説明

圧粉磁心および圧粉磁心用の鉄基粉末

【課題】本発明の目的は、圧粉磁心の強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を小さくすることによってヒステリシス損を低減できる圧粉磁心用の鉄基粉末を提供することにある。本発明の他の目的は、ヒステリシス損に加えて、渦電流損も低減することによって圧粉磁心の鉄損を低減できる圧粉磁心用の鉄基粉末を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、鉄損の低い圧粉磁心を提供することにある。
【解決手段】表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した鉄基粉末の比表面積Bに対する該鉄基粉末の比表面積の実測値Aの比(A/B)を形状指数と定義したときに、該形状指数を2.2〜5とし、且つ、目開き425μmの篩aを通過するが、目開き45μmの篩bを通過しない鉄基粉末を圧粉磁心の原材料として用いればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄粉や鉄基合金粉末(以下、これらを総称して鉄基粉末と呼ぶことがある)等の軟磁性鉄基粉末を圧粉成形し、電磁気部品用の圧粉磁心を製造する際に用いる圧粉磁心用鉄基粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
交流で使用される電磁気部品(例えば、モータなど)の磁心(コア材)には、従来、電磁鋼板や電気鉄板等を積層したものが用いられていたが、近年は、軟磁性の鉄基粉末を圧粉成形し、これを歪取焼鈍して製造される圧粉磁心が利用されるようになってきた。鉄基粉末を圧粉成形することで、形状の自由度が高くなり、三次元形状の磁心でも容易に製造できる。そのため、電磁鋼板や電気鉄板等を積層したものを用いたものと比べて小型化や軽量化が可能になる。また、圧粉成形後には、歪取焼鈍することで、原料粉末の製造時や圧粉成形時に導入された歪みが解放され、鉄損、特にヒステリシス損を低減することができる。
【0003】
ところが鉄基粉末を圧粉成形して製造される圧粉磁心は、例えば1kHz以上の高周波帯域では良好な電磁変換特性を示すが、一般にモータが動作している駆動条件下[例えば、駆動周波数が数100Hz〜1kHzで、駆動磁束が1T(テスラ)以上]では、電磁変換特性が劣化する傾向がある。この電磁変換特性の劣化[即ち、磁気変換時のエネルギー損失(鉄損)]は、材料内磁束変化が緩和現象(磁気共鳴など)を伴わない領域であれば、ヒステリシス損と渦電流損の和で表されることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
このうちヒステリシス損は、B−H(磁束密度−磁場)カーブの面積に相当すると考えられている。このB−Hカーブの形に影響を与え、ヒステリシス損を支配する因子としては、圧粉磁心の保磁力(B−Hカーブのループ幅)や最大磁束密度などが挙げられる。つまりヒステリシス損は保磁力に比例するため、ヒステリシス損を低減するには、保磁力を小さくすればよい。
【0005】
これに対し、渦電流損は、磁場変化に対する電磁誘導で発生する起電力に伴う誘導電流のジュール損失である。この渦電流損は、磁場変化速度、つまり周波数の2乗に比例すると考えられており、圧粉磁心の電気抵抗が小さいほど、また渦電流の流れる範囲が大きいほど渦電流損は大きくなる。この渦電流は、個々の鉄基粉末粒子内に流れる粒子内渦電流と、鉄基粉末粒子間にまたがって流れる粒子間渦電流に大別される。そのため個々の鉄基粉末の電気的な絶縁が完全であれば、粒子間渦電流は発生しないため、粒子内渦電流のみとなり、渦電流損を低減できる。
【0006】
ところで上記電磁変換特性の劣化は、一般にモータが動作している低周波数帯(例えば、数100Hz〜1kHz)においては、渦電流損よりもヒステリシス損の方が支配的であるため、ヒステリシス損を低減することが求められている。
【0007】
ヒステリシス損を低減する技術として、非特許文献1には、高純度化と粒子内歪み低減による磁性粉末の低保磁力化と、絶縁皮膜改良による圧粉成形体の高密度化、高電気抵抗化、耐熱性向上に着目し、特性改善を目指した技術が開示されている。しかしこの技術では、鉄基粉末に不可避的に含まれる不純物量を低減し、高純度化した鉄基粉末を用いる必要があるため、一般に市販されている鉄基粉末を使用することができず、汎用性がない。
【0008】
一方、圧粉磁心には、ヒステリシス損を低減する他、強度も要求される。圧粉磁心のヒステリシス損の低減を狙った技術ではないが、特許文献1には、渦電流損を低減し、かつ圧粉磁心の強度を高めるのに適した軟磁性材料を提供する技術が開示されている。この特許文献1には、渦電流損が低下する理由は、軟磁性材料を加圧成形したときに磁性粒子の表面に形成されている突起部が絶縁皮膜を破壊することにあると考え、磁性粒子の形態を、円相当径に対する最大径の比を1.0を超えて1.3以下としている。即ち、特許文献1では、磁性粒子を真球状に近づけることで、表面の突起部を除去し、絶縁皮膜の破壊による渦電流損の低下を防止している。
【0009】
一方、この特許文献1には、磁性粒子の形態が真球状に近づくと、表面に凹凸が少なくなるため凹凸の噛み合わせがなくなって、成形体の強度が低下することも指摘されている。そしてこの特許文献1では、成形体の強度を高めるために、磁性材料を硫酸水溶液中に浸漬して表面をエッチングし、比表面積を0.10m2/g以上とすることで、表面の凹凸を増加させている。しかし本発明者が更に検討したところ、上記特許文献1に指摘されているように比表面積を大きくすると、成形体の強度は高くなるものの、圧粉磁心の保磁力が増大し、ヒステリシス損を改善できないことが判明した。
【非特許文献1】「SEIテクニカルレビュー第166号」、住友電気工業発行、2005年3月、P.1〜6
