土留め擁壁
【課題】柱材間に壁面材を掛け渡す土留め擁壁において、柱体の間隔を広くした場合に容易に対応可能にする。
【解決手段】筒状柱材4を間隔をあけて設置し、隣接する筒状柱材4間に壁面材7を掛け渡し、前記筒状柱材4の内部に中詰め材5を充填して柱体6を構成し、前記壁面材7及び柱体6と法面2との間に土砂を裏込めしてなる土留め擁壁1であって、壁面材7を、筒状柱材4間に多数のフラットバー7aを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成する。壁面材としてフラットバーを用いるので、長さの制約はなく、柱体6の間隔が広い場合でも容易に対応できる。また、フラットバー7a間の隙間を利用して植生ポットを配置することができ、土留め擁壁の緑化が容易である。
【解決手段】筒状柱材4を間隔をあけて設置し、隣接する筒状柱材4間に壁面材7を掛け渡し、前記筒状柱材4の内部に中詰め材5を充填して柱体6を構成し、前記壁面材7及び柱体6と法面2との間に土砂を裏込めしてなる土留め擁壁1であって、壁面材7を、筒状柱材4間に多数のフラットバー7aを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成する。壁面材としてフラットバーを用いるので、長さの制約はなく、柱体6の間隔が広い場合でも容易に対応できる。また、フラットバー7a間の隙間を利用して植生ポットを配置することができ、土留め擁壁の緑化が容易である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、法面の崩壊を防ぐ土留め擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
法面の崩壊を防ぐ土留め擁壁として、コンクリート製の土留め擁壁が広く採用されている。コンクリート製の土留め擁壁には、現地で型枠を組んでコンクリートを打設する施工法と、予め工場で製作したコンクリート擁壁部材を現地に搬入して組み立てる施工法とがある。前者の施工法では作業が繁雑で、工期も長くかかり、型枠工等の技能工を必要とする欠点があり、後者の施工法では、コンクリート擁壁部材の重量が大なので、これを現地に搬入するのが容易でなく、また施工時に大型の重機を必要とする欠点がある。
【0003】
上記のようなコンクリート土留め擁壁の欠点を解消するものとして、図11に示すように、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後、円筒状柱材4を法面幅方向(図11で紙面と直交する方向)に間隔をあけて設置し、隣接する円筒状柱材4間に壁面材7’を掛け渡し、円筒状柱材4内にコンクリート5を打設して円柱体6を構成し、次いで、前記壁面材7’及び円柱体6と法面との間の隙間に土砂8を裏込めしてなる土留め擁壁1’がある(特許文献1)。図11において、10はアンカーである。また、2aは表層地盤、2bは岩盤を示す。
【0004】
この種の従来の土留め擁壁1’では、壁面材7’として主としてエキスパンドメタルを用いていた。この場合、矩形状のエキスパンドメタルの周囲あるいは左右と上辺の三辺に枠板を取り付けて壁面材としていた。
【特許文献1】特開2000−96584
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図11に示した土留め擁壁1’は、コンクリート製の土留め擁壁の現地打設方式と比べると、作業が簡単で、工期も短く済み、型枠工等の技能工を必要としない長所があり、また、工場製作のコンクリート擁壁部材を用いる方式と比べると、部材搬入に困難さがなく、また施工時に小型の重機(主として小型の油圧ショベル等)で済む長所がある。
特に、この種の土留め擁壁は、民家裏の法面の保護のために施工する場合が多いが、そのような場合には、民家裏のスペースが狭くて大型の重機を搬入できない場合が多いが、このような場合に特に有効である。
【0006】
上記の土留め擁壁1’において、壁面材7’は、間隔をあけて設置された円柱体6間における前面方向の土圧P(図12(イ)参照)を受け止めて円柱体6に伝達する作用をするが、この時、壁面材7’には土圧Pに対する抵抗力として水平方向の引張り力Qが作用する。この場合、壁面材7’が上から見て直線状(円柱体6間を直線で結ぶ態様)をなしていると、壁面材7’に作用する引張り力が極めて大きなものとなるので、壁面材7’は上から見て前方(図12(イ)で下方)に凸の円弧状に湾曲させる。
【0007】
