説明

圧電素子、インクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録装置

【課題】耐湿性を十分に改善した圧電素子を提供、また、耐インク性及び耐湿性の双方を同時改善した圧電素子を提供、そして、これら圧電素子を利用したインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 インク滴を吐出するノズル56と、ノズル56と連通し、インク110が充填される圧力室50と、圧力室50の一部を構成する振動板48と、圧力室50へインク流路66、68を介して供給するインク110をプールするインクプール室38と、振動板48を変位させる圧電素子46と、を有するインクジェット記録ヘッド32において、振動板48を間に置いて圧力室50と反対側にインクプール室38を設けるとともに、振動板48を間に置いて圧電素子46がインクプール室38側に設けて、圧電素子46のインクプール室38側の表面上は、低透水性絶縁膜80と樹脂絶縁膜82とが順次積層された保護膜で被覆させる。また、低透水性絶縁膜80のみを被覆させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インク滴を吐出するノズルと、ノズルと連通するとともにインクが充填される圧力室と、圧力室の一部を構成する振動板と、圧力室へインク流路を介して供給するインクをプールするインクプール室と、振動板を変位させる圧電素子と、を有するインクジェット記録ヘッド、及びこれを利用したインクジェット記録ヘッドに関する。また、これに利用される圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主走査方向に往復移動するインクジェット記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」という場合がある)の複数のノズルから選択的にインク滴を吐出し、副走査方向に搬送されて来る記録紙等の記録媒体に文字や画像等を印刷するインクジェット記録装置は知られている。
【0003】
このようなインクジェット記録装置において、その記録ヘッドには圧電方式やサーマル方式等がある。例えば圧電方式の場合には、図14、図15で示すように、インクタンクからインクプール室202を経てインク200が供給される圧力室204に、圧電素子(電気エネルギーを機械エネルギーに変換するアクチュエーター)206が設けられ、その圧電素子206が圧力室204の体積を減少させるように凹状に撓み変形して中のインク200を加圧し、圧力室204に連通するノズル208からインク滴200Aとして吐出させるように構成されている。
【0004】
一方で、記録ヘッドの構成部材(特に圧電素子)の耐インク性や耐湿性を改善する目的で種々の提案がなされている。
【0005】
例えば、特許文献1には、圧電素子の電極表面を有機高分子化合物で覆い耐インク性を確保することが提案されている。特許文献2には、圧電素子の上に酸化シリコンやポリイミド樹脂膜を形成し、耐湿性を改善することが提案されている。特許文献3には、圧電素子の耐湿性改善と圧電素子変移阻害防止とを両立するために圧電素子上部に可とう性を有する封止膜を設けることが開示されている。特許文献4には、圧力室側の圧電素子表面を、ストレス緩和の目的で有機膜、耐湿性改善の目的で無機膜、表面平滑化の目的で有機膜により順次積層して保護することが提案されている。特許文献5には、耐湿性を改善するために電極に導電性金属酸化物膜を適用することが開示されている。
【特許文献1】特開平3−166953号公報
【特許文献2】特開平10−226071号公報
【特許文献3】特開平11−334061号公報
【特許文献4】特開平7−10157号公報
【特許文献5】特開2001−88296公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら提案でも、昨今の高い技術要求のため十分ではなく、さらなる改善が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑み、耐湿性を十分に改善した圧電素子を得ることを第一の目的とする。また、本発明は、耐インク性及び耐湿性の双方を同時改善した圧電素子を得ることを第二の目的とする。そして、これら圧電素子を利用したインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録装置を得ることを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の圧電素子は、圧電体と、前記圧電体を挟む二つの電極と、を有し、且つ保護膜として低透水性絶縁膜で被覆されていることを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明では、圧電素子を低透水性絶縁膜で被覆しているので、圧電素子に十分な耐湿性を付与することができる。
【0010】
また、請求項2に記載の圧電素子は、圧電体と、前記圧電体を挟む二つの電極と、を有し、且つ低透水性絶縁膜と樹脂絶縁膜とを順次積層した保護膜で被覆されていることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載の発明では、圧電素子を、低透水性絶縁膜と樹脂絶縁膜とが順次積層された保護膜で被覆し、保護膜の下層としての低透水性絶縁膜により圧電素子に耐湿性を付与し、保護膜の上層としての樹脂絶縁膜により圧電素子に耐インク性を付与し、耐インク性及び耐湿性の双方を同時改善できる。
【0012】
また、請求項3に記載の圧電素子は、請求項2に記載の圧電素子において、前記樹脂絶縁膜は、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、又はシリコーン系の樹脂膜で構成されることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明では、樹脂絶縁膜として、上記各樹脂種を適用することで、十分な耐インク性を圧電素子に付与できる。
【0014】
また、請求項4に記載の圧電素子は、請求項1又は2に記載の圧電素子において、前記低透水性絶縁膜は、ダングリングボンド密度が1×1018cm-3以上であることを特徴としている。
【0015】
請求項4に記載の発明では、低水性絶縁膜のダングリングボンド密度を上記範囲とすることで、十分な耐湿性を圧電素子に付与できる。また、耐湿性を十分付与するダングリングボンドの総数を得るための膜厚が薄くすることができ、圧電素子の機械的拘束が小さくなり、圧電素子変移の阻害が防止される。
【0016】
また、請求項5に記載の圧電素子は、請求項1又は2に記載の圧電素子において、前記低透水性絶縁膜は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)法で形成されることを特徴としている。
