説明

地山補強土工法用の補強材、地山補強土工法

【課題】地山補強土工法において、施工方法の簡略化、施工コストの低減および産業廃棄物発生量の抑制を図ること。
【解決手段】補強材1の下部補強材11は筒状の鋼管であり、一方の端部11aが押し潰されて、一対の壁面11b,11cの間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに一対の壁面11b,11cの先端同士が直線状に合わさる形状になっている。なお、この端部11aは、打設時に地山の盛土に分け入るための先鋭部として機能する。また、筒状の下部補強材11の側面には、円形の開口部11eが形成されている。この開口部11eは、当該補強材1の後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材1の周囲に吐出するための吐出口として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山補強土工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自然地山や既設盛土などの掘削時に棒状の補強材を打設して配置し、地山勾配を急勾配化する工法である地山補強土工法が知られている。
なお、地盤工学会では、上述の地山補強土工法に用いる補強材の種類によってネイリング、ダウアリング、マイクロパイリングの3種類に分類している。以下順に説明する。
【0003】
ネイリング(Nailing)は、細長比が大きく曲げ剛性の小さい補強材を地山に配置して、主として補強材の引張抵抗によって地山の安定性を向上させる工法であり、補強材の直径は概ね10cm以下の小径である。代表的な工法として、ソイルネイリング工法、アースネイリング工法などがある。
【0004】
ダウアリング(Dowelling)は、細長比が小さく曲げ剛性の大きい補強材を地山に配置して、補強材の引張抵抗の他、曲げ抵抗および圧縮抵抗によって地山の安定性を向上させる工法であり、補強材の直径は概ね30cm以上の大径である。代表的な工法として、ラディッシュアンカー工法がある。
【0005】
マイクロパイリング(Micropiling)は、ネイリングとダウアリングの中間的な曲げ剛性および断面積を有する補強材を地山に配置して、補強材の引張抵抗の他、曲げ抵抗および圧縮抵抗によって地山を補強する工法であり、補強材の直径は概ね10〜30cmの中径である。代表的な工法として、ルートパイル工法がある。
【0006】
なお、上述の地山補強土工法における補強効果については、補強土の適用条件、地盤性状、補強在諸元の相対関係に大きく依存する。このため、地山補強材(ネイリング、ダウアリング、マイクロパイリング)の選定にあたっては、補強メカニズムを理解し適切に選定する必要がある。
【0007】
また、上述の地山補強土工法では、自然地山や既設盛土などを削孔すると同時にグラウトを噴射・循環させて改良体を造成している。
例えば、特許文献1には、地山2へ鉄筋やロックボルト等の補強材1を打設して地山2を補強する地山補強土工法において、孔壁の崩壊を防止するため、ドリルロッド6aの先端より硬化性充填材9と圧縮空気Aを排出しつつドリルロッド6aを前進させて削孔7を形成した後、削孔内に硬化性充填材の充填と補強材の挿入を行う点が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、石積み壁の耐震補強材101が、両端開放型の筒体102の先端に先鋭部103を設けてなる補強材本体104と、筒体102内に挿入される打撃用ロッド105とから構成され、この先鋭部103の背面には、打撃用ロッド105の先端が当接される本体側被打撃部106が形成され、筒体102には吐出口としてのスリット107が形成され、筒体102内の中空空間108に圧入されたグラウト材を補強材本体104の周囲に吐出し、裏ぐり石の間隙に注入できるようになっている点が記載されている。
【0009】
また、特許文献3には、石積み壁補強材1が、先鋭に形成された中空多孔管本体2と、該中空多孔管本体の基端側に設けられた雄ネジ部3と、該雄ネジ部に螺合される打撃用キャップ4と、該打撃用キャップを取り外した状態にて雄ネジ部3とグラウトホース5の先端とを互いに接続する接続用雌ネジ部材6と、グラウトホース5を取り外した状態にて雄ネジ部3に螺合される頭部キャップ7とから構成されており、中空多孔管本体2の周面には、打撃用キャップ4の先端12が当接する鍔状当接部11を突設形成してあり、打撃用キャップ4を雄ネジ部3にねじ込んでいったとき、打撃用キャップ4の先端12が鍔状当接部11に当接するように該鍔状当接部を形成してあり、間知石と裏ぐり石とをグラウト材で一体化させかつ補強するようになっている点が記載されている。
