説明

固形製剤

本発明は、(i)ベンズイミダゾールを含むコアと、(ii)水溶性ポリマーとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層と、(iii)腸溶コーティングとを具える、固形製剤を対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性化合物と分離層と腸溶コーティングとを具える経口固形製剤、それを製造する方法、及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品有効成分(API)などの医薬産業で用いられている数多くの化合物は、酸性媒体において不安定である。このことは、前述する酸不安定化合物が強酸性環境である胃内容物と接触するときに分解が起こるという事実により、経口投与用製剤処方の開発に関して、数多くの問題を引き起こす。酸不安定化合物の経口投与後における酸不安定化合物と胃液との接触を回避するため、酸不安定化合物を含有するビーズと、腸溶コーティングとしても知られている胃耐性コーティングを構成する外部層とを含む固形製剤が開発されている。例えば、「レミントン薬学の科学と実践(Remington, the science and practice of pharmacy)」第21版、2005年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス社、45章、46章及び47章、コーティングに関する論考、具体的には、腸溶コーティングに関する932〜933頁を参照されたい。しかしながら、前記胃耐性コーティングは、酸性であることが多く、従って、酸不安定化合物を保護する必要がある。この状況の例は、効果的な胃酸分泌阻害剤として広く知られているAPIであるベンズイミダゾール化合物であり、その中でオメプラゾール[(±)-5-メトキシ-2-[(4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-2-イル)メチルスルフィニル]-3H-ベンゾイミダゾール]が最も代表的な例である。生物学的に興味深いベンズイミダゾール化合物としては、パントプラゾール、ラベプラゾール、ランソプラゾール、又はエソメプラゾールとしても知られ(欧州特許出願公開第652872号明細書)オメプラゾールの左旋性エナンチオマーである(−)-(S)-5-メトキシ-2-[(4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-2-イル)メチルスルフィニル]-3H-ベンゾイミダゾールも挙げられる。
【0003】
酸不安定性問題に対する解決策は、酸不安定化合物と胃耐性コーティングとの間に分離層を導入することである。例えば、欧州特許第1020460号明細書は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースをユニークな成分として用いた分離層とフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶コーティングとを有するエソメプラゾールナトリウムのペレット剤を開示している。
【0004】
欧州特許出願公開第244380号、第733025号、第1086694号、第1185254号明細書は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む分離層を有するオメプラゾール製剤を開示している。
別の解決策は、固形製剤において、例えば、酸不安定化合物のアルカリ塩を使用することによって及び/又はアルカリ反応性の化合物を組み込むことによって、酸不安定化合物の周囲にアルカリ性環境を作り出すことである(例えば、欧州特許出願公開第244380号明細書及び米国特許第4,786,505号明細書を参照されたい)。
他の文献も、酸不安定なAPIを製剤化する場合の分離層を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第652872号明細書
【特許文献2】欧州特許第1020460号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第244380号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第733025号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1086694号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1185254号明細書
