説明

圧縮機

【課題】圧縮要素におけるベーンの内側端部と回転軸との間の僅かな隙間から、圧縮中の冷媒ガスがリークするのを抑えると共に、ベーンと回転軸との摺動部の摩耗をなくすようにした圧縮機を提供する。
【解決手段】密閉容器1内に駆動要素2と圧縮要素3とが配設された圧縮機であり、圧縮要素3における支持部材7は回転軸5を回転自在に支持すると共に、ベーン11をコイルバネ18を介して上下動可能に装着する。回転軸5は下部に縮径部5aを形成し、その下端部はシリンダ8の圧縮空間22を回転するスワッシュ部材9(圧縮部材)に軸着する。回転軸5の縮径部5aに円筒状のローラ19を嵌合し、このローラ19が非回転で縮径部5aに沿って上下動するように前記ベーン11の内側端部に一体に固定する。回転軸5に対するベーン11の接触を回避することで、回転軸5とベーン11の内側端部との間の僅かな隙間から圧縮中の冷媒ガスがリークするのを抑えることができる。又、従来生じていたベーン11と回転軸5との摺動部の磨耗をなくすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒ガス等の流体を圧縮して吐出する密閉型の圧縮機であって、特に回転軸と共に同心軸回転してシリンダ内の冷媒ガス等を圧縮する圧縮部材に特徴を有する圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮機としては、従来種々の方式・形態のものが知られており、そのうち回転式圧縮機(ロータリ圧縮機)は密閉容器内に駆動要素と圧縮要素とが配置され、駆動要素における電動モータのステータに通電してロータを軸回転させ、このロータに軸着されている回転軸によって圧縮要素におけるシリンダ内でローラを偏心回転させ、このローラの外周面に常時当接しているベーンによりシリンダ内が低圧室と高圧室とに区分されており、低圧室に吸入した冷媒ガスガスを圧縮して密閉容器内に吐出すると共に、この密閉容器から高圧冷媒ガスを吐出させて冷媒回路に供給するように構成したものである(例えば、特許文献1)。
【0003】
上記従来の回転式圧縮機は、前記駆動要素のロータに軸着された回転軸の端部近傍に、当該回転軸に偏心する偏心円盤部を設け、この偏心円盤部の外周にローラを回転自在に配設している。そして、前記のように回転軸が軸回転すると、偏心円盤部の偏心回転に伴ってローラがシリンダの円形空間(圧縮空間)の内周面に沿って摺動回転し、シリンダ内の冷媒ガスを低圧室から高圧室に移動させながら圧縮するのである。
【0004】
このような構造の回転式圧縮機では、回転軸に偏心円盤部を形成しなければならず、且つこの偏心円盤部の外周にローラを回転自在に設ける必要があることから、加工性が低下し且つ部品が増えてコストアップの原因の一つになっている。又、偏心円盤部を介してローラが偏心回転するため、振動とトルク変動が大きくなる傾向がある。
【0005】
上記従来構造の回転圧縮機における加工性の低下、部品の増大及び振動とトルク変動の増大を防止するために、回転軸の偏心円盤部とローラとの組み合わせを用いず、回転軸に対して同心軸に圧縮部材を取り付け、この圧縮部材をシリンダの圧縮空間内を回転させることで吸入した冷媒ガスを圧縮できるようにした圧縮機が知られている(例えば、特許文献2)。
【0006】
回転軸と同心軸回転する圧縮部材を備えた上記圧縮機は、圧縮部材として傾斜板が用いられており、この傾斜板の両面側で冷媒ガスを圧縮するためシリンダの圧縮空間に吸入冷媒ガスを導く吸入路及び圧縮後の冷媒ガスを吐出するための吐出路を2つずつ設けなければならない。従って、圧縮部材の上下で高圧室と低圧室とが隣接する形となるため、高低圧差が大きくなり冷媒リークによる効率悪化が問題となる。これを防止するために、本出願人は圧縮部材を比較的肉厚な部材で形成し、片面側で冷媒ガスを圧縮するようにした圧縮機を開発して先に特許出願した(特願2004−003142号)。
【特許文献1】特開平6−307363号公報
