説明

地絡電流検知センサおよび地絡事故報知器

【課題】 配電線系統の地絡事故時に、地絡電流や模擬課電装置による模擬地絡電流が生じている支持物に近づけるだけでこれらの地絡電流を検知し、その検知結果を報知可能とすること地絡電流検知センサ及び地絡事故報知器を提供すること。
【解決手段】 インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コア3に巻かれたコイル4と、共振用コンデンサ5とにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じさせるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知すると共に、コイル4の両端の電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路9を経由後電圧増幅し、整流平滑化処理を施した後に基準電圧値と比較し、基準電圧以上の場合に報知する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流回路の地絡電流検知に関し、特に架空配電線の地絡検知に有効な、高感度地絡電流検知センサおよび小型ないしは携帯型地絡事故報知器に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷、鳥獣や樹木の接触、または機器故障などにより架空配電線に永久的地絡事故が発生した場合、従来は、配電線系統に設けられた区分開閉器により事故発生区間を切り離し、当該事故発生区間に限定して電力容量の小さい別系統の模擬課電装置により高電圧を課電し、地絡事故点に20−100mA程度の模擬地絡電流を流し、高圧配電線に吊り下げ式カレントトランスを引掛け、得られた模擬地絡電流を追跡して地絡事故点を特定していた。この模擬地絡電流は、永久地絡事故発生時の地絡電流に比較し数十分の1程度の小さい値となっている。
この従来方法では、高圧配電線路が一般には地上から7m以上の高所に架設されていることから、高所作業車の絶縁バケットから検知作業を行っていた。しかし、近年の交通混雑のため、高所作業車の駐停車が極めて困難になるとともに、多大の時間と労力を費やさねばならないという問題点があった。
【0003】
また、地絡が検知されて短期間(例えば0.1秒以上2秒以下)停電させた後、再送電時には地絡が発生しない場合がある。その発生原因が絶縁劣化などによるものであれば、数週間後などに同じような地絡現象が発生する傾向にある。このような地絡現象を以下では間欠的地絡事故と称す。地絡事故中このような間欠的地絡事故が7割程度以上をしめているのが現状である。間欠的地絡事故を放置すると、最終的には永久的地絡事故につながる場合が多い。間欠的地絡事故においても、その事故発生区間を特定できる装置が最近では設置されつつあるが、当該事故発生区間のどこで間欠的地絡事故が発生しているのかは、上記の永久的短絡事故時と同様に、高所作業車の絶縁バスケットから2組の間欠地絡検知器を配電線路上に設置し、その検知状況により設置位置を変更しながら地絡事故の発生場所の特定を行っていた。
【0004】
この改善技術として、特許文献1の発明の実施の形態には、電線および変圧器等の機器を支持する架空配電線の支持物に接地線が設けられているのを利用して、実際の永久的地絡事故時に、その接地線に流れ込む商用周波の地絡電流を検知するために、接地線にリング状のフェライトコアなどを使用したカレントトランスを設置し、カレントトランスのコイルとその外部に設置したコンデンサとによる共振により検知出力の増大を図るとともに、地絡電流起因の検知出力を整流してパワー源として使用し、動作電源不要で地絡事故を検知するものが記載されている。
また、特許文献2では、永久的地絡事故時に事故区間を特定後、この事故区間のみに高圧パルスを注入し、この事故区間内の支持物の接地線ないし鉄筋に流れ込む模擬地絡電流を検知するために、架空配電線の支持物の回りを囲むように環状に構成されたロゴスキ型電流センサを使用し、その出力信号に応じて模擬地絡電流の有無を作業者に報知する装置につき記載されている。
なお、両公知例とも、使用する検知用のコイルのインダクタンスの値については述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−48831
【特許文献2】特開2007−292526
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、リング状のカレントトランスと、それに並列に接続したコンデンサとにより共振回路を構成するが、共振回路の出力をエネルギー源としても使用するように構成されているため共振回路に対する損失電力が大きくなる。
したがって、この公知例においては、共振回路に蓄えられ周波数に比例する無効電力と、共振回路からの出力やコイル抵抗分などによる損失電力との比で表されるQの値は、50−60Hzの低周波領域では極めて低いものになると考えられる。
したがって、特許文献1のカレントトランスと共振用コンデンサとの部分は、共振の効果による、信号出力の増加の度合いは少なく、かなり大きな交流磁束が存在した場合に初めて、共振回路から所定以上の出力電圧が得られるものと考えられる。
【0007】
また、特許文献2は空芯のコイルによるロゴスキ型電流センサを用いており、また、共振現象等による出力電圧の増大などはなく、特許文献1に比べ、電流検知感度はさらに低いと推定される。
【0008】
また、永久的地絡事故に対し特許文献1の方式を適用する場合、どこで発生するか予測できない実際の永久的地絡事故を地絡報知器で検知する必要があるため、永久的地絡事故が発生する以前に、地絡報知器を全部の接地線に設置しておくことが前提となる。これは莫大な費用を要するとともに、地絡事故発生時には、各地絡報知器を確認に行く必要があった。