【0017】
請求項5に記載の発明では、低透水性絶縁膜は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)法で形成すると、低温での成膜が可能となるため膜中のダングリングボンドが他の不純物原子(水素)と反応して消滅する割合が減少するため、必要なダングリングボンド密度を有する膜が好適に得られる。
【0018】
また、請求項6に記載の圧電素子は、請求項1又は2に記載の圧電素子において、前記低透水性絶縁膜は、Si系酸化膜、Si系窒化膜、又はSi系酸窒化膜で構成されることを特徴としている。
【0019】
請求項6に記載の発明では、低透水性絶縁膜に上記材料膜を適用することで、例えば、電極に他の金属酸化膜を用いた場合と比べ低コスト化が図れる。
【0020】
請求項7に記載の圧電素子は、請求項1又は2に記載の圧電素子において、前記電極の一方に接続される第一配線が設けられ、前記保護膜はさらに前記第一配線を被覆し層間絶縁膜として機能させることを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載の発明では、保護膜を圧電素子と圧電素子と接続する配線の一方を被覆して、圧電素子と接続する配線の層間絶縁膜として機能させ、構成を簡易化させることができる。
【0022】
請求項8に記載の圧電素子は、請求項1又は2に記載の圧電素子において、前記保護膜上には前記電極の一方と接続される第二配線が設けられ、さらに当該第二配線を覆うように第2樹脂絶縁膜が設けられていることを特徴としている。
【0023】
請求項8に記載の発明では、第2樹脂絶縁膜が、保護膜(即ち樹脂絶縁膜)と密着性(接合力)が高い状態で配線を被覆することができるため、その界面からのインク進入が効果的に防止され、配線の腐食が防止される。
【0024】
請求項9に記載の圧電素子では、請求項8に記載の圧電素子において、前記第2樹脂絶縁膜は、前記保護膜として設けられる前記樹脂絶縁膜と同種の樹脂膜で構成されることを特徴としている。
【0025】
請求項9に記載の発明では、第2樹脂絶縁膜と保護膜としての樹脂絶縁膜との同系の材料種を適用することで、より効果的に密着性(接合力)が向上する。
【0026】
請求項10に記載のインクジェト記録ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、前記ノズルと連通し、インクが充填される圧力室と、前記圧力室の一部を構成する振動板と、前記圧力室へインク流路を介して供給するインクをプールするインクプール室と、前記振動板を変位させる圧電素子と、を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記圧電素子は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の圧電素子であることを特徴としている。
【0027】
請求項11に記載のインクジェット記録装置は、請求項10に記載のインクジェット記録ヘッドを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0028】
以上、本発明によれば、耐湿性を十分に改善した圧電素子を提供することができる。また、耐インク性及び耐湿性の双方を同時改善した圧電素子を提供することができる。そして、これら圧電素子を利用したインクジェット記録ヘッド、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に示す実施例を基に詳細に説明する。なお、記録媒体は記録紙Pとして説明をする。また、記録紙Pのインクジェット記録装置10における搬送方向を副走査方向として矢印Sで表し、その搬送方向と直交する方向を主走査方向として矢印Mで表す。また、図において、矢印UP、矢印LOが示されている場合は、それぞれ上方向、下方向を示すものとし、上下の表現をした場合は、上記各矢印に対応しているものとする。
【0030】
まず、最初にインクジェット記録装置10の概要を説明する。図1で示すように、インクジェット記録装置10は、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各インクジェット記録ユニット30(インクジェット記録ヘッド32)を搭載するキャリッジ12を備えている。このキャリッジ12の記録紙Pの搬送方向上流側には一対のブラケット14が突設されており、そのブラケット14には円形状の開孔14A(図2参照)が穿設されている。そして、その開孔14Aに、主走査方向に架設されたシャフト20が挿通されている。
【0031】
また、主走査方向の両端側には、主走査機構16を構成する駆動プーリー(図示省略)と従動プーリー(図示省略)が配設されており、その駆動プーリーと従動プーリーに巻回されて、主走査方向に走行するタイミングベルト22の一部がキャリッジ12に固定されている。したがって、キャリッジ12は主走査方向に往復移動可能に支持される構成である。
【0032】
また、このインクジェット記録装置10には、画像印刷前の記録紙Pを束にして入れておく給紙トレイ26が設けられており、その給紙トレイ26の上方には、インクジェット記録ヘッド32によって画像が印刷された記録紙Pが排出される排紙トレイ28が設けられている。そして、給紙トレイ26から1枚ずつ給紙された記録紙Pを所定のピッチで副走査方向へ搬送する搬送ローラー及び排出ローラーからなる副走査機構18が設けられている。
【0033】
その他、このインクジェット記録装置10には、印刷時において各種設定を行うコントロールパネル24と、メンテナンスステーション(図示省略)等が設けられている。メンテナンスステーションは、キャップ部材、吸引ポンプ、ダミージェット受け、クリーニング機構等を含んで構成されており、吸引回復動作、ダミージェット動作、クリーニング動作等のメンテナンス動作を行うようになっている。
【0034】
また、各色のインクジェット記録ユニット30は、図2で示すように、インクジェット記録ヘッド32と、それにインクを供給するインクタンク34とが一体に構成されたものであり、インクジェット記録ヘッド32の下面中央のインク吐出面32Aに形成された複数のノズル56(図3参照)が、記録紙Pと対向するようにキャリッジ12上に搭載されている。したがって、インクジェット記録ヘッド32が主走査機構16によって主走査方向に移動しながら、記録紙Pに対してノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、所定のバンド領域に対して画像データに基づく画像の一部が記録される。
【0035】
