説明

圧電単結晶組成物

【課題】 フィルター、発振子、ジャイロ等の波動デバイスに用いられる圧電単結晶振動子、およびこれらを用いたデバイスの小型化、高感度化を可能にすることができる、電気機械結合係数k12が化学式Sr3Ga2Ge414のランガサイト系単結晶よりも大きい、18%以上であり、エッチングレートが水晶よりも速い、0.8μm/min以上である材料を提供する。
【解決手段】 化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114(式中M1は2価金属、M2は3価金属)で表され、0.5≦X≦2.0であることを特徴とする圧電単結晶組成物である。化学式中、M1はMg、Ca、Sr、Baの少なくとも1種以上、また、M2はLa、Nd、Prの少なくとも1種以上であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、発振子、ジャイロ等の波動デバイスに好適に用いられる圧電単結晶振動子の材料組成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルター、発振子、ジャイロ等の圧電デバイスは、携帯電話、パソコン、デジタルカメラなどの搭載機器の小型化に伴い高感度化、小型化が要求されている。高感度化に影響を与える材料特性としては電気機械結合係数が挙げられる。電気機械結合係数が大きいほど感度が向上する。小型化に影響を与える材料特性としてはエッチング性が挙げられる。振動子の小型化に伴い、振動子構造の微細化、複雑化が進み、現状の機械加工では限界がある。そのため振動子材料には微細加工を可能にするエッチング加工が可能であることが要求される。
【0003】
これまで、圧電デバイス用振動子には水晶やニオブ酸リチウムなどの圧電単結晶材料が用いられてきた。水晶はエッチング加工が可能なため、非常に微細、複雑な振動子の加工が可能であり、さらに圧電特性の温度安定性が良好である。このように、圧電特性、加工性、量産性に優れていることから広く実用化されている。また、ニオブ酸リチウムは電気機械結合係数が大きいことから感度が非常に大きくセンサーなどで実用化されている。
【0004】
また、結晶構造がランガサイト構造をとる(ランガサイト:化学式Ca3Ga2Ge414)、ランガサイト系の圧電結晶が、電気機械結合係数が大きく、温度特性も平坦であるとの理由で、良好な単結晶の製造方法、圧電デバイスへの応用等の研究がなされている。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等には、化学式がLa3Ga5SiO14、La3Nb0.5Ga5.514、La3Ta0.5Ga5.514、Sr3Ga2Ge414のランガサイト系の単結晶に関する、圧電特性を向上させるための組成操作、製造方法等が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−273398号公報
【特許文献2】特開平11−106294号公報
【特許文献3】特開2007−112700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水晶は、エッチングレートが0.8μm/minと大きく、広く実用化されているが、電気機械結合係数が小さく出力信号が微弱であり圧電応答が弱い。そのため、処理回路の規模が大きくなるという問題がある。また、ニオブ酸リチウムは電気機械結合係数が比較的大きいが、エッチングレートが非常に遅く微細加工が困難であるという問題がある。さらに、ランガサイト系の圧電結晶では、代表的な化学式LaGaSiO14のランガサイト系単結晶の電気機械結合係数はk12で15%であり、広く実用化されている水晶と比べれば大きく、エッチングレートも1.0μm/min以上と速い材料であり、有望ではある。しかしながら、これでもまだ十分な値とはいえず、さらなる電気機械結合係数の向上、エッチングレートの向上が望まれている。
【0007】
この比較的有望なランガサイト系の単結晶に関しては特許文献1、特許文献2、特許文献3等に、圧電特性を向上させるための組成操作、製造方法等が記載されているが、エッチング特性と圧電特性の両方を改善する試みは行われていない。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、振動子の高感度化、振動子サイズの小型化を可能にする、エッチング特性と圧電特性の両方を改善した圧電単結晶組成物を提供しようとするものである。
【0009】
そこで、少なくとも電気機械結合係数k12が化学式Sr3Ga2Ge414のランガサイト系単結晶よりも大きい、18%以上であり、エッチングレートが水晶よりも速い、0.8μm/min以上、望ましくはより速い1.8μm/min以上である材料の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたもので、Ge系のランガサイト単結晶において、ランガサイト構造の主としてAサイトを占めると考えられる元素の組成を選択することにより、電機結合係数とエッチングレートを改善できることを見出したものである。
【0011】
即ち、本発明によれば、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114(式中M1は2価のアルカリ土類金属、M2は3価金属)で表され、0.5≦X≦2.0であることを特徴とする圧電単結晶組成物が得られる。
【0012】
また本発明によれば、前記M1はMg、Ca、Sr、Baのいずれか1種以上であることを特徴とす圧電単結晶組成物が得られる。
【0013】
また本発明によれば、前記M2はLa、Nd、Prのいずれか1種以上であることを特徴とする圧電単結晶組成物が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気機械結合係数が従来の化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト系化合物より大きく、更にエッチングレートが水晶より速く振動子のエッチング加工が可能な圧電単結晶を提供することができる。
【0015】
