圧力測定装置、圧力測定方法
【課題】常圧から高真空までの広い圧力範囲で圧力を正確に検出可能であり、かつ、低コストで生産が可能で、経時変化によるメンテナンス性にも優れた圧力測定装置を提供する。
【解決手段】ピラニ真空計から出力された、気体の圧力に対応した電圧値V(出力)は、ドライバ2を介して演算部4に入力される。演算部4では、予め設定された閾値を参照し、入力された電圧値が閾値よりも低い場合は、メモリー7に記憶された数式3を用いて圧力を算出する。また、入力された電圧値が閾値よりも高い場合は、メモリー7に記憶された数式4を用いて圧力を算出する。
【解決手段】ピラニ真空計から出力された、気体の圧力に対応した電圧値V(出力)は、ドライバ2を介して演算部4に入力される。演算部4では、予め設定された閾値を参照し、入力された電圧値が閾値よりも低い場合は、メモリー7に記憶された数式3を用いて圧力を算出する。また、入力された電圧値が閾値よりも高い場合は、メモリー7に記憶された数式4を用いて圧力を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力測定装置および圧力測定方法に関し、詳しくは、電気抵抗体と気体との熱交換により生じる熱損失量に基づいて、気体の圧力を測定する圧力測定装置および圧力測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体の圧力を測定する圧力測定装置の一例として、ピラニ真空計(熱伝導型真空計)が知られている。このピラニ真空計は、例えば、細い金属線からなるフィラメント(電気抵抗体)を備え、このフィラメントと気体との熱交換によって、フィラメントの熱損失量に基づいて気体の圧力を測定するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
こうしたピラニ真空計は、気体の圧力に応じてフィラメントから出力される電圧値に基づいて圧力値を得るために、例えば、圧力測定装置を構成する演算部で、予め作成された出力電圧値と圧力値との対応テーブルを参照して、気体の圧力値を得るようになっている
【0004】
また、出力電圧値と圧力値との関係を示す1つの数式に、フィラメントから出力される電圧値を当てはめて、気体の圧力値を算出する圧力測定装置も知られている。
【特許文献1】特開2005−114574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような、フィラメントの出力電圧値と圧力値との対照表を参照する方式では、圧力測定装置ごとに予め対照表を作成して記憶させておかなければならず、コストがかかるという課題があった。また、経時変化により対照表の出力電圧値と圧力値とのズレが生じた場合、新たに補正された参照表を作成して記憶させなければならないなど、メンテナンスにも手間がかかるという課題もあった。
【0006】
一方、出力値−圧力値の関係を示す単一の数式を用いて圧力値を得る方式では、圧力測定範囲が広い場合、単一の数式に出力値を適用するだけでは実際の圧力との誤差が大きくなり、特に低真空〜常圧以上の圧力領域では、その誤差が無視できないほど大きくなるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、常圧から高真空までの広い圧力範囲で圧力を正確に検出可能であり、かつ、低コストで生産が可能で、経時変化によるメンテナンス性にも優れた圧力測定装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、広い圧力範囲に渡って正確に圧力を検出することが可能な圧力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次のような圧力測定装置を提供した。
すなわち、本発明の圧力測定装置は、気体の圧力に対応した電気信号を出力する圧力計と、該圧力計の出力に対して所定の換算式を適用して前記気体の圧力を算出する演算部とを備えた圧力測定装置であって、
前記圧力計は、2つの開口部を有する空洞が配された筐体と、前記空洞の長手方向の途中に配され、前記気体と熱交換を行う電気抵抗体とを少なくとも有し、前記空洞は、使用する際の重力方向に沿った長さが1mm以下であり、前記演算部は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、低圧側である第一圧力範囲において第一換算式を適用して圧力を算出し、前記第一圧力範囲よりも高い高圧側である第二圧力範囲において第二換算式を適用して圧力を算出することを特徴とする。
【0010】
前記第一圧力範囲は、10−3Pa以上10Pa未満であり、前記第二圧力範囲は、10Pa以上105Pa以下であればよい。
【0011】
前記圧力計の出力V、前記気体の圧力P、a,bおよびcを定数としたときに、前記第一換算式は下記の数式1で、また、前記第二換算式は下記の数式2で、それぞれ表されればよい。
【数1】
【数2】
【0012】
前記空洞は、その経路の途中に屈曲部を備えていればよい。前記電気抵抗体の近傍には、第一加熱手段と、第二加熱手段が更に配されていればよい。前記第一加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲の全域に渡って、前記電気抵抗体の温度補償を行い、前記第二加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、圧力が10Pa以上の領域で更に温度補償を行えばよい。
【0013】
前記電気抵抗体は、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。前記電気抵抗体は、一面に電気絶縁膜を形成した基板に形成され、該基板は、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。前記電気絶縁膜は、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。
【0014】
また、本発明の圧力測定方法は、上記の圧力測定装置を用いて、圧力を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
従来、圧力範囲が10Pa以上の中間流領域〜粘性流領域では、圧力範囲が10Pa未満の自由分子流領域に比べて、圧力値と出力電圧値が直線状に比例しておらず、出力電圧値に対する実際の圧力値との対応を示した参照表に基づいて、圧力を出力していた。しかし、本発明の圧力測定装置によれば、10Pa未満の圧力領域では数式1を用い、10Pa以上の圧力領域では数式2を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を出力できる。
【0016】
また、圧力値と出力電圧値との対応を示す参照表を用いずに、高真空領域と、低真空領域〜常圧とで異なる2種類の数式を用いる事により、例えば、経時変化により出力電圧値と圧力値との対照にズレが生じた場合でも、新たに補正された参照表を記憶させるなどの手間がかからず、数式1,2の定数を変えるだけで良いので、メンテナンス性に優れた圧力測定装置を実現できる。
【0017】
また、本発明の圧力測定方法によれば、10Pa未満の圧力領域では数式1を用い、10Pa以上の圧力領域では数式2を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、特に、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧力測定装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の圧力測定装置の概要を示すブロック図である。本発明の圧力測定装置1は、ドライバ3、演算部4、インターフェース5からなる制御部2と、この制御部2の各部に駆動用の電力を供給する電源部6とを備えている。演算部4には、後述する複数の数式のデータを記憶するメモリ7が形成されている。また、圧力測定装置1は、圧力計10、第一加熱手段50、第二加熱手段51からなるセンサ部20を備えている。
【0020】
ドライバ3は、センサ部20と演算部4との間で信号の変換、例えばA/D,D/Aコンバータなどの役割を果たし、センサ部20を制御する。演算部4は、センサ部20から入力される、気体の圧力に応じた電圧値に基づいて、後述する数式3または数式4を用いて圧力を算出する。インターフェース5は、演算部4から出力された圧力値の信号を外部機器、例えばディスプレイや各種製造機器に向けて出力する。
【0021】
図2に示すように、センサ部20は、例えば、真空チャンバの壁面102の開口部102aに配置して使用される。壁面102の開口部102aを外側から塞ぐように、Oリング103を介してフランジ104が配されている。このフランジ104の内面中央部にセンサ部20が装着され、フランジ104の周縁部に複数の貫通電極106が立設されている。
【0022】
圧力計(熱伝導型真空計:以下、ピラニ真空計と称する)10は、フィラメントに相当する電気抵抗体40と、基板22の表面を覆うカバー部材12と、基板22の裏面を覆う裏面カバー18とを備えている。基板22には、電気抵抗体40に通電するための電極42が形成されている。この電極42は、ワイヤ107により貫通電極106の内側端部と接続されている。その貫通電極106の外側端部は、後述するブリッジ回路に接続されている。
なお、こうしたピラニ真空計10は、例えば、半導体集積回路作製技術を用いて作製されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems) デバイスとして形成することができる