そして、主走査方向への1回の移動が終了すると、記録紙Pは、副走査機構18によって副走査方向に所定ピッチ搬送され、再びインクジェット記録ヘッド32(インクジェット記録ユニット30)が主走査方向(前述とは反対方向)に移動しながら、次のバンド領域に対して画像データに基づく画像の一部が記録されるようになっており、このような動作を複数回繰り返すことによって、記録紙Pに画像データに基づく全体画像がフルカラーで記録される。
【0036】
以上のような構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。図3はインクジェット記録ヘッド32の構成を示す概略平面図であり、図4は図3のX−X線概略断面図である。この図3、図4で示すように、インクジェット記録ヘッド32には、インクタンク34と連通するインク供給ポート36が設けられており、そのインク供給ポート36から注入されたインク110は、インクプール室38に貯留される。
【0037】
インクプール室38は天板40と隔壁42とによって、その容積が規定されており、インク供給ポート36は、天板40の所定箇所に複数、列状に穿設されている。また、列をなすインク供給ポート36の間で、天板40よりも内側のインクプール室38内には、圧力波を緩和する樹脂膜製エアダンパー44(後述する感光性ドライフィルム96)が設けられている。
【0038】
天板40の材質は、例えばガラス、セラミックス、シリコン、樹脂等、インクジェット記録ヘッド32の支持体になり得る強度を有する絶縁体であれば何でもよい。また、天板40には、後述する駆動IC60へ通電するための金属配線90が設けられている。この金属配線90は、樹脂膜92で被覆保護されており、インク110による侵食が防止されるようになっている。
【0039】
隔壁42は樹脂(後述する感光性ドライフィルム98)で成形され、インクプール室38を矩形状に仕切っている。また、インクプール室38は、圧電素子46と、その圧電素子46によって上下方向に撓み変形させられる振動板48を介して、圧力室50と上下に分離されている。つまり、圧電素子46及び振動板48が、インクプール室38と圧力室50との間に配置される構成とされ、インクプール室38と圧力室50とが同一水平面上に存在しないように構成されている。
【0040】
したがって、圧力室50を互いに接近させた状態に配置することが可能であり、ノズル56をマトリックス状に高密度に配設することが可能となっている。また、このような構成にしたことにより、キャリッジ12の主走査方向への1回の移動で、広いバンド領域に画像を形成することができるので、その走査時間が短くて済む。すなわち、少ないキャリッジ12の移動回数及び時間で記録紙Pの全面に亘って画像形成を行う高速印刷が実現可能となっている。
【0041】
圧電素子46は、圧力室50毎に振動板48の上面に接着されている。振動板48は、SUS等の金属で成形され、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子46に通電されると(電圧が印加されると)、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。なお、振動板48は、ガラス等の絶縁性材料であっても差し支えはない。圧電素子46の下面には一方の極性となる下部電極52(配線(第一配線)としての機能も兼ねる)が配置され、圧電素子46の上面には他方の極性となる上部電極54が配置されている。そして、この上部電極54に駆動IC60が金属配線86(第二配線)により電気的に接続されている。
【0042】
また、圧電素子46(上部電極54を含む)は、低透水性絶縁膜80(本実施例ではSiOX膜を適用)で被覆保護されている。圧電素子46を被覆保護している低透水性絶縁膜80は、水分透過性が低くなる条件で着膜するため、水分が圧電素子46の内部に侵入して信頼性不良となること(PZT膜内の酸素を還元することにより生ずる圧電特性の劣化)を防止できる。なお、下部電極52と接触する金属(SUS等)製の振動板48は、低抵抗なGND配線としても機能するようになっている。
【0043】
ここで、低透水性絶縁膜80とは、ダングリングボンド(構成原子の未結合手)の密度が1×1018cm-3以上(好ましくは5×1018〜5×1019cm-3)であり、ダングリングボンドにより水分をトラップし低透水性を実現するものである。このダングリングボンド密度は、Electron Spin Resonance(ESR)測定により求めることができる。
【0044】
このように、低透水性絶縁膜80は、十分にダングリングボンド密度が高いので、例えばその膜厚を例えば0.1μmと薄くしても、耐湿性を十分付与するために必要なダングリングボンド(総数)を得ることができる。このため、低透水性絶縁膜80による圧電素子の機械的拘束が小さくなり、圧電素子変移の阻害が良好に防止される。
【0045】
更に、圧電素子46は、その低透水性絶縁膜80の上面が、樹脂絶縁膜82で被覆保護されている。これにより、圧電素子46において、インク110による侵食の耐性が確保されるようになっている。これら低透水性絶縁膜80及び樹脂絶縁膜82は、圧電素子46を被覆保護すると共に圧電素子46が設けられていない領域の下部電極52(第一配線)も被覆保護しており、層間絶縁膜としても機能させている。また、金属配線86(第二配線)も、樹脂保護膜88(第2樹脂絶縁膜)で被覆保護され、当該配線の保護膜としても機能させ、インク110による侵食が防止されるようになっている。
【0046】
また、圧電素子46の上方は、樹脂絶縁膜82で被覆保護され、樹脂保護膜88が被覆されない構成になっている。樹脂絶縁膜82は、柔軟性がある樹脂層であるため、このような構成により、圧電素子46(振動板48)の変位阻害が防止されるようになっている(上下方向に好適に撓み変形可能とされている)。つまり、圧電素子46上方の樹脂層は、薄い方がより変位阻害の抑制効果が高くなるので、樹脂保護膜88を被覆しないようにしている。
【0047】
駆動IC60は、隔壁42で規定されたインクプール室38の外側で、かつ天板40と振動板48との間に配置されており、振動板48や天板40から露出しない(突出しない)構成とされている。したがって、インクジェット記録ヘッド32の小型化が実現可能となっている。
【0048】
また、その駆動IC60の周囲は樹脂材58で封止されている。この駆動IC60を封止する樹脂材58の注入口40Bは、図5で示すように、製造段階における天板40において、各インクジェット記録ヘッド32を仕切るように格子状に複数個穿設されており、後述する圧電素子基板70と流路基板72とを結合(接合)後、樹脂材58によって封止された(閉塞された)注入口40Bに沿って天板40を切断することにより、マトリックス状のノズル56(図3参照)を有するインクジェット記録ヘッド32が1度に複数個製造される構成になっている。
【0049】
