説明

地山改良材注入装置

【課題】下孔の全長に渡って地山改良材を略同時に、且つ略均一に注入することができる地山改良材注入装置を提供する。
【解決手段】注入用孔91を具備するケーシング鋼管90に挿入された、複数のパッカー10を貫通するインサート鋼管20が、各パッカー10の位置に対応した充填用孔21とパッカー10同士の間に吐出用孔22を有する。地山改良材は、インサート鋼管20に供給され、まず、パッカー10に充満してこれを膨張し、その後、該膨張によって仕切られたケーシング鋼管90に吐出用孔22を経由して吐出し、さらに、注入用孔91を経由して地山に注入される。このとき、吐出用孔22に設置された吐出用定圧開閉弁60が開放する吐出圧力は、充填用孔21に設置された充填用定圧開閉弁50が開放する充填圧力よりも高く、且つ、インサート鋼管20の先端に近い位置になる程高くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山(本発明において地山、地盤、法面、地中等を「地山」と総称する)をを改良ないし補強するために地山に注入される地山改良材を地山に注入する地山改良材注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルや地下空洞などを掘削する際、地山を改良ないし補強して掘削作業の安定化や容易化を図る地山改良工法(長尺先受け工法、地山先受け補強工などを「地山改良工法」と総称する)が実施されている。
たとえば、トンネル切羽の前方地山(以下「地山」と称す)に、所定の深さの下孔を穿孔し、該下孔に鋼管を挿入して、手前(掘削済みのトンネル側)から液状の地山改良材をポンプ等によって圧入し、鋼管の側面に穿設された通孔から地山改良材を吐出させ、これを地山内に浸透させるものである。
【0003】
また、前記下孔や削孔(以下まとめて「下孔」と称す)が長尺(奥が深いに同じ)の場合や下孔の内壁が崩落し易い場合など、下孔への鋼管の挿入困難になるため、形成された下孔にまず外管を挿入し、かかる外管に内管を挿入したり、あるいは、先端に削孔手段が設置されている内管を外管に挿入して略一体化し、かかる内管でもって所定の深さの削孔を形成し、その後、内管を回収して削孔に外管を残置したりしている。そして、外管に手前から地山改良材を圧入し、外管の側面に穿設された通孔から地山改良材を吐出させて、これを地山内に浸透させている。
【0004】
このとき、下孔が傾斜して手前側が低い場合、地山改良材のヘッド圧(静圧)や内管内の流動抵抗によって吐出の不均一、すなわち、手前側では早期に多量の吐出が始まり、先端側(奥)では吐出が遅れて吐出量が減少することがある。特に、下孔が長尺の場合にはこれが顕著になる。このため、地山改良材を外管の全長に渡って一度に吐出すること、すなわち、下孔の全長に渡って一度に浸透させることを断念し、外管を長さ方向で複数の仕切り部屋に仕切り、手前端側の仕切り部屋から奥側の仕切り部屋に向かって順番に地山改良材を吐出する発明が開示されている。
【0005】
具体的には、外管に挿入された内管に、これを包持する一対のパッカーを設け、まず、該パッカー内に地山改良材を圧送してパッカーを膨張させ、膨張した一対のパッカーによって内管と外管との隙間を2箇所で閉塞して仕切り部屋を形成し、その後、仕切り部屋に地山改良材を充満し、外管に設けた通孔のうち当該仕切り部屋に相当する範囲の通孔から地山に地山改良材を吐出する。そして、所定の吐出が終了した後は、パッカーを収縮して、内管を奥に向かって一対のパッカー間の距離だけ移動し、前記作業を繰り返すものである(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−143976号公報(第4−6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1に開示された発明は、パッカーに地山改良材を充填する際、外管に地山改良材を噴出すための噴出孔がバルブアッセンブリによって閉塞されてパッカーが膨張し、さらに、内部圧力が高まると、バルブアッセンブリが作動して噴出孔を開口し、今度は、外管内に地山改良材が噴出され、一方、地山改良材の圧送を中止して内部圧力が下がると、バルブアッセンブリが作動して噴出孔を閉塞し、外管内への地山改良材の噴出が停止し、このとき、パッカーはそれ自身の収縮力で収縮するものであるため、、以下の問題があった。
