説明

土留め壁の漏水処理工法

【課題】低コストで施工性に優れ、しかも漏水が躯体内に浸透しないように工夫した、土留め壁の漏水処理工法を提供すること。
【解決手段】本発明の土留め壁の漏水処理工法は、H鋼からなる親杭1を一定間隔で地中に打ち込み、隣り合う親杭間1,1に木製の横矢板2を順次差し渡して土留め壁Dを施工する工程と、土留め壁Dの下部に沿って排水溝3を施工する工程と、土留め壁Dの上端から土留め壁の前面を覆う防水シート5を施工する工程と、を有する。防水シート5は、土留め壁Dからの漏水が防水シート5の内面に沿って排水溝5へ導かれるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建築構造物などを構築する場合に必要とされる土留め壁の漏水処理工法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築構造物のように、地下構造を有する構造物の施工では、その地中躯体を構築する前に、土留め壁(山留め壁)の施工を行う場合が多い。この土留め壁の施工方法としては、従来から、横矢板工法、シートパイル工法、ソイルセメント柱列壁工法などが知られている(特許文献1)。
【0003】
横矢板工法は、H鋼からなる親杭を一定間隔で地中に打ち込み、地下空間を掘削するにしたがい、地表から順次、木製の横矢板を隣り合う親杭間に隙間無く差し渡すことで、周辺土壌が崩れ落ちるのを防止する工法である。
【0004】
この横矢板工法は、木製の横矢板を積み上げる構成であるため、施工性が良く、低コストで施工できる利点がある。しかし、例えばソイルセメント柱列壁工法などに比べて、止水機能に劣る弱点がある。そのため、地下水や雨水の状況によっては、例えば埋め殺し横矢板部等において漏水対策が必要となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−111754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなH鋼横矢板工法による土留め壁では、上記のように埋め殺し横矢板部等における漏水対策として、その漏水部に市販の厚さ0.2mm程度のビニルシートを張設する対策も考えられていた。しかし、ビニルシートが土留め壁に直接触れたり擦れたりするために、ビニルシートが直ぐに破損して、そこから躯体内に漏水が浸透する問題があった。
【0007】
特許文献1には、止水壁に鋼製止水パネルや補強シートを内包させたり、木製横矢板の壁を併設したりすることにより止水壁を補強する技術が記載されている。しかし、このような漏水対策は、施工性やコストの点で採用しにくいという問題がある。
【0008】
よって、本発明は、低コストで施工性に優れ、しかも漏水が躯体内に浸透しないように工夫した、土留め壁の漏水処理工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の土留め壁の漏水処理工法は、
H鋼からなる親杭を一定間隔で地中に打ち込み、隣り合う親杭間に木製の横矢板を順次差し渡して土留め壁を施工する工程と、
前記土留め壁の下部に沿って排水溝を施工する工程と、
内面に不織布を設けた防水シートを用いて、前記土留め壁の前面を覆う防水シート施工工程と、を有し、
前記防水シートは、前記土留め壁からの漏水が防水シートの内面に沿って前記排水溝へ導かれるように配置することを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、土留め壁の下部に沿って排水溝を施工する工程と、土留め壁の前面を防水シートによって覆う工程とを行い、防水シートは、土留め壁からの漏水が防水シートの内面に沿って排水溝へ導かれるように配置するので、漏水を躯体内に浸透させないようにすることができる。しかも、土留め壁の下部に沿って排水溝を施工し、防水シートを設ける簡易な工法で済むため、低コストで施工性に優れた防水処理工法が得られる。
【0011】
本発明では、前記土留め壁の上部に前記防水シートの上端部分を固定し、前記排水溝の両側の壁面のうち、前記土留め壁から離れた位置にある壁面の上部に、前記防水シートの下端部分を配置することが望ましい。その際、前記防水シートの下端部分に、前記排水構内において排水溝の上面よりも低い位置まで垂下する湾曲部を形成することが更に望ましい。このようにすれば、防水シートの内面を伝って流れる漏水を排水構内に更に確実に導くことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低コストで施工性に優れ、しかも漏水が躯体内に浸透しないように工夫した、土留め壁の漏水処理工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る土留め壁の漏水処理工法を説明する横矢板工法による土留め壁の一部切り欠き概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る土留め壁の漏水処理工法を示す概略側断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る土留め壁の漏水処理工法を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図3を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る土留め壁の防水処理工法において、防水シートを設ける前の一部切り欠き概略斜視図である。