上記の通り、壁面材は前方に凸の円弧状に湾曲させるが、エキスパンドメタルの場合、複数段に取り付ける各壁面材を、所定の曲率に揃えて湾曲させるのは必ずしも簡単ではない。
【0008】
また、市販に供されるエキスパンドメタルは規格化されており、長さ寸法に上限があるので、壁面材をエキスパンドメタルの上限寸法より長くする設計を採用した場合、壁面材としての長さが不足するので、図12(ロ)に示すように、2枚のエキスパンドメタル7a’を水平方向に繋いで用いる必要(繋ぎ部を7b’で示す)があり、煩雑となる。また、2枚のエキスパンドメタル7a’を繋いで壁面材7’を構成する場合、各段の壁面材7’の曲率を一定に揃えるのは、繋ぐ必要のない場合と比べてさらに煩雑になる。
【0009】
また、エキスパンドメタルの長さが不足する場合に限らず、規格化された市販のエキスパンドメタルの長さの種類は限られているので、必ずしも所望の長さのものが得られない場合もある。
【0010】
また、近年、景観を向上させるために土留め擁壁に緑化を施すことが多々行われているが、間隔をあけて設置した円柱体間に壁面材を掛け渡して土留め擁壁を構築する場合に、緑化が容易な構造が望まれる。
【0011】
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、間隔をあけて設置した円柱体間に壁面材を掛け渡して構築する土留め擁壁において、主として、円柱体の間隔を広くした場合に容易に対応可能な壁面材を備えた土留め擁壁を提供することを目的とし、また、この種の構造で緑化が容易な土留め擁壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、土留め擁壁を構築すべき法面の少なくとも法面幅方向に間隔をあけた複数の筒状柱材設置予定箇所を掘削し、前記筒状柱材設置予定箇所にそれぞれ筒状柱材を設置し、隣接する筒状柱材間に壁面材を掛け渡し、前記筒状柱材の内部に中詰め材を充填して柱体を構成し、前記壁面材及び柱体と法面との間に裏込め材を裏込めしてなる土留め擁壁であって、
前記壁面材を、筒状柱材間に多数のフラットバーを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2は、請求項1の土留め擁壁において、フラットバー間の隙間に、裏込めされた裏込め材に埋まる態様で植生ポッドを配置したことを特徴とする。
【0014】
請求項3は、請求項1又は2の土留め擁壁において、筒状柱材が、複数の円弧状のセグメントを周方向及び上下方向に連結して形成した円筒状柱材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、壁面材としてフラットバーを用いるので、エキスパンドメタルのような面材よりも長い物が使用できる。したがって、柱体の間隔が広い場合でも容易に対応できる。
また、フラットバーは、規格化されて長さの種類が限られているエキスパンドメタルの場合と異なり、容易に任意の長さにすることができるので、前記のように柱体の間隔が広い場合に容易に対応できるだけでなく、柱体の間隔を任意に設定可能となる。
また、フラットバーを上下に間隔をあけて取り付けるに際して、各フラットバーを所定の曲率に揃えて湾曲させることは、エキスパンドメタルの場合より容易である。
【0016】
請求項2のように、上下に間隔をあけたフラットバー間の隙間を利用して裏込め土砂に植生ポットを埋め込むことで、土留め擁壁を容易に緑化することができる。このような植生ポット設置方法は、フラットバーで壁面材を構成する本発明の土留め擁壁構造を有効に活かすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の土留め擁壁の実施例を、図1〜図10参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の一実施例の土留め擁壁1の平面図、図2は同正面図、図3は図2のA−A断面図(ただし、埋め戻し土砂の図示を一部省略)である。これらの図に示すように、この実施例の土留め擁壁1は、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後に、法面幅方向(図1、図2で左右方向、図3で紙面と直交する方向)に間隔をあけて円筒状柱材4を設置しかつその内部から法面の岩盤2bにアンカー10を設置し、円筒状柱材4の内部にコンクリート5を打設して円柱体6を形成し、隣接する円柱体6間に円弧状の壁面材7を複数段架け渡し、前記壁面材7および円柱体6と法面2との間に裏込め材例えば土砂8を裏込めして構築したものである。
