説明

圧粉磁心およびそれを使用したコイル部品

【課題】圧粉磁心の強度を上昇させるとともに、圧粉磁心全体の透磁率の劣化を回避することを図るもの。
【解決手段】磁性粉を加圧成形してなり、対向する一対の外磁脚7と、この外磁脚7に挟まれた中磁脚8と、この中磁脚8と外磁脚7とを連結する背磁脚9により構成された圧粉磁心12において、この圧粉磁心12の全表面に、樹脂を含浸することにより形成される含浸磁性体層10を設けると共に、この含浸磁性体層10の内面側に、樹脂を含浸しない非含浸磁性体層11を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器における磁性部品に使用される圧粉磁心およびそれを使用したコイル部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、従来の圧粉磁心について図面を用いて説明する。図8は従来の圧粉磁心1を使用したコイル部品2の断面図であり、圧粉磁心1は外磁脚3と中磁脚4と、これらを連結する背磁脚5とを有し、この圧粉磁心1を対向させて突き合せ、かつ中磁脚4の周囲に巻線部6を配置することによりコイル部品2を構成するものであった。
【0003】
そして、この圧粉磁心1は粉状の磁性体と有機物の混合物を加圧成型した後に高温処理を行うことで磁性体の表面に無機物の絶縁被膜を形成し、そこで高温処理後の機械的強度の低い状態の成型体に対して樹脂の含浸処理を行うことによって磁性体からなる成型体の強度を十分な水準へと上昇させているものであった。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては例えば特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−218268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の圧粉磁心1は図8に示すように、中磁脚4と外磁脚3および背磁脚5の全ての部分について樹脂を含浸させることとなり、非含浸領域(図示せず)を存在させないものであった。これにより、圧粉磁心1の機械的な強度については向上が見込まれるものの、透磁率の低下を招くと共に、圧粉磁心1を適用するチョークコイル(図示せず)やトランス(図示せず)の特性を低下させる要因となる可能性があるという課題があった。
【0007】
これは一般的に、非含浸状態の圧粉磁心は樹脂含浸を施すことにより個々の磁性粉間の距離が変化することや、個々の磁性粉に応力が加わることで個々の磁性粉における磁気特性に変化が生じることによるとされているものである。
【0008】
そこで本発明は、透磁率の劣化を抑制した圧粉磁心とそれを使用したコイル部品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、この目的を達成するために、磁性粉を加圧成形した磁性体からなり、一対の外磁脚と、この外磁脚に挟まれて位置する中磁脚と、この中磁脚と前記外磁脚とを連結する背磁脚とを備え、前記外磁脚と前記中磁脚と前記背磁脚とは、それぞれの表面に形成した含浸磁性体層と、それぞれの表面より深部側に形成した非含浸磁性体層とを設けることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、圧粉磁心の強度を上昇させるとともに、圧粉磁心全体の透磁率の劣化を回避するための非含浸層を形成することで圧粉磁心の信頼性を向上させるとともに、良好な磁気的特性を維持することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の斜視図
【図2】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の第1の断面図
【図3】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の製造工程図
【図4】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の第2の断面図