【0009】
また、特許文献1は、地絡センサとして、架空配電線の支持物(いわゆる電柱等)の接地線の回りを囲むようにして、分割可能なリング状のカレントトランスを使用している。架空配電線の支持物には、接地線を有しないものも多く、また、接地線を有していても、架空配電線の支持物の鉄筋などを経由して地絡電流が流れる場合も多い。特許文献1は、このような場合の地絡事故には適用できない欠点がある。
【0010】
また、特許文献2では、地絡センサとして、架空配電線の支持物(いわゆる電柱等)の回りを囲むようにして、リング状のカレントトランスを使用している。
架空配電線の支持物は、通常その直径が300mm程度以上と大口径でかつ種類も多い。したがって、使用するカレントトランスも大口径を要し、その総てに対応させるためには、最大の支持物に適用できる必要がある。
【0011】
また、特許文献2の方式を用いて永久的地絡事故を目的に、模擬課電装置を用いて事故発生区間の全支持物に課電しながら、1個ないしは少数個の地絡報知器を用いて、順次複数の支持物での模擬地絡電流の有無を検知する場合には、リング状センサの着脱を少なくとも支持物毎に行う必要があり操作が煩雑になり使用時に時間と労力を費やす欠点があった。
また、電力用ケーブルなどが保護管付で支持物に密着して取り付けられている場合には、これを含まないようにカレントトランスを設置する必要があり、取り付けが極めて困難となる欠点があった。
【0012】
本発明の解決しようとする課題は、配電線系統の地絡事故時に、地絡電流や模擬課電装置による模擬地絡電流が生じている支持物に近づけるだけでこれらの地絡電流を検知し、その検知結果を報知可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため請求項1記載の発明は、インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知することを特徴とする手段とした。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知する地絡電流検知センサを備え、
前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号が基準電圧値を超えたとき地絡電流の発生を報知する構成としたことを特徴とする手段とした。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知する地絡電流検知センサを備え、
前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号がリセット手段操作後に始めて基準電圧値を超えたとき、自己保持機能を有する報知動作を開始させるとともに、当該報知動作を終了させるリセット手段を有することを特徴とする手段とした。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明では、上述のように、インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知することを特徴とする手段としたため、
地絡電流や模擬課電装置による模擬地絡電流が生じている支持物に近づけるだけでこれらの地絡電流を検知することができるようになるという効果が得られる。
【0017】
請求項2記載の発明では、上述のように、前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号が基準電圧値を超えたとき地絡電流の発生を報知する構成としたことを特徴とする手段としたため、80ヘンリー以上という大きな値のインダクタンスを用いた高いインピーダンスの共振回路に対しても、共振回路のQ値を高い値に保ったままで、その出力電圧を大幅に減衰させることなく報知制御回路等に伝達することが可能となり、高感度に地絡事故の表示ができ、かつ、その検知結果を報知することができるようになるという効果が得られる。
【0018】
請求項3記載の発明では、上述のように、前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号がリセット手段操作後に始めて基準電圧値を超えたとき、自己保持機能を有する報知動作を開始させるとともに、当該報知動作を終了させるリセット手段を有することを特徴とする手段としたため、80ヘンリー以上という大きな値のインダクタンスを用いた高いインピーダンスの共振回路に対しても、共振回路のQ値を高い値に保ったままで、その出力電圧を大幅に減衰させることなく報知制御回路等に伝達することが可能となり、高感度に地絡事故の表示ができ、かつ、その検知結果を間欠的に報知することができるようになるという効果が得られる。
さらに、自己保持機能及びリセット手段を有することで、大きな電流が流れる期間は、地絡事故を検知したときの短い期間のみであるため、平均的消費電流を大幅に低減することができる。したがって、電池駆動式であっても、1年ないし数年間電池の交換なしに使用できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の地絡電流検知センサの構成を示す回路図である。
【図2】本発明に用いる地絡電流検知センサの誘起電圧の例を示す図である。
【図3】本発明の地絡事故報知器の構成例を示す回路図である。
【図4】本発明の地絡事故報知器の構成例を示す回路図である。
【図5】本発明の地絡事故報知器の構成例を示す回路図である。
【図6】本発明の地絡事故報知器の構成例を示す回路図である。
【図7】本発明の複数個の地絡事故報知器から無線にて情報収集を行うときの通信例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、地絡センサとして、構造が簡単な直方体等の非リング状コアを用い、模擬課電装置により接地線や内部鉄筋などに流れる微弱な模擬地絡電流の漏れ磁束を検知することができる構成としている。
