説明

圧延機の胴幅可変ロールおよびロール胴幅可変方法

【課題】ロール胴幅の調整範囲が広く、構造もシンプルで剛性の高い胴幅可変ロールを提供する
【解決手段】左右対の竪ロールと、回転するアーバーの胴部にスリーブロールを嵌合させた上下対の水平ロールと、を有する圧延機の前記水平ロールにおいて、前記アーバーを内部から加熱して熱膨張させる加熱装置を有し、前記アーバーの胴部の外径とスリーブロールの内径を、前記熱膨張させる前のアーバーの胴部に対してはスリーブロールを軸方向に移動させることができ、前記熱膨張をさせたときにアーバーの胴部が膨着してスリーブロールが固定される寸法とし、前記熱膨張させる前のアーバーの胴部にスリーブロールを非固定で嵌合させた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機の圧延ロールに関し、特に、例えばH形鋼のウエブ高さなど、鋼材の形状に対応してロール胴幅が可変である胴幅可変ロール及びロール胴幅可変方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば形鋼の一つであるH形鋼の製造に当たっては、一般的に、図1に示すブレークダウンミル、粗ユニバーサルミル、エッジャーミル、仕上ユニバーサルミルで順に鋼材を圧延して、種々のサイズのH形鋼を圧延成形している。H形鋼1は、図2に示されるように、両側のフランジ部11と、フランジ部11を連結するウエブ12を有する。そのため、ウエブ高さ(H)が異なるH形鋼を製造するためには、仕上ユニバーサルミルでは、それぞれのウエブ高さ(H)に適合するロール胴幅の水平ロールが必要となる。
【0003】
ところで、図3に例示するように、ウエブ高さ(H)が800mmのH形鋼1を製造する上下対の水平ロール13の場合、継続使用による損耗やロール肌改善のため、圧延後にロール側表面を改削するが、この改削によりロール胴幅(B1)がウエブ高さ(H=800)を圧延するのに必要な寸法を下回った場合、この水平ロール13,13はウエブ高さ(H)が700mm用のロールへ格下げとなり、ロール胴幅が約100mm削り落される(B2)。この無駄なロール胴幅の削り落としを無くしてロール原単位を向上させ、且つ、一種類の水平ロール13で複数のウエブ高さ(H)のH形鋼1の圧延に共用使用ができるように、ウエブ高さ(H)に応じてロール胴幅(B)を可変とした胴幅可変ロールが考案されている。胴幅可変ロールとしては、オンラインで胴幅の調整を行うものとオフラインで胴幅の調整を行うものとがある。
【0004】
オンラインでロール胴幅の調整を行うものとして、例えば特許文献1、2、3に示すものがあり、ロール本体は、いずれもアーバー、中空スリーブおよびスリーブロールの3つの主要部品で構成されている。これら水平ロールは、スリーブロールが連結された中空スリーブとアーバーとが軸方向には摺動自在に、回転方向にはトルクを伝達できるように係合し、両者の軸方向の相対位置は圧延機に組み込んだ状態で、ネジ機構により調整可能となっている。これらの方式では水平ロールを従来ロールと同じとした場合、中空スリーブの厚み分だけアーバー径が小さくなり、水平ロールの剛性が低下し、製品精度が悪化するという問題があった。また、圧延機本体のロール軸方向の寸法制約によりロール胴幅の調整範囲が制約されるため、調整範囲が異なる複数の胴幅可変ロールを保有しておかなければならないという問題もあった。
【0005】
そこで、ロール胴幅の調整範囲が制約されるのを緩和するため、中空スリーブをなくして、直接、スリーブロールをアーバーに嵌合させる案も提案されている。例えば特許文献4の胴幅可変ロールは、スリーブロールとアーバー間を締り嵌めとし、ロール胴幅を変更するときには、アーバーに設けられた油圧供給孔からスリーブロール内面とアーバーの外面との間に高圧の油圧を印加し、スリーブロールを膨張させて両者間に隙間を形成し、スリーブロールを軸方向にスライド移動させて胴幅を可変にしている。しかしながら、この方式では、スリーブロール内面にオイルインジェクションの溝を形成することでアーバーとスリーブロール間の接触面積が低減し、アーバーとスリーブロール間で圧延トルクの伝達能力が低下するという問題があった。
【0006】
