説明

地下水の前処理方法

【課題】比較清澄な地下水を、例えば、逆浸透膜処理への供給水とする場合に好適かつ安価で前処理装置の設置面積も少なくなる地下水の前処理方法を提供する。
【解決手段】地下水に予め無機酸を注入して供給水のpHを6.0〜6.5の範囲に調整した後、ポリ塩化アルミニウムを、レーザー散乱光方式の濁度計で測定される供給水の濁度に対してアルミニウムの濃度が0.1〜0.5倍の範囲となるように添加し、急速撹拌を行った後、有効径0.3〜0.45mm、均等係数1.4以下のろ過材からなる単一のろ過層を備えたろ過槽において、ろ過速度を360〜420m/日の範囲内となるようにして急速ろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水の前処理方法に関し、特に、比較的清澄な地下水の逆浸透膜処理(RO膜処理)における逆浸透膜(RO膜)の目詰まり(ファウリング)防止のための前処理方法に好適に用いられる地下水の前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
逆浸透膜処理は、精密膜ろ過(MF)、限外膜ろ過(UF)、ナノ膜ろ過(NF)などの広い意味での水の膜処理方法の一種であるが、精密膜ろ過(MF)や限外膜ろ過(UF)が水中の濁質あるいはコロイド成分の除去を目的とするのに対して、水に溶解している陽イオン、陰イオンの除去が可能で、海水の淡水化、超純水の製造、地下かん水の脱塩処理などの分野において今日、広く適用が進んでいる。
【0003】
逆浸透膜の表面には、電子顕微鏡によらなければ観察できないほどの微小な径の孔が存在するとされているが、水分子と種々のイオンとの拡散速度の差によって分離するのが基本的原理であり、精密膜ろ過(MF)、限外膜ろ過(UF)、ナノ膜ろ過(NF)などが膜表面に存在する孔により篩作用で分離するのとは原理的に異なる。
【0004】
したがって、逆浸透膜処理では水中に溶解している各種のイオン類を除去対象としているので、濁質あるいはコロイド成分を含む水を直接逆浸透膜処理すると、これらが膜表面に蓄積することによって、短時間で逆浸透膜の目詰まりを起こしてしまうという問題があった。
【0005】
このため、逆浸透膜処理においては、供給水中の濁質あるいはコロイド成分を予め除去するための前処理が必要であるとされている。
【0006】
ところで、逆浸透膜処理における前処理方法としては、上部に粒径が1.2mm程度のアンスラサイトのろ過層、下部に粒径が0.6mm程度のろ過砂(珪砂)で構成した複層のろ過層による急速ろ過法や精密膜ろ過(MF)、限外膜ろ過(UF)、ナノ膜ろ過(NF)などの膜ろ過法が一般的に用いられている。
【0007】
例えば、特許文献1には、逆浸透膜処理への供給水中のスケール生成成分であるカルシウムを流動床式カルシウム除去工程で除去した後、凝集工程とろ過工程とからなる逆浸透膜処理の前処理装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、予め紫外線照射や薬剤などで原水中のバクテリアを滅菌した後、凝集ろ過する水処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−24673号公報
【特許文献2】特開2006−187697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
逆浸透膜処理への供給水が比較的清澄な地下水の場合、逆浸透膜処理の前処理方法としては、精密膜ろ過(MF)、限外膜ろ過(UF)、ナノ膜ろ過(NF)などの膜ろ過法が適しているが、膜ろ過装置の建設費及び運転管理費が高いという問題点があった。
また、アンスラサイトとろ過砂で構成したろ過層による複層ろ過においては、鉄塩、アルミニウム塩を供給水に予め添加して急速撹拌を行った後、急速ろ過を行う、いわゆる凝集ろ過が一般的であるが、逆浸透膜処理への供給水が比較的清澄な地下かん水の場合、このような従来の凝集ろ過法では、濁質あるいはコロイド成分の除去が不十分であったり、添加した鉄塩、アルミニウム塩が前処理水中に漏洩して、かえって逆浸透膜の目詰まりを加速してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、発明者らが鋭意検討した結果なされたもので、例えば、比較清澄な地下水を逆浸透膜処理への供給水とする場合に好適かつ安価で前処理装置の設置面積も少なくなる地下水の前処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の地下水の前処理方法は、地下水に予め無機酸を注入して供給水のpHを6.0〜6.5の範囲に調整した後、ポリ塩化アルミニウムを、レーザー散乱光方式の濁度計で測定される供給水の濁度に対してアルミニウムの濃度が0.1〜0.5倍の範囲となるように添加し、急速撹拌を行った後、有効径0.3〜0.45mm、均等係数1.4以下のろ過材(珪砂又はガーネット(ザクロ石を粉砕し、所定の有効径に調整したもの))からなる単一のろ過層を備えたろ過槽において、ろ過速度を360〜420m/日の範囲内となるようにして急速ろ過することを特徴とする。
