説明

圧電デバイス

【課題】使用する環境温度に温度変化が生じても各種入力情報の変動を抑制することができる圧電デバイスを実現する。
【解決手段】音源IC1と、音源IC1からの音源を増幅する増幅器2と、増幅器2からの駆動信号に基づいて発音する圧電スピーカー3と、駆動信号に対し所定の制御処理を行うMPU4と、圧電スピーカー3の圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報が格納されたメモリ5と、雰囲気温度を検出する温度センサ6とを備えている。MPU4は補正手段4aを有し、温度センサ6の検出結果と前記各温度依存性情報とを照合し、照合結果に応じて音響信号となる駆動信号を温度補正する。圧電スピーカー3は、補正手段4aにより温度補正された音響信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスに関し、より詳しくは素体材料に高分子圧電材料を使用した圧電スピーカーシステムやタッチ式入力システム等の圧電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPDA(Personal Digital Assistance)等の携帯情報端末では薄型化・軽量化が要請されており、これらの携帯情報端末に搭載されるスピーカーとしては、狭いスペースに設置可能なことが望まれている。
【0003】
そして、高分子圧電材料は、フィルム状に薄層化できることから狭い設置スペースにも組み入れることが可能である。しかもフィルム状に薄層化した圧電フィルムは、可撓性を有し、かつ高い圧電性の発現が可能であることから、圧電フィルムの表面に電極を形成し、バイモルフ型又はユニモルフ型の圧電素子を得ることができる。したがって、高分子圧電材料は、携帯情報端末用のスピーカー素材としても期待されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、透明の可撓性圧電フィルムの表裏両面に透明電極を形成した圧電フィルム振動板からなり、前記圧電フィルム振動板を前記携帯情報端末機の筐体に支持することによって前記表示画面上に湾曲して設置した圧電フィルムスピーカが提案されている。
【0005】
この特許文献1では、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene difluoride;以下、「PVDF」という。)等の可撓性を有する圧電フィルムを使用し、これにより機器の薄型化・軽量化を満たすと共に、表示画面の拡大化や聴き取り性能の向上を図っている。
【0006】
また、近年、薄型ディスプレイ技術の発展に伴い、携帯情報端末、携帯ゲーム機、携帯音楽プレーヤー等の入力インターフェースとしてタッチパネル方式を採用したタッチ式入力システムの研究・開発も盛んに行われている。
【0007】
この種のタッチパネルとしては、従来より、表面弾性波技術を使用し、長方形のガラス基材の角辺に沿って反射アレイを形成した超音波方式が知られている。
【0008】
しかしながら、この超音波方式のタッチパネルでは、平面上の位置情報と押圧情報とを指やペン先で同時に入力しても、タッチ圧の分解能が低く、またタッチ感も悪く、さらに表面がガラス基材で形成されているため外部衝撃に弱いという欠点があった。
【0009】
これに対し高分子圧電材料は、上述したように高い圧電性と可撓性を有し、またフィルム状に薄層化できることから、タッチパネル用素材としても期待されている。
【0010】
そして、例えば、特許文献2には、平面状の感圧センサ上に可撓性を有するタッチパネルを互いに密着するように重ねて構成したタッチ入力システムが提案されている。
【0011】
この特許文献2では、ポリエステル等の可撓性を有する圧電フィルムを感圧センサ上に配し、圧電フィルムで位置情報を取得し、感圧センサで押圧情報を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−244792号公報
【特許文献2】特開平5−61592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、近年、浴室やキッチンに設置可能な小型液晶テレビが注目されている。また、透明性の高い圧電フィルムの両主面に透明電極を形成することにより透明スピーカーを実現することができる。そして、このような透明スピーカーを小型液晶テレビに搭載することにより、フレーム部が小さく通音孔を要しないテレビを実現することが可能となる。特に浴室やキッチンでは防水性能が求められるため、通音孔のないテレビは非常に好適である。
【0014】
しかしながら、特許文献1では、PVDF等の可撓性を有する高分子圧電材料を圧電フィルムに使用しているため、圧電スピーカーが設置される周囲の雰囲気温度によって音圧レベルや周波数特性等の音響特性が低下するという問題点があった。
【0015】
すなわち、同一の電圧を圧電スピーカーに供給しても圧電定数が温度変化により変動すると、該圧電定数の温度変化に伴って音量も変化するため、ユーザは所望の音量で聴取できなくなるおそれがある。また、圧電フィルムのヤング率が温度変化により変動して柔軟性に変化が生じると、圧電スピーカーから発せられる周波数帯域も変化する。
【0016】
特に、浴室やキッチンでは通常の環境と比較して高温雰囲気となることが多く、浴室を簡易的なサウナとして使用したり、キッチンのコンロ近傍にテレビを配した場合は、圧電スピーカーは短期的に70〜80℃の高温雰囲気に晒されるおそれがある。そして、このような高温雰囲気で圧電スピーカーを駆動させると、圧電定数の温度依存性に起因して音量が大きく変動し、また再生周波数帯域が変化することにより、音質が変化する。
【0017】
このように特許文献1では、圧電素子の圧電定数やヤング率が雰囲気温度によって変化し、音響特性の劣化を招くこととなり、このため特に高温雰囲気ではユーザは所望の音量、音質で聴くことができないという問題点があった。
【0018】
また、特許文献2のような従来のタッチ式入力システムでは、指やペンでタッチパネルを押圧すると、圧電フィルムが撓んで微小電圧を発生する。
【0019】
しかしながら、圧電定数やヤング率が温度によって変化すると、タッチパネルの特定位置を同一の押圧力で押圧しても、常温時と高温時とでは発生電圧や撓み量が異なるため、感知性能の低下を招き、このため位置情報や押圧情報を正確に検出できず、誤検知の原因になるという問題点があった。