これにより、電気機械結合係数が大きく、さらに、高速での振動子のエッチング加工が可能な圧電単結晶材料が提供できるので、フィルター、発振子、ジャイロ等に用いられる圧電単結晶振動子、およびこれらを用いた波動デバイスの小型化、高感度化を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態の組成物は、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114(式中M1は2価金属、M2は3価金属)で表され、0.5≦X≦2.0であるような元素の組成比であるランガサイト系の圧電単結晶である。このランガサイト系の圧電単結晶は、原料酸化物を組成比となるように、秤量混合し、単結晶育成炉で単結晶を育成する。ランガサイト系の場合は、所定組成比の原料粉末を溶融し、例えば特許文献3にも記載されており、公知となっている高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により単結晶を成長させるとよい。
【0017】
ここで、2価金属のM1としてはアルカリ土類金属のMg、Ca、Sr、Baが適しており、3価金属のM2としてはランタノイド希土類金属のLa、Nd、Prが適している。Xの値は、0.5以下、2以上となると、電気機械結合係数とエッチングレートが、共に低下する傾向にある。本発明の0.5≦X≦2.0の範囲の場合は、電気機械結合係数とエッチングレートが、良好のものが得られる。
【0018】
特にM1としてMg、Ca、Sr、Baから1種以上を選択し、M2としてLa、Nd、Prから1種以上を選択した場合は、0.5≦X≦2.0の範囲では、電気機械結合係数k12が化学式Sr3Ga2Ge414のランガサイト系単結晶よりも大きい18%以上、エッチングレートがより速い1.8μm/min以上を満たす単結晶を得ることができる。
【0019】
本発明の圧電単結晶組成物は、次のように作製する。例えば、SrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、La23、Nd23、Pr23、Ga23、GeO2粉末等の、目的とする金属元素の炭酸塩や酸化物の原料粉末を目的の化学式の組成となるように秤量し、乳鉢等で混合し、混合粉をペレット状にプレスし、高温炉により仮焼を行う。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とする。
【0020】
原料粉末を溶融し、単結晶体は、高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させるとよい。その際の結晶成長速度は、6mm/h程度で行うと良好な単結晶が得られる。また、シード(種結晶)には化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いると良い。雰囲気は、酸素1%程度を導入したアルゴンまたは窒素の雰囲気とするとよい。
【実施例】
【0021】
次に、具体的な実施例を挙げ、本発明の圧電単結晶組成物について、さらに詳しく説明する。
【0022】
本発明の圧電単結晶組成物は、以下の実施例では次のように作製した。純度99.99%以上のSrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、La23、Nd23、Pr23、Ga23、GeO2粉末を目的の化学式の組成となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合し、混合粉をペレット状にプレスし、高温炉により、1000℃の保持温度で、20hの保持時間で仮焼を行った。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0023】
次に、原料粉末を白金−1重量%金合金の坩堝を用いて、高周波加熱炉中で溶融し、単結晶体は、高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。その際の結晶成長速度は、6mm/hで行い、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は、酸素1%程度を導入したアルゴン雰囲気で行った。
【0024】
(実施例1)
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてLaに固定し、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択して、各組合せについてXが0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0の8種類の組成の試料を作製し、評価した。
【0025】
純度99.99%以上のSrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、La23、Ga23、GeO2粉末を、上記化学式で表される組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合した。次に混合粉をプレスしてペレット状にし、高温炉により保持温度1000℃、保持時間20hで仮焼を行なった。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0026】
単結晶は高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。坩堝のノズル形状は長さ15mm、幅1mmとした。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行った。また、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は酸素1%を導入したアルゴン雰囲気とした。得られた結晶は透明で約30mmの長さであった。また、得られた単結晶は定法のX線回折法で結晶構造がランガサイト構造であることを確認した。
【0027】