【0019】
この実施例の円筒状柱材4は、図4に示すように4枚の波付鋼板パネル9を円周方向に連結して形成した円筒体4aを、図2、図3等に示すように縦方向に複数段に連結して構成している。
【0020】
前記波付鋼板パネル9は、図5(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、コルゲートシート9aの両側縁を直角に折り曲げてフランジ9bとし、両端部にプレート9cを溶接固定し、接合用の穴9dをあけ、円弧状に湾曲させた構成(すなわち円弧状のセグメント)である。この波付鋼板パネル9は、いわゆるライナープレートと称されるものと同形状であるが、フランジやプレートのない波付鋼板であるコルゲートセクションを用いることもできる。
【0021】
本発明では、壁面材7を、複数本のフラットバー7aを上下に間隔をあけて円柱体6間に掛け渡して構成する。
【0022】
前記フラットバー7aの取り付け構造について説明すると、図4、図6等に示すように、円筒状柱材4を構成する各円筒体4aの正面中央に配した1枚の波付鋼板パネル9(図4に9(A)で示すもの)とその両側の波付鋼板パネル9との接合部に取付プレート12を挟み込み、この取付プレート12に前記フラットバー7aの両端をボルト13で固定している。正面中央の波付鋼板パネル9(A)は四分の一円弧なので、この取付プレート12の位置は、擁壁面と直角な方向に対して45゜をなしている。取付プレート12の取り付け角度が45゜であれば、壁面材7に作用する土圧を円柱体6が負担する構造として、円柱体6側(円筒状柱材4側)にとっても壁面材7側にとっても無理な力の作用を生じさせないものとなる。
また、取付プレート12は、波付鋼板パネル9を製作する際に、あらかじめ、コルゲートシート9aの片端部にプレート9cの替わりに溶接しておけば、現地で取付けプレート12を挟み込む作業も省けるし、部材も省略できる。
【0023】
上記の土留め擁壁1を構築する手順を簡単に説明すると、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後、円筒状柱材4を法面幅方向(図1、図2で左右方向、図3で紙面と直交する方向)に間隔をあけて設置し、隣接する円筒状柱材4間に壁面材7を掛け渡し、円筒状柱材4内にコンクリート5を打設して円柱体6を構成し、次いで、前記壁面材7及び円柱体6と法面との間の隙間に土砂8を埋め戻す(裏込めする)と、土留め擁壁1が構築される。図3において、10はアンカーである。また、2aは表層地盤、2bは岩盤を示す。この土留め擁壁1は、重力式土留め擁壁であり、壁面材7および円柱体6に作用する土圧に対して円柱体6の重量で抵抗する。
【0024】
壁面材7は前述した通りフラットバー7aからなるが、このフラットバー7aの取付プレート12への取り付けは、各円筒状柱材4を設置した時点、あるいは円筒状柱材4にコンクリートを打設して円柱体6を構成した後に行うとよい。
【0025】
上記の土留め擁壁1では、壁面材としてフラットバー7aを用いるので、規格化されて長さに上限のあるエキスパンドメタルの場合と異なり、長さの制約はない。したがって、円柱体6の間隔が広い場合でも容易に対応できる。
また、フラットバー7aは、規格化されて長さの種類が限られているエキスパンドメタルの場合と異なり、容易に任意の長さにすることができるので、円柱体6の間隔の上限に制約がなくなるだけでなく、円柱体6の間隔を任意に設定可能となる。
また、フラットバー7aを上下に間隔をあけて取り付けるに際して、各フラットバー7aを所定の曲率に揃えて湾曲させることは、エキスパンドメタルの場合より容易である。
【実施例2】
【0026】
図7(イ)〜(ハ)に上記の土留め擁壁1に緑化を施した実施例を模式図で示す。この実施例では、上下に間隔をあけて取り付けたフラットバー7a間の隙間に、裏込めされた土砂に埋まる態様で植生ポッド14を配置している。
植生ポット14は草花や芝生等の植物を容器14aに植えてなるもので、容器14aとしては根が裏込め土砂に伸びていくことが可能なものがよい。また、容器14aの材質は植物繊維や生分解プラスチック等の生分解が可能な材質が望ましい。
図示例では、図7(ロ)に示すように植生ポット14を水平方向に並べて配置している。また、その容器14aがフラットバー7a間に挟まる態様で配置している。
【0027】