【0020】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、使用する環境温度に温度変化が生じても各種入力情報の変動を抑制することができる圧電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために本発明に係る圧電デバイスは、高分子圧電材料からなる圧電フィルムの両主面に電極が形成された少なくとも1つ以上の圧電体を有する圧電素子と、所定の情報を前記圧電素子に入力する入力手段とを備えた圧電デバイスにおいて、前記圧電素子の電圧印加時の変位量及び応力負荷時の撓み量の各温度依存性情報が格納された記憶手段と、雰囲気温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果と前記温度依存性情報とに基づいて前記入力手段の入力情報を補正する補正手段とを有していることを特徴としている。
【0022】
また、本発明の圧電デバイスは、前記入力手段が、音源を蓄積した音源手段からなると共に、前記入力情報は(音楽・音声の)音響信号であり、前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果と前記各温度依存性情報とに基づいて前記音響信号を補正するのが好ましい。
【0023】
また、本発明の圧電デバイスは、前記入力手段が、前記圧電素子の特定位置を押圧する押圧手段からなると共に、前記入力情報は、位置情報及び押圧情報であり、前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果と前記各温度依存性情報とに基づいて前記位置情報及び前記押圧情報を補正するのが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る圧電デバイスは、高分子圧電材料からなる圧電フィルムの両主面に電極が形成された少なくとも1つ以上の圧電体を有する圧電素子と、所定の情報を前記圧電素子に入力する入力手段とを備えた圧電デバイスにおいて、 前記圧電素子の電圧印加時の変位量、応力負荷時の撓み量、及び静電容量の各温度依存性情報が格納された記憶手段と、前記圧電素子の静電容量を計測する計測手段と、前記各温度依存性情報と前記計測手段により計測された前記静電容量とに基づいて前記入力情報を補正する補正手段とを備えていることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の圧電デバイスは、前記入力手段が、音源手段からなると共に、前記入力情報は音響信号であり、前記補正手段は、前記計測手段の計測結果と前記静電容量の温度依存性情報とに基づいて前記圧電素子の温度を検知し、該検知された温度と前記圧電素子の電圧印加時の変位量及び応力負荷時の撓み量の各温度依存性情報に基づいて音響信号を補正するのが好ましい。
【0026】
また、本発明の圧電デバイスは、前記入力手段が、前記圧電素子の特定位置を押圧する押圧手段からなると共に、前記入力情報は、位置情報及び押圧情報であり、前記補正手段は、前記計測手段の計測結果と前記静電容量の温度依存性情報とに基づいて前記圧電素子の温度を検知し、該検知された温度と前記圧電素子の電圧印加時の変位量及び応力負荷時の撓み量の各温度依存性情報とに基づいて前記位置情報及び前記押圧情報を補正するのが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の圧電デバイスは、前記計測手段の実行モードと前記計測手段の非実行モードとに切り替える切替手段を有するのも好ましい。
【0028】
また、本発明の圧電デバイスは、前記圧電素子が、圧電スピーカーであるのが好ましい。
【0029】
さらに、本発明の圧電デバイスは、前記圧電素子が、前記圧電フィルムの両主面に形成された電極のうち、少なくとも一方の主面に形成された電極が複数領域に分割されているのが好ましい。
【0030】
また、本発明の圧電デバイスは、前記圧電素子が、タッチパネルであるのが好ましい。
【0031】
また、本発明の圧電デバイスは、前記高分子圧電材料が、ポリ乳酸であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の圧電デバイスによれば、高分子圧電材料からなる圧電フィルムの両主面に電極が形成された少なくとも1つ以上の圧電体を有する圧電素子と、所定の情報を前記圧電素子に入力する入力手段とを備えた圧電デバイスにおいて、前記圧電素子の電圧印加時の変位量及び応力負荷時の撓み量の各温度依存性情報が格納された記憶手段と、雰囲気温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果と前記温度依存性情報とに基づいて前記入力手段の入力情報を補正する補正手段とを有しているので、使用する環境温度は変化しても各種入力情報の変動を抑制することができる。
【0033】
例えば、圧電デバイスを圧電スピーカーシステムに適用した場合は、電圧印加時の変位量が温度変化に起因して変動しても、音量を温度補正することができ、これにより温度変化が生じても音量が過度に変動するのを抑制できる。また応力負荷時の撓み量が温度変化に起因して変動しても、周波数特性を温度補正することができ、これにより温度上昇に伴って生じる音響特性の劣化を極力抑制することが可能となる。
【0034】
そしてこれにより、高温雰囲気下でもユーザが設定した所望の音量でもって所望の音質の音を聴くことができ、使用する環境温度が変化しても音の変動が抑制された小型・高品質の圧電スピーカーシステムを実現することが可能となる。
【0035】
また、圧電デバイスをタッチ式入力システムに適用した場合は、タッチパネルに入力される位置情報及び押圧情報を温度補正するので、環境温度の変化により押圧時の発生電圧や撓み量が変化しても、所望の感知性能を得ることができ、誤検知するのを極力回避することが可能となる。
【0036】
すなわち、使用する環境温度が変動しても正確な位置情報及び押圧情報を得ることができ、信頼性の向上した高性能のタッチ式入力システムを実現できる。
【0037】
