説明

地下水採水装置

【課題】深い深度での使用が可能で、ボーリング作業による撹乱の無い地層から、直接原位置の地下水を採水できる地下水採水装置を得る。
【解決手段】採水容器11と、プラグ21を備える。プラグ21は、採水容器11の下方向に突出して設けられ、採水口22、導水管部25を有する。採水容器11内部には、採水口22と接続され、採水容器11内の上部に配置された内管開口32を有する。また、採水容器11内部の下部に位置付けられたその揚水口42が配置された揚水管と、加圧による揚水手段を有する。さらに、プラグ21の水平断面積が、採水容器11の水平断面積と比較して小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング孔などの地中に掘削した縦孔の、孔底直下の地下水を採水するための地下水採水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水源井戸の開発を行う場合、本井戸掘削工事に取りかかる前に、健康に害がないなどの利用目的に合致した水質の地下水が得られるのか、得られるのであればどの深度から採水するのが相応しいかなどの情報を、事前に把握できることが望ましい。また、地下水汚染問題の調査、解明においても、地下水帯水層別(地中深度毎)の汚染状況の把握は重要である。
【0003】
従来の地下水採取装置は、先端に貫入コーンを備え、地下水を取水するフィルター管を、ロッド先端のサンプラーから出没可能なよう当該サンプラー内にスライド自在に挿着し、フィルター管内に採水器を出し入れ自在に挿入したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、従来、ボーリング孔の孔底に溜る地下水を採取することが行われている。
さらに、ボーリング孔に挿入する地下水採取装置として、ボーリング孔内に挿入されて、採水孔部が採水対象位置に配置される筒状ケーシングと、採水口部の上部および下部に位置して筒状ケーシングの外側に装置される上パッカーおよび下パッカーと、地下水を採水孔部から取り入れ揚水するためのポンプユニットとを備えた地下水の採水装置が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−54382号公報
【特許文献2】特開平10−18749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された従来の地下水採取装置は、地下水採取装置を地表から地中に向けて押圧又は打ち込むものであり、実用上比較的深度が浅い場所(例えば5m〜10m)の地下水を採水する場合の使用に限られ、より深い場所での地下水採水に使用するには無理がある。
【0006】
ボーリング孔の孔底に溜る地下水を採水する方法は、孔内に残る掘削用泥水の除去や孔内洗浄が必要となり、さらに、地下水帯水層毎に区分しての地下水の採水はできない。
【0007】
特許文献2に記載された従来の地下水採取装置は、ボーリング孔の採水帯を区分する為の上パッカー、下パッカーを備えるものであるが、上パッカー、下パッカーやこれを孔内で膨張させる駆動装置等が必要となり装置が複雑となり、耐久性、信頼性が低下する。さらに、ボーリング作業による地下水帯水層の撹乱は不可避であることに加えて、パッカーによる孔内閉塞、すなわち採水帯区分の完全性も保証の限りではない。
【0008】
そこで本発明は、深い深度での使用が可能であり、ボーリングその他の掘削作業による撹乱の無い地層から、直接原位置の地下水を採水可能となる地下水採水装置を得ることを課題とする。
【0009】
本発明のその他の課題は、本発明の説明により明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者は、ボーリング調査時に、ボーリング孔深度の進行に伴い、ボーリング作業を一時的に中断し、ボーリング孔底から一定距離下方にある撹乱の無い地層からの採水に着目した。そして、ボーリング作業時に、遮水、孔壁の崩壊防止、スライム除去、ビットの冷却等のために用いられる泥水が、ボーリング孔底に存在した状態であっても(すなわち、孔内泥水撤去や孔内洗浄を行うことなく)、当該泥水と分離して地下水を採水可能とする地下水採水装置を発明した。
【0011】
