説明

圧電セラミックス、その製造方法、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータ

【課題】 圧電特性および機械的強度が良好なチタン酸バリウム系圧電セラミックス及びそれを用いた圧電素子を提供する。
【解決手段】 チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒は円相当径が30μm以上300μm以下の結晶粒Aと、円相当径が0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bを含有し、前記結晶粒Aおよび前記結晶粒Bは各々が凝集して凝集体を形成し、かつ前記結晶粒Aの凝集体と、前記結晶粒Bの凝集体が海島構造を形成している圧電セラミックス及びそれを用いた圧電素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミックス、その製造方法、圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータに関する。特に、結晶粒の大きさを制御することで圧電性能と機械的強度が良好なチタン酸バリウム系圧電セラミックス、その製造方法、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子およびこれを利用した液体吐出ヘッドおよび超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、チタン酸ジルコニウム酸鉛(以下「PZT」という)のようなABO型ペロブスカイト酸化物が一般的である。
【0003】
しかしながら、PZTはAサイト元素として鉛を含有するために、環境に対する影響が問題視されている。このため、鉛を含有しないペロブスカイト型酸化物を用いた圧電セラミックスが求められている。
【0004】
非鉛ペロブスカイト型の圧電セラミックス材料として、チタン酸バリウムが知られている。特許文献1には、抵抗加熱2段焼結法を用いて作製したチタン酸バリウムが開示されている。ナノサイズのチタン酸バリウム粉末を前記2段焼結法によって焼結すると、最大粒径5μm以下の圧電特性に優れたセラミックスが得られることが記載されている。
【0005】
しかしながら、前記の2段焼結法において、第1焼結温度の保持時間は短時間である必要がある。そのため、焼結されるセラミックスの温度が不均一となり、高い圧電特性の再現性に欠けるという課題があった。例えば、実用的な大きさのチタン酸バリウムセラミックスを焼結しようとすると、1分間程度の保持時間ではセラミックス自体の温度が均一にならない。すなわち、焼結セラミックスの全ての箇所が理想的なナノ構造とならないので、PZTを代替するのに十分な圧電特性は得られていなかった。
【0006】
また、結晶粒径を大きくすることでチタン酸バリウムの圧電特性を向上させる方法がある。特許文献2には、カルシウムを添加したチタン酸バリウムセラミックスの平均粒径と圧電定数の関係が開示されている。すなわち、圧電セラミックスの平均粒径が、1.3μmから60.9μmまで大きくなるにしたがって、圧電定数(d31)も増加している。
【0007】
特許文献2では、仮焼粉末の湿式混合の時間を調整することでセラミックスの平均粒径を調整している。それ以外に、本焼成温度を高くすることでセラミックスの平均粒径を大きくしている。
【0008】
しかし、上記のような従来の方法でチタン酸バリウムセラミックスの平均粒径を大きくすると、結晶粒同士の接触面積が小さくなる。そのために、セラミックスの機械的強度が低下して、加工成型時や圧電素子の駆動時にセラミックス部分が割れやすくなるという問題があった。
【0009】
すなわち、チタン酸バリウム系圧電セラミックスには、良好な圧電特性と高い機械的強度の両立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−150247号公報
【特許文献2】特許第4039029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、圧電特性および機械的強度が良好な圧電セラミックスおよびその製法を提供するものである。
また、本発明は、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための圧電セラミックスは、チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒は円相当径が30μm以上300μm以下の結晶粒Aと、円相当径が0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bを含有し、前記結晶粒Aおよび前記結晶粒Bは各々が凝集して凝集体を形成し、かつ前記結晶粒Aの凝集体と、前記結晶粒Bの凝集体が海島構造を形成していることを特徴とする。
【0013】
前記課題を解決するための圧電素子は、第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電セラミックスが上記の圧電セラミックスであることを特徴とする。
【0014】
前記課題を解決するための液体吐出ヘッドは、上記の圧電素子を用いた液体吐出ヘッドである。
【0015】
前記課題を解決するための超音波モータは、上記の圧電素子を用いた超音波モータである。
【0016】
前記課題を解決するための圧電セラミックスの製造方法は、金属換算で0.05質量%以上2.0質量%以下のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子1と、金属換算で0.04質量%未満のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子2を少なくとも混合した混合物を焼結処理する工程を少なくとも有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電特性および機械的強度が良好な圧電セラミックスおよびその製法を提供することができる。