一方、オフラインで胴幅調整を行う胴幅可変ロールとしては、同じく特許文献4に例示されるように、スリーブロールを直接アーバー上に機械的に係合させ、スリーブロール幅の調整範囲を広くした提案がなされている。しかしながら、この方式の場合、スリーブロール間にスペーサーを挿入してロール胴幅を調整することから、スペーサー厚ごとの段階的な調整しかできず、胴幅設定精度がスペーサーの厚みに依存してしまうという問題がある。また、スリーブロールとアーバー間のトルク伝達と軸方向のスリーブロールの位置決め方法は、相互間の機械式固定治具によるため、水やスケールの浸入による固定治具部の損耗を防ぐことは難しく、強度・寿命上の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−156007
【特許文献2】特開昭60−72603
【特許文献3】特開平1−317607
【特許文献4】特開昭60−82209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、中空スリーブを有する従来の胴幅可変ロールでは、ロールの保有数が多くなるという問題がある。さらに、中空スリーブの厚みの分だけアーバーの外径が小さくなり、ロールの剛性が低下して製品精度が悪化する場合がある。
【0009】
一方、アーバーとスリーブロールからなる胴幅可変ロールでは、ロールの固定方法が油圧の場合には、すべりに対する耐力が低くなる問題がある。また、スペーサーと機械式治具による固定方式の場合には、ロール胴幅の設定精度がスペーサーの厚みに依存してしまう問題と、アーバーとスリーブロールの固定治具のメンテナンス上の問題がある。
【0010】
本発明は、上記の如き問題点を解決し、ロール胴幅の調整範囲が広く、構造もシンプルで剛性の高い胴幅可変ロールおよび胴幅可変方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る圧延機の胴幅可変ロールは、左右対の竪ロールと、回転するアーバーの胴部にスリーブロールを嵌合させた上下対の水平ロールと、を有する圧延機の前記水平ロールにおいて、前記アーバーを内部から加熱して熱膨張させる加熱装置を有し、前記アーバーの胴部の外径とスリーブロールの内径を、前記熱膨張させる前のアーバーの胴部に対してはスリーブロールを軸方向に移動させることができ、前記熱膨張をさせたときにアーバーの胴部が膨着してスリーブロールが固定される寸法とし、前記熱膨張させる前のアーバーの胴部にスリーブロールを非固定で嵌合させたことを特徴とする。
【0012】
前記スリーブロールが嵌合されるアーバーの胴部は、その表面が肉盛溶接又は溶射された断熱材料で被覆されているか、或いは円筒状の断熱材が締り嵌めされていることが好ましい。
【0013】
本発明に係るロール胴幅可変方法は、回転するアーバーと、アーバーの胴部に嵌合させた一対のスリーブロールと、を有する圧延機の水平ロールにおいて、前記一対のスリーブロール間の幅を可変にする方法であって、鋼材の圧延処理を開始する前に、アーバーの胴部に対して少なくとも一方のスリーブロールを移動させて軸方向の位置決めをし、アーバーを内部から加熱して熱膨張させてアーバーをスリーブロールに膨着させて固定することを特徴とする。
【0014】
さらに、前記水平ロールで鋼材の圧延を行った後、アーバーの加熱を停止して前記アーバーとスリーブロールの膨着状態を解除し、アーバーの胴部に対して少なくとも一方のスリーブロールを軸方向に摺動させてスリーブロール幅を変えるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来方式で課題となっていた、胴幅調整機構の構造に起因するロール胴幅調整範囲の制約問題を解決でき、一種類のロールでほぼ全てのウエブ高さ(H)の圧延に対応することが可能となる。また、スリーブロールの固定方式を、アーバーを加熱することによる膨着としたことにより、機械的な固定機構が必要でなくなり、損耗や胴幅設定精度上の問題を解消することができる。また、スリーブロールの固定方式が、加熱による膨着であるため、スリーブロールの内周面をアーバーの胴部に対して全面接触させることができ、十分な圧延トルク(回転方向のトルク)を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】H形鋼を製造するための一連の圧延工程を示す。