図8に植生ポットの他の例を示す。この実施例では、容器の深さが浅く、容器を上下のフラットバー7aの裏面に当てる形で配置しているが、根が深くない植物に適している。
【0028】
このように、上下に間隔をあけたフラットバー7a間の隙間を利用して裏込め土砂に植生ポット14を埋め込むことで、土留め擁壁を容易に緑化することができる。このような植生ポット設置方法は、フラットバー7aで壁面材7を構成する本発明の土留め擁壁構造を有効に活かすものである。
【実施例3】
【0029】
図9にフラットバーの取り付け構造の他の実施例を示す。この実施例では、複数本(図示例では3本)のフラットバー17aの両端を共通の耳板17bに例えば溶接等で固定して、各円柱体4a毎の壁面材17を構成したものである。壁面材17の耳板17bを円筒状柱材4側に取り付けた取付プレート12にボルト13で固定する。
【実施例4】
【0030】
上述した実施例の土留め擁壁では円筒状柱材として、波付鋼板パネル9を用いて構成したものであるが、図10に示すような樹脂一体成形してなる樹脂製の波付円筒状柱材24を用いることもできる。樹脂製の波付円筒状柱材24の場合、図6のように取付プレート12を挟み込みことができないので、図示のように、フラットバー27aの両端を、取付長穴27cをあけた耳板27bに溶接等で固定した壁面材27を用いるとよい。この場合、例えばスチールバンド25を、耳板27bの取付長穴27cに通して円筒状柱材24の外周に締め付け固定する等して、壁面材27を円筒状柱材24に取り付ける。
【実施例5】
【0031】
上述の説明では筒状柱材として円筒状柱材を用いたが、角筒状柱材を用いることも可能である。角筒状柱材を用いた時は、これに充填材を充填したものは角柱体となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の土留め擁壁の平面図である。
【図2】図1の土留め擁壁の正面図である。
【図3】図2のA−A断面図(ただし、土砂断面の図示を一部省略)である。
【図4】図3のB−B断面位置で示した要部詳細平面図である。
【図5】上記の土留め擁壁における円筒状柱材に用いた波付鋼板パネルの詳細を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は正面図、(ハ)は(ロ)のC−C断面図である。
【図6】上記の土留め擁壁におけるフラットバー取付構造の詳細を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図7】上記の土留め擁壁に植生ポットを設置した実施例を模式的に示すもので、(イ)は土留め擁壁の模式的な断面図、(ロ)は要部の拡大正面図、(ハ)は1つの植生ポットの斜視図である。
【図8】土留め擁壁に植生ポットを設置する他の態様を模式的に示すもので、土留め擁壁の模式的な断面図である。
【図9】フラットバー取付構造の他の実施例を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図10】円筒状柱材として合成樹脂製の円筒状柱材を用いた場合におけるフラットバー取付構造を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図11】従来の土留め擁壁の断面図であり、図3に対応する図である。
【図12】従来の土留め擁壁で壁面材としてエキスパンドメタルを用いた場合の問題点を説明する図で、(イ)は円柱体間隔が狭い場合、(ロ)は円柱体間隔が広いため2枚のエキスパンドメタルを水平方向に繋いで用いる場合を示す。
【符号の説明】
【0033】
1 土留め擁壁
2 法面
3 掘削部
4、24 円筒状柱材(筒状柱材)
4a 円筒体
5 コンクリート(中詰め材)
6 円柱体(柱体)
7、17、27 壁面材
7a、17a、27a フラットバー
17b、27b 耳板
8 裏込め土砂(裏込め材)
9 波付鋼板パネル
10 アンカー
12 取付プレート
13 ボルト
14 植生ポット
25 スチールバンド
【技術分野】
【0001】
この発明は、法面の崩壊を防ぐ土留め擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
法面の崩壊を防ぐ土留め擁壁として、コンクリート製の土留め擁壁が広く採用されている。コンクリート製の土留め擁壁には、現地で型枠を組んでコンクリートを打設する施工法と、予め工場で製作したコンクリート擁壁部材を現地に搬入して組み立てる施工法とがある。前者の施工法では作業が繁雑で、工期も長くかかり、型枠工等の技能工を必要とする欠点があり、後者の施工法では、コンクリート擁壁部材の重量が大なので、これを現地に搬入するのが容易でなく、また施工時に大型の重機を必要とする欠点がある。
