説明

圧電セラミックス用焼結助剤および圧電セラミックス

【課題】 低温焼成を可能とし、かつ、駆動により温度が上昇した場合にも良好な圧電特性が得られる圧電セラミックスおよびその製造に用いられる圧電セラミックス用焼結助剤を提供する。
【解決手段】 圧電セラミックスは、PZT系圧電セラミックス材料に、少なくとも酸化鉛と酸化亜鉛を有し、残部が酸化ホウ素からなる焼結助剤を添加し、1000℃以下で焼成して得られ、その密度は7.6g/cm以上である。焼結助剤を構成する各金属酸化物の金属組成比は、モル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40であり、圧電セラミックス材料の重量に対する焼結助剤の重量の割合は1.5%以上5.0%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電セラミックス用焼結助剤および圧電セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電トランスや超音波モータ等、圧電材料を用いたデバイスが種々開発されている。例えば、圧電トランスは、駆動部に入力した電気エネルギーを機械的振動エネルギーに変換し、発電部において再び電気エネルギーに変換することによって、入力電圧の昇圧または降圧を行うデバイスである。この圧電トランスは、近時、広く表示デバイスとして用いられるようになった液晶表示装置のバックライト(冷陰極管)用のインバータとして用いられている。
【0003】
圧電トランスには、一般的にジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系の圧電セラミックスが用いられているが、PZT系セラミックスは高温で焼成すると、鉛成分が蒸発して組成がずれ、所望の特性を得られなくなることや、蒸発する鉛による環境汚染が問題となるために、できるだけ低温で焼成を行うことが望まれており、そのために種々の焼結助剤が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような焼結助剤の選択は、母材となるPZT系圧電セラミックスの組成に依存して、その組成と添加量を適切に選択する必要があるため、公知の焼結助剤がそのまま全てのPZT系圧電セラミックスに適用できるわけではない。つまり、その選択が不適切な場合には、焼結温度を下げることはできても、圧電特性が低下してしまうという問題を生ずる場合がある。また、圧電トランスは主に共振現象を利用して駆動するが、駆動中に圧電セラミックスが有する誘電損失に起因して発熱が起こり、これによって圧電特性が低下するという現象が起こるため、温度変化による特性低下の小さい材料が望まれており、そのような特性も焼結助剤の影響を大きく受ける。
【特許文献1】特許第3406611号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、低温焼成を可能とし、かつ、駆動により温度が上昇した場合にも良好な圧電特性が得られる圧電セラミックスを得るための圧電セラミックス用焼結助剤を提供することを目的とする。また本発明は、この焼結助剤を用いてなる圧電セラミックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、PZT系圧電セラミックスの製造に用いられる焼結助剤であって、
少なくとも酸化鉛と酸化亜鉛を有し、残部が酸化ホウ素からなり、
これらの金属酸化物の金属組成比が、モル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40であることを特徴とする圧電セラミックス用焼結助剤、が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、PZT系圧電セラミックス材料に、少なくとも酸化鉛と酸化亜鉛を有し、残部が酸化ホウ素からなる焼結助剤を添加し、1000℃以下で焼成して得られる圧電セラミックスであって、
前記焼結助剤を構成する各金属酸化物の金属組成比が、モル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40であり、
前記PZT系圧電セラミックス材料の重量に対する前記焼結助剤の重量の割合が、1.5%以上5.0%以下であり、