【特許文献7】米国特許第4,786,505号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「レミントン薬学の科学と実践」第21版、2005年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス社、45章、46章及び47章、932〜933頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸性媒体における安定性問題に加えて、幾つかの化合物、例えば、エソメプラゾールナトリウム塩は極端に水溶性であり、このことがその製剤化を、特に水性層形成(aqueous layering)プロセスを用いる場合に非常に困難にしている。このプロセスは、APIと残りの医薬成分とを水中に分散/溶解することと、およそ40度にてスプレードライ法又は流動層式粉砕法を行うこととを含む。前記方法で使用する水への溶解性のため、製剤を製造するときに、前記化合物が分離層に又は腸溶コーティングにまでも移動する。このことは、腸溶コーティングを酸性環境と接触させる際の前記化合物の安定性にとって有害である。
【0008】
結果として、腸溶性膜から酸不安定化合物を含有するコアへのプロトンの移動を回避するという問題、又は内部層から外部層への酸不安定化合物の移動を回避するという問題は、重要な関心事となる。
【0009】
このように、酸不安定化合物の適切な製剤を提供するために、酸不安定化合物の外側コーティング層への移動を回避する必要があるとともに、外側コーティング層から酸不安定な有効成分を含有する内部層へのプロトンの移動を回避する必要がある。これを達成するために、分離層を、ヒト体内で溶解する際に容易に水に溶けるものとすべきである(腸溶性膜が溶解した時点で、腸の中性又はほぼ中性のpH条件で、APIが迅速に放出されなければならない)が、同時に、コアへのプロトン移動を停止して腸溶性膜へのAPI移動を回避するためのバリアとして、分離層が有効に作用すべきである。これらの望ましくない移動はいずれも、APIの安定性にとってマイナスに影響するであろう。
【0010】
分離層を施すことに使用されることが多い水性層形成プロセスは、分離層を水及び比較的高温(大抵は最高50℃)に曝露し、従って、分離層は、水性層形成プロセスの間に水の移動、分離層の溶解又は分散を受けやすくなる。また、腸溶性膜が分離層を覆って施されるときには、水が分離層を通って又はコアへ移動することを回避するために、注意を払うべきである。
【0011】
上述する問題を回避するために、数多くの分離層が試験されている(ヒドロキシプロピルメチルセルロース単独(HPMC)、ポリビニルアルコール等)。しかしながら、完全に満足のいく構成は提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ここで、本発明者らは、水溶性ポリマーとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層の提供が、生理活性化合物を安定化することにおいて驚くほど効果的であることを見出した。かかる分離層の提供は、製剤の形成の間の生理活性化合物の安定性及び一旦形成された製剤全体の安定性を向上させることが認められた。本発明者らは、以下で説明する本発明の製剤が、酸不安定な及び/又は水溶性の生理活性化合物を安定化するのに特に有用であることを見出した。
【0013】
特に、本発明の製剤は、上述する外側の層から内部層へのプロトンの移動の問題又は内側の層から外部層への酸不安定な有効成分の移動の問題を回避することに有効であることが判明している。
【0014】
一態様によると、本発明は、(i)生理活性化合物を含むコアと、(ii)水溶性ポリマーとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層と、(iii)腸溶コーティングとを具える、好ましくはペレット又は顆粒の形態である、経口固形製剤(本発明の剤形)を対象とする。
【0015】
分離層に存在するモノステアリン酸グリセリルは、上述のメカニズムに従い、コアに存在する酸不安定な有効成分の分解を防ぐ。特に、モノステアリン酸グリセリルは、本発明の根底にある問題を解決することに有効であることが判明している一方で、同じ機能を示すことが知られている他のポリマーは無効であることが判明している。この例は、例えば、ポリビニルアルコールポリマーである。国際公開第2004/016242号公報の実施例に開示されているような、同じ様式で分離層に用いられたタルクも、同じ条件下で酸不安定な有効成分の分解を回避することに失敗した。
【0016】
第二態様によると、本発明は、水性層形成プロセスを含む、本発明の製剤の製造方法を対象とする。
【0017】