【特許文献1】特開2006−302958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧粉磁心の強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を小さくすることによってヒステリシス損を低減できる圧粉磁心用の鉄基粉末を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ヒステリシス損に加えて、渦電流損も低減することによって圧粉磁心の鉄損を低減できる圧粉磁心用の鉄基粉末を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、鉄損の低い圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決することのできた本発明に係る圧粉磁心用鉄基粉末は、鉄基粉末を表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した比表面積Bに対する該鉄基粉末の比表面積の実測値Aの比(A/B)を形状指数と定義したときに、該形状指数が2.2〜5で、且つ、目開き425μmの篩aを通過するが、目開き45μmの篩bを通過しないものである点に要旨を有する。
【0012】
前記鉄基粉末には、渦電流損を低減するために、表面に絶縁皮膜が形成されており、該絶縁皮膜は、リン酸系化成皮膜であることが好ましい。また、前記リン酸系化成皮膜の表面には、更にシリコーン樹脂皮膜が形成されていることが推奨される。なお、本発明には、上記鉄基粉末を成形して得られた圧粉磁心も包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧粉磁心の原材料として用いる鉄基粉末の形態と大きさを適切に制御することによって、圧粉磁心の保磁力の低減と強度確保を両立でき、その結果、圧粉磁心の強度を低下させることなく、ヒステリシス損を低減できる。また、本発明によれば、形態と大きさを最適化した鉄基粉末の表面に、絶縁皮膜を形成することによって、ヒステリシス損のほか、渦電流損も小さくできるため、鉄損を低減した圧粉磁心を製造できる鉄基粉末を提供することができる。更に、本発明によれば、ヒステリシス損と渦電流損の両方が低減され、鉄損が小さい圧粉磁心を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者は、圧粉磁心の強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を低減してヒステリシス損を改善するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、圧粉磁心の原材料として用いる鉄基粉末の形態と大きさを適切に制御すれば、保磁力の低減と強度確保を両立できることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明では、鉄基粉末を表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した比表面積Bに対する比表面積の実測値Aの比(A/B)を「形状指数」と定義し、該形状指数が2.2〜5で、且つ、目開き425μmの篩aを通過するが、目開き45μmの篩bを通過しない鉄基粉末を、圧粉磁心の原材料として用いる。
【0015】
本発明者が鉄基粉末の形態と圧粉磁心の保磁力との関係について検討したところ、表面に凹凸が形成され、比表面積が大きい鉄基粉末を用いて圧粉磁心を製造すると、圧粉磁心の保磁力が大きくなることが判明した。圧粉磁心の保磁力が大きくなる理由は、表面に凹凸が形成されていると、磁場を受けたときに、該凹凸によって磁壁が移動するのを邪魔されるためと考えられる。即ち、外部から磁場を受けると、磁場方向に磁化が生じた方がエネルギーが下がるため、鉄基粉末内を磁壁が移動するが、鉄基粉末の表面に凹凸が形成されていると、磁壁が移動する際に、表面に形成された凹凸に衝突した位置で磁壁の移動が停止されてしまうため、磁場方向とは逆の磁化が残留し、保磁力が増大すると考えられる。鉄基粉末の表面に形成される凹凸は、凹凸の数が多い場合であっても、凹凸が深い場合であっても保磁力を増大させる作用を発揮する。
【0016】
そこで本発明では、上記形状指数を定め、鉄基粉末の表面状態を規定している。上記形状指数が2.2〜5の範囲の鉄基粉末は、鉄基粉末の表面に形成される凹凸の数が少なく、凹凸の深さが浅いことを意味している。この形状指数は、表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した鉄基粉末の比表面積Bに対する該鉄基粉末の比表面積の実測値Aの比(A/B)であり、実測値Aは、BET法で測定して求めた値である。実測値Aは、吸着ガスとして例えば窒素ガスを用いて測定すればよい。
【0017】
一方、比表面積Bは、次の手順で算出した値である。まず、鉄基粉末100gを日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して分級し、各粒度での質量を測定する。具体的には、目開きが45μm、63μm、75μm、106μm、150μm、180μm、250μm、300μm、425μmの篩を用い、各篩の上に残った鉄基粉末の質量および目開きが45μmの篩を通過した鉄基粉末の質量を測定する。なお、本発明では、目開きが450μmの篩上に残った鉄基粉末は除去する。
【0018】
上記各篩の上に残った鉄基粉末の平均直径2rを篩の目開きのメジアン(中央)値として算出する。例えば、目開きが45μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径2rは、(45+63)/2=54μmである。同様に、目開きが63μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は69μm、目開きが75μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は90.5μm、目開きが106μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は128μm、目開きが150μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は165μm、目開きが180μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は215μm、目開きが250μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は275μm、目開きが300μmの篩上に残った鉄基粉末の平均直径は362.5μm、である。なお、目開きが45μmの篩を通過した鉄基粉末の平均直径は、22.5μmとする。
