説明

地中探査レーダにおける管径推定方法

【課題】地中探査レーダを用いて受信信号レベルから埋設管の口径を高精度で求める。【解決手段】基準深度における管径と受信信号レベルとの対応テーブルを記憶させ(S1)、通常の探査を行い(S2)、2系列の受信系から異なる伝搬時間に基づいて埋設深度と土壌の比誘電率を求める(S3)。一方、受信信号は逆STC処理され(S4)、推定のための受信信号レベルが求められる。前記深度および比誘電率から基準信号における対応テーブルの補正が行われ(S5)、この補正テーブルと前記受信信号レベルとを対比して管径が推定される(S6)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中探査レーダにおける管径推定方法、特に地中埋設管からの反射信号強度に基づいて、埋設管の口径を推定する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設されているガス管、上下水道管あるいは電力ケーブル保護管などの埋設位置、深度などを地表から非接触で検出し、あるいは埋設状態を画像表示する地中探査レーダが周知である。
【0003】
この種の地中探査レーダは、地表面を移動する台車に、電磁波を地中に放射する送信アンテナと、地中埋設物からの反射信号を受信する受信アンテナが搭載され、台車が地表面を移動しながら、受信信号を解析して地中の埋設状態を知ることができる。しかしながら、一般的には、地中には各種の夾雑物が埋設されており、これらの夾雑物からの反射信号がクラッタ雑音となり、正確に埋設管を検出するためには、各種の解析手法が設けられ、あるいは複数の受信アンテナが設けられるなどの改善が行われてきた。
【0004】
また、従来における地中探査レーダの課題として、埋設管の口径を知りたいという強い要望がある。一般的に、管の口径の相違は受信信号レベル(反射信号強度)の相違として表われ、深度が同一であれば、受信信号レベルが大きいほうが管の口径が大きいと推定される。
【0005】
従来の地中探査レーダにおいても、このように、受信信号レベルに基づいて推定された管径を表示するものが提案されている。
【0006】
しかしながら、管の口径に対しては、深度を測定する以上に、各種の要因が影響してその推定精度が著しく低下することが経験的に知られており、この推定精度を向上させることが強く要望されていた。
【0007】
従来、特許文献1に示される装置は、地中探査レーダの改良を提案しており、一個の送信アンテナと二個の受信アンテナとを用い、土壌の比誘電率及び埋設物の深度を求めることができる。
【0008】
【特許文献1】特開平11−84020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献1に示された装置は、確かに土壌の比誘電率及び埋設物の深度を高精度で求めるために有益であったが、この従来技術では、本発明が対象とする埋設管の口径を求めることができなかった。
【0010】
本発明者らは、上記特許文献に記載された従来技術を更に発展させ、土壌の比誘電率の相違が管径と受信信号レベルの対応に大きく影響を与えていることを発見し、これを補正することによって管径推定の精度を著しく向上できることを提案する。
【0011】
また、装置を小型化するために、地中探査レーダに搭載する対応テーブルを基準深度における管径と受信信号レベルとの対応に絞り、地中探査レーダによって求められた埋設深度に応じて上記基準対応テーブルを補正することによって装置を著しく小型化可能であることに着目した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る地中探査レーダにおける管径推定方法は、送信アンテナにより地中に探査用電磁波を放射し、送信アンテナから異なる距離離間して設けられた2個の受信アンテナにより地中埋設管からの反射波を受信して埋設深度を測定する地中探査レーダにおける管径推定方法であって、地中探査レーダに基準深度における受信信号レベルと管径との対応テーブルを記憶させるテーブル記憶工程と、その探査点において探査を行い、両受信アンテナにより埋設管からの受信信号を得る探査工程と、両受信信号の伝搬時間から、管の埋設深度と土壌の比誘電率を求める演算工程と、いずれかの受信信号に逆STC処理を施し、受信レベルの深度に整合させる逆STC処理工程と、管の埋設深度、土壌の比誘電率を用いて対応テーブルの深度補正および土壌減衰量補正を行う補正工程と、受信レベルと補正テーブルとを比較して管径を推定する管径推定工程と、を含む。
【0013】
また、本発明は、管径と受信レベルとの対応テーブルは、管径の範囲指定によって特定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基本的に受信信号レベルを用いて、管径を高精度で推定することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る管径推定方法が適用される地中探査レーダの概略構成が示されている。周知のように、地表面を移動可能な台車には1個の送信アンテナ10と2個の受信アンテナ11,12が搭載されている。この受信アンテナ11,12はそれぞれ送信アンテナ10と異なる距離離間された配置を有する。地中に探査用の電磁波を放射し、埋設物からの受信信号を受けるため、制御回路13が各送受信回路を制御している。
【0017】
通常単一パルス波として地中に放射される電磁波は送信回路14にて形成され、これが送信アンテナ10を励振して前述した電磁波を形成する。これらの電磁波の放射間隔は2マイクロ秒に設定され、毎秒約1000個の受信信号を得て、台車の移動とともに地中の埋設状況を監視することができる。一方、両受信アンテナ11,12で受信された反射信号はSTC回路15−1,15−2によって深度方向の受信レベルが調整された後、受信回路16−1,16−2に送られ、埋設物の信号が選択される。そして、これら埋設物の信号は信号増幅回路17−1,17−2を通って所定レベルに増幅された後、制御回路13に送られる。制御回路13はこの受信信号を基に反射信号を受けるまでの伝搬時間に基づいて当該埋設物の深度を深度検出回路18によって検出する。また、制御回路13は受信信号に基づいてCPUおよび表示部19において、管の口径推定及び受信信号の合成を行う。受信信号の合成により、地中探査レーダは台車に搭載しているスクリーン上に地中の映像を画像表示することができる。
【0018】
また、本発明において特徴的なことは、このとき抽出された埋設管に対して管の口径を推定してこれをスクリーン上に表示することにある。
【0019】
図2には、埋設管の口径と受信信号レベルとの相関関係が例示されている。図において、埋設管の口径は3種類選択され、上段が25mm、中段が50mm、そして下段が80mmの口径として採用されている。同図は左欄が各口径の管の配管図を示し、中央欄がこれを地中探査レーダで探査したときのBモード画像を示す。さらに右欄は各口径におけるAモードすなわち受信信号レベルが示され、各図における矢印で示した部分が埋設管の反射信号の位置を示している。
【0020】
図2から明らかなように受信信号レベルは管口径と相関関係を示しており、受信信号レベルに基づいて埋設管の口径を推定できることが原理的に理解される。
【0021】
しかしながら、このような原理があっても実際上は他のクラッタノイズなどとの混同あるいは土壌の性質による電磁波レベルの減衰量の変化などによって必ずしも正確な管径を推定することは容易ではなかった。
【0022】
そこで、本発明においては、深度補正及び土壌減衰量補正を行うとともに、地中探査レーダに基準深度における管径と受信信号レベルとの相対関係をテーブルとして記憶させ、この基準深度におけるテーブルを基に、対象となる埋設管の深度に応じてテーブルを補正することによって、処理回路を簡単にすることを可能とした。
【0023】
図3には、本発明の推定方法が各工程として示されている。
【0024】
工程S1には、基準深度における管径と受信信号レベルとの対応テーブルを地中探査レーダに記憶させる工程を示す。本実施形態においては、基準深度は0.6mに設定され、また、実施形態においては、この基準深度0.6mにおける対応テーブルは表1で示されるように、口径の推定値を小(口径45mm以下)、中(口径45〜66mm)、そして大(口径65mm超)の3種類とし、これに対する対応受信信号レベルを与えた。
【表1】

