説明

地盤調査装置

【課題】長期に亘る地盤の調査・観察を、効率良く、しかも精度良く行い得る地盤調査装置を提供する。
【解決手段】地盤調査装置1は、下端が尖った筒状の透明ケーシング5と、この透明ケーシング5を地盤1に静的貫入させるための荷重を付与する荷重付与手段20と、透明ケーシング5の掘削地盤を排除する除荷手段30と、透明ケーシング5を通してボーリング孔2の壁面を撮影する撮像機器40とを備えるものであり、さらに、透明ケーシング5の上端開口部を直接的又は間接的に封止する封止手段50としての蓋体8と、透明ケーシング5の内外壁面間の温度差を解消する第1の温度差解消手段60と、透明ケーシング5の内部空間Isと大気の間の温度差を解消する第2の温度差解消手段70とを備える。第1の温度差解消手段60は、透明ケーシング5の内壁面5cと外壁面5bに開口した連通路9aで構成され、第2の温度差解消手段70は、内部空間Isと大気とを連通させる連通路9bで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の調査・観察を行うために用いる地盤調査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤や地質を調査・観察するために行われるボーリング孔壁面の画像撮影は、従来、例えば特許文献1に記載のようなボアホール画像撮影法により行われる場合が多かった。しかしながら、ボアホール画像撮影法は、砂質地盤や軟弱粘土性地盤のように、自立性が弱く、地盤崩れ等の問題が生じ易い軟弱地盤に形成したボーリング孔の壁面撮影には適用困難であるという問題や、壁面撮影に用いる撮像装置が特殊カメラを搭載した高額な装置であり、地盤の調査・観察費用が高額になるという問題がある。
【0003】
そこで、本出願人は、特許文献2において、自立性の弱い軟弱地盤の調査・観察に適したボーリング工法及びボーリング装置を提案している。特許文献2に記載のボーリング工法は、除荷手段による地盤排除で生じる地盤の透明ケーシング支持力低下に応じ、筒状の透明ケーシングを荷重付与手段の荷重で地盤に静的貫入させるものである。このような工法によれば、砂質地盤のような自立性の弱い軟弱地盤であってもボーリングしていくことができ、しかも、ボーリング時の摩擦熱の発生も抑えられる。また、ボーリング孔の壁面は、透明ケーシングの外壁面で保護される。従って、軟弱地盤に形成したボーリング孔の壁面であっても、調査・観察に適した良好な状態に保持することができる。
【0004】
特許文献2に記載のボーリング装置は、さらに、透明ケーシング内に可動に挿入される撮像機器を具備しており、そのまま地盤の調査・観察を行う地盤調査装置として活用することができる。すなわち、透明ケーシングの貫入(ボーリング孔の形成)が完了すると、透明ケーシングの内部空間に撮像機器を挿入し、この撮像機器で透明ケーシングを通して透明ケーシングに対峙するボーリング孔壁面を撮影する。上記の撮像機器としては、従来のように高価な特殊カメラではなく、デジタルカメラなどの安価な市販品を用いることができるので、地盤の調査・観察を安価に行い得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−160978号公報
【特許文献2】特開2006−37573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、定点観測を行う場合等、上記の地盤調査装置(透明ケーシング)を地盤中に埋設した状態で所定期間放置するような場合には、放置期間中における透明ケーシング内への土砂や泥水の浸入を防止するために、別途の封止手段で透明ケーシングの上端開口部を直接的又は間接的に封止する必要がある。しかしながら、透明ケーシングの上端開口部を封止したまま放置しておくと、透明ケーシングの内外壁面間の温度差、および透明ケーシングの内部空間と大気の間の温度差に起因して生じた結露が透明ケーシングの壁面に付着し易くなる。そのため、透明ケーシングを通してボーリング孔壁面を明瞭に撮影することが困難となり、地盤の調査・観察を精度良く行うことが難しくなる。
【0007】
透明ケーシングに結露が付着しても、付着した結露を撮影前に除去すれば、明瞭な撮影画像を得ることができる。しかし、即座に調査・観察作業(画像撮影)に取り掛かることができず、作業性が悪いという問題がある。特に、透明ケーシングの外壁面に結露が付着している場合には、一旦透明ケーシングを抜き取って結露を除去した後、再度透明ケーシングを貫入する等の対応を講じる必要が生じるため、調査・観察に多大な手間と労力を要することとなる。