【特許文献2】特願2004−003142号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先願に係る圧縮機は、概略説明すると駆動機構の回転軸に対してほぼ円柱状の圧縮部材を同心軸に設け、この圧縮部材の上面に傾斜面を形成することにより冷媒ガスを圧縮できるようにしたもので、駆動要素のステータに通電してロータを回転させ、このロータに軸着されている回転軸によって圧縮要素におけるシリンダ内で圧縮部材を同心回転させ、この圧縮部材の傾斜面に常時当接しているベーンを介してシリンダ内が低圧室と高圧室とに区分されており、低圧室に吸入した冷媒ガスを圧縮して密閉容器内に吐出すると共に、この密閉容器から高圧冷媒ガスを吐出させて冷媒回路に供給するように構成したものである。
【0008】
この先願に係る圧縮機において、圧縮要素は密閉容器に固定されて駆動要素のロータに固定された回転軸を貫通して軸支する支持部材と、この支持部材に固定されて圧縮空間を形成するシリンダと、回転軸に同心軸固定されてシリンダの圧縮空間内を回転し一面が回転軸を中心として一周すると最も高くなる上死点から最も低くなる下死点を経て上死点に戻る略正弦波形状の傾斜面に形成された圧縮部材と、前記支持部材に設けられたベーンスロットにバネを介して装着され先端が圧縮部材の傾斜面に常時当接して圧縮空間内を低圧室と高圧室とに区分するベーンとを備えている。
【0009】
前記支持部材のベーンスロットにバネを介して装着されているベーンは、略矩形板状であってその内側端部は回転軸に接触し、外側端部はシリンダの圧縮空間を形成している内周壁に接触し、下端部は圧縮部材の傾斜面に接触しながらベーンスロットに沿って上下動する。ベーンの内側端部と回転軸との接触部分にはオイルが供給されてシールされているが、そこに僅かな隙間が生じることがある。ベーンの内側端部と回転軸との間に僅かな隙間が生じると、シリンダの圧縮空間で圧縮されている冷媒ガスがリークし、圧縮性能を低下させる問題があった。又、ベーンの内側端部と回転軸との接触により摺動部の摩耗が増加する問題もある。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、圧縮要素におけるベーンの内側端部と回転軸との間の僅かな隙間から、圧縮中の冷媒ガスがリークするのを抑えると共に、ベーンと回転軸との摺動部の摩耗をなくすようにした圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1の圧縮機は、密閉容器内に駆動要素と、この駆動要素により駆動される圧縮要素とが配置され、前記圧縮要素は前記密閉容器に固定され前記駆動要素のロータに固定した回転軸を貫通させて軸支する支持部材と、この支持部材に固定されて圧縮空間を形成するシリンダと、前記回転軸に同心軸固定されて前記シリンダの圧縮空間内を回転し一面が前記回転軸を中心として一周すると最も高くなる上死点から最も低くなる下死点を経て上死点に戻る略正弦波形状の傾斜面に形成された圧縮部材と、前記支持部材に設けられたベーンスロットにバネを介して装着され先端が前記圧縮部材の傾斜面に常時当接して前記圧縮空間内を低圧室と高圧室とに区分するベーンとを備え、前記低圧室に吸入した流体を前記圧縮部材により圧縮して前記高圧室から吐出する圧縮機であって、前記回転軸の下部に非回転の円筒状のローラを回転軸に沿って上下動可能に嵌合し、このローラは前記ベーンの内側端部に一体に固定されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る請求項2の圧縮機は、請求項1において、前記回転軸の下部に縮径部を設けると共に、その縮径部の下端に取付部を設け、前記圧縮部材の上面中央部に前記支持部材の軸孔とほぼ同じ内径を有する凹陥部を設けると共に、その凹陥部の底面に受け部を設け、この受け部に前記取付部を係止させることで回転軸を圧縮部材に軸着し、前記回転軸の縮径部と前記圧縮部材の凹陥部との間に生じた隙間、及び回転軸の縮径部と前記支持部材の軸孔との間に生じた隙間を通って前記ローラが回転軸の縮径部に沿って上下動することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る請求項3の圧縮機は、請求項1又は請求項2において、前記ローラは内径が前記回転軸の外径又は縮径部より大きく形成され、回転軸又は縮径部に対して非接触で上下動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記請求項1の発明によれば、回転軸の下部に非回転の円筒状のローラを回転軸に沿って上下動可能に嵌合し、このローラは前記ベーンの内側端部に一体に固定されているので、ベーンの内側端部と回転軸との間にローラが介在し、ベーンの内側端部と回転軸との間及びベーンの内側端部とローラとの間に隙間が生じることがない。これにより、シリンダの圧縮空間で圧縮されている冷媒ガスがリークするのを抑えることができ、圧縮機の圧縮性能を向上させることができる。又、ベーンと回転軸との摺動部の摩耗をなくすことができる。
