説明

地下構造物およびその止水方法

【課題】耐久性が高く、施工が容易なシール構造を得られる地下構造物およびその止水方法を提供することを課題とする。
【解決手段】推進工法によって並設された複数本のトンネル函体10,10・・・を利用して築造する地下構造物1であって、隣り合う二つのトンネル函体10,10のうち、少なくとも一方のトンネル函体10の他方のトンネル函体10に対向する外表面10aに、水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成された弾性シール部材20を推進方向に沿って設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造する地下構造物およびその止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成することにより大断面トンネルを築造する技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行のトンネルが、先行のトンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行のトンネルを後行のトンネルに沿って平行に推進させるために、図10に示すように、隣り合う二つのトンネル100,100のうち、一方のトンネル100の推進函体101には、他方のトンネル100側に開口するガイド溝102がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネル100の推進函体101には、一方のトンネルのガイド溝102に遊嵌する突条103が形成された地下構造物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の地下構造物では、突条103とガイド溝102との間に止水材104を充填することで、隣り合うトンネル100,100間の隙間をシールするようになっている。
【0006】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記の地下構造物では、ガイド溝102を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材104を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。また、止水材104は、永久的なものではないため、これを本設のシール材とするのはあまり好ましくなかった。さらに、曲線施工時には、裏込材の除去や止水材104の充填等の止水施工が困難であった。
【0008】
このような観点から、本発明は、耐久性が高く、施工が容易なシール構造を得られる地下構造物およびその止水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために創案された本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造する地下構造物であって、隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、少なくとも一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、弾性シール部材を推進方向に沿って設けたことを特徴とする地下構造物である。
【0010】
かかる発明は、本発明者が、推進工法の施工において、後行のトンネル函体が推進する際に先行のトンネル函体に近付く傾向があるといった知見を得て、この傾向を利用して函体間に弾性シール部材を設けたものである。すなわち、かかる地下構造物は、後行のトンネル函体が先行のトンネル函体に近付こうとする力を利用して、弾性シール部材を挟んで各函体に密着させてシールするようにしたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、トンネル函体の外表面に弾性シール部材を設けてトンネル函体を推進させるだけで止水施工を行うことができるので、施工の手間と時間を短縮でき、施工が容易になるとともに、曲線施工も容易に行うことができる。また、弾性シール部材は永久的なシール材であるので、シール構造の耐久性を高めることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記弾性シール部材が、水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の地下構造物である。
【0013】