【図2】H形鋼を示す。
【図3】従来の水平ロールの課題を説明するための図である。
【図4】本発明の好ましい実施形態に従う胴幅可変ロールを有する圧延機を示す。
【図5】上記胴幅可変ロールのスリーブロールの固定方法を模式的に示した図である。
【図6】ロール胴幅を調整する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態による圧延機の胴幅可変ロールおよび胴幅可変方法について、仕上ユニバーサル圧延機の水平ロールを一例に挙げて、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0018】
本実施形態に従う仕上ユニバーサル圧延機は、圧延ロット毎に竪ロール及び水平ロールの組替え(胴幅の変更を含む)を行うことが実用上の通例であることに鑑み、水平ロールの胴幅調整をオフラインにて実行可能な構造としている。
【0019】
図4は、本実施形態に従う仕上ユニバーサル圧延機2を、圧延材であるH形鋼1のパス方向から見た縦断面図である。仕上ユニバーサル圧延機2は、鉛直軸を回転軸とする竪ロール3の一対(左右対)と、水平軸を回転軸とする水平ロール4の一対(上下対)を備えている。
【0020】
竪ロール3の各々は、外形が概ね矩形状をなすロールチョック31内に配置され、このロールチョック31に回転自在に軸支されている。竪ロール3は、ロールチョック31の一面から露出している部分でH形鋼1のフランジ面を水平方向に圧延する。竪ロール3の圧下力は、例えば圧下スクリュー32などの圧下装置によって設定することができる。圧下スクリュー32は、軸方向と直交する方向にロールチョック31を押圧する。さらに、ロールチョック31は、竪ロール3と一体的に水平方向に移動できるように支持機構(不図示)によって支持されている。従って、H形鋼1のウエブ高さ(H)に応じて竪ロール3同士の離間距離を調節することができる。竪ロール3は、アイドラー(無駆動ロール)とする。そして、圧延処理の実行時において、水平ロール4を回転駆動させてH形鋼1を出力側に送り出すと、左右の竪ロール3がH形鋼1によって対称方向に回転されることとなる。
【0021】
竪ロール3は、図示は省略するが、例えばダクタイル鋳鉄やアダマイト鋳鉄製のアイドルロールである。竪ロール3は、例えば、中空のスリーブロールとし、一体鋳造もしくは2層の遠心鋳造で製造される。そして、竪ロール3は、鍛鋼製の軸にベアリングを介して回転自在にロールチョック31内に取り付けられる。
【0022】
また、水平ロール4は、水平軸を回転軸とするアーバー41と、複数のスリーブロール42によって形成されるロール部とを備えている。スリーブロール42は、ロール表面でH形鋼1のウエブを圧延するとともに、ロール側面でH形鋼1のフランジ面を圧延する。スリーブロール42は、図4に示すように、同一形状の一対のスリーブロール42とすることができるが、3個以上のスリーブロール42を有していてもよい。
【0023】
アーバー41は、水平ロール4のロール軸を構成するものであり、その一端が駆動モータなどの駆動装置(不図示)に直接的又は間接的に連結されている。アーバー41は、円柱状に形成された胴部41aを有し、この胴部41aから両端側に延びている部分が軸受機構(例えば、水平ロールチョック,ベアリングなど)43によって回転自在に軸支されている。そして、圧延処理の実行時において、H形鋼1を出力側に押し出すように、上下の水平ロール4が対称方向に回転される。水平ロール4の圧下力は、例えば圧下スクリュー44などの圧下装置によって設定することができる。圧下スクリュー44は、軸方向と直交する方向に左右の軸受機構を押圧する。
【0024】
アーバー41(好ましくは胴部41a)は、例えば軸方向に沿って中央部に空洞が形成されており、この空洞内に加熱装置45が配置されている。アーバー41は、この加熱装置45によって内部から加熱され、熱膨張係数に従う熱膨張が促進させられる。特に、熱膨張による胴部41aの拡径が均一に促進されるように、加熱装置45は、胴部41aの中心において軸方向に沿って配置されている。アーバー41を形成する材質にもよるが、加熱装置45は、例えば電熱ヒータなどを用いることができ、例えばアーバー41の胴部41aとスリーブロール42との間に例えば約100〜150℃の温度差ができるように加熱可能なものが好ましい。さらに、アーバー41の胴部41aには、アーバー41の温度を検出するために例えば熱電対などの温度検出器46が埋め込まれている。そして、この温度検出器46で検出される温度が、予め設定した一定温度範囲(例えば、150〜200℃)となるように加熱装置45の出力がオン・オフ制御される。
