説明

圧入装置

【課題】バリやカジリ等の発生を避けて、スムーズかつ高精度に圧入を実施することのできる圧入装置を提供する。
【解決手段】ベアリングアセンブリ5をクランクシャフト2の圧入部位に向けて押込む押込み機構10と、押込み機構10に押込み力を付与する駆動機構11とを具備する。押込み機構10は、ベアリングアセンブリ5と当接可能な第1の押込み治具12と、第1の押込み治具12と当接して、駆動機構11から受けた押込み力を第1の押込み治具12に伝達する第2の押込み治具13とを有する。第1の押込み治具12は、第2の押込み治具13に対して傾いた状態でベアリングアセンブリ5と当接可能に構成されると共に、第1の押込み治具12と第2の押込み治具13には、互いに当接可能な部分球面19,20がそれぞれ設けられている。また、第2の押込み治具13は、駆動機構11に対して押込み力と交差する向きにスライドできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧入装置に関し、特に、圧入に供する部品がサブアセンブリである場合に好適な圧入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対する部品の組付け手段の一つとして圧入が使用されており、例えば、下記特許文献1に記載されているような圧入装置が使用されている。
【0003】
この圧入装置は、ワーク本体を保持する上治具と、ワーク本体に圧入される組付部品を位置決め保持する下治具とを備えたもので、ワーク本体を保持した上治具を、下治具に対して位置決めした状態で下降させ、上治具に保持したワーク本体に下治具に保持した組付部品を圧入できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−206930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、圧入に供する一対の部品をそれぞれ専用の治具で保持して、各治具間で位置決めを行った状態で圧入を実施するようにすれば、精度良く圧入することができる。しかしながら、被圧入部品となるワークがサブアセンブリされたものである場合には、上記特許文献1のように、圧入に供する部品それ自体を専用の治具で保持して位置決めすることが難しいことがある。具体的には、シリンダブロックに組付けられた状態のクランクシャフトにベアリングを圧入する場合には、通常、シリンダブロックを所定の治具で位置決め保持することになるため、クランクシャフト単体を位置決め保持する場合と比べて位置決め精度は落ちる。特に、クランクシャフトのように直接の被圧入部品がサブアセンブリされた他の部品に対して可動する部分である場合には、より一層上記の問題(精度低下の問題)が顕著となる。
【0006】
そのため、このような場合には、例えば図7に示すように、クランクシャフト102の外形をなす面のうち高精度な加工が施されている面(例えばクランクシャフト102後端部の外側端面102a)を基準として治具101を固定し、ベアリング104を圧入する手段が考えられる。この場合、高精度加工面となる外側端面102aは、他の高精度加工面(例えば大径部の外周面)との形状精度(直角度など)にも優れているので、この外側端面102aを基準として治具101を位置決めし、位置決めした治具101に対してベアリング104を押込むための治具103を下降させて、ベアリング104をクランクシャフト102に圧入することにより、高い圧入精度が期待できる。
【0007】
しかしながら、この種の圧入作業は、被圧入部品だけでなく、圧入部品の側もサブアセンブリした状態で実施されることも少なくない。例えば図8に示すように、圧入部品となるベアリング104にスターターモータ用のリングギヤなどの他の部品105を圧入に先立って組付けておく場合、圧入基準面として使用できるクランクシャフト102後端部の外側端面102aが上記した他の部品105で覆われてしまう。このような場合には、クランクシャフト102後端部の外面のうち、外側に露出している面(例えば後端部の最も外側に位置する端面102b)を圧入基準面として使用する他ないが、この種の面は、クランクシャフト102としてそれほど高い精度(平面度、直角度)を要求される面ではなく、上述した外側端面102aのように高精度な加工を施していない。そのため、この種の面(最外側の端面102b)を基準として圧入を図った場合、当該端面102bに押し当てた治具106がクランクシャフト102の中心軸に対して傾いた状態で位置決め固定されることがある(図8を参照)。このような状態でベアリング104を圧入した場合、クランクシャフト102の中心軸に対して傾いた状態の治具106を基準に押込み用の治具103を下降させることになるため、ベアリング104がクランクシャフト102の中心軸に対して傾いた状態で圧入固定されるおそれがある。また、非常に高い圧入力(押込み力)でベアリング104を無理やり圧入することになるため、バリやカジリ等の圧入不良が生じることとなり、品質上も問題がある。