このような構成によれば、弾性シール部材が地中の水分を吸って膨張することで、弾性シール部材とこれを挟み込む両トンネル函体の外表面との密着性がさらに高まるので、止水性能をより一層高めることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造する地下構造物の止水方法であって、隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、弾性シール部材を推進方向に沿って設け、隣り合う二つの前記トンネル函体間で前記弾性シール部材を挟んで圧縮することで前記トンネル函体間の隙間をシールすることを特徴とする地下構造物の止水方法である。
【0015】
このような方法によれば、請求項1に係る発明と同様に、止水施工が容易になるとともに、シール構造の耐久性を高めることができる。さらに、トンネル函体の推進と同時に止水施工を行える。
【0016】
請求項4に係る発明は、隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、前記弾性シール部材よりも硬質のスペーサを設け、隣り合う二つの前記トンネル函体間の距離を所定長さに保つことを特徴とする請求項3に記載の地下構造物の止水方法である。
【0017】
このような方法によれば、トンネル函体間の距離を一定に保つことができるので、弾性シール部材が必要以上に圧縮されることはなく、適切な応力で圧縮され、適度な弾性力を発現できるので、止水性能を高めることができるとともに、弾性シール部材の剥離や損傷を防止することができる。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記スペーサが、少なくとも前記弾性シール部材の推進方向前端部に設けられることを特徴とする請求項4に記載の地下構造物の止水方法である。
【0019】
このような方法によれば、スペーサが弾性シール部材の推進方向前端部を保護できるので、弾性シール部材の剥離を防止することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、前記スペーサが、その厚さ寸法が前記弾性シール部材の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の地下構造物の止水方法である。
【0021】
このような方法によれば、トンネル函体の推進時には、弾性シール部材は対向するトンネル函体の外表面に摺動しにくくなるので剥離することがない。また、弾性シール部材が地山中の水分を吸って膨張するので、弾性シール部材と対向するトンネル函体の外表面に密着でき、高い止水性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、容易な施工で地下構造物におけるシール構造の耐久性を高めることができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(第一実施形態)
以下、本発明を実施するための最良の第一の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
本実施形態に係る地下構造物1は、図1の(a)に示すように、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)のトンネルT1,T1,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。また、図1の(b)に示すように、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうち、一方のトンネルT1の覆工L1には、他方のトンネルT1側に開口するガイド溝D1がトンネル軸方向(図1の(b)において紙面垂直方向)に沿って形成されており、他方のトンネルT1の覆工L1には、一方のトンネルT1のガイド溝D1に遊嵌する突条P1が形成されている。なお、以下では、一方のトンネルT1のガイド溝D1と他方のトンネルT1の突条P1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも地下構造物1の外周側に、本発明の特徴部分である止水構造W1が形成されている。つまり、従来は継手J1で止水も行っていたのに対して、本実施形態では、継手J1と止水構造W1とが別個に設けられている。
【0025】
図1の(b)に示すように、止水構造W1は、隣り合う二つのトンネルT1,T1の各トンネル函体10,10のうち、一方のトンネル函体(本実施形態では後行するトンネル函体)10の他方のトンネル函体(本実施形態では先行するトンネル函体)10に対向する外表面10aに、弾性シール部材20を推進方向に沿って設け、隣り合う二つのトンネル函体10,10間で弾性シール部材20を挟んで圧縮することでトンネル函体10,10間の隙間をシールするように構成されている。
【0026】