得られた単結晶を切断、研磨により板状試料に加工した。サイズは2.0mm×0.5mm×10mmである。板状に加工された単結晶に対し、金を板上下面にスパッタリングして電極を設けた。圧電特性は共振―反共振法によりインピーダンスアナライザーを用いて測定した。測定した振動モードは長さ方向振動で、電界印加がX方向、振動がY方向である。これにより電気機械結合係数k12を求めた。試料の支持は電極面中央部を、治具電極ピンにより極力弱い力で挟んで行った。
【0028】
エッチングは塩酸水溶液(35%塩酸と水を1:1の割合で混合したもの、塩酸:水=1:1)を70℃に保ち、その中に鏡面研磨した試料を浸し、攪拌することで行った。試験時間は2hである。エッチングレートはエッチング前後のX軸方向の試料厚み変化から計算した。
【0029】
図1に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がLaの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図を、図2に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がLaの場合のXとエッチングレートの関係図をそれぞれ示す。なお、図1〜図8に示した基準値は、それぞれ水晶の電気機械結合係数k12(18%)、およびランガサイト単結晶のエッチングレート(0.8mm/min)である。電気機械結合係数k12は、Xが0.5から2.0の範囲で化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト単結晶の18%より大きくなった。また、エッチングレートについてもXが0.5から2.0の範囲では1.8mm/min以上の良好な値が得られた。また、特に電気機械結合係数に着目するとM1がSr、M2がLaで1.0≦X≦1.5 の場合が、電気機械結合係数k12が26以上となり、好ましい結果が得られた。
【0030】
以上より、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてLaを、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択した場合は0.5≦X≦2.0の範囲で電気機械結合K12が大きく、且つエッチングレートの速いランガサイト系の単結晶が得られたことがわかる。
【0031】
(実施例2)
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてPrに固定し、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択して、各組合せについてXが0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0の8種類の組成の試料を作製し、評価した。
【0032】
純度99.99%以上のSrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、Pr23、Ga23、GeO2粉末を、上記化学式で表される組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合した。次に混合粉をプレスしてペレット状にし、高温炉により保持温度1000℃、保持時間20hで仮焼を行なった。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0033】
単結晶は高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。坩堝のノズル形状は長さ15mm、幅1mmとした。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行った。また、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は酸素1%を導入したアルゴン雰囲気とした。得られた結晶は透明で約30mmの長さであった。また、得られた単結晶は定法のX線回折法で結晶構造がランガサイト構造であることを確認した。
【0034】
ついで、実施例1と同じ方法で、得られた結晶の電気機械結合係数k12とエッチングレートの測定をおこなった。
【0035】
図3に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がPrの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図を、図4に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がPrの場合のXとエッチングレートの関係図をそれぞれ示す。電気機械結合係数k12は、Xが0.5から2.0の範囲で化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト単結晶の18%より大きくなった。また、エッチングレートについてもXが0.1から2.0の範囲では1.8mm/min以上の良好な値が得られた。
【0036】
以上より、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてPrを、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択した場合は0.5≦X≦2.0の範囲で電気機械結合K12が大きく、且つエッチングレートの速いランガサイト系の単結晶が得られることがわかる。
【0037】
(実施例3)
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてNdに固定し、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択して、各組合せについてXが0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0の8種類の組成の試料を作製し、評価した。
【0038】