【0019】
次に、上記平均直径2rを用いて、上記各篩の上に残った鉄基粉末を表面に凹凸がなく、平滑な真球として仮定した場合における鉄基粉末の表面積と体積を算出する。即ち、平均半径はrとなるから、鉄基粉末1個当たりの表面積Xは4πr2、体積Yは(4πr3)/3である。
【0020】
次に、算出された鉄基粉末1個当たりの体積Yと、該鉄基粉末の密度を用いて、各篩の上に残った鉄基粉末1個当たりの質量を算出する。例えば、鉄基粉末が純鉄の場合の密度は7.87g/cm3であるから、各篩の上に残った鉄基粉末1個当たりの質量は、7.87Y(g)となる。
【0021】
次に、上記各粒度での鉄基粉末の質量を、各篩の上に残った鉄基粉末1個当たりの質量で除すと、各粒度における鉄基粉末の個数Zを算出できる。従って、上記表面積Xに前記個数Zを掛けると、各粒度における鉄基粉末の表面積を算出することができ、これらの総和を鉄基粉末の総質量で除すと、表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した鉄基粉末の比表面積Bを算出できる。
【0022】
鉄基粉末の表面に形成される凹凸の数が少なく、凹凸の深さが浅くなると、鉄基粉末の表面は平滑に近づくため、上記実測値Aは比表面積Bに近づき、形状指数は1に近くなる。一方、鉄基粉末の表面に形成される凹凸の数が多く、凹凸の深さが深くなると、鉄基粉末の表面は粗くなるため、上記実測値Aが大きくなり、形状指数は大きくなる。
【0023】
上記形状指数は、鉄基粉末の表面状態の他に、鉄基粉末の形態も示している。鉄基粉末が真球状に近づくと、実測値Aは比表面積Bに近づき、形状指数は1に近づくが、鉄基粉末が偏平すると、表面積の実測値Aが大きくなるため、形状指数は大きくなる。
【0024】
本発明では、鉄基粉末の形状指数を2.2〜5の範囲とする。鉄基粉末の形状指数が5を超えると、上述したように、鉄基粉末の表面に凹凸が多く、しかも深く形成されるため、保磁力が大きくなる。また、鉄基粉末の表面に形成されている凹凸が多く、深くなっていると、該鉄基粉末の表面に、後述するように絶縁処理を行った場合に、絶縁皮膜形成不良が発生し、鉄基粉末同士が接触して圧粉磁心の電気抵抗が小さくなる。従って本発明では、鉄基粉末の形状指数は5以下とする。形状指数は、4.8以下であることが好ましく、より好ましくは4.6以下である。
【0025】
鉄基粉末の表面をできるだけ平滑化する観点からすると、上記形状指数はできるだけ小さい方が好ましいが、上記形状指数が2.2を下回ると、表面の凹凸が殆んどなくなると、鉄基粉末を圧粉成形したときに鉄基粉末同士の接点が少なくなり、接触面積が小さくなって、圧粉磁心の強度が小さくなる。従って本発明の鉄基粉末の形状指数は2.2以上とする。形状指数は、2.5以上であることが好ましく、より好ましくは2.7以上である。
【0026】
本発明の鉄基粉末は、形状指数を上記範囲に制御する点以外に、粒子径を適切に制御することも重要である。
【0027】
本発明の鉄基粉末は、目開き425μmの篩aと目開き45μmの篩bを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過するが、篩bを通過しない鉄基粉末である。目開きが45μmの篩bを通過する鉄基粉末は、粒子径が小さいため、鉄基粉末同士の界面が多くなり、この界面が磁壁移動の障害となって圧粉磁心の保磁力が増大する。また、粒子径が小さい鉄基粉末を用いると、後述する絶縁処理を行なったときに、鉄基粉末の表面に絶縁皮膜が形成され難いため、鉄基粉末同士が接触して絶縁不良が発生し、圧粉磁心の電気抵抗が低下する。従って本発明では、目開き45μmの篩bを通過する鉄基粉末を除去し、篩bを通過しない(即ち、篩bの上に残る)粉末を用いる。好ましくは目開き63μmの篩b1を通過しない粉末とし、より好ましくは目開き75μmの篩b2を通過しない粉末とする。
【0028】
なお、本発明の鉄基粉末には、上記篩bを通過する鉄基粉末が全く含まれていないことが好ましいが、鉄基粉末全体の質量に対して3質量%以内であれば、篩bを通過する鉄基粉末を含有していてもよい。
【0029】
上記鉄基粉末の粒子径は、粒子内の結晶粒径を大きくして保磁力を低減するために、できるだけ大きい方が好ましいが、目開き425μmの篩aを用いて篩い分けしたときに、篩aを通過する鉄基粉末とする。粒子径が大きくなり過ぎると、鉄基粉末を金型へ充填するときに金型の細部への充填性が悪くなったり、圧縮率が低下して圧粉磁心内に空隙が生じ、圧粉磁心の強度が小さくなるからである。
【0030】
なお、本発明の鉄基粉末には、上記篩aを通過しない鉄基粉末(篩aの上に残った鉄基粉末)が全く含まれていないことが好ましいが、鉄基粉末全体の質量に対して1質量%以内であれば、篩aを通過しない鉄基粉末を含有していてもよい。
【0031】
上記鉄基粉末の粒子径は、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して分級して測定した値である。
【0032】
上記の通り、本発明では、圧粉磁心用鉄基粉末の形態と大きさを最適化することによって、圧粉磁心の強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を小さくしてヒステリシス損を低減できるが、圧粉磁心の鉄損を改善するには、ヒステリシス損の他に、渦電流損を低減する必要がある。
【0033】