【0023】
図3は、圧力測定装置を構成するセンサ部の分解斜視図である。また、図4(a)は図3におけるA−A線での断面図であり、図4(b)は図3におけるB−B線での断面図である。ピラニ真空計10は、筐体11を備えている。筐体11は、電気抵抗体40が形成された基板22と、基板22の表面を覆うカバー部材12と、基板22の裏面を覆う裏面カバー18とを備えている。これら基板22、カバー部材12、および裏面カバー18は、互いに重ねられた状態で接合される。
【0024】
基板22の一面22aには、電気絶縁膜30が形成されている。電気絶縁膜30の表面には、電気抵抗体40と、電気抵抗体40に通電するための電極42(42a,42b)とが形成されている。そして、基板22における電気抵抗体40が配された位置には、基板22を貫通する貫通孔24が形成されている。この貫通孔24の一部は、電気抵抗体40の周縁を取り巻くように、スリット状に電気絶縁膜30まで貫通する。これにより、電気抵抗体40は、電気絶縁膜30の一部である架橋状の浮膜(メンブレン)32によって、基板22に接しない状態で支持される。
【0025】
カバー部材12には、後述する空洞21の一部を構成する溝16が形成されている。溝16は、カバー部材12が基板22と対向する面から所定の形状で掘られた有底の溝であり、長手方向に対して直角な断面が、例えば凹状に形成されていればよい。こうした溝16によって、センサ部20の中央付近に形成された電気抵抗体40の周囲に、所定の広がりを持つ空間が形成されつつ、電気抵抗体40がカバー部材12によって覆われる。
【0026】
裏面カバー18は、センサ部20の裏面に形成された封止膜(不図示)に接合され、センサ部20に固定されている。これにより、基板22に形成された貫通孔24が、裏面カバー18によって覆われる。
【0027】
センサ部20を構成する基板22は、例えば、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上の材料から構成されるのが好ましい。基板22は、例えば、正方形状、ないし長方形状とされ、その一辺は例えば5mm程度に形成されている。基板22の厚みは、例えば500±25μm程度に形成されていればよい。
【0028】
貫通孔24は、基板22の一面22aから他面22bに向けてその開口面積が漸増するように、テーパ状に形成されていればよい。あるいは、開口面積が変わらない直胴状に形成されていてもよい。
【0029】
基板22の一面22aに形成される電気絶縁膜30は、例えば、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。電気絶縁膜30の厚みは、例えば1〜2μm程度に形成されていればよい。
【0030】
電気抵抗体40は、通電によりジュール熱を発生する金属材料により、細線状に形成されていればよい。電気抵抗体40は、例えば、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。こうした温度係数(単位温度あたりの電気抵抗値の変化量)の高い材料を電気抵抗体40として用いることによって、ピラニ真空計10の測定精度を向上させることができる。
【0031】
電気抵抗体40は、例えば膜厚が200〜400nm、線幅が10〜20μm、抵抗値が100〜150Ωに形成されている。なお電気抵抗体40と浮膜32との密着性を確保するため、両者間に密着層を形成することが望ましい。密着層は、例えば、Ni,Cr,Ti,Ta2O5のうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。
【0032】
電気抵抗体40は、上述した金属材料からなる細線を、例えばメアンダ形状(つづら折り形状)にパターニングして形成されている。メアンダ形状とすることにより、小さな占有面積で細線の長さを長く取ることができるので、圧力を測定する気体との熱交換を行う際の表面積を多くすることが可能になる。なお、こうした電気抵抗体40の形成形状は、メアンダ形状以外にも、任意の形状とすることができる。
【0033】
電気抵抗体40の両端部には、連結配線44が形成されている。連結配線44は、電気絶縁膜30の端部に形成された電極42(42a,42b)に引き出されている。この電極42から、連結配線44を介して、電気抵抗体40に通電しうるようになっている。
【0034】
電気抵抗体40に気体(圧力を測定するガス)が接触すると、気体と電気抵抗体40との間で熱交換が行われる。この時、気体が電気抵抗体40から奪う熱量Qgは、数式(5)で表される。
Qg=Kc(Tf−Tw)P=I2R ・・・ (5)
ただし、Kcは被測定ガスにより輸送される熱量の熱伝導係数、Tfは電気抵抗体40の温度、Twは電気抵抗体40の周辺温度(室温)、Pは被測定ガスの圧力、Iは電気抵抗体40を流れる電流、Rは電気抵抗体40の抵抗値である。
【0035】
数式(5)によれば、気体が電気抵抗体40から奪う熱量Qgは、気体の圧力Pに比例することがわかる。また電気抵抗体40の抵抗値Rは、電気抵抗体40の温度Tfに略比例するので、Tfが一定となるように電流Iを制御すれば、抵抗値Rも一定となる。その結果、電流Iから気体の圧力Pを算出することができる。
【0036】
ところで、数式(5)において電気抵抗体の周辺温度Twが変化すると、電流Iから気体の圧力Pを算出することが困難になる。そこで、電気抵抗体の周辺温度Twの変化を補償するため、第一温度補償体(第一加熱手段)50を設けるのが好ましい。第一温度補償体50は、ある圧力ポイントにおいて、ピラニ真空計10の温度変化による影響を0になるように補償するものである。
【0037】
図3に示すように、第一温度補償体50は、電気抵抗体40に隣接して電気絶縁膜30の表面に形成されている。第一温度補償体50は、例えば、電気抵抗体40と同じ材料で細線状に形成されている。第一温度補償体50は、例えばメアンダ形状(つづら折り形状)に形成される。
【0038】
第一温度補償体50の一端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極52に接続されている。また第一温度補償体50の他端は、電気抵抗体40の一方の電極42aに接続されている。これにより電極42bは、電気抵抗体40および第一温度補償体50の共通電極として機能する。
【0039】
一方、104Pa以上の圧力環境においては、温度が高くなると、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力よりもが高くなるという現象がある。これは、気体の熱伝導率が温度依存性を示すことによるものである。即ち、温度が高くなり気体の熱伝導率が高まるために、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力に対応した値よりも高くなるのである。このため、大気圧以上での温度補償を目的として、第二温度補償体51が第一温度補償体50に隣接して電気絶縁膜30の表面に形成されている。
【0040】
第二温度補償体51の一端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極53に接続されている。また第一温度補償体50の他端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極54に接続されている。これら電極53と電極54との間には、電源回路(図示せず)が接続されていればよい。
【0041】
図5は、ピラニ真空計の電気的な接続を示す回路図である。ピラニ真空計10はブリッジ回路を構成し、電気抵抗体40および第一温度補償体50は並列接続されている。そして、それぞれの電極42a,52間の電位差Vが0となるように、電気抵抗体40を流れる電流Iを制御する。第一温度補償体50の抵抗値は電気抵抗体40より非常に高く設定されているので、第一温度補償体50を流れる電流は微小になり、第一温度補償体50の温度および抵抗値はほとんど変化しない。ここで電位差Vを0とするためには、電気抵抗体40の周辺温度Twの変化量に合わせて、温度Tfを変化させることになる。したがって、Tf−Twが一定となり、周辺温度の変化が補償されるようになっている。
【0042】
また、104Pa以上の圧力測定時には、第二温度補償体51に対して定電流を印加し、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力よりも高くなる差分を補正するように温度補償体を行う。
【0043】
一方、上述したような原理によって気体の圧力を測定する際に、電気抵抗体が気体と接する領域において、重力方向に沿って気体の対流が生じると、この対流の作用によって電気抵抗体から熱が奪われ、電気抵抗体の出力電流値が実際の圧力値に対応した出力電流値よりも過剰に上昇することが知られている。図6は、一般的なピラニ真空計において、電気抵抗体の周囲で重力方向に沿った対流が生じた場合と、対流が生じない場合とで、電気抵抗体の出力電流値と実際の圧力との関係を示したグラフである。なお、図5のグラフにおいて、◆で示す測定点が対流を生じさせた場合、○で示す測定点は対流を生じさせない場合を示している。
【0044】
このグラフによれば、特に、圧力が104Pa以上の低真空領域においては、気体が多く存在するため、電気抵抗体が配された領域で気体の対流が生じると、気体の対流によって電気抵抗体から過剰に熱が奪われ、出力電流値が実際の圧力に対応した値よりも高くなってしまうことがわかる。
【0045】