純度99.99%以上のSrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、Nd23、Ga23、GeO2粉末を、上記化学式で表される組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合した。次に混合粉をプレスしてペレット状にし、高温炉により保持温度1000℃、保持時間20hで仮焼を行なった。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0039】
単結晶は高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。坩堝のノズル形状は長さ15mm、幅1mmとした。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行った。また、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は酸素1%を導入したアルゴン雰囲気とした。得られた結晶は透明で約30mmの長さであった。また、得られた単結晶は定法のX線回折法で結晶構造がランガサイト構造であることを確認した。
【0040】
ついで、実施例1と同じ方法で、得られた結晶の電気機械結合係数k12とエッチングレートの測定をおこなった。
【0041】
図5に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がNdの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図を、図6に、2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がNdの場合のXとエッチングレートの関係図をそれぞれ示す。電気機械結合係数k12は、Xが0.5から2.0の範囲で化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト単結晶の18%より大きくなった。また、エッチングレートについてもXが0.1から2.0の範囲では1.8mm/min以上の良好な値が得られた。
【0042】
以上より、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M2の3価の金属元素としてNdを、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを選択した場合は0.5≦X≦2.0の範囲で電気機械結合K12が大きく、且つエッチングレートの速いランガサイト系の単結晶が得られることがわかる。
【0043】
(実施例4)
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M1の2価の金属元素として、Sr固定し、M2の3価の金属元素としてLa、Pr、NdおよびLaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の6種類の条件選択して、各組合せについてXが0、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0の8種類の組成の試料を作製し、評価した。
【0044】
純度99.99%以上のSrCO3、La23、Pr23、Nd23、Ga23、GeO2粉末を、上記化学式で表される組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合した。次に混合粉をプレスしてペレット状にし、高温炉により保持温度1000℃、保持時間20hで仮焼を行なった。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0045】
単結晶は高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。坩堝のノズル形状は長さ15mm、幅1mmとした。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行った。また、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は酸素1%を導入したアルゴン雰囲気とした。得られた結晶は透明で約30mmの長さであった。また、得られた単結晶は定法のX線回折法で結晶構造がランガサイト構造であることを確認した。
【0046】
ついで、実施例1と同じ方法で、得られた結晶の電気機械結合係数k12とエッチングレートの測定をおこなった。
【0047】
図7に、2価の金属元素M1がSrで3価の金属元素M2がLa、Pr、Nd、LaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の場合のXと電気機械結合係数k12の関係図を、図8に、2価の金属元素M1がSrで3価の金属元素M2がLa、Pr、NdおよびLaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の場合のXとエッチングレートの関係図をそれぞれ示す。電気機械結合係数k12は、Xが0.5から2.0の範囲で化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト単結晶の18%より大きくなった。また、エッチングレートについてもXが0.5から2.0の範囲では1.8mm/min以上の良好な値が得られた。
【0048】
以上より、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M1の2価の金属元素としてSrを、M2の3価の金属元素としてLa、Pr、NdおよびLaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の場合を選択した場合は0.5≦X≦2.0の範囲で電気機械結合K12が大きく、且つエッチングレートの速いランガサイト系の単結晶が得られたことがわかり、M2の3価の金属としてはこれらを混合して用いても、目的の効果が得られることがわかる。
【0049】
(実施例5)
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgが同じモル比(各1/4ずつ)、M2の3価の金属元素としてLa、Pr、Ndが同じモル比(各1/3ずつ)用いて、Xが0.5、1.5の2種類の組成の試料を作製し、評価した。