また、前記圧電素子の電圧印加時の変位量、応力負荷時の撓み量、及び静電容量の各温度依存性情報が格納された記憶手段と、前記圧電素子の静電容量を計測する計測手段と、前記各温度依存性情報と前記計測手段により計測された前記静電容量とに基づいて前記入力情報を補正する補正手段とを備えている場合には、温度検出手段を設けなくても、圧電スピーカーの音やタッチパネルの位置情報及び押圧情報を低コストでもって温度補正することができ、高性能・高品質で信頼性の優れた各種圧電デバイスを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る圧電デバイスの一実施の形態(第1の実施の形態)としての圧電スピーカーシステムの一例を示すシステム構成図である。
【図2】圧電素子としての圧電スピーカーを模式的に示した断面図である。
【図3】圧電フィルムの圧電現象の一例を示す図である。
【図4】圧電フィルムの圧電現象の他の例を示す図である。
【図5】圧電スピーカーに電圧が印加された場合を模式的に示す図である。
【図6】圧電定数d14の温度依存性の一例を示す図である。
【図7】ヤング率Eの温度依存性の一例を示す図である。
【図8】本発明に係る圧電デバイスの第2の実施の形態としてのタッチ式入力システムの一例を示すシステム構成図である。
【図9】圧電素子としてのタッチパネルの平面図である。
【図10】前記タッチパネルの底面図である。
【図11】前記タッチパネルを押圧したときの状態を示す図である。
【図12】本発明に係る圧電デバイスの第3の実施の形態としての圧電スピーカーシステムの他の例を示すシステム構成図である。
【図13】本発明に係る圧電デバイスの第4の実施の形態としてのタッチ式入力システムの他の例を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0040】
図1は、圧電デバイスの一実施の形態(第1の実施の形態)としての圧電スピーカーシステムの一例を示すシステム構成図である。
【0041】
この圧電スピーカーシステムは、音源IC(入力手段)1と、音源IC1から入力された音源を増幅する増幅器2と、増幅器2から供給された駆動信号(発音情報)に基づいて発音する圧電スピーカー(圧電素子)3と、音源IC1及び増幅器2を制御するマイクロプロセッサーユニット(以下、「MPU」という。)4と、圧電スピーカー3に固有の温度依存性情報や演算プログラム等が格納されたメモリ5(記憶手段)と、システム駆動時の雰囲気温度を検出する温度センサ6(温度検出手段)とを備えている。
【0042】
音源IC1は、供給される音源信号をスピーカー駆動用の音響信号に変換する。音源信号は、MPU4に内蔵されたメモリ等に蓄積されている場合、インターネットなどの電気通信回線網を介して直接配信される場合、デジタル放送に代表されるような放送電波をチューナーで受信して復調される場合等がある。尚、上記音源信号は、必ずしもデジタル信号である必要はなく、アナログ信号でも良い。
【0043】
図2は圧電スピーカー3を模式的に示した断面図である。
【0044】
通常、最表面は、保護フィルム等の保護材で覆われているが、この図2では保護材を省略している。
【0045】
この圧電スピーカー3は、2枚の圧電体(第1の圧電体7a、第2の圧電体7b)が貼着されたバイモルフ構造を有している。すなわち、第1の圧電体7aは、圧電フィルム8の両主面に電極9a、9bが形成され、第2の圧電体7bは、圧電フィルム10の両主面に電極11a、11bが形成され、これら第1の圧電体7aと第2の圧電体7bとが接着層12を介して接合されている。
【0046】
尚、図2は圧電スピーカ3の一例を示したものであって、これに限定されるものではなく、PETフィルム等と第1の圧電体7aのみを組み合わせたユニモルフ構造としてもよい。また第1の圧電体7aと第2の圧電体7bの中間層にPETフィルム等を介在させたシム入りバイモルフ構造としてもよい。
【0047】
圧電フィルム8、10は高分子圧電材料からなり、例えば、厚みが30〜150μmのフィルム状に形成されている。
【0048】
高分子圧電材料としては、可撓性及び高圧電性を有し、所望のフィルム状に加工できるものであれば、特に限定されるものではないが、以下の理由によりポリ乳酸(Poly-Lactic Acid;以下、「PLA」という。)を主成分とする高分子圧電材料を使用するのが特に好ましい。
【0049】
すなわち、ポリ乳酸は乳酸の縮合重合体である。乳酸モノマーは不斉炭素を有するため、L体、D体と呼ばれる鏡像異性体が存在する。L体が重合したものをL型ポリ乳酸(Poly-L-Lactic Acid;以下、「PLLA」という。) 、D体が重合したものをD型ポリ乳酸(Po1y-D-Lactic Acid;以下、「PDLA」という。)といい、PLLAは左巻きの螺旋構造、PDLAは右巻きの螺旋構造を有する。PLAは、一般に、トウモロコシなどから採取される澱粉に乳酸菌を作用させ、これによる発酵過程を経て生成される。この過程においては、PLLAのみがほぼ生成されるため、通常、市場に流通しているのはPLLAであり、不純物として微量のPDLAを含んでいる。
【0050】
また、PLLAを一軸延伸させることにより、PLLAの主鎖を延伸方向に配向させることができる。一軸延伸後、結晶化度を改善させるために熱処理を経たフィルムは、高分子としては非常に高い圧電性を示すことが知られている。しかも、PLLAは、PVDF等の他の強誘電性の圧電ポリマーとは異なり、主鎖の螺旋構造に起因して圧電性を発現するため、分極処理を行う必要がなく、したがって脱分極作用による圧電定数の経時劣化が生じない。さらに、PLLAは、アクリルに匹敵するほどの透明度及び強度を有する。
【0051】
以上の理由から、PLLAを主成分とする高分子圧電材料を使用するのが、所望の透明圧電スピーカーを実現する観点から特に好ましい。
【0052】
尚、電極9a、9b、11a、11bに使用される電極材料は、特に限定されるものではないが、透明圧電スピーカーを実現する観点からは、酸化インジウムすず(ITO)、酸化亜鉛、酸化インジウム−酸化亜鉛等の透明な電極材料を使用するのが好ましい。また、ポリチオフェンを主成分とする有機電極を用いてもよい。電極の形成方法についても特に限定されるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、めっき法、塗布、箔の貼り付け等、任意の方法を使用することができる。
