説明

固有光学特性を有する疎水性金属および金属酸化物粒子

【課題】粉末をポリマー母材に組み込んだときに、未処理の親水性ZnOに比べて、改善された光学的透明性を提供する。
【解決手段】金属または金属酸化物、例えばZnOをPIBSAおよび類似の分子と処理して、疎水性の粉末を生じる。化合物が、PIBSA、PIBSA付加化合物、およびPIBSA反応生成物からなる群から選択される少なくとも一の部を含んでなる組成物ならびに、水上に浮かぶポリマー、エマルジョンポリマー、水性ポリマー分散体、水性ポリマーコロイド、および水性ポリマー溶液からなる群から選択される少なくとも一の母材ポリマー部、を含んでなる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイソブテニルこはく酸無水物の使用に関係し、および様々な粒子およびナノ粒子の疎水性を向上させるための化合物に関係する。
【0002】
本発明の主題は同日出願され「ポリイソブテニル含有分散体およびその利用」と題する米国特許出願第11/583,439号、11/524,471号に関係する。これらの特許出願はここで引用により組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
様々な分散剤および表面処理剤が当該技術分野で知られており、例えば米国特許第2003/0032679号、米国特許第2004/0209782号、国際公開WO87/05924号、および米国特許出願第5,266,081号で開示されている。この先行特許および特許出願の開示はここで引用により組み入れられる。
【0004】
ポリマー性材料との適合性および/または分散安定性を得るために、これらの分散剤および表面処理剤は概して比較的高レベルのものを利用する。高レベルの分散剤および表面処理剤は、付着性、耐環境性、光学的透明度、レオロジー、および他の性質についてしばしば逆になる。この技術分野において、これらの問題のない金属酸化物表面を持つ粒子、および/または金属酸化物のマイクロ粒子および/またはナノ粒子の安定な分散体が必要とされており、且つこれらの分散体を調整する方法も必要とされている。
【0005】
有機溶媒における金属および金属酸化物ナノ粒子を含む表面処理、比較的透明で曇りの少ないコーティング、およびバインダーは開発可能であるが、水性媒体における表面処理、透明で曇りの少ないコーティング、およびバインダーは当該産業における課題として残っている。低い光学特性では、水性製品(多くのコーティング、ほとんどの布処理ならびに繊維および非繊維製品のための様々なバインダー)を求める市場に広まるのがかなり遅れる。
【0006】
紫外線に晒すと、結果としてコーティング、プラスチックおよび布で使用される着色剤の光漂白、ポリマーの分解、木の劣化、および不利な効果がもたらされる。多くの産業において、紫外線放射の負の影響を防御することが要求されている。酸化亜鉛は望ましい紫外線吸収特性を有する。しかしながら、>100nmの直径のZnO粒子を含む組成物は不透明の白である。ほとんどの用途において不透明は受け入れられない。さらに、水中でのZnOの高い反応性および溶解性は結果として多くの水性処方において綿状沈殿(flocculation)をもたらす。
【0007】
【特許文献1】米国特許第2003/0032679号
【特許文献2】米国特許第2004/0209782号
【特許文献3】国際公開WO87/05924号
【特許文献4】米国特許出願第5,266,081号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属または金属酸化物例えばZnOを、ポリイソブテニルこはく酸無水物および類似の分子で処理して疎水性粉末を生じることによって、従来の亜鉛酸化物粒子を含有する系に関する問題を解決する。結果物の疎水性粉末は、ポリマー母材に組み込んだときに、標準的な未処理の親水性ZnOで得られるものに比べて、光学的透明度を増すことができる。結果物の疎水性粉末は、水性ポリマー処方における分散安定性を改善することもできる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、表面処理した金属または金属酸化物粒子を含む組成物に関係する。該組成物は:
(a)該粒子の総質量を基準として、約0.1質量%〜約50質量%の、以下の化学式を有する少なくとも一つの表面処理剤
【化1】