こうした気体の対流による電気抵抗体の出力変動を抑制するため、本発明の圧力測定装置1では、筐体11に、2つの開口部48a,48bを有する空洞21が形成されている。そして、電気抵抗体40は、この空洞21の長手方向の途中に、空洞21の内部空間に露出されるように配されている。
【0046】
こうした空洞21を形成するために、カバー部材12には、基板22と対向する面から所定の形状で溝16が形成される。カバー部材12は、例えば、Si,Si02,GaN,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなる部材によって形成されていればよい。
【0047】
空洞21は、カバー部材12に形成された溝16と、基板22の電気絶縁膜30とからなり、断面が矩形を成すトンネル状の空間を形成する。空洞21は、2つの開口部48a,48bの間の経路の途中に2つの屈曲部49a,49bを持つ。電気抵抗体40は、この2つの屈曲部49a,49bの間に位置するように配されている。
【0048】
空洞21は、2つの屈曲部49a,49bの間の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、ピラニ真空計10を使用する際に重力方向Wに沿った方向となる長さLを、対流が生じない長さ、即ち1mm以下となるように形成される。
【0049】
一般的に、熱はレイリー数がある限界値(臨界レイリー数)以下においては、気体の熱伝導により伝達される。一方、この限界値以上では対流によって熱が伝達される.この時の臨界レイリー数は約1700である。例えば、熱源と気体との温度差が100℃あると想定して計算すると、臨界レイリー数を与える代表的な距離は約5mmとなる。つまり、ピラニ真空計の場合、電気抵抗体と、この電気抵抗体を囲む空間を形成する壁面との距離が5mm以下であれば、理論上は対流が生じないことになる
【0050】
しかしながら、上述した対流が生じない距離は、単純化された形状での理論上の数値であり、これをそのままピラニ真空計に適用するには誤差が大きすぎる。そのため、本発明の圧力測定装置1を構成するピラニ真空計10では、図7の模式図に示すように、電気抵抗体40が配された空洞21において、使用する際の重力方向Wに沿った方向の空洞21の長さLを1mm以下とするものである。この重力方向Wに沿った長さLを1mm以下とすることで、空洞21の内部空間で対流の発生を確実に防止できる。
【0051】
例えば、図3、図4(a)において、空洞21の長手方向に沿った方向が重力方向W1となるようにピラニ真空計10を設置する場合、空洞21における電気抵抗体40が配された領域Sで、2つの屈曲部49a,49bの間の長さL1が1mm以下になるように、空洞21が形成される。
【0052】
また、例えば、図4(b)において、空洞21の厚みに沿った方向が重力方向W2となるようにピラニ真空計10を設置する場合、空洞21における電気抵抗体40が配された領域Sで、電気抵抗体40と、この電気抵抗体40に対向する空洞21の内壁面21aとの長さL2がが1mm以下になるように、空洞21が形成される。
【0053】
このように、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、使用する際の重力方向Wに沿った方向の長さLを1mm以下とすることによって、空洞21の内部空間で対流の発生を確実に防止できる。これにより、電気抵抗体40から出力される電流値が、対流の影響で変動することがなく、実際の圧力値に対応した値を出力することができる。特に、対流の影響を大きく受ける104Pa以上の圧力環境においても、本発明の圧力測定装置1によって、正確な圧力値を測定することが可能になる。
【0054】
そして、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、空洞21の最も長い距離を1mm以下にすれば、このピラニ真空計10を含むセンサ部20をどのような方向に向けて設置しても、電気抵抗体40に対して気体の対流が生じる事の無い圧力測定装置1を実現することが可能になる。例えば、図2に示す圧力測定装置1の場合、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、空洞21の長手方向に沿った長さL1(図3(a)参照)を1mm以下にすることによって、センサ部20の設置方向によらず、常に圧力を誤差なく測定することが可能になる。
【0055】
以上のように、本発明の圧力測定装置1によれば、104Pa以上の圧力環境であっても、取り付け方向によって測定圧力値が変動することがなく、重力方向に対してどのような方向に向けて設置しても、正確に圧力を測定することが可能となる。
【0056】
なお、こうした空洞21の、少なくとも電気抵抗体40が形成された領域Sにおける内壁面21aは、Au,Ag,Alのうち、少なくとも1種以上からなる薄膜で覆われているのが好ましい。こうした部材で内壁面21aを覆うことによって、熱輻射を防止して、熱伝導による電気抵抗体40への影響を低減することが可能になる。
【0057】
上述したようなピラニ真空計10を備えたセンサ部20を、例えば、B−Aゲージ(電離真空計)に併設する事も好ましい。ピラニ真空計10をB−Aゲージの一部に設ける事により、例えば、104Pa以下の高真空領域はB−Aゲージによって測定し、104Pa以上の低真空領域は本発明のピラニ真空計によって測定する構成にすれば、例えば、常圧から高真空領域まで極めて幅広い範囲の圧力値を正確に検出することが可能になる。
【0058】
次に、センサ部20のピラニ真空計10から出力された、気体の圧力に対応した電圧値から、気体の圧力を演算して出力する構成を述べる。ピラニ真空計10から出力された、気体の圧力に対応した電圧値V(出力)は、ドライバ2を介して演算部4に入力される。演算部4では、予め設定された閾値を参照し、入力された電圧値Vが閾値よりも低い場合は、メモリー7に記憶された以下の数式3を用いて圧力Pを算出する。また、入力された電圧値Vが閾値よりも高い場合は、メモリー7に記憶された以下の数式4を用いて圧力Pを算出する。
【0059】
【数3】
【0060】
【数4】
【0061】
なお、上記の数式3,数式4において、a,b,cは定数であり、定数aは熱伝導パラメータ(温度依存定数)を示す数値であり、定数bは熱伝導が100%の時を1とした時の、熱伝導の確立を示す数値である。
【0062】
上記の数式3と数式4との適用圧力範囲を決める閾値は、例えば、10Paの圧力に相当する電圧値であればよい。即ち、ピラニ真空計10の測定可能な圧力範囲を、例えば10−3Pa〜105Paとした場合、圧力範囲が10−3Pa以上10Pa未満の時には、ピラニ真空計10で得られた電圧値Vを数式3に当てはめて圧力Pを算出する。一方、圧力範囲が10Pa以上105Pa以下の時には、ピラニ真空計10で得られた電圧値Vを数式4に当てはめて圧力Pを算出する。
【0063】
従来、圧力範囲が10Pa以上の中間流領域〜粘性流領域では、圧力範囲が10Pa未満の自由分子流領域に比べて、圧力値と出力電圧値が直線状に比例しておらず、出力電圧値に対する実際の圧力値との対応を示した参照表に基づいて、圧力を出力していた。しかし、10Pa未満の圧力領域では上記の数式3を用い、10Pa以上の圧力領域では上記の数式4を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を出力できる。
【0064】
また、圧力値と出力電圧値との対応を示す参照表を用いずに、高真空領域と、低真空領域〜常圧とで異なる2種類の数式を用いる事により、例えば、経時変化により出力電圧値と圧力値との対照にズレが生じた場合でも、新たに補正された参照表を記憶させるなどの手間がかからず、数式3,4の定数を変えるだけで良いので、メンテナンス性に優れた圧力測定装置1を実現できる。また、こうした経時変化による補正は、圧力測定装置を使用するユーザー側でも容易に行うことができるので、メンテナンスのために圧力測定装置が長時間使用できなくなったり、メンテナンスのための要員を派遣するなどの不都合や手間を解消することができる。
【0065】
以上のような構成の圧力測定装置に関して、センサ部の製造工程を図8〜図12を用いて簡単に説明する。ピラニ真空計10が形成されたセンサ部20は、素子の数μmレベルの微細化に有利な電気機械システム(Micro Electro Mechanical System:MEMS)技術を用いて形成する事ができる。MEMS技術とは、金属の蒸着やスパッタリング法などを用いる成膜技術や、基板上に数μmレベルのパターンを作製することができるリソグラフィ技術、さらには金属や半導体、酸化物などの膜を酸性やアルカリ性の薬液や、気体の放電現象により発生するイオンの化学反応を用いて、部分的に取り除くエッチング技術などを用いて、3次元構造の素子を基板上に多数作製するものである。
【0066】
まず図8(a)に示すように、基板22の表面に電気絶縁膜30を形成するとともに、基板22の裏面にも電気絶縁膜60を形成する。例えば、SiO2からなる電気絶縁膜30,60は、シリコン基板22を熱酸化することによって形成することが可能である。また、例えば、SiNからなる電気絶縁膜30,60は、蒸着法やCVD法等によって形成することが可能である。
【0067】
次に、電気絶縁膜30の表面全体にレジスト70を形成する。さらにフォトリソグラフィ技術(露光および現像)により、電気抵抗体、第一温度補償体、第二温度補償体およびそれらの電極の形成領域に存在するレジスト70を除去して、凹部71を形成する。
【0068】
次に図8(b)に示すように、基板22の表面全体にPt/Cr膜40aを形成する。