【0053】
尚、接着層12は、ラミネートフィルムなどに用いられる粘着剤等の透明材料を使用することができる。
【0054】
図3及び図4は、圧電フィルム8、10をPLLAで形成した場合の圧電現象を示す図である。
【0055】
図中、圧電フィルムの主面に対し法線方向(紙面に垂直方向)を第1の軸とし、XY平面で矢印A方向と垂直な方向を第2の軸とし、さらに矢印A方向を第3の軸とし、矢印A方向に延伸処理している。
【0056】
第1の軸方向に上方から下方に電界を印加すると、圧電フィルム8は、図3に示すように、PLLAの螺旋構造の影響により対称性が崩れ、その結果回転方向での歪みが生じ、圧電定数d14を有するずり圧電性が発現する。すなわち、PLLAの点群はDに属するので、d14、d25、及びd36のテンソル成分が存在するが、延伸された圧電フィルムでは、d25=−d14、d36=0となる。したがって、第1の対角線13aと略同一方向に伸長する一方、第2の対角線13bと略同一方向に縮小し、これにより圧電フィルム8は、図3に示すように歪む。
【0057】
一方、第1の軸方向に下方から上方に電界を印加すると、圧電フィルム10は、図4に示すように、第1の対角線13cと略同一方向に縮小する一方、第2の対角線13dと略同一方向に伸長し、これにより圧電フィルム10は、図4のように歪む。
【0058】
したがって、第1の圧電体7aと第2の圧電体7bとを接着剤12を介して貼着し、第1の圧電体7aと第2の圧電体7bとが逆方向に変形するように、電極9a、9b、11a、11bに電圧を印加すると、圧電スピーカー3は、図5の仮想線から実線に示すように歪み、電圧を交番させると振動する。
【0059】
しかも、圧電フィルム8、10、電極9a、9b、11a、11b、及び接着層12をいずれも透明材料で形成することにより、透明圧電スピーカーを実現することができる。また、このような透明圧電スピーカーを使用することにより、通音孔がなく防水性能に優れた薄型の小型液晶テレビを得ることが可能となる。
【0060】
さらに、本実施の形態では、圧電スピーカー3の電圧印加時の変位量の指標となる圧電定数d14及び応力負荷時の撓み量の指標となるヤング率Eの各温度依存性情報がメモリ5に記憶されている。そして、後述するように、圧電フィルム8、10の圧電定数d14やヤング率Eが、温度変化に起因して変化した場合であっても、音量や周波数特性等の音響特性が極力変動しないようにMPU4で制御している。
【0061】
ところで、圧電フィルム8、10の圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性は、原料となる圧電高分子材料の結晶化度、分子量、純度、配向処理の方法等により異なる。すなわち、圧電フィルム8、10の圧電定数d14及びヤング率Eは、製造方法・製造条件により異なる温度依存性を有する。
【0062】
圧電スピーカーなどの圧電デバイスでは、圧電定数は高ければ高いほど好ましい。
【0063】
例えば、本発明者らの研究結果によれば、PLLAを主成分として使用する場合、PDLAをほとんど含まずPLLAの純度が高いこと、分子量が高いこと、配向度が高いこと、結晶化度が高いこと、ラメラ結晶のサイズが大きいこと等が圧電定数を高めるための主要因であることが分かっている。したがって、最終製品の形態や品質・特性によって圧電フィルム8、10の圧電定数は異なり、また圧電フィルム8、10のヤング率も変化する。ただし、圧電定数を高くするために、これらの方策を全て実行すると高コスト化を招くおそれがあることから、実用化に際しては、コスト面を考慮しつつ特性に支障が生じない程度で上記方策を実行し、圧電定数を高めるようにするのが望ましい。
【0064】
そして、同一の高分子圧電材料であっても、デフォルトとなる常温での圧電定数d14が異なると、圧電定数の温度依存性も異なる。
【0065】
図6は、PLLAの圧電定数d14の温度依存性の一例を示す図であり、横軸が温度T(℃)、縦軸が圧電定数d14(pC/N)である。図中、試料番号1〜5は、異なる製造方法・製造条件下で製造されている。
【0066】
この図6から明らかなように、試料番号1のように温度T1(例えば、20℃)での圧電定数d14が高い場合は、圧電定数d14は温度上昇と共に緩やかに上昇するが、試料番号5のように温度T1における圧電定数d14が低い場合は、圧電定数d14はガラス転移点T2(約70℃)の近傍で急激に上昇する。
【0067】
このように圧電フィルム8、10の圧電定数d14は、同一の高分子圧電材料を使用した場合であっても、製造方法や製造条件により異なり、固有の温度依存性を有する。
【0068】
一般に、圧電フィルム8、10は、一定の電圧で駆動する場合、圧電定数d14が大きいほど変位量は大きくなる。すなわち、圧電フィルム8、10を用いて作製された圧電スピーカーは、一定の電圧で駆動する場合、圧電定数d14が大きいほど音圧は大きくなる。したがって、圧電定数d14が温度に依存して変化すれば、圧電スピーカーに印加される駆動電圧が一定であっても音圧が温度に依存して変化することになる。
【0069】
図7は、PLLAのヤング率Eの温度依存性の一例を示す図であり、横軸が温度T(℃)、縦軸がヤング率E(N/m)である。図中、試料番号1〜5は、図6の試料番号1〜5と同一の製造方法・製造条件で製造されている。
【0070】
この図7から明らかなように、試料番号3のように温度T3(例えば、20℃)でのヤング率Eが低い場合は、ヤング率Eは緩やかに低下するが、試料番号5のように温度T3でのヤング率Eが高い場合は、ヤング率Eは比較的低い温度T4(例えば、40℃)で急激に低下する。
【0071】
このように圧電フィルム8、10のヤング率Eも、圧電定数d14と同様、製造方法や製造条件により特有の温度依存性を有する。
【0072】
一般に、圧電フィルム8、10のヤング率Eが高い場合には、圧電スピーカーは硬質となり、再生周波数帯域がやや高音側にシフトしたような音質となりがちである。一方、圧電フィルム8、10のヤング率Eが低い場合には、圧電スピーカーは軟質となり、再生周波数帯域がやや低音側にシフトしたような音質となりがちである。このように、温度変化によって音質も変化することになる。
【0073】
