説明

圧粉体の製造方法と複合軟磁性材の製造方法及びプレミックス粉末

【課題】生産性を損なうことがなく、更なる高密度化を図ることが可能な圧粉体の製造方法と複合軟磁性材の製造方法及びプレミックス粉末に関する。
【解決手段】金型2のキャビティ2a内に原料粉末を充填した後に、前記キャビティ内で原料粉末を加圧成形することによって所定の形状の圧粉体Aを製造する際に、液体潤滑剤が鉱物油であり、該液体潤滑剤を内包するカプセルの粒径が60μm以上100um以下で、液体潤滑剤に潤滑油添加剤が40質量%以上70質量%未満添加されているカプセルを前記原料粉末に添加し、前記加圧成形時に前記カプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤によって前記金型の内面を潤滑することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉体の製造方法と複合軟磁性材の製造方法及びこれらの製造方法に用いて好適なプレミックス粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末成形による高密度複合軟磁性材の製造では、先ず、絶縁皮膜を有する金属軟磁性粉末と、必要に応じて添加される潤滑剤粉末とバインダからなる原料粉末(プレミックス粉末)を金型のキャビティ内に充填した後、加圧成形することによって所定の形状の圧粉体を作製する。その後、得られた圧粉体を熱処理することによって熱処理圧粉体からなる複合軟磁性材を得ることができる。
【0003】
一般に、粉末成形用の金型は、貫通孔が形成されたダイと、このダイの貫通孔に嵌合される上下パンチとから構成される。この粉末成形用の金型では、先ず、金型のダイの貫通孔に下パンチが嵌合された状態で、金型のキャビティ内に原料粉末が充填される。次に、ダイの貫通孔に上パンチが嵌合されて、上下パンチが金型のキャビティ内の原料粉末を加圧する。次に、ダイの貫通孔から一方のパンチを離間させた後、他方のパンチがキャビティ内で成形された圧粉体を押し出す。これにより、圧粉体を貫通孔から抜き出す(離型する)ことができる。
【0004】
ところで、圧粉体の密度度を向上させるため、従来よりも高い圧力で圧粉体の成形を行った場合には、加えられた圧力に対して圧粉体が形状回復しようとする力(スプリングバックという。)が除圧後に働くため、貫通孔の壁面と圧粉体との間で摩擦力が増大するといった現象が発生する。この場合、圧粉体を貫通孔から抜き出すときに、かじりなどの金型の損傷を招くことがある。
【0005】
そこで、従来の圧粉体の製造方法では、貫通孔の壁面と圧粉体との間に働く摩擦力を低減するため、圧粉体の原料粉末に潤滑剤粉末を添加したり(例えば、特許文献1参照)、貫通孔の壁面に液体潤滑剤を塗布したり(例えば、特許文献2参照)することが行われている。
また、金型のキャビティに粉末を充填して圧粉体を圧縮成形した後、圧粉体をキャビティから取り出す粉末成形方法において、液状潤滑剤を個体成膜物質で被覆したマイクロカプセル潤滑剤をキャビティの成形面に静電塗布してマイクロカプセル潤滑剤の皮膜を設ける技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、原料粉末に潤滑剤粉末を添加する方法では、原料粉末に添加される潤滑剤粉末が熱処理後も複合軟磁性材の中に残存してしまったり、この潤滑剤粉末が分解、揮発した後に空孔が複合軟磁性材の中に残存してしまったりするため、上述した複合軟磁性材の高密度化を図る際に、添加した潤滑剤粉末が圧粉体の密度を下げることになる。
また、原料粉末に液体潤滑剤を添加した場合、原料粉末が液体潤滑剤によって濡れてしまうため、金型のキャビティ内に充填しづらくなったり、充填量が不安定になったりする。一方、貫通孔の壁面に液体潤滑剤を塗布する方法では、圧粉体を複雑な形状に成形することが困難であったり、圧粉体の成形速度が遅くなるため生産性が低下したりする。
更に、マイクロカプセル潤滑剤の皮膜をキャビティの成形面に形成する方法は、キャビティの壁面潤滑を行う方法であるが、粉末を金型に投入する前に必ずキャビティの壁面にマイクロカプセル潤滑剤を塗布する必要が生じるので、成形サイクルが低下する問題があり、また、金型のキャビティの狭小部などの隅々まで均一にマイクロカプセル潤滑剤を塗布することが困難な問題がある。