【0008】
(イ)内部圧力が下がった際、下孔と外管との隙間に圧送された地山改良材が、減圧した外管内に逆流し、地山への浸透が不十分になったり、外管の口元からトンネル内に流れ出したりするおそれがある。
(ロ)一対のパッカーで仕切られた仕切り部屋に噴出された地山改良材が、パッカーの収縮によって、当該仕切り部屋の周囲に流れ出し、やがて、外管の口元からトンネル内に流れ出すおそれがある。
【0009】
(ハ)噴出孔を開閉するバルブアッセンブリが、内管の外面を繰り返し摺動するバルブを具備するから、作動不良が生じるおそれがあり、噴出孔の開通または閉塞不能等が生じるおそれがある。
(ニ)パッカーがそれ自身の収縮力で収縮するため、パッカー内の地山改良材の流動性が悪化(固化の開始、粘性の低下等)した場合、パッカーの収縮不良が生じて内管の移動が困難になるおそれがある。
(ホ)また、仕切り部屋に対応した下孔の所定範囲毎に地山改良材を注入するから、注入された地山改良材が、地山改良材がまだ注入されていない範囲に向かって流動し、当該範囲の地山に浸透しないおそれがある。すなわち、膨張性や発泡性を具備する地山改良材であっても、地山に浸透するだけの十分な圧力が立たないおそれがある。
【0010】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、下孔の全長に渡って地山改良材を略同時に、且つ略均一に安定して注入することができる地山改良材注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る地山改良材注入装置は、地山に形成された下孔に設置されるケーシング鋼管と、該ケーシング鋼管に挿入されるインサート鋼管と、該インサート鋼管が貫通している可撓性を具備する略液密的な複数の袋体とを有する地山改良材注入装置であって、
前記インサート鋼管の一方の端部に地山改良材を受け入れるための受け入れ手段と、前記インサート鋼管の前記複数の袋体の位置に前記複数の袋体のそれぞれに地山改良材を充填するための複数の充填用孔と、前記インサート鋼管の前記複数の袋体同士の間に、前記ケーシング鋼管内に地山改良材を吐出するための複数の吐出用孔と、前記ケーシング鋼管に地山に地山改良材を注入するための複数の注入用孔とが設けられ、
前記受け入れ手段を経由して前記インサート鋼管に地山改良材が圧送された際、まず前記複数の充填用孔を経由して前記複数の袋体に地山改良材が充填され、前記袋体が膨張して前記ケーシング鋼管が複数の仕切り部屋に仕切られ、その後、前記複数の吐出用孔を経由して該複数の仕切り部屋に地山改良材が吐出され、さらに、前記複数の注入用孔を経由して地山に地山改良材が注入されることを特徴とする。
【0012】
(2)また、前記複数の吐出用孔のそれぞれに所定の圧力である吐出圧力に到達すると開通し、該吐出圧力より低い圧力では閉塞する吐出用定圧開閉弁が設置されていることを特徴とする。
【0013】
(3)また、前記複数の吐出用孔のそれぞれに所定の圧力である吐出圧力に到達すると開通し、該吐出圧力より低い圧力では閉塞する吐出用定圧開閉弁が設置され、
該吐出用定圧開閉弁の吐出圧力が、前記インサート鋼管の一方の端部に近い位置に配置された吐出用定圧開閉弁になる程、高くなることを特徴とする。
【0014】
(4)また、前記複数の充填用孔のそれぞれに、前記インサート鋼管の他方の端部に最も近い位置に配置された吐出用定圧開閉弁の吐出圧力よりも低い圧力である充填圧力に到達すると開通し、該充填圧力よりも低い圧力では閉塞する充填用定圧開閉弁が設置されていることを特徴とする。
【0015】
(5)また、前記複数の充填用孔のそれぞれに、地山改良材を前記袋体に向けてのみ通過させる充填用逆止弁が設置されていることを特徴とする。
【0016】