弾性シール部材20は、図3乃至図5に示すように、断面の先端部が略半円形状の棒状に形成されており、トンネル函体10の長手方向に沿って連続して、その外表面10aに固定されている。弾性シール部材20は、図1に示すように、隣り合う二つのトンネル函体10,10間に挟まれて圧縮されて、その先端部が押圧されており、各トンネル函体10,10の外表面10a,10aにそれぞれ密着するようになっている。なお、弾性シール部材20は、本実施形態では、中実状に形成されているが、中空状であっても構わない。また、弾性シール部材20の断面形状も本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
弾性シール部材20は、例えばクロロプレン系ゴム等の水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成されている。弾性シール部材20がトンネル函体10の周囲の地中の水分を吸って膨張することで、弾性シール部材20とこれを挟み込む両トンネル函体10,10の外表面10a,10aとの密着性がさらに高まるように構成されている。
【0028】
次に、地下構造物1の築造方法の概要を、図2の(a)〜(d)を参照して説明する。なお、以下の説明においては、複数のトンネルT1,T1,…を、施工順にトンネルT11〜T16と称することがある。
【0029】
地下構造物1を築造するには、まず、図2の(a)に示すように、その断面内の下部中央に一本目のトンネルT11を構築したうえで、この一本目のトンネルT11の横両隣りに二本目のトンネルT12および三本目のトンネルT13を順次構築する。
【0030】
続いて、図2の(b)に示すように、一本目のトンネルT11の縦(上)隣りに四本目のトンネルT14を構築し、さらに、トンネルT12およびトンネルT14に隣接する位置に五本目のトンネルT15を構築し、トンネルT13およびトンネルT14に隣接する位置に六本目のトンネルT16を構築する。なお、トンネルT11〜T16の構築順序は、図示のものに限らず、適宜変更しても差し支えない。また、本実施形態においては、隣り合うトンネルT1,T1は、後行のトンネルT1を構築する際に、継手J1を介して互いに平行になるようにガイドされる。
【0031】
また、このとき、本発明者は、後行のトンネル函体10が推進する際に先行のトンネル函体10に近付く傾向があるといった知見を得ており、この傾向に着目して、隣り合うトンネル函体10,10間に弾性シール部材20を設けている。これによって、後行のトンネル函体10が先行のトンネル函体10に近付こうとする力が、弾性シール部材20を挟んで圧縮し各トンネル函体10,10の外表面10a,10aに密着させることとなるので、後行のトンネル函体10の推進と同時に、各トンネル函体10,10間がシールされる。
【0032】
なお、トンネルT1は、推進工法により構築するものとする。つまり、本実施形態においては、各トンネルT1の覆工L1は、トンネル軸方向に連設された複数のトンネル函体(推進函体)10,10,…(図3参照)からなり、また、後行のトンネルT1は、先行して構築したトンネルT1の隣りにおいて、複数のトンネル函体10,10,…を図示せぬ坑口から先行トンネルT1に沿って順次押し出すことにより構築される。なお、図示は省略するが、各トンネルT1において、トンネル軸方向に隣り合うトンネル函体10,10は、ボルト・ナット等を用いて互いに連結される。
【0033】
なお、図2の(a)に示す掘進機Kは、トンネル函体10を介して坑口側から伝達された図示せぬ元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよいし、その後方のトンネル函体10(図3参照)に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、図示せぬ推進ジャッキを装備しているもの)でもよい。また、掘進機Kのカッターヘッドとしては、例えば、放射状に配置されたカッタースポークK1,K1と、四隅に設けられたコーナーカッターK2,K2,…とを備えるものを採用することができる。なお、カッタースポークK1は、半径方向に伸縮可能に構成されている。これにより、掘削断面を矩形にすることが可能となる。なお、カッターヘッドの形態は、図示のものに限定されるものではなく、掘削断面の形状や土質等に応じて変更しても差し支えない。例えば、図示は省略するが、略菱形を呈する二つの揺動カッターを備えるカッターヘッドを採用してもよい。この場合、揺動カッターは、それぞれ揺動軸を中心に揺動し、互いに干渉しないように相反する方向に制御される。
【0034】
トンネルT11〜T16の構築が完了したら、図2の(c)に示すように、地下構造物1の断面形状に合わせて、トンネルT11〜T16の不要な覆工L12,L12,…を撤去して大きな空間を形成する。
【0035】