【0008】
以上の問題点に鑑み、本発明は、長期に亘る地盤の調査・観察を、効率良くしかも精度良く行い得る地盤調査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するためになされた本発明に係る地盤調査装置は、下端が尖った筒状の透明ケーシングと、この透明ケーシングを地盤に静的貫入させるための荷重を付与する荷重付与手段と、透明ケーシングの下端近傍の掘削地盤を排除する除荷手段と、透明ケーシング内に可動に挿入され、透明ケーシングを通して透明ケーシングと対峙するボーリング孔壁面を撮影する撮像機器とを備えるものにおいて、透明ケーシングの上端開口部を直接的又は間接的に封止する封止手段と、透明ケーシングの内外壁面間の温度差を解消する第1の温度差解消手段と、透明ケーシングの内部空間と大気の間の温度差を解消する第2の温度差解消手段とを設けたことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、透明ケーシングは、これが地盤に貫入されるのに伴って形成されるボーリング孔の壁面を安定させる強度と、ボーリング孔の壁面を撮像機器で撮影して調査・観察を行い得る透明度とを具備するものであれば良く、例えば、アクリル樹脂などの硬質透明樹脂材で形成された筒体や、透明樹脂とガラスの積層構造の筒体を適用することができる。
【0011】
上記のように、本発明に係る地盤調査装置は、透明ケーシングの上端開口部を直接的又は間接的に封止する封止手段と、各種温度差を解消する第1および第2の温度差解消手段とを具備するので、透明ケーシングの内部空間へ土砂や泥水が浸入するのを防止しつつ、内外温度差に起因して生じる結露の発生も抑制あるいは防止することができる。そのため、定点観測を行う場合等、地盤中に透明ケーシングを埋設した状態で所定期間放置した後、調査・観察作業を再開する場合においても、土砂や泥水、さらには結露を除去する手間が省略されて作業効率の向上が図られると共に、撮影画像の明瞭化が図られる。従って、本発明の地盤調査装置によれば、長期に亘る地盤の調査・観察を、効率良くしかも精度良く行うことが可能となる。
【0012】
上記構成の地盤調査装置において、第1の温度差解消手段として、例えば、透明ケーシングを加熱する加熱手段を、また、第2の温度差解消手段として、例えば空気を強制的に入れ換えるモータ駆動式の換気装置を採用することが可能である。しかしながら、これでは、地盤調査装置の複雑化、重量化、高コスト化等の問題が新たに浮上する。そこで、第1の温度差解消手段を、透明ケーシングの内壁面と外壁面とに開口した第1の連通路で構成し、第2の温度差解消手段を、透明ケーシングの内部空間と大気を連通させる連通路で構成することとした。この場合、第1の温度差解消手段としての連通路は、透明ケーシング壁面に貫通孔を設けるだけで得ることができ、第2の温度差解消手段としての連通路は、透明ケーシングや封止手段としての蓋体等の適当な部位に貫通孔を設けたり、透明ケーシングと蓋体との間に隙間を設けたりするだけで得ることができる。従って、地盤調査装置の複雑化等の問題を生じることなく、結露問題を解消することができる。
【0013】
上記の各連通路上には、多孔質体からなる捕捉部材を介設することができる。ここで言う捕捉部材とは、これの内部組織を介して空気を流通させることができる一方、土砂や泥水等の異物を捕捉し、これらの異物が内部に浸入するのを防止することができる部材を言う。従って、このようにすれば、空気を円滑に流通させつつ、連通路を介して透明ケーシングの内部空間に土砂や泥水等が浸入する事態を効果的に防止することができる。捕捉部材としては、上記の機能を奏することができるものである限り特段の限定はなく、焼結金属やセラミックス等の硬質の多孔質体からなるものであっても構わないが、取り付け性やコスト面を考慮すると、軟質の多孔質樹脂、特に発泡樹脂(スポンジ)からなるものが好適である。
【発明の効果】
【0014】
以上から、本発明に係る地盤調査装置によれば、長期に亘る地盤の調査・観察を、効率良く、しかも精度良く行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態を示す地盤調査装置の要部断面を含む側面図である。
【図2】図1に示す透明ケーシングの拡大平面図である。
