説明

地中構造物外壁用止水材

【課題】先やり工法の施工にも耐え得る充分な強度を有し、作業性に優れ、事前吸水による止水性の低下がなく、接合部においても水膨潤剤層を一体化することが可能であり、このため止水効果の信頼性が高く、さらに自己修復性を有する地中構造物外壁用止水材を提供する。
【解決手段】積層構造を有する地中構造物用止水材であって、内層として遮水シートを配設して、前記遮水シートの両側に粘着性かつ吸水膨潤性を有する水膨潤剤層を設けた地中構造物用止水材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物の地下接合面に外部から地下水等の水分が構造物内部へ浸入することを防止する効果をもたらす止水材に関するものであり、さらに詳しくは、地中構造物を構築しようとする際に、予め、地下外周部のコンクリート打継部や接合部等地下水の浸入が予測されるような箇所に設置される、高い防水効果と作業効率の良さを兼ね備える、特に先やり工法に有用な地中構造物外壁用の止水材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下埋設部を少なくと一部に有する構造物、すなわち地中構造物を構築する場合には、地中から浸入してくる地下水等を排水処理する設備を設けるか、または水分が浸入することを防止するための防水処置を施すことが一般的に行われている。排水処理を行う場合、浸入水が人目に付かないように壁を二重にする等の方法が採られ、浸入してきた水は集水ピットに集水され、集水ピットに溜まった水は、適時揚水ポンプなどで排出除去されるが、二重壁の設置スペース分地下室空間が狭められることと、揚水、排水にランニングコストが掛かることの問題などから採用が減っている。
【0003】
一方、防水処置を施す場合は、構造物地下外壁を構築した後に地下外壁外面に防水処置を施す「後やり工法」と、構造物地下外壁を構築する以前に山留め壁またはコンクリート型枠に防水層を設置せしめ、次いで地下外壁を防水層と密着するように構築する「先やり工法」とに区分することができる。後やり工法の場合、地下外壁の外側に防水施工を行う作業スペースが必要となるため、殆どの場合先やり工法が行われている。
【0004】
この様な構造物地下外壁の先やり防水工法としては、(1)ブチルゴム系止水材やアスファルト系止水材を地中に埋設する土留壁等に貼り付けておく方法、(2)エポキシ樹脂のような2成分系の防水材を下地不織布等に塗膜しておく方法、(3)ベントナイトをマットやパネルの内部に充填したベントナイト系止水材を土留壁等に貼り付けておく方法等が用いられている。これらのうち、(1)の方法は、止水材を接合する作業が重要で、信頼性のある防水効果を得るためには確実な施工管理が必要であり、防水層に欠損部が生じた場合には防水効果が得られないといった欠点を有している。(2)の方法は、継目の無い防水層を形成し、複雑な下地形状に対しても追従できる等の利点を有するが、下地不織布等の設置に手間が掛かり、2成分の計量誤差や混合不十分などが防水性能にバラツキを生じさせ、また、(1)の方法と同様に、防水層に欠損部が生じた場合には防水効果が得られないといった欠点を有している。
【0005】
一方、(3)の方法は、ベントナイトが周囲の水分を吸収し、膨潤することにより防水層を形成し、遮水を行うというものであり、防水層に欠損部が生じた場合においてもベントナイトが膨潤し、欠損部を塞ぐ自己修復効果が期待できることから、近年よく用いられるようになった。しかし、既存のベントナイト系止水材は、粉状や粒状のベントナイトを織布や不織布またはクラフトパネルに充填したものであるため、ベントナイトの偏在や欠落が生じたり、一定期間を経過すると織布や不織布が水みちとなる等防水信頼性に問題があった。また粉や粒状のベントナイトは、吸水し膨潤する速度が速いため、構造物の地下外壁を構築する前に該ベントナイト防水材が雨や地下水に接触すると即座に膨潤して自己修復機能が低下するため、敷設下地面の前処理止水や養生処理を施す必要があり、長い施工工期が必要であったり、また作業が煩雑であった。
【0006】
前記既存のベントナイト止水材の欠点、即ち施工途中や養生中の水との接触による止水性、自己修復性の低下という問題を解決する手段として、ベントナイトをアスファルトやブチルゴム、ポリプロペン、ポリブテン等の粘着性を有する有機粘着剤と混合し、粘着性を有する水膨潤剤とすることが特許文献1または特許文献2に開示されている。これらの粘着性を有する水膨潤剤は、そのものだけを成形して止水材とした場合は、充分な強度を有しないため、コンクリートに埋設される必要があったり、ポリエチレンのような不透水性シートの片面に塗布されて積層止水材とした場合、後やり工法に限定して使用されるなど用途が限られていた。また、水膨潤剤層が不透水性シートの片面に塗布された状態の止水材では、防水材同士を重ね合わせて接合しようとした場合、当該シートが遮断層となってしまうので、水膨潤剤の層を連続した一体化と成すことができず、止水上の弱点となった。