【0013】
この場合において、上記地下水の前処理方法により処理した処理水を逆浸透膜処理することができる。
【0014】
ここで、本発明においては、添加する凝集剤としてはポリ塩化アルミニウム(PAC)とし、その添加率としては、レーザー散乱光方式の濁度計(例えば、マイクロテック(株)社製)で測定される逆浸透膜処理への供給水の濁度に対してポリ塩化アルミニウムに含まれるアルミニウムの量が概ね0.1〜0.5倍の範囲となるように添加し、急速撹拌時間として、数分〜十数分、好ましくは、概ね5分程度の急速撹拌を行った。
急速撹拌を行った供給水のろ過を行うろ過槽に使用するろ過材の粒径としては、従来の急速ろ過法に用いられるものよりも小さい有効径0.3〜0.45mm、好ましくは、概ね0.35mm、均等係数1.4以下のものを選択するようにし、ろ過層の厚さが400〜1000mm、好ましくは、概ね600mmとなるようにした。
また、添加したアルミニウムの漏洩防止のため、地下水に予め注入する無機酸として、例えば、硫酸、塩酸などの無機酸を用い、これによって、アルミニウムの溶解度が低くなるpH領域である6.0〜6.5の範囲に、予め調整することとした。
また、ろ過速度は従来の急速ろ過法よりも高い360〜420m/日の範囲とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地下水中の濁度を90%以上除去することができ、例えば、処理した処理水を逆浸透膜処理に供給した場合に、逆浸透膜の目詰まりをもたらす度合をあらわすFI値(ファウリングインデックス)を安定して2前後までに低減することが可能であり、MF、UFなどの高価な膜ろ過法とほぼ同等の前処理効果が得られる。
さらに、360〜420m/日という高速でのろ過が可能で、前処理装置の設置面積が少なくてよいという効果もある。
また、ろ過の継続に伴って、ろ過層の圧力損失が増加し、ろ過層内に抑留された濁質やコロイド成分などを洗浄・排出して、ろ過能力を回復するために定期的に行う逆洗操作は、概ね4日に一度、5分間の空気洗浄と15分の水逆洗で十分であり、排水量は前処理水量の1%未満であるので、水の有効的利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の地下水の前処理方法による処理前後のレーザー光散乱方式濁度計による濁度の経日変化の一例を示す図である。
【図2】本発明の地下水の前処理方法による処理前後のFI値(ファウリングインデックス)の経日変化の一例を示す図である。
【図3】本発明の地下水の前処理方法による処理前後のアルミニウム濃度の経日変化の一例を示す図である。
【図4】本発明の地下水の前処理方法による圧力変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の地下水の前処理方法の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて、より詳細に説明する。
【0018】
この実施例は、地下水を実際に逆浸透膜処理して、水道水として日量8,450m/日供給している浄水場において日処理水量約3.3m/日規模で実施したものである。
地下水に、予め無機酸として塩酸を注入して、実施設の逆浸透膜処理施設へ供給している配管から分岐して本実施例の前処理設備への供給水とした。
【0019】
本実施例における前処理装置の概略を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1において、「有効径」とは、ろ過材(珪砂)の篩い分け試験を行って、粒度加積曲線を得た時の10%通過径のことを、均等係数とは、10%通過径と60%通過径との比のことをいう(日本水道協会、「水道施設設計指針 2006」参照)。
【0022】
本実施例においては、対比のために、凝集剤としてのポリ塩化アルミニウム(PAC)を添加しない場合を比較例として、ろ過速度を360、480、600m/日の3段階に変更して、それぞれ2週間〜3週間の間、ろ過を行った。
その後、ポリ塩化アルミニウムを供給水に対して0.25mg/Lとなるように添加し急速撹拌を行って、ろ過塔に通水して、ろ過を行った。この場合も、ろ過速度を360、480、600m/日の3段階に変更して、それぞれ2週間ろ過を継続した後、ろ過速度を420m/日に固定して、約3ケ月間、連続してろ過を行った。
【0023】
図1は、本実施例の期間中のレーザー散乱光方式の濁度計で連続的に測定した本発明の地下水の前処理方法による処理前後の濁度の経日変化を示すものである。