さらに、図6及び図7から明らかなように、圧電定数d14及びヤング率Eは温度変化により特有の温度依存性を有するが、圧電定数d14の温度依存性とヤング率Eとの温度依存性との間には相関関係は存在しない。
【0074】
したがって、本実施の形態では、圧電スピーカー3に固有の圧電定数d14の温度依存性情報及びヤング率Eの各温度依存性情報を予め測定し、メモリ5に記憶させている。そして、MPU4に内蔵された計時機能によって所定時間毎に温度センサ6からの雰囲気温度を検出し、MPU4の有する補正手段4aでメモリ5の記憶内容と検出温度とを照合し、圧電スピーカー3から出力される音量及び周波数特性を雰囲気温度に応じて補正し、これにより、温度変化が生じても音響特性の変動を極力抑制することが可能となる。
【0075】
以下、本圧電スピーカーシステムの動作を詳述する。
【0076】
まず、MPU4は、ユーザが音量を設定した時点又は電源を入れた時点からの温度を所定間隔毎に温度センサ6から読み込む。
【0077】
一方、音源IC1は、音源となる駆動信号を信号線aを介して増幅器2に入力する。そして、MPU4は、温度センサ6からの検出温度とメモリ5に予め記憶された圧電定数d14とヤング率Eの温度依存情報とを照合し、照合結果に基づく制御信号を信号線c及び信号線dを介して音源IC1及び増幅器2に送信し、これにより駆動信号を温度補正する。例えば、圧電スピーカーシステムの電源入力時の温度が20℃で現在温度が40℃の場合、圧電定数d14の温度依存性情報を検索し、圧電定数d14が高くなっている場合は、予めメモリ5に記憶されている各種要素(圧電スピーカー3の大きさ、圧電フィルム8、10の厚み、電極9a、9b、11a、11bの導電率、エンクロージャーの容積等)を考慮しつつ、所望音量となるように駆動電圧を低下させる。また、ヤング率Eの温度依存性情報を検索してヤング率が低くなっている場合も、予めメモリ5に記憶されている各種要素を考慮しつつ、所望の音響特性となるように周波数特性を補正する。
【0078】
そして、増幅器2からは信号線bを介して駆動信号が圧電スピーカー3に入力され、これにより圧電スピーカー3は増幅器2からの駆動信号に基づき、所望音量及び所望の周波数特性でもって発音する。
【0079】
このように本第1の実施の形態では、高分子圧電材料からなる圧電フィルム8、10の両主面に電極9a、9b、11a、11bを形成した圧電体7a、7bを有する圧電スピーカー3と、音響信号を圧電スピーカー3に入力する音源IC1及び増幅器2とを備え、圧電スピーカー3の圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存情報が格納されたメモリ5と、雰囲気温度を検出する温度センサ6とを有し、補正手段4aが圧電定数d14及びヤング率Eの温度依存性情報と温度センサ6の検出結果とに基づいて音源IC1及び増幅器2の駆動信号、すなわち音響信号を補正するので、浴室やキッチン等の高温雰囲気に晒される場所で使用しても、音圧レベルが過度に変化したり周波数特性が劣化するのを極力抑制することができ、ユーザが所望する音量で良好な音質で聴き取ることができる薄層小型の圧電スピーカーシステムを実現することができる。
【0080】
また、高分子圧電材料や電極材料等の構成部材に透明材料を使用することにより通音孔のない透明圧電スピーカーを得ることができ、小型液晶テレビに好適に組み込むことができる。すなわち、使用する環境温度に温度変化が生じても所望の音響特性を有し、しかも防水性能にも優れた小型・薄層で高性能・高品質の圧電スピーカーシステムを実現することができる。
【0081】
尚、上述した温度センサ6は、圧電スピーカー3の温度を高精度に検出する必要があり、そのためには圧電スピーカー3の近傍に配設するのが好ましい。
【0082】
図8は、圧電デバイスの第2の実施の形態としてのタッチ式入力システムの一例を示すシステム構成図である。
【0083】
このタッチ式入力システムは、押圧力により感知信号(位置情報及び押圧情報)を発生するタッチパネル14(圧電素子)と、該タッチパネル14に入力された感知信号を増幅する増幅器15と、増幅器15からの感知信号を受信するMPU16と、タッチパネル14の有する圧電定数d14及びヤング率Eの温度依存性情報や所定の演算プログラム等が格納されたメモリ17と、システム駆動時の雰囲気温度を検出する温度センサ18とを備えている。
【0084】
さらに、MPU16は補正手段16aを有し、温度センサ18の検出結果と圧電定数d14及びヤング率Eの温度依存性情報に基づき増幅器15を温度補正する。
【0085】
図9はタッチパネル14を模式的に示した平面図であり、図10はタッチパネル14を模式的に示した底面図である。
【0086】
タッチパネル14は、第1の実施の形態と同様の高分子圧電材料で形成された圧電フィルム19を有し、該圧電フィルム19の一方の主面には第1及び第2の電極分割線20a、20bを介して複数領域に分割された表面電極(第1〜第4の表面電極21a〜21d)が形成されている。また、前記圧電フィルム19の他方の主面には一様な裏面電極22が形成され、信号線ωは接地電位とされている。
【0087】
尚、各表面電極21a〜21d及び裏面電極22は信号線α〜δ、ωを介して増幅器15に接続されており、図8では信号線α〜δ、ωを纏めて信号線eと表記している。
【0088】
次に、タッチパネル14の位置情報及び押圧情報の取得方法について説明する。
【0089】
図11は、矢印Cに示すタッチパネル14の略中央位置を所定の押圧力で押圧した場合を示している。
【0090】
矢印Cに示すようにタッチパネル14の略中央位置を押圧すると、圧電フィルム19は各対角線30a′30a″、30b′、30b″の方向に略均等に伸長する。すなわち、対角線30a′30a″が伸長することにより、圧電フィルム19には図3で示したような法線方向に電界が生じ、第2及び第3の表面電極21b、21cにはプラスの電位が発生する。また、対角線30b′30b″は電界を印加すると縮小するが、押圧した場合は伸長することから、第1及び第4の表面電極21a、21dにはマイナスの電位が発生する。そして、それぞれの電極に発生する微小電圧は、押圧位置の変化に対応して変化する。そしてこの発生電位のパターンを解析することによって押圧位置を感知することが可能となる。
【0091】
また、押圧力についても同様であり、タッチパネル14を押圧したときに得られる電圧パターンを解析することにより、押圧情報を得ることができる。
