説明

地中構造物

【課題】想定されるすべり面のずれに対して水路やケーブル等を収容する共同溝等の構造物としての機能を損なわない地中構造物を提案する。
【解決手段】地盤G中のすべり面Fを横断するように構築されたトンネル1であって、すべり面Fの横断箇所を含む横断区間10と、横断区間10の前後の一般区間20とを備えている。横断区間10には、すべり面Fを挟んで対向する一対の変位吸収覆工体11,11が連設されており、この変位吸収覆工体11は、一般区間20における内空断面よりも大きな内空断面を具備していて、すべり面Fにおいてずれが生じた際に周辺地盤Gとともに移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道、工業施設用の水路、排水路等では、ルート設定上、すべりの発生の可能性のある活断層帯を横断せざるを得ない場合がある。
活断層運動の活動周期は構造物の供用期間に比べてはるかに長いものの、地盤中のすべり面にずれ(変位)が生じた場合には大きな応力がこれらの構造物に作用するおそれがある。
【0003】
このように構造物に対してすべり面のずれに伴う大きな応力が作用すると、構造物に破損が生じ、供用不能となるおそれがあった。
【0004】
特許文献1や特許文献2には、地盤中のすべり面を横断するトンネルについて、活断層横断箇所を二重トンネルとして、内側のトンネルと外側のトンネルとの間の空間により、すべり面の変位を受け止める構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−239691号公報
【特許文献2】特開2006−233626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二重トンネルにおいて、内側のトンネルは、制震ダンパーによって支持されているが、制震ダンパーの支持基礎は断層帯に形成されている。そのため、すべり面において大きなずれが生じた場合には、過大な応力が内側のトンネルに作用するおそれがあった。
【0007】
このような観点から、本発明は、想定されるすべり面のずれに対して水路やケーブル等を収容する共同溝等の構造物としての機能を損なわない地中構造物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決する本発明の地中構造物は、地盤中のすべり面を横断するように構築された地中構造物であって、前記すべり面の横断箇所を含む横断区間と、前記横断区間の前後の一般区間と、を備え、前記横断区間には、前記すべり面を挟んで対向する一対の変位吸収覆工体が連設されており、前記変位吸収覆工体は、前記一般区間における内空断面よりも大きな内空断面を具備していて、前記すべり面においてずれが生じた際に周辺地盤とともに移動することを特徴としている。
【0009】
かかる地中構造物によれば、変位吸収覆工体がすべり面の変位に逆らわずに周辺地盤とともに移動するため、地中構造物が破損する可能性を低減することができる。また、変位吸収覆工部材の内空断面は、一般部よりも大きく形成されているため、一般部の覆工との間にずれが生じたとしても、所望の供用空間を確保することができる。
【0010】
前記変位吸収覆工体の内空断面が、予測される前記すべり面のずれによる移動方向の反対側が拡幅されていれば、変位吸収覆工体の断面形状を必要最小限に抑えることが可能となり、施工性および経済性に優れている。
【0011】
前記変位吸収覆工体が複数の部材が連設されてなるものであれば、複数の部材が個々に移動することで、すべり面のずれによる地盤の変位への追従性が向上する。また、変位吸収覆工体に作用する集中荷重の低減化を図ることが可能となる。
【0012】
前記横断区間と前記一般区間との境界部に形成された妻壁を備えていれば、変位吸収覆工体と一般部の覆工とが分離されるので、変位吸収覆工体が移動することにより一般部の覆工が損傷することを防止できる。
【0013】
前記横断区間の外周囲を覆う止水シート(止水兼土砂流入防止シート)を備えており、前記止水シートが、樹脂製の板材と、補強繊維とにより構成されていてもよい。
【0014】
かかる地中構造物によれば、横断区間の周囲が止水シートにより覆われているため、地中構造物の内部に地下水や土砂等が流入することが防止されている。
また、止水シートは、補強繊維により補強されているため、破損しにくい。
【0015】
前記地中構造物は、広域的な地盤の上下変位を考慮して取水口および放水口のレベル設定がなされているのが望ましい。
【0016】