【0008】
以上の事情に鑑み、被圧入部品の高精度に加工された面を圧入時の基準面として使用できない場合においても、バリやカジリ等の発生を避けて、スムーズかつ高精度に圧入を実施することのできる圧入装置を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係る圧入装置により達成される。すなわち、この圧入装置は、圧入部品を被圧入部品の圧入部位に向けて押込む押込み機構と、押込み機構に押込み力を付与する駆動機構とを具備するものであって、押込み機構は、圧入部品と当接可能な第1の押込み治具と、第1の押込み治具と当接して、駆動機構から受けた押込み力を第1の押込み治具に伝達する第2の押込み治具とを有し、第1の押込み治具は、第2の押込み治具に対して傾いた状態で圧入部品と当接可能に構成されると共に、第1の押込み治具と第2の押込み治具には、互いに当接可能な部分球面がそれぞれ設けられており、かつ、第2の押込み治具は、駆動機構に対して押込み力と交差する向きにスライドできるように支持されている点をもって特徴付けられる。
【0010】
以下、本発明の作用を説明する。上記構成の圧入装置に圧入部品と被圧入部品をセットし、駆動機構から押込み機構に押込み力を付与する。ここで、押込み機構を構成する第1の押込み治具と第2の押込み治具が一体的に圧入部品に向けて移動する場合、まず第1の押込み治具が圧入部品に当接する。この際、第1の押込み治具は第2の押込み治具に対して傾いた状態で圧入部品に当接可能な状態にあるため、第1の押込み治具と圧入部品とが例えば片当りする場合であっても、第1の押込み治具を圧入部品の姿勢に応じて全面で当接させることができる。そして、この状態からさらに第2の押込み治具が駆動機構から押込み力を受けることで、第1の押込み治具と当接する。ここで、第2の押込み治具と第1の押込み治具には、互いに当接可能な部分球面が設けられているので、第2の押込み治具が第1の押込み治具に対してどのように傾いた状態であっても部分球面を介して確実に当接させることができる。また、この際、第1の押込み治具は既に圧入部品と全面で当接しており、第2の押込み治具は駆動機構に対して押込み力と交差する向きにスライドできるように支持されている。そのため、第2の押込み治具は、駆動機構から受けた押込み力の方向ではなく、第1の押込み治具が圧入部品と当接している向きに沿って、第1の押込み治具と一体的に移動する。言い換えると、駆動機構から受けた押込み力の向きが第1の押込み治具の姿勢、ひいては圧入部品の姿勢に追従するように変更される。従って、仮に駆動機構や第2の押込み治具が圧入部品の正規の押込み方向(圧入方向)に対して傾いている場合であっても、圧入部品を被圧入部品の圧入部位に向けて正確に押込むことができる。これにより、不当に高い圧入力を要することなくスムーズに圧入することができる。また、正確かつスムーズに圧入できるので、バリやカジリ等の発生を避けることができ、これにより高品質な圧入アセンブリを得ることができる。
【0011】
また、本発明に係る圧入装置は、第1の押込み治具を、第2の押込み治具に対して弾性機構を介して傾動可能に支持したものであってもよい。
【0012】
本発明に係る第1の押込み治具は、圧入部品と当接すべき面の全域で当接することにより、第1の押込み治具の姿勢を、圧入部品の姿勢に応じて変更し、これにより押込み機構による圧入部品の押込み方向を修正する役割を担うものである。よって、上述のように、第1の押込み治具が第2の押込み治具と同期して移動するよう構成されている場合、第1の押込み治具を、第2の押込み治具に対して弾性機構を介して傾動可能に支持することにより、第1の押込み治具が圧入部品に対して傾いた状態で当接した場合、引き続き第2の押込み治具を押し進めることで、弾性機構が圧縮作用を生じ、圧入部品と全面で当接可能なように第1の押込み治具が第2の押込み治具に対して傾動する。従って、双方の押込み治具を駆動機構により押込むだけで、第1の押込み治具を圧入に適した姿勢に修正することができ、これにより、圧入精度を容易に高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る圧入装置によれば、高精度に加工された面を圧入時の基準面として使用できない場合においても、バリやカジリ等の発生を避けて、スムーズかつ高精度に圧入を実施することができる。従って、圧入不良の割合を減じて生産効率(歩留まり)の向上を図ることが可能となり、ひいてはコスト低減化に寄与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る圧入装置の一例を示す正面図である。