また、この駆動IC60の下面には、図4、図6で示すように、複数のバンプ62がマトリックス状に所定高さ突設されており、振動板48上に圧電素子46が形成された圧電素子基板70の金属配線86にフリップチップ実装されるようになっている。したがって、圧電素子46に対する高密度接続が容易に実現可能であり、駆動IC60の高さの低減を図ることができる(薄くすることができる)。これによっても、インクジェット記録ヘッド32の小型化が実現可能となっている。
【0050】
また、図3において、駆動IC60の外側には、バンプ64が設けられている。このバンプ64は、天板40に設けられる金属配線90と、圧電素子基板70に設けられる金属配線86とを接続しており、当然ながら、圧電素子基板70に実装された駆動IC60の高さよりも高くなるように設けられている。
【0051】
したがって、インクジェット記録装置10の本体側から天板40の金属配線90に通電され、その天板40の金属配線90からバンプ64を経て金属配線86に通電され、そこから駆動IC60に通電される構成である。そして、その駆動IC60により、所定のタイミングで圧電素子46に電圧が印加され、振動板48が上下方向に撓み変形することにより、圧力室50内に充填されたインク110が加圧されて、ノズル56からインク滴が吐出する構成である。
【0052】
インク滴を吐出するノズル56は、圧力室50毎に1つずつ、その所定位置に設けられている。圧力室50とインクプール室38とは、圧電素子46を回避するとともに、振動板48に穿設された貫通孔48Aを通るインク流路66と、圧力室50から図4において水平方向へ向かって延設されたインク流路68とが連通することによって接続されている。このインク流路68は、インクジェット記録ヘッド32の製造時に、インク流路66とのアライメントが可能なように(確実に連通するように)、予め実際のインク流路66との接続部分よりも少し長めに設けられている。
【0053】
以上のような構成のインクジェット記録ヘッド32において、次に、その製造工程について、図7乃至図13を基に詳細に説明する。図7で示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、圧電素子基板70と流路基板72とを別々に作成し、両者を結合(接合)することによって製造される。そこで、まず、圧電素子基板70の製造工程について説明するが、圧電素子基板70には、流路基板72よりも先に天板40が結合(接合)される。
【0054】
図8(A)で示すように、まず、貫通孔76Aが複数穿設されたガラス製の第1支持基板76を用意する。第1支持基板76は撓まないものであれば何でもよく、ガラス製に限定されるものではないが、ガラスは硬い上に安価なので好ましい。この第1支持基板76の作製方法としては、ガラス基板のフェムト秒レーザー加工や、感光性ガラス基板(例えば、HOYA株式会社製PEG3C)を露光・現像する等が知られている。
【0055】
そして、図8(B)で示すように、その第1支持基板76の上面(表面)に接着剤78を塗布し、図8(C)で示すように、その上面に金属(SUS等)製の振動板48を接着する。このとき、振動板48の貫通孔48Aと第1支持基板76の貫通孔76Aとは重ねない(オーバーラップさせない)ようにする。なお、振動板48の材料として、ガラス等の絶縁性基板を用いても差し支えない。
【0056】
ここで、振動板48の貫通孔48Aは、インク流路66の形成用とされる。また、第1支持基板76に貫通孔76Aを設けるのは、後工程で薬液(溶剤)を第1支持基板76と振動板48との界面に流し込むためで、接着剤78を溶解して、その第1支持基板76を振動板48から剥離するためである。更に、第1支持基板76の貫通孔76Aと振動板48の貫通孔48Aとを重ねないようにするのは、製造中に使用される各種材料が第1支持基板76の下面(裏面)から漏出しないようにするためである。
【0057】
次に、図8(D)で示すように、振動板48の上面に積層された下部電極52をパターニングする。具体的には、金属膜スパッタ(膜厚500Å〜3000Å)、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(エッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。この下部電極52が接地電位となる。次に、図8(E)で示すように、下部電極52の上面に、圧電素子46の材料であるPZT膜と上部電極54を順にスパッタ法で積層し、図8(F)で示すように、圧電素子46(PZT膜)及び上部電極54をパターニングする。
【0058】
具体的には、PZT膜スパッタ(膜厚3μm〜15μm)、金属膜スパッタ(膜厚500Å〜3000Å)、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(エッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。下部及び上部の電極材料としては、例えば圧電素子であるPZT材料との親和性が高く、耐熱性がある、Au、Ir、Ru、Pt等が挙げられる。
【0059】
その後、図8(G)で示すように、上面に露出している下部電極52と上部電極54の上面に低透水性絶縁膜(Si系酸化膜:SiOx膜)80を積層し、更に、その低透水性絶縁膜(Si系酸化膜:SiOx膜)80の上面に、耐インク性と柔軟性を有する樹脂絶縁膜82、例えばポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等の樹脂膜を積層して、それらをパターニングすることで、圧電素子46と金属配線86を接続するための開口84(コンタクト孔)を形成する。
【0060】
具体的には、Chemical Vapor Deposition(CVD)法にてダングリングボンド密度が高い低透水性絶縁膜(SiOx膜)80を着膜する、感光性ポリイミド(例えば、富士フイルムアーチ社製の感光性ポリイミド Durimide7520)を塗布・露光・現像することでパターニングを行う、CF4系ガスを用いたReactive Ion Etching(RIE)法で上記感光性ポリイミドをマスクとしてSiOx膜をエッチングする、という加工を行う。なお、ここでは低透水性絶縁膜としてSi系酸化膜(SiOx膜)を用いたが、Si系窒素膜(SiNx膜)、Si系窒素膜(SiOxNy膜)等であってもよい。
【0061】
ここで、低透水性絶縁膜80を上記ダングリングボンド密度の範囲を満たすためには、ECR(Electron Cyclotron Resonance)法で形成することが、低温での成膜が可能となるため膜中のダングリングボンドが他の不純物原子(水素)と反応して消滅する割合が減少するためよい。
【0062】