また、本発明は、前記圧電セラミックスを用いた圧電素子、液体吐出ヘッドおよび超音波モータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
【図3】本発明の実施例1の圧電セラミックスの表面の偏光顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例2の圧電セラミックスの表面の偏光顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例6の圧電セラミックスの表面の偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明に係る圧電セラミックスは、チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒は円相当径が30μm以上300μm以下の結晶粒Aと、円相当径が0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bを含有し、前記結晶粒Aおよび前記結晶粒Bは各々が凝集して凝集体を形成し、かつ前記結晶粒Aの凝集体と、前記結晶粒Bの凝集体が海島構造を形成していることを特徴とする。
【0020】
本発明における「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒の凝集体(バルク体とも言う)、いわゆる多結晶を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。ただし、粉末や粉末を分散させたスラリーは、この用語に含まない。
【0021】
本発明の圧電セラミックスは、チタン酸バリウムを主成分とする。前記チタン酸バリウムは、一般式BaTiOで表されるようなABO型のペロブスカイト結晶であることが好ましい。
【0022】
主成分とは、圧電特性を発現するための主体成分がチタン酸バリウムであるいう意味である。例えば、前記マンガンのような特性調整成分や製造上含まれてしまう不純成分が圧電セラミックスに含まれていても良い。
【0023】
具体的には、圧電セラミックスに含有されるチタン酸バリウムの含有量は、95質量%以上、好ましくは97質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上99.96質量%以下である。圧電セラミックスに含有されるチタン酸バリウム以外の成分は5質量%未満に留めることが望ましい。圧電特性に寄与しない成分が5質量%を超えると、圧電セラミックス全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0024】
チタン酸バリウムのバリウム(Ba)サイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換していても良い。Baサイトを置換できる二価金属の例としては、Ca、Srなどが挙げられる。Baサイトを置換できる擬似二価金属としては、(Bi0.5Na0.5)、(Bi0.50.5)、(Bi0.5Li0.5)、(La0.5Na0.5)、(La0.50.5)、(La0.5Li0.5)などが挙げられる。Baサイトを別の二価金属や擬似二価金属で一部置換する際の置換率は20atm%以下、好ましくは10atm%以下である。置換率が20atm%を超えると、チタン酸バリウムが固有する高い圧電特性が充分に得られないおそれがある。
【0025】
チタン酸バリウムのチタン(Ti)サイトを別の四価金属や擬似四価金属で一部置換していても良い。Tiサイトを置換できる四価金属の例としては、Zr、Hf、Si、Sn、Geなどが挙げられる。Tiサイトを置換できる擬似四価金属の例としては、二価金属と五価金属の組み合わせ(M2+1/35+2/3)や三価金属と五価金属の組み合わせ(M3+1/25+1/2)、三価金属と六価金属の組み合わせ(M3+2/36+1/3)などが挙げられる。
【0026】
本発明の圧電セラミックスは、チタン酸バリウム成分に対して0.04質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.17質量%以下のマンガンを含有する。マンガンは金属マンガンに限らず、マンガン成分として圧電セラミックスに含まれていれば良く、その含有の形態は問わない。例えば、マンガンはチタン酸バリウムに固溶していても良い。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でマンガン成分が圧電セラミックスに含まれていても良い。主成分がチタン酸バリウムである圧電セラミックスが前記範囲のマンガン成分を含有すると、絶縁性や機械品質係数(Qm)が向上する。マンガン成分の含有量が0.04質量%未満ではマンガンの添加による効果を得られず、0.20質量%をこえると圧電性に劣る六方晶のチタン酸バリウムが混合するので、圧電セラミックス全体の圧電性が不十分となるおそれがある。
【0027】
また、本発明の圧電セラミックスを構成する結晶粒は、チタン酸バリウムおよびマンガンを含有する。前記圧電セラミックスを構成する結晶粒は、円相当径が30μm以上300μm以下の結晶粒Aと、円相当径が0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bを含有し、前記結晶粒Aおよび前記結晶粒Bは各々が凝集して凝集体を形成し、かつ前記結晶粒Aの凝集体と、前記結晶粒Bの凝集体が海島構造を形成している。
【0028】
円相当径30μm以上300μm以下の結晶粒Aは、圧電セラミックスの圧電特性を向上させる。一方、円相当径0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bは凝集体を形成して、結晶粒Aの間隙に入りこんでパッキング性を高めることで圧電セラミックスの機械的強度を高める。