【図5】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の第3の断面図
【図6】本発明の第1の実施形態におけるコイル部品の断面図
【図7】本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の第4の断面図
【図8】従来のコイル部品の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態における圧粉磁心の斜視図であり、図2はその断面図である。図1の斜視図に示すように、一対の外磁脚7と、この外磁脚7に挟まれて位置する中磁脚8と、この中磁脚8と双方の外磁脚7とを連結する背磁脚9とを備えた外観の構成としている。ここで、図2の断面図に示すように、外磁脚7と中磁脚8と背磁脚9とには、それぞれの表面層として外磁脚7や背磁脚8の厚みの半分以下にエポキシ樹脂を含浸させた薄い層として形成した含浸磁性体層10と、表面層である含浸磁性体層10より内面側に形成し、エポキシ樹脂を含浸させていない非含浸磁性体層11とを設けている。
【0014】
この構成によれば、相対的に透磁率が低い含浸磁性体層10を圧粉磁心12の表面のごく薄い領域に高強度領域として形成し、一方で相対的に透磁率が高い非含浸磁性体層11を圧粉磁心12の表面以外の大部分の領域に形成することにより、圧粉磁心12の全体として透磁率の劣化を抑制したうえで高強度を得ることができ、衝撃などに対する高い信頼性を得ることができるものである。
【0015】
ここで、含浸磁性体層10の透磁率が相対的に低く、非含浸磁性体層11の透磁率が相対的に高くなることは完全に解明されていない部分も含まれているものの、次に述べるこの製造工程において、個々の金属磁性粉(ここでは図示せず)の間にエポキシ樹脂などの樹脂を含浸樹脂として侵入させ、さらにこの含浸樹脂を硬化させる工程においての、含浸樹脂の硬化前後における応力の変化や、個々の金属磁性粉(ここでは図示せず)の位置関係の小さな変化の積み重ねによって生じるものであることが一般的とされている。
【0016】
そして、この圧粉磁心12は、例えば図3の圧粉磁心の製造工程図に示すようにして製造されている。
【0017】
まず第1の工程として混練分散工程13があり、ここでは様々な大きさの粒からなる金属磁性粉14と溶剤を含有した樹脂15とを混合し、粘土状の混合物16を生成する。
【0018】
次に第2の工程として造粒工程17があり、混練分散工程13で生成した混合物16を、例えば柱状固形物18のような所定の塊状としたうえで乾燥させ、当初に混合物16に含まれていた溶剤を除去し、その後に柱状固形物18を粉砕する。これにより粉砕後の固形物片19を得るが、この固形物片19は、金属磁性粉14の表面周囲にほぼ一定厚の樹脂皮膜20を施した大小様々な複数の粉の集合体として形成されている。そして、固形物片19を分級することにより任意の大きさの範囲内に限定した粒径からなる造粒粉21を得る。
【0019】
なお、ここでは、第2の工程として第1の工程で生成した混合物16から造粒粉21を得る方法を例として示しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、金属磁性粉14に対して溶剤を含んだ樹脂15を噴霧状にしたうえで塗布することで、第1の工程である混練分散工程13と第2の工程である造粒工程17とを同時に行う形態としても構わない。
【0020】
次に第3の工程としてプレス工程22があり、造粒工程17で生成した造粒粉21を成形金型(図示せず)によって加圧成形し、所望の形状の成形体を形成する。このプレス工程22においては、成形体として例えば分割磁心23を形成するにあたり、矢印Y0、Y1の方向に圧力を加えている。そして、矢印Y0、Y1の方向から見て面積の大きな部分である肉厚部24および連結部26を高い圧力で、同じく面積の小さな部分である肉薄部25を低い圧力で加圧成形している。これにより肉厚部24および連結部26を造粒粉21や金属磁性粉14あるいは磁性体の高密度部とし、肉薄部25を造粒粉21や金属磁性粉14あるいは磁性体の低密度部とし、肉薄部25は肉厚部24や連結部26よりもその密度を低くしている。