そして、図2の(d)に示すように、地山との境界(すなわち、地下構造物1の外縁)に沿って残置されたトンネルT11〜T16の覆工L11,L11,…を利用して本設の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成すると、大断面の地下構造物1となる。なお、不要な覆工L12を全部撤去した後に頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを形成してもよいし、トンネルT11〜T16の不要な覆工L12の一部を撤去しつつ、地下構造物1の頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを構築してもよい。
【0036】
次に、図3を参照してトンネル函体10の構成を詳細に説明する。なお、図3の右側に示すトンネル函体10は、一本目のトンネルT11(図2の(a)参照)に使用されるものであり、左側に示すトンネル函体10は、二本目のトンネルT12(図2の(a)参照)に使用されるものである。
【0037】
トンネル函体10は、角筒状に形成された外殻11と、トンネル軸方向に所定の間隔をあけて並設された複数の主桁12,12,…と、隣り合う主桁12,12間においてトンネル軸方向に沿って配置された複数の縦リブ13,13,…と、を備えて構成されている。
【0038】
外殻11は、溶接により接合された複数枚の鋼製のスキンプレート111,111,…からなり、全体として断面矩形を呈している。
【0039】
なお、図3の右側に示すトンネル函体10の外殻11の上面および左側面は、大小3枚のスキンプレート111により形成されており、かつ、隣り合うスキンプレート111,111間には隙間11aが形成されている。この隙間11aは、トンネル軸方向に延在しており、ガイド溝D1の開口部となっている。
【0040】
主桁12は、外殻11の内面に沿って枠状に配置された四枚の鋼製の板材からなり、各板材は、溶接により外殻11の内周面に接合されている。また、図3の右側に示すトンネル函体10の主桁12には、後記する溝部材14の断面形状に合わせて切欠きが形成されている。
【0041】
縦リブ13は、外殻11の内周面に溶接により接合された鋼製の板材からなる。なお、縦リブ13の長手方向の端部は、主桁12の側面に溶接により接合されている。
【0042】
また、トンネル函体10には、ガイド溝D1となる溝部材14および突条P1となる突部材15の両方または一方が外殻11の隅角部の近傍に取り付けられている。なお、ガイド溝D1および突条P1の位置および個数は、トンネルT1の位置に応じて適宜設定する。
【0043】
溝部材14は、外殻11の内周面において隙間11aに沿って配置されている。また、図5に示すように、溝部材14は、外殻11の隙間11aを挟んで対向する一対の対向片14a,14aと、この一対の対向片14a,14aのそれぞれの先端部に設けられた板材14bとを備えて構成されており、断面棒状の溝が形成されている。なお、対向片14aおよび板材14bは鋼製の部材からなり、溶接により互いに接合されている。
【0044】
突部材15は、図3に示すように、外殻11の外周面においてトンネル推進方向に沿って配置されており、その突端部分が外殻11の外側に突出している。また、図5に示すように、突部材15は、外殻11の外周面に配置された断面T字状の突条部材151と、外殻11の内周面に配置された押えプレート152と、突条部材151のフランジ151aと押えプレート152とを貫通するボルト153,153,…と、各ボルト153を締結するナット154,154,…とを備えて構成されている。
【0045】
突条部材151は、熱押形鋼、形鋼、鋳鉄、研り出し鋼などからなり、外殻11の外周面に固定されるフランジ151aと、このフランジ151aから立ち上がるウェブ151bとを備えている。また、図5に示すように、突条部材151のウェブ151bの幅(厚さ)が溝部材14の幅(すなわち、ガイド溝D1の開口幅a)よりも小さくなっており、突条部材151のウェブ151bは、上下左右に動き得るクリアランスをもって溝部材14の内部に入り込む。つまり、突条P1となる突条部材151は、ガイド溝D1となる溝部材14と遊嵌状態で結合することになる。このようにすると、突条部材151のウェブ151bは、溝部材14の幅内で移動が規制されることから、隣り合うトンネル函体10,10同士がこれらの近接離間方向(突条P1の突出方向)と直交する方向(図1の(b)中、上下方向)にずれるのを防ぐことができる。このとき、後行のトンネル函体10が推進する際には、先行のトンネル函体10に近付く傾向があるので、後行のトンネル函体10が先行のトンネル函体10から離反することはない。
【0046】