渦電流損を低減するには、上記鉄基粉末を圧粉成形したときに、鉄基粉末同士の界面に絶縁体が存在していればよい。鉄基粉末同士の界面に絶縁体を存在させるには、例えば、上記鉄基粉末の表面に絶縁皮膜を積層したものを圧粉成形するか、上記鉄基粉末と絶縁用粉末を混合したものを圧粉成形すればよい。好ましくは上記鉄基粉末の表面に絶縁皮膜を積層したものを圧粉成形するのがよい。
【0034】
上記絶縁皮膜や上記絶縁用粉末の種類は特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、圧粉磁心(成形体)の比抵抗を4端子法で測定したときに、比抵抗が50μΩ・m程度以上になるものであればよい。
【0035】
上記絶縁皮膜の素材としては、例えば、リン酸系化成皮膜やクロム系化成皮膜などの無機物や樹脂を用いることができる。樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、スチレン/アクリル樹脂、エステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレンなどのオレフィン樹脂、カーボネート樹脂、ケトン樹脂、フッ化メタクリレートやフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、PEEKなどのエンジニアリングプラスチックまたはその変性品などを使用できる。
【0036】
こうした絶縁皮膜の中でも、特にリン酸系化成皮膜を形成すればよい。リン酸系化成皮膜は、オルトリン酸(H3PO4)などによる化成処理によって生成するガラス状の皮膜であり、電気絶縁性に優れている。
【0037】
本発明のリン酸系化成皮膜には、MgやBが含まれていてもよい。このとき、リン酸系化成皮膜形成後の鉄基粉末100質量%中の量として、Mg,B共に、0.001〜0.5質量%が好適である。
【0038】
上記リン酸系化成皮膜の膜厚は1〜250nm程度が好ましい。膜厚が1nmより薄いと絶縁効果が発現し難いからである。しかし膜厚が250nmを超えると絶縁効果が飽和する上、圧粉体の高密度化を阻害するため望ましくない。付着量として言えば0.01〜0.8質量%程度が好適範囲である。
【0039】
本発明では、上記リン酸系化成皮膜の表面には、更にシリコーン樹脂皮膜が形成されているのが推奨される。シリコーン樹脂皮膜は、電気絶縁性の熱的安定性を向上させる他、圧粉磁心の機械的強度も高める作用を有する。即ち、シリコーン樹脂の架橋・硬化反応終了時(圧粉成形体の成形時)には、耐熱性に優れたSi−O結合を形成して熱的安定性に優れた絶縁皮膜となる。また、粉末同士が強固に結合するので、機械的強度が増大する。
【0040】
上記シリコーン樹脂皮膜の厚みとしては、1〜200nmが好ましい。より好ましい厚みは1〜100nmである。また、リン酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜との合計厚みは250nm以下とすることが好ましい。絶縁皮膜の厚みが250nmを超えると、圧粉磁心の磁束密度の低下が大きくなることがある。また、圧粉磁心の鉄損を小さくするには、リン酸系化成皮膜をシリコーン樹脂皮膜より厚めに形成することが望ましい。
【0041】
上記シリコーン樹脂皮膜の付着量は、リン酸系化成皮膜が形成された鉄基粉末とシリコーン樹脂皮膜との合計を100質量%としたとき、0.05〜0.3質量%となるように調整することが好ましい。シリコーン樹脂皮膜の付着量が0.05質量%より少ないと、絶縁性に劣り、電気抵抗が低くなる。一方、シリコーン樹脂皮膜の付着量が0.3質量%より多くなると、圧粉磁心(成形体)の高密度化が達成しにくい。
【0042】
上記では、鉄基粉末の表面に絶縁皮膜を積層したものを圧粉成形する場合を中心に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、上記鉄基粉末の表面に、リン酸系化成皮膜やクロム系化成皮膜などの無機物を被覆した粉末と、上記樹脂からなる絶縁用粉末を混合したものを圧粉成形してもよい。このように混合するときの樹脂の配合量は、混合粉末全体に対して、0.05〜0.5質量%程度とするのがよい。
【0043】
本発明の圧粉磁心用鉄基粉末には、さらに潤滑剤が含有されたものであってもよい。この潤滑剤の作用により、鉄基粉末を圧粉成形する際の粉末間、あるいは鉄基粉末と成形型内壁間の摩擦抵抗を低減でき、成形体の型かじりや成形時の発熱を防止することができる。
【0044】
このような効果を有効に発揮させるためには、潤滑剤が粉末全量中、0.2質量%以上含有されていることが好ましい。しかし、潤滑剤量が多くなると、圧粉体の高密度化に反するため、0.8質量%以下にとどめることが好ましい。なお、圧粉成形する際に、成形型内壁面に潤滑剤を塗布した後、成形するような場合(型潤滑成形)には、0.2質量%より少ない潤滑剤量でも構わない。
【0045】
上記潤滑剤としては、従来から公知のものを使用すればよく、具体的には、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどのステアリン酸の金属塩粉末、およびパラフィン、ワックス、天然または合成樹脂誘導体等が挙げられる。
【0046】
本発明の圧粉磁心用鉄基粉末は、もちろん圧粉磁心の製造のために用いられるものであり、本発明の鉄基粉末を成形して得られた圧粉磁心は本発明に包含される。この圧粉磁心は、主に交流で使用されるモータのロータやステータ等のコアとして使用される。
【0047】
本発明の鉄基粉末は、上記要件を満足するものであり、その製造方法は特に限定されないが、例えば、原料鉄基粉末に球状化処理を施した後、非酸化性雰囲気で熱処理し、これを解砕してから分級すれば製造できる。
【0048】
上記原料鉄基粉末は、強磁性体の金属粉末であり、具体例としては、純鉄粉、鉄基合金粉末(例えば、Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイなど)、およびアモルファス粉末等が挙げられる。
【0049】
こうした原料鉄基粉末は、例えば、アトマイズ法によって製造できる。アトマイズ法の種類は特に限定されず、水アトマイズ法でもよいし、ガスアトマイズ法でもよい。