【図2】図1に示す装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【図3】図1に示す装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【図4】図1に示す装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【図5】図1に示す装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【図6】図1に示す装置を用いた圧入動作が完了した時点の状態を示す要部拡大断面図である。
【図7】他の圧入装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【図8】他の圧入装置を用いた圧入動作の一例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る圧入装置の一実施形態を図面に基づき説明する。なお、この実施形態では、圧入部品としてのベアリングアセンブリを、被圧入部品としてのクランクシャフトに圧入する場合を例にとって以下説明する。なお、説明の便宜上、以下の実施形態では、押込み機構の移動方向(昇降方向)を上下方向とし、圧入部品から見て被圧入部品の側を下方向、押込み機構の側を上方向として説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る圧入装置1の正面図を示している。この圧入装置1は、例えばスターターモータ(図示は省略)からクランクシャフト2への動力伝達を行うリングギヤ3(又はリングギヤ3を有する環状のシール部材)をベアリング4に組付けてなるベアリングアセンブリ5を、シリンダブロック6やオイルパン7等と共にエンジンユニット8としてサブアセンブリされた状態のクランクシャフト2の外周面2aに圧入するのに用いられるもので、枠体をなす基部9と、基部9に対して昇降動作を行い、ベアリング4をクランクシャフト2の圧入部位(外周面2a)に向けて押込む押込み機構10と、基部9に設けられ、押込み機構10に押込み力を付与する駆動機構11とを具備する。
【0017】
押込み機構10は、ベアリングアセンブリ5の上端面5aと当接する第1の押込み治具12と、第1の押込み治具12と当接して、駆動機構11から受けた押込み力を第1の押込み治具12に伝達する第2の押込み治具13とを有する。このうち、第2の押込み治具13には、可動フレーム部14を介して駆動機構11からの押込み力を受ける荷重受け部15が一体的に設けられており、この荷重受け部15が弾性機構16を介して基部9に支持されている。従って、荷重受け部15を一体に設けた第2の押込み治具13は、後述する押圧部17と当接する前の状態にあっては、基部9および基部9に設けられる駆動機構11に対して傾動可能に支持される。
【0018】
また、駆動機構11の押圧部17は、下方に向けて突出しており、その先端面17aは略平坦に形成されている。そのため、この押圧部17から押込み力を受ける荷重受け部15は、押圧部17から受ける押込み力と交差する向き(この実施形態では直交する向き)にスライドできるようになっている。すなわち、荷重受け部15を一体に設けた第2の押込み治具13が押込み力と直交する向きにスライドできるようになっている。
【0019】
第1の押込み治具12は、その下端に、圧入部品となるベアリングアセンブリ5の上端面5aと全周で当接する環状の当接面12aを有する。もちろん、当接面12aの形態はこれに限らず、例えば円周方向の複数箇所で圧入部品と当接する形態を採ってもよい。
【0020】