【0010】
また、特許文献4には、中空管体16が、両端が開口した中空円筒状の本体16aと、中空管体16の外周面に貫通形成された多数の集水孔16bと、本体16aの一端側の外周面に刻設されたネジ部16cとを有しており、中空管体16が削孔24内に設置されると、グラウト材22を注入して、中空管体16の先端側を地山14中に定着させ、中空管体16の頭部に定着プレート28を装着して、中空管体16に定着ナット30を螺着して、斜面10の表面に固定することで、地山14中に打設された中空管体16が、先端側が頭部側よりも上方になるように傾斜状態で設置され、外周に設置された透水性の排水材18と、集水孔とを有しているので、地山14中の地下水が、排水材18と集水孔とを介して、中空管体16内に取り込まれ、その後中空管体16内を流下して、外部に排出され、アンカー12が、地山14の抑止補強工と地下水排水工とを兼ね合わせた機能を備える点が記載されている。
【0011】
また、特許文献5には、先端部に削孔用ビット5を取り付けた削孔ロッド3を内包する短尺鋼管の先端側を削孔ビット5に回転自在に接続し、同短尺鋼管の後端部に、トンネルの後続掘削において汎用の掘削機で切除可能となる薄肉の鋼製スパイラルシース製の長尺管2を接続し、この削孔ロッド3と長尺管2を、トンネルの切羽前方の地山内へトンネル掘進方向と略同方向に、先端部の削孔ビット5で削孔して打設し、打設が完了したら上記削孔ロッド3を基端部より回収した後で、地山に残置された当該長尺管2の内空の略全長に亘って、基端部側より補強芯材となる長尺ロッドを挿入し、その後、当該長尺管2の全長に亘って内側より固化材を注入し、当該長尺管2の横穴より周辺地山に固化材を充填あるいは浸透、固化させる点が記載されている。
【0012】
また、特許文献6には、地山21に穿設した孔22に挿入される線状補強部材(ボルト1)と、孔22の口元部分に線状補強部材(ボルト1)をほぼ貫通させる状態に配設される筒状部11及び地山21を孔22の口元部分の手前側から抑止する板状部12からなる口元部材(鍔付鋼管2)と、孔22の内部に充填され線状補強部材(ボルト1)及び口元部材(鍔付鋼管2)を地山に定着させるとともに、線状補強部材(ボルト1)に孔22に沿う方向で引張力が付与された場合に口元部材(鍔付鋼管2)の内側で線状補強部材(ボルト1)に拘束力を付与する定着部材(モルタル3)と、を含む線状補強部材の固定装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−303480号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開2008−231758号公報(第7,8頁、図1)
【特許文献3】特開2007−070980号公報(第7,8頁、図1)
【特許文献4】特開2001−152459号公報(第3頁、図2,3)
【特許文献5】特開2005−029964号公報(第7,8頁、図1,2)
【特許文献6】特開2004−092377号公報(第5,6頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上述のような地山補強土工法では、次のような理由によって施工方法の大規模化、施工コストの増大および産業廃棄物の大量発生という問題があった。
すなわち、上述のような一般的なネイリング工法においては、掘削機により削孔し、掘削機のドリルを引き抜いた後に削孔にグラウトを充填し、さらに、削孔に補強材(芯材)を挿入しているため、施工工数が増大するという問題があった。
【0015】
また、上述のような自然地山や既設盛土などを削孔すると同時にグラウトを噴射・循環させて改良体を造成する過程においては、多量のグラウトを使用する一方、掘削された土砂とグラウトが混合した廃泥も多量に発生する。したがって、グラウト生成に関しては現地で大量の水を供給するための水槽と、廃泥処理においては一時的に廃泥を溜める水槽とが必要であり、それらのプラント施設が大規模化する傾向にあった。また、多量の産廃処理を行うため、その搬出作業にかかる周辺環境整理(廃泥飛散防止対策・工事用道路造成)や、産廃処理費が工事費に大きな割合を占めていた。また、芯材の鉄筋を改良体に挿入して設置する段階において、グラウトによる造成体の孔壁が崩壊して鉄筋が挿入できないことも懸念される。
【0016】
なお、グラウトを循環させずに、充填・注入することが考えられるが、このような事前のグラウトの注入では棒状の改良造成体が造成されないという問題がある。また、グラウトを循環させて造成された改良体は、固結前であれば芯材の鉄筋を比較的簡便に挿入することができるが、グラウト注入による改良では鉄筋を挿入すること自体が困難であるという問題があった。