【特許文献1】特開平10−338812号
【特許文献2】特開平6−340017号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来の技術に鑑みてなされたものであり、先やり工法の施工にも耐え得るような充分な強度を有し、作業性に優れ、事前吸水による止水性の低下がなく接合部においても水膨潤剤層を一体化することが可能なことから止水効果の信頼性が高く、さらに自己修復性を有する地中構造物外壁用止水材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術課題は下記手段によって達成された。
(1)積層構造を有する地中構造物用止水材であて、内層として遮水シートを配設して、前記遮水シートの両側に粘着性かつ吸水膨潤性を有する水膨潤剤層を設けたことを特徴とする地中構造物用止水材、
(2)一方の前記水膨潤剤層の外面に保護層を、他方の前記水膨潤剤層の外面に剥離層を設けたことを特徴とする(1)記載の地中構造物用止水材、
(3)前記水膨潤剤層が水膨潤性を有する鉱物および粘着性を有する有機粘着剤を含有する組成物よりなることを特徴とする(1)または(2)記載の地中構造物用止水材、
(4)前記水膨潤性を有する鉱物がベントナイト、スメクタイト、および膨潤性雲母から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする(3)記載の地中構造物用止水材、
(5)前記有機粘着剤がアスファルト、ゲル化油、液状樹脂、およびゴム状物質から選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする(3)記載の地中構造物用止水材、
(6)前記遮水シートがポリエステル系樹脂シート、ポリビニル系樹脂シート、ポリエチレン系樹脂シート、およびアスファルト含浸不織布から選ばれる少なくとも1つである(1)〜(5)のいずれか1に記載の地中構造物用止水材、
(7)アルカリ分解性樹脂膜または水溶性樹脂膜の保護層を有する(1)〜(6)のいずれか1に記載の地中構造物用止水材、
(8)前記(1)〜(7)のいずれか1に記載の止水材をコンクリート打設で立設した地中構造物の外壁部または土留壁に取り付け地中水の地中構造物中への浸水を防止する施工方法、
(9)保護層を有する(1)〜(7)のいずれか1に記載の止水材の前記保護層を打設するコンクリート面に接するように取り付ける(8)記載の施工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の止水材は、先やり工法に有効なため施工が簡単で、耐水圧性に優れ、自己修復性を有する防水層を容易に得ることを可能とする。また、当該止水材は、その積層構造の内層に、例えば、ポリエステル系樹脂にて代表される遮水シートが介在することにより、止水材を仮止めする土留壁の凹凸、が激しい状況においても、壁面への追随密着性がよく、かつ、設置した止水材の必要以上の変形や破損を防止することができ、これは水膨潤剤層の膨潤変形限度を適正に抑制することにより、長期にわたり当該水膨潤剤層と地中構造物の外壁躯体との密着性を維持し、信頼性の高い止水効果をもたらす。さらにまた、止水材同士の接合部においても、その積層構造の中心に位置するポリエステル系樹脂にて代表される遮水シートの両面に前記水膨潤剤層が存在することにより、当該膨潤剤の粘着性により膨潤剤層の連続した一体化を可能とし、止水材同士の接合部を、止水上の弱点としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好ましい実施態様は、積層構造を基本とし、中心にポリエステル系樹脂にて代表される遮水シートが介在し、その両面にベントナイト系粘土含有組成物にて代表される水膨潤剤層が貼り付けられ、その一方側の表面にアルカリ分解性樹脂膜にて代表される保護層、他方側の表面に剥離層が貼り付けられたことを特徴とする止水材である。この止水材を、あらかじめ構築された山留壁(以下、「土留壁」ともいう。)面等の地中構造物躯体の外壁にあたる面に、保護層側が構造物躯体側に向くように釘打などにより連続して設置し、次いで当該止水材と密着するようにコンクリートを打設することにより構造物の地下外壁を構築することができ、容易な施工作業により防水層を形成し、しかも形成された防水層は自己修復性の利点を有するものである。該止水材を仮止めする位置は、打設するコンクリートにより立設される地中構造物の外壁の打継部やジョイント部等の漏水の可能性のある部位を覆う位置が好ましい。