このECR法は、RF(Radio Frequency)法よりも簡易な成膜条件(例えば、Chemical Vapor Deposition(CVD)法で条件は、O2/SiH4比=1.2、マイクロ波電力=300W、着膜温度=100℃、ガス圧力=0.13Pa)で、上記ダングリングボンド密度の範囲を満たす低透水性絶縁膜80を形成することができる。但し、RF(Radio Frequency)法によっても成膜条件(例えば、CVD法で条件はN2O/SiH4比=10、RF電力=120W、着膜温度=300℃、ガス圧力=130Pa)よっては、上記ダングリングボンド密度の範囲を満たす低透水性絶縁膜80を形成することができる。
【0063】
なお、ECR法で形成した低透水性絶縁膜80は、RFで形成したものよりも、上述のようにダングリングボンド密度が高いことから、必要なダングリングボンド(総数)を得るための膜厚を薄くすることができ(例えば、RF法に対して1/5の膜厚)、圧電素子46の機械的拘束力を小さくするためには有利である。ここではCVD法の例を示したが、スパッタ法により成膜してもよい。ターゲットにSiを用いて、ArとO2の混合ガスのプラズマ放電を利用して成膜する。またSiNx膜をスパッタ成膜するにはArとN2の混合ガスを用いればよい。その他の膜、例えばAlOx膜、AlNx膜、TaOx膜、TaNxなどについても適宜ターゲット材料とガスを選択してやればよい。このスパッタ法はスループットがCVD法に比べて低く生産性の点では劣るが、原材料(ターゲットとガス)が水素(H)を含まないために水素による還元がもたらす圧電素子の性能(圧電性)低下も防止できる。CVD法、スパッタ法のどちらも外部から侵入する水分はブロックするので、重視する項目(生産性あるいは性能)により、方式を選択すればよい。
【0064】
次いで、図8(H)で示すように、開口84内の上部電極54と樹脂絶縁膜82の上面に金属膜を積層し、金属配線86をパターニングする。具体的には、スパッタ法にてAl膜(厚さ1μm)を着膜する、ホトリソグラフィー法でレジストを形成する、塩素系のガスを用いたRIE法にてAl膜をエッチングする、酸素プラズマにてレジスト膜を剥離する、という加工を行い、上部電極54と金属配線86(Al膜)とを接合する。なお、図示しないが、下部電極52の上にも開口84が設けられ、上部電極54と同様に金属配線86と接続されている。
【0065】
そして更に、図8(I)で示すように、金属配線86及び樹脂絶縁膜82の上面に樹脂保護膜88(例えば、富士フイルムアーチ社製の感光性ポリイミド Durimide7320)を積層してパターニングする。この樹脂保護膜88は、樹脂絶縁膜82と同種の樹脂材料で構成される。また、このとき、圧電素子46の上方で、金属配線86がパターニングされていない部位には、樹脂保護膜88を積層しないようにする(樹脂絶縁膜82のみが積層されるようにする)。
【0066】
ここで、圧電素子46の上方(樹脂絶縁膜82の上面)に樹脂保護膜88を積層しないのは、振動板48(圧電素子46)の変位(上下方向の撓み変形)が阻害されるのを防止するためである。また、圧電素子46の上部電極54から引き出す(上部電極54に接続される)金属配線86が樹脂製の保護膜88で被覆されると、その樹脂保護膜88は、金属配線86が積層される樹脂絶縁膜82と同種の樹脂材料で構成されているため、金属配線86を被覆するそれらの接合力が強固になり、界面からのインク110の侵入による金属配線86の腐食を防止することができる。
【0067】
なお、この樹脂保護膜88は、樹脂絶縁膜82と同種の樹脂材料となっているため、下層の樹脂絶縁膜82に対する接合力が強固となっている。また、樹脂保護膜88は、隔壁42(感光性ドライフィルム98)とも同種の樹脂材料となっているため、この隔壁42(感光性ドライフィルム98)に対する接合力も強固になっている。したがって、それぞれの界面からのインク110の侵入がより一層防止され、インク漏れや金属配線86の侵食を防止した構成である。また、このように、同種の樹脂材料で構成されると、それらの熱膨張率が略等しくなるので、熱応力の発生が少なくて済む利点もある。
【0068】
次に、図8(J)で示すように、金属配線86にバンプ62を介して駆動IC60をフリップチップ実装する。このとき、駆動IC60は、予め半導体ウエハプロセスの終りに実施されるグラインド工程にて、所定の厚さ(70μm〜300μm)に加工されている。駆動IC60が厚すぎると、隔壁42のパターニングやバンプ64の形成が困難になったりする。
【0069】
駆動IC60を金属配線86にフリップチップ実装するためのバンプ62の形成方法には、電界メッキ、無電界メッキ、ボールバンプ、スクリーン印刷等が適用できる。こうして、圧電素子基板70が製造され、この圧電素子基板70に、例えばガラス製の天板40が結合(接合)される。なお、以下の図9では、説明の便宜上、配線形成面を下面として説明するが、実際の工程では上面になる。
【0070】
ガラス製天板40の製造においては、図9(A)で示すように、天板40自体が支持体となる程度の強度を確保できる厚み(0.3mm〜1.5mm)を持っているので、別途支持体を設ける必要がない。まず、図9(B)で示すように、天板40の下面に金属配線90を積層してパターニングする。具体的には、スパッタ法にてAl膜(厚さ1μm)を着膜する、ホトリソグラフィー法でレジストを形成する、塩素系のガスを用いたRIE法にてAl膜をエッチングする、酸素プラズマにてレジスト膜を剥離する、という加工である。
【0071】
そして、図9(C)で示すように、金属配線90が形成された面に樹脂膜92(例えば、富士フイルムアーチ社製の感光性ポリイミド Durimide7320)を積層してパターニングする。なお、このとき、一部の金属配線90には、バンプ64を接合するため、樹脂膜92を積層しないようにする。
【0072】
次に、図9(D)で示すように、天板40の金属配線90が形成された面に、ホトリソグラフィー法でレジストをパターニングする。金属配線90が形成されていない面は、保護用レジスト94で全面を覆う。ここで、保護用レジスト94を塗布するのは、次のウエット(SiO2)エッチング工程で、天板40が金属配線90を形成した面の裏面からエッチングされるのを防止するためである。なお、天板40に感光性ガラスを用いた場合には、この保護用レジスト94の塗布工程を省略することができる。
【0073】
次いで、図9(E)で示すように、天板40にHF溶液によるウエット(SiO2)エッチングを行い、その後、保護用レジスト94を酸素プラズマにて剥離する。そして、図9(F)で示すように、天板40に形成された開口40A部分に感光性ドライフィルム96(例えば、日立化成工業株式会社製Raytec FR−5025:25μm厚)を露光・現像によりパターニングする(架設する)。この感光性ドライフィルム96が圧力波を緩和するエアダンパー44となる。
【0074】