【0029】
仮に結晶粒Aの凝集体のみであると、結晶粒同士の接触面積が小さくなるために機械的強度が低下する。機械的強度が低下すると、圧電素子として使用したときに欠けや割れが発生しやすくなる。一方、結晶粒Bの凝集体のみであると、圧電性が不十分である。また、芯となる構造物が無いために機械的強度も若干不足する。
【0030】
本発明における「円相当径」とは、顕微鏡観察法において一般に言われる「投影面積円相当径」を表し、結晶粒の投影面積と同面積を有する真円の直径を表す。本発明では、個々の結晶粒をその円相当径によって結晶粒A、結晶粒B、結晶粒Cに分類している。本発明において、この円相当径の測定方法は特に制限されない。例えば圧電セラミックスの表面を偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡で撮影して得られる写真画像を画像処理して求めることができる。結晶粒Aの円相当径を求める際の拡大倍率の例は、5から50倍程度である。結晶粒Bの円相当径を求める際の拡大倍率の例は、500から5000倍程度である。倍率によって光学顕微鏡と電子顕微鏡を使い分けても構わない。セラミックスの表面ではなく研磨面や断面の画像から円相当径を求めても良い。
【0031】
本発明における「海島構造」とは、固体の相分離状態を表している。すなわち、固体の物質が大きく見て2種類からなっている場合、比較的連続的に見える方(海にたとえる)の中に不連続的に他の一方(島にたとえる)が混在している状態の構造を指す。特に本発明においては、結晶粒Aの凝集体と、結晶粒Bの凝集体が各々海と島のどちらかとなる。結晶粒Aの凝集体と、結晶粒Bの凝集体が分離せずに、海島構造で混合することで本発明の圧電セラミックスは圧電特性と機械的強度を得ることができる。
【0032】
また前記結晶粒Aと前記結晶粒Bがともに、中心非対称である同一の結晶構造を有するチタン酸バリウムを含有することが好ましい。この構成により、本発明の圧電セラミックスの圧電特性は大きくなる。一方、どちらかの結晶粒がチタン酸バリウムでないと、圧電特性は著しく低下する。加えて、いずれかの結晶粒が中心対称の結晶構造であると、その結晶粒は圧電性を発揮しない。
【0033】
中心非対称である結晶構造の例としては、正方晶、菱面体晶、単斜晶、斜方晶などが挙げられる。なお、中心対称である結晶構造の例は立方晶である。
【0034】
前記中心非対称の結晶構造のうち、もっとも好ましいのは正方晶である。前記結晶粒Aと前記結晶粒Bの結晶構造がともに正方晶構造であることで、本発明の圧電セラミックスの圧電特性は向上する。結晶粒Aと結晶粒Bの組成と結晶構造が殆ど同一である時、結晶の正方晶性を示すパラメータであるc/a比も殆ど同じ値となる。正方晶構造の圧電セラミックスにおいて好ましいc/a比は、1.005以上1.025以下である。
【0035】
前記結晶粒Bの凝集体が、前記海島構造の島部分を形成していることが好ましい。圧電性が大きく剛直な結晶粒Aが海部分として圧電セラミックスの骨材を形成し、形状自由性の高い結晶粒Bの凝集体が島部分となることで圧電セラミックス全体の圧電特性と機械的強度は向上する。
【0036】
前記圧電セラミックスは、前記結晶粒Aと前記結晶粒Bの円相当径の条件を満たさない結晶粒Cを含有していてもよい。例えば、円相当径が300μmを超える結晶粒、円相当径が0.5μmより小さな結晶粒、円相当径が3μmを超えて30μmより小さな結晶粒が該当する。これらを結晶粒Cとする。本発明の圧電セラミックスを任意の表面または断面で観測した際の前記結晶粒Cの占める割合は10面積%以下であることが好ましい。より好ましい結晶粒Cの占める割合は、5面積%以下である。結晶粒Cが10面積%を超えて存在すると、結晶粒Aの圧電性向上効果と結晶粒Bの機械的特性向上効果の双方を阻害するおそれがある。
【0037】
一方、本発明の圧電セラミックスを任意の表面または断面で観測した際の前記結晶粒Aの占める割合は40面積%以上86面積%以下、好ましくは51面積%以上85面積%以下、より好ましくは73面積%以上85面積%以下であることが望ましい。結晶粒Aの占める面積を前記範囲にすることで、本発明の圧電セラミックスの圧電特性は向上する。結晶粒Aの占める割合が40面積%より小さいと、大きな圧電定数を見込めない。逆に、結晶粒Aの占める割合が86面積%より大きいと、間隙が大きくなりすぎて結晶粒Bで埋め尽くせなくなる。その結果、圧電セラミックスの機械的特性が低下する。具体的には、圧電セラミックスが割れやすくなるという問題がある。
【0038】
前記圧電セラミックスの表面または断面で観測した際の結晶粒Bの凝集体の占める割合は14面積%以上60面積%以下、好ましくは15面積%以上49面積%以下であることが望ましい。結晶粒Bの凝集体の占める面積は結晶粒Bおよび結晶粒Bの粒界部分よりなる。具体的には、観測視野から前記結晶粒A、前記結晶粒C、欠損部の面積を除くことで割合を求められる。結晶粒Bの凝集体の占める割合が14面積%より小さいと、本発明の圧電セラミックスの機械的強度が不足するおそれがある。結晶粒Bの凝集体の占める割合が60面積%より大きいと、本発明の圧電セラミックスに大きな圧電定数を見込めない。
【0039】
本発明の圧電セラミックスを構成する結晶粒Aと結晶粒Bは、ともにチタン酸バリウムを主成分とし、該チタン酸バリウム成分に対して0.04質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.17質量%以下のマンガンを含有していることが好ましい。個々の結晶粒が前記範囲のマンガンを含有していることで、本発明の圧電セラミックスは機械品質係数(Qm)が更に大きくなり、脱分極による劣化も発生しにくくなる。
【0040】