また、潤滑剤の中でも六方晶系及び高分子材料の固体潤滑剤は、高荷重成形を行う場合はその添加量を増やさなくてはならず、潤滑剤の添加量が増加すると、粉末間の間隙を潤滑剤が広く占有することとなり、成形体の密度が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−271709号公報
【特許文献2】特開平8−100203号公報
【特許文献3】特開2007−296551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、その目的は、成形サイクルの向上をなし得るので生産性を損なうことがなく、更なる高密度化を図ることが可能な圧粉体の製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、そのような方法により得られた圧粉体から高密度の複合軟磁性材を得ることを可能とした複合軟磁性材の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、そのような高密度の圧粉体や複合軟磁性材を製造するのに好適なプレミックス粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために本発明の圧粉体の製造方法は、金型のキャビティ内に原料粉末を充填した後に、前記キャビティ内で原料粉末を加圧成形することによって所定の形状の圧粉体を製造する際に、液体潤滑剤が鉱物油であり、該液体潤滑剤を内包するカプセルの粒径が60μm以上100um以下で、液体潤滑剤に潤滑油添加剤が40質量%以上70質量%未満添加されているカプセルを前記原料粉末に添加し、前記加圧成形時に前記カプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤によって前記金型の内面を潤滑することを特徴とする。
本発明において、前記カプセルの液体潤滑剤と殻の混合比において液体潤滑剤の比率を85%以上95%以下とすることが好ましい。
本発明において、前記カプセルを前記原料粉末に対して0.2〜0.8質量%の割合で添加することが好ましい。
本発明において、前記カプセルとして、該カプセルの殻にステアリン酸系潤滑剤を添加したものを用いることが好ましい。
本発明において、前記カプセルの殻に添加するステアリン酸系潤滑剤を殻の質量に対し10質量%以上40質量%以下とすることが好ましい。
本発明において、前記カプセルの殻をウレア、メラミン、無水ケイ酸、アクリルのいずれかから構成することが好ましい。
【0010】
本発明の複合軟磁性材の製造方法は、先のいずれかに記載の圧粉体の製造方法において、原料粉末として金属軟磁性粉末と絶縁材の混合粉末あるいは絶縁皮膜付きの金属軟磁性粉末を用いて圧粉体を得た後、この圧粉体に熱処理を施すことを特徴とする。
【0011】
本発明のプレミックス粉末は、金型のキャビティ内に充填された後に、前記キャビティ内で加圧成形されることによって所定の形状の圧粉体とされるプレミックス粉末であって、液体潤滑剤が鉱物油であり、液体潤滑剤を内包するカプセルの粒径が60μm以上100um以下で、液体潤滑剤に潤滑油添加剤が40wt%以上70wt%未満添加されているカプセルが前記原料粉末に添加されてなることを特徴とする。
【0012】
本発明のプレミックス粉末において、前記カプセルの液体潤滑剤と殻の混合比において液体潤滑剤の比率が85%以上95%以下とされてなることが好ましい。
本発明のプレミックス粉末において、前記カプセルが前記原料粉末に対して0.2〜0.8質量%の割合で添加されてなることが好ましい。
本発明のプレミックス粉末において、前記カプセルが、該カプセルの殻にステアリン酸系潤滑剤を添加したものであることが好ましい。
本発明のプレミックス粉末において、前記カプセルの殻に添加するステアリン酸系潤滑剤が殻の質量に対し10質量%以上40質量%以下とされてなることを特徴とする。