(6)また、前記インサート鋼管が前記袋体の一対の開口部を貫通し、前記インサート鋼管の外面に弾性を具備する一対の環状体が設置され、前記袋体の一対の開口部の周囲がそれぞれ前記一対の環状体を介して前記インサート鋼管に縛着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る地山改良材注入装置は以上で、袋体が簡単な構造であるから、製造コストが低減する。また、一連の簡単な作業によって、袋体が膨張して複数の仕切り部屋が形成され、さらに、地山改良材がそれぞれの仕切り部屋から略同時に注入されるから、地山改良材がインサート鋼管の口元から流れ出すことがないと共に、下孔の全長に渡って注入されるため、施工環境が清浄に維持され、施工が迅速になり、施工コストが低減し、かつ、改良地山の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の図において同じ部分または同様の機能の部分は同じ符号を付し、一部の説明を省略する。また、各部分において共通する内容については添え字「a、b、c、d」を省略する。さらに、地山改良材の、インサート鋼管への流入を「受け入れ」または「供給」と、インサート鋼管から袋体に向けての流出を「充填」と、インサート鋼管からケーシング鋼管に向けての流出を「吐出」と、ケーシング鋼管から地山に向けての流出を「注入」と称する。
【0019】
図1は本発明の実施形態1に係る地山改良材注入装置を説明する上半分を断面にした側面図である。図1において、地山改良材注入装置1(以下「注入装置1」と称す)は、可撓性を具備する略液密的な袋体10a、10b、10c、10d(以下「袋体」と称し、それぞれをまとめて「袋体10」と称する場合がある)と、袋体10を略液密的に貫通するインサート鋼管20と、袋体10と鋼管20とが挿入されるケーシング鋼管90とを有している。
【0020】
(インサート鋼管)
インサート鋼管20には、一方の端部(図中、右端部)に、地山改良材を受け入れるための受け入れ手段30と、他方の端部(図中、左端部)に、地山改良材の流れ出しを防止して内圧を上昇させるための先端閉塞手段40(以下「シールキャップ40」と称す)が設置され、所定の間隔を設けて袋体10が設置されている。
そして、インサート鋼管20の袋体10a、10b、10c、10dに包囲された位置に、袋体10のそれぞれに地山注入剤を充填するための充填用孔21a、21b、21c、21dが穿設され、そこに、充填用定圧開閉弁50a、50b、50c、50d(以下まとめて「充填用定圧開閉弁50」と称する場合がある)が設置されている。なお、充填用定圧開閉弁50は、所定の圧力である充填圧力(たとえば、P1)に到達すると開通し、該充填圧力(P1)より低い圧力では閉塞するものである。
【0021】
さらに、袋体10aと袋体10bとの間にケーシング鋼管90内に地山注入剤を吐出するための吐出用孔22aが穿設され、そこに吐出用定圧開閉弁60aが設置され、袋体10bと袋体10cとの間に吐出用孔22bが穿設され、そこに吐出用定圧開閉弁60bが設置され、袋体10cと袋体10dとの間に吐出用孔22cが穿設され、そこに吐出用定圧開閉弁60cが設置され、袋体10dとシールキャップ40(他方の端部に同じ)との間に吐出用孔22dが穿設され、そこに吐出用定圧開閉弁60dが設置されている。なお、吐出用定圧開閉弁60a、60b、60c、60d(以下まとめて「吐出用定圧開閉弁60」と称する場合がある)は、所定の圧力である吐出圧力(たとえば、P2)に到達すると開通して該吐出圧力(P2)より低い圧力では閉塞するものである(これについては別途詳細に説明する)。
【0022】
(ケーシング鋼管)
ケーシング鋼管90は、地山に形成された下孔に設置されるものであって、側面には、所定の間隔を設けて地山に地山注入剤を注入するための注入用孔91a、91b、91c、91d(以下まとめて「注入用孔91」と称する場合がある)が穿設されている。なお、図中、注入用孔91a、91b、91c、91dは一箇所だけ記載しているが、複数箇所であってもよく、それらの位置(長手方向および周方向)は限定されるものではない。
【0023】
また、下孔が二重管式掘削工具によって形成された場合には、二重管式掘削工具を構成する外管が、そのまま下孔に残置されてケーシング鋼管90になったり、外管に代えて下孔にケーシング鋼管90が挿入されたりするものである。
さらに、下孔が二重管式掘削工具における外管に相当する管を具備しない掘削工具によって形成された場合には、下孔にケーシング鋼管90が挿入されることになる。このとき、ケーシング鋼管90の先端部(図中、左端部)に、内部への土砂の侵入を防止するための先端閉塞手段(たとえば、略円錐状のコーンキャプ等)を設置してもよい。
【0024】
(定圧開閉弁)