図3乃至図5に示すように、外殻11の外周面(トンネル函体10の外表面10a)には、止水構造W1(図1参照)を構成する弾性シール部材20が設けられている。弾性シール部材20は、断面略半円形状の棒状に形成されており、突条部材151(図3および図5参照)の外側に、この突条部材151と平行になるように配置されている。弾性シール部材20は、例えば、接着剤等によって、トンネル函体10の外表面10aに面的に接着されている。弾性シール部材20は、水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成されており、弾性シール部材20がトンネル函体10の周囲の地中の水分を吸って膨張することで、弾性シール部材20とこれを挟み込む両トンネル函体10,10の外表面10a,10aとの密着性がさらに高まるように構成されている。
【0047】
また、弾性シール部材20は、図3に示すように、工場等で長尺に形成されており、図示しないボビン等に巻き付けられた状態で運搬される。弾性シール部材20は、巻き付けられた状態で発進立坑(図示せず)内に載置され、推進されるトンネル函体10の外表面10aに順次接着固定されながら送り出される。このような構成によれば、弾性シール部材20を連続的に設けることができるので、施工現場での接着継ぎ作業を少なくでき、止水性および施工性を高めることができる。
【0048】
図3および図4に示すように、一方のトンネル函体(後行のトンネル函体)10の他方のトンネル函体(先行のトンネル函体)に対向する外表面10aには、隣り合う二つのトンネル函体10,10間の距離を所定長さに保つためのスペーサ30が設けられている。スペーサ30は、硬質樹脂あるいは鋼製の部材にて形成されており、弾性シール部材20よりも硬質である。スペーサ30は、トンネル推進方向の弾性シール部材20の前端部に配置されており、トンネル函体10の内側からボルト等の締結手段によって外殻11に固定されている。スペーサ30は、前端から後方に向かうに連れて厚さが厚くなるように傾斜して形成されており、トンネル函体10の推進に伴なって、その前方の地山の土砂を弾性シール部材20が通過する位置から押し退けるように進行する。
【0049】
図4に示すように、スペーサ30は、最も厚い部分の厚さ寸法が弾性シール部材20の厚さ寸法よりも小さくなるように形成されており(図4の(a)参照)、後行のトンネル函体10が先行のトンネル函体10の側部に推進した際に、弾性シール部材20が、スペーサ30の厚さまで圧縮されるように構成されている(図4の(b)参照)。スペーサ30の厚さは、弾性シール部材20を圧縮した際に、トンネル函体10に対して適度な弾性力を発現できる厚さに設定されている。このような構成のスペーサ30によって、弾性シール部材20が過度に圧縮されるのを防止できるので、後行のトンネル函体10が円滑に推進できるとともに、弾性シール部材20の損傷や外殻11からの剥離を防止できる。また、弾性シール部材20の前端部にスペーサ30を設けたことによって、その前方の地山の土砂を押し退けるように進行するので、推進方向前方から弾性シール部材20にかかる地山の圧力を低減でき、弾性シール部材20のトンネル函体10の外表面10a(外殻11)からの剥離を防止できる。
【0050】
なお、弾性シール部材20の前端部に設けられたスペーサ30は、後行のトンネル函体10の推進終了後に取り除かれ、そのスペーサ30が設けられていた部分には、シール材(図示せず)が充填される。
【0051】
スペーサ30は、弾性シール部材20の前端部のみならず、後方にも所定の間隔で設けられている。後方のスペーサ30(以下、スペーサ30aと称する)は、弾性シール部材20と突条部材151の内側(大断面の地下構造物1の内部側)で、後行のトンネル函体10の外表面10aに設けられている。後方のスペーサ30aも、前方のスペーサ30と同じ材質で同様の形状を呈しており、トンネル函体10の内側からボルト等の締結手段によって外殻11に固定されている。本実施形態では、後方のスペーサ30aは、トンネル函体10の外殻11の内側に設けられた主桁12,12に対応する位置にそれぞれ設けられている。なお、後方のスペーサ30aの位置は、突条部材151の内側に限られるものではなく、設置スペースがあれば、弾性シール部材20と突条部材151との間であってもよい。
【0052】
以上のように構成されたトンネル函体10を利用して各トンネルT1(図2参照)を構成すると、後行のトンネル函体10を先行のトンネル函体10に沿って推進させることで、弾性シール部材20が自動的に圧縮され、各外表面10a,10aに密着するので、施工時から止水性を得ることができる。
【0053】