【0050】
本発明では、特に、水アトマイズ法によって得られた粉末であっても、原料鉄基粉末として好適に用いることができる。即ち、水アトマイズ法で得られた鉄基粉末は、ガスアトマイズ法で得られた鉄基粉末よりも安価であるが、水アトマイズ法で得られた鉄基粉末を用いて作製した圧粉磁心の保磁力は、ガスアトマイズ法で得られた鉄基粉末を用いて作製した圧粉磁心の保磁力よりも大きくなる傾向があった。この理由について本発明者が検討したところ、水アトマイズ法で得られた鉄基粉末の表面は凹凸が大きく、大きな凹凸が磁壁の移動を阻害して圧粉磁心の保磁力を高めていることが判明した。ところが本発明によれば、水アトマイズ法で得られた鉄基粉末であっても、後述する球状化処理を施して鉄基粉末の形状指数を所定の範囲に制御することで、鉄基粉末の形態をある程度真球状に近づけつつ、表面の凹凸を小さくすることができるため、鉄基粉末の表面がある程度平滑化して磁壁が移動し易くなり、圧粉磁心の保磁力を低減できる。
【0051】
圧粉磁心を作製する際には、通常、原料鉄基粉末として、例えば、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)で評価される粒度分布で累積粒度分布が50%になる平均粒子径が20〜250μm程度の鉄基粉末を用いるが、本発明では、平均粒子径が100〜150μm程度の粉末を好ましく用いることができる。
【0052】
上記原料鉄基粉末をある程度真球状に近づけつつ、表面の凹凸をある程度平滑化し比表面積を小さくするには、該原料鉄基粉末を、例えば、回転ミルや振動ミル、或いはフェザーミルなどに装入して球状化処理を施せばよい。
【0053】
球状化処理を行うときの条件は、上記原料鉄基粉末の球状指数が所定の範囲になるように行えばよく、処理条件は、球状化処理に用いる装置によって異なるため、一律に規定できない。
【0054】
但し、回転ミルや振動ミルを用いて球状化処理を行う場合は、ロッドやボールを入れずに処理を行なうとよい。回転ミルや振動ミルに上記原料鉄基粉末とロッドやボールを装入して処理すると、原料鉄基粉末の表面の凹凸が除去されるだけでなく、原料鉄基粉末自体の形態が偏平し、円板状やラグビーボール状になるため、こうした鉄基粉末を用いて圧粉磁心を製造すると、磁気異方性が生じ易くなる。鉄基粉末が偏平し過ぎて異方性が大きくなると、圧粉成形時には、粉末の長手が圧縮方向に対して垂直な方向に揃うため、圧縮軸に垂直な方向には、圧粉磁心の透磁率が大きくなるが、圧縮方向の透磁率は小さくなる。このように透磁率に差が生じるのは、鉄基粉末の異方性が大きくなるほど鉄基粉末内部に発生する長手方向の反磁界が小さくなるため、磁束が流れ易くなって透磁率が大きくなるからである。従って鉄基粉末を圧粉成形して形成した圧粉磁心において、厚みが小さく、薄い円盤状のように偏平化された粉末を用いた場合、圧粉磁心の圧縮軸方向の透磁率は、圧縮面方向の透磁率よりも小さく、圧粉磁心の磁気特性が等方向でなくなるため、3次元的な磁気回路を構成する磁心[例えば、モータのコア(例えば、ロータやステータなど)]になると、圧粉磁心内部の透磁率に異方性が生じるため、圧粉磁心全体の物性が予測し難くなり、実用し難い。
【0055】
これに対し、本発明では、回転ミルや振動ミルを用いて球状化処理を行う場合は、ロッドやボールを入れずに処理することで、原料鉄基粉末を極端に偏平させることなく、表面の凹凸のみを除去できるため、3次元的な磁気回路を構成する圧粉磁心用としても好適に用いることができる。
【0056】
また、球状化処理には、V型ミキサーやWコーン型ミキサーも用いることができる。但し、V型ミキサー等は原料鉄基粉末同士が衝突する力が小さいため、原料鉄基粉末の表面の凹凸が平滑化し難く、形状指数を所定の範囲に制御しにくい。そのためV型ミキサーを用いる場合は、球状化処理を長時間(例えば、5時間程度以上)に亘って行う必要がある。
【0057】
球状化処理を施した上記原料鉄基粉末は、非酸化性雰囲気で熱処理する。熱処理することで、結晶粒の成長が起こり、結晶粒を粗大化させて保磁力を低減できる。
【0058】
上記非酸化性雰囲気としては、還元性雰囲気(例えば、水素ガス雰囲気、水素ガス含有雰囲気など)、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気(例えば、アルゴンガス雰囲気、窒素ガス雰囲気など)などが挙げられる。
【0059】
熱処理温度は特に限定されないが800〜1100℃程度とすればよい。熱処理温度が800℃未満では、結晶粒の成長に時間がかかり過ぎるため、実操業にそぐわない。一方、熱処理時間が1100℃を超えると、短時間で結晶粒の成長が起こる反面、結晶粒の成長に加えて焼結も進むため、熱処理後に解砕するのに多大なエネルギーが必要となり、無駄である。熱処理時間も特に限定されず、30分〜2時間程度とすればよい。
【0060】
熱処理した後は、例えば、フェザーミルやジョークラッシャーなどを用いて解砕し、次いで、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して分級して粒度を整えれば、本発明の鉄基粉末を得ることができる。
【0061】
次に、本発明の鉄基粉末に、絶縁皮膜を積層する方法について説明する。なお、以下では、絶縁皮膜として、リン酸系化成皮膜とシリコーン樹脂皮膜をこの順で鉄基粉末の表面に積層する場合について説明する。
【0062】
分級して得られた上記鉄基粉末の表面に、絶縁皮膜としてリン酸系化成皮膜を積層させるには、水性溶媒にオルトリン酸(H3PO4:P源)などを溶解させて得た溶液(処理液)を上記鉄基粉末と混合し、乾燥すればよい。
【0063】
また、このリン酸系化成皮膜に、Mgおよび/またはBを含有させる場合には、これらMgおよび/またはBを含む化合物を溶解させて得た溶液(処理液)を上記鉄基粉末と混合し、乾燥することで形成できる。この化合物としては、MgO(Mg源)、H3BO3(B源)等が使用可能である。
【0064】
上記水性溶媒としては、水、アルコールやケトン等の親水性有機溶媒、これらの混合物を使用することができ、必要に応じて溶媒中には公知の界面活性剤を添加してもよい。
