説明

圧力検出装置

【課題】圧電膜に対する張力を所望の状態に管理することができる圧力検出装置を提供する。
【解決手段】圧力検出装置1は、圧電膜40を間に挟んで上ケース20と下ケース30とを互いに突き合わせることにより、圧電膜40によって仕切られた一対の圧力室21,31を形成する本体部10と、弾性部材で形成されるOリング50と、を有する。ここで、上ケース20に形成される上側溝部22は、上側溝部22の内径DciがOリング50の内径Driと対応して設定されるとともに、上側溝部22の深さLcがOリング50の太さDdよりも小さく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧電膜を利用して圧力を検出する圧力検出装置が知られている。この圧力検出装置は、圧電膜によって仕切られた一対の圧力室を備えており、一方の圧力室に検出流体を導入する。検出流体の圧力に応じて圧電膜に応力が作用すると、圧電膜が電荷を発生し、これを電気的に検出することで、検出流体の圧力を検出する。
【0003】
例えば特許文献1には、圧電膜を利用した流体振動検出装置が開示されている。この流体振動検出装置では、第1のハウジングと第2のハウジングとを圧電膜を介してシート型接着剤である接合部により接着している。この場合、圧電膜に対しては延伸方向の一軸方向に対して張力付加治具を用いて張力をかけながら接着が行われる。これにより、圧電膜の弛みが防止され安定した特性を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−3171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された手法によれば、圧電膜の固定を接着にて行い、圧電膜に張力を付与する治具が必要となる。そのため、圧電膜の組み付け作業が繁雑になり、また、圧電膜自体が薄いために所望の張力で圧電膜を組み付けることが容易ではなく張力管理が困難となるという問題がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電膜に対する張力を所望の状態に管理することができる圧力検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、圧電膜と、圧電膜を間に挟んで第1のケースと第2のケースとを互いに突き合わせることにより、圧電膜によって仕切られた一対の圧力室を形成する本体部と、弾性部材で形成される第1のOリングと、を有する圧力検出装置を提供する。この場合、本体部をなす第1のケースは、圧電膜を介して第2のケースと突き合う面において第1のOリングを収容する環状の第1の溝部を備え、第1の溝部は、当該第1の溝部の内径が第1のOリングの内径と対応して設定されるとともに、第1の溝部の深さが第1のOリングの太さよりも小さく設定されている。
【0008】
ここで、第1の発明において、第1の溝部は、第1の溝部の外形が第1のOリングの外形よりも大きく設定されることが好ましい。
【0009】
また、第1の発明は、弾性部材で形成される第2のOリングをさらに有していてもよい。この場合、本体部をなす第2のケースは、圧電膜を介して第1のケースと突き合う面において第2のOリングを収容する環状の第2の溝部を備え、第2の溝部は、第1の溝部とオフセットするように当該第1の溝部の外周側に形成されていることが好ましい。
【0010】
また、第1の発明において、第2の溝部は、当該第2の溝部の内径が第2のOリングの内径と対応して設定されるとともに、第2の溝部の深さが第2のOリングの太さよりも小さく設定されていることが望ましい。
【0011】
また、第1の発明において、第2の溝部は、当該第2の溝部の外形が第2のOリングの外形よりも大きく設定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Oリングは、第1の溝部に内接した状態で収容されるため、内周方向への変位が上側溝部の内周壁面によって規制されることとなり、径方向の外側へと変形する。これにともない、圧電膜とOリングとの接触位置が外側へとずれるため、圧電膜がOリングの全域において径方向の外側へと引っ張られることにより、当該圧電膜に対して均等に張力を付与することができる。これにより、圧電膜に対する張力を所望の状態に管理することを容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る圧力検出装置を模式的に示す断面図
【図2】上側溝部の説明図
【図3】上側溝部の近傍を模式的に示す拡大図
