圧力センサ及び圧力検出装置
【課題】圧力センサの外部の圧力値を測定するにあたって、当該圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えること。
【解決手段】圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化するようにその長辺がATカットの水晶基板20における結晶軸方向のX軸に沿うように形成された主水晶振動子14aと共に、圧力センサの外部の圧力値によっては発振周波数がほとんど変化しないようにその長辺がATカットの水晶基板20におけるX軸から60°ずれた方向と平行になるように形成された補助水晶振動子14bを容器13内に配置して、これら水晶振動子14a、14bにより検出される周波数f1、f2の差分を取る。
【解決手段】圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化するようにその長辺がATカットの水晶基板20における結晶軸方向のX軸に沿うように形成された主水晶振動子14aと共に、圧力センサの外部の圧力値によっては発振周波数がほとんど変化しないようにその長辺がATカットの水晶基板20におけるX軸から60°ずれた方向と平行になるように形成された補助水晶振動子14bを容器13内に配置して、これら水晶振動子14a、14bにより検出される周波数f1、f2の差分を取る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いた圧力センサ及び圧力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のタイヤの空気圧をモニタリングし、設定された空気圧以下になると警報を発するTPMS(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)が知られており、このシステムにおいて空気圧を測定する圧力センサとして、例えば水晶を用いた圧電振動子を使用することが検討されている。
【0003】
この圧力センサは、例えば上面側が開口するように概略箱型に形成されたベース体と、下面側の周縁部が周方向に亘って当該ベース体の上端面に接続されると共にベース体側(下面側)の中央領域が窪むように構成された概略板状のダイヤフラムと、これらベース体及びダイヤフラムからなる容器内に収納されるように配置された概略短冊形状の例えばATカットの圧電振動子と、から構成される。この圧電振動子は、長辺方向が例えば結晶軸のX軸方向と平行になるように切断されており、圧力センサの外部から加えられる圧力によってダイヤフラムの下面が水平方向に伸長する時には、当該水平方向に撓むように、前記中央領域を介してダイヤフラムに固定されている。圧電振動子が撓むことによって当該圧電振動子の発振周波数が変化するので、この発振周波数の変化により、圧力センサの外部の圧力値が検出される。
【0004】
一方、この圧力センサにおける圧電振動子は、前記圧力値以外にも、圧力センサ(圧電振動子)の置かれる雰囲気の温度によっても発振周波数が変わる。そのため、例えば圧力センサとは別に温度センサをタイヤあるいは車両に設けて、圧電振動子の発振周波数の変化分から温度に対応する変化分を差し引きして、タイヤ内部の圧力値を算出することが好ましい。
しかし、圧力センサとは別に温度センサを設けると、圧電振動子の置かれている雰囲気の温度と同じ温度を測定しているとは言えない場合があり、従ってタイヤ内部の圧力値を正確に測定できないおそれがある。また、圧力センサと別に温度センサを設けると、システム全体の構成が煩雑になったり大型化したりするおそれもある。
特許文献1〜3には、このような圧力センサが記載されており、また特許文献4には、センサ素子が記載されているが、既述の課題については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−070240
【特許文献2】特開2010−019606
【特許文献3】国際公開2005/003711
【特許文献4】特開2008−026252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えることができ、高い精度で圧力を検出できる圧力センサ及び圧力検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧力センサは、
容器と、
この容器の一部をなし、外部からの圧力により撓むように構成されたダイヤフラムと、
前記圧力の大きさに応じて発振周波数が変化するように前記容器内において前記ダイヤフラムに固定され、ATカットの圧電基板を含む主圧電振動子と、
温度検出用の圧電振動子として前記容器内において前記主圧電振動子に対して離間して設けられ、前記圧電基板とは切断方位の異なるATカットの圧電基板を含む補助圧電振動子と、を備えたことを特徴とする。
前記主圧電振動子は、その長手方向がX軸方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であり、
前記補助圧電振動子は、その長手方向がX軸方向から40°〜70°回転させた方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であっても良い。
前記補助圧電振動子は、前記主圧電振動子に隣接して前記ダイヤフラムに固定されていても良い。
【0008】
本発明の圧力検出装置は、
前記いずれか一つに記載の圧力センサと、
前記主圧電振動子及び前記補助圧電振動子に夫々接続された主発振回路及び補助発振回路と、
前記主圧電振動子の発振周波数と前記補助圧電振動子の発振周波数との差分を求める周波数差演算部と、
この差分に基づいて圧力センサに加わる圧力値を推定する圧力推定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化する主圧電振動子と共に、この主圧電振動子の圧電基板とは切断方位の異なる圧電基板を含む補助圧電振動子を温度検出用の圧電振動子として容器内に配置して、これら圧電振動子によって検出される周波数の差分を取っている。そのため、圧力センサの置かれる雰囲気の温度に対応した周波数の変化分を前記主圧電振動子の周波数の変動分から差し引きすることができるので、前記温度の影響を抑えて前記圧力値を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の圧力センサの一例を示す斜視図である。
【図2】前記圧力センサを示す縦断面図である。
【図3】前記圧力センサを示す平面図である。
【図4】前記圧力センサの水晶振動子の切断方位を示す模式図である。
【図5】前記圧力センサに用いられる水晶振動子の切断方位を示す模式図である。
【図6】前記水晶振動子の圧力に対する周波数変化を示す特性図である。
【図7】前記水晶振動子の温度に対する周波数変化を模式的に示す特性図である。