すなわち、本発明の一の態様にかかる地下水採水装置は、地下水を採水するための地下水採水装置であって、密閉容器である採水容器と、前記採水容器の下方向に突出して設けられ、採水口と上部開口を有し、かつ前記採水口と前記上部開口を導通する導水管部を有するプラグと、前記採水容器内部に収容されていて、前記上部開口と接続され、前記採水容器内の上部に位置付けられた内管開口を有する導水内管と、前記採水容器内部の下部に位置付けられた揚水口と前記採水容器の外部を導通する揚水管と、前記採水口から流入し、前記導水管部、前記導水内管を経由して、前記内管開口を通過して前記採水容器に溜る地下水を、前記揚水管を通じて前記採水容器の外部に揚水するための揚水手段を備え、前記プラグの水平断面積が前記採水容器の水平断面積と比較して小さいものである。
【0012】
本発明においては、水平断面積の小さいプラグ部分をボーリング孔底から下方に押圧又は打ち込んで、プラグに設けられた採水口から地下水を採水する。このため、最小限の撹乱条件下で所定の地盤から直接原位置の地下水を採水することができる。また、水平断面積の大きな採水容器は地下水採水装置押圧又は打ち込み時の抵抗となり、所定距離の地下水採水装置の下方移動と停止を助ける。
【0013】
地下水は、密閉容器である採水容器内に上方から流入し、下方から揚水される。このため、間歇的な揚水を行うと、採水容器内の新旧流入水の入れ替えが促進される。採水作業前に、ボーリング孔内の泥水除去作業を行わない場合には、プラグ打ち込み時にボーリング孔底に存在する泥土がまき込まれることから、採水初期の地下水に泥の混入は避けがたいが、新旧流入水の入れ替え促進により原水の採水が促進される。もっとも本発明にかかる地下水採水装置は、ボーリング孔内の泥水除去作業を行った後のボーリング孔底直下の地層からの採水に用いてもよい。
【0014】
揚水手段は、揚水管を減圧にする、揚水管の採水容器内開口部、揚水管の途中、揚水管の端部にポンプを設ける、採水容器に加圧手段を設ける等の手段を用いることができる。揚水管を減圧にすれば、地下水浸出促進の作用効果を得ることもできる。もっとも、地下水浸出促進を目的とする場合には、揚水管に付加して、採水容器内等の減圧手段を接続してもよい。
揚水管の採水容器外部の端部は、採水容器の外部にあればよいが、当該端部は地表まで延伸されていることが好ましい。
【0015】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記プラグの側面に設けられた上下移動を行う可動板であって、前記上下移動の移動上端位置で前記採水口を覆い、前記上下移動の移動下端位置で前記採水口を開放する前記可動板を設けてもよい。
【0016】
本好ましい実施態様にあっては、採水口の開閉を担う可動板を設けたために、地下水採水装置が採水位置に位置付けられるまで、採水口を閉止することができる。よって、ボーリング孔底の泥水や地層中の粘土などによる採水口及び/又はその近傍の汚染が少なくなり、採水作業の初期から比較的きれいな地下水が採水される。
本好ましい実施態様にかかる地下水採水装置の使用にあたっては、ボーリング孔底からプラグを下方に移動させた後に、当該可動板の移動距離と同一か、当該距離よりも少し長い距離だけプラグを上方に移動させる(引き抜く)。当該可動板は地圧や摩擦力により拘束されて当初の下方位置に取り残される結果、採水口が開く。
【0017】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記採水容器内に開口した地上と導通する圧縮気体送気管を設けたものであり、前記揚水手段が圧縮気体に由来する加圧であってもよい。
【0018】
本好ましい実施態様にあっては揚水手段が加圧である。これにより揚水ポンプや減圧では揚水不可能な深度の深い地中位置に地下水採水装置が設置されても揚水可能となる。また、地上に配置した圧縮気体源と採水容器を圧縮気体送気管により接続しているため、嵩張る揚水ポンプを地中に配置する必要がなく、ボーリング孔径が小さくても、地下水採水装置を使用可能となる効果も有する。
【0019】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記内管開口は前記導水内管の側壁に位置付けられていて、前記導水内管は前記内管開口から上方に延長されており、前記圧縮気体送気管の前記開口が、前記導水内管の上端部と接していてもよい。
【0020】
本好ましい実施態様にあっては、圧縮気体送気管からの圧縮気体が、直接、導水内管、プラグ内の導水管部及び採水口に送気される。地下水採水装置のプラグを押圧または打ち込み作業中及び/又は採水作業時に、圧縮気体を送気することにより、導水内管、プラグ内の導水管部及び採水口に入り込んだ泥を押し出すことができる。よって、地下水採水装置の詰まりを除去可能となる作用効果を有する。
