説明

土壌病害診断方法

【課題】 農作物の作付け前に土壌を診断し、寄生性線虫による土壌病害を未然に防ぎ、農家が安心して農作物を作れる土壌作りのための土壌診断方法を提供する。
【解決手段】 土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAをPCR法により増幅させ、電気泳動させることによって、前記土壌中における寄生性線虫の存否を確認することにより土壌病害を診断する。もしくは土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAを定量PCR法により増幅させ、電気泳動させることによって、前記土壌中における全線虫数に対する寄生性線虫の割合を確認することにより土壌病害を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に植物寄生性線虫による土壌病害を、当該線虫のDNAバンドを確認することによって診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物の育成において、土壌中のカビや線虫に作物が感染することによって発病する病害である土壌病害が問題となっている。しかしながら、土壌中には、多様な線虫が存在しており、全ての線虫が土壌病害を引き起こすわけではない。
【0003】
土壌中に存在する線虫は、植物に有益な自活性線虫と、植物に有害な寄生性線虫とに大別される。
前記自活性線虫としては、原生動物や線虫等を捕食する捕食性線虫、落ち葉等を分解する腐生性線虫が挙げられ、これらの自活性線虫は、農作物にとって有益なものである。
これに対し、前記寄生性線虫は、農作物の根などに寄生し、農作物を枯らしたり、農作物の商品価値を低下させる等の土壌病害を引き起こす線虫である。日本では、三大寄生性線虫と呼ばれるネコブセンチュウ類、シストセンチュウ類、ネグサレセンチュウ類が、特に大きな被害をもたらしており、問題となっている。
【0004】
そこで、前記寄生性線虫を駆除する目的で、種々の土壌燻蒸剤が用いられている。しかしながら、前記土壌燻蒸剤は、前記寄生性線虫のみを選択的に駆除できるわけではないため、土壌燻蒸剤の使用により、農作物の生育に有益な前記自活性線虫を含む種々の微生物をも駆除してしまうという問題がある。
【0005】
そのため、前記土壌燻蒸剤の使用は、最小限度に抑えるのが望ましい。
しかしながら、前記寄生性線虫の存在の確認には、光学顕微鏡等で線虫の口頭部や口針の形状の違いを見分けるといった専門的知識と熟練した技術とが必要である。このため、一般の農家の人が予め前記寄生性線虫の存在を確認することは困難であり、農作物に被害が発生して初めて寄生性線虫の存在を知るという問題がある。
【0006】
また、線虫を同定する方法として、特定の線虫に特異的に付着する天敵細菌を用いる方法が提案されている(特許文献1参照)。
上記方法は、特定種の線虫の同定には効果があるが、土壌病害を引き起こす寄生性線虫は複数種にわたっているため、各寄生性線虫を種類別に同定するには、膨大な時間がかかる。
【0007】
【特許文献1】特開平8−173150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決すべくなされたものであり、農作物の作付け前に土壌を診断し、寄生性線虫による土壌病害を未然に防ぎ、農家が安心して農作物を作れる土壌作りのための土壌診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、具体的には、以下に示す構成を有する。
(1)土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAをPCR法により増幅させ、電気泳動させることにより分離するDNAバンドの存在の有無によって、前記土壌中における寄生性線虫の存否を確認することを特徴とする土壌病害診断方法である。
(2)土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAを定量PCR法により増幅させ、電気泳動させることにより分離するDNAバンドの検出強度によって、前記土壌中における全線虫数に対する寄生性線虫の割合を確認することを特徴とする土壌病害診断方法である。
(3)前記(1),(2)の診断方法において、線虫の分離は、ベルマン法と二層遠心浮遊法とにより行ってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、農作物の作付け前に土壌を診断することができるため、寄生性線虫による土壌病害を未然に防ぐことができる。
また、本発明の方法によれば、農家が安心して農作物を作れる土壌作りの手助けをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(線虫の分離)
線虫の分離方法には、ベルマン法と二層遠心浮遊法とがある。
【0012】
前記ベルマン法は、日本で最も広く使用されている線虫の分離方法であり、線虫が土壌中から水中へと自らの活動性により移動する性質を利用したものである。
前記ベルマン法による線虫の分離は、以下のようにして行われる。
図1に示すように、ガラス漏斗14の上に網皿13を設置し、当該網皿13上に和紙12を敷く。当該和紙12の上に、診断すべき農地から採取した土壌サンプル11を載置する。 一方において、前記ガラス漏斗14の下端外側を覆うようにゴムチューブ15を取り付け、当該ゴムチューブ15が取り付けられた当該ガラス漏斗14の下端部を、当該ガラス漏斗14の下側に設置したガラス瓶16に差し込むことによって、当該ガラス瓶16と前記ガラス漏斗14とを上下方向に接続させる。