【0065】
上記リン酸系化成皮膜を積層するに当たっては、固形分0.1〜10質量%程度の処理液を調製し、上記鉄基粉末100質量部に対し、1〜10質量部程度添加して、公知の混合機(例えば、ミキサー、ボールミル、ニーダー、V型混合機、造粒機等)で混合し、大気中、減圧下または真空下で、150〜250℃で乾燥することにより、リン酸系化成皮膜が形成された鉄基粉末が得られる。
【0066】
上記リン酸系化成皮膜の表面に、更にシリコーン樹脂皮膜を形成する場合には、例えば、アルコール類や、トルエン、キシレン等の石油系有機溶剤等にシリコーン樹脂を溶解させ、この溶液と、リン酸系化成皮膜を形成した鉄基粉末とを混合して有機溶媒を揮発させることにより形成することができる。
【0067】
上記シリコーン樹脂皮膜の形成条件は特に限定されないが、固形分が2〜10質量%程度になるように調製した樹脂溶液を、上記リン酸系化成皮膜が形成された鉄基粉末100質量部に対し、0.5〜10質量部程度添加して混合し、乾燥すればよい。0.5質量部より少ないと混合に時間がかかるが、10質量部を超えると乾燥に時間がかかったり、シリコーン樹脂皮膜が不均一になるおそれがある。樹脂溶液は適宜加熱しておいても構わない。
【0068】
混合機は前記したものと同様のものが使用可能である。但し、シリコーン樹脂皮膜を形成する場合は、加熱乾燥により有機溶媒を揮発させればよい。加熱乾燥の際には、例えばオーブン等で加熱してもよいが、混合容器を温水等で加温してもよい。乾燥後は、目開き500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
【0069】
乾燥後には、シリコーン樹脂皮膜を予備硬化させることが推奨される。シリコーン樹脂を予備硬化させた後、解砕することで、流動性に優れた粉末が得られ、圧粉成形の際に成形型へ、砂のようにさらさらと投入することができるようになる。予備硬化させないと、例えば温間成形の際に粉末同士が付着して、成形型への短時間での投入が困難となることがある。予備硬化は、実操業上、ハンドリング性の向上のために非常に有意義である。また、予備硬化させることによって、得られる圧粉磁心の比抵抗が非常に向上することが見出されている。この理由は明確ではないが、硬化の際の鉄基粉末との密着性が上がるためではないかと考えられる。
【0070】
予備硬化は、具体的には、100〜200℃で、5〜100分の加熱処理を行う。130〜170℃で10〜30分がより好ましい。予備硬化後も、前記したように、目開き500μm程度の篩を通過させておくことが好ましい。
【0071】
次に、圧粉磁心を製造するに当たっては、上記鉄基粉末の表面に絶縁皮膜が形成された粉末(例えば、上記リン酸系化成皮膜を形成した鉄基粉末、或いはリン酸系化成皮膜の表面に更にシリコーン樹脂皮膜を形成した鉄基粉末)を、成形した後、歪取焼鈍すればよい。
【0072】
圧粉成形法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。圧粉成形の好適条件は、面圧で490〜1960MPa(より好ましくは790〜1180MPa)である。
【0073】
成形温度は、室温成形、温間成形(80〜250℃)のいずれも可能である。型潤滑成形で温間成形を行う方が、高強度の圧粉磁心が得られるため好ましい。
【0074】
成形後は、圧粉磁心のヒステリシス損を低減するため歪取焼鈍する。歪取焼鈍の条件は特に限定されず、公知の条件を適用できる。
【0075】
歪取焼鈍を行う雰囲気は酸素を含まなければ特に限定されないが、窒素等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。歪取焼鈍を行う時間は特に限定されないが、20分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。
【0076】
なお、上記では、本発明の鉄基粉末に絶縁皮膜を積層したものを圧粉成形する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、鉄基粉末の表面に、リン酸系化成皮膜やクロム系化成皮膜などの無機物を被覆した粉末と、上記樹脂からなる絶縁用粉末を混合したものを圧粉成形してもよい。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0078】
〔実験1〕
神戸製鋼所製のアトマイズ粉末「アトメル300NH」を日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して目開き425μmの篩aを用いて篩い分けし、篩aを通過した粉末を回収した。
【0079】
次に、篩aを通過した粉末について、目開き45μm、63μmまたは75μmの篩を用いて篩い分けして篩上に残った粉末を回収した。各粉末の粒子径を下記表1に示す。なお、表1のNo.1は、篩aを通過したままの粉末であり、2回目の篩い分けは行なっていない。
【0080】
得られた粉末について、次の手順で形状指数を算出した。まず、得られた粉末の比表面積の実測値Aは、吸着ガスとして窒素ガスを用い、BET法で測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。また、得られた粉末を表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して比表面積Bを上記手順で算出した。
【0081】
次に、上記粉末の表面に、リン酸系化成皮膜を形成して絶縁処理した。
【0082】
[絶縁処理条件]
リン酸系化成皮膜は、水を1000g、H3PO4を193g、H3BO3を30g、MgOを31g、および界面活性剤(荏原ユージライト株式会社製、表面処理用添加剤#62)を5mL混合した処理液を、上記粉末1kgに対して50mLの割合で添加して、V型混合機を用いて5分混合した後、大気中で200℃、30分間乾燥した。リン酸系化成皮膜の膜厚は、約200nmであった。
【0083】