【0017】
また、特許文献2,3に記載の技術は、石積み壁に特化されたものであり、一般的なネイリング工法に適用されるものではない。
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、地山補強土工法において、施工方法の簡略化、施工コストの低減および産業廃棄物発生量の抑制を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するためになされた請求項1に係る地山補強土工法用の補強材は、筒状に形成され、打設時に前記地山の盛土に分け入るための先鋭部が先端付近に形成されるとともに、後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材の周囲に吐出するための吐出口が側面に形成されていることを特徴とする。
【0019】
このように構成された本発明の地山補強土工法用の補強材によれば、予め削孔を掘削しておかなくても、補強材を地山に打設することで、先鋭部によって地山の盛土に分け入ることができる。
【0020】
つまり、上述のような一般的なネイリング工法においては、上述のように掘削機により削孔し、掘削機のドリルを引き抜いた後に削孔にグラウトを充填し、さらに、削孔に補強材(芯材)を挿入しているため、施工工数が増大するという問題があったが、本発明によれば、予め削孔を掘削しておかなくても、補強材を地山に打設することで、先鋭部によって地山の盛土に分け入ることができ、施工工数の低減が可能となる。
【0021】
また、本発明によれば、補強材の打設には軽量のブレーカーを用いればよく、従来技術のような事前の削孔掘削を省略できるだけでなく、事前の削孔掘削に必要な重機械の使用も省略できるので、大幅な施工工数の簡略化が可能となる。
【0022】
そして、補強材の後端側からグラウトを圧入すると、補強材の内部に圧入されたグラウトが補強材の内部に充填されるとともに補強材の側面の吐出口から補強材の周囲に吐出されて補強材周囲の盛土にも浸透する。グラウトが硬化すると、補強材と補強材内部のグラウトおよび補強材周囲の盛土とが一体となり、補強材を地山に定着させることができる。
【0023】
このことにより、改良体を造成するためにグラウトを削孔に噴射・循環させる必要がないため、多量のグラウトを使用しなくてもよく、掘削土砂とグラウトが混合した廃泥も発生せず、これらに付随する水槽などの設備を用意する必要もない。
【0024】
したがって、上述のような従来の地山補強土工法に比べて、施工方法の簡略化、施工コストの低減および産業廃棄物発生量の抑制を図ることができる。
請求項2に係る地山補強土工法用の補強材は、請求項1に記載の地山補強土工法用の補強材において、前記先鋭部は、筒状である当該補強材の一方の端部が押し潰されて、一対の壁面の間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに前記一対の壁面の先端同士が直線状に合わさる形状になっていることを特徴とする。
【0025】
このように構成された本発明の地山補強土工法用の補強材によれば、先鋭部を形成するためには、筒状である当該補強材の先端を押し潰して、一対の壁面の間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに一対の壁面の先端同士が直線状に合わさる形状にすればよいので、製造が容易である。
【0026】
請求項3に係る地山補強土工法用の補強材は、請求項1または請求項2の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、当該補強材の周囲から径方向に延出する延出部が形成されることを特徴とする。
【0027】
このように構成された本発明の地山補強土工法用の補強材によれば、打設時にはこの延出部によって後続する補強材本体よりも大きい削孔が形成されるために、補強材本体と孔壁との間に隙間が形成され、吐出口から噴出されるグラウトが当該補強材本体周囲にも十分廻り渡るようにできる。
【0028】
請求項4に係る地山補強土工法用の補強材は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、前記吐出口は複数存在し、当該補強材の先端側に行くに従って密になるよう形成されていることを特徴とする。
【0029】