【0011】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の止水材の好ましい実施態様を、図1を例に説明する。本発明の止水材は、図1に示すように、遮水シート層12を内層に配設し、その両側に水膨潤剤層11Aおよび11Bが設けられていることが好ましく、水膨潤剤層11A、11Bの外面に、それぞれ、保護層13、および剥離層14が設けられた積層構造がより好ましい。遮水シート12は、本発明の止水材を施工する際に必要な強度を止水材全体に与えると共に、水膨潤剤層11Aおよび11Bが地下水等と接して吸水し膨潤する際に膨潤による変形を適度に抑制し、止水性能を維持するという重要な目的を有する。
本発明の止水材は、図1の実施態様に限られるものではなく、各層の間に他の層を挿入してもよく、また保護層13もしくは剥離層14の外側に他の層を追加して貼り付けてもよい。
【0012】
地中構造物外壁を構築するにあたり、地下掘削後の地盤の崩壊を防止する目的で予め山留壁を構築する。この山留め壁の構築方法としては、親杭横矢板工法、シートパイル工法、柱列工法、地中連続壁工法などが知られており、土質その他施工環境および条件により適宜選択して施工される。このように構築された山留壁は、内部の地盤土砂を掘削し除去することにより、山留め壁内面が露出することとなる。このように露出させた山留め壁面に直接構造物躯体が接するようにコンクリートを打設する場合が多いが、山留壁の表面は掘削に伴い非常に凹凸が激しい状態である。
【0013】
先やり工法の場合、このように凹凸の激しい状態の山留壁面に止水材を仮止めすることとなるが、この仮止めの方法として釘打により山留壁に固定されることが多く、一連の仮止め工程の施工には止水材本体に止水材の形状を保持可能な強度が要求される。また、止水材を激しい凹凸のある山留壁面に完全に追従させることは不可能であり、よって、躯体側から見た止水材の裏面の一部には、空隙が生じることとなる。この様に止水材の裏面に間隙がある状態でコンクリートが打設されることとなるが、コンクリートの圧力により止水材は山留壁方向に押し付けられ変形することとなり、止水材はこの変形にも耐えうる抗張力を要求される。
【0014】
供用時において、止水材は山留壁と地中構造物躯体の間に存在するが、前記止水材と山留壁の間には依然として間隙が存在しており、止水材の水膨潤剤は、間隙部分では自由に膨潤変形してしまい、充分な自己修復性を維持できない状態となるが、本発明の止水材はその中心部に抗張力を有する遮水シートが存在するため、この遮水シートと地中構造物躯体表面に挟まれた面の水膨潤剤層は、当該遮水シートにより自由膨潤が拘束され、自己修復性を有する防水層を形成することができる。
【0015】
(遮水シート)
本発明の止水材に用いられる遮水シートとしては、遮水性を有し打設されるコンクリートの圧力に耐える抗張力を有するシートであれば特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂シート(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂シート)、ポリビニル系樹脂シート(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂シート)、ポリエチレン系樹脂シート(例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂シート)、およびアスファルト含浸非透水性不織布等の遮水シートが好ましい。
本発明の止水材において、遮水シートは1層であっても2層以上であってもよい。2層以上の場合は、それぞれ同一のシートであっても異なるシートであってもよい。また、本発明の止水材において、遮水シートの厚さは、追随する山留壁面の形状や打設されるコンクリートの圧力などにより適宜設定することができるが、一般的な条件において、0.01mm〜5.0mmが好ましく、0.1mm〜3.0mmのものがより好ましい。遮水シートの物性も上記と同様に使用される条件に応じて適宜設定されるが、50%伸張時のモジュラスが1MPa以上が好ましく、100%伸張時のモジュラスが2MPa以上がより好ましく、100%伸張時のモジュラスが5MPa以上が特に好ましい。
【0016】
(保護層)