【0015】
上記請求項2の発明によれば、回転軸の下部に縮径部を設け、その縮径部の下端に設けた取付部を、圧縮部材の上面中央部に設けた支持部材の軸孔とほぼ同じ内径を有する凹陥部の受け部に係止することで回転軸を圧縮部材に容易に軸着することができ、且つ回転軸の縮径部と圧縮部材の凹陥部との間に生じた隙間、及び回転軸の縮径部と支持部材の軸孔との間に生じた隙間を通ってローラが回転軸の縮径部に沿って上下動することができる。これにより、回転軸に対するローラの組み付けを容易にすると共に、ローラが上下動するための隙間を容易に形成することができる。
【0016】
上記請求項3の発明によれば、ローラは内径が回転軸又は縮径部の外径より大きく形成され、回転軸又は縮径部に対して非接触で上下動するので摩耗を防止すると共に、ローラの上下動に対する抵抗を抑えることができる。これにより、ベーンの円滑且つ確実な動きを保証することができ、圧縮機の圧縮性能を更に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明に係る圧縮機の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る圧縮機の実施形態を示すもので、ベーンが押し上げられた状態での概略縦断面図である。図2は本発明に係る圧縮機の実施形態を示すもので、ベーンが押し下げられた状態での概略縦断面図である。図3は本発明に係る圧縮機の実施形態における概略横断面図である。図1において、1は鉄製の密閉容器であり、円筒状の胴部1aと、この胴部1aの上端に溶接されたキャップ部1bと、胴部1aの下端に溶接されたボトム部1cとから構成されている。この密閉容器1内の上方部には駆動要素2が、下方部には駆動要素2により駆動される圧縮要素3がそれぞれ配置されている。
【0018】
上記駆動要素2は、密閉容器1の胴部1aの内壁に固定されたステータ4と、このステータ4の内側に配設されたロータ6とから電動モータが構成されており、ロータ6の中心軸部には回転軸5の上端部が軸着されている。密閉容器1のキャップ部1bには複数の端子2aが取付部材2bを介して装着され、これらの端子2aとステータ4とが内部リード線(図略)で接続されると共に、端子2aには外部電源からの外部リード線(図略)が接続されてステータ4に通電するように構成されている。尚、駆動要素2のステータ4の外周部と密閉容器1の胴部1aとの間には、上下の空間部を連通する隙間10が複数箇所に形成されている。
【0019】
上記圧縮要素3は、密閉容器1の胴部1aの内壁に固定された支持部材7と、この支持部材7の下にボルト(図略)により取り付けられたシリンダ8と、このシリンダ8内に配置された圧縮部材9(本実施形態では、スワッシュ部材と称する)と、支持部材7に対して上下動可能に装着された略矩形板状のベーン11と、シリンダ8の切欠部8b(図3)の側面に取り付けられた吐出バルブ12等から構成されている。
【0020】
前記支持部材7は上部材Rと下部材Sとから構成され、上部材Rの上面中央部には主軸受け部となる突出部13が同心円柱状に形成され、下面中央部には同心円柱状に内方に窪ませて凹陥部15が形成されており、この凹陥部15に下部材Sの上端部が嵌着固定されている。又、上部材Rには突出部13の上面から凹陥部15の底面に貫通する上部軸孔7aが設けられ、下部材Sには上面から下面に貫通する下部軸孔7bが設けられ、この下部軸孔7bは上部軸孔7aと同軸心であって、内径が同一径に形成されて連通するようになっている。
【0021】