本発明のプレミックス粉末において、前記カプセルの殻がウレア、メラミン、無水ケイ酸、アクリルのいずれかから構成されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る圧粉体の製造方法によれば、キャビティ内で原料粉末を高い圧力で加圧成形することができ、また、液体潤滑剤を内包するカプセルを原料粉末に添加するだけで潤滑効果が得られることから、生産性を損なうことなく、高密度且つ複雑な形状を有する圧粉体を製造することが可能である。
また、本発明に係る複合軟磁性材の製造方法によれば、そのような方法により、絶縁皮膜を有する金属軟磁性粉末の圧粉体を得た後に、この圧粉体に熱処理を施すことによって、高密度且つ複雑な形状を有する複合軟磁性材を製造することが可能である。
さらに、本発明に係るプレミックス粉末によれば、金型の内面に潤滑剤を塗布するといった必要がなくなるため、圧粉体を製造する際の潤滑効果を容易に得ることが可能であり、生産性を損なうことなく、高密度且つ複雑な形状を有する圧粉体や複合軟磁性材、焼結体を低コストで製造することが可能である。
【0014】
本発明に係るプレミックス粉末にあっては、原料粉末に液体潤滑剤を内包するカプセルが添加されていることから、原料粉末が液体潤滑剤によって濡れるといったことがなく、金型のキャビティ内に容易に充填することができる。また、このプレミックス粉末を用いた場合には、金型の内面に潤滑剤を塗布するといった必要がなくなるため、圧粉体や焼結体の生産性を損なうことがなく、圧粉体の複雑な形状にも対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明で用いられるプレス成形機を模式的に示す断面図である。
【図2】図2は、図1に示すプレス成形機においてキャビティにプレミックス粉末が充填された状態を示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示すプレス成形機においてキャビティに充填されたプレミックス粉末を加圧する状態を示す断面図である。
【図4】図4は、図3に示す状態における貫通孔の壁面を拡大して示す断面図である。
【図5】図5は、図1に示すプレス成形機において圧粉体が金型から離型された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した圧粉体の製造方法、複合軟磁性材の製造方法及びプレミックス粉末について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明を適用したプレミックス粉末を用いて「高密度複合軟磁性材」を製造する場合を例に挙げて説明する。
【0017】
本発明を用いて高密度複合軟磁性材を製造するには、例えば図1〜図3に示すようなプレス成形機1を用いて、複合軟磁性材の原料粉末として例えばMgO系絶縁皮膜付き鉄粉に液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルを添加し混合したもの(プレミックス粉末)PMを金型2のキャビティ2a内に図2に示す如く充填した後、加圧成形することによって所定の形状の圧粉体Aを作製することができる。その後、得られた圧粉体Aに熱処理を施すことによって、熱処理圧粉体からなる複合軟磁性材(図示略)を得ることができる。
【0018】
本実施形態で用いるプレス成形機1は、図1に示すように、厚み方向に貫通する貫通孔3aが設けられたダイ3と、ダイ3の下部側から貫通孔3aに嵌合される下パンチ4と、ダイ3の上部側から貫通孔3aに嵌合される上パンチ5とを備えている。金型2は、これらダイ3、下パンチ4及び上パンチ5によって構成されており、また、キャビティ2aは、図2及び図3に示すように、ダイ3の貫通孔3aと、この貫通孔3aに嵌合された上下パンチ4、5とから形成される空間によって構成されている。
【0019】
ダイ3は、上下方向に移動可能に設けられており、貫通孔3aは、下パンチ4の直上に穿設されている。また、ダイ3の上には、プレミックス粉末PMを供給するためのフィーダー(原料供給手段)6が設けられている。このフィーダー6は、ダイ3の上面に摺接しながら、貫通孔3aに臨む位置(供給位置)と、貫通孔3aから離間した位置(待避位置)との間で移動可能に設けられている。また、ダイ3には、キャビティ2a内を加熱する加熱ヒータ(図示せず。)が設けられており、キャビティ2aに充填されたプレミックス粉末PMの温度を調整することが可能となっている。下パンチ4は、設置面上に固定されたベース7に取り付けられている。一方、上パンチ5は、貫通孔3aの直上に位置して上下方向に移動可能に設けられている。