本発明の止水材において水膨潤剤層は、地下外壁の躯体側に位置する面(以下、「A面」ともいう。)、および山留め壁や型枠側に位置する面(以下、「B面」ともいう。)に区別されるが、A面側には水膨潤剤層を保護する目的で、図1における保護層13が貼り付けられることが好ましい。この保護層は、粘着性を有する水膨潤剤層の保管時や輸送時、施工時に異物が水膨潤剤層の表面に付着することを防止すると共に水膨潤剤層の粘着性を抑えることにより、本発明の止水材の取扱性を向上させる。本発明の止水材に用いられる保護層としては、アルカリ分解性樹脂膜が好ましいが、水溶性樹脂膜(例えば、ポリビニルアルコール樹脂膜)であってもよい。アルカリ分解性フィルムを用いる場合、コンクリートが打設されるまでの間、水膨潤剤層を水や異物から保護し、コンクリートが打設された後は、コンクリートのアルカリ分によって分解されるため、剥がす手間を掛けることなく、供用時において止水材の水膨潤剤層と地中構造物の躯体とが密着することができる。水溶性フィルムを用いた場合でも止水材を施工するまでの期間、止水材が水に濡れないように注意していれば、止水材の水膨潤剤層への異物の付着防止と取扱性の向上という効果が得られるものである。
【0017】
(剥離層)
本発明の止水材において、前記水膨潤剤層のB面には剥離層が貼り付けられる。この剥離層は、前述の保護層と同様に粘着性を有する水膨潤剤層の保管時や輸送時、施工時に異物が水膨潤剤層の表面に付着することを防止すると共に水膨潤剤層の粘着性を抑えることにより、本発明の止水材の取扱性を向上させる。本発明の止水材に用いられる剥離層としては、剥離効果を有するものであればどのようなものでも用いることができ、一般的に剥離フィルム(または離形紙)として市販されているものを用いることができる。本発明の止水材に用いられる剥離層は、止水材の施工時に剥がして使用しても剥がさずに使用してもよいが、少なくとも止水材同士の接合部における重ね合わせの範囲は剥離し、止水材の水膨潤剤層B面を露出させる必要がある。
剥離層の厚さは、物性と取扱性、及び剥離後の廃棄物の抑制という観点から適宜採用できるが、通常、0.001mm〜1mmが好ましく、0.01mm〜0.1mmがより好ましい。剥離層を水膨潤剤層の上に形成する方法としては、定形品を水膨潤剤層に貼り付ける、または樹脂を溶解しうる有機溶媒に適当な濃度となるよう溶解しておき塗布(コーティング)して形成することができる。
【0018】
本発明の止水材において、止水材同士の接合部における重ね合わせ面は、前記保護層を介在して、水膨潤剤層のA面とB面が向かい合うこととなるが、保護層はコンクリート打設後の供用時においては、前述説明の様に分解または溶解しているため、水膨潤剤層のA面とB面は密着することとなり、水膨潤剤層の連続した一体化が可能となり、止水材の接合部が止水上の弱点となることがない。
【0019】
本発明における止水材は、山留め壁内面に仮止めされた後、コンクリートが打設され地中構造物の躯体壁面と密着することにより自己修復性を有する防水層を形成するが、該止水材を山留め壁内面に仮止めする位置は、少なくとも地中構造物の躯体壁の打継部やジョイント部等の漏水の可能性のある部位を完全に覆うように予め設計され決められることが好ましい。
【0020】
(水膨潤剤)
本発明の止水材に用いられる粘着性を有する水膨潤剤としては、ベントナイト等の水膨潤性を有する粘土(以下、これを成分(A)ともいう。)と、これにアスファルト、ゲル化油、液状樹脂および未加硫ゴムなどの粘着性を有する有機物から選ばれる少なくとも1つ(以下、これを成分(B)ともいう。)を混合した組成物が好ましく、均一に混合した組成物がより好ましい。当該水膨潤剤は、その保有する粘着性により止水材同士の接合時において粘着し一体化することができると共に水膨潤性を有する防水層を形成し、形成された防水層は自己修復性の利点を有する。
【0021】
本発明の止水材に用いられる水膨潤剤には、例えば、特願平7−345902号、および特願平10−99078号に開示された組成物なども好ましく用いられる。前述の如く成分(A)としては水膨潤性を有する粘土が好ましく、天然または合成の水膨潤性を有する粘土から選ばれた少なくとも1種の粘土がより好ましい。この様な粘土としては、未変性のものでも変性したものでもよいが、ベントナイト、ヘクトライト等のスメクタイト系粘土、および膨潤性雲母から選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。このうち、ベントナイトは、天然に産する粘土であるため安全性に優れ、かつ長期的に安定で、高い止水効果を保持でき、また低価格であるので、特に好ましい粘土である。当該水膨潤剤においては、前記粘土から選ばれた1種の粘土を単独で、または2種以上の粘土を用いる。当該水膨潤剤には、前記水膨潤性を有する粘土を好ましくは、成分(A)との合計量を100質量%ととしたとき、20〜95質量%、より好ましくは30〜90質量%を用いる。水膨潤性を有する粘土の量が少なすぎると本発明の止水材の膨潤性が悪くなり、充分な自己修復性および止水効果が得られ難く、逆に多すぎると当該水膨潤剤の柔軟性等の物性が損なわれ作業性、粘着性が悪くなり好ましくない。