このように構成された本発明の地山補強土工法用の補強材によれば、当該補強材の先端側でグラウトを大量に吐出することができ、当該補強材の先端を地山に強固に定着させることができる。なお、盛土における拘束圧は深部ほど高いことから、元来、下部の方がグラウトが巡りにくいことが知られており、この点からも、本発明のように、吐出口が補強材の先端側に行くに従って密になるよう形成されることの有効性が明らかである。
【0030】
請求項5に係る地山補強土工法用の補強材は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、前記吐出口は複数存在し、当該補強材の後端側に行くに従って粗になるよう形成されていることを特徴とする。
【0031】
このように構成された本発明の地山補強土工法用の補強材によれば、当該補強材の後端側でのグラウトを先端側へ送出する圧力が高まり、グラウトが補強材の先端側に行き渡りやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態の地山補強土工法の概略説明図
【図2】補強材1を構成する下部補強材11の構成を示す概略説明図
【図3】補強材1を構成する上部補強材12の構成を示す概略説明図
【図4】補強材1を構成する上部補強材13の構成を示す概略説明図
【図5】補強材1の後端付近の構成を示す概略説明図(1)
【図6】補強材1の後端付近の構成を示す概略説明図(2)
【図7】施工手順(全体加圧時)を示す説明図
【図8】施工手順(パッカー併用の部分加圧時)を示す説明図
【図9】施工手順(供給ホース活用の部分加圧時)を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に本発明の実施形態を図面とともに説明する。なお、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、様々な態様にて実施することが可能である。
図1に示すように、本実施形態の地山補強土工法は、自然地山や既設盛土などの削孔時に棒状の補強材1を打設して配置し、盛土のり面および自然斜面の安定を図る工法および地山勾配を急勾配化する工法の何れにも適用可能である。
【0034】
なお、本実施形態では、盛土のり面の高さ寸法が6mであり、のり長が10.8mであり、張りコンクリートを新設するとともに防護柵は撤去しない場合を例に説明する。
[1.補強材1の構成の説明]
この地山補強土工法に用いられる補強材1は、下部補強材11と、上部補強材12と、上部補強材13と、から構成される。なお、上部補強材12および上部補強材13については、必要に応じて下部補強材11に連結して使用される。
【0035】
以下に、補強材1の各構成について順に説明する。
[1.1.下部補強材11の構成の説明]
下部補強材11は、図2に示すように、長さ寸法が2000mm、外径寸法が60.5mm、厚み寸法が3.2mmである筒状の鋼材(鋼管)であり、一方の端部(先端から130mmまでの部分)11aが押し潰されて、一対の壁面11b,11cの間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに、一対の壁面11b,11cの先端同士が直線状に合わさる形状になっている。このことにより、端部11aの一対の壁面11b,11cは、打設時に開きにくくなっている。また、端部11aの幅寸法は下部補強材11の径寸法よりも大きくなっており、グラウトが巡りやすくなっている。なお、この端部11aは、打設時に地山の盛土に分け入るための先鋭部として機能する。
【0036】
また、筒状の下部補強材11の側面には、径寸法が10mmである円形の開口部11eが形成されている。なお、開口部11eを楕円形やスリット形状などの他の形状にしてもよい。本実施形態では、開口部11eは、下部補強材11の周方向に所定角度(本実施形態では90度)の等間隔且つ下部補強材11の長手方向に沿って所定寸法(本実施形態では200mm)の等間隔に形成され、対向する一組の開口部11eについては、端部11aから150mmのところを始点として9個がそれぞれ形成されており、対向する他の一組の開口部11eについては、端部11aから250mmのところを始点として9個がそれぞれ形成されている。この開口部11eは、当該補強材1の後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材1の周囲に吐出するための吐出口として機能する。
【0037】
[1.2.上部補強材12の構成の説明]
上部補強材12は、図3に示すように、下部補強材11と同様に、長さ寸法が2000mm、外径寸法が60.5mm、厚み寸法が3.2mmである筒状の鋼材(鋼管)である。
【0038】