【0020】
以上のような構造を有するプレス成形機1を用いて圧粉体Aを製造する際は、先ず、図1に示すように、ダイ3の貫通孔3aに下パンチ4が嵌合された状態から、図2に示すように、フィーダー6がダイ3の上面を待避位置から供給位置まで移動する。そして、フィーダー6は、ダイ3の貫通孔3aと下パンチ4とから構成されるキャビティ2a内に、本発明を適用したプレミックス粉末PMを充填する。本発明を適用したプレミックス粉末PMは、詳細を後述するが、原料粉末に液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルが添加されてなるものである。
【0021】
次に、図3に示すように、フィーダー6がダイ3の上面を供給位置から待避位置まで移動した後に、上パンチ5が下方に移動しながらダイ3の貫通孔3aに嵌合される。そして、この状態から更に上パンチ5及びダイ3が下方に移動することによって、貫通孔3aに嵌合された上下パンチ4、5がキャビティ2a内のプレミックス粉末PMを加圧成形する。このとき、図4に示すように、マイクロカプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤Lが、加圧されたプレミックス粉末PM(圧粉体A)から滲み出しながら、金型2の内面、すなわちキャビティ2aを構成する貫通孔3a及び上下パンチ4,5の壁面を潤滑する。
【0022】
次に、図5に示すように、上パンチ5が上方に移動し、ダイ3の貫通孔3aから離間されると共に、ダイ3を下方へ移動させることによって、下パンチ4の上に位置している圧粉体Aがキャビティ3aの上方数mmの位置へと押し出された状態となる。このとき、貫通孔3aの壁面は潤滑剤Lにより潤滑されているため、この貫通孔3aの壁面と圧粉体Aとの間に働く摩擦力が低減された状態となっている。したがって、キャビティ2a内で加圧成形された圧粉体Aを貫通孔3aから容易に抜き出す(離型する)ことができる。
以上のようにして、上記キャビティ2aに対応した形状の圧粉体Aが作製され、この圧粉体Aは、その後の工程で熱処理が施されて熱処理圧粉体となり、最終的に複合軟磁性材が作製される。
【0023】
上述した本発明の製造方法を用いて高密度複合軟磁性材を作製した場合、液体潤滑剤Lを内包するマイクロカプセルを原料粉末中に添加することで、原料粉末が液体潤滑剤Lによって濡れるといったことがなく、このようなマイクロカプセルを含む原料粉末(プレミックス粉末PM)を金型2のキャビティ2a内に容易に充填することができる。
そして、キャビティ2a内でプレミックス粉末PMを加圧成形する際は、マイクロカプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤Lによって金型2の内面を潤滑できるため、加圧成形後の圧粉体Aを金型2から容易に離型することができる。なお、圧粉体A中に残存するマイクロカプセルの殻は微量であるため、圧粉体Aの組織内に生じる隙間に入り込み、余分な液体潤滑剤は加圧成形時に圧粉体の外に排出されるため、圧粉体Aの密度を低下させる要因とはならない。
【0024】
したがって、本発明の製造方法によれば、キャビティ2内でプレミックス粉末PMを高い圧力で加圧成形することができ、また、液体潤滑剤Lを含むカプセルを原料粉末に添加するだけで潤滑効果が得られることから、プレミックス粉末を充填してから潤滑剤を投入するなどの作業は不要となるので、繰り返し生産を行っても生産性を損なうことなく、高密度の圧粉体Aを製造することが可能である。
また、本発明の製造方法では、絶縁皮膜を有する金属軟磁性粉末を使用して、上記方法により得られた圧粉体Aに熱処理を施すことで、高密度複合軟磁性材(熱処理圧粉体)を得ることができる。
【0025】
(プレミックス粉末)
次に、本発明に適用したプレミックス粉末について説明する。