【0022】
成分(B)としては、アスファルト、ゲル化油、液状樹脂および未加硫ゴム状物質などの粘着性を有する有機粘着剤から選ばれた少なくとも1つが好ましい。アスファルトとしては、例えば、ストレートアスファルト、ブローンアスファルト、改質アスファルト等が挙げられる。ゲル化油としては、鉱油、天然もしくは合成の芳香族炭化水素系油、天然もしくは合成の脂肪族炭化水素系油等から選ばれる基油に、油脂、ワックス、脂肪酸およびその金属塩、有機化ベントナイト、ポリウレア等から選ばれる増ちょう剤を分散させることにより半固体又は固体状にゲル化した油が挙げられる。液状樹脂としては液状の、ポリブテン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン等が、また未加硫ゴム状物質としては未加硫の、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレン‐プロピレンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、スチレン‐イソプレンブロック共重合体などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらの成分(B)は、単独または2種以上を任意に混合して用いることができる。成分(B)は、本発明の止水材に用いる水膨潤剤に、粘着性、形状保持性を与え、成分(A)である水膨潤性を有する粘土が偏在や欠落することを防止する成分であり、また当該水膨潤剤が必要以上に早く膨潤することを抑えるための膨潤速度調整剤としての成分であり、成分(A)との合計量を100質量%ととしたとき、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜70質量%を用いる。
【0023】
また、当該水膨潤剤は、上記成分(A)および成分(B)の他に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて種々の添加成分を任意成分として配合することができる。この添加成分としては、例えば軟化剤(例えば、鉱油、合成油、脂肪性油等の油、およびフタル酸エステル、脂肪族塩基酸エステル、ポリエーテルエステル等の可塑剤等)、安定剤(例えば、アニオン系、およびノニオン系等の界面活性剤、および鉛系、亜鉛系、カルシウム系等の金属石鹸等)、導水性付与剤(例えば、無機系吸水性物質、アニオン系吸水性樹脂、ノニオン系吸水性樹脂等)、充填剤、粘着性付与剤、老化防止剤、滑剤、着色剤などを挙げることができる。本発明の止水材に用いる水膨潤剤を製造するにあたり、各成分を添加、混合するについての順序、方法については特に制限は無い。また、当該水膨潤剤は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて繊維状物質を複合して製造することができる。この繊維状物質としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、合成繊維(例えば、ナイロン、ビニロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド等)、木綿、絹、パルプ繊維、スチール繊維等を挙げることができ、水膨潤剤層の剪断強度やコシ向上の目的で混合される。水膨潤剤層の厚さは、仮止めする土留壁面の凹凸状況や作用する地下水圧等の供用時の環境からの要求性能、および経済性との兼合いで決定されるが、通常、0.1mm〜20mmが好ましく、0.5mm〜10mmがより好ましい。
水膨潤剤層を遮水シートの上に成形する方法としては、例えば、ロール成型機によりシート状に成形し遮水シートに貼り付けてもよく、溶解しうる有機溶媒に適当な濃度となるよう溶解しておき塗布(コーティング)して成形してもよく、押し出し成型機により水膨潤剤と遮水シートを共押して成形してもよい。
【0024】
(アルカリ分解性樹脂膜)
上記の本発明の好ましい実施の形態を図1で説示すると、水膨潤剤層のA面には保護層13が貼付けられ、B面には剥離層14が貼り付けられた積層構造が好ましい。本発明の止水材を土留壁に仮留めしてからコンクリートの打設により構造物の地下外壁が構築されるまでの間、止水材が降雨などにより長時間水と接触するような時には、水膨潤剤層は有機粘着剤の作用により膨潤速度を抑えられているが、その限界を超えて膨潤を始め自己修復機能を低下される恐れがある。この様な場合には前記保護層13をアルカリ分解性樹脂膜にしておけば、コンクリート打設までの期間、水膨潤剤層11AのA面が水との接触を遮断することにより水膨潤剤層の自己修復機能低下を防止でき、その後、当該アルカリ分解性樹脂膜の内側面に接するように地下外壁躯体のコンクリートが打設されることにより、当該アルカリ分解性樹脂膜は、コンクリートのアルカリ成分によりまもなく分解されるため、当該アルカリ分解性樹脂膜を除去する手間を掛けることなく、前記水膨潤剤層と地下外壁躯体の表面が密着した防水層を構築することができる。