また、一方の端部12aには、長さ寸法が100mm、外径寸法が70mm、厚み寸法が4.0mmである筒状の鋼材(鋼管)からなる連結部12bの端部から40mmまでの部分が外挿されて固定されており、この連結部12bの残りの部分に下部補強材11の後端部11fを内挿して固定することで、上部補強材12を下部補強材11の後端に接続可能になっている。
【0039】
なお、本実施形態では、施工現場にて、上部補強材12の連結部12bに下部補強材11の後端部11fを内挿して全周溶接を施すことで両者を接合している。
また、筒状の上部補強材12の側面のうち先端から全長の約2/3の長さの部分には、径寸法が10mmである円形の開口部12cが形成されている。なお、開口部12cを楕円形やスリット形状などの他の形状にしてもよい。本実施形態では、開口部12cは、上部補強材12の周方向に所定角度(本実施形態では90度)の等間隔且つ上部補強材12の長手方向に沿って所定寸法(本実施形態では400mm)の等間隔に形成され、対向する一組の開口部12cについては、端部12aから150mmのところを始点として4個がそれぞれ形成されており、対向する他の一組の開口部12cについては、端部12aから350mmのところを始点として3個がそれぞれ形成されている。この開口部12cは、当該補強材1の後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材1の周囲に吐出するための吐出口として機能する。
【0040】
また、上部補強材12の後端から100mmのところには、両側面を径方向に貫通する径寸法18mmの貫通孔12dが形成されている。この貫通孔12dは、後述する係止部材14を挿通させるのに用いられる。
【0041】
[1.3.上部補強材13の構成の説明]
上部補強材13は、図4に示すように、下部補強材11および上部補強材12と同様に、長さ寸法が2000mm、外径寸法が60.5mm、厚み寸法が3.2mmである筒状の鋼材(鋼管)である。
【0042】
また、一方の端部13aには、長さ寸法が100mm、外径寸法が70mm、厚み寸法が4.0mmである筒状の鋼材(鋼管)からなる連結部13bの端部から40mmまでの部分が外挿されて固定されており、この連結部13bの残りの部分に下部補強材11の後端部11fまたは上部補強材12の後端部12eを内挿して固定することで、上部補強材13を上部補強材12の後端に接続可能になっている。
【0043】
なお、本実施形態では、施工現場にて、上部補強材13の連結部13bに下部補強材11の後端部11fまたは下部補強材12の後端部12eを内挿して全周溶接を施すことで両者を接合している。
【0044】
また、筒状の上部補強材13の側面のうち先端付近には、径寸法が10mmである円形の開口部13cが形成されている。なお、開口部13cを楕円形やスリット形状などの他の形状にしてもよい。本実施形態では、開口部13cは、上部補強材13の側面の先端から150mmのところに1個だけ形成されている。この開口部13cは、当該補強材1の後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材1の周囲に吐出するための吐出口として機能する。
【0045】
つまり、吐出口(開口部11e、開口部12c、開口部13c)は、下部補強材11、上部補強材12、上部補強材13と、当該補強材1の後端側に行くに従って粗になるよう形成されており、その一方で、上部補強材13、上部補強材12、下部補強材11と、当該補強材1の先端側に行くに従って密になるよう形成されている。
【0046】
なお、この上部補強材13においては、下部補強材11との接合に用いる連結部13bが一回り太くなっており、打設時にはこの連結部13bによって後続する上部補強材13本体よりも大きい削孔が形成されるために、上部補強材13本体と孔壁との間に隙間が形成され、吐出口から噴出されるグラウトが当該上部補強材13周囲にも十分廻り渡ることを確認できたため、吐出口の数量を上部補強材12に比べて少なく設定している。なお、連結部13bが特許請求の範囲の延出部に該当する。
【0047】
また、上部補強材13の後端から100mmのところには、両側面を径方向に貫通する径寸法18mmの貫通孔13dが形成されている。この貫通孔13dは、後述する係止部材14を挿通させるのに用いられる。
【0048】
[2.施工手順の説明]
次に、本実施形態の補強材1を用いた地山補強土工法の施工手順について説明する。なお、本実施形態では、図1に例示するように、盛土のり面の高さ寸法が6mであり、のり長が10.8mであり、張りコンクリートを新設するとともに防護柵は撤去しない場合を例に説明する。