図2は、図1に示す注入装置における充填用定圧開閉弁および吐出用定圧開閉弁を説明する断面図であって、(a)は充填用定圧開閉弁の正面視の断面、(b)は吐出用定圧開閉弁の側面視の断面である。図2において 充填用定圧開閉弁50および吐出用定圧開閉弁60は同様の型式であって、それぞれ、一方の端部に内フランジ51、61を具備する筒状のボディ52、62と、内フランジ51、61に当接するOリング(オーリング)53、63と、ボディ52、62内を移動する弁体54、64(以下「バルブ54、64」と称す)と、バルブ54、64をOリング53、63に押し付ける圧縮バネ55、65と、圧縮バネ55、65に所定の圧縮力(以下「プレロ−ド」と称す)を付与しつつ、圧縮バネ55、65をボディ52、62に収納するキャップ56、66とを有している。そして、ボディ52、62の外フランジ57、67がインサート鋼管20の外面に設置されている。
なお、充填用定圧開閉弁50や吐出用定圧開閉弁60をインサート鋼管20に設置する要領は限定するもものではなく、たとえば、ボディ52、62を充填用孔21や吐出用孔22に嵌合あるいは螺合してもよい。
【0025】
したがって、以上の構成であるから、充填用定圧開閉弁50の圧縮バネ55のプレロ−ドを、充填圧力(P1)に設定しておけば、インサート鋼管20に地山改良材を供給して、内圧が充填圧力(P1)に到達すると、圧縮バネ55が収縮して充填用定圧開閉弁50が開通し、内圧が充填圧力(P1)未満に降下すると、充填用定圧開閉弁50は閉塞する。
また、同様に、吐出用定圧開閉弁60の圧縮バネ65のプレロ−ドを、吐出圧力(P2)に設定しておけば、インサート鋼管20に地山改良材を供給して、内圧が吐出圧力(P2)に到達すると、圧縮バネ65が収縮して吐出用定圧開閉弁60が開通し、内圧が吐出圧力(P2)未満に降下すると、吐出用定圧開閉弁60は閉塞する。
そして、充填圧力(P1)を吐出圧力(P2)より低い値(P1<P2)に設定しておけば、インサート鋼管20に地山改良材を供給した祭、内圧が上昇して充填圧力(P1)に到達すると、まず、圧縮バネ55が収縮して充填用定圧開閉弁50が開通し、内圧がさらに上昇して吐出圧力(P2)に到達すると、圧縮バネ65が収縮して吐出用定圧開閉弁60が開通することになる(これについては別途詳細に説明する)。
【0026】
(袋体)
図3は、図1に示す注入装置における袋体の設置状況を説明する上半分を断面にした部分側面図である。図3において、袋体10は可撓性を具備するシート(布、皮、樹脂シート等)によって形成され、インサート鋼管20が貫通するための開口部11、12が設けられている。
そして、インサート鋼管20には所定の間隔を空けて一対の弾性を具備する環状体81、82が複数群設置されている。環状体81、82に袋体10の開口部11、12の周囲が重ねられ、該重ねられた部分の外周が縛着リング83、84によって締め付けられている。
【0027】
したがって、袋体10の開口部11、12の周囲で袋体10を形成するシートが重なった場合であっても、環状体81、82の弾性変形に助けられて隙間が生じないから、袋体10とインサート鋼管20との間の液密性が保証される。なお、環状体81、82として弾性を具備する帯状体を巻回して形成してもよい。
なお、袋体10は、前記パッカーに相当するものであって、地山改良材の充填によって膨張し、所定の内圧に耐える限り、形状や材質等は限定するものではない。また、本発明において「略液密的」とは、地山改良材の充填によって膨張を維持できる限り、地山改良材の多少の洩れ(リーク)を許容するものを指している。
【0028】
(受け入れ手段)
図4は、図1に示す注入装置における受け入れ手段を説明する部分側面図である。図4において、受け入れ手段30はインサート鋼管20に螺合した異径ソケット31と、異径ソケット31に螺合した継手手段32(たとえば、ワンタッチカプラー)から形成され、継手手段32は地山改良材を供給する地山改良材供給管(図示しない地山改良材を供給する圧送ポンプに接続している)に接続されるものである。
【0029】
(先端閉塞手段)
図5は、図1に示す注入装置における先端閉塞手段を説明する上半分を断面にした部分側面図である。
図5において、シールキャップ40には外ネジ41が形成され、一方、インサート鋼管20の先端には内ネジ23が形成され、外ネジ41が内ネジ23に螺合している。したがって、インサート鋼管20に地山注入剤が供給された際、内部が所定の圧力にまで上昇することになる。