この実施形態では、第1の押込み治具12と第2の押込み治具13との間に弾性機構18が介設されており、この弾性機構18を介して第1の押込み治具12が第2の押込み治具13に対して傾動可能に支持されている。これにより、駆動機構11から押込み機構10に押込み力を付与して、押込み機構10を下降させることで、後述の如く、第1の押込み治具12が、第2の押込み治具13に対して傾いた状態でベアリングアセンブリ5と当接できるようになっている(後述する図3を参照)。
【0021】
また、第1の押込み治具12と第2の押込み治具13には、互いに当接可能な部分球面19,20がそれぞれ設けられている。この実施形態では、基部9の中央から下方に向けて伸びる固定用治具21の下端面21aと、固定用治具21と鉛直方向に対峙するクランクシャフト2の最外側(図1では最も上方に位置する)の端面2bとが当接している。また、後述するように、第1の押込み治具12がベアリングアセンブリ5と全周で当接した状態で、これら当接面21a,2b間の中央点Oを球面中心とする環状の部分球面19が第1の押込み治具12に設けられると共に、この部分球面19と略同一の曲率半径を有する環状の部分球面20が第2の押込み治具13に形成されている。これにより、第1の押込み治具12がベアリングアセンブリ5と当接した状態からさらに押込み機構10を下降させることで、後述の如く、双方の押込み治具12,13の部分球面19,20が所定の密着面積をもって互いに当接できるようになっている(後述する図4を参照)。
【0022】
以下、上記構成の圧入装置1を用いた圧入動作の一例を図2〜図6に基づき説明する。
【0023】
まず図2に示すように、クランクシャフト2の中心軸XCとベアリング4の中心軸を互いに一致させた状態で、ベアリングアセンブリ5をクランクシャフト2の大径部上に載置する。この際、ベアリング4の面取り部4aとクランクシャフト2大径部の面取り部2cとが当接することで、圧入部位(大径部の外周面2a)に対するベアリングアセンブリ5の位置決めがなされる。なお、図示は省略するが、上記面取り部4a,2cによる位置決め載置に加えて、クランクシャフト2の側から立設した位置決めピンにベアリング4を挿入することで、ベアリングアセンブリ5をクランクシャフト2にセットしてもよい。
【0024】
そして、圧入装置1の基部9から下方に伸びる固定用治具21の下端面21aをクランクシャフト2の外面のうち外側に露出している(ベアリングアセンブリ5やシリンダブロック6等で覆われていない)最外側の端面2bに当接させ、図示しないボルトでクランクシャフト2の大径部と固定用治具21の大径部(図1を参照)との間を締め上げることで、最外側の端面2bを基準として、固定用治具21を含む圧入装置1の基部9をクランクシャフト2に固定する。この際、クランクシャフト2の最外側の端面2bが圧入装置1による圧入時の基準面となるが、この端面2bは、通常、素材基準で旋削加工を施して形成される面であるから、あまり面精度(例えば、クランクシャフト2の中心軸XCに対する端面の直角度)が高いとはいえない。そのために、図2に示すように、この端面2bを基準に固定用治具21を固定した状態では、クランクシャフト2の中心軸XCに対して、固定用治具21の中心軸XZが所定角度分だけ傾いた状態でセットされる。実際には、クランクシャフト2を組付けたサブアセンブリ(エンジンユニット8)が締め上げにより若干浮き上がるようにして締結されるので、クランクシャフト2の側が基部9(固定用治具21)に対して傾いた状態で固定される。この状態では、図2に示すように、固定用治具21だけでなく、駆動機構11、さらには押込み機構10(第1、第2の押込み治具12,13)もクランクシャフト2の中心軸XCに対して所定角度分だけ傾いた状態でセットされる。
【0025】
上述のように圧入装置1に対してベアリングアセンブリ5およびクランクシャフト2をセットした状態において、駆動機構11から押込み機構10に押込み力を付与して、第1および第2の押込み治具13を一体的に下降させ、第1の押込み治具12の当接面12aをベアリングアセンブリ5の上端面5aに当接させる。この際、第1の押込み治具12は、固定用治具21の傾きに倣ってクランクシャフト2の中心軸XCに対して傾いた状態にあるため、当接面12aについても傾いた状態で上端面5aと片当りする(図2を参照)。この際、第1の押込み治具は弾性機構18を介して第2の押込み治具に対して傾動可能に支持された状態にある。そのため、片当りした状態からさらに第1の押込み治具12を下降させることで、片当りした側の弾性機構18(弾性部材)が反対側に比べて大きく収縮し、当接面12aがベアリングアセンブリ5の上端面5aと平行になる向きに、第1の押込み治具12が傾動する。これにより、図3に示すように、第1の押込み治具12がベアリングアセンブリ5の上端面5aと全周で当接する。この状態では、第1の押込み治具12とベアリング4(ベアリングアセンブリ5)の中心軸、およびベアリング4と位置合わせされた状態にあるクランクシャフト2の中心軸XCは一致もしくは平行になっている。第2の押込み治具13については、固定用治具21と同一の姿勢を取っているため、未だクランクシャフト2の中心軸XCに対して傾いた状態にある。