【0025】
このようにして本実施形態において、埋設管の口径を管径の範囲指定により特定された、例えば、3種類に大きく分類することによって、ばらつきの大きい推定値を基に大まかな口径推定を行い、推定確率を著しく改善することができた。
【0026】
もちろん、本発明においては、このような大まかな分類を行うことなく、細かい管径と受信信号レベルとの対応テーブルを作ることも可能である。
【0027】
以上、対応テーブルが記憶されると、地中探査レーダによる通常の探査が行われる(S2)。図1で説明したように、この探査により、埋設物から反射する信号の伝搬時間が求められ、この伝搬時間に基づいて埋設深度が計測される。
【0028】
図1で説明したように、本発明に用いられる地中探査レーダは2個の受信系を有しており、この結果、従来説明した特開平11−84020で示されるように、深度d及び土壌の比誘電率εrが求められる(S3)。
【0029】
図4には、単一の送信アンテナ10からパルス状の電磁波を地中に放射した時に地中埋設管からの受信信号が2個得られる状態を示す。ここで、送信アンテナ10と各受信アンテナ11,12とのアンテナ間距離はそれぞれ2L,2Lで示される。そして、埋設管深度はd、伝搬時間は片道T,Tで示されている。
【0030】
このような地中探査レーダにおいては、土壌の比誘電率εrが一様であると仮定すると、伝搬時間Tと深度d、そして比誘電率εrとの間には以下の関係が成り立つことが理解される。
【0031】
【数1】

