説明

地盤改良工法

【課題】工費増を最小限に抑えながら、固化杭の先端支持力を増大したり、固化杭の先端荷重を分散しすくしたり、固化杭の沈下を防ぎやすくし、それらによって当該地盤改良の適用機会を拡大する。
【解決手段】支持リーダー2に沿って昇降される筒状部材5を有した打設機を用いて、地盤の鉛直方向に延びている固化杭21を造成する地盤改良工法において、固化杭21の形成予定部より下方にセメント系材料を含まない砂や砕石等の砂系材料aを打設し、かつ打設した砂系材料aを加圧して締め固めた締固め杭22Aを造成した後、締固め杭22A上にセメント系材料bを打設して前記固化杭21Aを造成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にセメント系材料を打設して地盤の鉛直方向に固化杭を造成する構成に好適な地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤の改良工法には、各種の改良杭が実施されたり提案されているが、その一つにセメント系流動物を地中に打設して固化杭を造成することがある。具体例としては、特許文献1や2に開示されるように、支持リーダーに沿って昇降される筒状部材(回転軸、掘削軸等と称されている)などを有し、該筒状部材が回転しながら地中に掘進された後、引き抜かれる過程で、セメントミルク等の流動物を該筒状部材内(供給管を通して供給されると共に、該供給管の下側吐出口)から削孔内に吐出し、原位置土と混合することで所定長さの固化杭を造成する構成である。
【0003】
以上のようにして造成された固化杭は軟弱地盤の強度増大に寄与する。固化杭の強度を上げるには、例えば、杭径を大きくしたり、セメント系材料の打設量を多くしたり、筒状部材に振動を付与してセメントミルク等の流動物を吐出して原位置土と混合すると共に掘削翼など締め固めるようにしたり(特許文献1)、セメント系材料の素材構成等を工夫(特許文献2)することになる。
【特許文献1】特開平7−189241号公報
【特許文献2】特開2001−355233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記したような固化杭の強度特性は、対象地盤の土質性状によっても左右され、強度発現が地盤の土質性状として、例えば、粘性土では砂質土に比べ数段小さくなる。また、杭の支持形式は、主に杭周囲面の摩擦力で支持する摩擦支持杭と、主に杭先端抵抗で支持する先端支持杭と、両者の性質を合わせ持つ先端・摩擦支持杭とに分類される。固化杭としては、先端・摩擦支持杭に限らず摩擦支持杭でも杭先端支持力を少しでも増大した方が好ましい。一方、粘性土では砂質土に比べて、せん断抵抗τ(kN/m2)や地盤の変形係数Es(kN/m2)が小さくなる。このため、固化杭としては、例えば、杭径を相対的に大きくして杭先端支持力を確保したり、杭全寸をより長くして沈下量を減少するようにしている。これらは工費増の要因となっている。
【0005】
本発明の目的は、以上のような課題に鑑み、工費増を最小限に抑えながら、固化杭の先端支持力を増大したり、固化杭の先端荷重を分散しやすくしたり、固化杭の沈下を防ぎやすくし、それらによって当該地盤改良の適用機会を拡大することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、支持リーダーに沿って昇降される筒状部材を有した打設機を用いて、地盤の鉛直方向に延びている固化杭を造成する地盤改良工法において、前記固化杭の形成予定部より下方にセメント系材料を含まない砂や砕石等の粒状材料を打設し、かつ打設した粒状材料を加圧して締め固めた締固め杭を造成した後、前記締固め杭上にセメント系流動物を打設して前記固化杭を造成することを特徴としている。
【0007】
また、以上の地盤改良工法は、請求項2のごとく前記締固め杭が前記固化杭の杭径より大きな杭径に形成されていること、請求項3のごとく前記締固め杭が少なくとも前記固化杭の杭径より長く形成されていることがより好ましい。
【0008】