【図3】図1に示す装置を用いての地盤ボーリング時の要部拡大断面図である。
【図4】図1に示す延伸枠の拡大平面図である。
【図5】図1に示す装置におけるケーシング初期貫入安定時の力学図である。
【図6】図1に示す装置におけるケーシング貫入進行時の力学図である。
【図7】図1に示す装置を示し、(a)図は地盤調査観察時の断面図、(b)図は外部ケーシングによるボーリング時の断面図、(c)図は透明ケーシングによるボーリング時の断面図である。
【図8】図1に示す装置の保存状態を模式的に示す断面図である。
【図9】(a)〜(c)図は、何れも、地盤調査装置の保存状態の他例を模式的に示す断面図である。
【図10】従来の地盤調査装置を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像である。
【図11】本発明の地盤調査装置を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像である。
【図12】本発明の地盤調査装置を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像である。
【図13】本発明の地盤調査装置を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像である。
【図14】本発明の地盤調査装置を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る地盤調査装置10の全体構造を示すものである。この地盤調査装置10は、特に砂質地盤や軟弱粘土性地盤などの自立性の弱い地盤(軟弱地盤)1の調査・観察に適したものであり、筒状の透明ケーシング5と、この透明ケーシング5を地盤1に静的貫入させるための荷重付与手段20と、透明ケーシング5の下端近傍の掘屑を除去するための除荷手段30とを備える。詳細は後述するが、この地盤調査装置10は、さらに、撮像機器40、封止手段50、第1の温度差解消手段60および第2の温度差解消手段70を具備する。
【0018】
透明ケーシング5は、図2に示すように、アクリル樹脂製の平坦な透明板5’を6枚組み合わせて形成した正六角形の多面筒体である。この透明ケーシング5は、これが地盤1に貫入されるのに伴って形成されるボーリング孔2の壁面を安定させる強度と、ボーリング孔2の壁面を撮像機器40で撮像して調査・観察を行い得る透明度とを具備するものであれば良く、透明樹脂とガラスの複合構造からなる筒体とすることもできる。
【0019】
透明ケーシング5の下端は尖頭形状をなす。詳しくは、図3に示すように、下端面5aが、透明ケーシング5の外径下端を傾斜下端とした傾斜面状に形成される。この下端面5aがケーシング外径面(外壁面)となす角度θは、これを小さくするほど貫入性が向上するが、あまりに小さくすると掘進時や運搬時にケーシング下端が破損し易くなる。従って、実用上は角度θを25°〜30°の範囲内に設定するのが望ましく、軟弱地盤に適用する透明ケーシング5においては、角度θを約27°に設定する。
【0020】
透明ケーシング5の上端には、地盤1のボーリング深さに応じて、図4に示すような正六角形の多面筒体からなる延伸枠6が一又は複数同軸に連結される。図1に示すように、最上段の延伸枠6上に荷重伝達枠22が連結され、この荷重伝達枠22上に荷重付与手段20、例えば複数の重り板からなるウエイト21が載置される。この延伸枠6は、ボーリング施工時にのみ透明ケーシング5に連結されるものであり、ボーリング孔2の施工後(ボーリング孔2の壁面撮影時)には透明ケーシング5から分離される。従って、延伸枠6は、必ずしも透明ケーシング5と同様の透明材料で形成したものである必要はなく、半透明あるいは非透明の材料で形成したものであっても良い。
【0021】
地盤1上に脚立式の支持枠11が設置され、支持枠11の上端部に設置した滑車13に懸架したワイヤ14の一端(下端)に、吊り輪16を介して吊りロッド15が連結されている。支持枠11の上下方向中間位置に横架した軸保持枠12を吊りロッド15が貫通することで、吊りロッド15の振れが防止される。この吊りロッド15の下端部に荷重伝達枠22を連結して、最適数の延伸枠6と透明ケーシング5とを鉛直方向に吊下支持する。
【0022】