【0021】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記採水容器内の水位を検知するセンサーを設けてもよい。
【0022】
本好ましい実施態様にあっては、水位検知センサーを設けたので間歇揚水のタイミングを最適化することができ、地下水採水作業時間の短縮を図ることができる。また、採水容器の特定水位に達する容量を予め計量しておき、当該特定位置に達するまでの時間及び圧力を計測することにより、地下水量などを知ることができる。
水位検知センサーとしては、特定位置に電極を2つ設けた電流計、採水容器内面の一定位置から水面までの距離を検知する距離センサーなどを例示することができる。また水位検知センサーは単数であっても複数であってもよい。
【0023】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記センサーが、それぞれ一対の電極を有する上位電流計、中位電流計、下位電流計から構成され、前記上位電流計の1の電極が、前記導水内管外壁の前記内管開口の直下に設けられ、前記下位電流計の1の電極が、前記導水内管内壁の前記導水内管の下端近傍に設けられ、前記中位電流計の1の電極が、前記導水内管外壁の、前記上位電流計の1の電極の位置と、前記下位電流計の1の電極の位置の、間の上下関係にある位置に設けられていてもよい。
【0024】
本好ましい実施態様にあっては、センサーを電流計で構成したので地中に配置される部分は電極とリード電線のみの単純な構成となり、水の存在や打撃衝撃があっても故障が少なく信頼性の高い水位センサーとなり、ひいては地下水採水装置の信頼性が高まる。
3つの電流計は各々1対の電極を有するが、これら1対の電極のうちの各々一方は共通の(単一の)電極にしてもよい。
【0025】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記プラグの外側に、前記プラグの外周を取り巻き、前記採水容器の下端位置と前記採水口の上端よりも上方にある下部停止位置の間を移動する泥防止板を設けてもよい。
【0026】
本好ましい実施態様にあっては、泥防止板はボーリング孔底の泥水がプラグ外周を通り下降して取水口に至り採水容器に取り込まれることを防止するものである。例えば密に締った砂礫層など採水位置の地盤が固い場合には、通常、長尺のロッドを介してプラグを打ち込むのでプラグが横方向に振動してプラグ外周と地盤の間に間隙が発生することがある。当該間隙を通過する泥水の流動防止に効果的である。
【0027】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、前記泥防止板を前記下部停止位置の方向に付勢する付勢手段を設けてもよい。
【0028】
本好ましい実施態様にあっては、泥防止板は下方に付勢されるので、プラグを下方移動し、その後可動板を開く為に上方移動しても、当該泥防止板がボーリング孔底に留まり、泥水流動防止の効果が高まる。
付勢手段は、バネ等の弾性体、錘、発泡ウレタン等を列示することができる。発泡ウレタンは付勢手段であると共に泥防止の効果を有するので、他の付勢手段(弾性体、錘等)と併用すると効果的である。
【0029】
本発明の好ましい実施態様にかかる地下水採水装置は、布帛を、前記プラグの外周壁に前記採水口の上端よりも上方にある布帛固定位置で、前記布帛の一部分を固定して取り付けてもよい。
【0030】
本好ましい実施態様にあっては、布帛をその一部をプラグ外周壁に固定し、他の部分は位置が拘束されることのない態様で取り付ける。プラグを下方移動し、その後可動板を開く為に上方移動すると、布帛の固定端近傍は地圧や摩擦力などにより拘束されるので、布帛がプラグに巻き付く状態で地盤中に固定され、当該布帛が泥の下方流動を防止する。
布帛として布や不織布を例示することができる。
【0031】
以上説明した本発明、本発明の好ましい実施態様、これらに含まれる構成要素は可能な限り組み合わせて実施することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、深い深度での使用が可能であり、ボーリングその他の掘削作業による撹乱の無い地層から、直接原位置の地下水を採水可能となる地下水採水装置を得ることができる。
本発明にかかる地下水採水装置は、採水口を覆う濾過手段あるいは目の細かいストレーナを使用していないので、採水口が泥などで詰まることが少ない。また、当該地下水採水装置は、取り扱いが容易である。
【0033】