【図4】Oリングによる張力付与状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態に係る圧力検出装置1を模式的に示す断面図である。圧力検出装置1は、気体や液体などの流体の圧力を検出するものであって、例えばガスメータ内の気体など流体の圧力を検出する部位に設けられる。この圧力検出装置1は、本体部10と、圧電膜40と、Oリング50,60とを主体に構成されている。
【0015】
本体部10は、上ケース20と、下ケース30とで構成されている。この本体部10は、圧電膜40を間に挟んで上ケース20と下ケース30とを互いに突き合わせることにより、圧電膜40によって仕切られた一対の圧力室21,31を形成している。上ケース20と圧電膜40との間には、気密性を確保するためのOリング50が配置され、同様に、下ケース30と圧電膜40との間に、Oリング60が配置されている。
【0016】
上ケース20は、断面形状が略コの字形状を有し、一方が開口された方形又は矩形の筐体であり、圧電膜40とともに一方の圧力室21を画定している。この圧力室21は、Oリング50と、圧電膜40と、上ケース20とによって密閉された空間として構成されている。なお、圧力室21は、必ずしも密閉された空間に構成する必要はなく、後述する下ケース30側の圧力室31に導入される検出流体との間で相対的な圧力状態を確保できれば足り、導入路を備えていてもよい。
【0017】
図2は、上側溝部22の説明図であり、(a)は上ケース20を開口側から示す平面図であり、(b)は、上ケース20側に配置されるOリングを示す平面図である。同図に示すように、上ケース20は、圧電膜40を介して下ケース30と突き合う面(以下「対向面」という)20aに、上側溝部22を備えている。この上側溝部22は、上ケース20と、圧電膜40との間に配置されるOリング50を収容する。具体的には、上側溝部22は、対向面20aの一部を凹状に窪ませることにより形成される、Oリング50の形状と対応した環状の溝である。
【0018】
ここで、上側溝部22は、その内径Dciが、内部に収容するOリング50の内径Driと対応するように設定される。そのため、上側溝部22に、Oリングを収容した場合、Oリング50が上側溝部22の内周壁面に内接した格好となる。このような内径の対応形態は、上側溝部22の内径Dciと、Oリング50の内径Driとを一致させることにより実現されるが、厳密な意味での一致のみならず、後述する効果を奏する範囲において許容可能な範囲の誤差を含むことができる。
【0019】
図3は、上側溝部22の近傍を模式的に示す拡大図である。同図に示すように、上側溝部22は、その深さLcがOリング50の太さDdよりも小さく設定されている。すなわち、上側溝部22にOリング50を収容した場合には、Oリング50の一部が対向面20aよりも突出した格好となる。
【0020】
これに対して、下ケース30は、断面形状が略コの字形状を有し、一方が開口された方形又は矩形の筐体であり、圧電膜40とともに他方の圧力室31を画定している。また、下ケース30側の圧力室31には、検出流体を圧力室31へ導入するための導入路32が接続されている。圧力室31は、この導入路32による連通部を除き、Oリング60と、圧電膜40と、下ケース30とによって密閉された空間として構成されている。
【0021】
下ケース30は、圧電膜40を介して上ケース20と突き合う面(以下「対向面」という)30aに、下側溝部33を備えている。この下側溝部33は、下ケース30と、圧電膜40との間に配置されるOリング60を収容する。具体的には、下側溝部33は、対向面30aの一部を凹状に窪ませることにより形成される、Oリング60の形状と対応した環状の溝である。なお、下側溝部33は、上ケース20側の上側溝部22と比較して、この上側溝部22とオフセットするように上側溝部22の外周側に形成されている。
【0022】
ここで、下側溝部33とこれに収容されるOリング60との関係は、前述の上側溝部22とこれに収容されるOリング50との関係と同様である。すなわち、下側溝部33は、その内径が、内部に収容するOリング60の内径と対応するように設定される。また、下側溝部33は、その深さがOリング60の太さよりも小さく設定されている。
【0023】
圧電膜40は、例えば高分子圧電膜で構成されており、その両面に形成された電極(図示せず)に電極端子(図示せず)が接続されて構成されている。例えば、電極は、高分子圧電膜の表裏にAlやAg等の金属を蒸着することにより形成されている。この圧電膜40は、検出流体の圧力に応じた圧電膜40の応力変化を圧力信号として電極端子を通じて出力する。電極端子を通じて出力された圧力信号は、CPU等の圧力算出部(図示せず)に送信され、圧力算出部にて演算により圧力が求められることとなる。