【0021】
ここで、肉厚部24および連結部26を高い圧力で、肉薄部25を低い圧力の下で加圧成形しているのは、成形金型の寿命を考慮するためのものであると同時に、磁性体の密度の制御により、透磁率の制御を行うとともに含浸樹脂の浸透の度合いを調整するものでもある。このとき、高密度状態となっている分割磁心23の肉厚部24や連結部26においては造粒粉21が加圧されて密集した状態となり、樹脂皮膜20aが大幅に圧縮されて金属磁性粉14aが密な状態でそれぞれが接近して配置されている。一方、加圧は行われているものの、その圧力が分割磁心23の肉厚部24や連結部26よりも低くした条件下で成形が行われる分割磁心23の肉薄部25においては、樹脂皮膜20bの圧縮度は肉厚部24や連結部26に比較して小さく、金属磁性粉14bは疎な状態でそれぞれが離散して配置されている。
【0022】
なお、ここでは分割磁心23の形状をE型として説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、この工程を適用するにあたっては、この形状に限ったものではない。
【0023】
次に第4の工程としてアニール熱処理工程27があり、プレス工程22において形成した成形体を高温で熱処理する。この熱処理によって分割磁心23の肉厚部24、肉薄部25や連結部26における樹脂皮膜20a、20bは除去されることとなり、また、金属磁性粉14a、14bは、個々の金属磁性粉14a、14bの間に位置することとなるアニール熱処理によって生成した無機物(図示せず)によって非接触状態の位置で機械的に結合され、磁束が存在する際に金属磁性粉14a、14bの表面に生じる渦電流による渦電流損失を低減する位置関係を維持している。そしてこのとき、成形体である分割磁心23の肉厚部24、肉薄部25および連結部26の形状は維持しているものの、機械的な強度については低い状態となっている。また、このアニール熱処理工程27ではプレス工程22において加圧成形により応力を受けた金属磁性粉14a、14bの応力を除去することでヒステリシス損失を低減させることを同時に行っている。
【0024】
次に第5の工程である含浸工程28があり、アニール熱処理工程27においてアニール熱処理を行った後の成形体で、樹脂皮膜20a、20bが除去された部位を有する分割磁心23に含浸樹脂の注入を行う。先に述べた第3の工程であるプレス工程22においては、肉厚部24や連結部26を高い圧力で、また肉薄部25を低い圧力で形成していることから、高圧成形の条件における肉厚部24や連結部26の金属磁性粉14aどうしの機械的結合度と、これに比較して圧力が低い成形の条件における肉薄部25の金属磁性粉14bどうしの機械的結合度とは差が存在すると同時にそれぞれの密度にも差が存在することとなる。よって、同一の成形体である分割磁心23においても、そこにおける部位によっては機械的強度や磁性体の密度が異なることとなる。これに対し、含浸工程28においては、アニール熱処理工程27で一旦熱処理を行うことにより樹脂皮膜20a、20bを除去して結合力が低下した成形体である分割磁心23の個々の金属磁性粉14a、14bの、それぞれの周囲に有する空間に含浸樹脂を含浸、注入し、その後にこの含浸樹脂を硬化させ、硬化後の含浸樹脂の結合力によって成形体の機械的強度を向上させている。
【0025】
ここで、含浸樹脂の硬化後の結合力は第3の工程であるプレス工程22における成形時の加圧によって得られる結合力に比較して非常に大きなものであることから、硬化後の含浸樹脂の結合力が成形体の機械的強度においても支配的なものとなる。そして、含浸樹脂の硬化後の強度について金属磁性粉14aの密度が高い肉厚部24や連結部26と、金属磁性粉14bの密度が低い肉薄部25とでは単位体積あたりで比較すると、肉薄部25には肉厚部24や連結部26よりも多くの含浸樹脂が浸入することとなり、その硬化後の単位体積あたりの強度に関しては肉薄部25を肉厚部24や連結部26よりも高くすることとなる。また、含浸樹脂をアニール熱処理後の分割磁心23に注入するに際し、含浸時の圧力や時間を調整することにより、含浸樹脂の侵入量や侵入領域を制御できることとなる。これによって、例え肉厚部24であっても含浸樹脂を多くして高強度とするものの相対的に透磁率の低い領域と、含浸樹脂を少なくして低強度とするものの相対的に透磁率の高い領域とを同じ部位内で形成することもまた可能である。