【図8】前記水晶振動子の周波数の変動量と圧力値との対応関係を模式的に示す特性図である。
【図9】前記圧力センサを備えた圧力検出装置の一例を示す回路図である。
【図10】前記圧力センサの製造方法の一例を示す平面図である。
【図11】前記圧力センサの他の例を示す縦断面図である。
【図12】前記圧力センサの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の圧力センサの実施の形態の一例について、図1〜図3を参照して説明する。圧力センサ10は、例えば各々水晶により構成されたベース体11及び蓋体12からなる容器13と、この容器13内に設けられ、互いに隣接するように並べられた2つの圧電振動子である短冊状(板状)の水晶振動子14、14と、を備えており、後述するように、これら水晶振動子14、14を用いて、温度の影響を抑えて外部の圧力を測定するように構成されている。ベース体11は、例えば上方側が開口するように概略箱型に形成されており、当該ベース体11の周縁部に蓋体12の下面側が接着されることにより容器13が構成される。蓋体12は、外周面が前記ベース体11の外周面に沿うように概略板状に形成されており、容器13(蓋体12の上面側)に圧力が加わると、この圧力の大きさに応じて例えば下方側に撓むと共に、下面側が当該圧力によって水平方向に伸長するダイヤフラム(弾性板)として構成されている。
【0012】
蓋体12の下面側における概略中央部には例えば円筒形状の凹部15が形成されており、既述の水晶振動子14、14の各々の長手方向における一端側及び他端側は、この凹部15の外縁部よりも外側の位置において蓋体12の下面に例えば接着剤を介して各々固定されている。従って、これら水晶振動子14、14は、蓋体12に対して上方側から圧力が加えられて当該蓋体12の下面が水平方向に伸びると、各々の長さ方向に伸長しようとする応力が生じて(あるいは蓋体12と共に伸長して)、発振周波数が各々変化することになる。尚、図3は蓋体12を下方側から見た様子を示しており、図1は蓋体12の一部を切り欠いて示している。
【0013】
水晶振動子14、14の各々は、ATカット板からなる水晶基板20と、この水晶基板20の上面及び下面の概略中央位置に当該水晶基板20の内部領域を介して互いに対向するように配置された励振電極21、21とを備えており、励振電極21の形成された領域が既述の凹部15の下方に位置するように配置されている。図4に示すように、これら水晶振動子14、14のうち一方は長手方向(長辺方向)が水晶基板の結晶軸方向におけるX軸に沿うように切断され、他方は長手方向が水晶基板の結晶軸方向におけるX軸から60°程度具体的には62°ずれた方向(回転した方向)に沿うように切断されている。これら2つの水晶基板20、20は、後述するように、共通の水晶ウエハ51から切り出されたものである。図1〜図3において22は、ベース体11と蓋体12との間を介して圧力センサの外部から各々の励振電極21に接続された引き回し電極である。尚、これら水晶振動子14、14の各々の励振電極21、21は、各々の水晶振動子14、14において発振周波数が互いに僅かにずれるように、例えば膜厚寸法や面積などが互いに異なるように形成されているが、図1〜図3では省略している。また、図4において100は、水晶ウエハが切り出される前の水晶インゴットを示している。
【0014】
これら2つの水晶振動子14、14について、長手方向がX軸に沿うように切断された水晶振動子14を主水晶(圧電)振動子14a、長手方向がX軸から60°程度ずれた方向に沿うように切断された水晶振動子14を補助(リファレンス用)水晶振動子14bと呼ぶと、この例では図1において奥側に主水晶振動子14aが配置され、手前側に補助水晶振動子14bが配置されている。これら主水晶振動子14a及び補助水晶振動子14bの間の離間寸法は、例えば0.5mmとなっている。尚、図1〜図3における「XYZ」の記載は、前記結晶軸ではなく、各図における圧力センサの向きを示している。
【0015】
続いて、この圧力センサにおいて2つの水晶振動子14a、14bを配置した理由を以下に説明する。即ち、既述のATカットの水晶振動子14は、基準温度T0において基準電圧V0を印加すると、ある固有の基準周波数f0で発振し、この状態で当該水晶振動子14に圧力が加わる(あるいは圧力によって伸長する)と、発振周波数が例えば周波数fPに変化する。この周波数の変化量ΔfP(ΔfP=f0−fP)は、水晶振動子14に加えられる圧力値Pに応じて変化するが、ある大きさの圧力が加えられた時に周波数が変化する割合(ΔfP/P)は、水晶振動子14の長手方向が結晶軸方向のどの方向を向いているかによって異なる。
【0016】
図6は、ATカットの水晶振動子14について、図5のように、結晶軸方向のX軸に対して長手方向の辺(長辺)がなす角度θを種々変えて複数の水晶振動子14を作製し、各々の水晶振動子14に対して長手方向両側からある一定の大きさの圧力を加えた時に、周波数がどの程度変化したかを表す割合kf(kf=Δf/f0)を示している。図6から分かるように、ATカットの水晶振動子14は、その長手方向が結晶軸方向においてX軸と平行になっている時に、加えられる圧力に対して周波数が大きく変動し、一方長手方向が結晶軸方向においてX軸から60°程度ずれた方向と平行になっている時には、圧力が加わってもほとんど周波数が変化しない。既述の図3には、各々の水晶振動子14a、14bの上面にこの角度θを併せて記載している。
【0017】
ところで、ATカットの水晶振動子14は、例えば図7に概略的に示すように、その切断方位にはほぼ関係なく、当該水晶振動子14の置かれている雰囲気の温度に応じて発振周波数が変動する。従って、既述の主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとを同じ容器13内に収納して容器13の外部の圧力を測定すると、主水晶振動子14aは外部の圧力値に応じて発振周波数が変化すると共に、圧力センサの置かれている雰囲気の温度即ち容器13内の温度に応じて発振周波数が変化する。そのため、主水晶振動子14aについて、基準周波数、圧力値に応じて変化する周波数の変化量及び前記温度に応じて変化する周波数の変化量を夫々f01、ΔfP1及びΔfT1とすると、温度Tにおいて外部から圧力値Pを加えた時に検出される周波数f1は、
f1=f01+ΔfP1+ΔfT1 ・・・(1)
となる。
【0018】
一方、補助水晶振動子14bについては、既述のように圧力によって周波数がほとんど変化しないので、即ち基準周波数、圧力値に応じて変化する周波数の変化量及び前記温度に応じて変化する周波数の変化量を夫々f02、ΔfP2及びΔfT2すると、ΔfP2≒ゼロなので、同様に温度Tにおいて外部から圧力値Pを加えた時に検出される周波数f2は、
f2=f02+ΔfT2 ・・・(2)
となる。
【0019】
そのため、(1)式と(2)式との差分を取ると、