次に、絶縁処理後の粉末を成形体に圧粉成形した。圧粉成形は、ステアリン酸カルシウム0.5質量%をアルコールに分散させたものを金型表面に塗布した後、上記粉末を入れ、室温(25℃)で、面圧を約6ton/cm2(約588MPa)で加圧し、成形体の密度が7.20g/cmとなるように成形した。成形体の形状は、外径45mm、内径33mm、厚み約5mmのリング状で、この成形体に1次巻線を400ターン、2次巻線を25ターンとしてコイルを巻き付けた。
【0084】
得られた成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を下記の条件で測定した。
【0085】
成形体の保磁力は、理研電子製の直流磁化B−H特性自動記録装置「model BHS−40」を用いて最大励磁場(B)を50(Oe)として測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。本発明では、保磁力が4.65Oe以下の場合を合格(判定○)とし、保磁力が4.65Oeを超える場合を不合格(判定×)とした。
【0086】
成形体の抗析強度は、常温(25℃)で測定した。抗析強度試験は、JPMA M 09−1992(日本粉末冶金工業会規格、焼結金属材料の抗析力試験方法)に規定される方法に準じて行い、引張試験機(島津製作所製「AUTOGRAPH AG−5000E」)を使用し、支点間距離を25mm、測定試料数は5個とした。測定結果を下記表1に併せて示す。本発明では、抗析強度が50MPa以上の場合を合格(判定○)とし、抗析強度が50MPa未満の場合を不合格(判定×)とした。
【0087】
また、成形体の保磁力と抗析強度の結果に基づいて、成形体の総合判定を行った。成形体の保磁力と抗析強度が本発明の合格基準を満足している場合を総合判定良好(判定○)とし、保磁力または抗析強度の少なくとも一方が本発明の合格基準を満足していない場合を総合判定不良(判定×)として評価した。
【0088】
成形体の電気抵抗は、直流四端子法により、電気抵抗率を測定した。測定結果を下記表1に併せて示す。また、電気抵抗率が3.0×10-3Ω・m以上を絶縁性良好(判定○)と評価し、電気抵抗率が3.0×10-3Ω・m未満を絶縁性不良(判定×)と評価した。
【0089】
【表1】

【0090】
表1から次のように考察できる。No.1〜3は、原料鉄基粉末に球状化処理を行なっていないため、鉄基粉末の形状指数が本発明で規定している範囲を外れている。そのため成形体の保磁力が大きくなっている。
【0091】
〔実験2〕
上記実験1において、目開き425μmの篩aを用いて篩い分けする前に、球状化処理、熱処理、および解砕を行なう以外は、上記実験1と同じ条件とした。即ち、神戸製鋼所製のアトマイズ粉末「アトメル300NH」を振動ボールミル(中央化工機製の「バッチ式振動ミル、MB−50(装置名)」)を用い、ボールを入れずに、振幅を8mm、振動回数を毎分1200回、処理時間を2時間として球状化処理を行なった。球状化処理後、水素ガス雰囲気中で、800℃で2時間還元した。還元後、フェザーミルを用いて解砕したものを、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して目開き425μmの篩aを用いて篩い分けし、篩aを通過した粉末を回収した。
【0092】
次に、篩aを通過した粉末について、上記実験1と同じ条件で篩い分けして篩上に残った粉末を回収した。各粉末の粒子径を下記表2に示す。なお、表2のNo.21は、篩aを通過したままの粉末であり、2回目の篩い分けは行なっていない。
【0093】
得られた粉末について、上記実験1と同じ手順で形状指数を算出した。粉末の比表面積の実測値Aと形状指数を下記表2に併せて示す。
【0094】
次に、上記実験1と同じ条件で絶縁処理および圧粉成形を行い、成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を測定した。測定結果および総合判定を下記表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
表2から次のように考察できる。No.21は比較例であり、粉末の粒子径が本発明で規定する範囲から外れているため、粒子径が小さい鉄基粉末が混じっており、圧粉磁心の保磁力が大きくなっていることがわかる。また、絶縁不良が発生し、圧粉磁心の電気抵抗率が小さくなっている。一方、No.22〜24は、本発明で規定する要件を満足する例であり、圧粉磁心の抗析強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を低下させることができている。
【0097】
〔実験3〕
上記実験2において、振動ボールミルを用いて球状化処理を行なうときの処理時間を2時間とする代わりに10分間とする点以外は、上記実験2と同じ条件とした。即ち、篩aを通過した粉末について、上記実験1と同じ条件で篩い分けして篩上に残った粉末を回収した。各粉末の粒子径を下記表2に示す。なお、表3のNo.31は、篩aを通過したままの粉末であり、2回目の篩い分けは行なっていない。
【0098】
得られた粉末について、上記実験1と同じ手順で形状指数を算出した。粉末の比表面積の実測値Aと形状指数を下記表3に併せて示す。
【0099】
次に、上記実験1と同じ条件で絶縁処理および圧粉成形を行い、成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を測定した。測定結果および総合判定を下記表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3から次のように考察できる。No.31〜33に示すように、粉末の形状指数が本発明で規定する要件を満足しない場合は、保磁力が大きくなることが分かる。
【0102】
〔実験4〕
上記実験2において、振動ボールミルを用いて球状化処理を行なうときの処理時間を2時間とする代わりに10〜360分間とする点と、篩aを通過した粉末を目開き45μmの篩のみを用いて篩い分けして篩上に残った粉末を回収する点以外は、上記実験2と同じ条件とした。
【0103】
