子のこの構成によって、その加工に際して、十分な円周面を固定素子の保持に利用することができる。基部の谷径に基づき、円筒状の基部の外径は、これとの関係で、セルフタッピングねじ又はねじ底の直径を測ることなしに把握される。
【0015】
非ねじ部分の少なくとも一部を円錐状に構成することが好ましい。円錐状の外形により、この発明に従う固定素子の挿入及び設置が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の詳細な説明及び請求項の全体から、この発明の好適な実施態様及び特徴の組み合わせがさらに明らかになる。
【0017】
図1及び図2に示される、硬い基盤11用の固定素子21は、長手軸線23に沿って延びる円筒状の基部22を含む。基部22は、取り付け方向Sを横切る第一の端部24及び、第一の端部24の逆側に位置する第二の端部25を具える。基部22の外面26上には、セルフタッピングねじ27が設けられる。セルフタッピングねじ27の端縁28が、第一の端部24から離間して配置されており、非ねじ部31を形成している。したがって、非ねじ部分31は第一の端部24から第二の端部25に向かって延在する。さらに、基部は取り付け工具13のための内側作用手段32、及び第二の端部25側が開いた軸部33を具える。軸部33は、第二の端部25の方向で内側作用手段32に係合し、負荷作用手段34として雌ねじを具える。
【0018】
非ねじ部分31は、内側作用手段32の軸線方向の延長部Fよりも大きな軸線方向の延長部Eを具える。内側作用手段32は非ねじ部分31の領域内に配置される。非ねじ部分31の軸線方向の延長部Eは、基部22の谷径Dの0.7倍に相当する。非ねじ部分31は、部分的に円錐状に構成されている。
【0019】
固定素子21の設置のため、ここでは例えばコンクリート部材のような、硬い基盤11内に下穴12を予め形成しておき、セルフタッピングねじ27の端縁28が下穴の開口部14に到達するまで、固定素子21を下穴12に挿入する。内側作用手段32を介して回転モーメントを固定素子21に伝達する適当な取り付け工具13を用いて、固定素子21を下穴12にねじ込む。それにより、セルフタッピングねじ27が、凹凸を形成するために、下穴側壁15に相補的なねじ山を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明に従う固定素子の取り付け作業の開始時の断面図である。
【図2】図2は、本発明に従う固定素子の側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の基部(22)を有する、コンクリート、石塀等の硬い基盤(11)用の固定素子であって、該基部(22)は、長手軸線(23)に沿って延びており、第一の端部(24)及び第一の端部(24)の逆側に位置する第二の端部(25)を具え、外面(26)上の少なくとも一部にセルフタッピングねじ(27)を設けてなり、該セルフタッピングねじ(27)の端縁(28)は、第一の端部(24)から離間して基部(22)の外面(26)上に配置されており、第一の端部(24)から第二の端部(25)の方向へと延びる非ねじ部分を形成しており、基部(22)は、取り付け工具(13)のための内側作用手段(32)、及び第二の端部(25)側が開いた軸部(33)を具え、該軸部(33)は、第二の端部(25)の方向で内側作用手段(32)に係合し、負荷作用手段(34)を具える固定素子において、
非ねじ部分(31)は、内側作用手段(32)の軸線方向延長部(F)よりも大きな軸線方向延長部(E)を具え、該内側作用手段(32)は非ねじ部分(31)の領域内に配置されることを特徴とする固定素子。
【請求項2】
非ねじ部分(31)の軸線方向延長部(E)は、基部(22)の谷径(D)の少なくとも0.5倍である、請求項1記載の固定素子。
【請求項3】
非ねじ部分(31)は、少なくとも部分的に円錐状に構成される、請求項1又は2記載の固定素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−71386(P2007−71386A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237594(P2006−237594)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【Fターム(参考)】