【0015】
本実施形態に係る土留め壁の防水処理工法においても、H鋼からなる複数の親杭1を一定間隔で地中Gに打ち込み、地下空間Aを掘削するにしたがい、地表から順次、木製の横矢板2を隣り合う親杭1,1間に隙間無く差し渡すことで、周辺土壌が崩れ落ちるのを防止する土留め壁Dを施工する工程を行う。
【0016】
次いで、土留め壁Dの下部に沿って排水溝3を施工する工程を行う。この工程では、掘削した地下空間Aの地盤上に施工する躯体用のコンクリート4(均しコンクリートや基礎砕石)を施工するときに排水溝3も一緒に施工しておくことが望ましいが、単独に施工しても良い。この排水溝3は、土留め壁Dからの漏水αの量にもよるが、溝深さ溝幅共に20cm以下でも充分な場合が多い。図1において、漏水αは地下や雨水βによる場合を例示している。
【0017】
次に、内面に不織布を設けた防水シート5を用いて、土留め壁Dの上面から前面を覆う防水シート施工工程を行う。この防水シート5の施工に際しては、図2又は図3に示すように、土留め壁Dからの漏水αが防水シート5の内面に沿って排水溝3へ導かれるように配置する。
【0018】
なお、図2に示す例では、土留め壁Dの上部に防水シート5の上端部分5aを固定し、排水溝3の両側の壁面3a、3bのうち、土留め壁Dから離れた位置にある壁面3aの上部(コンクリート4上)に、防水シート5の下端部分5bを配置している。このように配置することで、土留め壁Dの表面から飛び出す形態の漏水や防水シート5の内面を伝って流れる漏水を排水構内に容易に導くことができるからである。
【0019】
その際、図3に示すように、防水シート5の下端部分5bに、排水構3内において排水溝3の上面よりも低い位置まで垂下する湾曲部5cを形成することが特に望ましい。このようにすれば、防水シート5の内面を伝って流れる漏水を排水構3内に更に確実に導くことができる。即ち、この湾曲部5cが存在しない場合、防水シート5の内面を伝って流れる漏水はコンクリート4上に流れ出す。しかし、湾曲部5cの最下部はコンクリート4の表面よりも低い位置にあるため、そこから排水溝3へと落下する。
なお、防水シート5が風によって煽られる恐れがある場合には、図2に示すように、重り6、アンカー7を用いた押さえロープ8を使用することが望ましい。
【0020】
本実施の形態によれば、土留め壁Dの下部に沿って排水溝3を施工する工程と、土留め壁Dの前面を防水シート5によって覆う工程とを行い、防水シート5は、土留め壁Dからの漏水が防水シート5の内面に沿って排水溝3へ導かれるように配置するので、漏水を躯体内に浸透させないようにすることができる。しかも、土留め壁Dの下部に沿って排水溝3を施工し、防水シート5を設ける簡易な工法で済むため、低コストで施工性に優れた防水処理工法とすることができる。
【0021】
なお、防水シート5としては、例えばトンネル内面の防水シートとして用いられる、シーアイ化成株式会社製のNATMシート(商品名)を用いることができる。本実施形態においては、裏面緩衝材としての不織布(3.0mm)を有するシート本体(0.8mm)で形成されるNATMシートを用いた。
【0022】
この防水シート5を用いた場合、ロックピンなどを使用して土留め壁に取り付けることも容易である他、次のような利点が得られる。
(a)裏面の不織布によりシート本体が直接、土留め壁に接触しないため、シート本体の損傷がない。
(b)コンクリート4の表面と土留め壁Dの面とが分離されるため、躯体コンクリートへ土留め壁Dの変位等の悪影響を与えない。
(c)材料が安価で、調達が容易である。
(d)土留め壁Dの寸法にて工場加工することにより、シート接地施工が容易である(施工性が良い)。
【符号の説明】
【0023】
1 親杭(H鋼)
2 横矢板
3 排水溝
3a、3b 壁面
4 コンクリート
5 防水シート
5a 上端部分
5b 下端部分
5c 湾曲部
6 重り
7 アンカー
8 押さえロープ
A 地下空間
D 土留め壁
G 地盤(地中)
α 漏水
β 地下水や雨水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H鋼からなる親杭を一定間隔で地中に打ち込み、隣り合う親杭間に木製の横矢板を順次差し渡して土留め壁を施工する工程と、
前記土留め壁の下部に沿って排水溝を施工する工程と、
内面に不織布を設けた防水シートを用いて、前記土留め壁の前面を覆う防水シート施工工程と、を有し、
前記防水シートは、前記土留め壁からの漏水が防水シートの内面に沿って前記排水溝へ導かれるように配置することを特徴とする、土留め壁の漏水処理工法。
【請求項2】
前記土留め壁の上部に前記防水シートの上端部分を固定し、前記排水溝の両側の壁面のうち、前記土留め壁から離れた位置にある壁面の上部に、前記防水シートの下端部分を配置することを特徴とする、請求項1に記載の土留め壁の漏水処理工法。
【請求項3】
前記防水シートの下端部分に、前記排水構内において排水溝の上面よりも低い位置まで垂下する湾曲部を形成したことを特徴とする、請求項2に記載の土留め壁の漏水処理工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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