【0092】
そして、本第2の実施の形態では、第1の実施の形態と略同様、タッチパネル14の圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報をメモリ17に記憶し、これにより、タッチパネル14の圧電定数d14やヤング率Eが温度変化に起因して変化した場合であっても、誤検知しないように感知電圧を補正手段16aで補正している。
【0093】
すなわち、タッチパネル14を指やペンで押圧すると圧電フィルム19は撓んで微小な電圧を発生するが、この微小な電圧は、圧電フィルム19の圧電定数d14に比例する。したがって、圧電定数d14が温度変化により変動すると、押圧位置を正確に検出できなくなるおそれがある。また、圧電フィルム19の撓み量も温度上昇により変化することから正確な押圧力を感知できなくなり、誤検知の原因となる。
【0094】
そこで、本第2の実施の形態では、第1の実施の形態と略同様、タッチパネル14に固有の圧電定数d14の温度依存性情報及びヤング率Eの各温度依存性情報を予め測定してメモリ17に記憶している。そして、MPU16に内蔵された計時機能によって所定時間毎に温度センサ18からの雰囲気温度を検出し、MPU16の有する補正手段16aでメモリ17の記憶内容と検出温度とを照合し、タッチパネル14に入力される位置情報及び押圧情報を雰囲気温度に応じて補正することにより、温度変化が生じても感知性能が低下するのを抑制している。
【0095】
以下、本タッチ式入力システムの動作を図8を用いて詳述する。
【0096】
まず、指やペン等でタッチパネル14を押圧すると、タッチパネル14は微小な電圧を発生し、その感知信号が増幅器15に入力される。
【0097】
一方、MPU16は、温度センサ18により所定時間毎に雰囲気温度を読み込み、メモリ17に予め記憶された圧電定数d14とヤング率Eの温度依存情報とを照合する。そして、MPU16は、照合結果に基づき信号線fを介して増幅器15に制御信号を送信し、増幅器15は温度補正された感知信号を信号線gを介してMPU16に送信する。例えば、タッチパネル14の初期押圧時の温度が40℃で、その後温度上昇し、雰囲気温度42℃でタッチパネル14の特定位置を押圧した場合、圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報から圧電定数d14が高くなり又は/及びヤング率Eが低くなっているときは、予めメモリ5に記憶されている各種要素(タッチパネル14の大きさ、厚み等)を考慮しつつ、所望位置及び所望押圧力となるように感知電圧を補正し、MPU16に入力される。
【0098】
このように本第2の実施の形態では、高分子圧電材料からなる圧電フィルム19の両主面に表面電極21a〜21d及び裏面電極22が形成されたタッチパネル14と、位置情報及び押圧情報をタッチパネル14に入力する押圧手段とを備え、タッチパネル14の圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報が格納されたメモリ17と、雰囲気温度を検出する温度センサ18とを有し、補正手段16aが圧電定数d14とヤング率Eの温度依存性情報と温度センサ18の検出結果とに基づいてタッチパネル14上の位置情報及び押圧情報を補正するので、環境温度の変化により押圧時の撓み量が変化しても、所望の感知性能を得ることができ、誤検知するのを極力回避することが可能となる。そしてこれにより、使用する環境温度が変動しても正確な位置情報及び押圧情報を得ることができ、信頼性の向上した高性能のタッチ式入力システムを実現できる。
【0099】
尚、上述した温度センサ18は、タッチパネル14の温度を高精度に検出する必要があり、そのためにはタッチパネル14の近傍に配設するのが好ましい。
【0100】
図12は、圧電デバイスとしての第3の実施の形態を示す圧電スピーカーシステムのシステム構成図である。
【0101】
高分子圧電材料は誘電体であり、圧電フィルムの両主面に電極を形成することにより、圧電スピーカー3は回路上でコンデンサを形成する。また、高分子圧電材料は、一般に線膨張係数が大きく、このため温度により圧電フィルム8、10の厚みと大きさも微妙に変化する。
【0102】
そこで、この第3の実施の形態では、温度センサに代えてMPU24で圧電スピーカー3の静電容量を計測し、予め測定してメモリ23に記憶された静電容量の温度特性情報から圧電スピーカー3の温度を検出している。
【0103】
すなわち、この圧電スピーカーシステムは、第1の実施の形態と同様の圧電スピーカー3、音源IC1及び増幅器2を備えている。そして、メモリ23には圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報に加え、圧電スピーカー3に固有の静電容量の温度依存性情報が格納されている。また、MPU24は、上述した補正手段4aに加え、圧電スピーカー3の静電容量を計測する計測手段24aを有している。さらに、計測手段24aは、実行モードと非実行モードとを有すると共に、圧電スピーカー3と増幅器2の間には切替手段25が介装され、MPU24は前記実行モードと非実行モードとに応じて切替手段25を制御している。すなわち、MPU24は、信号線hを介して切替手段25を制御し、実行モードのときは増幅器2から圧電スピーカー3への駆動信号の出力を禁止し、非実行モードのときは増幅器2から圧電スピーカー3への駆動信号の出力を許可する。
【0104】
以下、第3の実施の形態の圧電スピーカーシステムの動作を詳述する。
【0105】
計測手段24aが実行モードに設定されているときは、圧電スピーカー3の静電容量を計測した後、メモリ23に記憶されている静電容量の温度依存性情報を検索し、計測手段24aにより計測された静電容量に相当する温度を読み出し、圧電スピーカー3の温度を検出する。
【0106】
一方、計測手段24aが非実行モードに設定されている場合は、第1の実施の形態と略同様、MPU24は圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報と前記実行モードで検出された圧電スピーカー3の温度とを照合し、信号線cを介して増幅器2に制御信号を送信し、増幅器2で駆動信号の温度補正を行う。そして、増幅器2は、信号線b、b′を介し、温度補正された駆動信号を圧電スピーカー3に供給し、圧電スピーカー3は前記駆動信号に基づいて発音する。