【0025】
さらに、加熱装置45および温度検出器46の配線(例えば、給電線と制御線)47は、アーバー41の他端に配置したロータリージョイント48を経由して外部電源(不図示)と接合されている。従って、加熱装置45は、アーバー41が回転していても加熱を続けることができる。
【0026】
スリーブロール42の各々は、その外周面および内周面が共に円形に形成された環状をなしている。そして前述したように、アーバー41の胴部41aは外形が円柱状に形成されており、この円柱状の胴部41aにスリーブロール42の内周円が嵌合されている。アーバー41の胴部41aの外径とスリーブロール42の内径は、加熱装置45によって熱膨張させられる前(例えば装置の停止時)のアーバー41の胴部41aに対してはスリーブロール42を軸方向に移動させることができ、且つ、熱膨張をさせるとアーバー41の胴部41aがスリーブロール42の内周面に膨着してスリーブロール42が固定される寸法に設定されている。アーバー41及びスリーブロール42を形成する材料にもよるが、金属や金属化合物は熱膨張係数が小さいため、アーバー41とスリーブロール42との隙間は、例えば0.1〜0.2mm程度に小さく設定される。さらに、スリーブロール42の軸方向の移動は、アーバー41の胴部41aを摺動させて行われるが、作業員の人力では難しい場合、例えば油圧シリンダなどによるスリーブロール位置調整装置を利用することもできる。スリーブロール42の内周面は、前述の軸方向における移動が可能なように、アーバー41の胴部41aに対して非固定で嵌合されている。ここでいう非固定とは、アーバー以外の別の機械的な固定手段によって固定されていないことを意味する。
【0027】
アーバー41の胴部41aの材料としては、例えば鍛鋼材などを用いることができる。また、スリーブロール42の材料としては、図示は省略するが、例えばダクタイル鋳鉄やアダマイト鋳鉄とすることができる。スリーブロール43は、例えば、中空のスリーブロールとし、一体鋳造もしくは2層式の遠心鋳造で製造される。なお、本実施形態は、熱膨張を利用してスリーブロール42を固定する方式であるので、アーバー41の胴部41a(特に、外層)の材料は、極力、熱膨張率が大きいものを使用するのが好ましい。
【0028】
さらに、加熱したアーバー41からスリーブロール42への熱伝導や熱拡散を抑えるため、アーバー41の胴部41a表面を断熱性材料49で被覆することが好ましい。断熱性材料49は、例えばジルコニアなどのセラミック系材料を適用することができる。断熱性材料49の被覆方法としては、例えば肉盛溶接又は溶射が好ましい。一例として、例えば0.2〜0.3mmの厚みとなるようにジルコニアを溶射することができる。ジルコニアの他に、ムライト−ジルコニア複合セラミックスを溶射するようにしてもよい。また、溶接や溶射に代えて、アーバー41の芯材の外周に円筒状の断熱材を締り嵌めにより装着するようにしてもよい。このように、熱伝導率の低い材料49でアーバー41の胴部41a表面を被覆することにより、アーバー41とスリーブロール42との間での熱伝導や熱拡散を極力抑え、膨着による固定力が低下するのを抑えることができる。
【0029】
特に、スリーブロール42は熱間圧延材であるH形鋼1と接して熱せられるため、通常、回転軌道の途中でノズル(不図示)からの冷却水(ロール冷却水)が散水される。そのため圧延処理の実行時においては、ロール冷却水によってスリーブロール42からの抜熱が継続的に行われている。従って、上述したようにアーバー41の胴部41aを断熱性材料49で被覆すれば、ロール冷却水によってアーバー41の熱が抜熱されることが抑えられ、アーバー41を熱膨張させるのに必要な加熱エネルギーの損失を小さくすることができる。なお、スリーブロール42の温度は、熱間圧延材と接触する表層から加熱される一方で、ロール冷却水により冷やされることにより、入熱と出熱がバランスし、ある程度一定の温度に収束する。従って、前述したようにアーバー41とスリーブロール42の温度差が例えば約100〜100℃となるように、ロール冷却水の散水量を調整することが好ましい。