ポリ塩化アルミニウムを供給水に対して0.25mg/Lとなるように添加し急速撹拌を行って、ろ過速度を420m/日とした時の濁度の除去率は概ね90%以上であった。
この時のレーザー散乱光方式の濁度計で測定した供給水の濁度に対する添加したアルミニウム濃度の比は、概ね0.1〜0.5の範囲にあった。
【0024】
図2は、本実施例の期間中のFI値(ファウリングインデックス)の本発明の地下水の前処理方法による処理前後の濁度の経日変化を示すものである。
図2において、縦軸はFI15と表示しているが、一般的にFI値の測定には15分を要することから、ここでは、このように表示している。
FI値の測定は、FI値測定ユニット(アドバンテック東洋(株)製)によった。
【0025】
ここで、FI値とは、逆浸透膜にどの程度目詰まりを起こさせるかを示す半定量的な指標の1つである。逆浸透膜のメーカーは逆浸透膜への供給水のFI値が4以下となるように前処理を行うことを推奨している。
このFI値が低いほど逆浸透膜の目詰まりの進行が遅くなり、逆浸透膜の薬品洗浄頻度が低下するので好ましい。
ちなみに、逆浸透膜への前処理として精密膜ろ過(MF)、限外膜ろ過(UF)、ナノ膜ろ過(NF)などによる膜ろ過を行えば、FI値を2以下とすることも可能である。
【0026】
ポリ塩化アルミニウムを供給水に対して0.25mg/Lとなるように添加し急速撹拌を行って、ろ過速度を420m/日とした時のFI値の低減率は概ね20〜55%の範囲にあり、前処理水のFI値は概ね2前後で推移した。降雨などの影響で一時的に供給水のFI値が逆浸透膜処理の限界とされる4を超えたとしても、本実施例において、前処理水のFI値は2程度に保たれており、逆浸透膜処理の前処理として、高価な膜ろ過と同等の効果が得られた。
【0027】
図3は、本実施例の期間中における、本発明の地下水の前処理方法による処理前後のアルミニウム濃度の経日変化を示すものである。
本実施例によれば、前処理の処理前後において、アルミニウム濃度はほぼ等しく、添加したポリ塩化アルミニウムに起因するアルミニウムの前処理水中への漏洩は認められなかった。
【0028】
なお、図1〜図3において、図中のm/日単位の数値は、本実施例におけるろ過速度を示している。
【0029】
図4は、本実施例の期間中の前処理供給水側圧力、前処理水側圧力及びその差圧(圧力損失)の経日変化を示すものである。
本実施例の条件で、前処理ろ過を4日間継続すると、ろ過前後の差圧は0.011MPaまで上昇するが、ろ過を一旦停止し、ろ過層下部からろ過層1m当たり0.7〜0.8m/分の量で5分間通気した後、ろ過水をろ過層下部から、ろ過層1m当たり概ね0.6〜0.7m/分の量で15分間通水するという、いわゆる、空気・水併用逆洗操作により、差圧は0.004MPa程度にまで低下させることができ、ろ過層の洗浄回復性は顕著であった。
また、その時の必要洗浄水量は、逆洗に至るまでの期間の累計ろ過水量の1%未満であった。
【0030】
なお、本実施例においては、地下水の逆浸透膜処理における前処理方法について記述したが、地下水を本発明の地下水の前処理方法により処理して、その処理水を直接、種々の用途に利用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の地下水の前処理方法は、安価で前処理装置の設置面積も少なくできるという特性を有していることから、比較清澄な地下水を逆浸透膜処理施設への供給水として用いる場合に好適に用いることができるほか、この地下水の前処理方法により処理した処理水を他の用途に利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水に予め無機酸を注入して供給水のpHを6.0〜6.5の範囲に調整した後、ポリ塩化アルミニウムを、レーザー散乱光方式の濁度計で測定される供給水の濁度に対してアルミニウムの濃度が0.1〜0.5倍の範囲となるように添加し、急速撹拌を行った後、有効径0.3〜0.45mm、均等係数1.4以下のろ過材からなる単一のろ過層を備えたろ過槽において、ろ過速度を360〜420m/日の範囲内となるようにして急速ろ過することを特徴とする地下水の前処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の地下水の前処理方法により処理した処理水を逆浸透膜処理することを特徴とする地下水の前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−565(P2011−565A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147592(P2009−147592)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000238186)扶桑建設工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】