【0032】
上記関係式を解くことにより、深さd及び土壌の比誘電率εrが以下の式で求められる。
【0033】
【数2】

【0034】
以上のようにして、管径推定の準備が完了し、次に受信信号レベルの演算処理を行う。
前述したように、図1に示した地中探査レーダによって制御回路13に送られる受信信号にはSTC処理が施されており、深度と信号レベルとの相関データが失われている。このため、本発明においては、制御回路13はソフトウェア処理によって逆STC処理を行う(S4)。
【0035】
本発明において管径を推定するための受信信号はいずれかの受信系の信号を用いることでよく、使用者は受信アンテナ11あるいは受信アンテナ12のいずれかから得られた受信信号を選択的に管径推定に用いることができる。制御回路13は実施形態においては両
STC回路15−1、15−2の両特性に合わせた逆STC演算プログラムをソフトウェアとして内蔵しており、選択された受信系に基づいていずれかの逆STC処理が行われる。
【0036】
そして、本発明においては、前述した基準深度における対応テーブルに深度及び土壌減衰量の補正を行う(S5)。これらの補正はどちらを先に行ってもよくあるいは同時に行うことも可能である。
【0037】
深度の補正は、対応テーブルが基準深度である0.6Mのデータしかないことから、これを対象となる埋設物の埋設深度に補正することで行う。このため、通常の探査による深度検出回路18の得た信号を用い、基準深度をこの対象となる深度に変換する補正を行う。
【0038】
この補正は、受信信号レベルが深度の4乗に反比例することから、深度係数をBとして、次の式
B=0.6/X を用いて行う。
【0039】
Xは管の埋設深度である。
【0040】
上式で求めた深度係数Bを前述した表1の基準となる受信信号レベルに乗算して、テーブル補正が行われる。
【0041】
次に、管が埋設されている土壌の減衰量による補正が行われ、この減衰量は土壌の比誘電率εrに比例することから、前述した工程S3で求めた土壌の比誘電率εrを用いて減衰量が補正される。このようにして、探査対象となっている埋設管に対する深度および土壌に適合した対応テーブルが作成され、これに工程S4で求めた受信信号が対比され、これによる管径の推定が行われる(S6)。
【0042】
実施形態においては、管径の推定はおおまかな口径範囲に小・中・大の3種類で表示されるが、もちろん推定結果に基づく管径そのものを数値で表記することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係わる推定方法が適用される地中監査レーダの概略構成図である。
【図2】本発明の原理である管の口径に対する受信信号レベルの相関関係を例示する図である。
【図3】本発明に係わる管径推定方法を各工程に分けたフローチャート図である。
【図4】本発明が適用される地中探査レーダの2系列の受信信号から埋設深度および土壌の比誘電率を求める方法の説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1 送信アンテナ、11,12 受信アンテナ、13 制御回路、15 STC回路、18 深度検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信アンテナにより地中に探査用電磁波を放射し、送信アンテナから異なる距離離間して設けられた2個の受信アンテナにより地中埋設管からの反射波を受信して埋設深度を測定する地中探査レーダにおける管径推定方法であって、
地中探査レーダに基準深度における受信信号レベルと管径との対応テーブルを記憶させるテーブル記憶工程と、
その探査点において探査を行い、両受信アンテナにより埋設管からの受信信号を得る探査工程と、
両受信信号の伝搬時間から、管の埋設深度と土壌の比誘電率を求める演算工程と、
いずれかの受信信号に逆STC処理を施し、受信レベルの深度に整合させる逆STC処理工程と、
管の埋設深度、土壌の比誘電率を用いて対応テーブルの深度補正および土壌減衰量補正を行う補正工程と、
受信レベルと補正テーブルとを比較して管径を推定する管径推定工程と、
を含む地中探査レーダにおける管径推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
管径と受信レベルとの対応テーブルは、管径の範囲指定によって特定されていることを特徴とする地中探査レーダにおける管径推定方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−271314(P2007−271314A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94193(P2006−94193)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、地方都市ガス事業天然ガス化促進対策調査(経年内管対策更新技術開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(000196680)西部瓦斯株式会社 (47)
【Fターム(参考)】