以上の本発明において、地盤改良工法は、特に、対象地盤が粘土層などであり、杭設計として、固化杭が支持地盤層に達しない仕様に好適である。また、以上の締固め杭は、形態例のごとく筒状部材に振動を加えて排出した粒状材料を締め固める方法以外にも、例えば、特許第2584402号公報に開示されるように筒状部材を一旦引き抜いた後、所定距離だけ再貫入して締め固める方法でもよい。
【0009】
ここで、本発明の固化杭とは、セメントミルクやソイルセメントそれに類似するセメント系材料(これには発泡剤、気泡剤、硬化剤等を混合しているものを含む)を用いて造成される全体が一体ものに固化している杭を指している。本発明の締固め杭とは、セメント等の固化系材料を含まない砂、砕石、砂利、鉱さい等の粒状材料を用いて打設すると共に所定圧で締め固めた杭、つまり固化杭のように一体ものとして固まっていなく、持ち上げると崩れるような杭を指している。なお、本発明の地盤改良は、軟弱地盤の処理として沈下低減基礎工法を含む広義な意味で使用している。また、締固め杭及び固化杭は、形態例のごとく同じ打設機により造成することが好ましいが、締固め杭用打設機及び固化杭用打設機を用いて順に造成しても差し支えない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、固化杭の先端(下端)に、締固め杭(この杭は杭先端周囲の粘性土等の軟弱地盤よりせん断抵抗τ及び変形係数Esがかなり大きい)を造成することにより、工費増を抑えながら、固化杭先端の支持力が増大し、固化杭全体の鉛直支持力を増大することができ、また、固化杭の沈下量を減少することができる。従って、本発明は、軟弱地盤の強度増大を効率よく実現して、それによって信頼性を向上したり適用機会を拡大できるようにする。
【0011】
請求項2の発明では、前記締固め杭の杭径を固化杭より大きくして、固化杭先端から締固め杭下端までの応力分散をはかりやすくすることにより、例えば、先端支持力算定における断面積を大きく確保できるため、固化杭全体としての鉛直支持力を増大することができる。
【0012】
請求項3の発明では、例えば、「建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針」(日本建築センター)によれば、固化杭の先端の支持力は、杭先端より、上下それぞれの杭径dの範囲の地盤のせん断抵抗に基づいて算出するとされていることから、先端の締固め杭の長さを、固化杭先端よりdとすることで、先端支持力を大きくとることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明工法に用いられる地盤改良用打設機の全体を示し、図2と図3は前記打設機を用いて本発明工法を実施する施工例の主な工程を示している。図4は本発明工法の他の施工例を示している。以下の説明では、図1の打設機、図2及び図3に示した地盤改良工法の施工例、図4の変形例の順に詳述する。
【0014】
(打設機)図1において、この地盤改良用打設機は、主な構成部材として、走行式ベースマシン1と、支持用リーダー2と、シーブブロック3と、アタッチメント4と、筒状部材5と、バケット6を備えている。
【0015】
ベースマシン1は、移動及び旋回可能であり、不図示のウインチドラム、コンプレッサー、発動機などを搭載している。リーダー2は、油圧シリンダで伸縮する複数のバックステー7により起立保持されている。リーダー2の側面の打ち、アタッチメント4及び筒状部材5を配置している側面と交差する側面には、バケット6が前記ウインチドラムなどを利用した適宜な手段により上下動可能に配置されている。バケット6には、締固め杭用として砂等の粒状材料が投入されたり、固化杭用としてセメントと骨材等を混ぜた流動物が投入される。
【0016】
シーブブロック3は、リーダー頂部の笠木8に組み付けられている滑車部の対応部と対となっていて、前記ウインチドラムから引き出されたワイヤ9などにより操作されて下端に取付けられたアタッチメント4を昇降させる。アタッチメント4は、筒状部材用保持部材10と、バケット6から前記粒状材料又は流動物を受け取って筒状部材5内に供給するホッパー11と、筒状部材5に振動を加えるバイブロハンマ12とを少なくとも有している。筒状部材5は、保持部材10に保持されるとともに、シーブブロック3を介して吊り下げられた状態で、バイブロハンマ12を駆動することで地中に貫入される。これらは従来とほぼ同じである。