本発明を適用したプレミックス粉末は、上述したように、原料粉末に液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルが添加されてなることを特徴とする。
【0026】
このプレミックス粉末では、原料粉末に液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルが添加されていることから、原料粉末が液体潤滑剤によって濡れるといったことがなく、金型のキャビティ内に容易に充填することができる。また、このプレミックス粉末を用いた場合には、金型の内面に潤滑剤を塗布するといった必要がなくなるため、生産性を損なうことがなく、圧粉体の複雑な形状にも対応することができる。
【0027】
具体的に、マイクロカプセルとしては、ウレア樹脂、メラミン樹脂、無水ケイ酸、アクリル樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂などからなる殻の中にシリコーンオイルなどからなる液体潤滑剤を内包するものを好適に用いることができる。
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイルなどを用いることができる。また、これらシリコーンオイルには、潤滑性の更なる向上のため、例えば有機モリブデンや二硫化モリブデンなどの添加剤を添加してもよい。
【0028】
マイクロカプセルの内包物として、鉱物油ベースで潤滑油添加剤を含む潤滑油、例えば潤滑油添加剤を40質量%以上、70質量%未満添加されているものが好ましい。潤滑油添加剤の添加量が40質量%未満の場合、金型に焼き付きが生じるおそれが高くなり、70質量%を超えると得られる圧粉体の密度の低下に繋がるおそれがある。
更に、マイクロカプセルにおいて内包物と殻(壁膜)との混合比は例えば85質量%以上95%以下の範囲とすることができる。
【0029】
マイクロカプセルの製造方法としては、例えば、コンプレックスコアセルべーション法、シンプルコアセルべーション法、ソルトコアセルべーション法、pH変化や溶媒変化、溶媒除去によるポリマーの不溶化などの水溶性又は水性分散液からの相分離法、界面重合法、in−situ重合法などを挙げることができ、このような方法を用いてマイクロカプセルを容易に製造することができる。
【0030】
具体的に、メラニン−ホルムアルデヒド樹脂からなる殻の中にシリコーンオイルを内包したマイクロカプセルを製造する際は、先ず、エチレン−無水マレイン酸共重合体等の液体ビヒクル連続相にシリコーンオイルを乳化分散させた後、その界面上にメラニン−ホルムアルデヒド樹脂の一次樹脂皮膜を着膜させ、マイクロカプセルが分散媒中に懸濁したマイクロカプセルスラリーを得る。次に、このマイクロカプセルスラリーを室温まで除冷して、pHを若干酸性に調整した後、この系に二次皮膜用樹脂として、メラニン−ホルムアルデヒド樹脂を添加し、液体ビヒクル連続相中に針状樹脂微小片を析出させた後、この針状樹脂微小片をマイクロカプセル一次樹脂被膜上に二次樹脂被膜として固着する。これにより、マイクロカプセルを得ることができる。また、上記一次、二次樹脂被膜を区別せずに、上述したマイクロカプセルを製造する過程でpHを下げ、樹脂化反応を異常に高めて遊離の針状樹脂片をビヒクル中に析出させた後、続けて適正なpHに戻し、膜形成と同時に針状樹脂片を膜に取り込ませて、マイクロカプセルを形成することも可能である。
【0031】
また、マイクロカプセルの平均粒径は、60μm以上100μm以下の範囲とすることが好ましい。この場合、圧粉体中に残存するマイクロカプセルの殻が圧粉体中にある隙間に入り込むため、圧粉体の密度を低下させることなく、この圧粉体を高い圧力で加圧成形することができる。一方、マイクロカプセルの平均粒径が60μmよりも小さくなると、マイクロカプセルの外径に対する殻の厚みが相対的に厚くなり過ぎて、この殻の中に内包される液体潤滑剤の量の減少を招くことになり、殻から液体潤滑剤が出難くなり、場合によっては型の焼き付きを生じるおそれがある。一方、マイクロカプセルの平均粒径が100μmよりも大きくなると、原料粉末の粒径に対するマイクロカプセルの粒径が大きくなり過ぎてマイクロカプセルとして製造が困難となる。なお、平均粒径が60μmより小さくなると、全体のマイクロカプセル量に対して、殻の量が多くなり、殻の量が多くなることで潤滑性能が低下するとともに、液体潤滑剤が圧粉体から出にくくなる傾向となる。