【0025】
保護層となるアルカリ分解性樹脂膜としては、例えば、ポリ乳酸樹脂などの脂肪族ポリエステル樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアルコールフタレート、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、またはスチレン・無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。これら以外の物質でも、酸性または中性の水は遮水し、pH11〜14の強アルカリによって分解する物質であればどのようなものでも用いることができる。また、保護層(例えば、アルカリ分解性樹脂皮膜)の厚さは、5μm〜100μm程度が好ましく、5μm未満では、コンクリート打設により地下外壁を構築するまでの間に破損する恐れが高く、100μmを超えるとアルカリによって分解するまでの時間が長くなり、未分解部分が残存する可能性があり好ましくない。
【0026】
このアルカリ分解性樹脂膜を前記水膨潤剤層のA面に形成する方法としては、アルカリ分解性樹脂フィルムの定形品を前記水膨潤剤層のA面に貼り付けるか、またはアルカリ分解性樹脂を溶解しうる有機溶媒にアルカリ分解性樹脂を適当な濃度となるよう溶解しておき、このアルカリ分解性樹脂溶解液を前記水膨潤剤層のA面に塗布(コーティング)して形成することができる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
ベントナイト(クニミネ工業株式会社製;商品名クニゲルVA)に、針入度60/80のストレートアスファルト100重量部に対しスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)樹脂7重量部を加えて成る改質アスファルト、および鉱油系プロセスオイル(コスモ石油社製;商品名コスモプロセス100)を、ベントナイト100重量部に対し、改質アスファルト60重量部、および鉱油系プロセスオイル10重量部の割合で配合し、加熱ジャケット付きディスパーを用いて160℃に加熱しながら充分に混合し、粘着性を有する水膨潤剤を得、これを組成物1とした。この組成物1は粘着性を有し、水に漬けると適度な膨潤速度で膨潤した。
次に、以下の手順で図1に示す止水材を成形した。剥離層14として、ロール状に巻き取られた剥離紙の剥離処理が施された面上に、前記組成物1を加熱溶融状態で連続的に流し込み、厚さが1mmの水膨潤剤層11Bを調製した上に、積層構造の中心部遮水シート12として、ロール状に巻き取られたポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂製シート(厚さ0.75mm)を貼り付け、さらにその上に前記組成物1を加熱溶融状態で連続的に流し込み、厚さが1.5mmの水膨潤剤層11Aを調整した上に、保護層13としてロール状に巻き取られたポリ乳酸樹脂製フィルム(厚さ40μm)を貼り付けて、積層構造の止水材を得、これの幅を200mmにカットした帯状止水材を試料1とした。
【0029】
比較例1
次に、以下の手順で図2に示す止水材を成形した。実施例1に記載した帯状止水材の製造過程において、図1における片方の組成物11Bおよび剥離層14を設ける工程を省略した以外は同様な処置を行った。図2で説示すると、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂シートの片面にのみ水膨潤剤層21が存在する積層構造の止水材の幅を200mmにカットした帯状止水材を得、これを試料2とした。
【0030】
実施例2
マシン油(コスモ石油製;製品名 コスモマシン46)100重量部、ラウリン酸(花王製;製品名 ルナックL-98)50重量部、および消石灰(秩父石灰工業製 型番SA149)10重量部を90℃に加熱して充分に反応させゲル化基油を得た。このゲル化基油とベントナイト(クニミネ工業株式会社製;商品名クニゲルV1)、ブチルゴム(JSR社製;型番Butyl065)、およびポリブテン(新日本石油化学製;型番 HV-100)を、ベントナイト100重量部に対し、ゲル化基油50重量部、ブチルゴム10重量部、およびポリブテン2重量部割合で配合し、加熱式ニーダーを用いて150℃に加熱しながら充分に混合し、粘着性を有する水膨潤剤を得、これを組成物2とした。この組成物2は粘着性を有し、水に漬けると適度な膨潤速度で膨潤した。