除荷手段30は、地盤1上に設置された吸引力制御装置兼土水貯留装置32から延びる吸引管31を備える。吸引力制御装置兼土水貯留装置32は、外部の真空吸引手段33に連結された土水貯留タンク構造で、吸引管31から吸引された堀屑、地下水を貯留する。図1においては、透明ケーシング5の外径側に透明ケーシング5よりも大径の外部ケーシング7が配置されている。外部ケーシング7としては通常ケーシングが適用可能であり、これの用途は後述する。
【0023】
図1は、本発明に係る地盤調査装置1によるボーリング施工時を示しており、このボーリング施工後に、図3に模式的に示すような撮像機器40が透明ケーシング5の内部空間Isに挿入され、ボーリング孔2の壁面が撮影される。図3に示す撮像機器40は、吊り下げ式の防水ケース41の中にカメラ42と照明器具43とを収納したものである。カメラ42は、例えば市販のデジタルカメラであり、防水ケース41の側壁一部に設けた防水透光窓45の外を撮像する。照明器具43は、防水透光窓45の外を照明する。防水ケース41内には、さらに、カメラ42及び照明器具43の電源(図示せず)と操作スイッチ44とが収納される。防水ケース41の上面に吊り下げ用支持管46の下端部が連結され、支持管46内に操作スイッチ44を操作するためのワイヤ47が挿通される。
【0024】
次に、上記の地盤調査装置10を用いてのボーリング孔2施工と、地盤1の調査・観察の動作例を説明する。
【0025】
図1に示す状態で透明ケーシング5に(延伸枠6を介して)荷重付与手段20で所定の荷重をかけ、この荷重で透明ケーシング5に図5に示すような貫入力Pv(等分布荷重)を作用させると、貫入力Pvは、透明ケーシング5の下端部内側の地盤1(以下、これを「内側地盤1B」という)に作用する直力Pi、ケーシング先端部外側の地盤1(以下、
これを「外側地盤1A」という)に作用する直力Po及びせん断力Fvに分力する。外側地盤1Aには直力Poとせん断力Fvとが作用し、直力Poに対しては透明ケーシング5の剛性で安定する。内側地盤1Bには直力Piとせん断力Fvとが作用し、地盤1にはそ
れに抵抗する円形状すべり面が生じて、ある貫入力のときに安定する。
【0026】
図5のように透明ケーシング5が初期貫入で安定している状態において、内側地盤1Bの反力となっているケーシング下端部近傍に存在する堀屑を、図6に示すように吸引管31で吸引排除(除荷)する。これにより、取り除いた堀屑重量相当分と貫入量減少によるせん断力減少分だけ透明ケーシング5が再貫入(静的貫入)し、透明ケーシング5は深さHxだけ再貫入して安定する。吸引管31による堀屑の吸引排除を連続して行うと、透明ケーシング5の再貫入が上記の態様で連続して進行する。このようにして透明ケーシング5を貫入(静的貫入)させれば、透明ケーシング5は摩擦熱を殆ど生じることなく垂直に下ってボーリング孔2を形成し、形成されたボーリング孔2の壁面は、透明ケーシング5の外壁面5bによって自然状態に近い良好な面のまま保持される。
【0027】
地盤1中への透明ケーシング5の貫入が終了すると、図3に示すように、透明ケーシング5の内部空間Isに撮像機器40(防水ケース41)を挿入する。透明ケーシング5の内部空間Isに地下水Wが入っている場合は、防水ケース41を地下水Wの中に挿入する。挿入後、透明ケーシング5の内部空間Isで防水ケース41を横方向に360°回転させながら上下方向に移動させ、透明ケーシング5を構成する6枚の平坦な透明板5’を通して透明ケーシング5と対峙する(透明ケーシング5の外壁面5bに接する)ボーリング孔2の壁面を部分的に連続撮影する。そして、得られた各画像を合成し、ボーリング孔2の壁面全面の調査・観察を行う。
【0028】
透明ケーシング5を構成する透明板5’が平坦であることから、透明ケーシング5の外壁面5bに接するボーリング孔2の壁面は平坦面状をなす。そのため、透明板5’を通してカメラ42で撮影した壁面画像は、円形の透明ケーシングを使用して撮影した壁面画像に比べて補正が簡単である。また、地下水動き観察は、透明ケーシング5が多面体の場合に円形ケーシングより有利に行える。カメラ42で撮像した画像によるボーリング孔2の壁面の調査・観察は、通常の土粒子の岩石分類、火山灰種類、水で飽和しているか否か、生物の分類、画像のうちのピクセル計算などで行うことができる。
【0029】