【0003】
上記のようなコンクリート土留め擁壁の欠点を解消するものとして、図11に示すように、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後、円筒状柱材4を法面幅方向(図11で紙面と直交する方向)に間隔をあけて設置し、隣接する円筒状柱材4間に壁面材7’を掛け渡し、円筒状柱材4内にコンクリート5を打設して円柱体6を構成し、次いで、前記壁面材7’及び円柱体6と法面との間の隙間に土砂8を裏込めしてなる土留め擁壁1’がある(特許文献1)。図11において、10はアンカーである。また、2aは表層地盤、2bは岩盤を示す。
【0004】
この種の従来の土留め擁壁1’では、壁面材7’として主としてエキスパンドメタルを用いていた。この場合、矩形状のエキスパンドメタルの周囲あるいは左右と上辺の三辺に枠板を取り付けて壁面材としていた。
【特許文献1】特開2000−96584
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図11に示した土留め擁壁1’は、コンクリート製の土留め擁壁の現地打設方式と比べると、作業が簡単で、工期も短く済み、型枠工等の技能工を必要としない長所があり、また、工場製作のコンクリート擁壁部材を用いる方式と比べると、部材搬入に困難さがなく、また施工時に小型の重機(主として小型の油圧ショベル等)で済む長所がある。
特に、この種の土留め擁壁は、民家裏の法面の保護のために施工する場合が多いが、そのような場合には、民家裏のスペースが狭くて大型の重機を搬入できない場合が多いが、このような場合に特に有効である。
【0006】
上記の土留め擁壁1’において、壁面材7’は、間隔をあけて設置された円柱体6間における前面方向の土圧P(図12(イ)参照)を受け止めて円柱体6に伝達する作用をするが、この時、壁面材7’には土圧Pに対する抵抗力として水平方向の引張り力Qが作用する。この場合、壁面材7’が上から見て直線状(円柱体6間を直線で結ぶ態様)をなしていると、壁面材7’に作用する引張り力が極めて大きなものとなるので、壁面材7’は上から見て前方(図12(イ)で下方)に凸の円弧状に湾曲させる。
【0007】
上記の通り、壁面材は前方に凸の円弧状に湾曲させるが、エキスパンドメタルの場合、複数段に取り付ける各壁面材を、所定の曲率に揃えて湾曲させるのは必ずしも簡単ではない。
【0008】
また、市販に供されるエキスパンドメタルは規格化されており、長さ寸法に上限があるので、壁面材をエキスパンドメタルの上限寸法より長くする設計を採用した場合、壁面材としての長さが不足するので、図12(ロ)に示すように、2枚のエキスパンドメタル7a’を水平方向に繋いで用いる必要(繋ぎ部を7b’で示す)があり、煩雑となる。また、2枚のエキスパンドメタル7a’を繋いで壁面材7’を構成する場合、各段の壁面材7’の曲率を一定に揃えるのは、繋ぐ必要のない場合と比べてさらに煩雑になる。
【0009】
また、エキスパンドメタルの長さが不足する場合に限らず、規格化された市販のエキスパンドメタルの長さの種類は限られているので、必ずしも所望の長さのものが得られない場合もある。
【0010】
また、近年、景観を向上させるために土留め擁壁に緑化を施すことが多々行われているが、間隔をあけて設置した円柱体間に壁面材を掛け渡して土留め擁壁を構築する場合に、緑化が容易な構造が望まれる。
【0011】
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、間隔をあけて設置した円柱体間に壁面材を掛け渡して構築する土留め擁壁において、主として、円柱体の間隔を広くした場合に容易に対応可能な壁面材を備えた土留め擁壁を提供することを目的とし、また、この種の構造で緑化が容易な土留め擁壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明は、土留め擁壁を構築すべき法面の少なくとも法面幅方向に間隔をあけた複数の筒状柱材設置予定箇所を掘削し、前記筒状柱材設置予定箇所にそれぞれ筒状柱材を設置し、隣接する筒状柱材間に壁面材を掛け渡し、前記筒状柱材の内部に中詰め材を充填して柱体を構成し、前記壁面材及び柱体と法面との間に裏込め材を裏込めしてなる土留め擁壁であって、