そして次に、図9(G)で示すように、樹脂膜92に感光性ドライフィルム98(100μm厚)を積層して露光・現像によりパターニングする。この感光性ドライフィルム98がインクプール室38を規定する隔壁42となる。なお、隔壁42は、感光性ドライフィルム98に限定されるものではなく、樹脂塗布膜(例えば、化薬マイクロケム社のSU−8レジスト)としてもよい。このときには、スプレー塗布装置にて塗布し、露光・現像をすればよい。
【0075】
そして最後に、図9(H)で示すように、樹脂膜92が積層されていない金属配線90にバンプ64をメッキ法等で形成する。このバンプ64が駆動IC60側の金属配線86と電気的に接続するため、図示するように、感光性ドライフィルム98(隔壁42)よりもその高さが高くなるように形成されている。
【0076】
こうして、天板40の製造が終了したら、図10(A)で示すように、この天板40を圧電素子基板70に被せて、両者を熱圧着により結合(接合)する。すなわち、感光性ドライフィルム98(隔壁42)を感光性樹脂層である樹脂保護膜88に接合し、バンプ64を金属配線86に接合する。
【0077】
このとき、感光性ドライフィルム98(隔壁42)の高さよりもバンプ64の高さの方が高いので、感光性ドライフィルム98(隔壁42)を樹脂保護膜88に接合することにより、バンプ64が金属配線86に自動的に接合される。つまり、半田バンプ64は高さ調整が容易なので(潰れやすいので)、感光性ドライフィルム98(隔壁42)によるインクプール室38の封止とバンプ64の接続が容易にできる。
【0078】
隔壁42とバンプ64の接合が終了したら、図10(B)で示すように、駆動IC60に封止用樹脂材58(例えば、エポキシ樹脂)を注入する。すなわち、天板40に穿設されている注入口40B(図5参照)から樹脂材58を流し込む。このように樹脂材58を注入して駆動IC60を封止すると、駆動IC60を水分等の外部環境から保護できるとともに、圧電素子基板70と天板40との接着強度を向上させることができ、更には、後工程でのダメージ、例えば、できあがった圧電素子基板70をダイシングによってインクジェット記録ヘッド32に分割する際の水や研削片によるダメージを回避することができる。
【0079】
次に、図10(C)で示すように、第1支持基板76の貫通孔76Aから接着剤剥離溶液を注入して接着剤78を選択的に溶解させることで、その第1支持基板76を圧電素子基板70から剥離処理する。これにより、図10(D)で示すように、天板40が結合(接合)された圧電素子基板70が完成する。そして、この状態から、天板40が圧電素子基板70の支持体となる。
【0080】
一方、流路基板72は、図11(A)で示すように、まず、貫通孔100Aが複数穿設されたガラス製の第2支持基板100を用意する。第2支持基板100は第1支持基板76と同様、撓まないものであれば何でもよく、ガラス製に限定されるものではないが、ガラスは硬い上に安価なので好ましい。この第2支持基板100の作製方法としては、ガラス基板のフェムト秒レーザー加工や、感光性ガラス基板(例えば、HOYA株式会社製PEG3C)を露光・現像する等が知られている。
【0081】
そして、図11(B)で示すように、その第2支持基板100の上面(表面)に接着剤104を塗布し、図11(C)で示すように、その上面(表面)に樹脂基板102(例えば、厚さ0.1mm〜0.5mmのアミドイミド基板)を接着する。そして次に、図11(D)で示すように、その樹脂基板102の上面を金型106に押し付け、加熱・加圧処理する。その後、図11(E)で示すように、金型106を樹脂基板102から離型処理することにより、圧力室50やノズル56等が形成される流路基板72が完成する。
【0082】
こうして、流路基板72が完成したら、図12(A)で示すように、圧電素子基板70と流路基板72とを熱圧着により結合(接合)する。そして次に、図12(B)で示すように、第2支持基板100の貫通孔100Aから接着剤剥離溶液を注入して接着剤104を選択的に溶解させることで、その第2支持基板100を流路基板72から剥離処理する。
【0083】
その後、図12(C)で示すように、第2支持基板100が剥離された面を、アルミナを主成分とする研磨材を使用した研磨処理又は酸素プラズマを用いたRIE処理することにより、表面層が取り除かれ、ノズル56が開口される。そして、図12(D)で示すように、そのノズル56が開口された下面に撥水剤としてのフッ素材108(例えば、旭ガラス社製のCytop)を塗布することにより、インクジェット記録ヘッド32が完成し、図12(E)で示すように、インクプール室38や圧力室50内にインク110が充填可能とされる。
【0084】
なお、感光性ドライフィルム96(エアダンパー44)は、天板40の内側のインクプール室38内に設けられるものに限定されるものではなく、例えば図13で示すように、天板40の外側に設けられる構成としてもよい。すなわち、インク110の充填工程の直前に、インクプール室38の外側から天板40に感光性ドライフィルム96(エアダンパー44)を貼り付ける構成としてもよい。
【0085】
以上のようにして製造されるインクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10において、次に、その作用を説明する。まず、インクジェット記録装置10に印刷を指令する電気信号が送られると、給紙トレイ26から記録紙Pが1枚ピックアップされ、副走査機構18により、所定の位置へ搬送される。
【0086】
一方、インクジェット記録ユニット30では、すでにインクタンク34からインク供給ポート36を介してインクジェット記録ヘッド32のインクプール室38にインク110が注入(充填)され、インクプール室38に充填されたインク110は、インク流路66、68を経て圧力室50へ供給(充填)されている。そして、このとき、ノズル56の先端(吐出口)では、インク110の表面が圧力室50側に僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
【0087】
そして、キャリッジ12に搭載されたインクジェット記録ヘッド32が主走査方向に移動しながら、複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、記録紙Pの所定のバンド領域に、画像データに基づく画像の一部を記録する。すなわち、駆動IC60により、所定のタイミングで、所定の圧電素子46に電圧を印加し、振動板48を上下方向に撓み変形させて(面外振動させて)、圧力室50内のインク110を加圧し、所定のノズル56からインク滴として吐出させる。
【0088】
こうして、記録紙Pに画像データに基づく画像の一部が記録されたら、副走査機構18により、記録紙Pを所定ピッチ搬送させ、上記と同様に、インクジェット記録ヘッド32を主走査方向に移動しながら、再度複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、記録紙Pの次のバンド領域に、画像データに基づく画像の一部を記録する。そして、このような動作を繰り返し行い、記録紙Pに画像データに基づく画像が完全に記録されたら、副走査機構18により、記録紙Pを最後まで搬送し、排紙トレイ28上に記録紙Pを排出する。これにより、記録紙Pへの印刷処理(画像記録)が完了する。