【0107】
このように本第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、雰囲気温度に応じて駆動信号を温度補正しているので、所望の音響特性を有する音量及び周波数特性を得ることができる。
【0108】
しかも、温度センサが不要であるので、使用する環境温度が変化しても音響信号の変化を抑制できる高品質の圧電スピーカーシステムを低コストで実現することができる。
【0109】
また、本第3の実施の形態では、切替手段25は、MPU24からの指令により実行モードと非実行モードとを切り替え、圧電スピーカー3への駆動信号の出力を制御しているが、計測手段24aによる静電容量の計測は瞬時に行うことができることから、圧電スピーカー3の駆動時に逐次温度補正を行うことが可能である。
【0110】
図13は、圧電デバイスとしての第4の実施の形態を示すタッチ式入力システムのシステム構成図であって、本第4の実施の形態は、第3の実施の形態をタッチ式入力システムに適用した場合を示している。
【0111】
すなわち、このタッチ式入力システムは、第2の実施の形態と同様のタッチパネル14及び増幅器15を備えている。そして、メモリ27には圧電定数d14及びヤング率Eの温度依存性情報に加え、タッチパネル14に固有の静電容量の温度依存性情報が格納されている。また、MPU27は、上述した補正手段16aに加え、タッチパネル14の静電容量を計測する計測手段27aを有している。さらに、計測手段27aは、実行モードと非実行モードとを有すると共に、タッチパネル14と増幅器15の間には切替手段28が介装され、MPU27は前記実行モードと非実行モードとに応じて切替手段28を制御している。すなわち、MPU27は、信号線hを介して切替手段28を制御し、実行モードのときはタッチパネル14から増幅器15への感知信号の入力を禁止し、非実行モードのときはタッチパネル14から増幅器15への感知信号の入力を許可する。
【0112】
以下、この第4の実施の形態のタッチ式入力システムの動作を詳述する。
【0113】
計測手段27aが実行モードに設定されている場合は、タッチパネル14の静電容量を計測した後、メモリ26に記憶されている静電容量の温度依存性情報を検索し、計測手段27aにより計測された静電容量に相当する温度を読み出し、タッチパネル14の温度を検出する。
【0114】
一方、計測手段27aが非実行モードに設定されている場合は、第2の実施の形態と略同様、感知信号は、信号線e′、eを介してタッチパネル14から増幅器15に入力される。そして、MPU27では圧電定数d14及びヤング率Eの各温度依存性情報とタッチパネル14の温度とを照合し、信号線fを介して増幅器15に制御信号を送信し、増幅器15で感知信号の温度補正を行う。そして、この温度補正された感知信号がMPU27に送信される。
【0115】
このように本第4の実施の形態においても、第2の実施の形態と同様、雰囲気温度に応じて感知信号を温度補正しているので、所望の位置情報及び押圧情報を有する感知特性を得ることができる。
【0116】
しかも、第3の実施の形態と同様、温度センサが不要であるので、より低コストで高温雰囲気にも耐えうる高品質のタッチ式入力システムを実現することができる。
【0117】
また、本第4の実施の形態では、切替手段28は、MPU27からの指令により実行モードと非実行モードとを切り替え、タッチパネル14からの駆動信号の入力を制御しているが、計測手段27aによる静電容量の計測は瞬時に行うことができることから、タッチパネル14の押圧時に逐次温度補正を行うことが可能である。
【0118】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。圧電高分子材料としては、上述したようにPLLAが好ましいが、PLLAに限定されるものではなく、PVDF等、他の高分子圧電材料についても同様に適用することができる。すなわち、この場合も使用する高分子圧電材料の圧電定数d14及びヤング率Eの温度依存情報、更には必要に応じて静電容量の温度依存情報をメモリに記憶しておき、補正手段で温度変化に応じ圧電スピーカーシステムの場合であれば音量、周波数特性を補正し、またタッチ式入力システムの場合であれば感知性能を補正することにより性能劣化を招くのを抑制することができる。
【0119】
また、上記実施の形態では圧電デバイスとして、圧電スピーカーシステム及びタッチ式入力システムを例示して説明したが、これらに限定されるものではない。すなわち、高分子圧電材料は温度上昇に伴い、圧電定数d14やヤング率Eが変動して変位量が変動するため、所望の性能・品質を確保するためには温度補正する必要があり、したがって、本発明は高分子圧電材料を使用する各種圧電デバイスに広範に適用することが可能である。
【0120】
また、タッチ式入力システムにおける位置情報及び押圧情報の取得方法も上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の方法が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0121】
浴室やキッチン等の高温下の雰囲気温度で使用しても、良好な発音特性や感知特性を得ることができる圧電スピーカーシステムやタッチ式入力システムを実現する。
【符号の説明】
【0122】
1 音源IC(入力手段)
3 圧電スピーカー(圧電素子)
4a 補正手段
5 記憶手段
6 温度センサ(温度検出手段)
7a、7b 圧電体
8 圧電フィルム
9a、9b 電極
10 圧電フィルム
11a、11b 電極
14 タッチパネル(圧電素子)
15 増幅器
16a 補正手段
17 記憶手段
18 圧電フィルム
19 温度センサ(温度検出手段)
21a〜21d 表面電極(電極)
22 裏面電極(電極)
23 記憶手段
24a 計測手段
25 切替手段
26 記憶手段
27a 計測手段
28 切替手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子圧電材料からなる圧電フィルムの両主面に電極が形成された少なくとも1つ以上の圧電体を有する圧電素子と、所定の情報を前記圧電素子に入力する入力手段とを備えた圧電デバイスにおいて、