【0030】
ここで、具体的な寸法の一例を挙げておく。熱膨張させる前(例えば常温)におけるアーバー41の胴部41a(材質;鍛鋼材,線熱膨張係数;1.1×10−5)の外径を600mmとする。スリーブロール42(材質;アダマイト鋳鉄,線熱膨張係数;1.0×10−5)の外径を1300mm,内径を600.2mmとする。これにより、図5に模式的に示すように、アーバー41とスリーブロール42との間には、0.2mmの隙間(C)が形成された状態で嵌合されることとなる。なお、図5の隙間Cは、図面作成の便宜上、実際よりも大きく図示してある。そして加熱装置45によってアーバー41の温度を200℃に加熱する。このときアーバー41とスリーブロール42の温度差が100〜150℃となるようにする。加熱によってアーバー41の胴部41aは、約0.5mm程度の拡径が生じようとする。従って、図5に模式的に示すように隙間Cがなくなり、アーバー41とスリーブロール42との間で膨着が起こり、スリーブロール42が固定されることとなる。
【0031】
続いて、水平ロール4の胴幅(B)を調整する手順について、図6を参照しながら説明する。まず、装置停止時において、図6の手順100に示すように、スリーブロール42とアーバー41との間に隙間が生じる温度(例えば、常温)となるようにする。次に、手順101に示すように、例えばスリーブロール位置調整装置などを利用し、スリーブロール42を軸方向に摺動させ、スリーブロール42の離間距離を調整する。すなわち、製造しようとするH形鋼1のウエブ高さ(H)に対応したロール胴幅(B)となるように、スリーブロール42の軸方向における位置決めを行う。なお、ロール胴幅(B)を調整するにあたり、必ずしも両方のスリーブロール42を動かす必要はなく、どちらか一方のスリーブロール42を動かして調整してもよい。
【0032】
次に、手順102に示すように、加熱装置45によってアーバー41を加熱し、温度検出器46が予め設定した温度となるように加熱装置45の出力を制御する。この加熱によって促進されるアーバー41の熱膨張によってスリーブリーブロール42と間の隙間(C)がなくなり、アーバー41がスリーブロール42に膨着することによって、スリーブロール42がアーバー41に固定される。こうしてスリーブロール42がアーバー41に固定されると、手順103に示すように、水平ロール4を回転させて圧延処理を開始する。
【0033】
その後、予定とするロットの圧延処理が終わると、次のロットの圧延処理を開始する前に竪ロール3と水平ロール4の組替えが行われる。このとき、次のロットのH形鋼1のウエブ高さ(H)に適合するようにロール胴幅(B)の調整も行う。具体的には、手順104に示すように、前のロットの圧延処理が終了した後、加熱装置45による加熱を停止し、アーバー41とスリーブロール42との間に隙間が生じる温度(例えば常温)までアーバー41とスリーブロール42の温度を下げる。この冷却は、放熱による自然冷却であってもよく、例えば冷却水などの冷媒を用いた強制冷却であってもよい。そして、アーバー41とスリーブロール42との膨着状態が解除されると、手順105に示すように、例えばスリーブロール位置調整装置などを利用し、スリーブロール42を軸方向に摺動させ、スリーブロール同士の離間距離を調整(再設定)する。以後、前のロットの場合と同様の手順で圧延処理を行う。
【0034】
上述の実施形態によれば、アーバー41の胴部41aの外径とスリーブロール42の内径を、熱膨張させる前のアーバー41の胴部に対しては隙間を有し、且つ、熱膨張をさせたときには隙間がなくなる寸法とし、熱膨張させる前のアーバー41の胴部41aにスリーブロール42を非固定で嵌合させる構成としたことにより、圧延処理を開始する前にスリーブロール42を摺動させてロール胴幅(B)を調整することができ、さらに加熱装置45でアーバー41を内側から加熱して熱膨張させることによって、アーバー41とスリーブロール42を膨着により固定することができる。なお、アーバー41とスリーブロール42の形状は、円形に限定されることはない。例えば、楕円とすることもでき、この場合も外径(すなわち、長径と短径)の寸法を前記の条件を満たすように設定する。さらに、ある程度の押圧をしてスリーブロール42を移動させることができれば、アーバー41とスリーブロール42との間に必ずしも隙間が形成されていなくともよい。