Pt/Cr膜40aは、密着層となる下層のCr層と、電気抵抗体となる上層のPt層で構成される。Pt/Cr膜40aは、スパッタ法等を用いて、凹部71の内部およびレジスト70の表面全体に形成する。
【0069】
次に図8(c)に示すように、レジスト70を剥離する。レジスト70の剥離は、プラズマアッシング装置等を用いたドライプロセスまたはレジスト剥離液等を用いたウエットプロセスによって行うことが可能である。このレジスト70の剥離とともに、レジスト70に積層されたPt/Cr膜40aを除去する(いわゆるリフトオフ)。これにより、凹部71の内部に形成されたPt/Cr膜40aが電気絶縁膜30の表面に残り、電気抵抗体40が形成される。なお電気抵抗体40と同時に、第一温度補償体、第二温度補償体および各電極(いずれも不図示)が形成される。
【0070】
次に図8(d)に示すように、電気絶縁膜30の表面全体にレジスト74を形成する。さらにフォトリソグラフィ技術により、封止膜の形成領域に存在するレジスト74を除去して、凹部75を形成する。
次に図9(a)に示すように、凹部75の内部およびレジスト74の表面全体に、スパッタ法等によりAu膜28aを形成する。
次に図9(b)に示すように、レジスト74を剥離するとともに、レジスト74に積層されたAu膜28aを除去する。これにより、凹部75の内部に形成されたAu膜28aが電気絶縁膜30の表面に残り、封止膜28が形成される。
【0071】
次に図9(c)に示すように、基板22の表面にレジスト78を形成する。ここでは、基板22の裏面にもレジスト78を形成しておく。次に、基板22の表面に形成されたレジスト78を露光および現像して、浮膜を囲むスリットおよび溝部の形成領域に凹部79を形成する。次に、このレジスト78をマスクとして、電気絶縁膜30のエッチングを行う。このエッチング処理は、CF4等のフルオロカーボンガスをエッチャントとして、RIE(Reactive Ion Etching)等により行うことが可能である。これにより、図9(d)に示すように、浮膜32が形成される。その後、レジスト78を剥離する。
【0072】
次に図10(a)に示すように、基板22の表面および裏面にレジスト80を形成する。
次に、基板22の裏面に形成したレジスト80を露光および現像して、基板22の貫通孔の形成領域に凹部81を形成する。次に、このレジスト80をマスクとして、電気絶縁膜60のエッチング処理を行う。
これにより、図10(b)に示すように、基板22の貫通孔の形成領域に存在する電気絶縁膜60が除去されて、凹部61が形成される。その後、基板22の表面のレジスト80を残して、裏面のレジスト80のみを剥離する。
【0073】
次に図10(c)に示すように、基板22の裏側における電気絶縁膜60の凹部61の内部に、レジスト84を充填する。なお基板22の裏面全体にレジスト84を形成しておき、フォトリソグラフィ技術を用いて、電気絶縁膜60の表面に存在するレジストのみを除去してもよい。
【0074】
次に図11(a)に示すように、基板22の裏面全体に、スパッタ法等によりAu膜29aを形成する。
次に図11(b)に示すように、レジスト84を剥離するとともに、レジスト84に積層されたAu膜29aを除去する。これにより、電気絶縁膜60の表面のみにAu膜29aが残り、封止膜29が形成される。
【0075】
次に図11(c)に示すように、封止膜29をマスクとして、基板22をウエットエッチングする。なお電気絶縁膜60をSiO2で構成した場合には、基板22のエッチング液としてTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)を採用し、電気絶縁膜60をSiNで構成した場合には、エッチング液としてKOHを採用することが望ましい。
【0076】
これにより、シリコン基板22と電気絶縁膜60とのエッチング選択比を確保することが可能になり、電気絶縁膜60をエッチングすることなく基板22のみをエッチングすることができる。基板22のエッチングは、基板22を構成するシリコンの結晶方位に従って斜めに進行する。これにより貫通孔24は、基板22の裏面から表面にかけて開口面積が小さくなるように、テーパ状に形成される。
【0077】
次に、図12(a)に示すように、カバー部材を形成するための構成材90を用意する。この構成材90は、例えば、Si,Si02,GaN,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなる部材であればよい。そして、この構成材90の一面にレジスト91を形成しておき、フォトリソグラフィ技術を用いて、所定の形状、即ち空洞の一部を構成する溝の表面形状を象った形状に形成すれば良い。
【0078】
次に、図12(b)に示すように、レジスト91をマスクとして構成材90をウエットエッチング、またはドライエッチングする。これにより、例えば図3に示すような形状の溝16を備えたカバー部材12が形成される。なお、この後、溝16の内壁面に、例えば、Au,Ag,Alのうち、少なくとも1種以上からなる薄膜を形成し、熱輻射を抑制する構成にしても良い。
【0079】
次に、図12(c)に示すように、裏面カバー18を用意して、センサ部20に対してカバー部材12および裏面カバー18を接合、固定する。接合に封止膜を用いた場合は、例えば、大気中にて基板を180〜200℃に加熱し、2〜3kgf/mm2の圧力で各基板を押圧しつつ、3〜5分程度保持することによって行う。以上により、ピラニ真空計10、第一温度補償体、第二温度補償体を備えたセンサ部20が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の圧力測定装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の圧力測定装置を備えた真空装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の圧力測定装置を構成するセンサ部の一例を示す分解斜視図である。
【図4】図3のA−A線での断面図である。
【図5】図3のB−B線での断面図である。
【図6】ピラニ真空計の気体の対流による影響を示すグラフである。
【図7】気体の対流を生じさせない構造を示す模式図である。
【図8】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図9】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図10】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図11】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 圧力測定装置
4 演算部
10 ピラニ真空計(圧力計:熱伝導型真空計)
11 筐体
20 センサ部
21 空洞
40 電気抵抗体
48a,48b 開口部
49a,49b 屈曲部
50 第一温度補償体
51 第二温度補償体
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力測定装置および圧力測定方法に関し、詳しくは、電気抵抗体と気体との熱交換により生じる熱損失量に基づいて、気体の圧力を測定する圧力測定装置および圧力測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体の圧力を測定する圧力測定装置の一例として、ピラニ真空計(熱伝導型真空計)が知られている。このピラニ真空計は、例えば、細い金属線からなるフィラメント(電気抵抗体)を備え、このフィラメントと気体との熱交換によって、フィラメントの熱損失量に基づいて気体の圧力を測定するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
こうしたピラニ真空計は、気体の圧力に応じてフィラメントから出力される電圧値に基づいて圧力値を得るために、例えば、圧力測定装置を構成する演算部で、予め作成された出力電圧値と圧力値との対応テーブルを参照して、気体の圧力値を得るようになっている
【0004】
また、出力電圧値と圧力値との関係を示す1つの数式に、フィラメントから出力される電圧値を当てはめて、気体の圧力値を算出する圧力測定装置も知られている。
【特許文献1】特開2005−114574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような、フィラメントの出力電圧値と圧力値との対照表を参照する方式では、圧力測定装置ごとに予め対照表を作成して記憶させておかなければならず、コストがかかるという課題があった。また、経時変化により対照表の出力電圧値と圧力値とのズレが生じた場合、新たに補正された参照表を作成して記憶させなければならないなど、メンテナンスにも手間がかかるという課題もあった。
【0006】
一方、出力値−圧力値の関係を示す単一の数式を用いて圧力値を得る方式では、圧力測定範囲が広い場合、単一の数式に出力値を適用するだけでは実際の圧力との誤差が大きくなり、特に低真空〜常圧以上の圧力領域では、その誤差が無視できないほど大きくなるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、常圧から高真空までの広い圧力範囲で圧力を正確に検出可能であり、かつ、低コストで生産が可能で、経時変化によるメンテナンス性にも優れた圧力測定装置を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、広い圧力範囲に渡って正確に圧力を検出することが可能な圧力測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は次のような圧力測定装置を提供した。