【0026】
そして、この状態からさらに第2の押込み治具13を下方に向けて押込むことで、第2の押込み治具13が第1の押込み治具12と当接する。ここで、第2の押込み治具13と第1の押込み治具12には、互いに当接可能な部分球面19,20が設けられているので、第2の押込み治具13の第1の押込み治具12に対する姿勢の如何に関らず、図4に示すように、部分球面19,20を介して、双方の押込み治具12,13が十分な面積で確実に密着する。よって、第1の押込み治具12に十分な大きさの押込み力(圧入に必要な大きさの負荷)が伝達される。
【0027】
このようにして双方の押込み治具12,13を当接させた状態において、第1の押込み治具12の当接面12aは既にベアリングアセンブリ5の上端面5aと全周で当接している(図4を参照)。また、第2の押込み治具13は、上述の通り、駆動機構11の押圧部17に対して押込み力と直交する向きにスライドできるように支持されている(図1、図4を参照)。従って、第2の押込み治具13は、駆動機構11の押圧部17に対して若干の滑りを生じながら、駆動機構11から押込み力を受けた方向ではなく、第1の押込み治具12とベアリングアセンブリ5との当接方向に沿って、第1の押込み治具12と一体的にベアリング4をクランクシャフト2大径部の外周面2aに押込む向きに移動する。図5でいえば、駆動機構11の押圧部17のみが固定用治具21の中心軸XZに沿った向きに移動し、第2の押込み治具13は第1の押込み治具12と一体的に、クランクシャフト2の中心軸XCに沿った向きに移動する(図5中、1点鎖線で示す位置から実線で示す位置に向けて移動する)。これにより、ベアリングアセンブリ5に組付けられた状態のベアリング4が、クランクシャフト2の圧入部位に適正な姿勢で圧入される(図6を参照)。従って、図2〜図4に示すように、駆動機構11や第2の押込み治具13がベアリング4の正規の押込み方向(圧入方向)に対して傾いている場合であっても、ベアリング4を圧入部位に向けて正確に押込むことができる。これにより、不当に高い圧入力を要することなくスムーズな圧入を図ることができる。また、正確かつスムーズに圧入できるので、圧入代の偏りが解消されてバリやカジリ等の発生を避けることができ、これにより高品質な圧入アセンブリを得ることができる。
【0028】
また、この実施形態では、第1の押込み治具12を、第2の押込み治具13に対して弾性機構18を介して傾動可能に支持するようにしたので、第1の押込み治具12がベアリングアセンブリ5に対して片当りした際、弾性機構18(弾性部材)の圧縮に伴い、ベアリングアセンブリ5と全周で当接可能な向きに第1の押込み治具12が傾動する。従って、第1の押込み治具12をベアリングアセンブリ5に押し付けることで、第1の押込み治具12をベアリングアセンブリ5の圧入に適した姿勢に修正することができ、圧入精度を容易に高めることが可能となる。
【0029】
また、この実施形態では、第1の押込み治具12がベアリングアセンブリ5と全周で当接した状態で、圧入装置1(の固定用治具21)と、クランクシャフト2との当接面21a,2b間の中央点Oを球面中心とする環状の部分球面19が第1の押込み治具12に設けられると共に、この部分球面19と略同一の曲率半径を有する部分球面20が第2の押込み治具13に形成されている。このように、圧入装置1と被圧入部品(クランクシャフト2)との当接面21a,2b(当接点となる中央点O)を基準として部分球面19,20が形成されていることにより、圧入装置1(の固定用治具21)の中心軸XZがクランクシャフト2の中心軸XCに対する傾きの方向ないし大きさの如何に関らず、双方の押込み治具12,13を部分球面19,20を介して確実に当接させることができる。また、この際、第2の押込み治具13の部分球面20を第1の押込み治具12の部分球面19と略同一の曲率半径としたので、密着面積を確保して、圧入に必要な大きさの押込み力をぶれることなく確実に第1の押込み治具12に伝達することが可能となる。
【0030】