f1−f2=f01+ΔfP1+ΔfT1−(f02+ΔfT2)・・(3)
が得られる。
ここで、主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとは同じ容器13内に収納されており、ほとんど同じ温度の雰囲気に置かれているので、ΔfT1≒ΔfT2と言える。従って、(3)式は、
f1−f2=f01+ΔfP1−f02 ・・・(4)
となる。この(4)式における基準周波数f01、f02はいずれも既知であることから、つまり既述のように基準温度T0において水晶振動子14a、14bに対して基準電圧V0を各々印加して予め求められる値であることから、(4)式の両辺から(f01−f02)を差し引くと、
δf=f1−f2−(f01−f02)=ΔfP1 ・・・(5)
が得られる。尚、この(5)式について、圧力値Pを算出する度に(f01−f02)を差し引くようにしても良いし、あるいは夫々の周波数f1、f2からf01、f02を予め差し引いた値((f1−f01)及び(f2−f02))を既述の(1)〜(4)式の計算に用いて、(5)式の計算を行わないようにしても良い。更に、基準周波数f01、f02が互いに同じ値である場合には、(5)式において(f01−f02)がゼロとなることから、このようなf01、f02について計算しなくても良い。即ち、このような場合には、既述の(4)式及び(5)式に代えて、以下の(5−1)式が用いられる。
δf=f1−f2=ΔfP1 ・・・(5−1)
【0020】
従って、この(5)式(または(5−1)式)から得られる算出結果δfは、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えながら、外部の圧力値Pに応じた周波数変化を測定した値(既述の変化量ΔfP)となる。即ち、この算出結果δfは、基準温度T0において主水晶振動子14aに基準電圧V0を印加すると共に、外部から圧力値Pの圧力を加えた時に得られる周波数の変化量となる。そして、図8に示すように、この算出結果δfを予め算出していた圧力値Pと周波数の変化量Δfとの対応関係に照らし合わせることにより、圧力センサの外部の圧力値Pが求められる。尚、以上の各式(1)〜(4)式において、各値(基準周波数、圧力値に応じた周波数の変化量及び温度に応じた周波数の変化量)を加算したが、圧力センサに加えられる実際の圧力値や基準温度T0に対する容器13内の温度によっては、減算される場合もある。
【0021】
続いて、既述の圧力センサを備えた圧力検出装置について、図9を参照して説明する。この圧力検出装置は、以上において説明したように、主水晶振動子14a及び補助水晶振動子14bにより夫々検出される周波数f1、f2の差分を取ることにより、即ち補助水晶振動子14bを温度検出用のリファレンスとして用いることにより、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えて、当該圧力センサの外部の圧力値を検出するようにしている。
【0022】
具体的には、水晶振動子14a、14bには、夫々主発振回路31及び補助発振回路32が前記引き回し電極22を介して夫々接続されており、これら発振回路31、32には、基準電圧V0が印加される共通の入力端33が接続されている。そして、これら発振回路31、32には、既述のように、水晶振動子14a、14bの夫々の周波数f1、f2の差分を取るための周波数差演算部34が接続されている。周波数差演算部34は、発振回路31、32からの出力が正弦波である場合には、例えば混合器(掛算器)とこの混合器の後段に接続されたローパスフィルタとにより構成しても良い。
【0023】
この周波数差演算部34には、加算部35が接続されており、この加算部35は、水晶振動子14a、14bの基準周波数f01から基準周波数f02を差し引いて(f01−f02)、前記周波数差演算部34にて得られた算出結果からこの差し引いた結果(f01−f02)を減算するためのものである。加算部35には、当該加算部35にて得られた差分δfと、予め求められていた周波数の変化量Δf及び圧力値Pとの相関関係と、から圧力センサに加えられる圧力値Pを推定する圧力推定部36が接続されている。これら加算部34、35及び圧力推定部36は、制御部40をなす。尚、既述のように、(4)式及び(5)式に代えて(5−1)式を用いる場合には、加算部35を設けなくても良い。
【0024】
周波数差演算部34が既述のように混合器(掛算器)とローパスフィルタとにより構成される場合には、圧力推定部36は、入力された正弦波から、当該正弦波の周波数に対応する周波数の矩形パルスを作成し、この矩形パルスをカウントして、そのカウント値と、カウント値及び圧力値の関係を示すデータベースとに基づいて圧力値を推定する構成を採っても良い。また、このような構成に限られず、発振回路31、32の後段に、発振出力である正弦波の周波数に対応する周波数の矩形パルスを作成する回路を夫々設けると共に、各々の回路のパルス信号をカウントする2つのパルスカウンタを設け、これらカウンタのカウント値の差分を演算器により取り出すようにしても良い。この場合、パルスカウンタ及び演算器が周波数差演算部34に相当する。
【0025】
こうして圧力センサを例えばタイヤのバルブに取り付けると、即ちタイヤの内部の雰囲気に蓋体12の外面が当接するように圧力センサを設けると、タイヤの内部の圧力に応じて蓋体12が容器13側に撓むと共に、蓋体12の下面が水平方向に伸長する。そして、水晶振動子14a、14bは、蓋体12の撓み量に応じて水平方向に撓み(あるいは応力が生じて)、この撓みや圧力センサの外部の温度により発振周波数f1、f2で夫々発振する。そして、既述の加算部34、35及び圧力推定部36を介してタイヤ内部の圧力値Pが検出される。
【0026】
ここで、圧力センサの製造方法の一例について説明する。先ず、図10(a)に示すように、Zカットの水晶からなるウエハ50に対して、例えば複数の蓋体12の外形に対応するように、フォトリソグラフィー法によってマスクの形成を行い、続いて例えばフッ酸水溶液を用いたウェットエッチングを行う。そして、同様に各々の蓋体12に凹部15を形成する。図10中60は、ウエハ50に対して各々の蓋体12を支持する棒状の支持部であり、前記エッチングは、この支持部60が残るように行われる。尚、図10では円板状のウエハ50を用いているが、既述の図4に示したように矩形(板状)のウエハ50を用いても良い。後述のウエハ51、52についても同様である。
【0027】
続いて、同図(b)に示すように、ATカットの水晶からなるウエハ51に対して、マスクの形成及びエッチングにより主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとを形成する。これら水晶振動子14a、14bは、既述のように主水晶振動子14aの長手方向が結晶軸方向のX軸に沿うように、また補助水晶振動子14bの長手方向が結晶軸方向のX軸から60°ずれた方向に沿うように形成される。そして、図10(c)に示すように、同様にZカットの水晶からなるウエハ52に対して、ベース体11の外形に対応するようにマスクの形成及びエッチングを行うと共に、水晶振動子14a、14bの収納される領域をエッチングにより形成する。