【0032】
また、マイクロカプセルは、原料粉末に対して0.2質量%以上0.8質量%以下の割合、より好ましくは、0.4質量%以上、0.6質量%以下の範囲で添加されていることが好ましい。これらの場合、圧粉体の密度を低下させることなく、マイクロカプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤によって金型の内面を適切に潤滑することができる。一方、マイクロカプセルの原料粉末に対する割合が0.2質量%未満になると、金型の内面に対する潤滑が不足することになる。一方、マイクロカプセルの原料粉末に対する割合が0.8質量%を超えると、原料粉末中のマイクロカプセルの量が過剰になり過ぎて、圧粉体の密度が低下し、圧粉体の内部に残留物が残り易くなり、磁気特性の低下を引き起こすことになる。また、前述の範囲内であれば、飽和磁束密度、透磁率、圧環強度においても良好な傾向となる。
【0033】
本発明を適用したプレミックス粉末によれば、金型の内面に潤滑剤を塗布するといった必要がなくなるため、圧粉体を製造する際の潤滑効果を容易に得ることが可能であり、生産性を損なうことなく、高密度且つ複雑な形状を有する圧粉体や焼結体を低コストで製造することが可能である。
【0034】
以上のように、本発明は、プレミックス粉末から圧粉体や複合軟磁性材を製造する場合において幅広く適用することが可能である。また、圧粉体や複合軟磁性材の形状についても特に限定されるものではなく、例えば上記プレス成形機1において、上下パンチ4,5を貫通するコアロッドを組み合わせることで、圧粉体Aをリング状に成形することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
(実施例No.1〜18)
具体的には、先ず、表1に示す各液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルを作製した。液体潤滑剤は、ベース潤滑剤として鉱物油を用い、該ベース潤滑剤に、有機モリブデンを含む添加剤を40〜65質量%添加したものを用いた。
【0036】
次に、これらの液体潤滑剤をマイクロカプセル化するため、エチレン−無水マレイン酸共重合体の7質量%水溶液をpH4.2に調整した後、ミキサーで撹拌しながら準備した各液体潤滑剤を滴下することで分散、乳化し、ここにメチロール−メラニン樹脂水溶液(固形成分15質量%)を添加した後、この分散液を50℃に保ちながら2時間撹拌し、その後、分散液をpH5.4に調整し、更に3時間撹拌した。そして、この分散液を室温まで冷却し、ろ過、水洗、乾燥の各工程を経ることで、平均粒径が40μmのメラニン−ホルムアルデヒド樹脂からなる殻の中に表1に示す液体潤滑剤を内包するマイクロカプセルを得た。これらのマイクロカプセルにおいて、内包物:壁膜の比率は90:10である。
【0037】
次に、原料粉末として、リン酸塩系絶縁被膜付き鉄粉又はMgO系絶縁被膜付き鉄粉(平均粒径80μm)を用意し、これらの原料粉末に、準備した各マイクロカプセルを表1に示す量だけ添加し、混合することで、実施例1〜18に示す各プレミックス粉末を得た。
【0038】
次に、実施例1〜18に示す各プレミックス粉末を、それぞれ150℃に加熱した金型のキャビティ内に充填した後、成形圧780MPaで外径35mm、高さ60mmの円柱状に加圧成形し、ここから外径35mm、内径25mm、高さ5mmのリング状の圧粉体試料を切り出して作製した。
【0039】
次に、得られた各圧粉体を窒素雰囲気中で650℃に30分間保持することで熱処理を行い、リング状の熱処理圧粉体からなる実施例No.1〜18の各複合軟磁性材を作製した。
【0040】
(比較例試料No.19〜21)