前記壁面材を、筒状柱材間に多数のフラットバーを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項2は、請求項1の土留め擁壁において、フラットバー間の隙間に、裏込めされた裏込め材に埋まる態様で植生ポッドを配置したことを特徴とする。
【0014】
請求項3は、請求項1又は2の土留め擁壁において、筒状柱材が、複数の円弧状のセグメントを周方向及び上下方向に連結して形成した円筒状柱材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、壁面材としてフラットバーを用いるので、エキスパンドメタルのような面材よりも長い物が使用できる。したがって、柱体の間隔が広い場合でも容易に対応できる。
また、フラットバーは、規格化されて長さの種類が限られているエキスパンドメタルの場合と異なり、容易に任意の長さにすることができるので、前記のように柱体の間隔が広い場合に容易に対応できるだけでなく、柱体の間隔を任意に設定可能となる。
また、フラットバーを上下に間隔をあけて取り付けるに際して、各フラットバーを所定の曲率に揃えて湾曲させることは、エキスパンドメタルの場合より容易である。
【0016】
請求項2のように、上下に間隔をあけたフラットバー間の隙間を利用して裏込め土砂に植生ポットを埋め込むことで、土留め擁壁を容易に緑化することができる。このような植生ポット設置方法は、フラットバーで壁面材を構成する本発明の土留め擁壁構造を有効に活かすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の土留め擁壁の実施例を、図1〜図10参照して説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の一実施例の土留め擁壁1の平面図、図2は同正面図、図3は図2のA−A断面図(ただし、埋め戻し土砂の図示を一部省略)である。これらの図に示すように、この実施例の土留め擁壁1は、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後に、法面幅方向(図1、図2で左右方向、図3で紙面と直交する方向)に間隔をあけて円筒状柱材4を設置しかつその内部から法面の岩盤2bにアンカー10を設置し、円筒状柱材4の内部にコンクリート5を打設して円柱体6を形成し、隣接する円柱体6間に円弧状の壁面材7を複数段架け渡し、前記壁面材7および円柱体6と法面2との間に裏込め材例えば土砂8を裏込めして構築したものである。
【0019】
この実施例の円筒状柱材4は、図4に示すように4枚の波付鋼板パネル9を円周方向に連結して形成した円筒体4aを、図2、図3等に示すように縦方向に複数段に連結して構成している。
【0020】
前記波付鋼板パネル9は、図5(イ)、(ロ)、(ハ)に示すように、コルゲートシート9aの両側縁を直角に折り曲げてフランジ9bとし、両端部にプレート9cを溶接固定し、接合用の穴9dをあけ、円弧状に湾曲させた構成(すなわち円弧状のセグメント)である。この波付鋼板パネル9は、いわゆるライナープレートと称されるものと同形状であるが、フランジやプレートのない波付鋼板であるコルゲートセクションを用いることもできる。
【0021】
本発明では、壁面材7を、複数本のフラットバー7aを上下に間隔をあけて円柱体6間に掛け渡して構成する。
【0022】
前記フラットバー7aの取り付け構造について説明すると、図4、図6等に示すように、円筒状柱材4を構成する各円筒体4aの正面中央に配した1枚の波付鋼板パネル9(図4に9(A)で示すもの)とその両側の波付鋼板パネル9との接合部に取付プレート12を挟み込み、この取付プレート12に前記フラットバー7aの両端をボルト13で固定している。正面中央の波付鋼板パネル9(A)は四分の一円弧なので、この取付プレート12の位置は、擁壁面と直角な方向に対して45゜をなしている。取付プレート12の取り付け角度が45゜であれば、壁面材7に作用する土圧を円柱体6が負担する構造として、円柱体6側(円筒状柱材4側)にとっても壁面材7側にとっても無理な力の作用を生じさせないものとなる。
また、取付プレート12は、波付鋼板パネル9を製作する際に、あらかじめ、コルゲートシート9aの片端部にプレート9cの替わりに溶接しておけば、現地で取付けプレート12を挟み込む作業も省けるし、部材も省略できる。
【0023】