【0049】
なお、地山が砂質土であって粘着性が少なく孔壁の自立性があまりない場合には、孔壁との間に隙間が形成されなくても吐出口が多くてグラウトを浸透させやすい上部補強材12を用いるが、地山に粘着性があって孔壁の自立性がある程度保たれる場合には吐出口が少ない上部補強材13を用いるとよい。以下の説明では、上部補強材12を用いる例を説明するが、上部補強材13を用いた場合も同様の手順となる。
【0050】
まず、補強材1を地山に打設する(第一工程に相当)。具体的には、上部補強材12の連結部12bに下部補強材11の後端部11fを挿入して固定することで上部補強材12を下部補強材11の後端に接続することで補強材1を地山へ打設可能な状態とし、補強材1を、線路の延長方向に沿って所定間隔(本実施形態では1m間隔)且つ線路の延長方向に直交する方向に沿って所定間隔(本実施形態では0.57m間隔で8本)で、所定の角度(本実施形態では37.5°±5°)にて全長4mのうちの3.6m以上が盛土に埋設されるよう打設する。なお、本実施形態によれば、盛土付近に足場を組んで、作業者がブレーカを用いて補強材1を打設することができる。
【0051】
このとき、先鋭部(端部11a)によって地山の盛土に分け入ることができる。
なお、4mよりも長い鋼管を盛土に埋設する必要がある場合には、下部補強材11の後端に接続する上部補強材12の本数を増やせばよい。
【0052】
途中、図5(a)に例示するように、150mm四方、厚み寸法9mmである板状の鋼材である抜け止め部材15の中央に形成された径寸法75mmである円形の開口部15aを補強材1の上部補強材12の後端に外挿させて、抜け止め部材15を上部補強材12の後端付近に形成される貫通孔12dよりも上部補強材12の先端側に配置し、さらに、径寸法が18mmの丸鋼である係止部材14を上部補強材12の後端付近に形成される貫通孔12dに内挿させ、抜け止め部材15が上部補強材12から抜けないようにし、補強材1をさらに打設して補強材1が係止部材14および抜け止め部材15を介して地山を押圧するようにする。
【0053】
そして、貫通孔12dから所定寸法(本実施形態では60mm)のところで、上部補強材12の後端(補強材1の頭部)を切断し、のり面に張りコンクリートを厚さ寸法100mmで新設して、係止部材14および抜け止め部材15を補強材1の頭部の一部とともに埋設させる。さらに、外径寸法140mm、内径寸法125mm、長さ寸法50mmである塩化ビニール管からなる被覆部材16を補強材1の頭部に被せ、被覆部材16の内部にモルタルを注入する。
【0054】
なお、打設時に補強材1の頭部が欠損した場合には、図5(b)に例示するように、張りコンクリートの表面に対して補強材1の打設角度が直交する状態となるように、張りコンクリートの表面を無収縮モルタルで調整し、ねじ節付きの異形棒鋼D19を補強材1の頭部に1m分挿入し、異形棒鋼D19からなる強化部材17の頭部を上述の抜け止め部材15の開口部15aに内挿させた上でASコマナットD19からなるナット部材18を取り付け、抜け止め部材15を介して地山を押圧するようにする。
【0055】
また、張りコンクリートがのり面に既に設置されている場合には、図6に例示するように、まず、張りコンクリートに補強材1を打設するための打設孔を所定角度で開け(図6では「コア抜きφ90」と記載)、補強材1を打設孔から挿入して打設する。次に、上述の抜け止め部材15の開口部15aを補強材1の上部補強材12の後端に外挿させて、抜け止め部材15を上部補強材12の後端付近に形成される貫通孔12dよりも上部補強材12の先端側に配置し、さらに、径寸法が18mmの丸鋼である係止部材14を上部補強材12の後端付近に形成される貫通孔12dに内挿させ、抜け止め部材15が上部補強材12から抜けないようにし、補強材1をさらに打設して補強材1が係止部材14および抜け止め部材15を介して張りコンクリートを押圧するようにする。
【0056】
次に、グラウト(水セメント比(W/C)=75%)を補強材1に注入するための注入管を、地山に打設された補強材1の頭部に挿入し、補強材1の頭部から内部にグラウトを圧入させ(第二工程に相当)、グラウトを補強材1内部に充填させるとともに補強材1の側面の吐出口(開口部11e、開口部12c)から補強材1の周囲に吐出させて補強材1周囲の盛土にも浸透させる。そして、グラウトを硬化させることで、補強材1と補強材1内部のグラウトおよび補強材1周囲の盛土とを一体となって補強材1を地山に定着させる。
【0057】