第三態様は、医薬品として使用するための本発明の製剤である。
【0018】
第四態様は、消化性潰瘍、胃炎、逆流性食道炎、H.ピロリの撲滅、消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍若しくは出血性胃炎によって引き起こされる胃腸出血の抑制、侵襲ストレスによって引き起こされる胃腸出血の抑制、非ステロイド抗炎症薬によって引き起こされる潰瘍、及び術後ストレスによって引き起こされる胃酸過多症若しくは潰瘍からなる群より選択される疾患又は状態の治療及び/又は予防に使用するための、本発明の製剤である。
【0019】
第五態様は、1種以上の医薬上許容される添加剤と1種以上の本発明の製剤とを含む錠剤である。
【0020】
第六態様は、1種以上の本発明の製剤を含むカプセル剤又はサシェ剤である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1a】図1aは、本願の比較例である例3の固形製剤の45℃、相対湿度75%にて6日間の保存後の写真を示す。
【図1b】図1bは、本願の実施例である例1の固形製剤の45℃、相対湿度75%にて6日間の保存後の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<コア>
本発明の製剤のコアは、医薬品有効成分(API)から選択される生理活性化合物を含有する。本発明の実施態様において、前記生理活性化合物は、酸不安定化合物である。更なる実施態様において、前記生理活性化合物は、水溶性化合物である。生理活性化合物の溶解度を決定するために、以下の工程を含む標準溶解度試験を行う。
1.10.0mgの化合物を量り、1mLの溶媒(水)を加える。最高10分間攪拌する。溶解が完結していない場合、最高10分間超音波を施す。
2.工程1の後に化合物が溶解していない場合、10mLが加えられるまで、1mLずつ溶媒(水)を加える。溶解が完結していない場合、101mLの容量に達するまで、10mLずつ加える。溶解が完結していなければ、実験を止め、その化合物を「ほぼ不溶」であるとみなす。
3.化合物が、工程2のある段階で溶解した場合、10.0mgの代わりに100.0mgを用いて実験を開始し、工程2の同じ手順をたどる。
4.工程3の100.0mgの化合物が1mLに溶解する場合、100.0mgの代わりに1.0gを用いて実験を開始し、工程2の同じ手順をたどる。1.0gの化合物が1mLに溶解する場合、実験を止め、その化合物を「非常に可溶」(溶解度1mL/g未満)であるとみなす。
【0023】
溶媒が加えられるたびに、最高10分間攪拌し、必要に応じて、更に最高10分間超音波を施す。温度は、20℃に維持する。完全な溶解が観察された時点で、実験を終了する。その時点で、化合物の量を、溶解に必要であった溶媒(水)の量と比較する。本発明の実施態様において、生理活性化合物は、1000mL/g未満、より具体的には100mL/g未満、さらに具体的には50mL/g未満の水溶解度を有する。
【0024】
特定の実施態様において、本発明の製剤はAPIを含む。
【0025】
本発明において理解されるように、「酸不安定化合物」は、pH4未満の水溶液中で10分間より短い半減期を有する及び/又はpH7を有する水溶液中で10分〜65時間の半減期を有する化合物を指す。半減期は、次の標準的な方法で測定される。20℃の温度を維持しながら、化合物を所定のpHの水に0.4mg/mLの濃度(試料の開始濃度)まで溶解する、13分ごとに試料の濃度をUPLC分析によって測定し、「濃度対時間」曲線を決定する。次に、前記曲線から試料の濃度が試料の開始濃度に対して50%の時点を外挿することによって、化合物の半減期を各pHについて算出する。UPLC分析は、5.0cm×0.21cm、1.7μmのアクイティ(Acquity:商標)UPLC BEH C18を備えたアクイティUPLC(ウォーターズ)を用いて行う。操作条件は、注入容量3.5μL、移動相:アセトニトリル及び重炭酸アンモニウム5mMを用いたグラジエント、pH8.5、流速0.6mL/分、波長280nm、カラム温度40℃、試料温度10℃である。
【0026】
本発明の製剤に有用なAPIは、胃腸機能調整剤、抗炎症剤、鎮痛剤、抗片頭痛剤、抗ヒスタミン剤、心血管治療薬、利尿薬、降圧薬、抗高脂血症薬、抗潰瘍薬、抗嘔吐薬、抗喘息薬、抗うつ薬、ビタミン、抗血栓剤、化学療法薬、ホルモン、駆虫剤、抗糖尿病薬、抗ウイルス薬、及びそれらの混合物からなる群より選択される1種以上の物質とすることができる。
【0027】
特定の実施態様において、生理活性化合物は、酸媒体中で不安定なベンズイミダゾール化合物である。更なる実施態様において、生理活性化合物は、式(I)のベンズイミダゾール誘導体、その塩又はそれらの立体異性体である:
【化1】

(式中、
は、水素、メトキシ又はジフルオロメトキシであり、
は、メチル又はメトキシであり、
は、メトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ又は3-メトキシプロポキシであり、且つ
は、水素またはメチルである)。
【0028】
更なる実施態様において、前記ベンズイミダゾール誘導体は、ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール若しくはパントプラゾール、それらの塩又はそれらの立体異性体である。好ましくは、ベンズイミダゾール誘導体が、エソメプラゾール又はその塩、特にはマグネシウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、カリウム塩又はストロンチウム塩である。また更なる実施態様において、前記生理活性化合物は、エソメプラゾールナトリウム塩、すなわち、(−)-(S)-5-メトキシ-2-[(4-メトキシ-3,5-ジメチルピリジン-2-イル)メチルスルフィニル]-3H-ベンゾイミダゾールのナトリウム塩である。
【0029】
特定の実施態様において、生理活性化合物は、コアの全重量に対して10重量%〜90重量%、より具体的には30重量%〜85重量%、より具体的には40重量%〜80重量%、より具体的には50重量%〜75重量%の量で存在する。
【0030】
コアは、付加的に医薬上許容される添加剤及び/又は不活性ビーズ(すなわち、小型のボール状の不活性な固形物質)及び/又はアルカリ性化合物をさらに含むこともできる。不活性ビーズは、生理活性化合物に関して、医薬として不活性な物質である。つまり、不活性ビーズは、その分解を引き起こすのに使用される条件下で生理活性化合物と反応せず、サッカロースなどの糖、デンプン及びそれらの混合物から構成することもできる。具体的な実施態様において、前記不活性ビーズは、セルロースからなり、0.08〜0.3mmの平均粒径を有する。特定の実施態様において、不活性ビーズは、コアの全重量に対して、1重量%〜50重量%、より具体的には10重量%〜40重量%、より具体的には20重量%〜30重量%の量で存在する。
【0031】
具体的な実施態様において、コアは、製剤単位の全重量に対して、5重量%〜35重量%、より具体的には10重量%〜20重量%の量で本発明の製剤中に存在する。
【0032】
酸不安定なAPIとしてエソメプラゾールなどのベンズイミダゾール化合物、その立体異性体又はそれらの塩が用いられる特定の場合において、本発明の製剤は、腸溶性細粒剤を含む。この剤形は、消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍など)、胃炎若しくは逆流性食道炎の治療及び/又は予防、H.ピロリの撲滅、消化性潰瘍、急性ストレス性潰瘍及び出血性胃炎によって引き起こされる胃腸出血の抑制、侵襲ストレスによって引き起こされる胃腸出血の抑制、非ステロイド抗炎症薬によって引き起こされる潰瘍の治療及び予防、術後ストレスによって引き起こされる胃酸過多症若しくは潰瘍の治療及び予防に有用である。成人1人あたりの製品の用量は、ベンズイミダゾール化合物として、約0.5〜1,500mg/日、好ましくは約5〜150mg/日である。このように、前記ベンズイミダゾール化合物を含む本発明の製剤は、胃酸分泌の低減に有用である。
【0033】
<分離層>
本発明の本質的特徴は、モノステアリン酸グリセリルが分離層中に存在することである。
【0034】
本発明の好ましい実施態様において、モノステアリン酸グリセリルは、水溶性ポリマーの全重量に対して2重量%〜60重量%の含有量で、より好ましくは水溶性ポリマーの全重量に対して8重量%〜18重量%の含有量で分離層中に存在する。更なる実施態様においては、モノステアリン酸グリセリルが、水溶性ポリマーの全重量に対して2重量%〜10重量%の含有量で分離層中に存在する。更なる実施態様においては、モノステアリン酸グリセリルが、水溶性ポリマーの全重量に対して2重量%〜8重量%の含有量で分離層中に存在する。更なる実施態様においては、モノステアリン酸グリセリルが、水溶性ポリマーの全重量に対して2重量%〜5重量%の含有量で分離層中に存在する。
【0035】
同様に分離層中に存在する水溶性ポリマーは、中性又はほぼ中性の条件、例えばpH6〜8の範囲で水に容易に溶解するいずれかのポリマーである。
【0036】