図7(a)の状態でボーリング孔2の壁面の調査・観察が終了した後、さらに地盤1の深層部を調査・観察する場合には、透明ケーシング5をさらに静的貫入させる。図7(a)の状態で透明ケーシング5をボーリング孔2の孔底地盤3に貫入させることも可能であるが、摩擦抵抗が大きくて難しい場合には、以下のようにして地盤1の深層部にまで透明ケーシング5を貫入させる。まず、図7(b)に示すように、外部ケーシング7で孔底地盤3を掘削し、堀屑を除去する。外部ケーシング7を用いて所望の深さまで通常ボーリングした後、図7(c)に示すように外部ケーシング7の下端部の孔底地盤3に対して透明ケーシング5を静的貫入させる。このようにしてボーリング孔2が掘り下げられ、この掘り下げた位置でボーリング孔2の壁面の調査・観察を行う。
【0030】
本発明の地盤調査装置10は、図8に詳細に示すように、封止手段50と第1および第2の温度差解消手段60,70とをさらに具備する。封止手段50は、透明ケーシング5の上端開口部を介して透明ケーシング5の内部空間Isに土砂や泥水が浸入するのを防止するための手段であり、定点観測を行う場合等、透明ケーシング5を地盤1中に埋設した状態のまま所定期間放置しておく場合に用いる。すなわち、透明ケーシング5を地盤1中に埋設した状態のまま所定期間放置する場合には、撮像機器40を透明ケーシング5の内部空間Isから取り出した後、地上に突出したケーシング(ここでは、外部ケーシング7)の上端開口部を封止手段50としての蓋体8で封止する。これにより、透明ケーシング5の上端開口部が間接的に封止され、放置期間中における透明ケーシング5の上端開口部を介しての内部空間Isへの土砂や泥水の浸入が防止される。
【0031】
第1の温度差解消手段60は、透明ケーシング5の内壁面5cと外壁面5bの間の温度差を解消するための手段であり、第2の温度差解消手段70は、透明ケーシング5の内部空間Isと大気の間の温度差を解消するための手段である。すなわち、何ら対策を講じることなく透明ケーシング5の上端開口部を蓋体8(封止手段50)で直接的又は間接的に封止すると、各種温度差に起因して生じる結露が透明ケーシング5の壁面に付着し、透明ケーシング5の透明板5’を通してボーリング孔2の壁面を明瞭に撮影することができなくなる。これに対して、上記のような温度差解消手段60,70を設けておけば、透明ケーシング5の上端開口部を介して透明ケーシング5の内部空間Isに土砂や泥水が浸入するのを防止しつつ、各種温度差に起因して生じる結露の発生を抑制あるいは防止することができる。そのため、地盤1中に透明ケーシング5を埋設した状態で所定期間放置した後、調査・観察作業を再開する場合においても、土砂や泥水、さらには結露を除去する手間が省略されて作業効率の向上が図られると共に、撮影画像の明瞭化が図られる。
【0032】
図8に示す封止手段50としての蓋体8は、外部ケーシング7よりも大径に形成されて外部ケーシング7の上部を覆うプレート状の蓋部8aと、この蓋部8aの周縁から下方に延びて下端が地盤1に接触する筒部8bとを備えるものである。筒部8bの軸方向寸法は外部ケーシング7の地盤1上への突出寸法よりも大きく、筒部8bの内径寸法は外部ケーシング7の外径寸法よりも大きい。従って、蓋体8の蓋部8aの下端面と外部ケーシング7の上端面との間、および蓋体8の筒部8bの内径面と外部ケーシング7の外径面との間にはそれぞれ隙間が形成されている。また、筒部8bの周方向一又は複数箇所には、筒部8bの内径面及び外径面に開口した貫通孔X2が設けられており、この貫通孔X2の孔径
は、例えば10mm程度とされる。
【0033】
外部ケーシング7の内部空間、蓋体8の蓋部8aの下端面と外部ケーシング7の上端面との間に形成した隙間、蓋体の筒部8bの内径面と外部ケーシング7の外径面との間に形成した隙間、および蓋体8の筒部8bに設けた貫通孔X2により、透明ケーシング5の内
部空間Isと地盤調査装置1の外部(大気)を連通させる連通路9bが形成され、この連通路9bを介して透明ケーシング5の内部空間Isと大気の間を空気が行き来することによって透明ケーシング5の内部空間Xsと大気の間の温度差が解消される。すなわち、本
実施形態ではこの連通路9bで第2の温度差解消手段70が構成される。
【0034】
また、図2および図8(下側の拡大図)に示すように、透明ケーシング5のうち、ボーリング孔2の壁面と対峙する領域には、透明ケーシング5の内壁面5cと外壁面5bとに開口した連通路9a(貫通孔X1:孔径5mm程度)を形成しており、この連通路9aを
介して空気が行き来することによって、透明ケーシング5の内外壁面間の温度差が解消される。すなわち、連通路9a(貫通孔X1)で第1の温度差解消手段60が構成される。以上のように、連通路9a,9bで第1および第2の温度差解消手段60,70をそれぞれ構成すれば、地盤調査装置1の複雑化・高コスト化等の問題を回避しつつ、結露の発生及び付着を抑制あるいは防止することができる。