次に、以下の手順で図1に示す止水材を成形した。当該組成物2は、ロール成型機により厚さ2mmと3mmのシート状に成形し、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂製遮水シート(厚さ1mm)の両面に当該遮水シート12が積層構造の中心部に介在するように貼り付けられ、さらにそれぞれの組成物2の一方側の表面に保護層13としてポリビニルアルコール樹脂製フィルムを、他方側の表面に剥離層14としてポリエチレンフィルム(厚さ45μm)を貼り付けて、積層構造の止水材を得、これの幅を200mmにカットした帯状止水材を試料3とした。
【0031】
比較例2
次に、以下の手順で図3に示す止水材を成形した。実施例2に記載した帯状止水材の製造過程において、同様の方法で組成物2を得て、ロール成型機により厚さ5mmのシート状に成形し、組成物2の一方側の表面に保護層33としてポリビニルアルコール樹脂製フィルムを、他方側の表面に剥離層34としてポリエチレンフィルム(厚さ45μm)を貼り付けて、積層構造の止水材を得、これの幅を200mmにカットした帯状止水材を試料4とした。
【0032】
比較例3
次に、以下の手順で図4に示す止水材を成型した。実施例1に記載した帯状止水材の製造過程において、ポリエチレンテレフタレート樹脂製遮水シート(図1における遮水シート12)の替わりにポリエステル樹脂製メッシュ(図4におけるメッシュシート45)を用いる以外は同様の工程を経て、積層構造の止水材を得、これを試料5とした。
【0033】
得られた試料1〜5について、止水性能を下記の方法により確認した。
<止水性能試験供試体>
止水性能試験を図5を用いて説明すると、土留壁に見立てた立方体の木箱507を作製し、その垂直面に位置する四面に土留壁の凹凸を模した直径30mmの孔507aをあけ、更に上面には注水管509と圧力ゲージ取付管510を設けたものを5つ用意した。この木箱507の垂直四面に試料1〜5をそれぞれ釘打により仮留めした。この際、前記直径30mmの孔507aを塞ぐ位置に止水材試料505は釘打ちされ、止水材同士の接合部は50mmの重ね代を設けた。試料1、試料3、試料4及び試料5においては、重ね代部分の剥離紙は剥され、露出した水膨潤性組成物層をその粘着力により密着させた。
また、止水材を取り付けないブランクケースとして直径30mmの孔をあけずに、いずれの試料も仮留めしない木箱507も用意した。
この様にして得られた各止水材試料505を仮留めした木箱507(ブランクケースは止水材なし)の周囲に壁の厚さが150mmと成る様に鉄筋を組み、型枠を建て込んだ後にコンクリートを打設した。このコンクリートの打設に際し、各止水材試料505の中央部に打継部508が形成されるように、コンクリート下部506aとコンクリート上部506bの打設の二期に分けて行った。このものを2週間静置してコンクリートが充分に固まった後、廻りの型枠を取り外してコンクリート面を露出させたものを止水性能試験供試体50とした。
<止水性能試験手順>
止水性能試験の手順を図5を用いて説明すると、上記それぞれの試験供試体50の上面に突き出している注水管509に取り付けたバルブ511aを介して手動式加圧ポンプ514と耐圧ホース513により接続し、圧力ゲージ取付管510から水が溢れるまで充分に木箱507内のエア抜きを行った後、圧力ゲージ取付管510にバルブ511bを介して圧力ゲージ512を取り付けた。この様にして各供試体内部を水で充満させた後、手動式圧力ポンプ514を用い水圧をかけ、0.1MPa水圧を上昇させる毎に注水管509のバルブ511aを閉じ、その時の作用水圧を維持しながら24時間放置するという作業を繰返し、コンクリート打継部508から漏水が発生するまで最大1MPaまで観察を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表に示した結果から明らかなように、本発明の止水材は高水圧まで止水効果が発揮される優れた結果となった。試験終了後の止水材の状況を確認する目的で、各試験供試体を解体し、各止水材を露出させ、その状況を観察したところ、本発明の止水材は、いずれもコンクリートに接している水膨潤剤層は密着しており、コンクリートと止水材の界面を水が浸入している範囲が限定されており、水がコンクリートの打継部まで到達していないことが確認された。また、木箱に直径30mmの孔が開いた部分においても止水材の中心部に存在する遮水シートの抗張力によりコンクリートの打設圧による止水材の変形がある程度に抑えられ、欠損部の無い防水層を維持していた。
【0036】