ここでXは1〜1000の値を有し、
該分子の反応生成物は例えば以下の化学式を有し、
【化2】

および
【化3】

(b)該分散体の総質量を基準として、約1質量%〜約90質量%の、粒子であって、該粒子は金属および金属酸化物粒子、金属または金属酸化物の表面を有する粒子、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも一の部(member)を含む粒子(例えば、約1nm〜約2000nmの粒子サイズを有する粒子)、
を含む。
【0010】
本発明の分散体は任意の好適な方法、例えばボールミル、攪拌ビーズミル、ホモジナイザー、ロールミル、および超音波バス、によって調製可能である。
【0011】
本発明の分散剤は広い範囲の金属酸化物ナノ粒子を分散するために使用可能であり、特に亜鉛、ジルコニウム、セリウム、チタン、アルミニウム、インジウム、およびスズのものならびにこれらの混合物の粒子は重要な商業用途を有するナノ粒子の実例となる。ナノジルコニア、セリアおよびアルミナは引っ掻き抵抗性のあるコーティングおよび伝熱流体に有用である。加えて、アルミニウム酸化物の薄い層で不動態化したアルミニウム金属ナノ粒子は活発な(energetic)材料の開発において有用である。インジウムスズ酸化物(ITO)ナノ粒子は、クリアな導電コーティング、熱マネージメント層、および静電荷の散逸での用途を有する。酸化亜鉛およびチタニアは、サンスクリーン、布およびコーティングを含むUVブロック用途で有用である。金属酸化物ナノ粒子および/または金属酸化物表面を有するナノ粒子の他の用途は、例えば磁性材料、不均一系触媒、トナー組成物、およびセラミックスを含む。
【0012】
分散体マスタ・バッチまたは完全に処方された組成物で使用するのと同じくらい簡単に、ナノ粒子および/またはマイクロ粒子を供給するために、この粒子が様々な液体およびポリマー性母材で分散されることが望まれる。この分散体の質はその意図された使用に見合ったものであるべきである。例えば、多くの用途例えばあるインクおよびコーティングにおいて、色の存在は望ましくない。加えて、この分散体は概して安定であり、そのため使用の直前に調製する必要はなく、調製後は貯蔵が可能である。処方された組成物の用途に応じて、本発明の組成物は、この処方された組成物の成分の約0.5〜約90質量%を構成することができる。
【0013】
本発明の一態様は、ラテックス含有処方(例えばラテックスポリマー性母材)で使用するための分散体に関係する。水性ナノ粒子分散体をラテックスと処方することは、ラテックスと混合したときにナノ粒子分散体が綿状沈殿する傾向があるので、不可能でないとしても、困難である場合がある。これは結果として、大きな粘性の増加またはゲル化をもたらす。さらに、比較的大きな綿状沈殿物または結果物の凝集した粒子は、もはや元のナノ粒子の特性は有さない。最も注目すべきことは、乾燥したフィルムにおいて光学的透明性が概して失われることである。従来の粒子と対照的に、本発明による粒子表面の処理によって典型的な親水性の粒子表面を比較的疎水性の表面に変える。これらの疎水性粒子の水性分散体は綿状沈殿物を生じることなくラテックスと処方可能である。この疎水性表面はまたこの乾燥したフィルムにおいてこのポリマーとの適合性も高い。この組み合わせ効果は安定した処方であり、これは透明度を改善した乾燥フィルムをもたらす。
【0014】
本発明の一態様において、ポリイソブテニルこはく酸無水物(PIBSA)でのZnOナノ粒子の表面改質は、比較的透明で且つ曇りの少ないフィルムをもたらすための、水中で分散されることができ且つ容易に水性コーティング、バインダーおよび他の表面処理に組み込むことができる疎水性粒子を生じる。疎水性ZnOの水性分散体が、例えば少なくとも一のラテックスポリマーまたは水溶性ポリマーと処方可能である。加えて、疎水性ZnOの良好な水性分散体からできたフィルム成形品は比較的透明であり且つ曇りが少ない。この乾燥したフィルムはZnOが約85質量%であり、残りが分散剤であることを考えると、この結果は驚くべきものである。