なお、図示する先端閉塞手段の設置要領は例示であって、本発明はこれに限定するものではなく、たとえば、シールキャップ40に内ネジを設けても、シールキャップ40を円筒状またはコップ状にしてインサート鋼管20の内面または外面に嵌合してもよい。
【0030】
さらに、ケーシング鋼管90が下孔に挿入される場合には、その先端に先端閉塞手段(図示しない)たとえば、先端が略円錐状に形成された略円柱のコーンキャップを設置してもよい。このとき、ケーシング鋼管90の内部に土砂が侵入することがなく、また先端が略円錐状で尖っているから下孔に多少の土砂が堆積している場合であっても、これをかき分けて前進することができる。
【0031】
(開閉弁の動作)
図6および図7は、図1に示す注入装置における施工の際の開閉弁の動作を説明する模式図である。
図6の(a)において、地山7に形成された下孔8に注入装置1のケーシング鋼管90が配置される。すなわち、ケーシング鋼管90が二重管式掘削工法における外管(ケーシング鋼管)である場合には、削孔の後、形成されている下孔8に残置されたものである。
【0032】
図6の(b)において、ケーシング鋼管90にインサート鋼管20が挿入される。このとき、袋体10は折り畳まれてインサート鋼管20の周囲を抱き込んでいるから、袋体10の外周がケーシング鋼管90の内面に押し付けられることがなく、容易に挿入される。そして、受け入れ手段30に、地山改良材を供給する地山改良材供給管(図示しない)が接続される。
【0033】
図6の(c)において、インサート鋼管20に地山改良材(図中、梨地にて示す)が供給され、管内の圧力が充填圧力(P1)に到達したところで、まず、充填用定圧開閉弁50が開通するから、地山改良材は充填用孔21を経由して袋体10内に吐出し、袋体10を膨らませながら充満する。したがって、インサート鋼管20とケーシング鋼管90との隙間は、膨張した袋体10によって略液密的に仕切られ、仕切り部屋9a、9b、9c、9dが形成される(以下「aゾーン、bゾーン、cゾーン、dゾーン」と称する場合がある)。
【0034】
図7の(d)において、インサート鋼管20に地山改良材が継続して供給され、袋体10内の圧力(インサート鋼管20内の圧力に同じ)が吐出圧力(P2)に到達すると、今度は吐出用定圧開閉弁60が開通するから、地山改良材は吐出用孔22を経由して仕切り部屋9内に吐出する。
【0035】
図7の(e)において、やがて、地山改良材が仕切り部屋9に略充満すると、ケーシング鋼管90に設けた注入用孔91およびケーシング鋼管90の先端を経由して地山改良材が下孔8に注入され、地山に浸透する。
【0036】
このとき、吐出用孔22a、22b、22c、22dの全てから略同時に地山改良材が吐出するように、吐出用定圧開閉弁60a、60b、60c、60dが開通するそれぞれの吐出圧力(プレロード)Pa、Pb、Pc、Pdは、手前側(図中、右側)の吐出用定圧開閉弁60になる程、高い値になっている。
すなわち、注入装置1が地山に傾斜して挿入され、手前側が低い位置にある場合、インサート鋼管20内に供給された地山改良材の自重によって、吐出用孔22a、22b、22c、22d(以下、まとめて「吐出用孔22」と称する場合がある)にはそれぞれ異なった値のヘッド圧(静圧)ΔPa、ΔPb、ΔPc、ΔPdが作用する。
【0037】
このとき、ΔPa>ΔPb>ΔPc>ΔPdの関係があるから、手前側にある吐出用定圧開閉弁60になる程、該ヘッド圧に助けられて開通し易くなっている。そこで、それぞれのヘッド圧に相当する分だけ、開放し難くくなるように吐出圧力(プレロ−ド)を調整している。つまり、それぞれの吐出用定圧開閉弁60の吐出圧力(プレロ−ド)を、概ね、Pa=P2+ΔPa、Pb=P2+ΔPb、Pc=P2+ΔPc、Pd=P2>P1、にしている。
【0038】
よって、インサート鋼管20に地山改良材が供給されて内圧が上昇すると、充填用孔21についても前記と同様にヘッド圧が作用しているから、まず、手前にある充填用孔21aにおける圧力が充填圧力(P1)に到達して充填用定圧開閉弁50aが開通し、引き続き、充填用定圧開閉弁50b、50c、50dが奥に向かって順次開通する。したがって、袋体10a、10b、10c、10dは手前側から順次膨張して、インサート鋼管20とケーシング鋼管90との隙間は、仕切り部屋9a、9b、9c、9dに仕切られる。