【0026】
そして、その後に分割磁心23の寸法を精密化する研磨工程29と、それらを組み立てる組み立て工程30が存在することとなる。
【0027】
以上のように、プレス工程22において各部位の成形密度を変化させることで分割磁心23の個々の部位間の透磁率の差異を与えることが可能となる。また、含浸工程28においては、含浸樹脂の浸入度合いを磁性体密度に応じて調整できることで、分割磁心23の個々の部位内における透磁率の調整が可能となる。つまり、図2に示す、外磁脚7、中磁脚8あるいは背磁脚9にかかわらず、磁性体の密度を低くして含浸樹脂の厚みを大きくし、その部位の透磁率を下げることや、反対に磁性体の密度を高くして含浸樹脂の厚みを小さくし、その部位の透磁率を上げることが可能となる。
【0028】
上記の例においては、図2の断面図に示すように、外磁脚7と中磁脚8と背磁脚9とには、それぞれの表面層としてエポキシ樹脂を含浸させた層で形成した含浸磁性体層10と、表面層である含浸磁性体層10より内面側に形成した非含浸磁性体層11とを設けたものとしている。この一方で、図4の断面図に示すように、外磁脚7と中磁脚8と背磁脚9とには、それぞれの表面層としてエポキシ樹脂を含浸させた層で形成した高含浸度磁性体層31と、表面層である高含浸度磁性体層31より内面側に高含浸度磁性体層31での含浸樹脂密度よりも小さな第1含浸樹脂密度で形成した第1低含浸度磁性体層32と、さらに第1低含浸度磁性体層32の内面側に第1含浸樹脂密度よりもさらに小さな第2含浸樹脂密度で形成した第2低含浸度磁性体層33とを設けた構成としている。
【0029】
これにより、樹脂の含浸密度が異なる層の境界部分であり、かつ、機械的強度が異なる層の境界部分は何らかの外からの衝撃等に起因する応力が集中し易いものの、段階的に樹脂の含浸密度を変化させた層を複数とすることで上記の応力が分散することとなるため、機械的強度を安定させることが可能である。
【0030】
図面上では高含浸度磁性体層31と第1低含浸度磁性体層32と第2低含浸度磁性体層33とは中磁脚8にのみ図示しているが、当然ながら上記で説明しているように外磁脚7と背磁脚9とにも適用しても構わない。
【0031】
この構成によれば、相対的に透磁率が低い高含浸度磁性体層31を圧粉磁心12の表面のごく薄い領域に高強度領域として形成し、一方で相対的に透磁率が高い第1、第2低含浸度磁性体層32、33を圧粉磁心12の表面以外の大部分の領域に形成することにより、圧粉磁心12の全体として透磁率の劣化を抑制したうえで高強度を得ることができ、衝撃などに対する高い信頼性を得ることができるものである。これは含浸樹脂密度を低くすることにより、それに伴う応力の発生等が高含浸樹脂密度の部分に比較して抑制されることから透磁率が高くなり、全体をほぼ均一の高い含浸樹脂密度とした場合に比較し、磁気抵抗の低い領域を形成できることから、圧粉磁心12の全体として透磁率の劣化を抑制できるものである。
【0032】
また、ここでは、高含浸度磁性体層31と第1低含浸度磁性体層32と第2低含浸度磁性体層33として不連続にそれぞれの含浸度が変化するものを例として示しているが、その含浸度の位置による変化は連続的であることがより望ましく、例えば、第1低含浸度磁性体層32を含浸度が漸減するような状態とし、第2低含浸度磁性体層33は非含浸状態に極めて近い状態としてもよく、この場合、含浸度が漸減する層を設けて変化を連続なものとすることで、含浸度の不連続点でもある機械的強度の不連続点を除去でき、機械的に安定した特性を得ることができる。
【0033】