前記圧電素子の変位量と温度との関係を示す温度特性情報が所定変位量毎に格納された記憶手段と、雰囲気温度を検出する温度検出手段と、該温度検出手段の検出結果と前記温度特性情報とに基づいて前記入力手段の入力情報を制御する制御手段とを有し、
前記圧電素子は、前記制御手段により制御された入力情報を出力することを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
前記入力手段が、音源を蓄積した音源手段からなると共に、前記入力情報は発音情報であり、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出結果と前記温度特性情報とに基づいて前記発音情報を温度補正する補正手段を有していることを特徴とする請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果を特定の変位量における温度特性情報と照合し、照合結果に対応する前記特定の変位量に基づいて前記発音情報を温度補正することを特徴とする請求項2記載の圧電デバイス。
【請求項4】
前記圧電素子は、圧電スピーカーであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項5】
前記入力手段が、前記圧電素子の特定位置を押圧する押圧手段からなると共に、前記入力情報は、位置情報及び押圧情報であり、
前記制御手段は、前記温度検出手段の検出結果に応じて前記位置情報及び前記押圧情報を温度補正する補正手段を有していることを特徴とする請求項1記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果を特定の変位量における温度特性情報と照合し、照合結果に対応する前記特定の変位量に基づいて前記位置情報及び押圧情報を補正することを特徴とする請求項5記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記圧電素子は、前記圧電フィルムの両主面に形成された電極のうち、少なくとも一方の主面に形成された電極が複数領域に分割されていることを特徴とする請求項1、請求項5又は請求項6のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項8】
前記圧電素子は、タッチパネルであることを特徴とする請求項1、請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項9】
高分子圧電材料からなる圧電フィルムの両主面に電極が形成された少なくとも一つ以上の圧電体を有する圧電素子と、所定の情報を前記圧電素子に入力する入力手段とを備えた圧電デバイスにおいて、
前記圧電素子の変位量と温度との関係を示す第1の温度特性情報が所定変位量毎に格納され、かつ前記圧電素子の静電容量の温度依存性を示す第2の温度特性情報が格納された記憶手段と、前記入力手段の入力情報を制御する制御手段とを有し、
前記制御手段が、前記圧電素子の静電容量を計測する計測手段と、前記第1及び第2の温度特性情報と前記計測手段により計測された前記静電容量とに基づいて前記入力情報を補正する補正手段とを備え、
前記圧電素子は、前記補正手段により補正された入力情報を出力することを特徴とする圧電デバイス。
【請求項10】
前記計測手段の実行モードと禁止モードとを切り替える切替手段を有していることを特徴とする請求項9記載の圧電デバイス。
【請求項11】
前記入力手段が、音源を蓄積した音源手段からなると共に、前記入力情報は発音情報であり、
前記補正手段は、前記計測手段により計測された静電容量と前記第2の温度特性情報とから前記圧電素子の温度を検知し、該検知された温度を特定の変位量における前記第1の温度特性情報と照合し、照合結果に対応する前記特定の変位量に基づいて発音情報を温度補正することを特徴とする請求項9又は請求項10記載の圧電デバイス。
【請求項12】
前記圧電素子は、圧電スピーカーであることを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項13】
前記入力手段は、前記圧電素子の特定位置を押圧する押圧手段からなると共に、前記入力情報は、位置情報及び押圧情報であり、
前記補正手段は、前記計測手段により計測された静電容量と前記第2の温度特性情報とから前記圧電素子の温度を検知し、該検知された温度を特定の変位量における前記第1の温度特性情報と照合し、照合結果に対応する前記特定の変位量に基づいて前記位置情報及び押圧情報を温度補正することを特徴とする請求項9又は請求項10記載の圧電デバイス。
【請求項14】
前記圧電素子は、前記圧電フィルムの両主面に形成された電極のうち、少なくとも一方の主面に形成された電極が複数領域に分割されていることを特徴とする請求項9、10又は請求項13記載の圧電デバイス。
【請求項15】
前記圧電素子は、タッチパネルであることを特徴とする請求項9、請求項10、請求項13、又は請求項14のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項16】
前記高分子圧電材料は、L型ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1乃至請求項15のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項17】
前記変位量は、圧電定数を指標とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4、請求項9乃至請求項12、又は請求項16のいずれかに記載の圧電デバイス。
【請求項18】
前記変位量は、ヤング率を指標とすることを特徴とする請求項1、請求項5乃至請求項10、請求項13乃至請求項16のいずれかに記載の圧電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−49789(P2012−49789A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189498(P2010−189498)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】