次に、本発明の圧電セラミックスの製造方法について説明する。
本発明の圧電セラミックスの製造方法は、金属換算で0.05質量%以上2.0質量%以下のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子1と、金属換算で0.04質量%未満のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子2を少なくとも混合した混合物を焼結処理する工程を少なくとも有することによって圧電セラミックスを得ることを特徴とする。これ以降、二種類のチタン酸バリウム粒子を、チタン酸バリウム粒子1と、チタン酸バリウム粒子2と呼称して区別する。更に、チタン酸バリウム粒子1をBT−1粒子、チタン酸バリウム粒子2をBT−2粒子と略称する。
【0041】
BT−1粒子は、金属換算で0.05質量%以上2.0質量%以下のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子である。一方、BT−2粒子のマンガンの含有量は、金属換算で0.04質量%未満である。BT−2粒子は、マンガン成分を全く含有していなくても良い。
【0042】
BT−1粒子、BT−2粒子のいずれにおいても、マンガンが含有されている状態は問わない。例えば、マンガンはチタン酸バリウム粒子に固溶していても良い。あるいは、マンガンは金属単体、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でチタン酸バリウム粒子に付着していても良い。
【0043】
その他、BT−1粒子、BT−2粒子には、チタン酸バリウムとマンガン以外の特性調整成分や合成上の不純成分を含んでいても良い。不純成分としては、アルミニウム、カルシウム、ニオブ、鉄、鉛などの金属由来成分、ガラス成分および炭化水素系の有機成分などが挙げられる。不純成分の含有量は5質量%以下であることが好ましい。より好ましい不純成分の含有量は、1質量%以下である。
【0044】
BT−1粒子、BT−2粒子の一次粒子としての粒径は、特に制限されない。ただし、高密度で均質な圧電セラミックスを得るために、望ましい一次粒子の粒径は5nm以上300nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下である。一次粒子の粒径が小さすぎても大きすぎても、焼結後のセラミックスの密度が不足するおそれがある。ここで、一次粒子とは粉体を構成している粒子のうち、他と明確に分離できる最小単位の個体を表す。一次粒子が凝集して、より大きな二次粒子を形成していても良い。高分子バインダーを用いた造粒工程により、意図的に二次粒子を形成してもよい。
【0045】
BT−1粒子、BT−2粒子の製造方法は限定されない。
マンガンが付着したチタン酸バリウムの場合は、市販または合成済みのチタン酸バリウム粒子に後工程でマンガン成分を添加して付着させれば良い。マンガン成分の添加方法は限定されないが、マンガン成分はチタン酸バリウムの表面に均一に付着することが望ましい。その観点において、もっとも好ましい添加方法はスプレードライ法である。
【0046】
マンガンが固溶したチタン酸バリウムの場合は、マンガン成分をあらかじめ含ませたチタン酸バリウム前駆体を結晶化させてBT−1粒子またはBT−2粒子を製造すれば良い。例えば、バリウム化合物とチタン化合物を等モルで混合し、所望量のマンガン成分を添加して、1000℃程度で仮焼することでマンガン成分の固溶したチタン酸バリウム粒子を得られる。
【0047】
BT−1粒子およびBT−2粒子を製造する際に使用可能なバリウム化合物の例としては、炭酸バリウム、シュウ酸バリウム、酸化バリウム、アルミン酸バリウム、各種のバリウムアルコキシドが挙げられる。
BT−1粒子およびBT−2粒子を製造する際に使用可能なチタン化合物の例としては、酸化チタンがある。
【0048】
BT−1粒子およびBT−2粒子を製造する際に使用可能なマンガン成分の例としては、酸化マンガン、二酸化マンガン、酢酸マンガン等のマンガン化合物が挙げられる。
BT−1粒子とBT−2粒子は、マンガンの含有量に違いがある。チタン酸バリウムにマンガンを含有させると、焼結時の結晶成長核の生成速度が遅くなる。この傾向は、マンガンが粒子に固溶している時よりも表面に付着している時に、より顕著になる。
BT−1粒子とBT−2粒子を混合して、焼成すると、相互に結晶成長核の生成速度が異なるために、焼結途中のセラミックスの内部において結晶成長核の密な部分と疎な部分ができる。この核のバラツキが要因となって、焼結後のセラミックスでは核の疎な部分が大きな粒径、核の密な部分が小さな粒径の結晶粒となる。大きな粒径の結晶粒はセラミックスの圧電性向上に寄与し、小さな粒径の結晶粒は結晶粒同士の接触面積が増加してセラミックスの機械的強度に寄与する。
【0049】
前記BT−1粒子とBT−2粒子の混合工程において、BT−1粒子の割合は2質量%以上90質量%以下、好ましくは5質量%以上90質量%以下である。BT−1粒子の割合が2質量%より小さいと、焼結セラミックスの圧電特性が低下するおそれがある。一方、BT−1粒子の割合が90質量%より大きいと焼結セラミックスの機械的特性が低下するおそれがある。
【0050】
また、前記BT−1粒子とBT−2粒子の混合工程において、BT−2粒子の割合は10質量%以上98質量%以下、好ましくは10質量%以上95質量%以下である。
前記BT−1粒子とBT−2粒子の混合工程における、粒子の混合方法は特に制限されない。乳鉢を用いた固相状態での混合であっても良いし、ボールミルやビーズミルを用いた液相分散状態での混合であっても良い。
混合されたチタン酸バリウム粒子は、所望の形状に成型されてから焼結処理されてセラミックスとなる。
【0051】
本発明の製造方法におけるセラミックスの焼結方法は限定されない。焼結方法の例としては、電気炉による焼結、通電加熱法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法、熱間等方圧プレス(HIP)等が挙げられる。