なお、グラウトについては、セメント使用量がなるべく少なくて済むことを基本的な考えとし、水セメント比(W/C)が75%であるグラウトを用いれば、逸走がない限り、必要強度および補強材1の引き抜き抵抗力が充分であることが出願人の試験で確認されている。なお、逸走が生じた場合には、充分な必要強度および補強材1の引き抜き抵抗力を発揮するためにセメントの比率を高めてグラウトの粘性を高めることが必要となり、セメントの添加量を変更した場合に早く粘性が高まる早強セメントを配合して水セメント比(W/C)65%を目処に必要に応じて低下させることが望ましい。
【0058】
この場合、図7に例示するように、補強材1とほぼ同径の注入管を補強材1の頭部にパッキングを用いて接続し、補強材1の頭部から内部にグラウトを圧入させてもよい(全体加圧)。このとき、グラウト流出孔としての開口部11d,12cからグラウトが流出し、このときの地山改良範囲は補強材1の周囲全体に及ぶ。
【0059】
また、図8に例示するように、補強材1よりも径寸法が小さい注入管を補強材1の頭部から先端付近まで挿入し、補強材1の内壁面と注入管との間にパッカーを挿入してから空気を送り込みながら、注入管にグラウトを圧入させてもよい(パッカー併用の部分加圧)。このとき、開口部11d,12cのうちパッカーの上方に位置する開口部にはパッカーに邪魔されてグラウトが届かず、開口部11d,12cのうちパッカーの下方に位置する開口部からはグラウトが流出し、このときの地山改良範囲は、開口部11d,12cのうちパッカーの下方に位置する開口部の周囲に限定される。
【0060】
なお、パッカーの位置を、すべての開口部11d,12cよりも上方とすれば、すべての開口部11d,12cからグラウトが流出し、このときの地山改良範囲は補強材1の周囲全体に及ぶが、パッカーから遠ざかるほど開口部からのグラウト流出量が少なくなり、これに伴って水平方向の地山改良範囲も小さくなる。
【0061】
また、図9に例示するように、補強材1よりも径寸法が小さく且つグラウトの注入時にその径寸法が補強材1よりも大きく広がる注入管(供給ホース)を補強材1の頭部から挿入し、注入管にグラウトを圧入させてもよい(供給ホース活用の部分加圧)。このとき、注入管にグラウトを圧入させるとその径寸法が広がって補強材1の内壁面と密着し、開口部11d,12cのうち供給ホースに閉塞された開口部には供給ホースに邪魔されてグラウトが届かず、開口部11d,12cのうち供給ホースに閉塞されずに開放状態である開口部からはグラウトが流出し、このときの地山改良範囲は、開口部11d,12cのうち供給ホースに閉塞されずに開放状態である開口部の周囲に限定される。
【0062】
なお、供給ホースの位置を、すべての開口部11d,12cよりも上方とすれば、すべての開口部11d,12cからグラウトが流出し、このときの地山改良範囲は補強材1の周囲全体に及ぶが、供給ホースから遠ざかるほど開口部からのグラウト流出量が少なくなり、これに伴って水平方向の地山改良範囲も小さくなる。
【0063】
[3.実施形態の効果]
(1)このように本実施形態の補強材1によれば、予め削孔を掘削しておかなくても、当該補強材1を地山に打設することで、先鋭部(端部11a)によって地山の盛土に分け入ることができる。そして、補強材1の後端側からグラウトを圧入すると、補強材1の内部に圧入されたグラウトが補強材1の内部に充填されるとともに補強材1の側面の吐出口(開口部11e、開口部12c、開口部13c)から補強材1の周囲に吐出されて補強材1周囲の盛土にも浸透する。グラウトが硬化すると、補強材1と補強材1内部のグラウトおよび補強材1周囲の盛土とが一体となり、補強材1を地山に定着させることができる。
【0064】
このことにより、改良体を造成するためにグラウトを削孔に噴射・循環させる必要がないため、多量のグラウトを使用しなくてもよく、掘削土砂とグラウトが混合した廃泥も発生せず、これらに付随する水槽などの設備を用意する必要もない。
【0065】
したがって、上述のような従来の地山補強土工法に比べて、施工方法の簡略化、施工コストの低減および産業廃棄物発生量の抑制を図ることができる。
(2)また、本実施形態の補強材1によれば、先鋭部(端部11a)を形成するためには、筒状である当該補強材1の先端を押し潰して、一対の壁面11b,11cの間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに一対の壁面11b,11cの先端同士が直線状に合わさる形状にすればよいので、製造が容易である。
【0066】
(3)また、本実施形態の補強材1によれば、上部補強材13と下部補強材11との接合に用いる連結部13bが上部補強材13本体よりも一回り太くなっており、打設時にはこの連結部13bによって後続する上部補強材13本体よりも大きい削孔が形成されるために、上部補強材13本体と孔壁との間に隙間が形成され、吐出口から噴出されるグラウトが当該上部補強材13周囲にも十分廻り渡ることになる。