かかる地中構造物によれば、すべり面においてずれが生じた場合であっても、通水面積が確保されているため、水路構造物としての機能を維持することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の地中構造物によれば、すべり面において変位が生じた場合であっても水路やケーブル等を収容する共同溝等の構造物としての機能を損なわず、引き続き使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施の形態にかかる地中構造物を示す平断面図である。
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は図1のB−B断面図である。
【図3】止水シートを示す図であって、(a)は平面図、(b)および(c)は断面図である。
【図4】(a)すべり面におけるずれ発生時の地盤変位を示す模式図、(b)はすべり面におけるずれ発生時の地中構造物の状況を示す平断面図である。
【図5】すべり面におけるずれ発生前後の止水シートの変位状況を示す模式図であって、(a)は側面部のずれ発生前、(b)は側面部のずれ発生後、(c)は天端部のずれ発生前、(d)は天板部のずれ発生後を示している。
【図6】地中構造物を水路に採用する場合の取水口と放水口の位置関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
本実施形態では、図1に示すように、地盤中のすべり面Fを横断するように構築された水路トンネル1について説明する。
【0020】
トンネル1は、すべり面Fの横断箇所を含む所定の区間に設定された横断区間10と、この横断区間10の前後に設定された一般区間20,20とを備えている。
【0021】
横断区間10は、すべり面Fの変位対策のための構造物(変位吸収覆工体11)を設置するための拡幅領域である。拡幅領域(横断区間10)の施工は、ロックボルト30、吹付けコンクリート31を一次支保として、一般的なトンネル(一般区間20)と同様の方法により行う。
【0022】
横断区間10には、すべり面Fを挟んで対向する一対の変位吸収覆工体11,11が連設されており、横断区間10と一般区間20との境界部には妻壁12が形成されている。また、横断区間10の外周囲(拡幅領域の壁面)は、止水シート13により覆われている。
【0023】
変位吸収覆工体11は、複数(本実施形態では2つ)の覆工部材14,14がトンネル1の軸方向に連設されることにより構成されている。
【0024】
覆工部材14は、鉄筋コンクリート製の部材であって、すべり面Fにおいてずれが生じた際に、周辺の地盤Gとともに移動する。隣り合う覆工部材14,14は、それぞれが分離された状態で連設されている。なお、覆工部材14の構成は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。また、本実施形態では、覆工部材14は現場打ちコンクリートにより構成するものとするが、プレキャスト部材を組み立てることにより構成してもよい。
【0025】
覆工部材14同士および覆工部材14と妻壁12との境界面に、テフロンシート(「テフロン」は登録商標)、ステンレス板等の低摩擦材15を介在させることで、覆工部材14がすべり面Fのずれに追随しやすいように構成されている。低摩擦材15を構成する材料は限定されるものではない。
【0026】
覆工部材14(変位吸収覆工体11)の内空断面は、図2(b)に示すように、一般区間20のトンネル覆工21の内空断面21a(図2(a)参照)の延長上に位置し、当該内空断面21aと同じ断面積を有する通常部14aと、通常部14aの側方に確保された拡幅部14bと、を備えている。
【0027】
拡幅部14bは、予測されるすべり面Fのずれに伴って覆工部材14が移動する方向に対応して形成されており、すべり面Fのずれにより覆工部材14が移動した際に、トンネル1の内空断面が遮断されることがないように形成された拡幅部分である。
すべり面Fのずれの大きさや方向性等の予測は、トンネル1の掘削時の地山状況や露頭等の調査結果に基づいて適宜行う。
【0028】
トンネル1は、図1に示すように、横断区間10における内空断面14aの拡幅により、すべり面Fの両側にそれぞれ平面視L字状の空間が形成されている。
【0029】
妻壁12は、横断区間10の両端の一般区間20との境界部に形成されたコンクリート部材であって、横断区間10両端の地盤G表面を遮蔽するように形成されている。
本実施形態では、妻壁12をトンネル軸方向と直交する方向(トンネル横断方向)に延設することにより、拡幅部分の地盤Gの表面を遮蔽している。
【0030】
妻壁12の部材厚は、横断区間10にトンネル軸方向から作用する土圧に対して十分な耐力を発現することが可能となるように、地盤Gの強度等に応じて適宜設定する。なお、妻壁12の形状等は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0031】