【0052】
本発明の製造方法におけるセラミックスの焼結温度は限定されないが、チタン酸バリウムが充分に結晶成長する温度である事が望ましい。好ましい焼結温度は、1000℃以上1450℃以下、好ましくは1300℃以上1400℃以下である。上記温度範囲において焼結されたチタン酸バリウムセラミックスは、良好な圧電特性を示す。
【0053】
焼結処理により得られる圧電セラミックスの特性を再現良く安定させるためには、焼結温度を上記範囲内で一定にして1時間以上12時間以下程度の焼結処理を行なうと良い。
【0054】
以下に本発明の圧電セラミックスを用いた圧電素子について説明する。
本発明に係る圧電素子は、第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電セラミックスが上記の圧電セラミックスであることを特徴とする。
【0055】
第一の電極および第二の電極は、5nmから2000nm程度の層厚を有する導電層よりなる。その材料は特に限定されず、圧電素子に通常用いられているものであればよい。例えば、Ti、Pt、Ta、Ir、Sr、In、Sn、Au、Al、Fe、Cr、Ni、Pd、Agなどの金属およびこれらの酸化物を挙げることができる。第一の電極および第二の電極は、これらのうちの1種からなるものであっても、あるいはこれらの2種以上を積層してなるものであってもよい。第一の電極と第二の電極が、それぞれ異なる材料であっても良い。
【0056】
第一の電極と第二の電極の製造方法は限定されず、金属ペーストの焼き付けにより形成しても良いし、スパッタ、蒸着法などにより形成してもよい。また第一の電極と第二の電極とも所望の形状にパターニングして用いても良い。
【0057】
図1は、本発明の液体吐出ヘッドの構成の一実施態様を示す概略図である。本発明の圧電素子は、図1(b)における様に、第一の電極6、圧電セラミックス7、第二の電極8を少なくとも有する圧電素子である。
【0058】
本発明の液体吐出ヘッドは、前記圧電素子を有する液体吐出ヘッドである。図1(a)は液体吐出ヘッドの模式図である。11は吐出口、12は個別液室13と吐出口11をつなぐ連通孔、14は共通液室、15は振動板、10は圧電素子である。圧電素子10は、図示されているように矩形の形をしているが、この形状は矩形以外に楕円形、円形、平行四辺形等でも良い。その際、一般的に、圧電セラミックス7も個別液室の形状に沿った形状を採る。
【0059】
本発明の液体吐出ヘッドを構成する圧電素子10の近傍を更に詳細に図1(b)で説明する。図1(b)は、図1(a)の液体吐出ヘッドの幅方向での圧電素子の断面図である。圧電素子10の断面形状は矩形で表示されているが、台形や逆台形でもよい。また、図中では第1の電極6が下部電極16、第2の電極8が上部電極18に相当するが、本発明の圧電素子10を構成する第一の電極6および第二の電極8はそれぞれ下部電極16、上部電極18のどちらになっても良い。また振動板15と下部電極16の間にバッファ層19が存在しても良い。
【0060】
前記液体吐出ヘッドは、圧電セラミックスの伸縮により振動板が上下に変動し、個別液室の液体に圧力を加え、吐出口より、吐出させる。本発明の液体吐出ヘッドは、プリンター以外に電子デバイスの製造用にも用いる事が出来る。
【0061】
振動板の膜厚は、1.0μm以上15μm以下であり、好ましくは1.5μm以上8μm以下である。振動板の材料は限定されないが、好ましくはSiである。また、Si上のバッファ層、電極層も振動板の一部となっても良い。振動板のSiにBやPがドープされていても良い。
バッファ層の膜厚は、300nm以下であり、好ましくは200nm以下である。
吐出口の大きさとしては、5μmΦ以上40μmΦ以下である。吐出口の形状は、円形であるが、星型や角型状、三角形状でも良い。
【0062】
次に、本発明の圧電素子を用いた超音波モータについて説明する。
図2は、本発明の超音波モータの構成の一実施態様を示す概略図である。
本発明の圧電素子が単板からなる超音波モータを、図2(a)に示す。金属の弾性体リング21に本発明の圧電素子22を有機系の接着剤23(エポキシ系、シアノアクリレート系など)で接合した振動体24と、振動体24の摺動面に不図示の加圧バネにより加圧力を受けて接触しているローター25と、ローター25に一体的に設けられている出力軸により構成されている。
【0063】
本発明の圧電素子に2相(位相がπ/2異なる)の電源から交流電圧を印加すると振動体24に屈曲進行波が発生し、振動体24の摺動面上の各点は楕円運動をする。この振動体24の摺動面にローター25を圧接すると、ローター25は、振動体24から摩擦力を受け、振動体摺動面上の楕円運動の方向へ回転する。不図示の被駆動体は、カップリング等で出力軸と接合されており、ローター25の回転力を受けて駆動される。この種のモータは、圧電セラミックスに電圧を印加すると圧電横効果によって圧電素子が伸縮するため、金属などの弾性体に圧電素子を接合しておくと、弾性体が曲げられるという原理を利用したものである。
【0064】
さらに、図2(b)で圧電素子が積層構造である超音波モータを例示する。図2(b)で、61は金属材料からなる振動子で、筒形状の金属ブロック間に複数の本発明の圧電素子63を介装し、ボルトによりこれら金属ブロックを締結することで該複数の圧電素子63を挟持固定し、振動子を構成している。振動子61は、該圧電素子の駆動用圧電セラミックスに位相の異なる交流電圧を印加することにより、直交する2つの振動を励起し、その合成により振動子の先端部に駆動のための円振動を形成する。なお、振動子61の上部にはくびれた周溝が形成され、駆動のための振動の変位を大きくしている。
62はローターで、振動子61に加圧用のバネにより加圧接触し駆動のための摩擦力を得るようにしている。