【0028】
次いで、水晶振動子14a、14bに、例えば各々クロム(Cr)上に金(Au)を積層した金属膜からなる励振電極21を形成すると共に、蓋体12あるいはベース体11に引き回し電極22を形成する。そして、3枚のウエハ50〜52をこの順番で互いの位置合わせをしながら積層し、図示しない接着剤を用いて互いに接着する。その後、ダイシングによって支持部60を切断することによって、各々の圧力センサが個片化される。
【0029】
上述の実施の形態によれば、圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化する主水晶振動子14aと共に、この主水晶振動子14aの水晶基板20とは切断方位の異なる水晶基板20を備えた補助水晶振動子14bを容器13内に配置して、これら水晶振動子14a、14bにより検出される周波数f1、f2の差分を取っている。そのため、いわば補助水晶振動子14bを温度検出用のリファレンスとして用いることができるので、圧力センサの外部の雰囲気の温度の影響を抑えて圧力値を検出できる。また、補助水晶振動子14bについて、主水晶振動子14aに近接するように配置しているため、当該主水晶振動子14aの温度に極めて近い温度を測定できる。従って、例えば圧力センサの外部に温度センサを設ける場合と比較して、圧力センサの置かれている雰囲気の温度の影響をより一層抑えることができる。
【0030】
更に、水晶振動子14a、14bを共通のウエハ51から切り出しているので、水晶基板20の物性や寸法(不純物の量、圧電性や厚み寸法などに起因する物理定数や電気的定数)が互いに揃っている。そのため、既述のようにこれら水晶振動子14a、14bの周波数f1、f2を差し引きしたときに、前記物性や寸法などに起因する周波数の誤差がキャンセルされるため、これら誤差の影響を抑えて既述の圧力値Pを測定できる。また、圧力センサの温度を検出する温度センサを当該圧力センサの内部に補助水晶振動子14bとして設けることにより、温度センサを外部に設ける場合と比べて、システム全体の構成について簡略化及び小型化を図ることができる。
【0031】
既述の例では、補助水晶振動子14bを主水晶振動子14aと共に蓋体12の下面に固定したが、補助水晶振動子14bについては圧力の測定が不要であるため、図11に示すように、ベース体11の下面に固定するようにしても良い。図11中70は、補助水晶振動子14bが発振できるようにするために、これら補助水晶振動子14bとベース体11との間に介設されたゴムなどの弾性体である。
また、水晶振動子14a、14bを個別に配置したが、図12に示すように、水晶振動子14a、1bを一体化しても良い。即ち、これら水晶振動子14a、14bの基端部同士が互いに接続されると共に、当該基端部から夫々の他端部が互いに60°ずれた方向に伸びるように、既述のウエハ51から切り出しても良い。この場合であっても、既述の例と同様の効果が得られる。
【0032】
更に、主水晶振動子14aの長辺がX軸に沿うと共に、補助水晶振動子14bの長辺がX軸から60°ずれた方向に沿うようにこれら水晶振動子14a、14bを形成したが、例えば主水晶振動子14aの長辺がX軸から10°ずれた方向に沿うようにしても良いし、また補助水晶振動子14bの長辺がX軸から40°〜70°ずれた方向に沿うようにしても良い。即ち、これら水晶振動子14a、14bについて、主水晶振動子14aでは外部の圧力に応じて周波数が変動し、補助水晶振動子14bでは当該主水晶振動子14aに対して圧力による周波数の変化量が小さくなるようにすれば良い。また、水晶振動子14a、14bについて、互いに異なるウエハ51から切り出すようにしても良い。
【0033】
既述の振動子14a、14bに用いられる基板としては、水晶基板20に代えて、LiTaO3(タンタル酸リチウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、La3Ga5SiO14(ランガサイト)などからなる圧電基板を用いても良い。この場合においても、振動子14aについては圧力及び温度に応じて周波数が変動し、振動子14bについては圧力が変動してもほとんど周波数が変化せず、一方温度に応じて周波数が変化するように夫々の切断方位が調整される。また、前記圧電基板のうち一の基板を振動子14aとして用いると共に、圧電基板のうち他の基板を振動子14bとして用いても良い。
【0034】
既述の圧力センサを製造するにあたって、蓋体12、水晶振動子14a、14b及びベース体11を個片化した後接着しても良い。また、各ウエハ50、52としては、水晶に代えてガラス板、Si基板あるいは金属板を用いてもよい。既述の例において、互いのウエハ50〜52を接着する接着剤としては、ガラスペーストなどが用いられ、例えば大気雰囲気において300°〜500°程度の温度で加熱することにより当該接着剤を介して各々のウエハ50〜52が接着される。
また、水晶振動子14a、14bの一端側及び他端側を夫々ベース体11の下面に固定したが、例えば前記一端側をベース体11の下面に固定すると共に、前記他端側を容器13(ベース体11)の内壁部に固定しても良い。
【符号の説明】
【0035】
10 圧力センサ
11 ベース体
12 蓋体
13 容器
14 水晶振動子
20 水晶基板
31 主発振回路
32 補助発振回路
33 入力端
34 周波数差演算部
35 第2の加算部
36 圧力推定部
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電振動子を用いた圧力センサ及び圧力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のタイヤの空気圧をモニタリングし、設定された空気圧以下になると警報を発するTPMS(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)が知られており、このシステムにおいて空気圧を測定する圧力センサとして、例えば水晶を用いた圧電振動子を使用することが検討されている。
【0003】
この圧力センサは、例えば上面側が開口するように概略箱型に形成されたベース体と、下面側の周縁部が周方向に亘って当該ベース体の上端面に接続されると共にベース体側(下面側)の中央領域が窪むように構成された概略板状のダイヤフラムと、これらベース体及びダイヤフラムからなる容器内に収納されるように配置された概略短冊形状の例えばATカットの圧電振動子と、から構成される。この圧電振動子は、長辺方向が例えば結晶軸のX軸方向と平行になるように切断されており、圧力センサの外部から加えられる圧力によってダイヤフラムの下面が水平方向に伸長する時には、当該水平方向に撓むように、前記中央領域を介してダイヤフラムに固定されている。圧電振動子が撓むことによって当該圧電振動子の発振周波数が変化するので、この発振周波数の変化により、圧力センサの外部の圧力値が検出される。