すなわち、本発明の圧力測定装置は、気体の圧力に対応した電気信号を出力する圧力計と、該圧力計の出力に対して所定の換算式を適用して前記気体の圧力を算出する演算部とを備えた圧力測定装置であって、
前記圧力計は、2つの開口部を有する空洞が配された筐体と、前記空洞の長手方向の途中に配され、前記気体と熱交換を行う電気抵抗体とを少なくとも有し、前記空洞は、使用する際の重力方向に沿った長さが1mm以下であり、前記演算部は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、低圧側である第一圧力範囲において第一換算式を適用して圧力を算出し、前記第一圧力範囲よりも高い高圧側である第二圧力範囲において第二換算式を適用して圧力を算出することを特徴とする。
【0010】
前記第一圧力範囲は、10−3Pa以上10Pa未満であり、前記第二圧力範囲は、10Pa以上105Pa以下であればよい。
【0011】
前記圧力計の出力V、前記気体の圧力P、a,bおよびcを定数としたときに、前記第一換算式は下記の数式1で、また、前記第二換算式は下記の数式2で、それぞれ表されればよい。
【数1】
【数2】
【0012】
前記空洞は、その経路の途中に屈曲部を備えていればよい。前記電気抵抗体の近傍には、第一加熱手段と、第二加熱手段が更に配されていればよい。前記第一加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲の全域に渡って、前記電気抵抗体の温度補償を行い、前記第二加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、圧力が10Pa以上の領域で更に温度補償を行えばよい。
【0013】
前記電気抵抗体は、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。前記電気抵抗体は、一面に電気絶縁膜を形成した基板に形成され、該基板は、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。前記電気絶縁膜は、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されればよい。
【0014】
また、本発明の圧力測定方法は、上記の圧力測定装置を用いて、圧力を測定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
従来、圧力範囲が10Pa以上の中間流領域〜粘性流領域では、圧力範囲が10Pa未満の自由分子流領域に比べて、圧力値と出力電圧値が直線状に比例しておらず、出力電圧値に対する実際の圧力値との対応を示した参照表に基づいて、圧力を出力していた。しかし、本発明の圧力測定装置によれば、10Pa未満の圧力領域では数式1を用い、10Pa以上の圧力領域では数式2を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を出力できる。
【0016】
また、圧力値と出力電圧値との対応を示す参照表を用いずに、高真空領域と、低真空領域〜常圧とで異なる2種類の数式を用いる事により、例えば、経時変化により出力電圧値と圧力値との対照にズレが生じた場合でも、新たに補正された参照表を記憶させるなどの手間がかからず、数式1,2の定数を変えるだけで良いので、メンテナンス性に優れた圧力測定装置を実現できる。
【0017】
また、本発明の圧力測定方法によれば、10Pa未満の圧力領域では数式1を用い、10Pa以上の圧力領域では数式2を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、特に、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を測定することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧力測定装置の最良の形態について、図面に基づき説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の圧力測定装置の概要を示すブロック図である。本発明の圧力測定装置1は、ドライバ3、演算部4、インターフェース5からなる制御部2と、この制御部2の各部に駆動用の電力を供給する電源部6とを備えている。演算部4には、後述する複数の数式のデータを記憶するメモリ7が形成されている。また、圧力測定装置1は、圧力計10、第一加熱手段50、第二加熱手段51からなるセンサ部20を備えている。
【0020】
ドライバ3は、センサ部20と演算部4との間で信号の変換、例えばA/D,D/Aコンバータなどの役割を果たし、センサ部20を制御する。演算部4は、センサ部20から入力される、気体の圧力に応じた電圧値に基づいて、後述する数式3または数式4を用いて圧力を算出する。インターフェース5は、演算部4から出力された圧力値の信号を外部機器、例えばディスプレイや各種製造機器に向けて出力する。
【0021】
図2に示すように、センサ部20は、例えば、真空チャンバの壁面102の開口部102aに配置して使用される。壁面102の開口部102aを外側から塞ぐように、Oリング103を介してフランジ104が配されている。このフランジ104の内面中央部にセンサ部20が装着され、フランジ104の周縁部に複数の貫通電極106が立設されている。
【0022】
圧力計(熱伝導型真空計:以下、ピラニ真空計と称する)10は、フィラメントに相当する電気抵抗体40と、基板22の表面を覆うカバー部材12と、基板22の裏面を覆う裏面カバー18とを備えている。基板22には、電気抵抗体40に通電するための電極42が形成されている。この電極42は、ワイヤ107により貫通電極106の内側端部と接続されている。その貫通電極106の外側端部は、後述するブリッジ回路に接続されている。
なお、こうしたピラニ真空計10は、例えば、半導体集積回路作製技術を用いて作製されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems) デバイスとして形成することができる
【0023】
図3は、圧力測定装置を構成するセンサ部の分解斜視図である。また、図4(a)は図3におけるA−A線での断面図であり、図4(b)は図3におけるB−B線での断面図である。ピラニ真空計10は、筐体11を備えている。筐体11は、電気抵抗体40が形成された基板22と、基板22の表面を覆うカバー部材12と、基板22の裏面を覆う裏面カバー18とを備えている。これら基板22、カバー部材12、および裏面カバー18は、互いに重ねられた状態で接合される。
【0024】
基板22の一面22aには、電気絶縁膜30が形成されている。電気絶縁膜30の表面には、電気抵抗体40と、電気抵抗体40に通電するための電極42(42a,42b)とが形成されている。そして、基板22における電気抵抗体40が配された位置には、基板22を貫通する貫通孔24が形成されている。この貫通孔24の一部は、電気抵抗体40の周縁を取り巻くように、スリット状に電気絶縁膜30まで貫通する。これにより、電気抵抗体40は、電気絶縁膜30の一部である架橋状の浮膜(メンブレン)32によって、基板22に接しない状態で支持される。
【0025】
カバー部材12には、後述する空洞21の一部を構成する溝16が形成されている。溝16は、カバー部材12が基板22と対向する面から所定の形状で掘られた有底の溝であり、長手方向に対して直角な断面が、例えば凹状に形成されていればよい。こうした溝16によって、センサ部20の中央付近に形成された電気抵抗体40の周囲に、所定の広がりを持つ空間が形成されつつ、電気抵抗体40がカバー部材12によって覆われる。
【0026】
裏面カバー18は、センサ部20の裏面に形成された封止膜(不図示)に接合され、センサ部20に固定されている。これにより、基板22に形成された貫通孔24が、裏面カバー18によって覆われる。
【0027】
センサ部20を構成する基板22は、例えば、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上の材料から構成されるのが好ましい。基板22は、例えば、正方形状、ないし長方形状とされ、その一辺は例えば5mm程度に形成されている。基板22の厚みは、例えば500±25μm程度に形成されていればよい。
【0028】
貫通孔24は、基板22の一面22aから他面22bに向けてその開口面積が漸増するように、テーパ状に形成されていればよい。あるいは、開口面積が変わらない直胴状に形成されていてもよい。
【0029】
基板22の一面22aに形成される電気絶縁膜30は、例えば、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。電気絶縁膜30の厚みは、例えば1〜2μm程度に形成されていればよい。
【0030】
電気抵抗体40は、通電によりジュール熱を発生する金属材料により、細線状に形成されていればよい。電気抵抗体40は、例えば、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。こうした温度係数(単位温度あたりの電気抵抗値の変化量)の高い材料を電気抵抗体40として用いることによって、ピラニ真空計10の測定精度を向上させることができる。
【0031】
電気抵抗体40は、例えば膜厚が200〜400nm、線幅が10〜20μm、抵抗値が100〜150Ωに形成されている。なお電気抵抗体40と浮膜32との密着性を確保するため、両者間に密着層を形成することが望ましい。密着層は、例えば、Ni,Cr,Ti,Ta2O5のうち、少なくとも1種以上から形成されていればよい。