【0065】
前述したように本発明の圧電素子は、液体吐出ヘッドや、超音波モータに好適に用いられる。液体吐出ヘッドとしては、チタン酸バリウムを主体とする非鉛系の圧電素子により、鉛系と同等以上のノズル密度、吐出力を有するヘッドを提供できる。また、超音波モータとしては、チタン酸バリウムを主体とする非鉛系の圧電素子により、鉛系と同等以上の駆動力及び耐久性のあるモータを提供できる。
本発明の圧電セラミックスは、液体吐出ヘッド、モータに加え、超音波振動子、圧電アクチュエータ、圧電センサ等のデバイスに用いることができる。
【実施例1】
【0066】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0067】
(マンガンを含有するチタン酸バリウム粒子の製造例1)
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)の表面にスプレードライヤー装置を用いて酢酸マンガン(II)を付着させた。ICP質量分析によると、この粉体におけるマンガンの含有量は0.80質量%であった。マンガンの含有量は、スプレードライヤー装置への原料仕込み比により制御可能であった。
この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子1に相当し、以降は原料粉1Aと略称する。
【0068】
(マンガンを含有するチタン酸バリウム粒子の製造例2)
酢酸マンガン(II)の仕込み比を変更した他は製造例1と同様にして、マンガンの含有量が0.03質量%であるチタン酸バリウム粒子を得た。この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子2に相当し、以降は原料粉2Bと略称する。
【0069】
(マンガンを含有するチタン酸バリウム粒子の製造例3)
マンガンの原料を酸化マンガン(II)に変更して、その仕込み比を調整した他は製造例1と同様にして、マンガンの含有量が0.18質量%であるチタン酸バリウム粒子を得た。この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子1に相当し、以降は原料粉1Cと略称する。
【0070】
(マンガンを含有しないチタン酸バリウム粒子の製造例4)
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)を、250℃の電気炉で3時間乾燥させた。この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子2に相当し、以降は原料粉2Dと略称する。
【0071】
(マンガンとカルシウムを含有するチタン酸バリウム粒子の製造例5)
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)と平均粒径300nmであるチタン酸カルシウム(堺化学社製、商品名CT−03)を9:1のモル比で混合して、ボールミルで24時間混合した。この混合粉の表面に製造例3と同様にして酸化マンガン(II)を付着させて、マンガンの含有量が0.18質量%であるチタン酸バリウムカルシウム粒子を得た。この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子1に相当し、以降は原料粉1Eと略称する。
【0072】
(カルシウムを含有し、マンガンを含有しないチタンバリウム粒子の製造例6)
平均粒径100nmであるチタン酸バリウム粒子(堺化学社製、商品名BT−01)と平均粒径300nmであるチタン酸カルシウム(堺化学社製、商品名CT−03)を9:1のモル比で混合して、ボールミルで24時間混合した。この混合粉を250℃の電気炉で3時間乾燥させた。この粉体は、本発明のチタン酸バリウム粒子2に相当し、以降は原料粉2Fと略称する。
【0073】
実施例1から7
表1に、実施例1から7の圧電セラミックスの製造条件を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に記載の質量比の通りに、二種類のチタン酸バリウム粒子を秤量して、乳鉢で混合した。次に、混合粉にポリビニルアルコールバインダを加えて造粒した。その造粒粉を金型内に充填し、圧縮することで成形体を作成した。得られた成形体を表1に記載の焼結温度で5時間または8時間焼成した。焼成雰囲気は空気中とした。昇温レートは10℃/分とし、焼結温度より10℃以上のオーバーシュートが起こらないように電気炉の熱電対を調整した。以上のようにして圧電セラミックスを製造した。
【0076】
表2に、得られた圧電セラミックスの組成、構造、特性についての分析データを示す。
【0077】
【表2】

【0078】
上記のようにして得られた焼結体を1mm厚の円盤状に研磨加工して、X線回折測定(XRD)、蛍光X線元素分析(XRF)、アルキメデス法による密度測定に用いた。
【0079】
表2に記載していないが、いずれの圧電セラミックスもチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。また、いずれの圧電セラミックスも、チタン酸バリウムの理論密度に対して95%以上の良好な密度値を示した。実施例7の圧電セラミックスは、(Ba0.9Ca0.1)TiOの理論密度に対して95%以上の良好な密度値を示した。
【0080】
圧電セラミックスの結晶粒状態の観察には、主に偏光顕微鏡を用いた。小さな結晶粒の粒径を特定する際には、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた。観察は、セラミックスの焼結後表面と研磨後表面の両方で実施したが、結晶粒のサイズや状態に大きな違いは無かった。表2には、代表して焼結後表面のデータを記載しているが、研磨により現れる断面であっても傾向は同様である。
上記の顕微鏡観察で撮影した偏光顕微鏡写真の一例を図3から図5に示す。