つまり、後行のトンネル函体10を推進させると、このトンネル函体10は、先行のトンネル函体10に近付く方向に付勢されて進行していく。ここで、後行のトンネル函体10は、スペーサ30によってその厚さ以上は先行のトンネル函体10に近付かないので、各トンネル函体10,10間の距離はスペーサ30の厚さと同等になる。そのため、弾性シール部材20は、スペーサ30の厚さまで圧縮されて各トンネル函体10,10の外表面10a,10aにそれぞれ密着することとなる。このように、弾性シール部材20を所定の厚さ(スペーサ30の厚さ)に圧縮することで、弾性シール部材20はトンネル函体10に対して適度な弾性力を発現することができ、トンネル函体10,10間の止水性を得られる。
【0054】
また、本実施形態によれば、トンネル函体10の外表面10aに弾性シール部材20を設けてトンネル函体10を推進させるだけで止水施工を行うことができるので、施工の手間と時間を短縮でき、施工が容易になるとともに、曲線施工も容易に行うことができる。さらに、弾性シール部材20は永久的なシール材であるので、シール構造の耐久性を大幅に高めることができる。
【0055】
また、スペーサ30,30aは、弾性シール部材20の前端部と、その後方にも所定の間隔で設けられているので、トンネル函体10の推進方向全長に亘って、トンネル函体10,10間の距離を所望の間隔に保持することができ、弾性シール部材20が適度な弾性力を発現できるので、止水性が非常に高い。また、弾性シール部材20は長尺に形成されているので、継手部分が少なく止水性および施工性が高い。
【0056】
さらに、弾性シール部材20は、施工中あるいは施工後に、水分を吸って膨張するので、トンネル函体10の外表面10aに対する密着性がさらに高くなり、止水性をより一層高くすることができる。
【0057】
なお、掘削する地山の水分が多い場合には、弾性シール部材20を短時間で膨張する成分配合としておき、施工時から高い止水性を得るようにすることも可能である。
【0058】
一方、先行のトンネル函体10にガイド溝D1を形成して、後行のトンネル函体10にガイド溝D1に遊嵌する突条P1を形成したことによって、先行するトンネルT1が蛇行し、あるいは捩れている場合や、後行のトンネルT1の掘進機K(図2の(a)参照)にローリングやピッチング等が発生した場合であっても、これらの影響が両トンネルT1,T1の連結部分(継手J1)で吸収されることになるので、その施工を確実に行うことが可能となる。また、隣り合うトンネル函体10,10が必要以上に近接することがなく、またずれることがないので、スムーズかつ正確に寸法精度の高い地下構造物1を構築することが可能となる。
【0059】
なお、本実施形態では、スペーサ30,30aを弾性シール部材20よりも薄く形成しているが、これに限定されるものではなく、弾性シール部材20と同じ厚さ寸法あるいは弾性シール部材20よりも大きい厚さ寸法としてもよい。この場合は、弾性シール部材は必ず水膨潤性を備える部材で構成し、弾性シール部材が水分を吸った際にスペーサの厚さよりも厚くなるように成分配合されたものを用いることとする。このようにすれば、推進時には、弾性シール部材はトンネル函体と摺動することはなく、その損傷および剥離を確実に防止でき、推進後には、弾性シール部材がトンネル函体の外表面に密着して十分なシール性を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態では、弾性シール部材20の断面頂部が当接する先行のトンネル函体10の外表面10aは平面状に形成されているが、図6に示すように、断面円弧状の凹溝21を形成してもよい。この場合、スペーサ31は、図6の(a)に示すように、弾性シール部材20の厚さ寸法よりも大きい厚さ寸法を有して、その頂部(断面方向から見て先端側)が凹溝21の内周面に沿う形状に形成するのが好ましい。また、この場合、弾性シール部材20は、水膨潤性を備える硬質ゴムにて構成する。
【0061】
このような構成によれば、後行のトンネル函体10の推進時には、図6の(a)に示すように、スペーサ31が、先行のトンネル函体10の外表面10aに形成された凹溝21に入り込むので、トンネル函体10,10間の距離を決定できるとともに、トンネル函体10,10同士の近接離間方向と直交する方向(図6中、上下方向)の移動も規制することができる。これによって、図1に示すような突条P1とガイド溝D1を省略することができる場合がある。また、スペーサ31が、弾性シール部材20よりも厚く形成されているので、後方のトンネル函体10の推進時に、弾性シール部材20が対向するトンネル函体10と摺動しにくくなり、損傷したり剥離したりするのを防止できる。
【0062】
さらに、弾性シール部材20は、水膨潤性を備えているので、地山の土砂中の水分を吸うと、図6の(b)に示すように膨張して、凹溝21の内部に入り込んでその表面に密着する。これによって、十分な止水性を得ることができる。
【0063】
(第二実施形態)
次に、本発明を実施するための最良の第二の形態を、添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0064】