【0015】
必要に応じて、本発明は従来の表面処理、例えば少なくとも一の長鎖アルキルシラン(例えばオクタデシル(トリメトキシ)シラン)、または少なくとも一の脂肪酸(例えばステアリン酸)と組み合わせることが可能である。任意の理論または説明と結びつけられることは望まないが、ステアリン酸またはオクタデシル基に対してPIBSAの分子量が大きいこと、および非常に分枝化された構造が、本発明によって得られた改善結果に寄与したと考える。
【0016】
粒子に疎水性を組み込むまたは増加させる機能を果たすPIBSA型化合物を使用することが強調されるが、この機能を有する任意の好適な化合物が利用可能である。
【0017】
以下の例は、本発明の或る態様を説明するために提供されるが、添付される特許請求の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0018】
以下の例を実施するために以下の材料を使用した。
材料:
酸化亜鉛−30nm 酸化亜鉛
ポリイソブテニルこはく酸無水物(PIBSA)−Glissopol SA, BASF
Oronite OL 375−ポリアミンを伴うPIBSAの付加化合物,Chevron
Oronite OL 11000−ポリアミンを伴うPIBSAの付加化合物,Chevron
Chemccinate 1000AF−グリセリンを伴うPIBSAの付加化合物,Lubrizol
Chemccinate 2000−トリエタノールアミンを伴うPIBSAの付加化合物,Lubrizol
Nano ZnO S44Z−30nmZnOの水性分散体,Air Products
Tego Dispers 752W−グラフトポリマー分散剤,Degussa
Polystep B-27−エトキシル化したノニルフェノール界面活性剤,Stepan Corp.
Neoprene 842A−ポリクロロプレンラテックス, Du Pont
Hybridur 570−ウレタン−アクリルポリマー分散体,Air Products
Nanocryl S−アクリルラテックス,Micronisers Ltd.
Joncryl 77−アクリルラテックス,S.E. Johnson。
【0019】
PIBSAでのZnO処理の標準的な手順
10グラムのPIBSAを200グラムのトルエンに溶かした。磁気攪拌プレートで混合しながら、90グラムのZnOナノ粉末を該PIBSA溶液に加えた。このスラリーは2時間攪拌させておいた。処理したZnOを、濾過してトルエンで洗浄、またはデカンテーションしてトルエンで洗浄することによって、分離した。それから処理したZnOを乾燥させておいた。あるいは、濾過またはデカンテーションをせずに、スラリーからトルエンを気化させてもよく、そして処理したZnOを得た。
【0020】
水中での疎水性ZnOの分散体のための標準的な手順
10グラムのTego Dispers 752Wおよび4.1グラムのPolystep B-27を204グラムの水に溶かした。51グラムの疎水性ZnOをこの分散剤溶液に加えた。このスラリーを均一な濃度になるまで高せん断アジテーターで混合した。それからこのプレ分散体を後Netzsch MinCerを用いて2500〜3000rpmで160分間製粉(ミル)し、最終的な水性疎水性ZnO分散体とした。
【0021】
例および考察
例1から9では、ZnOをPIBSAまたは改質PIBSAで処理して疎水性粒子とし、これは2.3〜9.5質量%の結合したPIBSAまたは改質PIBSAを含む。これらの疎水性ZnO試料は水には濡れず、水の表面に浮かぶ。出発原料の未処理ZnO粉末は容易に濡れて水に沈んだ。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
例1および2の疎水性粉末は水に分散して、それぞれ例10および11を生じさせた。未処理のZnOを同様のやり方で分散させた(例12)。三つの分散体は全て<100cpsの粘度を有するが、立った状態では安定せず、直径60〜64nmの範囲の粒子で構成されていた。
【0025】
【表3】