【0089】
ここで、このインクジェット記録ヘッド32は、インクプール室38が、振動板48(圧電素子46)を間に置いて圧力室50の反対側(上側)に設けられている。換言すれば、インクプール室38と圧力室50の間に振動板48(圧電素子46)が配置され、インクプール室38と圧力室50が同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室50が互いに近接配置され、ノズル56が高密度に配設されている。
【0090】
そして、圧電素子46の表面(インクプール室38側の表面)上には、低透水性絶縁膜80及び樹脂絶縁膜82からなる保護膜を設けている。このため、上述のように、保護膜の下層として低透水性絶縁膜により圧電素子に耐湿性を付与し、保護膜の上層として樹脂絶縁膜により圧電素子に耐インク性を付与し、耐インク性及び耐湿性の双方を同時改善し、長期に渡り高い信頼性を確保している。
【0091】
特に、振動板48を間に置いて圧力室50と反対側にインクプール室38を設けると共に、振動板48を間に置いて圧電素子46をインクプール室38側に設けて、高密度化を図った構成においては、圧電素子46がインクプール室38に充填されるインクに覆われる構成となるため、特に効果的に耐インク性及び耐湿性の双方が改善される。
【0092】
また、低透水性絶縁膜80はその膜厚を薄くすることができると共に、樹脂絶縁膜82は柔軟性を有するため、圧電素子46の変移を阻害することもない。また、耐湿性を改善するために用いられた高価な金属を使用することなく、耐インク性及び耐湿性の双方を同時に改善している。
【0093】
なお、低透水性絶縁膜80及び樹脂絶縁膜82からなる保護膜を設けて形態を説明したが、圧電素子46の表面(インクプール室38側の表面)上には、保護膜として低透水性絶縁膜80のみを設けた形態であってもよい。これにより、上述のように圧電素子に十分な耐湿性を付与され、長期に渡り高い信頼性を確保することができる。
【0094】
以上、インクジェット記録ヘッド32を構成する圧電素子基板70及び流路基板72は、常に硬い支持基板76、100上でそれぞれ製造され、かつ、それらの製造工程において、支持基板76、100がそれぞれ不要となった時点で、各支持基板76、100が取り除かれるという製造方法が採用されているので、極めて製造しやすい構成となっている。なお、製造された(完成した)インクジェット記録ヘッド32は、天板40によって支持されるので(天板40が支持体とされるので)、その剛性は確保される。
【0095】
その他、上記実施例のインクジェット記録装置10では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクジェット記録ユニット30がそれぞれキャリッジ12に搭載され、それら各色のインクジェット記録ヘッド32から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が記録紙Pに記録されるようになっているが、本発明におけるインクジェット記録は、記録紙P上への文字や画像の記録に限定されるものではない。
【0096】
すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴噴射装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド32を適用することができる。
【0097】
また、上記実施例のインクジェット記録装置10では、主走査機構16と副走査機構18を有するPartial Width Array(PWA)の例で説明したが、本発明におけるインクジェット記録は、これに限定されず、紙幅対応のいわゆるFull Width Array(FWA)であってもよい。むしろ、本発明は、高密度ノズル配列を実現するのに有効なものであるため、1パス印字を必要とするFWAには好適である。
【0098】
(試験例)
以下、上記実施例において、圧電素子46をダングリングボンド密度が1×1018cm-3以上の低透水性絶縁膜80と樹脂絶縁膜82を順次積層した保護膜で被覆した構成1、この構成1と比較するために圧電素子46を樹脂絶縁膜82のみで被覆した構成2を作製し、以下の評価を行った。また、ダングリングボンド密度が1×1018cm-3未満の低透水性絶縁膜80と樹脂絶縁膜82を順次積層した保護膜で被覆した構成3を作製し、同様に評価した。
【0099】
−構成1−
次のようにして、ダングリングボンド密度が1×1018cm-3以上の低透水性絶縁膜80と樹脂絶縁膜82を順次積層して、圧電素子46を被覆した。
低透水性絶縁膜(SIOx膜)はECR CVD法でO2/SiH4比=1.2、マイクロ波電力=300W、着膜温度=100℃、ガス圧力=0.13Pa)の条件で膜厚0.5μm成膜する。この時の膜中におけるダングリングボンド密度は5×1018cm-3である。続いてポリイミド樹脂膜を塗布法により膜厚1μm成膜し、硬化熱処理をN2ガス中で300℃、20分間実施する。この熱処理によりポリイミド材料の耐インク性が大きく向上する。
【0100】
−構成2−
次のようにして、樹脂絶縁膜82を積層して、圧電素子46を被覆した。
ポリイミド樹脂膜を塗布法により膜厚1μm成膜し、硬化熱処理をN2ガス中で300℃、20分間実施する。この熱処理によりポリイミド材料の耐インク性が大きく向上する。上記構成例1におけるポリイミド樹脂膜と同じ条件で形成している。
【0101】
−構成3−
ダングリングボンド密度が1×1018cm-3未満の低透水性絶縁膜80と樹脂絶縁膜82を順次積層して、圧電素子46を被覆した。
絶縁膜(SiOxNy膜)はRFプラズマCVD法でN2O/SiH4比=45、RF電力=120W、着膜温度=300℃、ガス圧力=130Pa)の条件で膜厚0.5μm成膜する。この時の膜中におけるダングリングボンド密度は1×1017cm-3である。続いてポリイミド樹脂膜を塗布法により膜厚1μm成膜し、硬化熱処理をN2ガス中で300℃、20分間実施する。この熱処理によりポリイミド材料の耐インク性が大きく向上する。上記構成例1および構成例2におけるポリイミド樹脂膜と同じ条件で形成している。
【0102】
―評価―
上記3つの構成で作製したインクジェットヘッドを用いて下記2つの試験を実施した。
1.耐湿性試験:湿度85%、温度50℃の環境条件のもとで通電パルス試験を実施した(インクは充填しない)。圧電体は封止していないため、前記環境条件に直接さらされている。寿命の判定基準は圧電特性(静電容量)が初期値から20%低下した時のパルスの数とした。