本実施形態に係る地下構造物(図示せず)は、止水構造W2が、図7の(a)および(b)に示すように、隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、一方のトンネル函体(後行のトンネル函体)10の他方のトンネル函体10に対向する外表面10aに、弾性シール部材22が推進方向に沿って設けられているとともに、他方のトンネル函体(先行のトンネル函体)10の外表面に、弾性シール部材22を覆って収容する収容溝32が形成されて構成されている。
【0065】
図7の(b)に示すように、弾性シール部材22は、第一実施形態と同様の水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成されており、弾性シール部材22がトンネル函体10の周囲の地山中の水分を吸って膨張することで、収容溝32の内表面に密着するように構成されている。
【0066】
図7の(a)に示すように、弾性シール部材22は、トンネル函体10の推進方向(軸方向)に延出しており、トンネル函体10の外表面10aに当接するフランジ部22aと、このフランジ部22aから立ち上がるウェブ部22bと、ウェブ部22bの先端に形成された円環部22cとを備えている。フランジ部22aは、例えば、接着剤等によって、トンネル函体10の外表面10aに面的に接着されて密着している。ウェブ部22bは、所定の柔軟性を備えており、後行のトンネル函体10が、先行のトンネル函体10に対してウェブ部22bの突出方向と直交する方向にずれたときに、変形してずれを吸収できるようになっている。円環部22cは、ウェブ部22bの厚さ寸法よりも大きい外径を備えて、拡幅するように構成されている。円環部22cの内部にはワイヤー22dが挿入されており、弾性シール部材22の剛性を高めている。
【0067】
収容溝32は、図8に示すように、外殻11の内周面において隙間11aに沿って配置されている。また、収容溝32は、図7の(a)に示すように、外殻11の隙間11aを挟んで対向する一対の対向片32a,32aと、この一対の対向片32a,32aのそれぞれの先端部に設けられた断面円弧状の形材32bとを備えて構成されており、奥に断面円状の拡幅部33を備えた形状に形成されている。なお、対向片32aおよび形材32bは鋼製の部材からなり、溶接により互いに接合されている。
【0068】
弾性シール部材22のウェブ部22bの先端側と円環部22cが、収容溝32内に挿入されて収容される。弾性シール部材22は、その表面が収容溝32の内表面と所定の間隔を隔てる寸法に形成されており、弾性シール部材22は、収容溝32にトンネル函体10の推進方向端部から収容されて、推進方向に沿って順次挿入されていく。なお、その他の構成については、図3のトンネル函体10と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
図8および図9に示すように、トンネル推進方向の弾性シール部材22の前端部には、隣り合う二つのトンネル函体10,10間の距離を所定長さに保つためのスペーサ35が設けられている。スペーサ35は、弾性シール部材22と同等の断面形状を呈しており、フランジ部35a、ウェブ部35bおよび円環部35cを備えている。スペーサ35は、ばね鋼にて構成されており、適度な剛性と弾性を備えている。この剛性は、スペーサ35が、収容溝32の幅内で移動が規制されて隣り合うトンネル函体10,10同士がこれらの近接離間方向と直交する方向(図7中、上下方向)にずれるのを防ぐことができる程度の強さであればよい。スペーサ35の先端部は、先端に向かうに連れてウェブ部35bの突出長さが短くなるように傾斜して形成されており、収容溝32内を推進しやすくなっている。また、スペーサ35は、円環部35cの先端が、収容溝32の奥側表面に当接することで、トンネル函体10,10間の距離を所望の長さに保持するようになっている。
【0070】
以上のような構成によれば、第一実施形態と同様に容易な施工で地下構造物におけるシール構造の耐久性を高めることができるといった作用効果を得られる他に、スペーサ35によって、隣り合うトンネル函体10,10同士がこれらの近接離間方向と直交する方向(図7中、上下方向)にずれるのを防ぐことができるといった作用効果を得られる。これによって、第一実施形態のような突条P1とガイド溝D1を設ける必要はないので、トンネル函体10の構成を単純化することができる。さらに、弾性シール部材22と収容溝32との密着面積を大きくすることができるので、止水性を高めることができる。
【0071】
(弾性シール部材の他の形態)