密度が7.6g/cm以上であることを特徴とする圧電セラミックス、が提供される。
【0008】
これら本発明は、特に、Pbサイトの一部がSrで置換され、ZrおよびTiサイトの一部がMnおよびNbで置換された組成を有するPZT系圧電セラミックスに好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、1000℃以下の焼成で密度が大きく、良好な圧電特性を示す圧電セラミックスを製造することができる。また、本発明に係る焼結助剤を用いてなる圧電セラミックスは、特に圧電トランスや超音波モータ(超音波振動子)等の共振駆動型の圧電素子に適した場合に、駆動によって温度が上昇した場合にも、良好な駆動特性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系圧電セラミックスの製造に用いられる焼結助剤(以下、単に「焼結助剤」という)は、少なくとも酸化鉛(PbまたはPbO)と酸化亜鉛(ZnO)を有し、残部が酸化ホウ素(B)からなる。図1にこれら3種の金属酸化物を端成分とする組成ダイヤグラムを示す。この図1は端成分である金属成分Pb,Zn,Bの比が1:1:1となるように描かれており、また、酸化鉛としてはPbが選択されているために“PbO1.33”と示されている。
【0011】
焼結助剤は、図1に示される領域Sの組成、つまり、金属酸化物の金属組成比がモル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40の組成を有する。この領域Sに属する組成を有する焼結助剤を用いてPZT系圧電セラミックスを製造(焼結)すると、後述する実施例にも示されるように、製造工程においては1000℃以下での焼成が可能となり、また、圧電トランス等に適用した場合に駆動によって温度が上昇しても良好な圧電特性が得られる。一方、この領域Sの範囲外の組成を有する焼結助剤では、1000℃以下の焼成で圧電特性の良好なPZT系圧電セラミックスを得ることが困難である。なお、PZT系圧電セラミックスの焼成温度は、所望する密度や圧電特性が得られる限りにおいて、低くすることが好ましい。
【0012】
PZT系圧電セラミックスとしては、所謂、ハード系材料が好適であり、例えば、Pbサイトの一部がSrで置換され、ZrおよびTiサイトの一部がMnおよびNbで置換された組成を有する、(PbSr)(ZrTiMnNb)Oは、ペロブスカイト型構造を形成することができる任意数値)等が挙げられる。好ましい組成としては、0.87<<1.06、0.01<<0.07、0.45<<0.55、0.45<<0.55、0.005<<0.020、0.01<<0.04(但し、=1)の関係を満たすものが挙げられる。
【0013】
PZT系圧電セラミックス材料(PZT系圧電セラミックスの母材を指す)の重量(‘E’とする)に対する焼結助剤(‘H’とする)の重量の割合(=H/E)は、1.5%以上5.0%以下とする。これは、H/E<1.5%の場合には、焼結助剤としての機能が十分に発揮されず、焼成温度を低くすることができない。一方、H/E>5%の場合には、粒界成分が多くなり、また粒成長が促進されるために、圧電特性が低下する等の問題が生じる。なお、この‘E’と‘H’の各値を、製造されたPZT系圧電セラミックスを分析して確認することは困難であるため、このH/Eの値は、後述する母材仮焼粉末の重量(後述する第2の製造方法においては、Mn成分の酸化物換算重量を母材仮焼粉末の重量に加える)と、助剤混合物の酸化物換算重量との重量比によって決定される。
【0014】
PZT系圧電セラミックスの密度は、その組成と焼結助剤の添加量によって多少変化するが、一般的に7.5〜7.9g/cmであるので、高い圧電特性と機械的特性を得るために、PZT系圧電セラミックスの密度は、7.6g/cm以上とする。このような密度を得るために、成形条件や焼成条件等は適宜、調整される。
【0015】
次に、PZT系圧電セラミックスの製造方法について、(PbSr)(ZrTiMnNb)Oを例に説明する。第1の方法は、母材である(PbSr)(ZrTiMnNb)Oと焼結助剤とを別々に調整し、その後に調整した各粉末を混合して成形、焼結する方法である。この方法は組成均一性を高める観点から、好ましい製造方法である。