比較例の試料No.19の複合軟磁性材は、上述したマイクロカプセルに代えて、ステアリン酸亜鉛(平均粒径10μm)を、原料粉末であるリン酸塩系絶縁被膜付き鉄粉又はMgO系絶縁被膜付き鉄粉(平均粒径80μm)に1質量%添加したプレミックス粉末を用いた以外は、実施例1〜18と同様に、リング状の圧粉体及び焼結体を作製した。また、比較例の試料No.20の複合軟磁性材は、上述したマイクロカプセルに代えて、ステアリン酸リチウム(平均粒径9μm)を1質量%含有して製造し、比較例試料No.21の複合軟磁性材は上述したマイクロカプセルに代えて、二硫化モリブデン(平均粒径1μm)を1.0質量%添加して作製したものである。原料粉末であるリン酸塩系絶縁被膜付き鉄粉又はMgO系絶縁被膜付き鉄粉(平均粒径80μm)に添加したプレミックス粉末を用いた以外は、実施例1〜18と同様に、リング状の圧粉体及び焼結体を作製した。
【0041】
そして、表1に示す各実施例No.1〜18及び比較例の試料No.19〜21においては、上記圧粉体を加圧成形した後に、金型から抜き出す際に必要な抜出力(kN)を測定し、潤滑性の評価を行った。また、上記複合軟磁性材の水中密度(Mg/m)を測定し、密度の評価を行った。さらに、巻線を施し、磁場10kA/mにおける磁束密度Bを測定し、磁気特性の評価を行った。以下、各条件をまとめたものを表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、実施例1〜18のマイクロカプセルを添加したプレミックス粉末を用いて圧粉体を作製した場合には、比較例試料No.19〜21の潤滑剤粉末を添加したプレミックス粉末を用いて圧粉体を作製した場合よりも、金型から圧粉体を抜き出す際の潤滑性に優れていることがわかる。また、実施例1〜18の複合軟磁性材は、比較例試料No.19〜21の複合軟磁性材よりも水中密度が高く、磁気特性の評価も良好な結果が得られた。
【0044】
次に、比較のために、表1に示す各実施例試料の条件のうち、潤滑油添加剤の添加量を本発明の好ましい範囲よりも多くするか少なくした試料、マクロカプセルの平均粒径を本発明の好ましい範囲よりも多くするか少なくした試料、液体潤滑剤とマイクロカプセル殻の比率を本発明の好ましい範囲よりも多くするか少なくした試料について表1と同等の試験を行った。その結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
潤滑油添加剤の添加量が低い比較例試料No.22、23の試料を作成し、先の実施例と同等の製造方法を試みたが、金型が焼き付き、製造不良であった。また、潤滑油添加剤の添加量が多い比較例試料No.24、25の試料を作成したところ、水中密度の値が低くなり、磁束密度も低くなった。
次に、前記マイクロカプセルの平均粒径を55μmとした比較例試料No.26の試料は金型が焼き付き、製造不良となり、マイクロカプセルの平均粒径を110μmとした比較例試料No.27の試料は製造段階の途中でカプセル破れが多量に発生し、マイクロカプセルが湿気を伴うので、金型に投入できない問題を生じた。なお、マイクロカプセルの平均粒径を55μmとした試料の焼き付きについては、成形体が大きい場合、特に厚みが20mmを超える圧密体試料を得る場合(上述の例では厚さ60mmの円柱状)に影響が大きく出た結果と思われ、20mmよりも薄い試料作成であればカプセルが小さくても内包物の量が少なくても焼き付きを生じることなく製造できる可能性があるが、大量生産などを目的として厚さの大きい試料を生産できることが望ましい。
【0047】
殻に潤滑機能を付加する試料を作成する場合、添加剤の量を45質量%添加した試料28はカプセル破れが多量に発生したり、反応しなかった潤滑剤と内包物を殻の中に取り込む工程において、内包物が反応しカプセルの形状が維持しにくくなった。また、マイクロカプセル同士が凝集し易くなる面で問題を生じた。
液体潤滑剤とマイクロカプセルの殻の比率を80質量%としたNo.29の試料はプレミックス粉末の割合を多くしないと、金型に焼き付きが生じ易い傾向となり、プレミックス粉末の割合を多くしたので水中密度、磁束密度ともに低下した。液体潤滑剤とマイクロカプセルの殻の比率を97質量%としたNo.30の試料は、製造段階の途中でカプセル破れが多量に発生し、マイクロカプセルが湿気を伴うので、金型に投入できない問題を生じた。
【符号の説明】
【0048】