止水シート13は、通常時の止水とすべり面のずれが生じた際の土砂流入防止とを目的として、変位吸収覆工体11,11の外周囲を覆うように配設された部材であって、すべり面のずれに応じて伸縮するように構成されている。
本実施形態では、止水シート13として、横断区間10の側面に配設される第一止水シート13aと、横断区間10の天端部と底面部に配設される第二止水シート13bと、を使用する。
【0032】
第一止水シート13aは、図3(a)および(b)に示すように、板材16と、スチールワイヤ(補強繊維)17と、端部プレート18と、により構成されている。
【0033】
本実施形態では板材16として、止水性と伸縮性を備えたゴム板を使用する。なお、板材16を構成する材料は、止水性と伸縮性を有していればゴムに限定されるものではない。また、板材16の代わりにシート状の部材により構成してもよい。
【0034】
スチールワイヤ17は、たるみを持たせるように波状を呈した状態で板材16に埋設されている。また、スチールワイヤ17は、隣り合うスチールワイヤ17同士を連結する補助ワイヤ17aにより、その形状が保持されている。
【0035】
端部プレート18は、板材16の端部に固定された板状部材であって、ロックボルト30を挿通するための貫通孔18aが複数形成されている。なお、端部プレート18は固定方法に応じて備えていればよく、省略してもよい。また、端部プレート18に形成される貫通孔18aの数は限定されるものではなく、適宜設定することが可能である。
【0036】
横断区間10の天端部に配設される第二止水シート13bでは、図3(c)に示すように、第一止水シート13aの板材16に変えて、形状保持材16aと2枚のゴム板16b、16bが厚み方向で積層された積層体を使用する。
【0037】
形状保持部材16aは発泡ポリスチレン等により形成されている。スチールワイヤ17は、この形状保持部材16a内に埋設されている。なお、形状保持部材16aを構成する材料は限定されるものではない。
2枚のゴム板16b,16bは、互いに接着することなく積層されている。
【0038】
この他の第二止水シート13bの構成は、第一止水シート13aと同様である。
第二止水シート13bは、面内せん断変形に対して、ゴム板16b同士が互いにスライドすることにより追随する。
【0039】
図1および図2(b)に示すように、止水シート13と覆工部材14との間には、隙間が形成されており、地盤Gの移動に伴う止水シート13の伸縮が覆工部材14との摩擦により妨げられないように構成されている。
なお、止水シート13と覆工部材14との隙間は必要に応じて形成すればよく、必ずしも形成する必要はない。
【0040】
次に、トンネル1の作用について説明する。
すべり面Fにおいてずれが生じると、図4(a)に示すように、すべり面Fの前後において地盤Gが移動することで、トンネル1も地盤Gの移動に伴いすべり面Fの前後でずれが生じる。
【0041】
すべり面Fにおいてずれが生じると、トンネル1は、図4(b)に示すように、すべり面Fの右側においてはトンネル1全体が図面下側に移動するとともに、すべり面Fの近傍では、覆工部材14がそれぞれ地盤Gの変位に応じて下側に大きく移動する。また、すべり面Fの左側においては、トンネル1全体が図面上側に移動するとともに、すべり面F近傍では、覆工部材14がそれぞれ地盤Gの変位に応じて上側に大きく移動する。
【0042】
このように、トンネル1は、横断区間10に配設された変位吸収覆工体11により、すべり面Fのずれを緩衝し、トンネル1としての機能を保持することを可能としている。
トンネル1は、横断区間10に配設された覆工部材14が地盤Gのずれに追随して個々に移動するため、トンネル1自体に破損が生じにくい。
【0043】
また、覆工部材14は、予測される地盤Gのずれに応じて内空断面14aが拡幅されているため、地盤Gのずれに伴って覆工部材14が移動した後も、トンネル1の内空の連続性が維持(通水路が確保)される。
【0044】
各覆工部材14同士の間および覆工部材14と妻壁12との間には、低摩擦部材15が配設されているため、地盤Gの変位にとともなう覆工部材14の移動が覆工部材14同士あるいは覆工部材14と妻壁12との摩擦抵抗により妨げられることがなく、また、覆工部材14が移動することにより隣接する他の覆工部材14や妻壁12が破損することがない。
【0045】
止水シート13は、図5(a)に示すように、たわみを持たせて地盤Gに固定されているため、地盤Gのずれが生じた場合であっても、図5(b)に示すように、ずれに追随することが可能である。そのため、横断区間10における止水性が維持される。
【0046】
また、横断区間10の天端部および底面に配設された第二止水シート13bは、ゴム板が積層されているため、面内せん断変形に対して、ゴム板が互いにずれることで追随することを可能としている(図5(c)および(d)参照)。
【0047】