ボーリングによる地盤掘削作業などにおいて、地下深度の異なる地下水帯水層から、本地下水採水装置を使用して採水することにより、地下水帯水層別に地下水を採水することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照して本発明の実施例にかかる地下水採水装置をさらに説明する。本発明の実施例に記載した部材や部分の寸法、材質、形状、その相対位置などは、とくに特定的な記載のない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例にすぎない。
【0035】
図1は、主として基本的構成を備えた地下水採水装置1の説明図であり、図2は圧縮気体送気管47と導水内管31の接続部の拡大説明図である。
【0036】
地下水採水装置1の本体は略円筒形の採水容器11と略円筒形のプラグ21からなる。プラグ21は採水容器11の底面から、下方向に突出して設けられている。プラグ21の側面には採水口22が開口しており、またプラグ21の上端面には上部開口24が開口している。プラグ21の内部には、採水口22と上部開口24を連絡するプラグ21の筒状空洞である導水管部25が設けられている。
【0037】
採水容器11の内部には、導水内管31が縦方向に配置されていて、導水内管31の下端は導水管部25の上部開口24と接続されている。導水内管31は採水容器11の上部で採水容器11内に開口する内管開口32を有する。内管開口32は導水内管31の側壁に開けられた穴である。内管開口32の他の態様として、導水内管31の上端開口を挙げることができる。内管開口32は、通常採水容器11の高さの半分よりも上方に位置し、好ましくは当該高さの2/3よりも上方に位置することが好ましい。
【0038】
以上のように構成されているので、採水口22より流入する地下水は、導水管部25、上部開口24、導水内管31内部を通過し、内管開口32より採水容器11内に貯留される。
【0039】
採水容器11の壁面を貫通して揚水管41が設けられている。揚水管41の採水容器11内の開口部分である揚水口42は、通常採水容器11の下部に配置され、好ましくは採水容器11の最下部内底面にほぼ接する位置に位置付けられる。揚水管41の採水容器外側端部43は、通常採水容器11の外側底面よりも上方に位置すればよい。揚水管41を通じる揚水は、通常、泥が混入する初期貯留水の排水、リンスを目的とするものだからである。揚水管41を通じる揚水を間歇的に数回行い、その後採水容器11に地下水が貯留した状態で地下水採水装置全体を地表に引き上げて、当該貯留した地下水を採水試料とする。
【0040】
しかし、揚水管41の採水容器外側端部43は、地表まで延伸されていることが好ましい。地表に延伸された場合には、当該初期貯留水のリンスの進行状況を目視確認することができる。また揚水管41を通じて揚水した地下水を採水試料としてもよい。また、ボーリング孔内に位置する採水容器外側端部43に、排液容器を取り付けて、間歇的に揚水される地下水を保持するようにしてもよい。
【0041】
圧縮気体送気管47は、揚水手段の1つである。圧縮気体送気管47の一方端は地表に置かれた高圧ガスボンベ、コンプレッサーなどの高圧気体吐出口に、調圧装置を介して接続されている。ガスの種類は窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、空気などを用いることができ、不活性ガスである窒素、ヘリウム、アルゴン等が好ましい。通常は、圧縮気体送気管47の適当な位置に、三方バルブを取り付けて、当該バルブを操作することによる、採水容器11内の加圧と、周辺大気圧への開放を行う。
【0042】
図2を参照して、採水容器内部11a内にある、導水内管31は内管開口32が開けられた位置よりも上方に延長されており、上方延長部分33を有している。上方延長部分33の上方端部は上端34である。一方、圧縮気体送気管47の下端部分は、導水内管31の上方延長部分が挿入される受け孔を有している。圧縮気体送気管47の開口48は、導水内管31の上端34と接している。このような構成で、圧縮気体送気管47と導水内管31が接しているので、圧縮気体送気管の採水容器内開口部は、実質的には内管開口32となっている。圧縮気体送気管47と採水口22が直接つながっているので、圧縮気体を送気することにより、導水内管31、プラグ内の導水管部25及び採水口22に入り込んだ泥を押し出すことができる。
【0043】