【0035】
温度差解消手段60,70としての連通路9a,9bを設けておけば、結露の発生及び付着防止が図られるものの、連通路9a,9bを構成する貫通孔や隙間を介して透明ケーシング5の内部空間Isに土砂や泥水が浸入する可能性がある。そこで、各連通路9a,9b上には、多孔質体からなる捕捉部材80を介設している。これにより、空気は円滑に流通する一方、連通路9a,9b内に流入した土砂や泥水は捕捉部材80で捕捉されるので、連通路9a,9bを介して土砂や泥水が内部空間Isに浸入するような事態が効果的に防止される。捕捉部材80は、焼結金属やセラミックス等、硬質の多孔質体で形成したものであっても構わないが、取り付け性やコスト面を考慮すると、軟質の多孔質樹脂、特に発泡樹脂(スポンジ)が好適である。なお、透明ケーシング5に設けた連通路9aとして機能する貫通孔X1、および貫通孔X1内(連通路9a上)に介設した捕捉部材80の存在が、透明ケーシング5を通してのボーリング孔2の壁面撮影の邪魔にならないようにする必要がある。そのため、透明ケーシング5に設ける貫通孔X1は、図2及び図8に示すように、撮影部位以外の端部、すなわち軸方向の端部近傍に設けるようにする。
【0036】
封止手段50としての蓋体8は、図8に示す形態に限定されない。例えば、図9(a)に示すように、蓋部8aの下端面が外部ケーシング7の上端面に接すると共に、筒部8bの下端面が地盤1に接するものであっても良い。この場合、外部ケーシング7の地上への突出部分と筒部8bとに貫通孔X2(貫通孔X2内には多孔質体からなる捕捉部材80を介設している)を設ければ、外部ケーシング7の内部空間、外部ケーシング7に設けた貫通孔X2、外部ケーシング7と蓋体8の筒部8bとの間の隙間、および蓋体8の筒部8bに設けた貫通孔X2で第2の温度差解消手段70としての連通路9bが形成される。
【0037】
上記の実施形態は、外部ケーシング7の上端開口部を蓋体8で封止することによって、地盤1の深層部に埋設した透明ケーシング5の上端開口部を間接的に封止したものであるが、図9(b)に示すように、地盤1の表層部分に透明ケーシング5が埋設されるような場合には、封止手段50としての蓋体8で透明ケーシング5の上端開口部を直接的に封止すれば良い。図9(b)は、図8に示すものと同様の封止手段50及び温度差解消手段60,70を採用した場合を示すものである。詳述すると、蓋体8は、筒部8bの下端面が地盤1に接触することによって透明ケーシング5の上端開口部を封止するものであり、蓋部8aの下端面は、透明ケーシング5の上端面と非接触とされて、透明ケーシング5の上端面との間に隙間を形成する。従って、第2の温度差解消手段70としての連通路9bは、透明ケーシング5と蓋体8との間の隙間、および蓋体8に設けた貫通孔X2で構成される。
【0038】
特に、第2の温度差解消手段70としての連通路9b上に設ける捕捉部材80は、連通路9b上に設けられていればその機能を果たすことができるので、必ずしも以上で説明した実施形態のように貫通孔X2内に介設する必要はない。例えば、環状に形成した捕捉部材80を、図9(c)に示すように、蓋体8の筒部8bと透明ケーシング5(あるいは外部ケーシング7)との間の隙間に介設するようにしても良い。
【0039】
以上、本発明について説明を行ったが、本発明の地盤調査装置1は上述した実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加え得ることは勿論のことである。
【0040】
例えば、透明ケーシング5が地盤1の調査対象箇所に到達したときに、調査対象箇所に観察用液体を注入して、この調査対象箇所の画像を捉えるようにすることもできる。このように、調査対象箇所に観察用液体を注入すれば、この液体の動き(流れ)を観察することができ、これによって地下水の動き(流れ)を把握することができる。従って、観察用液体を注入しない場合では判定できない地層構造や地下水特性を高精度に捉えることができる。この場合、観察用液体を有色液体とすれば、観察用液体の観察の容易化を図ることができ、より高精度の観察が可能となる。観察用液体として用いる有色液体は、調査・観察する地盤1の色と異色であり、識別容易な色の液体であれば特に限定されない。また、観察用液体としては、その流動性が地下水と同程度のものが好適である。