【0004】
一方、この圧力センサにおける圧電振動子は、前記圧力値以外にも、圧力センサ(圧電振動子)の置かれる雰囲気の温度によっても発振周波数が変わる。そのため、例えば圧力センサとは別に温度センサをタイヤあるいは車両に設けて、圧電振動子の発振周波数の変化分から温度に対応する変化分を差し引きして、タイヤ内部の圧力値を算出することが好ましい。
しかし、圧力センサとは別に温度センサを設けると、圧電振動子の置かれている雰囲気の温度と同じ温度を測定しているとは言えない場合があり、従ってタイヤ内部の圧力値を正確に測定できないおそれがある。また、圧力センサと別に温度センサを設けると、システム全体の構成が煩雑になったり大型化したりするおそれもある。
特許文献1〜3には、このような圧力センサが記載されており、また特許文献4には、センサ素子が記載されているが、既述の課題については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−070240
【特許文献2】特開2010−019606
【特許文献3】国際公開2005/003711
【特許文献4】特開2008−026252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えることができ、高い精度で圧力を検出できる圧力センサ及び圧力検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧力センサは、
容器と、
この容器の一部をなし、外部からの圧力により撓むように構成されたダイヤフラムと、
前記圧力の大きさに応じて発振周波数が変化するように前記容器内において前記ダイヤフラムに固定され、ATカットの圧電基板を含む主圧電振動子と、
温度検出用の圧電振動子として前記容器内において前記主圧電振動子に対して離間して設けられ、前記圧電基板とは切断方位の異なるATカットの圧電基板を含む補助圧電振動子と、を備えたことを特徴とする。
前記主圧電振動子は、その長手方向がX軸方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であり、
前記補助圧電振動子は、その長手方向がX軸方向から40°〜70°回転させた方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であっても良い。
前記補助圧電振動子は、前記主圧電振動子に隣接して前記ダイヤフラムに固定されていても良い。
【0008】
本発明の圧力検出装置は、
前記いずれか一つに記載の圧力センサと、
前記主圧電振動子及び前記補助圧電振動子に夫々接続された主発振回路及び補助発振回路と、
前記主圧電振動子の発振周波数と前記補助圧電振動子の発振周波数との差分を求める周波数差演算部と、
この差分に基づいて圧力センサに加わる圧力値を推定する圧力推定部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化する主圧電振動子と共に、この主圧電振動子の圧電基板とは切断方位の異なる圧電基板を含む補助圧電振動子を温度検出用の圧電振動子として容器内に配置して、これら圧電振動子によって検出される周波数の差分を取っている。そのため、圧力センサの置かれる雰囲気の温度に対応した周波数の変化分を前記主圧電振動子の周波数の変動分から差し引きすることができるので、前記温度の影響を抑えて前記圧力値を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態の圧力センサの一例を示す斜視図である。
【図2】前記圧力センサを示す縦断面図である。
【図3】前記圧力センサを示す平面図である。
【図4】前記圧力センサの水晶振動子の切断方位を示す模式図である。
【図5】前記圧力センサに用いられる水晶振動子の切断方位を示す模式図である。
【図6】前記水晶振動子の圧力に対する周波数変化を示す特性図である。
【図7】前記水晶振動子の温度に対する周波数変化を模式的に示す特性図である。
【図8】前記水晶振動子の周波数の変動量と圧力値との対応関係を模式的に示す特性図である。
【図9】前記圧力センサを備えた圧力検出装置の一例を示す回路図である。
【図10】前記圧力センサの製造方法の一例を示す平面図である。
【図11】前記圧力センサの他の例を示す縦断面図である。
【図12】前記圧力センサの他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の圧力センサの実施の形態の一例について、図1〜図3を参照して説明する。圧力センサ10は、例えば各々水晶により構成されたベース体11及び蓋体12からなる容器13と、この容器13内に設けられ、互いに隣接するように並べられた2つの圧電振動子である短冊状(板状)の水晶振動子14、14と、を備えており、後述するように、これら水晶振動子14、14を用いて、温度の影響を抑えて外部の圧力を測定するように構成されている。ベース体11は、例えば上方側が開口するように概略箱型に形成されており、当該ベース体11の周縁部に蓋体12の下面側が接着されることにより容器13が構成される。蓋体12は、外周面が前記ベース体11の外周面に沿うように概略板状に形成されており、容器13(蓋体12の上面側)に圧力が加わると、この圧力の大きさに応じて例えば下方側に撓むと共に、下面側が当該圧力によって水平方向に伸長するダイヤフラム(弾性板)として構成されている。
【0012】
蓋体12の下面側における概略中央部には例えば円筒形状の凹部15が形成されており、既述の水晶振動子14、14の各々の長手方向における一端側及び他端側は、この凹部15の外縁部よりも外側の位置において蓋体12の下面に例えば接着剤を介して各々固定されている。従って、これら水晶振動子14、14は、蓋体12に対して上方側から圧力が加えられて当該蓋体12の下面が水平方向に伸びると、各々の長さ方向に伸長しようとする応力が生じて(あるいは蓋体12と共に伸長して)、発振周波数が各々変化することになる。尚、図3は蓋体12を下方側から見た様子を示しており、図1は蓋体12の一部を切り欠いて示している。
【0013】