一方、比較例1の止水材を用いた試験供試体においては、木箱に直径30mmの孔が開いた部分における止水材の変形は抑えられていたものの、止水材同士の接合部である重ね代の範囲にコンクリートのノロが浸入しており、そのノロを伝わって浸入水がコンクリートの打継部にまで到達して漏水が発生していた。また比較例2の止水材を用いた試験供試体においては、木箱に直径30mmの孔が開いた部分においてコンクリートの打設圧による止水材の変形が激しく、なかには止水材の防水層を突き破り、コンクリートが木箱の内部にまでこぼれている箇所があり、ここが水みちとなり漏水が発生したものと考えられる。
また、比較例3の止水材を用いた試験供試体においては、木箱に直径30mmの孔が開いている部分の周辺において、止水材の水膨潤剤層が完全に膨潤しきっており、それに伴う止水材の抗張力低下によるコンクリート面との密着力不足と自己修復性能の低下により漏水が発生したものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例に係る止水材の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】比較例1に係る止水材の構造を概略的に示す断面図である。
【図3】比較例2に係る止水材の構造を概略的に示す断面図である。
【図4】比較例3に係る止水材の構造を概略的に示す断面図である。
【図5】止水性能試験の装置を模式的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1、2、3、4 止水材
11A、11B、21、31、41A、41B 水膨潤剤層
12、22 遮水シート
13、23、33、43 保護層
14、34、44 剥離層
45 メッシュシート
50 止水性能試験供試体
505 止水材試料
506a コンクリート下部
506b コンクリート上部
507 木箱
507a 木箱側面孔
508 コンクリート打継部
509 注水管
510 圧力ゲージ取付管
511a、511b バルブ
512 圧力ゲージ
513 耐水圧ホース
514 手動式加圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有する地中構造物用止水材であって、内層として遮水シートを配設して、前記遮水シートの両側に粘着性かつ吸水膨潤性を有する水膨潤剤層を設けたことを特徴とする地中構造物用止水材。
【請求項2】
一方の前記水膨潤剤層の外面に保護層を、他方の前記水膨潤剤層の外面に剥離層を設けたことを特徴とする請求項1記載の地中構造物用止水材。
【請求項3】
前記水膨潤剤層が水膨潤性を有する鉱物および粘着性を有する有機粘着剤を含有する組成物よりなることを特徴とする請求項1または2記載の地中構造物用止水材。
【請求項4】
前記水膨潤性を有する鉱物がベントナイト、スメクタイト、および膨潤性雲母から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項3記載の地中構造物用止水材。
【請求項5】
前記有機粘着剤がアスファルト、ゲル化油、液状樹脂、およびゴム状物質から選ばれる1種または2種以上の混合物であることを特徴とする請求項3記載の地中構造物用止水材。
【請求項6】
前記遮水シートがポリエステル系樹脂シート、ポリビニル系樹脂シート、ポリエチレン系樹脂シート、およびアスファルト含浸不織布から選ばれる少なくとも1つである請求項1〜5のいずれか1項に記載の地中構造物用止水材。
【請求項7】
アルカリ分解性樹脂膜または水溶性樹脂膜の保護層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の地中構造物用止水材。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の止水材をコンクリート打設で立設した地中構造物の外壁部または土留壁に取り付け地中水の地中構造物中への浸水を防止する施工方法。
【請求項9】
保護層を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の止水材の前記保護層を打設するコンクリート面に接するように取り付ける請求項8記載の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−37440(P2006−37440A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217061(P2004−217061)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000104814)クニミネ工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】