【0039】
そして、内圧がさらに上昇して、先端の配置された吐出用孔22dにおける地山改良材の圧力が吐出圧力(P2)に到達すると、吐出用定圧開閉弁60dが開通し、これと略同時に、吐出用定圧開閉弁60a、60b、60cもまた開通する。よって、仕切り部屋9a、9b、9c、9dに略同時に地山改良材が吐出され、さらに、下孔8のaゾーン、bゾーン、cゾーンおよびdゾーンのそれぞれに略同時に地山改良材が注入されることになる。
【0040】
このため、長尺の(奥の深い)あるいは傾斜の急な下孔8であっても、その全長に渡って、地山改良材が略同時に略均一に充填されるから、簡単な施工でありながら、地山改良の信頼性が向上する。また、インサート鋼管20の口元は袋体10aによって継続して閉塞されているから、地山改良材がインサート鋼管20の口元からトンネル内に流れ出すことがない。
なお、充填用定圧開閉弁50については、全ての袋体10を略同時に膨張させる必要がないから、充填用定圧開閉弁50のそれぞれについて、充填圧力(プレロード)を調整していない。
【0041】
また、以上の吐出圧力(プレロード)を調整は、インサート鋼管20が傾斜して設置された場合のヘッド圧(静圧)のみを考慮しているが、地山改良材の粘性等によって伝達される圧力が降下する場合には、奥側にある吐出用定圧開閉弁60になる程開通し難くなる(手前側にある吐出用定圧開閉弁60の方が開通し易くなる)から、前記ヘッド圧(静圧)に準じて、前記圧力の降下をも考慮してもよい。
【0042】
なお、以上の説明は袋体10を4台設置したものであるが、本発明はその設置台数を限定するものではなく、また、袋体10相互の間隔は等しいものに限定するものではなく、さらに、充填用孔21a、21b、21c、21dは袋体10a、10b、10c、10d毎に1個、あるいは吐出用孔22a、22b、22c、22dはゾーン毎に1個に限定するものではなく、それぞれ、施工条件に応じて、数量、位置、形状など適宜選定できるものである。
また、充填用定圧開閉弁50や吐出用定圧開閉弁60の型式は限定するものではない。 さらに、インサート鋼管20やケーシング鋼管90は鋼管に代えて、樹脂管を使用してもよく、地山改良材は何れの種類であってもよい。
【0043】
[その他の実施形態]
以上説明した実施形態は、充填用孔21に充填用定圧開閉弁50が設置されているが、充填用定圧開閉弁50に代えて、逆止弁を設置してもよい。
さらに、鋼管20内に供給された地山改良材の圧力の変動がない場合、あるいは該圧力の変動が少ない場合には、充填用孔21を貫通孔(充填用定圧開閉弁50または逆止弁が設置されていない)にして、吐出用孔22に吐出用定圧開閉弁60を設置してもよい。すなわち、受け入れ手段30または受け入れ手段30よりも上流(地山改良材圧送手段側)に、鋼管20内に供給された地山改良材の圧力の変動を防止する手段(たとえば、逆止弁等)が設置されている場合には、袋体10に一旦充填された地山改良材が逆流することがなく、各ゾーンの隔離が維持されるからである。
【0044】
さらに、実施形態は、ケーシング鋼管90を各ゾーンに隔離し、各ゾーンのそれぞれに略同時に地山改良材が注入されるものであるが、本発明はこれに限定するものでなく、ケーシング鋼管90を各ゾーンに隔離し、所定のゾーンに他のゾーンよりも先行して地山改良材を注入するようにしてもよい。すなわち、先行して地山改良材を注入したいゾーンに設置された吐出用定圧開閉弁の吐出圧力を、他のゾーンに設置された吐出用定圧開閉弁の吐出圧力より低く設定しておけばよい。よって、各ゾーン毎に吐出用定圧開閉弁の注入圧力を適宜設定しておけば、所望の順番で、それぞれのゾーンに地山改良材を注入することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、長尺先受け工法、地山先受け補強工などの地山改良工法に用いられる地山改良材を、地山に注入するための地山改良材注入装置として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る地山改良材注入装置を説明する側面図。
【図2】図1に示す注入装置における定圧開閉弁を説明する断面図。
