説明

固定要素固着材

【課題】あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように混合時間が10秒前後と短時間でも充分に混練することができ、固着強度のばらつきも小さく、短時間で硬化して固定要素を固着でき施工管理も容易であって、耐熱性に優れ、耐久性の高い固定要素固着材の提供。
【解決手段】 水を含有しない液状親水性有機物質及び水硬性物質を含有する固定要素固着材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーボルト、鉄筋、ロックボルト、緊張材、螺子等の固定要素を固着する固定要素固着材に関し、詳しくは、あと施工アンカーの固着にも適用でき、更に短時間の混合で固定要素を固着できる固定要素固着材に関する。
【背景技術】
【0002】
固定要素、特にあと施工アンカー用アンカーボルトを固着するための固着材として、一般にはポリエステル樹脂やエポキシ樹脂等の有機系固着材が広く用いられている(特許文献1)。しかし、この有機系固着材は、熱に弱いという欠点があり、アルカリ金属珪酸塩、セメント等の無機系結合材を用いた無機系固着材が提案されている。この無機系固着材としては、例えば、セメントと水を主成分とする硬化剤とを隔離して容器に収容したもの(特許文献2)が知られている。しかしながら、あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように、混合時間が10秒前後と短時間の場合には充分に混練することができず、固着強度が大きくばらついていた。一方、易破壊性の通水性容器にセメント組成物を収容し、該容器を水又は水溶液に浸漬し吸水させてから固定要素を固着する方法(特許文献3)もあるが、この方法は、吸水量を一定に調整することが困難で、固着強度が大きくばらつくとともに、硬化時間を短時間にすることは困難であった。また、アルカリ金属珪酸塩が結合材の主成分であるものは、耐水性が低い場合があり、長期の使用に耐えない場合があった。
【特許文献1】特開昭63−142199号公報
【特許文献2】特公平6−78720号公報
【特許文献3】特許第2555281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように混合時間が10秒前後と短時間の場合でも充分に混練することができ、固着強度のばらつきも小さく、短時間で硬化して固定要素を固着でき施工管理も容易であって、耐熱性に優れ、耐久性の高い固定要素固着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、前記課題解決のために鋭意検討を行った結果、水を含有しない液状親水性有機物質を添加した水硬性物質を用いると、短時間の混合時間でも充分に混練することができ、固着強度のばらつきも小さく、耐熱性に優れ、耐久性の高い固定要素固着材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
本発明は、水を含有しない液状親水性有機物質及び水硬性物質を含有する固定要素固着材を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように混合時間が短時間の場合でも充分に混練することができ、固着強度のばらつきも小さく、耐熱性に優れ、耐久性の高い固定要素固着材が得られる。更に、短時間で硬化して固定要素を固着でき施工管理も容易な固定要素固着材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の固定要素固着材は、水を含有しない液状親水性有機物質及び水硬性物質を含有する混合物(以下、これらの成分を含有する混合物を主剤と記載することもある)が、使用時に水を含有する液状物と混合されて、水によって固化し固定要素を構造物等に固着させるものである。ここで、「水を含有しない液状親水性有機物質」とは、外部より水を添加して含水させた液状親水性有機物質を包含しないということであって、該液状親水性有機物質は、保管等により大気中から吸収するような平衡水分を含有していてもよい。また、「液状」とは、大気圧下0〜50℃で液状のものをいう。
【0008】
本発明で使用する液状親水性有機物質は、水硬性物質と水を含有する液状物とを混練するとき、水硬性物質と水との接触を妨げず、短時間で固着強度を向上させる点で、水に対する溶解度(飽和濃度)(25℃)が水100gに対し1g以上であるのが好ましく、更に水100gに対し10g以上であるのがより好ましい。最も好ましくは、水に対する溶解度(25℃)が無限大、即ち、水に対して任意に溶解するものがよい。
【0009】
液状親水性有機物質としては、例えば、界面活性剤、多価アルコール、グリコール低級アルキルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール低級アルキルエーテル等が挙げられる。これらは単独又は2種以上を混合して併用して用いることができる。
【0010】
界面活性剤としては、ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル類等の非イオン界面活性剤が挙げられる。ポリオキシアルキレン系非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系非イオン界面活性剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック重合体等が挙げられる。これらの非イオン界面活性剤としては、HLBが5〜18、更に8〜17.5のものが好ましい。なお、HLBは、下記の式(1)にて求められるグリフィンのHLBをいう。
(数式)
HLB=(界面活性剤中のEO部分の分子量/界面活性剤の分子量)×20・・(1)
【0011】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。
【0012】