図2に示すように、上記上部材Rと下部材Sにはベーンスロット16と、バネ装着孔17とが上下方向に連通して設けられており、前記ベーン11がコイルバネ18を介して上下動可能に装着されている。コイルバネ18はバネ装着孔17内に挿入されており、下端はベーン11の上端部に固定され、上端はバネ装着孔17の上方のバネ受け部14に固定されてベーン11を常時下方に付勢している。尚、ベーンスロット16の内側端部は上部軸孔7a及び下部軸孔7bに開口している。又、ベーン11の内側端部には円筒状のローラ19(図4参照)が一体に固定されている。
【0022】
更に、支持部材7の上部材Rには、図1に示すように管接続口7cが設けられ、この管接続口7cに密閉容器1の胴部1aに取り付けられた吸込配管20の端部が接続固定されている。管接続口7cは上部材Rの内部に形成した通路7dに連通しており、この通路7dは下部材Sに貫設した吸入口7eに連通している。
【0023】
前記回転軸5は支持部材7の上部軸孔7a、下部軸孔7bに回転自在に挿通されており、下部に上部の外径より小径に形成された縮径部5aを有し、この縮径部5aに前記ローラ19が嵌合している。ローラ19の内径は縮径部5aの外径にほぼ等しく、ローラ19の外径は上部軸孔7a、下部軸孔7bの内径にほぼ等しく設定される。これにより、前記ベーン11が上下動すると、このベーン11と共にローラ19が回転軸5の縮径部5aに沿って上下動する。又、図4のように回転軸5の縮径部5aの下端には取付部5bが設けられ、この取付部5bを前記スワッシュ部材9に設けられた受け部9eに係止することで、回転軸5の下端部をスワッシュ部材9に軸着できるようにしてある。
【0024】
前記シリンダ8は、図1のように中央部に上下に貫通する空所が設けられ、この空所の上端部は前記支持部材7の下部材Sが嵌着して閉塞され、空所の下端部はシリンダ8の下面に固定したカバー板部材21により閉塞されることで圧縮空間22が構成されている。この圧縮空間22に前記下部材Sの吸入口7eが開口しており、前記吸込配管20から供給される冷媒ガスは、支持部材7の通路7dを通って吸入口7eから圧縮空間22内に吸い込まれる。
【0025】
図3に示すように、前記支持部材7の下部材Sの下端縁部には、下面側から外周面側に抜ける吐出口7fが設けられ、この吐出口7fの下面側は前記圧縮空間22に開口し、外周面側は上記シリンダ8の内部に設けられた通路8aに連通しており、この通路8aはシリンダ8の切欠部8bに開口している。そして、シリンダ8の切欠部8bの側面には前記吐出バルブ12が取り付けられ、この吐出バルブ12によって通路8aが開閉される。これにより、圧縮空間22内で圧縮された高圧冷媒ガスは、支持部材7における下部材Sの吐出口7fからシリンダ8の通路8aを通り、吐出バルブ12を開いて切欠部8b側に吐出される。
【0026】
又、図示は省略したが前記支持部材7の上部材Rには、シリンダ8の切欠部8bに対応させて切欠部が設けられ、この切欠部から密閉容器1内に通じる通孔が設けられている。これにより、上記シリンダ8の切欠部8bに吐出された高圧冷媒ガスは、上部材Rの切欠部及び通孔を介して密閉容器1内に吐出される。
【0027】
前記スワッシュ部材9は、前記シリンダ8の圧縮空間22内に回転自在に配置され、図5に示すように全体形状としては略円柱状を呈しており、一側の肉厚部9aとこれに対向する他側の肉薄部9bとを有し、円周方向に沿う上面9cは肉厚部9aにて高く、肉薄部9bにて低い連続傾斜面に形成されている。このスワッシュ部材9は、上面9cの上面中央部に前記支持部材7の上部軸孔7a、下部軸孔7bと同じ内径を有する凹陥部9dが設けられ、この凹陥部9dの底面に前記回転軸5の取付部5bを係止する受け部9eが設けられている。これにより、回転軸5の縮径部5aとスワッシュ部材9の凹陥部9dとの間に生じた隙間にローラ19が入り込むことができ、結果としてローラ19は回転軸5における縮径部5aの全長に亘って上下動できることになる。
【0028】
又、図1及び図2に示すようにスワッシュ部材9は、下面の中央部に設けた円筒状の突出部9fを前記カバー板部材21に設けた軸孔21aに回転自在に嵌挿してあり、これにより回転軸5の副軸受け部が構成される。更に、スワッシュ部材9の突出部9fの下端部にはオイルポンプ23が取り付けられている。
【0029】