【0067】
(4)また、本実施形態の補強材1によれば、吐出口(開口部11e、開口部12c、開口部13c)が、上部補強材13、上部補強材12、下部補強材11と、当該補強材1の先端側に行くに従って密になるよう形成されているので、当該補強材1の先端側でグラウトを大量に吐出することができ、当該補強材1の先端を地山に強固に定着させることができる。
【0068】
(5)また、本実施形態の補強材1によれば、吐出口(開口部11e、開口部12c、開口部13c)が、下部補強材11、上部補強材12、上部補強材13と、当該補強材1の後端側に行くに従って粗になるよう形成されているので、当該補強材1の後端側でのグラウトを先端側へ送出する圧力が高まり、グラウトが補強材1の先端側に行き渡りやすくなる。
【0069】
(6)なお、本実施形態の補強材1については、当該補強材1の下部のみにグラウトを注入して地山との定着を図るとともに、当該補強材1の上部にはグラウトを注入せずに空洞状態にしておいて、盛土のり面付近の間隙水を排出するために用いてもよい。但し、このような用途で補強材1を利用する場合には、補強材1の打設角度については、排水が円滑に行われるように、先端側が後端側よりも上方に位置するようやや下向きにする必要があること、頭部処理は開口させなければならないこと、補強材1の上部がグラウトで充填されないため、補強材1に防錆処理を実施しなければならないこと、を留意する必要がある。
【符号の説明】
【0070】
1…補強材、11…下部補強材、12,13…上部補強材、14…係止部材、15…抜け止め部材、16…被覆部材、17…強化部材、18…ナット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成され、打設時に前記地山の盛土に分け入るための先鋭部が先端付近に形成されるとともに、後端側から内部に圧入されたグラウトを当該補強材の周囲に吐出するための吐出口が側面に形成されていることを特徴とする地山補強土工法用の補強材。
【請求項2】
請求項1に記載の地山補強土工法用の補強材において、
前記先鋭部は、筒状である当該補強材の一方の端部が押し潰されて、一対の壁面の間隔寸法が先端に行くほど小さくなるとともに前記一対の壁面の先端同士が直線状に合わさる形状になっていることを特徴とする地山補強土工法用の補強材。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、
当該補強材の周囲から径方向に延出する延出部が形成されることを特徴とする地山補強土工法用の補強材。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、
前記吐出口は複数存在し、当該補強材の先端側に行くに従って密になるよう形成されていることを特徴とする地山補強土工法用の補強材。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材において、
前記吐出口は複数存在し、当該補強材の後端側に行くに従って粗になるよう形成されていることを特徴とする地山補強土工法用の補強材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の地山補強土工法用の補強材を地山に打設する第一工程と、
地山に打設された前記補強材の後端側から内部にグラウトを圧入させて、前記グラウトを前記補強材内部に充填させるとともに前記補強材の側面の吐出口から前記補強材の周囲に吐出させて前記補強材周囲の盛土にも浸透させ、グラウトを硬化させることで、前記補強材と前記補強材内部のグラウトおよび前記補強材周囲の盛土とを一体として前記補強材を地山に定着させる第二工程と、
を有することを特徴とする地山補強土工法。
【請求項7】
請求項6に記載の地山補強土工法において、
前記第二工程においては、地山に打設された前記補強材の後端側から内部にグラウトを圧入させる際には、前記グラウトを前記補強材内部の略下半部に充填させること
を特徴とする地山補強土工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−252319(P2011−252319A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127027(P2010−127027)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】