他の揚水手段としては、揚水管41の先端43に密閉容器を介して減圧源を置くことが挙げられる。減圧源は、例えば油回転ポンプや真空掃除器を使えばよい。通常は、揚水管41の先端43に密閉容器を介して、四方バルブを取り付けて、当該バルブを操作することによる、採水容器の減圧、周辺大気圧への開放、圧力の保持を行う。
【0044】
採水容器11を減圧にすれば、採水口22からの採水促進になる。採水促進と間歇的揚水を併用する場合には、揚水管41とは別に付加的に、採水容器11と地上部を連絡する減圧管を設けてもよい。また減圧手段として揚水管41の減圧を行う場合には、採水は減圧下で行い、採水後に減圧をいったん解除して揚水管41に入り込んだ地下水を採水容器11にもどし、その後に揚水する操作を行ってもよい。
【0045】
揚水手段としての揚水管41の減圧は、深度10mを超える位置からは、地上までの揚水は不可能となるので、他の揚水手段に変更するか、他の揚水手段と減圧を併用すればよい。
【0046】
その他の揚水手段として、揚水管41の適宜の位置(揚水口42、採水容器外側端部43、これらの中間)にポンプを設けてもよい。深度の深い位置での地下水採水装置1使用時の揚水容易性、地下水採水装置1を単純化する等の観点より、揚水手段は採水容器11の加圧が好ましく、採水容器11の加圧と揚水管41の減圧がより好ましい。
【0047】
採水容器11内は密閉されており、揚水管41、圧縮気体送気管47等の外周囲と採水容器11の壁面は気密にされている。採水容器11内の密閉の態様として、採水容器11を本体部と上部蓋部に二分割し、当該上部蓋部に圧縮気体送気管47、揚水管41、後述する電流計のリード線などのアダプターを配置し、当該本体部と当該上部蓋部を螺子止めすることが好ましい。螺子止めは、当該本体部と当該上部蓋部にそれぞれフランジを設けてこれらフランジに貫通穴を設けて、ボルトとナットで螺子止めしてもよく、また、当該本体部と当該上部蓋部に螺子を螺設して、これらを締め付けてもよい。
【0048】
採水容器11とプラグ21は、打撃力、圧力等に耐える素材で作られる。例えば、ステンレススチール(一例としてSUS304)、硬質鍍金を施した鉄などである。また、採取地下水の分析目的に応じて、例えば鉄元素の溶出を避ける為に採水容器11の内壁や導水管部25の内面を不活性な金属や合成樹脂で渡金やコーティング等の表面処理を行ってもよい。導水内管31は、例えば合成樹脂でコーティングしたステンレススチール(一例としてSUS304)管、合成樹脂でコーティングした銅管などで作られる。
【0049】
プラグ11の水平断面積は採水容器11の水平断面積と比較して小さい。このため、採水容器11とプラグ21の接続部分には段差があり、プラグ21の全体がボーリング孔底から直下の地層に打ち込まれれば、当該段差部分が地下水採水装置1の下方移動に対して大きな抵抗となる。
【0050】
採水容器底面外側からシュー7の先端までは270mmである。採水口22は、プラグ上下のほぼ中間位置に開口している。採水容器11の内容積は約200mlである。プラグ21の先端にはシュー7が取り付けられていて、プラグ21、ひいては地下水採水容器1の押し込みを容易化している。
【0051】
地下水採水容器1は継手部2でロッド6に接続され、ボーリング孔底まで下ろされ、また地上に回収される。ロッド6はボーリング用のロッドを使用することが好ましい。
【0052】
採水容器及びプラグの断面は、円であることが好ましいが、三角、四角、楕円などの形状であってもよい。
【0053】
図3を参照して付加的な構成を備えた地下水採水装置101を説明する。地下水採水装置101において、図1に図示した地下水採水装置1と同一の部材、同一の構成部分には同一の符号を付している。また、地下水採水装置1と同一部分については説明を省略し、地下水採水装置101において付加されている部分、構成について以下に説明する。
【0054】
可動板51がプラグ21の採水口22を開閉するために設けられている。可動板51は矢印52で示す移動上端位置と矢印53で示す移動下端位置の間を上下移動可能である。可動板51が上方に移動して移動上端位置(矢印52)に至ると、可動板51が採水口を完全に覆い採水口22が閉じられる。可動板51が下方に移動して移動下端位置(矢印53)に至ると、可動板51は採水口22と離隔し、採水口22が開く。本実施例の場合、可動板は円柱状であり、プラグ21の外周を覆っている。プラグ21外壁には、採水口22の上端直上と下端直下にそれぞれOリング54、Oリング55が配設されており、可動板51による採水口22の閉止を補助している。
【0055】