図6(a)〜(c)はそれぞれスワッシュ部材9の回転角度を変えた側面図が示されている。スワッシュ部材9の上面9cは、回転軸5を中心として円周方向に一周すると最も高くなる上死点Pから最も低くなる下死点Qを経て上死点Pに戻る略正弦波形状を呈している。又、回転軸5を通る上面9cの縦断面は、360度何れの角度の切断面においても全て水平(図1及び図2参照)であり、この上面9cと前記支持部材7における下部材Sの下面との間が圧縮空間22となる。
【0030】
そして、スワッシュ部材9の上死点Pは、支持部材7における下部材Sの下面に微少なクリアランスを介して移動自在に対向している。このクリアランスは密閉容器1内に封入されているオイルによってシールされる。前記ベーン11は、図6のように下端が断面R状に形成されてスワッシュ部材9の上面9cに常時当接し、シリンダ8内の圧縮空間22を低圧室と高圧室とに区分している。前記コイルバネ18は、ベーン11を下向きに付勢することで、ベーン11の下端稜線部分がスワッシュ部材9の上面9cから離れないように保持し、且つベーン11が支持部材7のベーンスロット16に沿って円滑に上下動するのを制御する作用をなす。
【0031】
又、スワッシュ部材9の外周面は、密閉空間22を構成しているシリンダ8の内壁面との間に微少なクリアランスを形成し、これによりスワッシュ部材9は回転自在とされている。このスワッシュ部材9の外周面とシリンダ8の内壁面との間のクリアランスもオイルによってシールされる。冷媒ガスのリークを抑えるためである。尚、スワッシュ部材9の外周面には、シール部材を嵌着するための凹溝9gが円周方向に沿って設けられ、スワシュ部材9の下面側には、前記肉厚部9bに対応させて適宜の大きさの凹部9h(図1及び図2)が設けられている。この凹部9hは肉厚部9bの重量を減少させることで、スワッシュ部材9の回転トルクの変動を抑えるようにしてある。
【0032】
前記密閉容器1におけるキャップ部1bの上端には、図1及び図2に示すように吐出配管24が取り付けられている。前記のように支持部材7の通孔から密閉容器1内に吐出された高圧冷媒ガスは、前記駆動要素2におけるステータ4とロータ6との間の僅かな隙間を通って密閉容器1内の上部領域に流入し、吐出配管24から外部に吐出される。吐出配管24から吐出された高圧冷媒ガスは、図示を省略した冷媒回路に供給され、この冷媒回路を循環して低圧となった冷媒ガスは、前記吸込配管20から圧縮機に戻される。
【0033】
尚、密閉容器1の内底部はオイル溜め25とされ、このオイル溜め25内のオイルが前記オイルポンプ23により汲み上げられる。汲み上げられたオイルは、スワッシュ部材9及び回転軸5の同心軸回転による遠心力によって、回転軸5に形成されている軸線方向の通孔に沿って上昇し、回転軸5の要所に設けられているオイル孔(図略)から前記圧縮要素3のクリアランス等に供給される。又、密閉容器1内には例えば二酸化炭素、R134a、或はHC系の冷媒ガスが所定量封入される。
【0034】
以上のように構成された本発明に係る圧縮機の動作に付いて説明する。この圧縮機は、駆動要素2のステータ4のコイルに通電するとロータ6が回転する。このロータ6の回転は、回転軸5を介してスワッシュ部材9に伝達され、これによりスワッシュ部材9はシリンダ8の圧縮空間22内を回転する。ここで、スワッシュ部材9の上面9cの上死点Pがベーン11を境にして吐出側にあり、吸入側でシリンダ8、支持部材7、スワッシュ部材9及びベーン11で囲まれた空間(低圧室)内に吸込配管20、支持部材7の通路7d及び吸入口7eを介して冷媒ガスが吸い込まれているものとする。
【0035】
この状態からスワッシュ部材9が回転していくと、上死点Pがベーン11、吸入口7eを過ぎた段階からスワッシュ部材9の上面9cの傾斜により低圧室の体積は狭められていき、高圧室内の冷媒ガスは圧縮されていく。そして、上死点Pが支持部材7の吐出口7fを通過するまでの間、圧縮された高圧冷媒ガスは吐出口7fから吐出される。そして、上死点Pが支持部材7の吸入口7eを通過した後、吸入側で低圧室の体積は拡大していくので冷媒ガスが低圧室内に吸い込まれることになる。このような動作が繰り返し行われて、冷媒ガスが圧縮される。
【0036】