以上、本発明に係る圧入装置の一実施形態を説明したが、この圧入装置は、上記例示の形態に限定されることなく任意の形態を採ることができる。
【0031】
例えば、上述の部分球面19,20に関し、必ずしも双方の部分球面19,20が略同一の曲率半径を有する必要はなく、例えば第2の押込み治具13に形成される部分球面20の曲率半径を第1の押込み治具12に形成される部分球面19の曲率半径に比べて若干大きく設定することも可能である。もちろん、第1および第2の押込み治具12,13が密着して一体的に移動可能な限りにおいて、種々の形状をとることが可能であり、例えば、部分球面19,20の一方又は双方を、曲率半径の異なる2以上の部分球面で構成することも可能である。
【0032】
また、双方の押込み治具12,13間に配設される弾性機構18は必須ではなく、例えばジョイント等を介して、第1の押込み治具12が第2の押込み治具13に対して傾動可能(ただし、部分球面19,20間の対向間隔は一定)に構成してもよい。さらにいえば、第1の押込み治具12は、第2の押込み治具13に対して傾いた状態で圧入部品(ベアリング4又はベアリングアセンブリ5など)と当接可能に構成されていれば足りるので、例えば第1の押込み治具12を第2の押込み治具13とは別個独立に形成して、この第1の押込み治具12を先にベアリングアセンブリ5の上端面5aに載置した状態から、第2の押込み治具13を下降させて、その部分球面20を第1の押込み治具12の部分球面19に当接させるようにしても構わない。
【0033】
また、第2の押込み治具13と駆動機構11との当接形態(押込み力の伝達形態)は特に上記実施形態には限られない。第2の押込み治具13が駆動機構11に対して押込み力と交差する向きにスライドできるように支持されている限りにおいて、他の形態を採ることも可能である。
【0034】
また、本発明に係る圧入装置1は、上記実施形態に例示の圧入部品以外の部品に対しても適用可能である。例えばリングギヤ3以外の部品をベアリング4に組付けてなるベアリングアセンブリ5を、エンジンユニット8としてサブアセンブリされた状態のクランクシャフト2に圧入する場合にも、本発明に係る圧入装置1を好適に使用できる。もちろん、ベアリング4単体をクランクシャフト2に圧入する場合や、クランクシャフト2単体に
ベアリング4を圧入する場合にも本発明に係る圧入装置1を使用できる。さらには、ベアリング4以外の圧入部品をクランクシャフト2以外の被圧入部品に圧入する場合にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 圧入装置
2 クランクシャフト
2a 外周面
2b 端面
2c 面取り部
3 リングギヤ
4 ベアリング
4a 面取り部
5 ベアリングアセンブリ
5a 上端面
6 シリンダブロック
7 オイルパン
8 エンジンユニット
9 基部
10 押込み機構
11 駆動機構
12 第1の押込み治具
13 第2の押込み治具
16,18 弾性機構
17 押圧部
19,20 部分球面
21 固定用治具
O 中央点
C 中心軸(クランクシャフト)
Z 中心軸(固定用治具)
101,106 位置決め用の治具
102 クランクシャフト
102a 外側端面
102b 最も外側の端面
103 押込み用の治具
104 ベアリング
105 他の部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧入部品を被圧入部品の圧入部位に向けて押込む押込み機構と、該押込み機構に押込み力を付与する駆動機構とを具備するものであって、
前記押込み機構は、前記圧入部品と当接可能な第1の押込み治具と、該第1の押込み治具と当接して、前記駆動機構から受けた押込み力を前記第1の押込み治具に伝達する第2の押込み治具とを有し、
前記第1の押込み治具は、前記第2の押込み治具に対して傾いた状態で前記圧入部品と当接可能に構成されると共に、
前記第1の押込み治具と前記第2の押込み治具には、互いに当接可能な部分球面がそれぞれ設けられており、かつ、
前記第2の押込み治具は、前記駆動機構に対して押込み力と交差する向きにスライドできるように支持されている、圧入装置。
【請求項2】
前記第1の押込み治具は、前記第2の押込み治具に対して弾性機構を介して傾動可能に支持されている請求項1に記載の圧入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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