2.耐インク性試験:ヘッドをpH9、65℃、のインクに所定時間浸漬した後、圧電素子部の腐食を光学顕微鏡と走査型電子顕微鏡で観察した。圧電素子上の保護膜(耐湿性絶縁膜とポリイミド樹脂)が消失し、電極が露出した段階を寿命と判定した。
【0103】
―評価結果―
構成1では耐湿性試験において1×1010パルスの通電試験後においても特性劣化はほとんど無く、所定の範囲内におさまった。また耐インク性試験においては400時間放置後も保護膜(ポリイミド膜)の劣化はみられなかった。
構成2では耐湿性試験において5×106パルスの通電試験後において20%特性劣化が見られた。一方、耐インク性試験においては400時間放置後も保護膜(ポリイミド膜)の劣化はみられなかった。
構成3では耐湿性試験において2×107パルスの通電試験後において20%特性劣化が見られた。一方、耐インク性試験においては400時間放置後も保護膜(ポリイミド膜)の劣化はみられなかった。
【0104】
この評価結果から、構成1は、低透水性絶縁膜80及び樹脂絶縁膜82で被覆しているため、耐インク性及び耐湿性の双方に優れていることがわかる。これに対し、構成2では、耐インク性は改善されているものの、耐湿性は改善されてなかった。
【0105】
また、構成3では、低透水性絶縁膜80及び樹脂絶縁膜82で被覆しているものの、低透水性絶縁膜80のダングリングボンド密度が低いため、十分な耐湿性が付与されていないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】インクジェット記録装置を示す概略斜視図
【図2】キャリッジに搭載されたインクジェット記録ユニットを示す概略斜視図
【図3】インクジェット記録ヘッドの構成を示す概略平面図
【図4】図3のX−X線概略断面図
【図5】インクジェット記録ヘッドとして切断される前の天板を示す概略平面図
【図6】駆動ICのバンプを示す概略平面図
【図7】インクジェット記録ヘッドを製造する全体工程の説明図
【図8−1】圧電素子基板を製造する工程(A)〜(F)を示す説明図
【図8−2】圧電素子基板を製造する工程(G)〜(J)を示す説明図
【図9−1】天板を製造する工程(A)〜(D)を示す説明図
【図9−2】天板を製造する工程(E)〜(H)を示す説明図
【図10−1】圧電素子基板に天板を接合する工程(A)〜(B)を示す説明図
【図10−2】圧電素子基板に天板を接合する工程(C)〜(D)を示す説明図
【図11】流路基板を製造する工程を示す説明図
【図12−1】圧電素子基板に流路基板を接合する工程(A)〜(B)を示す説明図
【図12−2】圧電素子基板に流路基板を接合する工程(C)〜(E)を示す説明図
【図13】エアダンパーの配置が異なるインクジェット記録ヘッドを示す説明図
【図14】従来のインクジェット記録ヘッドの構造を示す概略断面図
【図15】従来のインクジェット記録ヘッドの構造を示す概略平面図
【符号の説明】
【0107】
10 インクジェット記録装置
30 インクジェット記録ユニット
32 インクジェット記録ヘッド
36 インク供給ポート
38 インクプール室
40 天板
42 隔壁
44 エアダンパー
46 圧電素子
48 振動板
50 圧力室
56 ノズル
60 駆動IC
66 インク流路
68 インク流路
70 圧電素子基板
72 流路基板
76 第1支持基板
80 低透水性絶縁膜(保護膜)
82 樹脂絶縁膜(保護膜)
88 樹脂保護膜(第2樹脂絶縁膜)
86 金属配線(第二配線)
90 金属配線
100 第2支持基板
110 インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、前記圧電体を挟む二つの電極と、を有する圧電素子であって、
前記圧電素子は、保護膜として低透水性絶縁膜で被覆されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
圧電体と、前記圧電体を挟む二つの電極と、を有する圧電素子であって、
前記圧電素子は、低透水性絶縁膜と樹脂絶縁膜とを順次積層した保護膜で被覆されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
前記樹脂絶縁膜は、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、又はシリコーン系の樹脂膜で構成されることを特徴とする請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記低透水性絶縁膜は、ダングリングボンド密度が1×1018cm-3以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記低透水性絶縁膜は、ECR(Electron Cyclotron Resonance)法で形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記低透水性絶縁膜は、Si系酸化膜、Si系窒化膜、又はSi系酸窒化膜で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記電極の一方に接続される第一配線が設けられ、
前記保護膜は、さらに前記第一配線を被覆し層間絶縁膜として機能させることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項8】
前記保護膜上には前記電極の一方に接続される第二配線が設けられ、さらに当該配線を覆うように第2樹脂絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記第2樹脂絶縁膜は、前記保護膜として設けられる前記樹脂絶縁膜と同一の樹脂膜で構成されることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子。
【請求項10】
インク滴を吐出するノズルと、
前記ノズルと連通し、インクが充填される圧力室と、
前記圧力室の一部を構成する振動板と、
前記圧力室へインク流路を介して供給するインクをプールするインクプール室と、
前記振動板を変位させる圧電素子と、
を有するインクジェット記録ヘッドにおいて、
前記圧電素子は、請求項1〜9のいずれか1項に記載の圧電素子であることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録ヘッドを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−32900(P2006−32900A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−708(P2005−708)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】