冷媒ガスの圧縮動作において、前記ベーン11はスワッシュ部材9の前記上面9cに密接しつつ上下方向に往復動される。図1はベーン11がスワッシュ部材9の前記上死点Pにより最大限押し上げられた状態を示しており、この時ベーン11は前記支持部材7のベーンスロット16内に入り込んで、下端の稜線部分がほぼ下部材Sの下面内に位置にし、ベーン11と共に上昇した前記ローラ19の上端は、ほぼ回転軸5における縮径部5aの最上位に位置している。図2はベーン11がスワッシュ部材9の下死点Qに対して前記コイルバネ18により最大限押し下げられた状態を示しており、この時ベーン11は支持部材7のベーンスロット16から突出して下端の稜線部分が下死点Qに密接し、ベーン11と共に下降したローラ19の下端部は、ほぼスワッシュ部材9の前記凹陥部9dの底面に位置している。
【0037】
前記支持部材7の上部軸孔7a、下部軸孔7bには、前記オイル溜め25から汲み上げたオイルが回転軸5のオイル孔(図略)から供給されるため、回転軸5と上部軸孔7aとの間の微少なクリアランス、縮径部5aとローラ19の内壁面との間の微少なクリアランス及びローラ19の外壁面と下部軸孔7bとの間の微小なクリアランスはオイルによってシールされる。又、ローラ19はベーン11の内側端部に一体に固定されているため、ローラ19とベーン11との間に隙間が生じることはない。これにより、前記シリンダ8の圧縮空間22内で圧縮される冷媒ガスのリークを抑えることができ、圧縮機の圧縮性能を向上させることが可能となる。又、従来生じていたベーン11と回転軸5との摺動部の摩耗をなくすことができる。
【0038】
上記ローラ19と縮径部5aとの関係において、ローラ19の内径を縮径部5aの外径より大きく形成するか、又は縮径部5aの外径をローラ19の内径より小さく形成すれば、ローラ19は縮径部5aに対して非接触となる。これにより、ベーン11と共に上下動するローラ19は、縮径部5aに対して非回転且つ非接触となるため、摩耗を防止すると共にローラ19の上下動に対する抵抗を抑えることができる。結果として、ベーン11の円滑且つ確実な動きを保証することができ、圧縮機の圧縮性能を更に向上させることが可能となる。
【0039】
前記シリンダ8の圧縮空間22内で圧縮された高圧冷媒ガスは、前記のように支持部材7における下部材Sの吐出口7fからシリンダ8の通路8aを通り、吐出バルブ12を開いてシリンダ8の切欠部8b側に吐出され、次いで支持部材7の切欠部及び通孔を通って密閉容器1内に吐出される。密閉容器1内に吐出された高圧冷媒ガスは、駆動要素2のステータ4とロータ6との僅かな隙間を通過し、密閉容器1内の上部領域に移動してオイルと分離され、吐出配管24から吐出して冷媒回路に供給される。一方、高圧冷媒ガスから分離されたオイルは、密閉容器1とステータ4との間に形成されている前記隙間10から流下し、密閉容器1における内底部のオイル溜め25に戻る。
【0040】
上記実施形態では、回転軸5の下部に縮径部5aを形成し、この縮径部5aに沿ってローラ19が上下動する構成のものを説明したが、本発明はこれに限定されることなく、縮径部を形成しない回転軸で実施することも可能である。その場合には、ローラの外径が大きくなるため、その外径に合わせて支持部材に設ける軸孔の内径を一部拡径変更し、且つスワッシュ部材に設ける凹陥部の内径も拡径変更して回転軸の下端部に沿ってローラが上下動できるように構成すればよい。又、上記実施形態では、支持部材7を上部材Rと下部材Sとから構成したが、上部材Rと下部材Sとに分割せずに一体の支持部材を用いて実施することも可能である。
【0041】
本発明に係る圧縮機は、小型で構造が簡単でありながら十分な圧縮機能を発揮することが可能である。前記のようにスワッシュ部材9は外周面に凹溝9gを設けてあり、この凹溝9gにシール部材を嵌着することで圧縮空間20の内壁面との間のシールを十分に確保することができる。これにより、更なる冷媒ガスリークの抑制が期待でき、圧縮効率の高い運転が可能となる。又、スワッシュ部材9の肉厚部9aはフライホイールの役割を果たすので、トルク変動も少なくなる。
【0042】
上記実施形態では、カバー板部材21は回転軸5の副軸受け部となる軸孔21aを有しているので、回転軸5の副軸受け用の支持部材を別途設ける必要がなくなり、部品点数の削減と更なる小型化が可能となる。
【0043】