【0017】
(施工例)この施工例は、対象地盤が軟弱土壌からなり、ここに地盤の鉛直方向に延び、かつ粘性土層より下方の支持地盤層に達していないセメント系流動物を打設して固化杭、つまり主に周面摩擦で支持される固化杭を造成して地盤強度を設計値まで付与する例である。地盤改良工法としては、従来工法に対し、特にセメント系固化杭の形成予定部より下方に砂や砕石等の粒状材料を打設し締め固めた締固め杭を造成した後、該締固め杭上に前記固化杭を造成する点で相違している。なお、この工法では、図3(c)の例で説明すると、改良杭20を構成している締固め杭22及び固化杭21の各杭径、各杭の長さ、杭の本数及び配置が対象地盤の土質性状や目標とする地盤強度等に応じて設計算出されることは勿論である。
【0018】
上記改良杭20の施工要領は、図2(a)のごとく筒状部材5を地盤中の設計深さG1まで貫入する工程(以下、貫入工程という)と、設計深さG1から引抜く過程で、図2(b),(c)及び図3(a)のごとく筒状部材5を一定深さ引き抜きつつ、筒状部材5から排出した前記粒状材料を締め固めて所定長さの締固め杭22を造成する工程(以下、締固め杭造成工程という)と、締固め杭22の造成後に筒状部材5を更に引き抜く過程で、セメント系流動物を打設して固化杭21を造成する工程(以下、固化杭造成工程という)とを順に行う。
【0019】
貫入工程では、筒状部材5がシーブブロック3を介して下降され、かつバイブロハンクマ12で振動を加えながら地中へ貫入される。筒状部材5内には、貫入工程の過程ないしは設計深さG1に達した後にホッパー11を介して所定量の砂、砂利、砕石等の粒状材料(以下、砂系材料aという)が投入される。その後、筒状部材5内は、不図示の気体供給装置から圧縮空気が供給されて圧気される。
【0020】
締固め杭造成工程では、筒状部材5内が充分に圧気された後、所定量だけ上昇つまり引き抜かれるが、その際、図2(b)のごとく内部の砂系材料aが先端(下端)から排出される。排出された砂系材料aは、筒状部材5が図2(c)のごとくバイブロハンクマ12で振動されることにより、筒状部材5の先端で加圧されて締め固められる。なお、この工程では、筒状部材5がシーブブロック3を介して下方向へ若干動かされるよう調整される。
【0021】
図3(a)は以上の操作を繰り返して所定長さの締固め杭22を形成した後、続いて固化杭造成工程を開始した状態を示している。すなわち、固化杭造成工程では、セメントと骨材等を予め混合した流動物(以下、セメトン系材料bという)は、地上側に用意される材料溜め部よりバケット6及びホッパー11を介して筒状部材5内に供給され、筒状部材5の引き抜きによって形成される空隙部に打設される。打設されたセメント系材料bは時間経過により固化されて固化杭部分を順に形成することになる。
【0022】
図3(c)は以上のようにして造成された改良杭20(締固め杭22及び固化杭21)を示している。この改良杭20は、セメント系材料bの固化杭21が砂系材料aの締固め杭22上に一体化されているため、固化杭21だけの従来杭に比べて、固化杭先端の支持力が締固め杭22に応じて大きくなり、それにより固化杭全体の鉛直支持力又は固化杭先端支持力を増大することができる。すなわち、この杭構成では、固化杭21の先端に締固め杭(この杭は杭先端周囲の粘性土等の軟弱地盤よりせん断抵抗τ及び変形係数Esがかなり大きい)を造成したため、工費増を抑えながら、固化杭全体の鉛直支持力を増大することができると共に、固化杭21の沈下量も減少することができる。後者の点は、固化杭21を長くして沈下量を減少する方法に比べ材料費を抑えることができる。
【0023】
また、この例では、締固め杭22の長さdが固化杭21の杭径aより長く設定されている。この利点は、例えば、「建築物のための改良地盤の設計及び品質管理指針」(日本建築センター)によれば、固化杭の先端の支持力は杭先端より、上下それぞれの杭径dの範囲の地盤のせん断抵抗に基づいて算出するとされていることから、先端の締固め杭22の長さdを固化杭の杭径a以上にすることで、先端支持力を大きくとることができる。