当業者であれば、適切な水溶性ポリマーを知っており、参考の図書やハンドブックにおいて容易に見出すことができる。例えば、「製剤技術百科事典 第1巻(Encyclopedia of pharmaceutical technology, Volume I)」、スウォーブリック(Swarbrick)・J、ボイラン(Boylan)・J.C、マーセル・デッカー社(Marcel Dekker Inc.)、2002年、水溶性ポリマーの一般的特性に対する論考、114〜119頁を参照されたい。実例は、デキストラン、ペクチン、カラギーナン、グアーガム、ポリ(β-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール)、可溶性デンプン(例えば、アミラーゼ)、アルギニン酸及びそのアルカリ塩(例えば、ナトリウム塩若しくはカリウム塩)、ポリリジン、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はカルボキシメチルセルロース及びそのアルカリ塩(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム)である。水に難溶性のポリマーの表示は、「医薬品添加剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)」、ロウ(Rowe)・R.C、シェスキー(Sheskey)・P.J、クイン(Quinn)・M、ファーマシューティカル・プレス社及び米国薬剤師会 、第6版(2009年)において見出すことができる。
【0037】
本発明の特定の実施態様によると、前記水溶性ポリマーは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びそれらのアルカリ塩(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム)などのセルロースである。更なる実施態様において、前記水溶性ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0038】
特定の実施態様において、分離層は、製剤の全重量に対して、5重量%〜45重量%、より具体的には5重量%〜30重量%、より具体的には7重量%〜20重量%の量で、本発明の製剤中に存在する。
【0039】
<腸溶コーティング>
腸溶コーティング、その組成、及びそれらの製造方法は、本技術分野で既知である。当業者であれば、この主題について数多くの参考図書及びハンドブックが利用可能であり、いかなる腸溶コーティングも利用可能である。例えば、「レミントン薬学の科学と実践」第21版(2005年)、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス社、46章を参照されたい。本発明の実施態様によると、前記腸溶コーティングは、酸性である。腸溶コーティングは、例えばメタクリル酸とメタクリル酸のエステルとによって形成されるコポリマーといったメタクリル酸コポリマーなどの胃耐性ポリマーを含む。また、トリエチルアセテートなどの可塑剤、及びタルクなどの更なる1種以上の医薬上許容される不活性な添加剤を含めることもできる。具体的な実施態様において、前記腸溶コーティングは、製剤の全重量に対して、10重量%〜90重量%、より具体的には20重量%〜85重量%、より具体的には30重量%〜80重量%、より具体的には50重量%〜75重量%の量で、本発明の製剤中に存在する。
【0040】
<定義及び付加成分>
本発明の実施態様によると、本発明の製剤は、少なくとも1層の付加層を具えることもできる。本発明の更なる実施態様において、本発明の製剤は、国際公開第20009/043926A2号に記載されるもののような機械的保護層を具える。本発明の実施態様において、本発明の製剤は、2種、3種又は4種の異なるポリエチレングリコールポリマーの混合物を含む付加層を具える。一実施態様によると、前記付加層は、平均分子量が3,000〜5,000、より好ましくは4,000のポリエチレングリコールと、平均分子量が5,000〜7,000、より好ましくは6,000のポリエチレングリコールと、平均分子量が7,000〜9,000、より好ましくは8,000のポリエチレングリコールとの混合物を含む。
【0041】
更なる実施態様によると、本発明の製剤は、放出調節組成物である腸溶コーティングを具える。
【0042】
本発明の製剤及び錠剤は、1種以上の可塑剤などの1種以上の添加剤を含むこともできる。「添加剤」という用語は、米国薬局方及び国民医薬品集で与えられているのと同じ意味を有する、すなわち、製剤の処方に意図的に加えられる活性物質以外のいかなる成分をも意味する。例示的な添加剤は、膨潤及び/又はウィッキングによって作用する崩壊剤、滑沢剤、着色剤、味マスキング剤、香味剤、安定剤、結合剤、賦形剤、発泡剤、甘味料、細孔形成剤、酸(例えば、クエン酸又は酒石酸)、塩化ナトリウム、重炭酸塩(例えば、ナトリウム又はカリウム)、糖及びアルコールである。