1…プレス成形機、2…金型、2a…キャビティ、3…ダイ、3a…貫通孔、4…下パンチ、5…上パンチ、6…フィーダー、7…ベース、PM…プレミックス粉末、A…圧粉体、L…液体潤滑剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ内に原料粉末を充填した後に、前記キャビティ内で原料粉末を加圧成形することによって所定の形状の圧粉体を製造する際に、
液体潤滑剤が鉱物油であり、該液体潤滑剤を内包するカプセルの粒径が60μm以上100um以下で、液体潤滑剤に潤滑油添加剤が40質量%以上70質量%未満添加されているカプセルを前記原料粉末に添加し、前記加圧成形時に前記カプセルの殻から破れ出た液体潤滑剤によって前記金型の内面を潤滑することを特徴とする圧粉体の製造方法。
【請求項2】
前記カプセルの液体潤滑剤と殻の混合比において液体潤滑剤の比率を85%以上95%以下とすることを特徴とする請求項1の圧粉体の製造方法。
【請求項3】
前記カプセルを前記原料粉末に対して0.2〜0.8質量%の割合で添加することを特徴とする請求項1または2に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項4】
前記カプセルとして、該カプセルの殻にステアリン酸系潤滑剤を添加したものを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の圧粉体の製造方法。
【請求項5】
前記カプセルの殻に添加するステアリン酸系潤滑剤を殻の質量に対し10質量%以上40質量%以下とすることを特徴とする請求項4に記載の圧粉体の製造方法。
【請求項6】
前記カプセルの殻をウレア、メラミン、無水ケイ酸、アクリルのいずれかから構成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の圧粉体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の圧粉体の製造方法において、原料粉末として金属軟磁性粉末と絶縁材の混合粉末あるいは絶縁皮膜付きの金属軟磁性粉末を用いて圧粉体を得た後、この圧粉体に熱処理を施すことを特徴とする複合軟磁性材の製造方法。
【請求項8】
金型のキャビティ内に充填された後に、前記キャビティ内で加圧成形されることによって所定の形状の圧粉体とされるプレミックス粉末であって、液体潤滑剤が鉱物油であり、液体潤滑剤を内包するカプセルの粒径が60μm以上100um以下で、液体潤滑剤に潤滑油添加剤が40wt%以上70wt%未満添加されているカプセルが前記原料粉末に添加されてなることを特徴とするプレミックス粉末。
【請求項9】
前記カプセルの液体潤滑剤と殻の混合比において液体潤滑剤の比率が85%以上95%以下とされてなることを特徴とする請求項8に記載のプレミックス粉末。
【請求項10】
前記カプセルが前記原料粉末に対して0.2〜0.8質量%の割合で添加されてなることを特徴とする請求項8または9に記載のプレミックス粉末
【請求項11】
前記カプセルが、該カプセルの殻にステアリン酸系潤滑剤を添加したものであることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のプレミックス粉末。
【請求項12】
前記カプセルの殻に添加するステアリン酸系潤滑剤が殻の質量に対し10質量%以上40質量%以下とされてなることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載のプレミックス粉末。
【請求項13】
前記カプセルの殻がウレア、メラミン、無水ケイ酸、アクリルのいずれかから構成されてなることを特徴とする請求項8〜12のいずれかに記載のプレミックス粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−202933(P2010−202933A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50560(P2009−50560)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(306000315)株式会社ダイヤメット (130)
【Fターム(参考)】