【図3】図1に示す注入装置における袋体の設置状況を説明する部分側面図。
【図4】図1に示す注入装置における受け入れ手段を説明する部分側面図。
【図5】図1に示す注入装置における先端閉塞手段を説明する部分側面図。
【図6】図1に示す注入装置における施工の際の開閉弁の動作を説明する模式図。
【図7】図6に続く開閉弁の動作を説明する模式図。
【符号の説明】
【0047】
1 地山改良材注入装置
7 地山
8 下孔
9 仕切り部屋
10 袋体
11 開口部
20 インサート鋼管
21 充填用孔
22 吐出用孔
23 内ネジ
30 受け入れ手段
31 異径ソケット
32 継手手段
40 シールキャップ
41 外ネジ
50 充填用定圧開閉弁
60 吐出用定圧開閉弁
81 環状体
83 縛着リング
90 ケーシング鋼管
91 注入用孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に形成された下孔に設置されるケーシング鋼管と、該ケーシング鋼管に挿入されるインサート鋼管と、該インサート鋼管が貫通している可撓性を具備する略液密的な複数の袋体とを有する地山改良材注入装置であって、
前記インサート鋼管の一方の端部に地山改良材を受け入れるための受け入れ手段と、前記インサート鋼管の前記複数の袋体の位置に前記複数の袋体のそれぞれに地山改良材を充填するための複数の充填用孔と、前記インサート鋼管の前記複数の袋体同士の間に、前記ケーシング鋼管内に地山改良材を吐出するための複数の吐出用孔と、前記ケーシング鋼管に地山に地山改良材を注入するための複数の注入用孔とが設けられ、
前記受け入れ手段を経由して前記インサート鋼管に地山改良材が圧送された際、まず前記複数の充填用孔を経由して前記複数の袋体に地山改良材が充填され、前記袋体が膨張して前記ケーシング鋼管が複数の仕切り部屋に仕切られ、その後、前記複数の吐出用孔を経由して該複数の仕切り部屋に地山改良材が吐出され、さらに、前記複数の注入用孔を経由して地山に地山改良材が注入されることを特徴とする地山改良材注入装置。
【請求項2】
前記複数の吐出用孔のそれぞれに所定の圧力である吐出圧力に到達すると開通し、該吐出圧力より低い圧力では閉塞する吐出用定圧開閉弁が設置されていることを特徴とする請求項1記載の地山改良材注入装置。
【請求項3】
前記複数の吐出用孔のそれぞれに所定の圧力である吐出圧力に到達すると開通し、該吐出圧力より低い圧力では閉塞する吐出用定圧開閉弁が設置され、
該吐出用定圧開閉弁の吐出圧力が、前記インサート鋼管の一方の端部に近い位置に配置された吐出用定圧開閉弁になる程、高くなることを特徴とする請求項1記載の地山改良材注入装置。
【請求項4】
前記複数の充填用孔のそれぞれに、前記インサート鋼管の他方の端部に最も近い位置に配置された吐出用定圧開閉弁の吐出圧力よりも低い圧力である充填圧力に到達すると開通し、該充填圧力よりも低い圧力では閉塞する充填用定圧開閉弁が設置されていることを特徴とする請求項2または3記載の地山改良材注入装置。
【請求項5】
前記複数の充填用孔のそれぞれに、地山改良材を前記袋体に向けてのみ通過させる充填用逆止弁が設置されていることを特徴とする請求項2または3記載の地山改良材注入装置。
【請求項6】
前記インサート鋼管が前記袋体の一対の開口部を貫通し、前記インサート鋼管の外面に弾性を具備する一対の環状体が設置され、前記袋体の一対の開口部の周囲がそれぞれ前記一対の環状体を介して前記インサート鋼管に縛着されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の地山改良材注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−70568(P2006−70568A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255263(P2004−255263)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(596147367)株式会社ティーエフティー (11)
【出願人】(596096607)日豊商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】