【0026】
ZnO分散体とラテックスとの配合物を、磁気攪拌プレートを使用してこれらの成分を混合することによって調製した。この配合物を1.5ミル(mil)の(湿潤)引き落とし(drawdown)バーを用いて、水晶プレートに被覆(コート)させた。この湿潤コーティングを室温で一晩乾燥させておき、0.6ミルの乾燥フィルムを得た。各フィルムの紫外線および可視光の透過率を測定し、そして曇りの値を計算した。二つの異なる波長、紫外線領域の300nmおよび可視光領域の450nmでの、データを示した。
【0027】
例13から16では、例10のZnO分散体と市販のナノZnO分散体Nano ZnO S44Zとを、二つのラテックスHybridur 570またはNanocryl Sの配合物にして、比較した。2以上の曇り値であれば、人間の眼で容易に認識できる。曇りレベルは1.5であるべきであり、またはより低い値が良好な光学的特性にとって好ましい。例13から16は、例10の疎水性ZnO分散体がこれらのラテックス配合物中で市販のZnO分散体よりもずっと低い曇り値をもたらすことを示す。この疎水性ZnO分散体はまた非常に良好な紫外線領域のブロックと優れた可視光領域での透明性も提供する。
【0028】
【表4】

【0029】
例17〜22は、例11からできた疎水性ZnO分散体とHybridur 570またはNanocryl Sとの配合物で、ZnOレベルが5、7.5および10質量%のものの光学的特性を示す。これらの例の全てで、曇りが少なく、良好な紫外線領域の吸収および良好な可視光での透明性をもたらした。
【0030】
【表5】

【0031】
例23では、例11からできた良好な疎水性ZnO分散体を水晶プレートに被覆(コート)し、および乾燥させた。乾燥したコーティングは85質量%のZnOを含み、残りはPIBSAおよび分散剤であった。ZnO装填量が非常に高いにも関わらず、このフィルムは非常に曇りが少なく、完全に紫外線をブロックし、および素晴らしい可視光での透明性をもたらした。
【0032】
【表6】

【0033】
優れた光学的特性に加えて、本発明はまたラテックス配合物中で未処理のZnOよりもかなり良好な安定性も提供する。ZnOは、特にpH値が8未満で、比較的水に溶ける。溶解したZn++カチオンはほとんどのラテックスを綿状に凝縮させる。例24から27は、例11の疎水性ZnO分散体を例12の未処理ZnOの分散体と比較する。Neoprene 842AラテックスまたはJoncryl 77ラテックスと処方したときに、例11の疎水性ZnO分散体の安定性は、例12の未処理ZnOの分散体の安定性よりも優れていた。
【0034】
【表7】

【0035】
水でのZnOの溶解性は、水中の水性ZnOスラリーのpHを測定して評価できる。ZnOへの疎水性PIBSA処理の存在が、ZnO表面を不動態化しおよび水溶性を低下させる。例28から30は、ZnO表面へのPIBSAのレベルが増すと、水性ZnOスラリーのpHが低下することを示す。
【0036】
【表8】

【0037】
本発明は特定の特徴または実施態様を参照して説明されたが、他の実施態様が当業者には明らかであり、および特許請求の範囲には含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子および、該粒子の疎水性を増加させるのに十分な量の少なくとも一の化合物を含んでなる組成物。
【請求項2】
前記化合物が、PIBSA、PIBSA付加化合物、およびPIBSA反応生成物からなる群から選択される少なくとも一の部を含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記PIBSAが、
【化1】

【化2】

および
【化3】

からなる群から選択される少なくとも一の部を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項2に記載の組成物、ならびに、
水上に浮かぶポリマー、エマルジョンポリマー、水性ポリマー分散体、水性ポリマーコロイド、および水性ポリマー溶液からなる群から選択される少なくとも一の母材ポリマー部、を含んでなる組成物。
【請求項5】
前記水上に浮かぶポリマーが、ウレタン、アクリル、スチレン−アクリル、シロキサン、酢酸ビニル、エチレンおよび塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも一の部を含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の組成物を基材に適用することによって得た、コーティングまたはフィルム。
【請求項7】
前記粒子が酸化亜鉛ナノ粒子を含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項8】
シランおよび脂肪酸からなる群から選択される少なくとも一の部をさらに含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項9】
Xは1〜1000の値である、請求項3に記載の組成物。
【請求項10】
前記化合物が少なくとも一のPIBSA付加化合物を含み、および前記粒子が酸化亜鉛ナノ粒子を含んでなる、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記化合物が少なくとも一のPIBSA付加化合物を含み、前記粒子が酸化亜鉛ナノ粒子を含み、および前記水上に浮かぶポリマーが少なくとも一のウレタン−アクリルポリマーを含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
前記化合物が少なくとも一のPIBSA付加化合物を含み、前記粒子が酸化亜鉛ナノ粒子を含み、および前記水上に浮かぶポリマーが少なくとも一のラテックスを含んでなる、請求項4に記載の組成物。
【請求項13】
前記ラテックスがポリクロロプレンラテックスを含んでなる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
ポリアミン、グリセリン、およびトリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも一の部をさらに含んでなる、請求項10に記載の組成物。

【公開番号】特開2008−223009(P2008−223009A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−19679(P2008−19679)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】