ここで、高含浸度磁性体層31とは、含浸させた樹脂が圧粉磁心12を構成する個々の磁性体粉(図示せず)の周囲を覆ったうえで、個々の磁性体粉(図示せず)間を空隙なく充填した状態で硬化した層としても構わなく、この高含浸度磁性体層31では機械的強度は高い一方で磁気特性は樹脂が個々の磁性体(図示せず)の周囲に無い場合に比較して劣化することとなる。また、第1低含浸度磁性体層32は、含浸させた樹脂が圧粉磁心12を構成する個々の磁性体粉(図示せず)の周囲を覆っているものの、個々の磁性体粉(図示せず)間には空隙が存在する状態で硬化した層としても構わなく、この第1低含浸度磁性体層32は高含浸度磁性体層31よりは低いものの機械的強度は比較的高い一方で磁気特性は高含浸度磁性体層31よりも劣化の度合いは小さいものの、樹脂が個々の磁性体(図示せず)の周囲に無い場合に比較して劣化することとなる。そして、第2低含浸度磁性体層33は、第1低含浸度磁性体層32からさらに含浸させた樹脂の量を少なくした状態であり、含浸させた樹脂が圧粉磁心12を構成する個々の磁性体粉(図示せず)の周囲を部分的に覆っている状態で硬化した層としても構わなく、機械的強度は低いものの、磁気特性は樹脂が周囲に無い場合に比較して遜色のないものとなる。これらの状態の調整については、先にも述べたように磁性体の成形時の密度や樹脂を含浸させる際の圧力や時間によって行うとよい。
【0034】
これまでは、図2に示すように、外磁脚7と中磁脚8と背磁脚9との全てについて、その表層と深層との間で透磁率が異なる状態としていたが、図5の断面図に示すように外磁脚7および背磁脚9をすべて含浸磁性体層10により形成し、中磁脚8のみについて表面層としてごく薄くエポキシ樹脂を含浸させた層で形成した含浸磁性体層10と、表面層である含浸磁性体層10より深部側に深層として形成した非含浸磁性体層11とを設けた圧粉磁心12として構成しても構わない。
【0035】
これは、例えば図6の断面図に示すように圧粉磁心12を突き合せて中磁脚8の周囲に巻線部34を巻回して配置することでコイル部品を形成する際、巻線部34に電流が流れることによって発生する磁束はそのほとんどが中磁脚8を流れることとなり、中磁脚8の透磁率が突き合せた状態の2つの圧粉磁心12の全体の透磁率に対して非常に大きな寄与度を有することとなる。その一方で、外磁脚7および背磁脚9については、巻線部34で発生した磁束は概ね半分に分散されるとともに漏れ磁束を伴うことから、外磁脚7および背磁脚9に流れる磁束量は少なく、結果として中磁脚8の透磁率に比較して外磁脚7および背磁脚9の透磁率は圧粉磁心12の全体の透磁率に対して寄与度が小さなものとなる。
【0036】
従って、中磁脚8の透磁率を向上させるために、中磁脚8のみについて透磁率を低下させる含浸磁性体層10は表面にごく薄く形成するのみとし、それ以外は非含浸磁性体層11とする。これにより、圧粉磁心12の全体の透磁率を向上させることが可能である。
【0037】
また、特に外磁脚7については流れる磁束量の観点から他の部位に比較して薄い寸法形状としていることや、それに伴い磁性体密度を他に比較して小さくしていることから、含浸樹脂が他に比較して侵入し易い状態となっており、他の部位に比較して含浸樹脂の侵入度の調整の難易度が高いことより、敢えて外磁脚7のすべてを含浸磁性体層10により形成し、個別の圧粉磁心12による特性ばらつきを抑制することも可能である。
【0038】
さらに、コイル部品として、チョークコイルやトランスとして圧粉磁心12を突き合せて適用する際、巻線部34には大電流や高電圧を印加して使用することも珍しいことではなく、当然ながらその時には絶縁性が巻線部34の周囲に要求されることとなる。ここでは圧粉磁心12の表面に含浸磁性体層10を設けることで圧粉磁心12の表面に防湿効果をもたせることができ、圧粉磁心12の吸湿による絶縁性の劣化を抑制することができるものでもある。
【0039】