かかる弾性シール部材22は、前記構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、弾性シール部材22のウェブ部22bの表面に突条(図示せず)を形成するとともに、収容溝32の内表面に前記突条が入り込む凹溝(図示せず)を形成するようにしてもよい。このようによれば、弾性シール部材22の突条が凹溝に入り込んで密着するとともに堰の役目も果たすので、止水性を高めることができる。
【0072】
また、弾性シール部材22の円環部22cにワイヤーを挿入せずに中空状態にしておき、内部に液体を注入するようにしてもよい。このようにすれば、円環部22cに十分に水分を吸わせて、円環部22cを膨張させることができるので、収容溝32への密着性が高まり止水性を高めることができる。
【0073】
以上、本発明を実施するための最良の形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、前記の実施形態では、弾性シール部材20,22は後行のトンネル函体10に設けられているが、先行のトンネル函体10に設けてあってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】(a)は本発明に係る地下構造物の第一実施形態を示した断面図、(b)は(a)のX1部分の拡大図である。
【図2】(a)〜(d)は、本発明に係る地下構造物の第一実施形態の築造手順を示した断面図である。
【図3】本発明に係る地下構造物の第一実施形態のトンネル函体を示した斜視図である。
【図4】本発明に係る地下構造物の第一実施形態の(a)は推進前のトンネル函体を示した概略平面図、(b)は推進中のトンネル函体を示した概略平面図である。
【図5】隣り合う各トンネル函体の推進前の状態を示した側面図である。
【図6】弾性シール部材とこの弾性シール部材が当接するトンネル函体の変形例を示した側面図である。
【図7】(a)は本発明に係る地下構造物の第二実施形態のトンネル函体の推進中の止水構造を示した側面図、(b)はトンネル函体の推進後の止水構造を示した側面図である。
【図8】本発明に係る地下構造物の第二実施形態のトンネル函体を示した斜視図である。
【図9】本発明に係る地下構造物の第二実施形態の(a)は推進前のトンネル函体を示した概略平面図、(b)は推進中のトンネル函体を示した概略平面図である。
【図10】従来の止水構造を示した側面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 地下構造物
10 トンネル函体
10a 外表面
20 弾性シール部材
30 スペーサ
31 スペーサ
22 弾性シール部材
35 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造する地下構造物であって、
隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、少なくとも一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、弾性シール部材を推進方向に沿って設けた
ことを特徴とする地下構造物。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、水膨潤性を備えた硬質ゴムにて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の地下構造物。
【請求項3】
推進工法によって並設された複数本のトンネル函体を利用して築造する地下構造物の止水方法であって、
隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、弾性シール部材を推進方向に沿って設け、
隣り合う二つの前記トンネル函体間で前記弾性シール部材を挟んで圧縮することで前記トンネル函体間の隙間をシールする
ことを特徴とする地下構造物の止水方法。
【請求項4】
隣り合う二つの前記トンネル函体のうち、一方のトンネル函体の他方のトンネル函体に対向する外表面に、前記弾性シール部材よりも硬質のスペーサを設け、隣り合う二つの前記トンネル函体間の距離を所定長さに保つ
ことを特徴とする請求項3に記載の地下構造物の止水方法。
【請求項5】
前記スペーサは、少なくとも前記弾性シール部材の推進方向前端部に設けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の地下構造物の止水方法。
【請求項6】
前記スペーサは、その厚さ寸法が前記弾性シール部材の厚さ寸法よりも小さく形成されている
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の地下構造物の止水方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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