可動板51の外壁には横縞状の凹凸56が形成されていて、地圧や摩擦力による可動板51の拘束を補助している。可動板51は揚水口22を開閉すれば役割りを果たすものであり、必ずしもプラグ断面の全周囲を覆う形状でなくてもよい。しかし可動板51の地圧による拘束を利用して、すなわちプラグ21を下方に押し込んだ後に一定距離上方に引き上げることにより、採水口22の開放を行う場合には、プラグ断面の全周囲を覆う形状であることが好ましい。可動板51の上下寸法は、好ましくは25mm以上、より好ましくは35mm以上である。可動板51の地圧や摩擦力による拘束を容易化するためである。可動板51の上下寸法の上限に特に制限はないが、プラグを適度な長さにする観点から、可動板51の上下長さは、通常100mm以下、好ましくは75mm以下、より好ましくは50mm以下である。
【0056】
採水容器11内の貯水状況を知るために、水位を検知するセンサーである三つの電流計が設けられている。上位電流計61、中位電流計62と下位電流計63が地上部に配置され、これら電流計とリード電線で連絡される電極が採水容器11に設けられている。すなわち、上位電流計61に連絡される1の電極64は導水内管31の外壁側であって、内管開口32の直下に配置されている。中位電流計62に連絡される1の電極65は、導水内管31の外壁側であって、採水容器11の高さの、中間付近の高さ位置に配置されている。下位電流計63に連絡される1の電極66は導水内管31の内壁側であって、採水容器11の内壁底面よりも下の位置に配置されている。また当該3つの電流計の対の電極となる共通電極67が採水容器の壁面に取り付けられている。当該3つの電流計の対となる電極には図示しない電源装置より電圧が負荷される。
【0057】
ここで、地下水の採水、採水容器11内への貯留の進行、揚水による貯留水の減少に伴う3つの電流計の指示の変化を説明する。
【0058】
採水容器11内が空の状態で採水が始まる。このとき上位電流計61、中位電流計62、下位電流計63はそれぞれ最小値を指示している。導水管部25の水位が高まり電極66に達すると下位電流計63は最大値を指示する。さらに水位が高まり導水内管31の内管開口により地下水が溢れると電極64が濡れ、上位電流計61は中間的な値を指示する、あるいは指示値が不規則に変化する。貯水が進行し、採水容器11内の水位が電極65に達すると中位電流計62が最大値を指示する。さらに貯水が進行し、水位が電極64に達すると上位電流計61が最大値を指示する。
【0059】
この時点で揚水管41を使って揚水を開始すると、水位の低下に伴い、まず上位電流計61の指示値が低下する。続いて中位電流計62の指示値が低下する。さらに、揚水手段として採水容器内加圧を採用または併用している場合には、導水内管31の水位も減少して下位電流計63の指示値が低下する。
【0060】
以上のように採水容器11内の水位を知ることができるから、予め採水容器の電極64、電極65、の高さに相当する容量を求めておけば、水位上昇に要した時間と圧力から、地下水量、地下水層の透水性を推定することができる。
【0061】
プラグ21の外側に、プラグの外周を取り巻き、採水容器外壁の下端位置(矢印12で示す)と採水口22の上端よりも上方の一定位置である下部停止位置の間を移動する泥防止板71が設けられている。本実施例にあっては、後述する布帛固定位置92が下部停止位置である。
【0062】
泥防止板71はボーリング孔底に滞留した泥の、プラグ21の外周近傍を通過して採水口21に至る移動を防止するものである。プラグ21の外周と泥盤防止板71内周はその間隔が狭いことが好ましく、これらが摺動することがより好ましい。本実施例にあっては泥防止板71は中心部に孔のある円板状である。泥防止板71はゴム、硬質ゴム、合成樹脂、木材、金属などの材料から作られる。
【0063】
泥防止板71は付勢手段であるコイルバネ81により下方に付勢されている。付勢手段は、プラグ21の下方移動、その後の、小距離の上方移動の際に泥防止板が孔底に押し付ける作用を行う。付勢手段は、板状バネ、発泡ウレタンなどの弾性体や錘などを使うこともできる。発泡ウレタンはプラグの外壁に接して配置すれば泥防止の作用をも発揮する。
【0064】
また、布帛91をプラグ21の外周壁に採水口22の上端よりも上方にある布帛固定位置92でその一部分を固定して取り付けている。プラグ21の下方押し付け、その後の小距離の上方移動を行うと、布帛91は丸まってプラグ21の外周壁にまとわり付くために、ボーリング孔底に滞留した泥水の下方流動を防止できる。布帛91は布でもよく、不織布であってもよい。
【0065】