【0016】
この第1の製造方法では、Pb,Zr,Ti,Sr,Nb,Mnの各金属元素を含む化合物、例えば、それぞれの金属元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合し、この混合物を850℃〜950℃で、酸素の存在下(大気雰囲気でもよいし、強制的な酸素供給により酸素リッチな雰囲気でもよい)で仮焼し、母材仮焼粉末を作製する。一方、Pb,Zn,B(但し、Bを含まない場合がある)の各金属元素を含む化合物、例えば、それぞれの金属元素を含む酸化物、炭酸塩、硝酸塩等の原料を混合し、助剤混合物を作製する。こうして作製された母材仮焼粉末と助剤混合物とを混合して成形し、1000℃以下で所定時間焼成する。
【0017】
ここで、母材仮焼粉末の製造工程では、仮焼温度を850℃未満とすると、PZT系圧電セラミックスの基本的結晶構造であるペロブスカイト相が生成し難くために好ましくない。仮焼粉末においては、そのXRDパターンから、90%以上のペロブスカイト相が生成していることが好ましく、これにより最終的に高い圧電特性を有するPZT系圧電セラミックスを得ることができるようになる。一方、950℃以上で仮焼すると、ペロブスカイト相は生成するが、仮焼原料にはPb成分が多量に含まれていることから仮焼中に粒子が成長する。これによって、最終的なPZT系圧電セラミックスの平均粒径が大きくなり、焼結密度や圧電特性の低下等が引き起こされるために、好ましくない。仮焼時間は、仮焼温度を考慮し、所定量のペロブスカイト相が生成するように設定すればよい。
【0018】
PZT系圧電セラミックスの第2の製造方法は、母材を構成するMn成分の原料を焼結助剤としても機能させる方法であり、焼成温度の低温化と、高い圧電特性を得る観点から好ましい製造方法である。この第2の製造方法では、Mnを除いた、Pb、Zr、Ti、Sr、Nbの各金属元素を含む化合物を混合し、この混合物を850℃〜950℃で、酸素の存在下で仮焼し、母材仮焼粉末を作製する。一方、Pb,Zn,B(但し、Bを含まない場合がある)の各金属元素を含む化合物を混合して助剤混合物を作製する。こうして作製した母材仮焼粉末と、助剤混合物と、Mn原料とを混合して成形し、1000℃以下で所定時間焼成する。Mn原料としては、その酸化物、炭酸塩、塩化物、硝酸塩が好適に用いられる。
【0019】
この第2の製造方法では、本焼成時に、添加したMnの一部が焼結助材として作用し、他部はペロブスカイト相に固溶するために、焼成密度と圧電体の圧電特性をともに向上させることができる。なお、Mn成分の原料が焼結助剤としても機能することを利用すれば、その他の製造方法として、Pb、Zr、Ti、Sr、Nbを含む母材仮焼粉末と、Mn,Pb,Zn,Bを含む助剤混合物をそれぞれ作製し、これらを混合、成形、焼成する方法によって、PZT系圧電セラミックスを製造する方法を用いることもできる。さらに、組成ずれが生じない条件において助剤混合物を仮焼し、母材仮焼粉末に混合してもよい。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例および比較例について説明する。
出発原料として、MnCO,Pb,SrCO,ZrO,TiO,Nbの各粉末を、組成が(Pb0.93Sr0.05)(Zr0.52Ti0.45Mn0.01Nb0.02)Oとなるように秤量し、これに所定量のイオン交換水を加えてボールミルにより粉砕混合し、その後110℃で乾燥した。得られた粉末を、大気中、900℃で3時間仮焼し、母材仮焼粉末を得た。
【0021】
一方、Pb、B、ZnOの各粉末を、図2に示す組成ダイヤグラム中の番号1〜20の各組成となるように秤量し、アルコールを加えてボールミルで粉砕混合した後、アルコールを蒸発させて、助剤混合物を作製した。
【0022】
こうして作製した母材仮焼粉末に各助剤混合物を、表1に示す割合で混合し、所定量のイオン交換水(または蒸留水)を加えてボールミルにより粉砕混合し、その後110℃で乾燥した。なお、表1に示す混合割合は、上述したPZT系圧電セラミックスの重量と焼結助剤の重量の割合(=H/E)に等しいと判断することができる。
【0023】