【0081】
図3は、本発明の実施例1の圧電セラミックスの表面を偏光顕微鏡で拡大して撮影した写真および前記写真を画像処理して得られた図である。
【0082】
図4は、本発明の実施例2の圧電セラミックスの表面を偏光顕微鏡で拡大して撮影した写真および前記写真を画像処理して得られた図である。
【0083】
図5は、本発明の実施例6の圧電セラミックスの表面を偏光顕微鏡で拡大して撮影した写真および前記写真を画像処理して得られた図である。
【0084】
これらの画像から、結晶粒A、結晶粒B、結晶粒Cの有無および存在状態を確認した。いずれの実施例の圧電セラミックスにおいても、結晶粒Aと結晶粒Bは存在しており、各々の凝集体が海島構造を形成していた。
【0085】
例えば、図3(a)に示される実施例1の圧電セラミックスの場合、明るい色で示される大きな結晶粒は概ね円相当径が30μm以上300μm以下であり結晶粒Aの要件を満たす。この結晶粒Aは互いに凝集しており、少なくとも写真の範囲内では連続した1つの構造体を形成している。これが、「海」の状態である。
【0086】
一方、図3(a)の「海」の間隙には色の濃い領域がある。この部分を拡大観察すると、いずれの結晶粒も円相当径が0.5μm以上3μm以下の範囲、すなわち結晶粒Bの要件を満たす相対的に小さな結晶粒であった。この結晶粒Bは互いに凝集して、結晶粒Aの凝集体の間隙を埋めるように複数の箇所に分かれて存在している。これが「島」の状態である。
【0087】
その他、結晶粒Cの要件を満たす結晶粒も少量ながら観測されたが、いずれの実施例においても円相当径が300μmを超える巨大な結晶粒と円相当径が0.5μmを下回る微細な結晶粒は見られなかった。
【0088】
図3(b)は、顕微鏡写真の図3(a)を画像処理して2値化したものである。結晶粒Aの要件を満たす部分を黒色、それ以外の部分を白色とした。他の写真も同様な処理をして解析することで、結晶粒Aの占める面積比率を計算した。結果は表2に示したとおりである。画像処理の閾値を変えることで結晶粒Cの面積比率も計算した。結晶粒Aと結晶粒Cの面積比率の残部は、結晶粒Bの凝集体、すなわち結晶粒Bおよび粒界の占める面積比率となる。
【0089】
結晶粒Aおよび結晶粒Bそれぞれの結晶構造の特定には、マイクロビーム薄膜材料評価X線回折装置(ブルカーエイエックスエス社製)を用いた。ビーム径を100μmとして、結晶粒Aの凝集体または結晶粒Bの凝集体のいずれかのみに照射させて2θ/θ測定を行なった。その結果、いずれの実施例の圧電セラミックスにおいても結晶粒Aはc/a=1.02程度の正方晶構造を有している事がわかった。結晶粒Bの結晶構造については表2に示したとおりである。
【0090】
結晶粒Aおよび結晶粒Bそれぞれのマンガン含有量の特定には、透過型電子顕微鏡装置(TEM)のEELS(electron energy loss spectroscopy)分析を用いた。結果は表2に示した通りである。
【0091】
また、圧電セラミックス全体におけるマンガン含有量の特定には、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製)の波長分散型XRF分析を用いた。その結果、チタン酸バリウム成分に対するマンガン成分の含有量は以下の通りであった。
実施例1 : 0.12質量%
実施例2 : 0.17質量%
実施例3 : 0.04質量%
実施例4 : 0.14質量%
実施例5 : 0.20質量%
実施例6 : 0.04質量%
実施例7 : 0.16質量%
【0092】
比較例1から4
表1に比較例1から4の圧電セラミックス製造条件を示す。
表1に記載の条件の他は、実施例1と同様にして比較用の圧電セラミックスを製造した。
ただし、比較例4の圧電セラミックスの焼結は、焼結温度を40℃以上オーバーシュートさせる抵抗加熱2段焼結法を用いた。具体的には1320℃で1分間保持した後、1150℃で15時間保持した。
【0093】
表2には、比較例の圧電セラミックスの組成、構造、特性についての分析データを示す。
分析方法は実施例1と同様にした。
比較用の圧電セラミックスに含まれるマンガン成分のチタン酸バリウム成分に対する含有量は以下の通りであった。
比較例1 : 0.16質量%
比較例2 : 0.18質量%
比較例3 : 0.18質量%
比較例4 : 0質量%(検出できず)
比較例の圧電セラミックスは、いずれもチタン酸バリウムを主体としたペロブスカイト型単一相の結晶であった。また、比較例2と比較例4の圧電セラミックスの密度は95%以上と良好であったが、比較例1の圧電セラミックは90%、比較例3の圧電セラミックは92%程度の密度であった。
【0094】
実施例1と同様にして、圧電セラミックスの結晶粒のサイズと存在状態を観測した。いずれの圧電セラミックスにおいても、結晶粒のサイズは均一であった。即ち、概ね1種類の結晶粒しか存在しないため、セラミックス中に結晶粒の海島構造があるとは言えない状態であった。
【0095】
比較例1、2、4の結晶粒は、c/a=1.02程度の正方晶構造を有していた。比較例3の結晶粒は、c/aがほぼ1に等しい立方晶構造を有していた。
【0096】
(圧電定数の評価)
前記の円盤状セラミックスの表裏面にDCスパッタリング法で金電極を形成して電極とした。この電極つきのセラミックスを切断加工して、12mm×3mm×1mmの短冊状セラミックスを作成した。
【0097】
短冊状セラミックスをシリコーンオイル中で分極処理した。オイル温度は100℃、分極電圧は直流1kV、電圧印加時間は15分間とした。
【0098】
分極処理済の短冊状セラミックスを用いて、圧電定数測定を行なった。具体的には、インピーダンス・アナライザ装置(アジレント社、商品名4294A)を用いて、セラミックス試料のインピーダンスの周波数依存性を測定した。そして、観測された共振周波数と反共振周波数より圧電定数d31(pm/V)を求めた。圧電定数d31は、負の値をとる定数で絶対値が大きいほど圧電性能が高いことを意味する。結果は表2に記載の通りである。