尚、上記実施形態では、冷凍機の冷媒回路に使用されて冷媒ガスを圧縮する圧縮機について説明したが、これに限定されずに例えば空気を吸い込んで圧縮するエアーコンプレッサ等にも本発明を有効に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、特に冷媒ガスを圧縮して冷凍機等の冷媒回路に供給するための圧縮機として最適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る圧縮機の実施形態を示すもので、ベーンが押し上げられた状態での概略縦断面図である。
【図2】本発明に係る圧縮機の実施形態を示すもので、ベーンが押し下げられた状態での概略縦断面図である。
【図3】本発明に係る圧縮機の実施形態を示す概略横断面図である。
【図4】本発明に係る圧縮機の実施形態における要部の分解破断斜視図である。
【図5】本発明に係る圧縮機の実施形態におけるスワッシュ部材の斜視図である。
【図6】本発明に係る圧縮機の実施形態におけるスワッシュ部材の回転角度を変えた側面図であり、(a)は肉薄部側から見た側面図、(b)は肉薄部と肉厚部との中間位置から見た側面図、(c)は肉厚部側から見た側面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 密閉容器
2 駆動要素
3 圧縮要素
4 ステータ
5 回転軸
5a 縮径部
5b 取付部
6 ロータ
7 支持部材
7a 上部軸孔
7b 下部軸孔
8 シリンダ
9 スワッシュ部材(圧縮部材)
9d 凹陥部
9e 受け部
10 隙間
11 ベーン
12 吐出バルブ
13 突出部
14 バネ受け部
15 凹陥部
16 ベーンスロット
17 バネ装着孔
18 コイルバネ
19 ローラ
20 吸込配管
21 カバー板部材
22 圧縮空間
23 オイルポンプ
24 吐出配管
25 オイル溜め

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に駆動要素と、この駆動要素により駆動される圧縮要素とが配置され、前記圧縮要素は前記密閉容器に固定され前記駆動要素のロータに固定した回転軸を貫通させて軸支する支持部材と、この支持部材に固定されて圧縮空間を形成するシリンダと、前記回転軸に同心軸固定されて前記シリンダの圧縮空間内を回転し一面が前記回転軸を中心として一周すると最も高くなる上死点から最も低くなる下死点を経て上死点に戻る略正弦波形状の傾斜面に形成された圧縮部材と、前記支持部材に設けられたベーンスロットにバネを介して装着され先端が前記圧縮部材の傾斜面に常時当接して前記圧縮空間内を低圧室と高圧室とに区分するベーンとを備え、前記低圧室に吸入した流体を前記圧縮部材により圧縮して前記高圧室から吐出する圧縮機であって、前記回転軸の下部に非回転の円筒状のローラを回転軸に沿って上下動可能に嵌合し、このローラは前記ベーンの内側端部に一体に固定されていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記回転軸の下部に縮径部を設けると共に、その縮径部の下端に取付部を設け、前記圧縮部材の上面中央部に前記支持部材の軸孔とほぼ同じ内径を有する凹陥部を設けると共に、その凹陥部の底面に受け部を設け、この受け部に前記取付部を係止させることで回転軸を圧縮部材に軸着し、前記回転軸の縮径部と前記圧縮部材の凹陥部との間に生じた隙間、及び回転軸の縮径部と前記支持部材の軸孔との間に生じた隙間を通って前記ローラが回転軸の縮径部に沿って上下動することを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ローラは内径が前記回転軸又は縮径部の外径より大きく形成され、回転軸又は縮径部に対して非接触で上下動することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−125366(P2006−125366A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317966(P2004−317966)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】