【0043】
本発明の目的について、「可塑剤」は、高分子物質によって形成された膜の機械的特性を改善するために通常使用される物質である。前記膜は、変形後は原形に戻らない生成物である。高分子物質に加えられた場合、可塑剤は、改善された耐性及び柔軟性を材料に提供する。本発明の目的のため、可塑剤は、好ましくは、室温で固形であり、水溶性である。可塑剤は、ワックス、リノリン(linoline)型アルコール、ゼラチン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリアセチン、クエン酸トリブチル、クエン酸トリエチル、セバシン酸ジブチル、中鎖長のトリグリセリド脂肪酸、樹脂酸、長鎖脂肪酸(例えば、ステアリン酸、パルミチン酸)、又はそれらの混合物からなる群より選択することができる。他の好ましい可塑剤は、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸、パルミンステアリン酸グリセリル及びジベヘン酸グリセリルなど滑沢剤の特徴も有するものである。
【0044】
味マスキング剤の例としては、エチルセルロースなどの水に不溶なポリマー並びにメタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル及びメタクリル酸ジエチルアミノエチルなどの唾液に不溶であり胃液に可溶であるポリマーなどを用いることができる。
【0045】
「崩壊剤」という用語は、固形製剤に加えて、投与後の固形製剤の破壊又は崩壊を促進し、有効成分を可能な限り効果的に放出することを可能にして、固形製剤を急速に溶解させる物質と理解される。崩壊剤の例としては、トウモロコシデンプン及びジャガイモデンプンなどのデンプン、部分αデンプン、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ポリビニルアルコール、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース並びにヒドロキシプロピルデンプンなどを挙げることができる。また、崩壊剤として、ヒドロキシプロピルセルロースを用いてもよい。
【0046】
香味剤の例としては、香料、レモン、レモンライム、オレンジ、メンソール、ペパーミント油、バニリン及びこれらをデキストリン又はシクロデキストリンで吸着した粉末などを使用することができる。
【0047】
滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリル、タルク、ステアリン酸及びコロイド状二酸化ケイ素(アエロジル(登録商標)200)などを挙げることができる。
【0048】
着色剤の例としては、食用黄色5号、食用赤色3号、食用青色2号、食用レーキ色素、ベンガラなどの食用色素を挙げることができる。
【0049】
安定剤又は可溶化剤の例としては、使用される生理活性成分に応じて、アスコルビン酸及びトコフェロールなどの抗酸化剤、ポリソルベート80などの界面活性剤などを挙げることができる。
【0050】
結合剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、カルメロースナトリウム、αデンプン、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、ゼラチン及びプルランなどを挙げることができる。
【0051】
賦形剤の例としては、スクロース、グルコース、ラクトース、マンニトール、キシリトール、デキストロース、微結晶セルロース、マルトース、ソルビトール、リン酸カルシウム及び硫酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0052】
発泡剤の例としては、重炭酸ナトリウムを使用することができる。
【0053】
甘味料の例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリジン二カリウム、アスパルテート、ステビア及びタウマチンなどを挙げることができる。
【0054】
「固形製剤」、すなわち「本発明の剤形」という用語は、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、小型錠剤、細粒剤、被膜製剤、ペレット剤などの固形状態の製品と理解される。
【0055】
「固形製剤」という用語は、医薬上の有効成分を含む錠剤、顆粒剤、カプセル剤、小型錠剤、細粒剤及び被膜製剤などの製品と理解される。好ましい実施態様によると、前記製剤は、ペレット剤、顆粒剤、錠剤又は小型錠剤である。
【0056】