【0024】
Oリング50,60は、断面O形(円形)の環状のパッキンであり、ゴムなどの弾性部材で形成されている。なお、Oリング50,60と、上側溝部22・下側溝部33との関係は相対的なものであり、前述の関係を満たす限り、Oリング50,60の寸法や形状を設定した後に、上側溝部22・下側溝部33の寸法や形状を設定してもよいし、上側溝部22・下側溝部33の寸法や形状を設定した後に、Oリング50,60の寸法や形状を設定してもよい。
【0025】
このように本実施形態において、上ケース20に形成される上側溝部22は、上側溝部22の内径DciがOリング50の内径Driと対応して設定されるとともに、上側溝部22の深さLcがOリング50の太さDdよりも小さく設定されている。
【0026】
かかる構成によれば、圧電膜40を間に挟んだ状態で上ケース20と下ケース30とを互いに突き合わせると、下ケース30の対向面30aによって押圧されることにより、Oリング50は上側溝部22から突出した分だけ潰れ変形する。Oリング50及び上側溝部22の内径Dri,Dciの関係から明らかなように、Oリング50は、上側溝部22に内接した状態で収容されているため、径方向の内側への変位が上側溝部22の内周壁面によって規制され、径方向の外側へと変形する。これにともない、圧電膜40とOリング50との接触位置が外側へずれ、圧電膜40がOリング50の全域において径方向の外側へと力Ftにて引っ張られることにより、当該圧電膜40に対して均等に張力を付与することができる。そのため、Oリング50及び上側溝部22の存在を前提に、圧電膜40を間に挟んだ状態で上ケース20と下ケース30とを互いに突き合わせるだけで、圧電膜40に対する所望の張力を付与することができるので、治具などを用いる必要もなく、電膜に対する張力を所望の状態に管理することを容易に実現することができる。さらに、このOリング50により、圧電膜40と上ケース20との間の気密性を確保することができるので、検出精度の低下を招くといった事態もない。これにより、圧電膜40の張力管理を行いつつ気密性の確保という二つの要求を効果的に実現することができる。
【0027】
なお、圧電膜40に付与される張力は、Oリング50の材質、Oリング50の内径Dri、Oリング50の潰れ量の3つのパラメータにより制御し得る。例えば、Oリング50の潰れ量、すなわち、上側溝部22の深さLcとOリング50の太さDdとの差が大きい程、圧電膜40に対して付与される張力を大きく設定することができる。また、Oリング50の材質として硬質なものを採用すれば、圧電膜40に対して付与される張力を大きく設定することができる。さらに、同一の材質及び潰れ量であれば、Oリング50の内径Driが大きい程、圧電膜40に作用する張力は小さくなる。そのため、所定の張力を得るためには、Oリング50の内径Driに応じて、Oリング50の材質や潰れ量を変更することが好ましい。このように、圧電膜40に付与される張力は上記のパラメータに依存するので、これらを予め適切に選択しておくことにより、圧電膜40に対する張力を所望の状態に管理することができる。
【0028】
また、本実施形態において、上側溝部22は、上側溝部22の外形がOリング50の外形よりも大きく設定される。これにより、潰れ変形したOリング50が径方向の外側からの干渉を受けることなく変形することができるので、圧電膜40に適切に張力を付与することが可能となる。
【0029】
さらに、本実施形態において、本体部10をなす下ケース30は、圧電膜40を介して上ケース20と突き合う面においてOリング60を収容する環状の下側溝部33を備えている。この場合、下側溝部33は、上側溝部22とオフセットするように上側溝部22の外周側に形成されている。
【0030】
下ケース30と圧電膜40との間の気密性を確保するためには、両者30,40との間にもOリング60を配置する必要がある。この際、この下側溝部33と上側溝部22とが位置的に対応している場合には、上ケース20と下ケース30とを突き合わせた際に、Oリング60がOリング50に対してずれたり滑ったりすることで、前述したようなOリング50の潰れ変形を得ることができない可能性がある。この点、本実施形態によれば、下側溝部33が、上側溝部22とオフセットしていることで、下ケース30の対向面30a(平面領域)がOリング50と突き当たることとなるので、Oリング50が確実に潰れ変形し、これにより、圧電膜40に適切に張力を付与することができる。また、これが上側溝部22よりも外周側に存在することで、Oリング50による張力付与を妨げるといった事態を抑制することができる。