【0099】
(機械的強度の評価)
機械的強度は、3点曲げ試験を、引張・圧縮試験装置(オリエンテック社製、商品名テンシロンRTC−1250A)により評価した。測定には、12mm×3mm×1mmの短冊状セラミックスを用いた。電極は設けず、従って分極処理も施していない。該短冊状セラミックス試料が割断するまで応力を増加させた時の最大応力値を表2に記載した。最大応力値が40MPa以上であると、圧電素子として継続的に駆動させる十分な機械的強度である。
【0100】
表2により本実施例の圧電セラミックスと比較例のセラミックスを比較すると、本実施例の圧電セラミックスは圧電性および機械的強度ともに優れていることがわかる。
また、実施例のうちでも、実施例1の特性が最も優れていた。
【0101】
実施例8
実施例1と同じ圧電セラミックスを用いて、図1および図2に示される液体吐出ヘッド及び超音波モータを作成した。液体吐出ヘッドでは、入力した電気信号に追随したインクの吐出が確認された。超音波モータでは、交番電圧の印加に応じたモータの回転挙動が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の圧電セラミックスは、圧電特性および機械的強度が良好で、環境に対してもクリーンなので、液体吐出ヘッド、超音波モータや圧電素子等の圧電セラミックスを多く用いる機器に利用することができる。
【符号の説明】
【0103】
7 圧電セラミックス
10 圧電素子
11 吐出口
12 連通孔
13 個別液室
14 共通液室
15 振動板
16 下部電極
18 上部電極
19 バッファ層
21 弾性体リング
22 圧電素子
24 振動体
25 ローター
61 振動子
62 ローター
63 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有する圧電セラミックスであって、前記圧電セラミックスを構成する結晶粒は円相当径が30μm以上300μm以下の結晶粒Aと、円相当径が0.5μm以上3μm以下の結晶粒Bを含有し、前記結晶粒Aおよび前記結晶粒Bは各々が凝集して凝集体を形成し、かつ前記結晶粒Aの凝集体と、前記結晶粒Bの凝集体が海島構造を形成していることを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項2】
前記結晶粒Aと前記結晶粒Bがともに、中心非対称である同一の結晶構造を有するチタン酸バリウムを含有することを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックス。
【請求項3】
前記結晶粒Aと前記結晶粒Bの結晶構造がともに正方晶構造であることを特徴とする請求項2に記載の圧電セラミックス。
【請求項4】
前記結晶粒Bの凝集体が、前記海島構造の島部分を形成していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の圧電セラミックス。
【請求項5】
前記圧電セラミックスの表面または断面で観測した際の前記結晶粒Aの占める割合が40面積%以上86面積%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の圧電セラミックス。
【請求項6】
前記圧電セラミックスの表面または断面で観測した際の前記結晶粒Bの凝集体の占める割合が14面積%以上60面積%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの項に記載の圧電セラミックス。
【請求項7】
前記結晶粒Aと前記結晶粒Bが、チタン酸バリウムおよび該チタン酸バリウムに対して0.04質量%以上0.20質量%以下のマンガンを含有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかの項に記載の圧電セラミックス。
【請求項8】
前記圧電セラミックスは、前記結晶粒Aと前記結晶粒Bの円相当径の条件を満たさない結晶粒Cを含有し、前記圧電セラミックスの表面または断面で観測した際の前記結晶粒Cの占める割合が10面積%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかの項に記載の圧電セラミックス。
【請求項9】
第一の電極、圧電セラミックスおよび第二の電極を少なくとも有する圧電素子であって、前記圧電セラミックスが請求項1乃至8のいずれかに記載の圧電セラミックスであることを特徴とする圧電素子。
【請求項10】
請求項9に記載の圧電素子を用いた液体吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項9に記載の圧電素子を用いた超音波モータ。
【請求項12】
金属換算で0.05質量%以上2.0質量%以下のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子1と、金属換算で0.04質量%未満のマンガンを含有するチタン酸バリウム粒子2を少なくとも混合した混合物を焼結処理する工程を少なくとも有することを特徴とする圧電セラミックスの製造方法。
【請求項13】
前記チタン酸バリウム粒子1と前記チタン酸バリウム粒子2の混合物に含有されるチタン酸バリウム粒子1の含有量が、2質量%以上90質量%以下であることを特徴とする請求項12に記載の圧電セラミックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−132121(P2011−132121A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265754(P2010−265754)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】