本発明の製剤は、本技術分野で既知の次の方法で製造することもできる(「レミントン薬学の科学と実践」第21版、2005年、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス社を参照されたい)。第一態様によると、本発明は、水性層形成プロセス、すなわち、層の成分全てを水中に連続的に分散させることと、次いで前記分散液で製剤をコーティングすることとを含む、本発明の製剤の製造方法を対象とする。
【0057】
例えば、医薬目的のためのペレット剤を得る別法の概説を、「医薬品ペレット化技術(Pharmaceutical Pelletization Technology)」、アイザック・ゲブレ・セラシェ(Isaac Ghebre-Sellassie)編、マーセル・デッカー社(1989年)に見ることができる。特定の実施態様において、本発明の製剤は、かかる層の成分の水溶液又は水性分散液を使用して、通常の流動層コーティング技術の手法によって、別個の層を施して得られる。簡単にいうと、流動層装置中、生理活性化合物を含有する第一の層で不活性な核を被覆する。そして、前記第一の層を、水溶性ポリマーとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層で被覆し、次いで腸溶コーティングで被覆する。続いて、更なるコーティングを同様に付加する。
【実施例】
【0058】
以下の略語を使用する。
ヒプロメロース(Hypromellose)=ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)
PEGnnnn=ポリエチレングリコールnnnn
オイドラギット(Eudragit:登録商標)=メタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:1)
オパドライ(Opadry:登録商標)II85F=部分加水分解ポリビニルアルコール含有ポリマーの市販名称
【0059】
[例1:ヒドロキシプロピルメチルセルロースとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層を有する三層含有エソメプラゾールナトリウムペレット剤]
表1に示す割合の各被膜(FC)の懸濁液を吹き付けることによって、エソメプラゾールナトリウムペレット剤を調製した。
【0060】
【表1】

【0061】
流動層装置中で、被膜コーティング1(FC1)の成分の懸濁液を不活性ビーズの上に吹き付けて乾燥させることによって、ペレット剤を調製した。つまり、最初にコアを準備した(不活性ビーズ+FC1)。FC2の成分で分散液を調製して、コアの上に吹き付けた。次に、FC3の分散液をFC2の上に吹き付けた。流動層装置中でおよそ40℃にて別個の水性懸濁液を吹き付け、更に乾燥させることによって、各被膜コーティング(FC)を得た。
【0062】
[例2(比較例):ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む(モノステアリン酸グリセリル無しの)分離層を有する三層含有エソメプラゾールナトリウムペレット剤]
表2に示す割合の各被膜(FC)の懸濁液を吹き付けることによって、例1のようにエソメプラゾールナトリウムペレット剤を調製した。
【0063】
【表2】

【0064】
[例3:(比較例):部分加水分解ポリビニルアルコールを含む分離層を有する三層含有エソメプラゾールナトリウムペレット剤]
表3に示す割合の各被膜(FC)の懸濁液を吹き付けることによって、例1のようにエソメプラゾールナトリウムペレット剤を調製した。
【0065】
【表3】

【0066】
[例4:エソメプラゾールナトリウム、FC4ペレット剤]
表4に示す保護被膜で、例1〜3のエソメプラゾールナトリウムペレット剤を更に被覆した。
【0067】
【表4】

【0068】
得られたペレット剤を、均一な混合物が得られるまで、表5に示す圧縮ベースと共に混合した。次に、この混合物を圧縮して、オパドライIIで被覆した錠剤を得た。5〜8kpの硬度範囲が得られ、全ての錠剤は0.5%未満の摩損度を示し、水中での崩壊時間は約10分であった。
【0069】
【表5】

【0070】
[例5:例1〜3の安定性比較データ]
下記表1に示すように、40℃、75%相対湿度にて蓋無しの皿に入れて6日間の後に、比較の例3の製剤試料が黒くなる一方で、同じ条件で調剤した例1の試料は、その本来の外観を保持していた。
【0071】
【表6】

【0072】
これらの結果を図1a及び1bにも示しており、40℃及び75%の相対湿度にて6日間の後に、本発明の固形製剤(例1、図1b)は、依然として同じ色を保持して、有効成分の分解が起きなかったことを意味していたが、一方で先行技術の固形製剤(例3、図1a)は、黒くなり、酸性媒体による有効成分の分解を特徴付けたことが示されている。