【0031】
また、下側溝部33は、この下側溝部33の内径がOリング60の内径と対応して設定されるとともに、下側溝部33の深さがOリング60の太さよりも小さく設定されている。かかる構成によれば、下側溝部33に収容されるOリング60によっても、その潰れ変形により、当該圧電膜40に対して張力を付与することができる。圧電膜40に付与される張力は、上側溝部22に収容されるOリング50によって主体的に付与されることとなるが、下側溝部33に収容されるOリング60にも同様な機能をもたせることにより、圧電膜40に対して張力を補助的に付与することができる。また、このOリング60により、圧電膜40と上ケース20との間の気密性を確保することができる。その結果、圧電膜40の張力管理を行いつつ気密性の確保という二つの要求を効果的に実現することができる。
【0032】
また、本実施形態において、下側溝部33は、下側溝部33の外形がOリング60の外形よりも大きく設定される。これにより、潰れ変形したOリング60が径方向の外側からの干渉を受けることなく変形することができるので、圧電膜40に対する補助的な張力を適切に付与することが可能となる。
【0033】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。例えば、本実施形態に係る圧力検知装置はガスメータ内の気体の圧力を検出する例を説明したが、他の気体の圧力を検出することも可能であり、さらに、液体の圧力検出に用いられてもよく、流体の圧力を検出する用途に広く適用することができる。また、上ケースに形成した上側溝部に対して、下側ケースに形成した下側溝部を外周側に配置したが、この関係を逆転させて、下ケースに形成した下側溝部に対して、上側ケースに形成した上側溝部を外周側に配置してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 圧力検出装置
10 本体部
20 上ケース
20a 対向面
21 圧力室
22 上側溝部
30 下ケース
30a 対向面
31 圧力室
32 導入路
33 下側溝部
40 圧電膜
50 Oリング
60 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜と、
前記圧電膜を間に挟んで第1のケースと第2のケースとを互いに突き合わせることにより、前記圧電膜によって仕切られた一対の圧力室を形成する本体部と、
弾性部材で形成される第1のOリングと、を有し、
前記本体部をなす第1のケースは、前記圧電膜を介して前記第2のケースと突き合う面において前記第1のOリングを収容する環状の第1の溝部を備え、
前記第1の溝部は、当該第1の溝部の内径が前記第1のOリングの内径と対応して設定されるとともに、前記第1の溝部の深さが前記第1のOリングの太さよりも小さく設定されていることを特徴とする圧力検出装置。
【請求項2】
前記第1の溝部は、当該第1の溝部の外形が前記第1のOリングの外形よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1に記載された圧力検出装置。
【請求項3】
弾性部材で形成される第2のOリングをさらに有し、
前記本体部をなす第2のケースは、前記圧電膜を介して前記第1のケースと突き合う面において前記第2のOリングを収容する環状の第2の溝部を備え、
前記第2の溝部は、前記第1の溝部とオフセットするように当該第1の溝部の外周側に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載された圧力検出装置。
【請求項4】
前記第2の溝部は、当該第2の溝部の内径が前記第2のOリングの内径と対応して設定されるとともに、前記第2の溝部の深さが前記第2のOリングの太さよりも小さく設定されていることを特徴とする請求項3に記載された圧力検出装置。
【請求項5】
前記第2の溝部は、当該第2の溝部の外形が前記第2のOリングの外形よりも大きく設定されることを特徴とする請求項4に記載された圧力検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68446(P2013−68446A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205562(P2011−205562)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】