【0041】
また例えば、調査対象箇所の地盤温度を計測する温度計側手段や、調査対象箇所の比抵抗を検出する比抵抗計測手段を具備するものとしても良い。温度計側手段を具備するものであれば、温度(厳密には、温度の経時変化および画像)に基づいて、浸透特性(地下水特性)が地盤の変位特性に与える影響を評価することができる。また、比抵抗計測手段を具備するものであれば、比抵抗(厳密には、比抵抗の経時変化および画像)に基づいて、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【実施例】
【0042】
本発明の有用性を実証すべく、従来品(温度差解消手段を具備しない地盤調査装置)を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像を図10に示し、また、本発明品(温度差解消手段60,70を具備する地盤調査装置1)を用いて撮影したボーリング孔の壁面画像を図11〜図14に示す。なお、図10は、冬期に約2ヶ月間埋設しておいた地盤調査装置(透明ケーシング)を通してボーリング孔の壁面を撮影したものであり、図11は、夏期に約2ヶ月間埋設しておいた透明ケーシングを通してボーリング孔の壁面を撮影したものである。図12は秋期に、図13及び図14は冬期に約2ヶ月間埋設しておいた透明ケーシングを通してボーリング孔の壁面を撮影したものである。参考までに、本発明品を用いて撮影した図11〜図14に示す画像の撮影前の天候状況を、以下さらに詳述する。
(1)図11:前日は雨天、当日は晴天であり、かつ撮影前一週間の降雨量は多い。
(2)図12:前日は雨天、当日は晴天であり、かつ撮影前一週間の降雨量は少ない。
(3)図13:前日は晴天、当日は曇天であり、かつ撮影前一週間の降雨量は少ない。
(4)図14:前日は晴天、当日は雨天であり、かつ撮影前一週間の降雨量は少ない。
【0043】
図10からも明らかなように、従来品では結露の付着が多いためにボーリング孔の壁面画像が明瞭でなく、地盤の調査・観察を十分に行うことができない。これに対し、季節や天候(降雨量)によって差はあるものの、本発明品を用いて撮影した画像を示す図11〜14は、全体として結露の付着が少なく、あるいは皆無であり、地盤の調査・観察を精度良く行うことができる。従って、本発明の有用性が実証される。
【符号の説明】
【0044】
1 地盤
2 ボーリング孔
3 孔底地盤
5 透明ケーシング
5b 外壁面
5c 内壁面
7 外部ケーシング
8 蓋体(封止手段)
9a 連通路
9b 連通路
10 地盤調査装置
20 荷重付与手段
30 除荷手段
40 撮像機器
42 カメラ
50 封止手段
60 第1の温度差解消手段
70 第2の温度差解消手段
80 捕捉部材
Is 内部空間
X1,X2 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下端が尖った筒状の透明ケーシングと、この透明ケーシングを地盤に静的貫入させるための荷重を付与する荷重付与手段と、前記透明ケーシングの下端近傍の掘削地盤を排除する除荷手段と、前記透明ケーシング内に可動に挿入され、前記透明ケーシングを通して透明ケーシングと対峙するボーリング孔壁面を撮影する撮像機器とを備える地盤調査装置において、
前記透明ケーシングの上端開口部を直接的又は間接的に封止する封止手段と、前記透明ケーシングの内外壁面間の温度差を解消する第1の温度差解消手段と、前記透明ケーシングの内部空間と大気の間の温度差を解消する第2の温度差解消手段とを設けたことを特徴とする地盤調査装置。
【請求項2】
前記第1の温度差解消手段を、前記透明ケーシングの内壁面と外壁面とに開口した第1の連通路で構成し、
前記第2の温度差解消手段を、前記透明ケーシングの内部空間と大気とを連通させる第2の連通路で構成したことを特徴とする請求項1に記載の地盤調査装置。
【請求項3】
前記各連通路上に、多孔質体からなる捕捉部材を介設したことを特徴とする請求項2に記載の地盤調査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−74600(P2011−74600A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224588(P2009−224588)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】