そして、ここでは図示していないが圧粉磁心12を突き合せてこれらを固定する手段としては、圧粉磁心12の周囲および巻線部34を配置している領域を外装樹脂(図示せず)によって封止することがその一つとして挙げられる。当然ながらこの時は圧粉磁心12の突き合せ状態は常に安定していることが求められるものの、仮に突き合せて対向している圧粉磁心12どうしの距離などが変化すると、これに伴いコイル部品としての特性に影響を及ぼすこととなる。例えば、中磁脚8を含浸磁性体層10のみによって形成し、非含浸磁性体層11を設けない形態とした場合、周囲環境をはじめとするストレスやそれに伴う応力の発生などによって含浸磁性体層10を構成するエポキシ樹脂などが分解したものが含浸磁性体層10の圧力上昇に伴って圧粉磁心12の表面に析出し、圧粉磁心12の表面状態が変化することで、圧粉磁心12の突き合せ面および突き合せ状態を変化させ、コイル部品のインダクタンス値をはじめとする特性を低下させる可能性がある。これに対して、中磁脚8において中磁脚8の表面に形成した含浸磁性体層10と、含浸磁性体層10の内面側に非含浸磁性体層11を設けることで、中磁脚8に生じるストレスの影響を受けやすい含浸磁性体層10の体積を低減し、さらに含浸磁性体層10内のエポキシ樹脂などが圧力上昇を起こしても非含浸磁性体層11がそれを緩衝することとなり、エポキシ樹脂などが変質したものが圧粉磁心12の表面に析出することを抑制することとなる。
【0040】
この結果として、含浸磁性体層10とその内面側に非含浸磁性体層11を設けることで、単に個別の部位毎の透磁率の低下を抑制することのみならず、圧粉磁心12の突き合せ面や突き合せ状態に大きく関係する形状を安定させることで、巻線部34を含めたコイル部品全体としての特性の低下を抑制することが可能となる。
【0041】
また、図4に示すものに準じた状態で、中磁脚8のみに表面層としてそれらを形成した高含浸度磁性体層31と、表面層である高含浸度磁性体層31より内面側に高含浸度磁性体層31での含浸樹脂密度よりも小さな第1含浸樹脂密度で形成した第1低含浸度磁性体層32と、さらに第1低含浸度磁性体層32の深層側に第1含浸樹脂密度よりもさらに小さな第2含浸樹脂密度で形成した第2低含浸度磁性体層33とを設けた構成とし、外磁脚7および背磁脚9をすべて含浸磁性体層10により形成しても構わない。
【0042】
これによっても、中磁脚8の透磁率を向上させることで圧粉磁心12の全体の透磁率を向上させることが可能である。
【0043】
これまでに示した例では、図2に示した含浸磁性体層10や非含浸磁性体層11を設けることにより、それによる磁気的特性面に関する効果を中心に述べているが、強度面に関して考慮した場合、図7の断面図に示すように、含浸磁性体層10の角に対応する部分に厚みの変化を持たせることが望ましい。
【0044】
ここでは、中磁脚8の先端側角部8aにおける角部含浸磁性体層10aの厚み寸法を、中磁脚8の天面に該当する先端面部8bおよび中磁脚8の周面に該当する側面部8cにおける面部含浸磁性体層10bの厚み寸法よりも大きくした形状としている。
【0045】
一般的に、図6に示すように圧粉磁心12を突き合せることでコイル部品を形成するため、図7に示す中磁脚8の先端側角部8aは応力が発生しやすい部分となるため、それに応じた強度を有することが望ましい。よって、角部含浸磁性体層10aの厚み寸法を、面部含浸磁性体層10bの厚み寸法よりも大きくするとよい。ここで、面部含浸磁性体層10bの厚み寸法とは、概ね先端面部8bの中央付近や側面部8cの中央付近とすればよい。これにより、中磁脚8の欠けなどの損傷による特性の劣化を抑制することが可能である。
【0046】
また、応力の集中という観点では、面部含浸磁性体層10bの厚み寸法を図に示すように曲線で連続的に変化させることが望ましい。これにより、角部含浸磁性体層10aと面部含浸磁性体層10bとの境界に明確な厚みの不連続点が生じないこととなり、その不連続点への応力の集中を回避することができるものである。
【0047】
ここでは図2に示した含浸磁性体層10や非含浸磁性体層11を例にとって説明したが、図4の断面図に示すように、高含浸度磁性体層31と第1低含浸度磁性体層32と第2低含浸度磁性体層33で構成した中磁脚8に上記の寸法関係を適用しても構わない。この場合、不連続点がより生じにくい構造となることから、より信頼性の向上について大きな効果を得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の圧粉磁心は、圧粉磁心全体の透磁率を向上させることでコイル部品の特性向上を可能とする効果を有し、各種電子機器において有用である。