前記土壌サンプル11の上方から注水し、放置すると、和紙12からの水の染み出しに伴って、線虫17が和紙12を通り抜け、ガラス漏斗14上に落ち、ガラス瓶16に集められる。
【0013】
前記二層遠心浮遊法は、線虫と土壌粒子とを密度の差により分離する方法であり、一般的にベルマン法よりも分離率の高い方法である。
前記二層遠心浮遊法は、具体的には、図2に示すようにして行われる。
まず、(a)土壌サンプル11を遠心管21に入れ、(b)前記土壌サンプル11の上からピペット25を用いて注水し、水層22を形成させ、(c)ガラス棒26で撹拌し、(d)ピペット25を用いて、前記水層22の下層に比重液を注入し、比重液層23を形成させ、遠心処理する。(e)これにより、比較的密度の高い土壌粒子は沈殿して土壌粒子層24を形成し、比較的密度の低い線虫を水層22と比重液層23との界面付近に分離することができる。
(f)前記水層22及び比重液層23を、100メッシュのふるい27と500メッシュのふるい28とを重ねたものに通すことによって、線虫を分離することができる。この際、線虫は500メッシュのふるい28上に残るので、この線虫を瓶29に回収する。(g)前記(f)で500メッシュのふるい28を通過した液体をさらに500メッシュのふるい28に通すことによって、前記(f)で回収できなかった線虫を上記の瓶29に回収する。
【0014】
本発明においては、線虫の分離に際して、上述したベルマン法や二層遠心浮遊法を単独で使用してもよいが、両者を併用することが望ましい。すなわち、ベルマン法により線虫を分離し、和紙12上に残った土壌サンプル11をさらに二層遠心浮遊法を用いて分離することによって、線虫の活動性等に依存することなく、線虫を容易に分離することができる。
上述した方法により得られた線虫は、洗浄することが好ましい。好ましい洗浄方法としては、2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用いてデカントする方法が挙げられる。
【0015】
(DNAの増幅)
上述した分離方法により分離した線虫を、ビーズ破砕法により破壊し、DNAを抽出した後にPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)により線虫のDNAを増幅させる。
PCR法の条件としては、一般的な条件が使用でき、特に制限はされないが、例えば、10mMのTris−HCl緩衝液(pH8.0)、1.5mMの塩化マグネシウム、0.1%のコール酸ナトリウム、0.1%のTriton X−100、0.2μMのプライマー、抽出したDNA、耐熱性DNAポリメラーゼなどを混合して反応液とし、94℃で1分、55℃で2分、72℃で3分を1サイクルとして30サイクル行うことによりDNAが増幅される。
【0016】
寄生性線虫の存在の有無のみを診断する場合には、通常のPCR法によりDNAを増幅させて診断することにより土壌を診断することができる。
しかしながら、通常のPCR法では、DNAの配列によって、増幅される度合いがことなるため、線虫の全量に対する寄生性線虫の割合を診断する場合には、定量PCR法を用いる必要がある。
定量PCR法は、リアルタイムPCR法とも呼ばれ、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を用いて、PCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングしながら行われる方法である。
定量PCR法では、インターカレーター法やプローブ法などのいくつかの検出方法が用いられるが、本発明では、PCR反応によって合成された二本鎖DNAに蛍光物質を結合させ、当該蛍光物質に励起光を照射することにより蛍光を発させて、当該蛍光の強度を検出するインターカレーター法が好ましく用いられる。定量PCRでは、濃度既知の標準サンプルを用いて検量線を作成し、濃度のサンプルの定量が行われる。
【0017】
(土壌の診断)
・寄生性線虫の存在の確認
上述したDNAの増幅により得られたDNAサンプルと、予め寄生性線虫を含む線虫のDNAを混合した標準サンプルとを同時に電気泳動させる。
電気泳動させた後、染色し、ゲルに紫外線を当てて、両サンプルのバンドを比較することにより、寄生性線虫の存在の有無を確認することができる。
上記電気泳動法として、ポリアクリルアミドゲルを用いたDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法を用いた場合には、寄生性線虫のDNAバンドは、より陽極側に集中するため、陽極側のDNAバンドの有無を確認することにより寄生性線虫の存在の確認が行えるため、他の電気泳動法を用いた場合よりも容易に土壌診断を行うことができる。
・線虫の全量に対する寄生性線虫の割合の診断
線虫の全量に対する寄生性線虫の割合を診断する場合には、目的とするDNAサンプルを鋳型にして定量PCRを行い、その蛍光強度の増加パターンを測定する。この測定した蛍光強度と、予め作成しておいた蛍光強度とDNA濃度、つまり線虫数との関係を示す表とを照合することにより、各サンプル中の線虫数を計測することができる。
【実施例】
【0018】
(線虫サンプル1)(ベルマン法のみによる線虫分離)