【0024】
(変形例)本発明工法は、以上の形態に限られず以下のように変形したり展開可能である。
第1に、改良杭20Aとしては、図4の変形例に示されるように、締固め杭22Aの杭径bを、固化杭21Aの杭径a1より大きく形成する構成である。ここで、固化杭21Aは上記した固化杭21と同じくセメトン系材料bを用いた構成、締固め杭22Aは上記した締固め杭22と同じく砂系材料aを用いた構成からなると共に、砂系材料aを締め固める際に筒状部材5に加える振動を増大してより強く締め固めたものである。以上の改良杭20Aでは、締固め杭22Aの杭径bを固化杭21Aの杭径a1より大きくした関係で、固化杭21Aの先端から締固め杭22Aの下端までの応力分散をはかりやすくなる。よって、杭構成としては、例えば、先端支持力算定における断面積を大きく確保できるため、固化杭全体としての鉛直支持力を増大することができる。
【0025】
第2に、打設機としては、上記した締固め杭及び固化杭を共に造成可能なものを使用したが、締固め杭造成用打設機と、固化杭造成用打設機とを用いて、まず、締固め杭を造成した後、打設機を交換して各締固め杭の上に固化杭を造成するようにしてもよい。なお、締固め機構としては、例えば、特許第2584402号公報等で知られるように、アタッチメント4に相当する部分をリーダー2の一側上下に配設されたラックに噛み合っているピニオン機構を介して昇降し、筒状部材5から排出した砂系材料aを該ピニオン機構を介した筒状部材5の再貫入により締め固めるようにしてもよい。その場合は、振動を加える方法に比べて騒音問題を生じない。筒状部材には、特許文献1に例示されるように掘削翼や攪拌翼が必要に応じて付設されることもある。
【0026】
以上のように本発明は、上記した形態や変形例に何ら制約されるものではなく、請求項1で特定する要件を除いて種々変形したり展開可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明工法に用いられる地盤改良用打設機の一例を示す模式構成図である。
【図2】(a)〜(c)は図1の打設機を使用して本発明工法により締固め杭の造成過程を示す模式作動図である。
【図3】(a)〜(c)は本発明工法により締固め杭を造成した後、固化杭の造成過程及び造成後の杭構成を示す模式作動図である。
【図4】本発明工法により造成された他の杭構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0028】
2…支持リーダー
3…シーブブロック
4…アタッチメント
5…筒状部材
10…保持部材
11…ホッパー
12…バイブロハンマ
20,20A…改良杭
21,21A…固化杭
22,22A…締固め杭
a…砂系材料(粒状材料)
b…セメント系材料(セメント系流動物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持リーダーに沿って昇降される筒状部材を有した打設機を用いて、地盤の鉛直方向に延びている固化杭を造成する地盤改良工法において、
前記固化杭の形成予定部より下方にセメント系材料を含まない砂や砕石等の粒状材料を打設し、かつ打設した粒状材料を加圧して締め固めた締固め杭を造成した後、前記締固め杭上にセメント系流動物を打設して前記固化杭を造成することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記締固め杭が前記固化杭の杭径より大きな杭径に形成されている請求項1に記載の地盤改良工法。
【請求項3】
前記締固め杭が少なくとも前記固化杭の杭径より長く形成されている請求項1又は2に記載の地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−248572(P2008−248572A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91354(P2007−91354)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】