水晶振動子14、14の各々は、ATカット板からなる水晶基板20と、この水晶基板20の上面及び下面の概略中央位置に当該水晶基板20の内部領域を介して互いに対向するように配置された励振電極21、21とを備えており、励振電極21の形成された領域が既述の凹部15の下方に位置するように配置されている。図4に示すように、これら水晶振動子14、14のうち一方は長手方向(長辺方向)が水晶基板の結晶軸方向におけるX軸に沿うように切断され、他方は長手方向が水晶基板の結晶軸方向におけるX軸から60°程度具体的には62°ずれた方向(回転した方向)に沿うように切断されている。これら2つの水晶基板20、20は、後述するように、共通の水晶ウエハ51から切り出されたものである。図1〜図3において22は、ベース体11と蓋体12との間を介して圧力センサの外部から各々の励振電極21に接続された引き回し電極である。尚、これら水晶振動子14、14の各々の励振電極21、21は、各々の水晶振動子14、14において発振周波数が互いに僅かにずれるように、例えば膜厚寸法や面積などが互いに異なるように形成されているが、図1〜図3では省略している。また、図4において100は、水晶ウエハが切り出される前の水晶インゴットを示している。
【0014】
これら2つの水晶振動子14、14について、長手方向がX軸に沿うように切断された水晶振動子14を主水晶(圧電)振動子14a、長手方向がX軸から60°程度ずれた方向に沿うように切断された水晶振動子14を補助(リファレンス用)水晶振動子14bと呼ぶと、この例では図1において奥側に主水晶振動子14aが配置され、手前側に補助水晶振動子14bが配置されている。これら主水晶振動子14a及び補助水晶振動子14bの間の離間寸法は、例えば0.5mmとなっている。尚、図1〜図3における「XYZ」の記載は、前記結晶軸ではなく、各図における圧力センサの向きを示している。
【0015】
続いて、この圧力センサにおいて2つの水晶振動子14a、14bを配置した理由を以下に説明する。即ち、既述のATカットの水晶振動子14は、基準温度T0において基準電圧V0を印加すると、ある固有の基準周波数f0で発振し、この状態で当該水晶振動子14に圧力が加わる(あるいは圧力によって伸長する)と、発振周波数が例えば周波数fPに変化する。この周波数の変化量ΔfP(ΔfP=f0−fP)は、水晶振動子14に加えられる圧力値Pに応じて変化するが、ある大きさの圧力が加えられた時に周波数が変化する割合(ΔfP/P)は、水晶振動子14の長手方向が結晶軸方向のどの方向を向いているかによって異なる。
【0016】
図6は、ATカットの水晶振動子14について、図5のように、結晶軸方向のX軸に対して長手方向の辺(長辺)がなす角度θを種々変えて複数の水晶振動子14を作製し、各々の水晶振動子14に対して長手方向両側からある一定の大きさの圧力を加えた時に、周波数がどの程度変化したかを表す割合kf(kf=Δf/f0)を示している。図6から分かるように、ATカットの水晶振動子14は、その長手方向が結晶軸方向においてX軸と平行になっている時に、加えられる圧力に対して周波数が大きく変動し、一方長手方向が結晶軸方向においてX軸から60°程度ずれた方向と平行になっている時には、圧力が加わってもほとんど周波数が変化しない。既述の図3には、各々の水晶振動子14a、14bの上面にこの角度θを併せて記載している。
【0017】
ところで、ATカットの水晶振動子14は、例えば図7に概略的に示すように、その切断方位にはほぼ関係なく、当該水晶振動子14の置かれている雰囲気の温度に応じて発振周波数が変動する。従って、既述の主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとを同じ容器13内に収納して容器13の外部の圧力を測定すると、主水晶振動子14aは外部の圧力値に応じて発振周波数が変化すると共に、圧力センサの置かれている雰囲気の温度即ち容器13内の温度に応じて発振周波数が変化する。そのため、主水晶振動子14aについて、基準周波数、圧力値に応じて変化する周波数の変化量及び前記温度に応じて変化する周波数の変化量を夫々f01、ΔfP1及びΔfT1とすると、温度Tにおいて外部から圧力値Pを加えた時に検出される周波数f1は、
f1=f01+ΔfP1+ΔfT1 ・・・(1)
となる。
【0018】
一方、補助水晶振動子14bについては、既述のように圧力によって周波数がほとんど変化しないので、即ち基準周波数、圧力値に応じて変化する周波数の変化量及び前記温度に応じて変化する周波数の変化量を夫々f02、ΔfP2及びΔfT2すると、ΔfP2≒ゼロなので、同様に温度Tにおいて外部から圧力値Pを加えた時に検出される周波数f2は、
f2=f02+ΔfT2 ・・・(2)
となる。
【0019】
そのため、(1)式と(2)式との差分を取ると、
f1−f2=f01+ΔfP1+ΔfT1−(f02+ΔfT2)・・(3)
が得られる。
ここで、主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとは同じ容器13内に収納されており、ほとんど同じ温度の雰囲気に置かれているので、ΔfT1≒ΔfT2と言える。従って、(3)式は、
f1−f2=f01+ΔfP1−f02 ・・・(4)
となる。この(4)式における基準周波数f01、f02はいずれも既知であることから、つまり既述のように基準温度T0において水晶振動子14a、14bに対して基準電圧V0を各々印加して予め求められる値であることから、(4)式の両辺から(f01−f02)を差し引くと、
δf=f1−f2−(f01−f02)=ΔfP1 ・・・(5)
が得られる。尚、この(5)式について、圧力値Pを算出する度に(f01−f02)を差し引くようにしても良いし、あるいは夫々の周波数f1、f2からf01、f02を予め差し引いた値((f1−f01)及び(f2−f02))を既述の(1)〜(4)式の計算に用いて、(5)式の計算を行わないようにしても良い。更に、基準周波数f01、f02が互いに同じ値である場合には、(5)式において(f01−f02)がゼロとなることから、このようなf01、f02について計算しなくても良い。即ち、このような場合には、既述の(4)式及び(5)式に代えて、以下の(5−1)式が用いられる。
δf=f1−f2=ΔfP1 ・・・(5−1)
【0020】
従って、この(5)式(または(5−1)式)から得られる算出結果δfは、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えながら、外部の圧力値Pに応じた周波数変化を測定した値(既述の変化量ΔfP)となる。即ち、この算出結果δfは、基準温度T0において主水晶振動子14aに基準電圧V0を印加すると共に、外部から圧力値Pの圧力を加えた時に得られる周波数の変化量となる。そして、図8に示すように、この算出結果δfを予め算出していた圧力値Pと周波数の変化量Δfとの対応関係に照らし合わせることにより、圧力センサの外部の圧力値Pが求められる。尚、以上の各式(1)〜(4)式において、各値(基準周波数、圧力値に応じた周波数の変化量及び温度に応じた周波数の変化量)を加算したが、圧力センサに加えられる実際の圧力値や基準温度T0に対する容器13内の温度によっては、減算される場合もある。
【0021】