【0032】
電気抵抗体40は、上述した金属材料からなる細線を、例えばメアンダ形状(つづら折り形状)にパターニングして形成されている。メアンダ形状とすることにより、小さな占有面積で細線の長さを長く取ることができるので、圧力を測定する気体との熱交換を行う際の表面積を多くすることが可能になる。なお、こうした電気抵抗体40の形成形状は、メアンダ形状以外にも、任意の形状とすることができる。
【0033】
電気抵抗体40の両端部には、連結配線44が形成されている。連結配線44は、電気絶縁膜30の端部に形成された電極42(42a,42b)に引き出されている。この電極42から、連結配線44を介して、電気抵抗体40に通電しうるようになっている。
【0034】
電気抵抗体40に気体(圧力を測定するガス)が接触すると、気体と電気抵抗体40との間で熱交換が行われる。この時、気体が電気抵抗体40から奪う熱量Qgは、数式(5)で表される。
Qg=Kc(Tf−Tw)P=I2R ・・・ (5)
ただし、Kcは被測定ガスにより輸送される熱量の熱伝導係数、Tfは電気抵抗体40の温度、Twは電気抵抗体40の周辺温度(室温)、Pは被測定ガスの圧力、Iは電気抵抗体40を流れる電流、Rは電気抵抗体40の抵抗値である。
【0035】
数式(5)によれば、気体が電気抵抗体40から奪う熱量Qgは、気体の圧力Pに比例することがわかる。また電気抵抗体40の抵抗値Rは、電気抵抗体40の温度Tfに略比例するので、Tfが一定となるように電流Iを制御すれば、抵抗値Rも一定となる。その結果、電流Iから気体の圧力Pを算出することができる。
【0036】
ところで、数式(5)において電気抵抗体の周辺温度Twが変化すると、電流Iから気体の圧力Pを算出することが困難になる。そこで、電気抵抗体の周辺温度Twの変化を補償するため、第一温度補償体(第一加熱手段)50を設けるのが好ましい。第一温度補償体50は、ある圧力ポイントにおいて、ピラニ真空計10の温度変化による影響を0になるように補償するものである。
【0037】
図3に示すように、第一温度補償体50は、電気抵抗体40に隣接して電気絶縁膜30の表面に形成されている。第一温度補償体50は、例えば、電気抵抗体40と同じ材料で細線状に形成されている。第一温度補償体50は、例えばメアンダ形状(つづら折り形状)に形成される。
【0038】
第一温度補償体50の一端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極52に接続されている。また第一温度補償体50の他端は、電気抵抗体40の一方の電極42aに接続されている。これにより電極42bは、電気抵抗体40および第一温度補償体50の共通電極として機能する。
【0039】
一方、104Pa以上の圧力環境においては、温度が高くなると、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力よりもが高くなるという現象がある。これは、気体の熱伝導率が温度依存性を示すことによるものである。即ち、温度が高くなり気体の熱伝導率が高まるために、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力に対応した値よりも高くなるのである。このため、大気圧以上での温度補償を目的として、第二温度補償体51が第一温度補償体50に隣接して電気絶縁膜30の表面に形成されている。
【0040】
第二温度補償体51の一端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極53に接続されている。また第一温度補償体50の他端は、電気絶縁膜30の周縁に形成された電極54に接続されている。これら電極53と電極54との間には、電源回路(図示せず)が接続されていればよい。
【0041】
図5は、ピラニ真空計の電気的な接続を示す回路図である。ピラニ真空計10はブリッジ回路を構成し、電気抵抗体40および第一温度補償体50は並列接続されている。そして、それぞれの電極42a,52間の電位差Vが0となるように、電気抵抗体40を流れる電流Iを制御する。第一温度補償体50の抵抗値は電気抵抗体40より非常に高く設定されているので、第一温度補償体50を流れる電流は微小になり、第一温度補償体50の温度および抵抗値はほとんど変化しない。ここで電位差Vを0とするためには、電気抵抗体40の周辺温度Twの変化量に合わせて、温度Tfを変化させることになる。したがって、Tf−Twが一定となり、周辺温度の変化が補償されるようになっている。
【0042】
また、104Pa以上の圧力測定時には、第二温度補償体51に対して定電流を印加し、ピラニ真空計10の出力が実際の圧力よりも高くなる差分を補正するように温度補償体を行う。
【0043】
一方、上述したような原理によって気体の圧力を測定する際に、電気抵抗体が気体と接する領域において、重力方向に沿って気体の対流が生じると、この対流の作用によって電気抵抗体から熱が奪われ、電気抵抗体の出力電流値が実際の圧力値に対応した出力電流値よりも過剰に上昇することが知られている。図6は、一般的なピラニ真空計において、電気抵抗体の周囲で重力方向に沿った対流が生じた場合と、対流が生じない場合とで、電気抵抗体の出力電流値と実際の圧力との関係を示したグラフである。なお、図5のグラフにおいて、◆で示す測定点が対流を生じさせた場合、○で示す測定点は対流を生じさせない場合を示している。
【0044】
このグラフによれば、特に、圧力が104Pa以上の低真空領域においては、気体が多く存在するため、電気抵抗体が配された領域で気体の対流が生じると、気体の対流によって電気抵抗体から過剰に熱が奪われ、出力電流値が実際の圧力に対応した値よりも高くなってしまうことがわかる。
【0045】
こうした気体の対流による電気抵抗体の出力変動を抑制するため、本発明の圧力測定装置1では、筐体11に、2つの開口部48a,48bを有する空洞21が形成されている。そして、電気抵抗体40は、この空洞21の長手方向の途中に、空洞21の内部空間に露出されるように配されている。
【0046】
こうした空洞21を形成するために、カバー部材12には、基板22と対向する面から所定の形状で溝16が形成される。カバー部材12は、例えば、Si,Si02,GaN,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなる部材によって形成されていればよい。
【0047】
空洞21は、カバー部材12に形成された溝16と、基板22の電気絶縁膜30とからなり、断面が矩形を成すトンネル状の空間を形成する。空洞21は、2つの開口部48a,48bの間の経路の途中に2つの屈曲部49a,49bを持つ。電気抵抗体40は、この2つの屈曲部49a,49bの間に位置するように配されている。
【0048】
空洞21は、2つの屈曲部49a,49bの間の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、ピラニ真空計10を使用する際に重力方向Wに沿った方向となる長さLを、対流が生じない長さ、即ち1mm以下となるように形成される。
【0049】
一般的に、熱はレイリー数がある限界値(臨界レイリー数)以下においては、気体の熱伝導により伝達される。一方、この限界値以上では対流によって熱が伝達される.この時の臨界レイリー数は約1700である。例えば、熱源と気体との温度差が100℃あると想定して計算すると、臨界レイリー数を与える代表的な距離は約5mmとなる。つまり、ピラニ真空計の場合、電気抵抗体と、この電気抵抗体を囲む空間を形成する壁面との距離が5mm以下であれば、理論上は対流が生じないことになる
【0050】
しかしながら、上述した対流が生じない距離は、単純化された形状での理論上の数値であり、これをそのままピラニ真空計に適用するには誤差が大きすぎる。そのため、本発明の圧力測定装置1を構成するピラニ真空計10では、図7の模式図に示すように、電気抵抗体40が配された空洞21において、使用する際の重力方向Wに沿った方向の空洞21の長さLを1mm以下とするものである。この重力方向Wに沿った長さLを1mm以下とすることで、空洞21の内部空間で対流の発生を確実に防止できる。
【0051】
例えば、図3、図4(a)において、空洞21の長手方向に沿った方向が重力方向W1となるようにピラニ真空計10を設置する場合、空洞21における電気抵抗体40が配された領域Sで、2つの屈曲部49a,49bの間の長さL1が1mm以下になるように、空洞21が形成される。
【0052】
また、例えば、図4(b)において、空洞21の厚みに沿った方向が重力方向W2となるようにピラニ真空計10を設置する場合、空洞21における電気抵抗体40が配された領域Sで、電気抵抗体40と、この電気抵抗体40に対向する空洞21の内壁面21aとの長さL2がが1mm以下になるように、空洞21が形成される。
【0053】
このように、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、使用する際の重力方向Wに沿った方向の長さLを1mm以下とすることによって、空洞21の内部空間で対流の発生を確実に防止できる。これにより、電気抵抗体40から出力される電流値が、対流の影響で変動することがなく、実際の圧力値に対応した値を出力することができる。特に、対流の影響を大きく受ける104Pa以上の圧力環境においても、本発明の圧力測定装置1によって、正確な圧力値を測定することが可能になる。
【0054】