グリコール低級アルキルエーテルは、グリコールのモノ又はジ低級(炭素数1〜5)アルキルエーテルであって、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0013】
ポリアルキレングリコールとしては、ジエチレングリコールを含むポリエチレングリコール、ジプロピレングリコールを含むポリプロピレングリコール等が挙げられ、平均分子量が100〜1000のものが好ましい。
【0014】
ポリアルキレングリコール低級アルキルエーテルは、ポリアルキレングリコールのモノ又はジ低級(炭素数1〜5)アルキルエーテルであって、平均分子量100〜1000のポリエチレングリコールのモノ又はジ−メチル又はエチルエーテル、ポリプロピレングリコールのモノ又はジ−メチルエーテル又はエチルエーテルが好ましい。
【0015】
液状親水性有機物質としては、ポリエチレングリコール(平均分子量100〜1000)、ポリエチレングリコール(平均分子量100〜1000)モノ又はジ−メチル又はエチルエーテルが好ましい。
【0016】
本発明で使用する水硬性物質は、水又は酸若しくは塩の水溶液と混練して硬化する物質である。水硬性物質としては、例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、エコセメント、並びにこれらポルトランドセメント、エコセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ,シリカフューム又は石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント、アルミナセメント、超速硬セメント(例えば、太平洋セメント社製「スーパージェットセメント」(商品名)、住友大阪セメント社製「ジェットセメント」(商品名)等)、急硬性セメント、急結セメント、微粒子セメント、マグネシア等が挙げられ、これらを一種単独で又は二種以上併用して用いることができる。
【0017】
水硬性物質に対する液状親水性有機物質の添加量は、特に限定されないが、混練がし易いこと及び固着強度が高いことから、水硬性物質100質量部に対し、3〜50質量部、更に4〜20質量部であるのが好ましい。液状親水性有機物質の添加量が比較的少ない場合、添加後の水硬性物質は粉状であることが多いが、液状親水性有機物質の添加量が増すにつれ凝集した粉状、粘土状、ペースト状に変化する。
【0018】
本発明では、水硬性物質と水を含有しない液状親水性有機物質を、予め混合してあるので、あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように10秒前後と短時間混合でも充分に混練することができ、更に固着強度のばらつきも小さく、また、長期間保存後も固着強度の低下が起こりにくい。
【0019】
本発明で使用する水を含有する液状物(以下、硬化剤と記載することもある)は、水、水溶液、エマルション及び水を媒体とする懸濁液の群から選ばれる。硬化剤は、水単独でもよいが、適宜、以下に記載する水以外の任意成分等を含有する水溶液、エマルション、水を媒体とする懸濁液であってもよい。主剤に硬化剤を添加・混合して混練することにより固化し、固定要素を既設のコンクリート等に固着する。
【0020】
本発明の固定要素固着材は、更に細骨材を含有すると短時間での混練で固着強度のばらつきが小さくなるので好ましい。使用する細骨材は、特に限定されないが、例えばスラグ細骨材、珪砂、山砂、海砂、陸砂、川砂、再生細骨材、セメントクリンカ、ガラスビーズ等が挙げられる。細骨材の粒径としては0.06〜5mmのものが好ましい。細骨材の使用量は、特に限定されないが、混練がし易いこと及び固着強度が高いことから、水硬性物質100質量部に対し100〜300質量部が好ましい。
【0021】
本発明の固定要素固着材には、細骨材以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、更に高性能減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、減水剤を含む粉体状の界面活性剤、シリカヒューム、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ等の無機質微粉末、セメント用ポリマー、粗骨材、急結剤や急硬剤等の硬化促進剤、硬化遅延剤、膨張材、防水剤、防錆剤、顔料、増粘剤、収縮低減剤、増量材、繊維等の任意成分を一種又は二種以上を含有してもよい。したがって、主剤及び硬化剤には、適宜必要に応じこれらの任意成分が含有される。
【0022】
本発明の固定要素固着材は、使用時に水を含有する液状物を加えて固化させるが、主剤と硬化剤とを別々の容器に収容すると取り扱い易く好ましい。更に、主剤収容容器と硬化剤収容容器が、互いに隣接又は一方の容器に他方の容器が内在していると、より取り扱いやすくなり更に好ましい。主剤収容容器及び硬化剤収容容器の材質、大きさ、形状は、特に限定されない。これらの容器の材質としては、例えばガラス、樹脂、紙、金属、布等が挙げられ、これらを併用したものでもよい。また、固着する固定要素がアンカーボルトであるときの該容器は、破壊され易いものが好ましく、その大きさは、アンカーボルトを挿入する孔の深さ以下の長さが好ましい。
【0023】
本発明の固定要素固着材は、特に、固着する固定要素がアンカーボルトである場合に好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
実施例1
表1に示す各種固定要素固着材を作製した。なお、表1中の数値は質量部を表す。
固定要素固着材の作製
水硬性物質、液状親水性有機物質及びシリカフュームをホバート社製ミキサで10分間混合した。参考品1及び2は水硬性物質及びシリカフュームを、参考品3は水硬性物質、液状親油性有機物質及びシリカフュームを、同様にホバート社製ミキサで10分間混合した。調製した混合物を、水硬性物質とシリカフュームの合計質量が17.53gとなるようにガラス製容器A(円筒状:外径10.2mm、長さ120mm、肉厚0.6mm)に収容した。