【0050】
純度99.99%以上のSrCO3、BaCO3、CaCO3、MgCO3、La23、Pr23、Nd23、Ga23、GeO2粉末を、上記化学式で表される組成比となるようにそれぞれ秤量し、乳鉢で混合した。次に混合粉をプレスしてペレット状にし、高温炉により保持温度1000℃、保持時間20hで仮焼を行なった。仮焼後、ペレットを粉砕し原料粉末とした。
【0051】
単結晶は高周波加熱式のマイクロ引き下げ法により成長させた。坩堝のノズル形状は長さ15mm、幅1mmとした。結晶成長は、成長速度6mm/hの条件で行った。また、シードには化学量論組成のランガサイトのX板Y軸方向結晶を用いた。雰囲気は酸素1%を導入したアルゴン雰囲気とした。得られた結晶は透明で約30mmの長さであった。また、得られた単結晶は定法のX線回折法で結晶構造がランガサイト構造であることを確認した。
【0052】
ついで、実施例1と同じ方法で、得られた結晶の電気機械結合係数k12とエッチングレートの測定をおこなった。
【0053】
測定結果はX=0.5の時電気機械結合係数k12は19%、エッチングレートは5.0mm/min、X=1.5の時電気機械結合係数k12は23%、エッチングレートは5.5mm/minの値が得られた。この測定値は、共に、電気機械結合係数k12は化学式がSr3Ga2Ge414のランガサイト単結晶の18%より大きく、エッチングレートについても1.8mm/min以上と速く、良好な値である。
【0054】
以上より、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、実用的には、原料の種類が少ないほうが製造管理が容易ではあるが、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgを混合し、M2の3価の金属元素としてLa、Prを混合した組成物としても、電気機械結合K12が大きく、且つエッチングレートの速いランガサイト系の単結晶が得られることがわかり、M1の2価の金属としてはこれらを混合して用い、M2の3価の金属としてはこれらを混合して用いても、目的の効果が得られることがわかる。
【0055】
(まとめ)
以上の実施例1〜実施例5の結果である図1〜図8等のデータを総合して考慮すれば、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114で表される化学量論組成の圧電単結晶組成物について、M1の2価の金属元素として、Sr、Ba、Ca、Mgから1種以上を、M2の3価の金属元素としてLa、Pr、Ndから1種以上を選択して、0.5≦X≦2.0の範囲のXの組成とすることにより、電気機械結合係数及びエッチングレートの良好なランガサイト系の単結晶が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114(式中M1は2価金属、M2は3価金属)で表され、0.5≦X≦2.0である圧電単結晶組成物を提供することにより、電気機械結合係数及びエッチングレートの良好なランガサイト系の単結晶が得られるので、フィルター、発振子、ジャイロ等の波動デバイスに用いられる圧電単結晶振動子、そしてそれを用いたデバイスの小型化、高感度化を可能とするものであり、これらの波動デバイスの応用領域を拡大するものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がLaの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図。
【図2】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がLaの場合のXとエッチングレートの関係図。
【図3】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がPrの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図。
【図4】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がPrの場合のXとエッチングレートの関係図。
【図5】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がNdの場合のXと電気機械結合係数k12の関係図。
【図6】2価の金属元素M1がSr、Ba、Ca、Mgで3価の金属元素M2がNdの場合のXとエッチングレートの関係図。
【図7】2価の金属元素M1がSrで3価の金属元素M2がLa、Pr、NdおよびLaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の場合のXと電気機械結合係数k12の関係図。
【図8】2価の金属元素M1がSrで3価の金属元素M2がLa、Pr、NdおよびLaとPrが同じモル比、LaとNdが同じモル比、PrとNdが同じモル比の場合のXとエッチングレートの関係図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式M1XM23-XGa5-XGeX+114(式中M1は2価金属、M2は3価金属)で表され、0.5≦X≦2.0であることを特徴とする圧電単結晶組成物。
【請求項2】
前記M1はMg、Ca、Sr、Baのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1記載の圧電単結晶組成物。
【請求項3】
前記M2はLa、Nd、Prのいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧電単結晶組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−46354(P2009−46354A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214658(P2007−214658)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】