【0035】
前述のように、本実施形態の固定方法は、一般的な焼き嵌めとは反対に、加熱したときにのみアーバー41とスリーブロール42が固定されるという特長がある。従って、加熱を止めればアーバー41とスリーブロール42を非固定な状態に戻すことができ、その結果、ロット間のオフライン時に作業員がロール胴幅(B)の調整を実行することが可能となる。オフライン時には装置が冷えた状態であるため、作業員にとっても作業が行い易い環境であると言える。
【0036】
さらに、上述の実施形態によれば、熱膨張を利用してロール胴幅を可変にした簡素な構造である。よって、本実施形態の水平ロール4は、従来のような中空スリーブなどが介在しない分、ロール幅調整範囲が広く、種々のウエブ高さ(H)に対する共用化の範囲を最大限とすることが可能となる。
【0037】
さらに、上述の実施形態によれば、アーバー41の胴部41aを円柱状とし、この円柱状の長さ方向の範囲内であれば任意の位置にスリーブロール42を固定可能な構成としたことにより、胴幅設定精度を高めることが可能である。
【0038】
さらに、上述の実施形態によれば、スリーブロール42の内周面を、アーバー41の胴部41aに対して全面接触させる構成であるので、H形鋼1の圧延に必要な十分な圧延トルク(すなわち、回転方向のトルク)を確保することが可能となる。
【0039】
なお、仕上ユニバーサル圧延機の水平ロールを一例に挙げて説明してきたが、本発明の適用対象が仕上ユニバーサル圧延機の水平ロールに限定されることはない。例えば、粗ユニバーサル圧延機の水平ロールに適用することもできる。
【0040】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
【符号の説明】
【0041】
1:H形鋼、2:仕上ユニバーサル圧延機、3:竪ロール、4:水平ロール、41:アーバー、42:スリーブロール、45:加熱装置:46:温度検出器、48:ロータリージョイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右対の竪ロールと、回転するアーバーの胴部にスリーブロールを嵌合させた上下対の水平ロールと、を有する圧延機の前記水平ロールにおいて、
前記アーバーを内部から加熱して熱膨張させる加熱装置を有し、
前記アーバーの胴部の外径とスリーブロールの内径を、前記熱膨張させる前のアーバーの胴部に対してはスリーブロールを軸方向に移動させることができ、前記熱膨張をさせたときにアーバーの胴部が膨着してスリーブロールが固定される寸法とし、
前記熱膨張させる前のアーバーの胴部にスリーブロールを非固定で嵌合させたことを特徴とする圧延機の胴幅可変ロール。
【請求項2】
前記スリーブロールが嵌合されるアーバーの胴部は、その表面が肉盛溶接又は溶射された断熱材料で被覆されているか、或いは円筒状の断熱材が締り嵌めされていることを特徴とする請求項1に記載の圧延機の胴幅可変ロール。
【請求項3】
回転するアーバーと、アーバーの胴部に嵌合させた一対のスリーブロールと、を有する圧延機の水平ロールにおいて、前記一対のスリーブロール間の幅を可変にする方法であって、
鋼材の圧延処理を開始する前に、アーバーの胴部に対して少なくとも一方のスリーブロールを移動させて軸方向の位置決めをし、アーバーを内部から加熱して熱膨張させてアーバーをスリーブロールに膨着させることによって固定することを特徴とするロール胴幅可変方法。
【請求項4】
前記水平ロールで鋼材の圧延を行った後、アーバーの加熱を停止して前記アーバーとスリーブロールの膨着状態を解除し、アーバーの胴部に対して少なくとも一方のスリーブロールを軸方向に摺動させてスリーブロール幅を変えることを特徴とする請求項3に記載のロール胴幅可変方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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