得られた粉末について、上記実験1と同じ手順で形状指数を算出した。粉末の比表面積の実測値Aと形状指数を下記表4に併せて示す。
【0104】
次に、上記実験1と同じ条件で絶縁処理および圧粉成形を行い、成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を測定した。測定結果および総合判定を下記表4に示す。
【0105】
【表4】

【0106】
表4から次のように考察できる。No.41は、球状化処理時間が短いため、粉末の形態を制御できておらず、粉末の形状指数が本発明で規定する範囲より大きくなっている。そのため成形体の保磁力が大きくなっている。また、絶縁不良が発生し、圧粉磁心の電気抵抗率が小さくなっている。No.44は、球状化処理時間が長いため、粉末の形態を制御できておらず、粉末の形状指数が本発明で規定する範囲より小さくなっている。そのため成形体の強度が小さくなっている。
【0107】
一方、No.42とNo.43は、本発明で規定する要件を満足する例であり、上記振動ボールミルを用い、振幅を8mm、振動回数を1200回として原料鉄基粉末を球状化する場合は、球状化処理時間を60〜120分とすれば、粉末の形状指数を2.2〜5の範囲に制御できることが分かる。
【0108】
〔実験5〕
上記実験2において、振動ボールミルの代わりに、フェザーミルを用いた点以外は、上記実験2と同じ条件とした。即ち、神戸製鋼所製のアトマイズ粉末「アトメル300NH」をフェザーミル(ホソカワミクロン製の「フェザミルMODEL、FM−1(装置名)」)を用いて球状化処理を行った。球状化処理は、φ1mmの孔が形成されたスクリーンを用い、スクリーンを通り抜けた粉末を再度フェザーミルに戻す工程を20回繰返した。球状化処理後、水素ガス雰囲気中で、800℃で2時間還元した。還元後、フェザーミルを用いて解砕したものを、日本粉末冶金工業会で規定される「金属粉のふるい分析試験方法」(JPMA P02−1992)に準拠して目開き425μmの篩aを用いて篩い分けし、篩aを通過した粉末を回収した。
【0109】
次に、篩aを通過した粉末について、上記実験1と同じ条件で篩い分けして篩上に残った粉末を回収した。各粉末の粒子径を下記表5に示す。なお、表5のNo.51は、篩aを通過したままの粉末であり、2回目の篩い分けは行なっていない。
【0110】
得られた粉末について、上記実験1と同じ手順で形状指数を算出した。粉末の比表面積の実測値Aと形状指数を下記表5に併せて示す。
【0111】
次に、上記実験1と同じ条件で絶縁処理および圧粉成形を行い、成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を測定した。測定結果および総合判定を下記表5に示す。
【0112】
【表5】

【0113】
表5から次のように考察できる。No.51は比較例であり、粉末の粒子径が本発明で規定する範囲から外れているため、粒子径が小さい鉄基粉末が混じっており、圧粉磁心の保磁力が大きくなっていることがわかる。また、絶縁不良が発生し、圧粉磁心の電気抵抗率が小さくなっている。一方、No.52〜54は、本発明で規定する要件を満足する例であり、圧粉磁心の抗析強度を低下させることなく、圧粉磁心の保磁力を低下させることができている。
【0114】
〔実験6〕
上記実験5において、フェザーミルを用いて球状化処理を行なうときの繰り返し回数を20回とする代わりに3〜40回とする点と、篩aを通過した粉末を目開き45μmの篩のみを用いて篩い分けして篩上に残った粉末を回収する点以外は、上記実験5と同じ条件とした。
【0115】
得られた粉末について、上記実験1と同じ手順で形状指数を算出した。粉末の比表面積の実測値Aと形状指数を下記表6に併せて示す。
【0116】
次に、上記実験1と同じ条件で絶縁処理および圧粉成形を行い、成形体の保磁力、抗析強度、電気抵抗を測定した。測定結果および総合判定を下記表6に示す。
【0117】
【表6】

【0118】
表6から次のように考察できる。No.61は、球状化処理の繰り返し回数が少ないため、粉末の形態を制御できておらず、粉末の形状指数が本発明で規定する範囲より大きくなっている。そのため成形体の保磁力が大きくなっている。また、絶縁不良が発生し、圧粉磁心の電気抵抗率が小さくなっている。No.64は、球状化処理の繰り返し回数が多いため、粉末の形態を制御できておらず、粉末の形状指数が本発明で規定する範囲より大きくなっている。そのため成形体の強度が小さくなっている。
【0119】
一方、No.62とNo.63は、本発明で規定する要件を満足する例であり、φ1mmの孔が形成されたスクリーンを備えた上記フェザーミルを用いて原料鉄基粉末を球状化する場合は、繰り返し回数を10〜20回とすれば、粉末の形状指数を2.2〜5の範囲に制御できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧粉磁心用の鉄基粉末であって、
下記で定義される形状指数が2.2〜5で、且つ、目開き425μmの篩aを通過するが、目開き45μmの篩bを通過しないことを特徴とする圧粉磁心用鉄基粉末。
[形状指数とは、表面に凹凸がなく、平滑な真球と仮定して算出した鉄基粉末の比表面積Bに対する該鉄基粉末の比表面積の実測値Aの比(A/B)を意味する。]
【請求項2】
前記鉄基粉末は、表面に絶縁皮膜が形成されているものである請求項1に記載の鉄基粉末。
【請求項3】
前記絶縁皮膜が、リン酸系化成皮膜である請求項2に記載の鉄基粉末。
【請求項4】
前記リン酸系化成皮膜の表面に、更にシリコーン樹脂皮膜が形成されているものである請求項3に記載の鉄基粉末。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の鉄基粉末を成形して得られた圧粉磁心。

【公開番号】特開2009−32860(P2009−32860A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194385(P2007−194385)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】