続いて、既述の圧力センサを備えた圧力検出装置について、図9を参照して説明する。この圧力検出装置は、以上において説明したように、主水晶振動子14a及び補助水晶振動子14bにより夫々検出される周波数f1、f2の差分を取ることにより、即ち補助水晶振動子14bを温度検出用のリファレンスとして用いることにより、圧力センサの置かれる雰囲気の温度の影響を抑えて、当該圧力センサの外部の圧力値を検出するようにしている。
【0022】
具体的には、水晶振動子14a、14bには、夫々主発振回路31及び補助発振回路32が前記引き回し電極22を介して夫々接続されており、これら発振回路31、32には、基準電圧V0が印加される共通の入力端33が接続されている。そして、これら発振回路31、32には、既述のように、水晶振動子14a、14bの夫々の周波数f1、f2の差分を取るための周波数差演算部34が接続されている。周波数差演算部34は、発振回路31、32からの出力が正弦波である場合には、例えば混合器(掛算器)とこの混合器の後段に接続されたローパスフィルタとにより構成しても良い。
【0023】
この周波数差演算部34には、加算部35が接続されており、この加算部35は、水晶振動子14a、14bの基準周波数f01から基準周波数f02を差し引いて(f01−f02)、前記周波数差演算部34にて得られた算出結果からこの差し引いた結果(f01−f02)を減算するためのものである。加算部35には、当該加算部35にて得られた差分δfと、予め求められていた周波数の変化量Δf及び圧力値Pとの相関関係と、から圧力センサに加えられる圧力値Pを推定する圧力推定部36が接続されている。これら加算部34、35及び圧力推定部36は、制御部40をなす。尚、既述のように、(4)式及び(5)式に代えて(5−1)式を用いる場合には、加算部35を設けなくても良い。
【0024】
周波数差演算部34が既述のように混合器(掛算器)とローパスフィルタとにより構成される場合には、圧力推定部36は、入力された正弦波から、当該正弦波の周波数に対応する周波数の矩形パルスを作成し、この矩形パルスをカウントして、そのカウント値と、カウント値及び圧力値の関係を示すデータベースとに基づいて圧力値を推定する構成を採っても良い。また、このような構成に限られず、発振回路31、32の後段に、発振出力である正弦波の周波数に対応する周波数の矩形パルスを作成する回路を夫々設けると共に、各々の回路のパルス信号をカウントする2つのパルスカウンタを設け、これらカウンタのカウント値の差分を演算器により取り出すようにしても良い。この場合、パルスカウンタ及び演算器が周波数差演算部34に相当する。
【0025】
こうして圧力センサを例えばタイヤのバルブに取り付けると、即ちタイヤの内部の雰囲気に蓋体12の外面が当接するように圧力センサを設けると、タイヤの内部の圧力に応じて蓋体12が容器13側に撓むと共に、蓋体12の下面が水平方向に伸長する。そして、水晶振動子14a、14bは、蓋体12の撓み量に応じて水平方向に撓み(あるいは応力が生じて)、この撓みや圧力センサの外部の温度により発振周波数f1、f2で夫々発振する。そして、既述の加算部34、35及び圧力推定部36を介してタイヤ内部の圧力値Pが検出される。
【0026】
ここで、圧力センサの製造方法の一例について説明する。先ず、図10(a)に示すように、Zカットの水晶からなるウエハ50に対して、例えば複数の蓋体12の外形に対応するように、フォトリソグラフィー法によってマスクの形成を行い、続いて例えばフッ酸水溶液を用いたウェットエッチングを行う。そして、同様に各々の蓋体12に凹部15を形成する。図10中60は、ウエハ50に対して各々の蓋体12を支持する棒状の支持部であり、前記エッチングは、この支持部60が残るように行われる。尚、図10では円板状のウエハ50を用いているが、既述の図4に示したように矩形(板状)のウエハ50を用いても良い。後述のウエハ51、52についても同様である。
【0027】
続いて、同図(b)に示すように、ATカットの水晶からなるウエハ51に対して、マスクの形成及びエッチングにより主水晶振動子14aと補助水晶振動子14bとを形成する。これら水晶振動子14a、14bは、既述のように主水晶振動子14aの長手方向が結晶軸方向のX軸に沿うように、また補助水晶振動子14bの長手方向が結晶軸方向のX軸から60°ずれた方向に沿うように形成される。そして、図10(c)に示すように、同様にZカットの水晶からなるウエハ52に対して、ベース体11の外形に対応するようにマスクの形成及びエッチングを行うと共に、水晶振動子14a、14bの収納される領域をエッチングにより形成する。
【0028】
次いで、水晶振動子14a、14bに、例えば各々クロム(Cr)上に金(Au)を積層した金属膜からなる励振電極21を形成すると共に、蓋体12あるいはベース体11に引き回し電極22を形成する。そして、3枚のウエハ50〜52をこの順番で互いの位置合わせをしながら積層し、図示しない接着剤を用いて互いに接着する。その後、ダイシングによって支持部60を切断することによって、各々の圧力センサが個片化される。
【0029】
上述の実施の形態によれば、圧力センサの外部の圧力値に応じて発振周波数が変化する主水晶振動子14aと共に、この主水晶振動子14aの水晶基板20とは切断方位の異なる水晶基板20を備えた補助水晶振動子14bを容器13内に配置して、これら水晶振動子14a、14bにより検出される周波数f1、f2の差分を取っている。そのため、いわば補助水晶振動子14bを温度検出用のリファレンスとして用いることができるので、圧力センサの外部の雰囲気の温度の影響を抑えて圧力値を検出できる。また、補助水晶振動子14bについて、主水晶振動子14aに近接するように配置しているため、当該主水晶振動子14aの温度に極めて近い温度を測定できる。従って、例えば圧力センサの外部に温度センサを設ける場合と比較して、圧力センサの置かれている雰囲気の温度の影響をより一層抑えることができる。
【0030】
更に、水晶振動子14a、14bを共通のウエハ51から切り出しているので、水晶基板20の物性や寸法(不純物の量、圧電性や厚み寸法などに起因する物理定数や電気的定数)が互いに揃っている。そのため、既述のようにこれら水晶振動子14a、14bの周波数f1、f2を差し引きしたときに、前記物性や寸法などに起因する周波数の誤差がキャンセルされるため、これら誤差の影響を抑えて既述の圧力値Pを測定できる。また、圧力センサの温度を検出する温度センサを当該圧力センサの内部に補助水晶振動子14bとして設けることにより、温度センサを外部に設ける場合と比べて、システム全体の構成について簡略化及び小型化を図ることができる。
【0031】
既述の例では、補助水晶振動子14bを主水晶振動子14aと共に蓋体12の下面に固定したが、補助水晶振動子14bについては圧力の測定が不要であるため、図11に示すように、ベース体11の下面に固定するようにしても良い。図11中70は、補助水晶振動子14bが発振できるようにするために、これら補助水晶振動子14bとベース体11との間に介設されたゴムなどの弾性体である。