ガラス製容器B(円筒状:外径16.5mm、長さ130mm、肉厚0.8mm)に水を含有する液状物と細骨材の混合物の質量が20gとなるように収容した。
次いで、ガラス製容器B中に、ガラス製容器Aを収容後、樹脂製の蓋をして固定要素固着材とした。
【0025】
<使用した材料>
水硬性物質A: 酸化マグネシウム(比重3.3)。
細骨材A: 珪砂(2号珪砂:4号珪砂=1:1(質量比)の混合物)。
液状親水性有機物質A: 東邦化学工業社製ポリエチレングリコール「PEG200」。
液状親水性有機物質B: ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量225:東邦化学工業社製「ハイモールPM」、グリフィンのHLB;17.1、25℃における水に対する溶解度;任意の割合で溶解する)。
液状親油性有機物質C: 1−ヘキサノール(試薬特級、25℃における水に対する溶解度;水100gに最大0.624g溶解する)。
無機質微粉末: シリカフューム(エルケム社製「940U」、BET比表面積;20.0m2/g、比重;2.2)。
水を含有する液状物A: 水道水:第一燐酸アンモニウム=127.4:101.5(質量比)の混合液。
水を含有する液状物B: 水道水:第一燐酸アンモニウム:液状親水性有機物質A=127.4:101.5:42.9(質量比)の混合液。
水を含有する液状物C: 水道水:第一燐酸アンモニウム:液状親水性有機物質B=127.4:101.5:42.9(質量比)の混合液。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、本発明品3、4及び参考品4で使用した主剤は、各々本発明品1、2及び参考品1の主剤を、密封していない容器に収容して2ヶ月間室内で保存したものである。
【0028】
各種固定要素固着材を、コンクリートブロック(縦1000mm×横1000mm×高さ500mm、圧縮強度;29.5N/mm2 )にハンマードリルを用いて穿孔した内径18mm×深さ130mmの孔(アンカーホール)に入れ、アンカーボルト(M16全ねじボルト、長さ170mm、先端45度斜めカット)をハンマードリルにより10秒間回転・打撃を与え孔底まで埋め込むことで、固定要素(アンカーボルト)をコンクリートブロックに固着した。
埋め込み24時間後に、日本建築あと施工アンカー協会のあと施工アンカー標準試験方法に準じた方法でアンカー筋の引張り試験を実施した。ただし、コンクリート面に内径30mmの穴のある球面座金を設置する密着法により実施した。
結果を、アンカーボルトの埋め込み時の観察結果とともに表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例2
表3及び4に示す各種固定要素固着材を作製した。
細骨材B及び硬化促進剤を含有する主剤をガラス製容器Aに20g収容した以外は、実施例1と同様にして固定要素固着材を作製した。
【0031】
<使用した材料>
水硬性物質A: 酸化マグネシウム(比重3.3)。
水硬性物質B: 太平洋セメント社製スーパージェットセメント(商品名、比重3.01
)。
水硬性物質C: 太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント(比重3.15)。
細骨材A: 珪砂(2号珪砂:4号珪砂=1:1(質量比)の混合物)。
細骨材B: フェロニッケルスラグ細骨材。
液状親水性有機物質A: 東邦化学工業社製ポリエチレングリコール「PEG200」。
無機質微粉末: シリカフューム(BET比表面積20.0m2/g)。
水を含有する液状物D: 水道水:第一燐酸アンモニウム=9:5(質量比)の混合液。
水を含有する液状物E: 水道水。
硬化促進剤: アルミン酸ソーダ。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
作製した各種固定要素固着材を使用して、実施例1と同様にしてアンカーボルトをコンクリートブロックに固着した。実施例1と同じ試験をした結果を、アンカーボルトの埋め込み時の観察結果とともに表5に示す。
【0035】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、あと施工アンカー用アンカーボルトをコンクリート構造物に固着する場合等のように混合時間が10秒前後と短時間でも充分に混練することができ、固着強度のばらつきも小さく、耐熱性に優れ、耐久性の高い固定要素固着材が得られるので、耐震補強工事等に好適に適用できる。また、アンカーボルト以外のロックボルトや緊張材等の固定要素を固着する工事にも好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を含有しない液状親水性有機物質及び水硬性物質を含有する固定要素固着材。
【請求項2】
水を含有しない液状親水性有機物質及び水硬性物質を含有する混合物と、水を含有する液状物とを、別々の容器に収容した請求項1記載の固定要素固着材。
【請求項3】
2つの容器が互いに隣接又は一方の容器に他方の容器が内在している請求項2記載の固定要素固着材。
【請求項4】
固着する固定要素が、アンカーボルトである請求項1〜3のいずれか1項記載の固定要素固着材。

【公開番号】特開2006−161461(P2006−161461A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356281(P2004−356281)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(399045787)
【出願人】(593193354)シンエイマスター株式会社 (2)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【出願人】(000201490)前田工繊株式会社 (118)
【Fターム(参考)】