上記の土留め擁壁1を構築する手順を簡単に説明すると、土留め擁壁を構築すべき法面2を適宜掘削した後、円筒状柱材4を法面幅方向(図1、図2で左右方向、図3で紙面と直交する方向)に間隔をあけて設置し、隣接する円筒状柱材4間に壁面材7を掛け渡し、円筒状柱材4内にコンクリート5を打設して円柱体6を構成し、次いで、前記壁面材7及び円柱体6と法面との間の隙間に土砂8を埋め戻す(裏込めする)と、土留め擁壁1が構築される。図3において、10はアンカーである。また、2aは表層地盤、2bは岩盤を示す。この土留め擁壁1は、重力式土留め擁壁であり、壁面材7および円柱体6に作用する土圧に対して円柱体6の重量で抵抗する。
【0024】
壁面材7は前述した通りフラットバー7aからなるが、このフラットバー7aの取付プレート12への取り付けは、各円筒状柱材4を設置した時点、あるいは円筒状柱材4にコンクリートを打設して円柱体6を構成した後に行うとよい。
【0025】
上記の土留め擁壁1では、壁面材としてフラットバー7aを用いるので、規格化されて長さに上限のあるエキスパンドメタルの場合と異なり、長さの制約はない。したがって、円柱体6の間隔が広い場合でも容易に対応できる。
また、フラットバー7aは、規格化されて長さの種類が限られているエキスパンドメタルの場合と異なり、容易に任意の長さにすることができるので、円柱体6の間隔の上限に制約がなくなるだけでなく、円柱体6の間隔を任意に設定可能となる。
また、フラットバー7aを上下に間隔をあけて取り付けるに際して、各フラットバー7aを所定の曲率に揃えて湾曲させることは、エキスパンドメタルの場合より容易である。
【実施例2】
【0026】
図7(イ)〜(ハ)に上記の土留め擁壁1に緑化を施した実施例を模式図で示す。この実施例では、上下に間隔をあけて取り付けたフラットバー7a間の隙間に、裏込めされた土砂に埋まる態様で植生ポッド14を配置している。
植生ポット14は草花や芝生等の植物を容器14aに植えてなるもので、容器14aとしては根が裏込め土砂に伸びていくことが可能なものがよい。また、容器14aの材質は植物繊維や生分解プラスチック等の生分解が可能な材質が望ましい。
図示例では、図7(ロ)に示すように植生ポット14を水平方向に並べて配置している。また、その容器14aがフラットバー7a間に挟まる態様で配置している。
【0027】
図8に植生ポットの他の例を示す。この実施例では、容器の深さが浅く、容器を上下のフラットバー7aの裏面に当てる形で配置しているが、根が深くない植物に適している。
【0028】
このように、上下に間隔をあけたフラットバー7a間の隙間を利用して裏込め土砂に植生ポット14を埋め込むことで、土留め擁壁を容易に緑化することができる。このような植生ポット設置方法は、フラットバー7aで壁面材7を構成する本発明の土留め擁壁構造を有効に活かすものである。
【実施例3】
【0029】
図9にフラットバーの取り付け構造の他の実施例を示す。この実施例では、複数本(図示例では3本)のフラットバー17aの両端を共通の耳板17bに例えば溶接等で固定して、各円柱体4a毎の壁面材17を構成したものである。壁面材17の耳板17bを円筒状柱材4側に取り付けた取付プレート12にボルト13で固定する。
【実施例4】
【0030】
上述した実施例の土留め擁壁では円筒状柱材として、波付鋼板パネル9を用いて構成したものであるが、図10に示すような樹脂一体成形してなる樹脂製の波付円筒状柱材24を用いることもできる。樹脂製の波付円筒状柱材24の場合、図6のように取付プレート12を挟み込みことができないので、図示のように、フラットバー27aの両端を、取付長穴27cをあけた耳板27bに溶接等で固定した壁面材27を用いるとよい。この場合、例えばスチールバンド25を、耳板27bの取付長穴27cに通して円筒状柱材24の外周に締め付け固定する等して、壁面材27を円筒状柱材24に取り付ける。
【実施例5】
【0031】
上述の説明では筒状柱材として円筒状柱材を用いたが、角筒状柱材を用いることも可能である。角筒状柱材を用いた時は、これに充填材を充填したものは角柱体となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の土留め擁壁の平面図である。
【図2】図1の土留め擁壁の正面図である。
【図3】図2のA−A断面図(ただし、土砂断面の図示を一部省略)である。
【図4】図3のB−B断面位置で示した要部詳細平面図である。
【図5】上記の土留め擁壁における円筒状柱材に用いた波付鋼板パネルの詳細を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は正面図、(ハ)は(ロ)のC−C断面図である。