また、水晶振動子14a、14bを個別に配置したが、図12に示すように、水晶振動子14a、1bを一体化しても良い。即ち、これら水晶振動子14a、14bの基端部同士が互いに接続されると共に、当該基端部から夫々の他端部が互いに60°ずれた方向に伸びるように、既述のウエハ51から切り出しても良い。この場合であっても、既述の例と同様の効果が得られる。
【0032】
更に、主水晶振動子14aの長辺がX軸に沿うと共に、補助水晶振動子14bの長辺がX軸から60°ずれた方向に沿うようにこれら水晶振動子14a、14bを形成したが、例えば主水晶振動子14aの長辺がX軸から10°ずれた方向に沿うようにしても良いし、また補助水晶振動子14bの長辺がX軸から40°〜70°ずれた方向に沿うようにしても良い。即ち、これら水晶振動子14a、14bについて、主水晶振動子14aでは外部の圧力に応じて周波数が変動し、補助水晶振動子14bでは当該主水晶振動子14aに対して圧力による周波数の変化量が小さくなるようにすれば良い。また、水晶振動子14a、14bについて、互いに異なるウエハ51から切り出すようにしても良い。
【0033】
既述の振動子14a、14bに用いられる基板としては、水晶基板20に代えて、LiTaO3(タンタル酸リチウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)、La3Ga5SiO14(ランガサイト)などからなる圧電基板を用いても良い。この場合においても、振動子14aについては圧力及び温度に応じて周波数が変動し、振動子14bについては圧力が変動してもほとんど周波数が変化せず、一方温度に応じて周波数が変化するように夫々の切断方位が調整される。また、前記圧電基板のうち一の基板を振動子14aとして用いると共に、圧電基板のうち他の基板を振動子14bとして用いても良い。
【0034】
既述の圧力センサを製造するにあたって、蓋体12、水晶振動子14a、14b及びベース体11を個片化した後接着しても良い。また、各ウエハ50、52としては、水晶に代えてガラス板、Si基板あるいは金属板を用いてもよい。既述の例において、互いのウエハ50〜52を接着する接着剤としては、ガラスペーストなどが用いられ、例えば大気雰囲気において300°〜500°程度の温度で加熱することにより当該接着剤を介して各々のウエハ50〜52が接着される。
また、水晶振動子14a、14bの一端側及び他端側を夫々ベース体11の下面に固定したが、例えば前記一端側をベース体11の下面に固定すると共に、前記他端側を容器13(ベース体11)の内壁部に固定しても良い。
【符号の説明】
【0035】
10 圧力センサ
11 ベース体
12 蓋体
13 容器
14 水晶振動子
20 水晶基板
31 主発振回路
32 補助発振回路
33 入力端
34 周波数差演算部
35 第2の加算部
36 圧力推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、
この容器の一部をなし、外部からの圧力により撓むように構成されたダイヤフラムと、
前記圧力の大きさに応じて発振周波数が変化するように前記容器内において前記ダイヤフラムに固定され、ATカットの圧電基板を含む主圧電振動子と、
温度検出用の圧電振動子として前記容器内において前記主圧電振動子に対して離間して設けられ、前記圧電基板とは切断方位の異なるATカットの圧電基板を含む補助圧電振動子と、を備えたことを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
前記主圧電振動子は、その長手方向がX軸方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であり、
前記補助圧電振動子は、その長手方向がX軸方向から40°〜70°回転させた方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項3】
前記補助圧電振動子は、前記主圧電振動子に隣接して前記ダイヤフラムに固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力センサ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の圧力センサと、
前記主圧電振動子及び前記補助圧電振動子に夫々接続された主発振回路及び補助発振回路と、
前記主圧電振動子の発振周波数と前記補助圧電振動子の発振周波数との差分を求める周波数差演算部と、
この差分に基づいて圧力センサに加わる圧力値を推定する圧力推定部と、を備えたことを特徴とする圧力検出装置。
【請求項1】
容器と、
この容器の一部をなし、外部からの圧力により撓むように構成されたダイヤフラムと、
前記圧力の大きさに応じて発振周波数が変化するように前記容器内において前記ダイヤフラムに固定され、ATカットの圧電基板を含む主圧電振動子と、
温度検出用の圧電振動子として前記容器内において前記主圧電振動子に対して離間して設けられ、前記圧電基板とは切断方位の異なるATカットの圧電基板を含む補助圧電振動子と、を備えたことを特徴とする圧力センサ。
【請求項2】
前記主圧電振動子は、その長手方向がX軸方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であり、
前記補助圧電振動子は、その長手方向がX軸方向から40°〜70°回転させた方向に沿うように矩形に切断した水晶基板であることを特徴とする請求項1に記載の圧力センサ。
【請求項3】
前記補助圧電振動子は、前記主圧電振動子に隣接して前記ダイヤフラムに固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧力センサ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一つに記載の圧力センサと、
前記主圧電振動子及び前記補助圧電振動子に夫々接続された主発振回路及び補助発振回路と、
前記主圧電振動子の発振周波数と前記補助圧電振動子の発振周波数との差分を求める周波数差演算部と、
この差分に基づいて圧力センサに加わる圧力値を推定する圧力推定部と、を備えたことを特徴とする圧力検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−154739(P2012−154739A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13217(P2011−13217)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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