止水シート13に配設されたスチールワイヤ17は、地盤Gのずれに応じて板材16が伸張した際に、直線状となって補強効果を発揮するため、止水シート13が破損することを防止し、横断区間10への地下水や土砂の流入を防止する。
【0048】
なお、水路トンネル1は、広域的な地盤Gの上下変位を考慮して取水口および放水口のレベル設定がなされている必要がある。つまり、図6に示すように、すべり面Fにおいてずれが生じることで取水口2a側が下側に移動し、放水口2b側が上側に移動すると、水路2は分断されてしまう(水路2’参照)。そのため、取水口2aおよび放水口2b”は、予めすべり面Fのずれを考慮して設定する必要がある(水路2”参照)。
【0049】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜設計変更が可能であることはいうまでもない。
【0050】
例えば、前記実施形態では、水路トンネルに本発明の地中構造物を採用する場合について説明したが、本発明の地中構造物が適用可能な構造物は水路トンネルに限定されるものではなく、例えばケーブル等を収容する共同溝等の地中構造物にも適用することができる。
【0051】
また、地中構造物を水路として使用する場合には、覆工部材の内部に空洞を設けることでコンクリート容量を低減するとともに、この空洞を空気貯留槽としてすべり発生時の動水圧の低減または緩衝を図るものとしてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、予測されるずれ発生時の移動方向に応じて内空断面を拡幅するものとしたが、覆工部材の内空断面は、ずれ発生時にトンネルの連続性を維持することが可能に構成されていれば必ずしも位置方向に拡幅されている必要はない。すべり面のずれに伴う移動方向が予測できない場合には、全体的に内空断面を大きく形成してもよい。
【0053】
前記実施形態では、変位吸収覆工体として、複数の覆工部材を連接するものとしたが、変位吸収覆工体は1つの部材により構成されていてもよい。
【0054】
また、止水シートの構成は限定されるものではない。
また、トンネル内空断面の形状は限定されるものではなく例えば円形など、適宜設定することが可能である。
【0055】
また、滞水層等の軟弱地盤が確認された場合には、グラウト注入や先受け工等、適宜補助工法を併用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 トンネル(地中構造物)
10 横断区間
11 変位吸収覆工体
12 妻壁
13 止水シート
14 覆工部材
16 板材
17 スチールワイヤ(補強繊維)
20 一般区間
F すべり面
G 地盤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中のすべり面を横断するように構築された地中構造物であって、
前記すべり面の横断箇所を含む横断区間と、前記横断区間の前後の一般区間と、を備え、
前記横断区間には、前記すべり面を挟んで対向する一対の変位吸収覆工体が連設されており、
前記変位吸収覆工体は、前記一般区間における内空断面よりも大きな内空断面を具備していて、前記すべり面においてずれが生じた際に周辺地盤とともに移動することを特徴とする、地中構造物。
【請求項2】
前記変位吸収覆工体の内空断面が、予測される前記すべり面のずれによる移動方向の反対側が拡幅されていることを特徴とする、請求項1に記載の地中構造物。
【請求項3】
前記変位吸収覆工体が複数の部材が連設されてなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の地中構造物。
【請求項4】
前記横断区間と前記一般区間との境界部に形成された妻壁を備えていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の地中構造物。
【請求項5】
前記横断区間の外周囲を覆う止水シートを備えており、
前記止水シートが、樹脂製の板材と、補強繊維とにより構成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の地中構造物。
【請求項6】
広域的な地盤の上下変位を考慮して取水口および放水口のレベル設定がなされていることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の地中構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−203213(P2010−203213A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53235(P2009−53235)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】