こうして作製した各粉末を、一軸プレス成形装置を用いて直径20mmφ、厚さ1.5mmに成形し、全ての成形体を大気中、1000℃で2時間焼成した。得られた焼結体は全て直径が約16mmであった。各焼結体を厚さが1mmとなるようにラッピング処理し、アルキメデス法により嵩密度を求めた。その後、図3に示すように、焼結体10の一面全体にアース電極11が、他面に入力電極12と出力電極13がそれぞれ形成されるように、銀ペーストを印刷し、焼成した。次いで、180℃、10分、2kV/mmの条件で、焼結体を厚み方向に分極させ、圧電トランスを作製した。
【0024】
この圧電トランスの出力特性は、圧電トランスの温度を測定しながら、出力電力を少しずつ増加させて、電力投入(周波数:共振周波数近傍(約150−170kHz)、負荷:整合負荷)をする前の温度(つまり、トランス駆動を始める前の温度)との温度差が20℃になった時点での出力を測定し、その出力が4.2W超のものを合格とした。この基準出力の値は、焼結助剤を用いずに母剤仮焼粉末のみを用いて作製した焼結体(焼成条件は、1100℃、2時間)で圧電トランスを作製した場合の出力値である。
【0025】
測定結果を表1に併記する。表1から、焼結助剤の組成が図1に示される領域Sの範囲内の試料では、焼結助剤を含まない試料番号23の圧電トランスよりも高い出力が得られている。これに対して、領域Sの範囲外の試料では、出力特性は試料番号23の圧電トランスと比較して、同等またはそれ以下であった。試料番号9aは焼結助剤の添加量が1.5%未満のものであり、1000℃の焼結では他の試料と比較して極端に密度が低かったために圧電トランスの作製を行わなかった。また、試料番号9eは焼結助剤の添加量が5%超のものであり、適量の焼結助剤を用いた試料番号9b〜9dと比較して、出力特性の大きな低下が認められた。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、圧電トランス、超音波モータ等の電気エネルギーを機械振動エネルギーに変換する圧電デバイスに用いられる圧電セラミックスに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】焼結助剤の組成を示すダイヤグラム。
【図2】表1に示す焼結助剤の各種組成を示すダイヤグラム。
【図3】圧電トランスの電極構成を示す平面図。
【符号の説明】
【0029】
10;円板型焼結体
11;アース電極
12;入力電極
13;出力電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PZT系圧電セラミックスの製造に用いられる焼結助剤であって、
少なくとも酸化鉛と酸化亜鉛を有し、残部が酸化ホウ素からなり、
これらの金属酸化物の金属組成比が、モル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40であることを特徴とする圧電セラミックス用焼結助剤。
【請求項2】
前記PZT系圧電セラミックスは、Pbサイトの一部がSrで置換され、ZrおよびTiサイトの一部がMnおよびNbで置換された組成を有することを特徴とする請求項1に記載の圧電セラミックス用焼結助剤。
【請求項3】
PZT系圧電セラミックス材料に、少なくとも酸化鉛と酸化亜鉛を有し、残部が酸化ホウ素からなる焼結助剤を添加し、1000℃以下で焼成して得られる圧電セラミックスであって、
前記焼結助剤を構成する各金属酸化物の金属組成比が、モル%で、10≦Pb≦40、20≦Zn≦90、0≦B≦40であり、
前記PZT系圧電セラミックス材料の重量に対する前記焼結助剤の重量の割合が、1.5%以上5.0%以下であり、
密度が7.6g/cm以上であることを特徴とする圧電セラミックス。
【請求項4】
Pbサイトの一部がSrで置換され、ZrおよびTiサイトの一部がMnおよびNbで置換された組成を有することを特徴とする請求項3に記載の圧電セラミックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160582(P2006−160582A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357589(P2004−357589)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】