ネコブセンチュウの被害が出たエダマメ圃場から土壌サンプルを採取し、ベルマン法を用いて、注水後48時間放置し、線虫を分離回収した。
【0019】
(線虫サンプル2)(二層遠心浮遊法のみによる線虫分離)
線虫サンプル1を採取した土壌と同じ土壌サンプルを同量遠心管に入れて、注水し、撹拌して分散させ水層を形成させた。前記水層の下層に、比重液として50%ショ糖液85mlを入れて比重液層を形成させた。その後、前記遠心管を5分間500rpmの遠心処理にかけた。遠心処理後の水層と比重液層とを100メッシュのふるいと500メッシュのふるいとを重ねたふるいに通し、500メッシュのふるい上に残った線虫を回収した。また、前記500メッシュのふるいを通過した液を再度500メッシュのふるいに通し、ふるい上に残った線虫を回収した。
【0020】
(線虫サンプル3)(ベルマン法と二層遠心浮遊法との併用による線虫分離)
線虫サンプル1と同様のベルマン法で線虫を回収するとともに、和紙の上に残った土壌サンプルを250mlの遠心管に入れて、注水し、撹拌して分散させ水層を形成させた。前記水層の下層に、比重液として50%ショ糖液85mlを入れて比重液層を形成させた。その後、前記遠心管を5分間500rpmの遠心処理にかけた。遠心処理後の水層と比重液層とを100メッシュのふるいと500メッシュのふるいとを重ねたふるいに通し、500メッシュのふるい上に残った線虫を回収した。また、前記500メッシュのふるいを通過した液を再度500メッシュのふるいに通し、ふるい上に残った線虫を回収し、上記のベルマン法で回収した線虫と一緒にした。
【0021】
(線虫分離法の比較)
線虫サンプル1と線虫サンプル2と線虫サンプル3との土壌サンプル10gから分離できた線虫の個体数を比較すると、線虫サンプル1:線虫サンプル2:線虫サンプル3の比は、100:60:135であった。
これにより、ベルマン法と二層遠心浮遊法とを併用することによって、より確実に土壌サンプル中の線虫を分離できることが分かった。
【0022】
(線虫サンプル4)
土壌サンプルとして、ネコブセンチュウによる被害圃場の土を用いた以外は、線虫サンプル3と同様にベルマン法と二層遠心浮遊法とを併用して線虫を分離回収した。
(線虫サンプル5)
土壌サンプルとして、罹病植物根を用いた以外は、線虫サンプル3と同様にベルマン法と二層遠心浮遊法とを併用して線虫を分離回収した。
【0023】
上記の各線虫サンプルをビーズ破砕法で破壊し、DNAを抽出して、PCR法により増幅し、DNAサンプルとした。
増幅した各DNAサンプルをポリアクリルアミドゲルを用いたDGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法により、60℃、16時間、75Vで電気泳動した。
【0024】
上記で電気泳動したポリアクリルアミドゲルを蛍光色素サイバーグリーンで染色し、紫外線を当ててバンドを検出し、寄生性線虫の存在の有無を確認した。結果を図3に示す。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の土壌評価方法は、農作物の作付け前に土壌を診断し、寄生性線虫による土壌病害を未然に防ぎ、農家が安心して農作物を作れる土壌作りのための土壌診断方法として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ベルマン法に用いる一般的な装置を説明するための図である。
【図2】二層遠心浮遊法の方法のフローを説明するための図である。
【図3】本発明の実施例の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
11 土壌サンプル
12 和紙
13 網皿
14 ガラス漏斗
15 ゴムチューブ
16 ガラス瓶
17 線虫
21 遠心管
22 水層
23 比重液層
24 土壌粒子
25 ピペット
26 ガラス棒
27 100メッシュのふるい
28 500メッシュのふるい
29 線虫

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAをPCR法により増幅させ、電気泳動させることにより分離するDNAバンドの存在の有無によって、前記土壌中における寄生性線虫の存否を確認することを特徴とする土壌病害診断方法。
【請求項2】
線虫の分離が、ベルマン法と二層遠心浮遊法とにより行われることを特徴とする請求項1に記載の土壌病害診断方法。
【請求項3】
土壌から線虫を分離し、当該線虫のDNAを定量PCR法により増幅させ、電気泳動させることにより分離するDNAバンドの検出強度によって、前記土壌中における全線虫数に対する寄生性線虫の割合を確認することを特徴とする土壌病害診断方法。
【請求項4】
線虫の分離が、ベルマン法と二層遠心浮遊法とにより行われることを特徴とする請求項3に記載の土壌病害診断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−74905(P2007−74905A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262798(P2005−262798)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(393005141)デザイナーフーズ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】