そして、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、空洞21の最も長い距離を1mm以下にすれば、このピラニ真空計10を含むセンサ部20をどのような方向に向けて設置しても、電気抵抗体40に対して気体の対流が生じる事の無い圧力測定装置1を実現することが可能になる。例えば、図2に示す圧力測定装置1の場合、空洞21の電気抵抗体40が配された領域Sにおいて、空洞21の長手方向に沿った長さL1(図3(a)参照)を1mm以下にすることによって、センサ部20の設置方向によらず、常に圧力を誤差なく測定することが可能になる。
【0055】
以上のように、本発明の圧力測定装置1によれば、104Pa以上の圧力環境であっても、取り付け方向によって測定圧力値が変動することがなく、重力方向に対してどのような方向に向けて設置しても、正確に圧力を測定することが可能となる。
【0056】
なお、こうした空洞21の、少なくとも電気抵抗体40が形成された領域Sにおける内壁面21aは、Au,Ag,Alのうち、少なくとも1種以上からなる薄膜で覆われているのが好ましい。こうした部材で内壁面21aを覆うことによって、熱輻射を防止して、熱伝導による電気抵抗体40への影響を低減することが可能になる。
【0057】
上述したようなピラニ真空計10を備えたセンサ部20を、例えば、B−Aゲージ(電離真空計)に併設する事も好ましい。ピラニ真空計10をB−Aゲージの一部に設ける事により、例えば、104Pa以下の高真空領域はB−Aゲージによって測定し、104Pa以上の低真空領域は本発明のピラニ真空計によって測定する構成にすれば、例えば、常圧から高真空領域まで極めて幅広い範囲の圧力値を正確に検出することが可能になる。
【0058】
次に、センサ部20のピラニ真空計10から出力された、気体の圧力に対応した電圧値から、気体の圧力を演算して出力する構成を述べる。ピラニ真空計10から出力された、気体の圧力に対応した電圧値V(出力)は、ドライバ2を介して演算部4に入力される。演算部4では、予め設定された閾値を参照し、入力された電圧値Vが閾値よりも低い場合は、メモリー7に記憶された以下の数式3を用いて圧力Pを算出する。また、入力された電圧値Vが閾値よりも高い場合は、メモリー7に記憶された以下の数式4を用いて圧力Pを算出する。
【0059】
【数3】
【0060】
【数4】
【0061】
なお、上記の数式3,数式4において、a,b,cは定数であり、定数aは熱伝導パラメータ(温度依存定数)を示す数値であり、定数bは熱伝導が100%の時を1とした時の、熱伝導の確立を示す数値である。
【0062】
上記の数式3と数式4との適用圧力範囲を決める閾値は、例えば、10Paの圧力に相当する電圧値であればよい。即ち、ピラニ真空計10の測定可能な圧力範囲を、例えば10−3Pa〜105Paとした場合、圧力範囲が10−3Pa以上10Pa未満の時には、ピラニ真空計10で得られた電圧値Vを数式3に当てはめて圧力Pを算出する。一方、圧力範囲が10Pa以上105Pa以下の時には、ピラニ真空計10で得られた電圧値Vを数式4に当てはめて圧力Pを算出する。
【0063】
従来、圧力範囲が10Pa以上の中間流領域〜粘性流領域では、圧力範囲が10Pa未満の自由分子流領域に比べて、圧力値と出力電圧値が直線状に比例しておらず、出力電圧値に対する実際の圧力値との対応を示した参照表に基づいて、圧力を出力していた。しかし、10Pa未満の圧力領域では上記の数式3を用い、10Pa以上の圧力領域では上記の数式4を用いて圧力を算出する事によって、圧力値と出力電圧値との誤差を最小限にとどめ、10Pa以上の圧力領域においても、高精度に圧力値を出力できる。
【0064】
また、圧力値と出力電圧値との対応を示す参照表を用いずに、高真空領域と、低真空領域〜常圧とで異なる2種類の数式を用いる事により、例えば、経時変化により出力電圧値と圧力値との対照にズレが生じた場合でも、新たに補正された参照表を記憶させるなどの手間がかからず、数式3,4の定数を変えるだけで良いので、メンテナンス性に優れた圧力測定装置1を実現できる。また、こうした経時変化による補正は、圧力測定装置を使用するユーザー側でも容易に行うことができるので、メンテナンスのために圧力測定装置が長時間使用できなくなったり、メンテナンスのための要員を派遣するなどの不都合や手間を解消することができる。
【0065】
以上のような構成の圧力測定装置に関して、センサ部の製造工程を図8〜図12を用いて簡単に説明する。ピラニ真空計10が形成されたセンサ部20は、素子の数μmレベルの微細化に有利な電気機械システム(Micro Electro Mechanical System:MEMS)技術を用いて形成する事ができる。MEMS技術とは、金属の蒸着やスパッタリング法などを用いる成膜技術や、基板上に数μmレベルのパターンを作製することができるリソグラフィ技術、さらには金属や半導体、酸化物などの膜を酸性やアルカリ性の薬液や、気体の放電現象により発生するイオンの化学反応を用いて、部分的に取り除くエッチング技術などを用いて、3次元構造の素子を基板上に多数作製するものである。
【0066】
まず図8(a)に示すように、基板22の表面に電気絶縁膜30を形成するとともに、基板22の裏面にも電気絶縁膜60を形成する。例えば、SiO2からなる電気絶縁膜30,60は、シリコン基板22を熱酸化することによって形成することが可能である。また、例えば、SiNからなる電気絶縁膜30,60は、蒸着法やCVD法等によって形成することが可能である。
【0067】
次に、電気絶縁膜30の表面全体にレジスト70を形成する。さらにフォトリソグラフィ技術(露光および現像)により、電気抵抗体、第一温度補償体、第二温度補償体およびそれらの電極の形成領域に存在するレジスト70を除去して、凹部71を形成する。
【0068】
次に図8(b)に示すように、基板22の表面全体にPt/Cr膜40aを形成する。
Pt/Cr膜40aは、密着層となる下層のCr層と、電気抵抗体となる上層のPt層で構成される。Pt/Cr膜40aは、スパッタ法等を用いて、凹部71の内部およびレジスト70の表面全体に形成する。
【0069】
次に図8(c)に示すように、レジスト70を剥離する。レジスト70の剥離は、プラズマアッシング装置等を用いたドライプロセスまたはレジスト剥離液等を用いたウエットプロセスによって行うことが可能である。このレジスト70の剥離とともに、レジスト70に積層されたPt/Cr膜40aを除去する(いわゆるリフトオフ)。これにより、凹部71の内部に形成されたPt/Cr膜40aが電気絶縁膜30の表面に残り、電気抵抗体40が形成される。なお電気抵抗体40と同時に、第一温度補償体、第二温度補償体および各電極(いずれも不図示)が形成される。
【0070】
次に図8(d)に示すように、電気絶縁膜30の表面全体にレジスト74を形成する。さらにフォトリソグラフィ技術により、封止膜の形成領域に存在するレジスト74を除去して、凹部75を形成する。
次に図9(a)に示すように、凹部75の内部およびレジスト74の表面全体に、スパッタ法等によりAu膜28aを形成する。
次に図9(b)に示すように、レジスト74を剥離するとともに、レジスト74に積層されたAu膜28aを除去する。これにより、凹部75の内部に形成されたAu膜28aが電気絶縁膜30の表面に残り、封止膜28が形成される。
【0071】
次に図9(c)に示すように、基板22の表面にレジスト78を形成する。ここでは、基板22の裏面にもレジスト78を形成しておく。次に、基板22の表面に形成されたレジスト78を露光および現像して、浮膜を囲むスリットおよび溝部の形成領域に凹部79を形成する。次に、このレジスト78をマスクとして、電気絶縁膜30のエッチングを行う。このエッチング処理は、CF4等のフルオロカーボンガスをエッチャントとして、RIE(Reactive Ion Etching)等により行うことが可能である。これにより、図9(d)に示すように、浮膜32が形成される。その後、レジスト78を剥離する。
【0072】
次に図10(a)に示すように、基板22の表面および裏面にレジスト80を形成する。
次に、基板22の裏面に形成したレジスト80を露光および現像して、基板22の貫通孔の形成領域に凹部81を形成する。次に、このレジスト80をマスクとして、電気絶縁膜60のエッチング処理を行う。
これにより、図10(b)に示すように、基板22の貫通孔の形成領域に存在する電気絶縁膜60が除去されて、凹部61が形成される。その後、基板22の表面のレジスト80を残して、裏面のレジスト80のみを剥離する。
【0073】
次に図10(c)に示すように、基板22の裏側における電気絶縁膜60の凹部61の内部に、レジスト84を充填する。なお基板22の裏面全体にレジスト84を形成しておき、フォトリソグラフィ技術を用いて、電気絶縁膜60の表面に存在するレジストのみを除去してもよい。
【0074】
次に図11(a)に示すように、基板22の裏面全体に、スパッタ法等によりAu膜29aを形成する。
次に図11(b)に示すように、レジスト84を剥離するとともに、レジスト84に積層されたAu膜29aを除去する。これにより、電気絶縁膜60の表面のみにAu膜29aが残り、封止膜29が形成される。
【0075】
次に図11(c)に示すように、封止膜29をマスクとして、基板22をウエットエッチングする。なお電気絶縁膜60をSiO2で構成した場合には、基板22のエッチング液としてTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)を採用し、電気絶縁膜60をSiNで構成した場合には、エッチング液としてKOHを採用することが望ましい。
【0076】