【図6】上記の土留め擁壁におけるフラットバー取付構造の詳細を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図7】上記の土留め擁壁に植生ポットを設置した実施例を模式的に示すもので、(イ)は土留め擁壁の模式的な断面図、(ロ)は要部の拡大正面図、(ハ)は1つの植生ポットの斜視図である。
【図8】土留め擁壁に植生ポットを設置する他の態様を模式的に示すもので、土留め擁壁の模式的な断面図である。
【図9】フラットバー取付構造の他の実施例を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図10】円筒状柱材として合成樹脂製の円筒状柱材を用いた場合におけるフラットバー取付構造を説明するもので、フラットバー取付部近傍の拡大図である。
【図11】従来の土留め擁壁の断面図であり、図3に対応する図である。
【図12】従来の土留め擁壁で壁面材としてエキスパンドメタルを用いた場合の問題点を説明する図で、(イ)は円柱体間隔が狭い場合、(ロ)は円柱体間隔が広いため2枚のエキスパンドメタルを水平方向に繋いで用いる場合を示す。
【符号の説明】
【0033】
1 土留め擁壁
2 法面
3 掘削部
4、24 円筒状柱材(筒状柱材)
4a 円筒体
5 コンクリート(中詰め材)
6 円柱体(柱体)
7、17、27 壁面材
7a、17a、27a フラットバー
17b、27b 耳板
8 裏込め土砂(裏込め材)
9 波付鋼板パネル
10 アンカー
12 取付プレート
13 ボルト
14 植生ポット
25 スチールバンド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め擁壁を構築すべき法面の少なくとも法面幅方向に間隔をあけた複数の筒状柱材設置予定箇所を掘削し、前記筒状柱材設置予定箇所にそれぞれ筒状柱材を設置し、隣接する筒状柱材間に壁面材を掛け渡し、前記筒状柱材の内部に中詰め材を充填して柱体を構成し、前記壁面材及び柱体と法面との間に裏込め材を裏込めしてなる土留め擁壁であって、
前記壁面材を、筒状柱材間に多数のフラットバーを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成したことを特徴とする土留め擁壁。
【請求項2】
前記フラットバー間の隙間に、裏込めされた裏込め材に埋まる態様で植生ポッドを配置したことを特徴とする請求項1記載の土留め擁壁。
【請求項3】
前記筒状柱材は、複数の円弧状のセグメントを周方向及び上下方向に連結して形成した円筒状柱材であることを特徴とする請求項1又は2記載の土留め擁壁。
【請求項1】
土留め擁壁を構築すべき法面の少なくとも法面幅方向に間隔をあけた複数の筒状柱材設置予定箇所を掘削し、前記筒状柱材設置予定箇所にそれぞれ筒状柱材を設置し、隣接する筒状柱材間に壁面材を掛け渡し、前記筒状柱材の内部に中詰め材を充填して柱体を構成し、前記壁面材及び柱体と法面との間に裏込め材を裏込めしてなる土留め擁壁であって、
前記壁面材を、筒状柱材間に多数のフラットバーを上下に間隔をあけて、かつ前面側に凸に湾曲する態様で掛け渡して構成したことを特徴とする土留め擁壁。
【請求項2】
前記フラットバー間の隙間に、裏込めされた裏込め材に埋まる態様で植生ポッドを配置したことを特徴とする請求項1記載の土留め擁壁。
【請求項3】
前記筒状柱材は、複数の円弧状のセグメントを周方向及び上下方向に連結して形成した円筒状柱材であることを特徴とする請求項1又は2記載の土留め擁壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−38545(P2008−38545A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217359(P2006−217359)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【出願人】(595159769)財団法人林業土木施設研究所 (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【出願人】(595159769)財団法人林業土木施設研究所 (8)
【Fターム(参考)】
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