【0073】
これは、有効成分、つまりエソメプラゾールナトリウム塩が、内部FC1層から腸溶コーティングFC3へ移動することを示している。前記腸溶コーティング層は酸性であり、有効成分が分解し黒くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ベンズイミダゾールを含むコアと、
(ii)水溶性ポリマーとモノステアリン酸グリセリルとを含む分離層と、
(iii)腸溶コーティングと、
を具える、経口固形製剤。
【請求項2】
生理活性化合物が式(I)のベンズイミダゾール誘導体、その塩、又はそれらの立体異性体である、請求項1記載の経口固形製剤:
【化1】


(式中、
は、水素、メトキシ又はジフルオロメトキシであり、
は、メチル又はメトキシであり、
は、メトキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ又は3-メトキシプロポキシであり、
は、水素又はメチルである)。
【請求項3】
前記ベンズイミダゾール化合物が、オメプラゾール、ラベプラゾール、ランソプラゾール、パントプラゾール、それらの塩及びそれらの立体異性体からなる群より選択される、請求項1又は2記載の経口固形製剤。
【請求項4】
前記ベンズイミダゾール化合物が、エソメプラゾールナトリウム塩である、請求項2又は3記載の経口固形製剤。
【請求項5】
前記水溶性ポリマーが、セルロース、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースである、請求項1〜4のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項6】
前記モノステアリン酸グリセリルが、水溶性ポリマーの全重量に対して2重量%〜60重量%の含有量で分離層に存在する、請求項1〜5のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項7】
少なくとも1層の付加層を具える、請求項1〜6のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項8】
2種、3種又は4種の異なるポリエチレングリコールポリマーの混合物を含む付加層を具える、請求項7記載の経口固形製剤。
【請求項9】
前記コアが、不活性ビーズ及び/又はアルカリ性化合物を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項10】
ペレット剤、顆粒剤、錠剤又は小型錠剤である、請求項1〜9のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項11】
水性層形成プロセスを含む、請求項1〜10のいずれか1項記載の経口固形製剤の製造方法。
【請求項12】
医薬品として使用するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の経口固形製剤。
【請求項13】
消化性潰瘍、胃炎、逆流性食道炎、H.ピロリの撲滅、消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍若しくは出血性胃炎によって引き起こされる胃腸出血の抑制、侵襲ストレスによって引き起こされる胃腸出血の抑制、非ステロイド抗炎症薬によって引き起こされる潰瘍、及び術後ストレスによって引き起こされる胃酸過多症若しくは潰瘍からなる群より選択される疾患又は状態の治療及び/又は予防に使用するための、請求項1〜10のいずれか1項記載の経口固形製剤。
【請求項14】
1種以上の医薬上許容される添加剤と1種以上の請求項1〜10のいずれか1項記載の経口固形製剤とを含む、錠剤。
【請求項15】
1種以上の請求項1〜10のいずれか1項記載の経口固形製剤を含む、カプセル剤又はサシェ剤。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2013−510128(P2013−510128A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537407(P2012−537407)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066925
【国際公開番号】WO2011/054930
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512117971)
【氏名又は名称原語表記】LABORATORIOS DEL DR. ESTEVE, S.A.
【Fターム(参考)】