次に図4を参照して地下水採水装置101を使用する地下水の採水方法を説明する。図中に地下水帯水層97を示している。ボーリング孔96内は泥水により孔壁を保護され、孔底のスライムを除去して所定の深度まで機械ボーリングによる地盤採掘を行う。ここで、地盤掘削装置を地表に引き上げる。
【0066】
ロッド6の先端に地下水採水装置101を接続し、孔底に下ろす。このとき、可動板51は、移動上端位置に位置付けて採水口22を閉じておく。また、窒素ボンベ46から、三方バルブ49、圧縮気体送気管47を経由して、地下水採水装置101に、深度に応じた圧力の窒素ガスを送り、採水容器11内への地下水の侵入を防止する。
【0067】
次に、ロッド6上部に取り付けたノッキングブロック8を介し、ドライブハンマー9の打撃でプラグ21を地中に貫入させる。その後、可動板51の上下移動距離に相当する距離分、地下水採水装置101を上方に移動する(引き抜く)。当該操作により、プラグ21に対して可動板51が相対的に下方移動し、採水口22が開く。
【0068】
ここで、三方バルブ49を操作して、採水容器11内の加圧を開放する。これにより、採水容器内への地下水の流入が開始される。採水容器11内の貯留地下水の水位を3つの電流計により監視し、採水容器11内が満水になった時点で揚水を行う。
【0069】
揚水は、三方バルブ49を操作して採水容器を加圧し、同時に、四方バルブ44を操作して、減圧ポンプ45による減圧を、密閉容器5、揚水管41に通じることにより行う。通常、第1回の揚水作業により、密閉容器5に揚水される水は、泥が混じっている。
【0070】
採水容器11内が空になり、第1回の揚水が完了すれば、上記の採水と揚水を数回繰り返す。これにより、地下水採水容器101の採水容器11内など地下水に触れる部分がリンスされる。
【0071】
続いて、採水作業を行う。採水容器11内が満水になった時点で、四方バルブ44を操作して、揚水管41の採水容器外側端部43を閉じる。三方バルブ49を操作して、地下水採水装置101降下時と同圧力の窒素ガスを送りながら、ロッド6を静かに引き上げ地下水採水装置101を地上に回収する。この作業中に、採水容器11内の貯留水は揚水管41に入り込むが、地下水採水装置101を地上に回収したあとで、四方バルブ44、三方バルブ49を操作して揚水管41に入り込んだ水を、採水容器11内に戻せばよい。地下水採水装置101外壁に付着した泥土を洗い流すなど適宜の操作を行ったのちに、採水容器11内の地下水を取り出す。以上で、地下水帯水層97での採水作業が終了する。
【0072】
その後、機械ボーリングによる地盤採掘を再開し、所定深度進行した時点で上記と同様にして、地下水の採水を行う。この作業を繰り返すことにより、地下水帯水層毎に地下水を採水することができる。
【0073】
なお、本発明にかかる地下水採水装置を使用する採水方法においては、間歇的な揚水による採水容器11などのリンスが好ましいが、必らずしも、間歇的な揚水が必要ではない。例えば、湧水量の多い地下水帯水層の採水では、揚水管から地下水が連続的に吹出してくるので、初期の揚水を破棄した後に、揚水を試料にすればよい。また、ボーリング孔の孔底に溜まる泥水を洗浄した後に採水する場合などには、初期貯留水を試料としてもよい。
【0074】
以上説明した地下水採水装置の実施例は、直径86mmのボーリング孔に適合するものである。基本構成を変更することなく寸法を変えるなどの設計変更により、直径66mmのボーリング孔に適合する地下水採水装置とするができる。直径が小さなボーリング孔に適合する地下水採水装置は、さらに、調査費用の節約に資することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明にかかる地下水採水装置は、水源井戸の開発や、地下水汚染問題の調査、解明などに使用される、採水帯(深度別)の地下水の採水に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】主として基本的構成を備えた地下水採水装置1の説明図である。
【図2】圧縮気体送気管47と導水内管31の接続部の拡大説明図である。
【図3】付加的な構成を備えた地下水採水装置101の説明図である。
【図4】地下水採水装置101を使用する地下水の採水方法の説明図である。
【符号の説明】
【0077】
1、101 地下水採水装置
2 継手部
5 密閉容器
6 ロッド
7 シュー
8 ノッキングブロック
9 ドライブハンマー
11 採水容器
11a 採水容器内部
12 採水容器の下端
21 プラグ
22 採水口
24 上部開口
25 導水管部
31 導水内管
32 内管開口