【符号の説明】
【0049】
7 外磁脚
8 中磁脚
8a 先端側角部
8b 先端面部
8c 側面部
9 背磁脚
10 含浸磁性体層
10a 角部含浸磁性体層
10b 面部含浸磁性体層
11 非含浸磁性体層
12 圧粉磁心
13 混練分散工程
14 金属磁性粉
14a 金属磁性粉
14b 金属磁性粉
15 樹脂
16 混合物
17 造粒工程
18 柱状固形物
19 固形物片
20 樹脂皮膜
20a 樹脂皮膜
20b 樹脂皮膜
21 造粒粉
22 プレス工程
23 分割磁心
24 肉厚部
25 肉薄部
26 連結部
27 アニール熱処理工程
28 含浸工程
29 研磨工程
30 組み立て工程
31 高含浸度磁性体層
32 第1低含浸度磁性体層
33 第2低含浸度磁性体層
34 巻線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉を加圧成形してなり、対向する一対の外磁脚と、この外磁脚に挟まれた中磁脚と、この中磁脚と前記外磁脚とを連結する背磁脚により構成された圧粉磁心において、この圧粉磁心の全表面に、樹脂を含浸することにより形成される含浸磁性体層を設けると共に、この含浸磁性体層の内面側に、前記樹脂を含浸しない非含浸磁性体層を設けた圧粉磁心。
【請求項2】
磁性粉を加圧成形してなり、対向する一対の外磁脚と、この外磁脚に挟まれた中磁脚と、この中磁脚と前記外磁脚とを連結する背磁脚により構成された圧粉磁心において、この圧粉磁心の全表面に、樹脂を含浸することにより形成される含浸磁性体層を設けると共に、この含浸磁性体層の内面側に少なくとも1層の低含浸磁性体層を設け、この低含浸磁性体層を、表面側に位置する含浸磁性体層に含浸された樹脂の密度よりも低い密度のものとした圧粉磁心。
【請求項3】
磁性粉を加圧成形してなり、対向する一対の外磁脚と、この外磁脚に挟まれた中磁脚と、この中磁脚と前記外磁脚とを連結する背磁脚により構成された圧粉磁心において、この圧粉磁心の外磁脚と背磁脚の全域、ならびに中磁脚の表面に、樹脂を含浸することにより形成される含浸磁性体層を設けると共に、前記中磁脚の表面に形成された含浸磁性体層の内面側に、前記樹脂を含浸しない非含浸磁性体層を設けた圧粉磁心。
【請求項4】
磁性粉を加圧成形してなり、対向する一対の外磁脚と、この外磁脚に挟まれた中磁脚と、この中磁脚と前記外磁脚とを連結する背磁脚により構成された圧粉磁心において、この圧粉磁心の外磁脚と背磁脚の全域、ならびに中磁脚の表面に、樹脂を含浸することにより形成される含浸磁性体層を設けると共に、前記中磁脚の表面に形成された含浸磁性体層の内面側に少なくとも1層の低含浸磁性体層を設け、この低含浸磁性体層を、表面側に位置する含浸磁性体層に含浸された樹脂の密度よりも低い密度のものとした圧粉磁心。
【請求項5】
中磁脚に形成された含浸磁性体層の角部の厚み寸法を、この角部以外の厚み寸法よりも厚くした請求項1〜4のいずれか一つに記載の圧粉磁心。
【請求項6】
含浸磁性体層に含浸された樹脂の密度が、非含浸磁性体層あるいは低含浸磁性体層へ向かって漸減するようにした請求項1〜5のいずれか一つに記載の圧粉磁心。
【請求項7】
外磁脚を構成する磁性粉の密度を、中磁脚ならびに背磁脚を構成する磁性粉の密度よりも低くした請求項1〜6のいずれか一つに記載の圧粉磁心。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の圧粉磁心を備えたコイル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−104725(P2012−104725A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253439(P2010−253439)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】