これにより、シリコン基板22と電気絶縁膜60とのエッチング選択比を確保することが可能になり、電気絶縁膜60をエッチングすることなく基板22のみをエッチングすることができる。基板22のエッチングは、基板22を構成するシリコンの結晶方位に従って斜めに進行する。これにより貫通孔24は、基板22の裏面から表面にかけて開口面積が小さくなるように、テーパ状に形成される。
【0077】
次に、図12(a)に示すように、カバー部材を形成するための構成材90を用意する。この構成材90は、例えば、Si,Si02,GaN,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなる部材であればよい。そして、この構成材90の一面にレジスト91を形成しておき、フォトリソグラフィ技術を用いて、所定の形状、即ち空洞の一部を構成する溝の表面形状を象った形状に形成すれば良い。
【0078】
次に、図12(b)に示すように、レジスト91をマスクとして構成材90をウエットエッチング、またはドライエッチングする。これにより、例えば図3に示すような形状の溝16を備えたカバー部材12が形成される。なお、この後、溝16の内壁面に、例えば、Au,Ag,Alのうち、少なくとも1種以上からなる薄膜を形成し、熱輻射を抑制する構成にしても良い。
【0079】
次に、図12(c)に示すように、裏面カバー18を用意して、センサ部20に対してカバー部材12および裏面カバー18を接合、固定する。接合に封止膜を用いた場合は、例えば、大気中にて基板を180〜200℃に加熱し、2〜3kgf/mm2の圧力で各基板を押圧しつつ、3〜5分程度保持することによって行う。以上により、ピラニ真空計10、第一温度補償体、第二温度補償体を備えたセンサ部20が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の圧力測定装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の圧力測定装置を備えた真空装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の圧力測定装置を構成するセンサ部の一例を示す分解斜視図である。
【図4】図3のA−A線での断面図である。
【図5】図3のB−B線での断面図である。
【図6】ピラニ真空計の気体の対流による影響を示すグラフである。
【図7】気体の対流を生じさせない構造を示す模式図である。
【図8】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図9】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図10】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図11】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の圧力測定装置の製造工程の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 圧力測定装置
4 演算部
10 ピラニ真空計(圧力計:熱伝導型真空計)
11 筐体
20 センサ部
21 空洞
40 電気抵抗体
48a,48b 開口部
49a,49b 屈曲部
50 第一温度補償体
51 第二温度補償体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の圧力に対応した電気信号を出力する圧力計と、該圧力計の出力に対して所定の換算式を適用して前記気体の圧力を算出する演算部とを備えた圧力測定装置であって、
前記圧力計は、2つの開口部を有する空洞が配された筐体と、前記空洞の長手方向の途中に配され、前記気体と熱交換を行う電気抵抗体とを少なくとも有し、
前記空洞は、使用する際の重力方向に沿った長さが1mm以下であり、
前記演算部は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、低圧側である第一圧力範囲において第一換算式を適用して圧力を算出し、前記第一圧力範囲よりも高い高圧側である第二圧力範囲において第二換算式を適用して圧力を算出することを特徴とする圧力測定装置。
【請求項2】
前記第一圧力範囲は、10−3Pa以上10Pa未満であり、前記第二圧力範囲は、10Pa以上105Pa以下であることを特徴とする請求項1記載の圧力測定装置。
【請求項3】
前記圧力計の出力V、前記気体の圧力P、a,bおよびcを定数としたときに、前記第一換算式は下記の数式1で、また、前記第二換算式は下記の数式2で、それぞれ表されることを特徴とする請求項1または2記載の圧力測定装置。
【数1】
【数2】
【請求項4】
前記空洞は、その経路の途中に屈曲部を備えていることを特徴とする請求項1ないし3記載の圧力測定装置。
【請求項5】
前記電気抵抗体の近傍には、第一加熱手段と、第二加熱手段が更に配されていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項6】
前記第一加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲の全域に渡って、前記電気抵抗体の温度補償を行い、前記第二加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、圧力が10Pa以上の領域で更に温度補償を行うことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項7】
前記電気抵抗体は、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項8】
前記電気抵抗体は、一面に電気絶縁膜を形成した基板に形成され、該基板は、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項9】
前記電気絶縁膜は、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項8記載の圧力測定装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項記載の圧力測定装置を用いて、圧力を測定することを特徴とする圧力測定方法。
【請求項1】
気体の圧力に対応した電気信号を出力する圧力計と、該圧力計の出力に対して所定の換算式を適用して前記気体の圧力を算出する演算部とを備えた圧力測定装置であって、
前記圧力計は、2つの開口部を有する空洞が配された筐体と、前記空洞の長手方向の途中に配され、前記気体と熱交換を行う電気抵抗体とを少なくとも有し、
前記空洞は、使用する際の重力方向に沿った長さが1mm以下であり、
前記演算部は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、低圧側である第一圧力範囲において第一換算式を適用して圧力を算出し、前記第一圧力範囲よりも高い高圧側である第二圧力範囲において第二換算式を適用して圧力を算出することを特徴とする圧力測定装置。
【請求項2】
前記第一圧力範囲は、10−3Pa以上10Pa未満であり、前記第二圧力範囲は、10Pa以上105Pa以下であることを特徴とする請求項1記載の圧力測定装置。
【請求項3】
前記圧力計の出力V、前記気体の圧力P、a,bおよびcを定数としたときに、前記第一換算式は下記の数式1で、また、前記第二換算式は下記の数式2で、それぞれ表されることを特徴とする請求項1または2記載の圧力測定装置。
【数1】
【数2】
【請求項4】
前記空洞は、その経路の途中に屈曲部を備えていることを特徴とする請求項1ないし3記載の圧力測定装置。
【請求項5】
前記電気抵抗体の近傍には、第一加熱手段と、第二加熱手段が更に配されていることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項6】
前記第一加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲の全域に渡って、前記電気抵抗体の温度補償を行い、前記第二加熱手段は、前記圧力計の測定可能な圧力範囲のうち、圧力が10Pa以上の領域で更に温度補償を行うことを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項7】
前記電気抵抗体は、Pt,Cr,Ni−Cr合金,W,W−Mo合金,Taのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項8】
前記電気抵抗体は、一面に電気絶縁膜を形成した基板に形成され、該基板は、Si,Si02,シリコンナイトライド,サファイア,Al2O3,硼珪酸ガラス,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載の圧力測定装置。
【請求項9】
前記電気絶縁膜は、Si02,サファイア,Al2O3,Si3N4,AlN,SiAlONのうち、少なくとも1種以上からなることを特徴とする請求項8記載の圧力測定装置。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項記載の圧力測定装置を用いて、圧力を測定することを特徴とする圧力測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−300404(P2009−300404A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158472(P2008−158472)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]