33 導水内管31の上方延長部分
34 導水内管31の上端
41 揚水管
42 揚水口
43 採水容器外側端部
44 四方バルブ
45 減圧ポンプ
46 窒素ボンベ
47 圧縮気体送気管
48 圧縮気体送気管の開口
49 三方バルブ
51 可動板
52 移動上端位置
53 移動下端位置
54 Oリング
55 Oリング
56 凹凸
61 上位電流計
62 中位電流計
63 下位電流計
64 上位電極
65 中位電極
66 下位電極
67 共通電極
71 泥防止板
81 付勢手段
91 布帛
92 布帛固定位置
96 ボーリング孔
97 地下水帯水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を採水するための地下水採水装置であって、
密閉容器である採水容器と、
前記採水容器の下方向に突出して設けられ、採水口と上部開口を有し、かつ前記採水口と前記上部開口を導通する導水管部を有するプラグと、
前記採水容器内部に収容されていて、前記上部開口と接続され、前記採水容器内の上部に位置付けられた内管開口を有する導水内管と、
前記採水容器内部の下部に位置付けられた揚水口と前記採水容器の外部を導通する揚水管と、
前記採水口から流入し、前記導水管部、前記導水内管を経由して、前記内管開口を通過して前記採水容器に溜る地下水を、前記揚水管を通じて前記採水容器の外部に揚水するための揚水手段を備え、
前記プラグの水平断面積が、前記採水容器の水平断面積と比較して小さい地下水採水装置。
【請求項2】
前記プラグの側面に設けられた上下移動を行う可動板であって、前記上下移動の移動上端位置で前記採水口を覆い、前記上下移動の移動下端位置で前記採水口を開放する前記可動板を設けたことを特徴とする請求項1に記載した採水装置。
【請求項3】
前記採水容器内に開口し、地上と導通する圧縮気体送気管を設けたものであり、前記揚水手段が圧縮気体に由来する加圧であることを特徴とする請求項1乃至2いずれかに記載した採水装置。
【請求項4】
前記内管開口は前記導水内管の側壁に位置付けられていて、
前記導水内管は前記内管開口から上方に延長されており、
前記圧縮気体送気管の前記開口が、前記導水内管の上端部と接していることを特徴とする請求項3に記載した採水装置。
【請求項5】
前記採水容器内の水位を検知するセンサーを設けたことを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載した採水装置。
【請求項6】
前記センサーが、それぞれ一対の電極を有する上位電流計、中位電流計、下位電流計から構成され、
前記上位電流計の1の電極が、前記導水内管外壁の前記内管開口の直下に設けられ、
前記下位電流計の1の電極が、前記導水内管内壁の前記導水内管の下端近傍に設けられ、
前記中位電流計の1の電極が、前記導水内管外壁の、前記上位電流計の1の電極の位置と前記下位電流計の1の電極の位置の間の上下関係にある位置に設けられたことを特徴とする請求項1乃至5いずれかに記載した地下水採水装置。
【請求項7】
前記プラグの外側に、前記プラグの外周を取り巻き、前記採水容器の下端位置と前記採水口の上端よりも上方にある下部停止位置の間を移動する泥防止板を設けたことを特徴とする請求項1乃至6いずれかに記載した地下水採水装置。
【請求項8】
前記泥防止板を前記下部停止位置の方向に付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載した地下水採水装置。
【請求項9】
布帛を、前記プラグの外周壁に前記採水口の上端よりも上方にある布帛固定位置で、前記布帛の一部分を固定して取り付けたことを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載した地下水採水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−126914(P2007−126914A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321684(P2005−321684)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【特許番号】特許第3804807号(P3804807)
【特許公報発行日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(591137259)株式会社キンキ地質センター (3)
【出願人】(505469078)
【Fターム(参考)】