【0021】
リング状のカレントトランスを用いるばあいに比べ、非リング状コアを用いて漏れ磁束を検知する場合には、検知すべき磁束密度が2桁ないしは3桁低下する。この低磁束密度に対処するため、本発明では、磁性体コアに巻き、インダクタンスとして80ヘンリー(以下ではHと略記する)以上、好ましくは130H以上のコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数で直列共振を生じる構成を用いている。
【0022】
また、本発明においては、上記共振回路の出力電圧は、3Mオーム以上、好ましくは30Mオーム以上の入力インピーダンスの回路により検知する構成としている。
【0023】
また、本発明の地絡事故報知器においては、永久的地絡事故発生時対応として、携帯に便利で模擬課電装置による模擬地絡電流を高感度で検知かつ表示するものと、間欠的地絡事故対応として、過去に発生した地絡電流発生の検知の履歴を表示するものと、の両方に特化可能としている。
【0024】
また、本発明の地絡事故報知器においては、間欠的地絡事故検知時に、近傍に設置された報知受信器に無線で報告可能となるように構成することもできる。
また、複数の報知受信機はインターネットを含む有線ないしは無線回線にて、上位のコントローラに地絡事故の有無と地絡事故が発生した支持物のアドレスないしは場所を報告するように構成する。
【0025】
本発明によれば、架空配電線の支持物における、永久的地絡事故発生時の模擬課電装置による微弱な模擬地絡電流の検知と、間欠的地絡事故発生時の地絡電流の発生箇所を、短時間で、容易かつ迅速に特定することができる利点がある。
【0026】
共振においては、共振周波数(f)での共振の式
f=(1/2π)・(1/(L・C)1/2) ・・・・・・・(式1)
を満たす、インダクタンス(L)とキャパシタンス(C)の組み合わせは、広い範囲で採用可能である。例えば、特開2001−231165公報の段落(0014)には、10mHのコイルと1000マイクロ・ファラッドのコンデンサを用いる50Hzの共振回路例が示されている。また、特開2008−507249公報の段落(0038)には、AC電源電圧の周波数を含むLC共振回路タンク回路のコイルのインダクタンスとして、100mH以下の例が示されている。
しかし、50Hzから200Hzの低周波領域においてQ値の高い共振回路を構成するには、インダクタンスとして80H以上、好ましくは130H以上の極めて高い値を有するコイルを使用する必要があることを本発明者が見いだした。
本発明によれば、地絡センサとし、磁性体コアを使用し、インダクタンスとして80H以上、好ましくは130H以上の高インダクタンス値を有するコイルと、共振用コンデンサとにより直列共振を生じる構成を用いているため、50Hz以上、200Hz以下の低い周波数領域においても比較的高いQ値が得られ、非リング状コアを用いて模擬課電装置による模擬地絡電流の漏れ磁束を検知する場合においても、地絡場所を確実に特定できる利点がある。
【0027】
本発明によれば、3Mオーム以上、好ましくは30Mオーム以上の入力インピーダンスの回路により上記共振回路の出力電圧を検知する構成としているため、80H以上という大きな値のインダクタンスを用いた高いインピーダンスの共振回路に対しても、共振回路のQ値を高い値に保ったままで、その出力電圧を大幅に減衰させることなく報知制御回路に伝達することが可能となり、高感度に地絡事故の表示ができる利点がある。
【0028】
本発明によれば、地絡センサとして、構造が簡単な直方体等の非リング状コアを用い、支持物中の接地線や内部鉄筋などに流れる、微弱な模擬地絡電流の漏れ磁束を検知可能な構成としているため、支持物への地絡センサの着脱が不要で、小型で携帯が容易であり、支持物の直径の大小に関らず、永久的地絡事故の事故区間の複数の支持物に対し、1個ないしは少数個の地絡事故報知器により、事故点の特定が容易かつ迅速にできる利点がある。
【0029】
本発明によれば、地絡センサとして、構造が簡単な直方体等の非リング状コアを用い、支持物中の接地線や内部鉄筋などに流れる、微弱な地絡電流の漏れ磁束を測定可能な構成としているため、地絡センサの支持物への着脱が不要で、小型でかつ電池による長期の稼動が容易であり、支持物の直径の大小に関らず、間欠的地絡事故の事故区間の全支持物に対し、個別の地絡事故報知器を迅速に設置可能であるとともに、高抵抗接地(不完全接地)の地絡事故時においても事故点の特定が容易かつ迅速にできる利点がある。
【0030】
本発明の好ましい例によれば、間欠的地絡事故に対応し、事故区間の全支持物に対し個別の地絡事故報知器を設置し、その地絡事故発生の履歴を無線回線等を経由して上位のコントローラに自動的に報告できるため、各支持物における地絡の表示の確認に人が巡回する必要もなくなり、大幅なコストダウンとなるとともに、地絡事故の有無および発生場所の把握が瞬時に可能となる利点がある。
【0031】
以下にこの発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は本実施形態の地絡電流検知センサ1の構成を示す図である。
図1に示すように、7は被測定対象の架空配電線の支持物の断面を示す。支持物7の接地線ないしは鉄筋を通して地絡電流(永久的ないしは間欠的地絡事故発生時)ないしは模擬地絡電流(模擬課電装置使用時)が流れる。
センサコイル2は、磁性体コア3に巻き線4を巻いて構成される。センサコイル2の両端には、コンデンサ5を接続して共振回路を構成している。
支持物7に地絡電流ないしは模擬地絡電流が流れると、その電流によって形成される磁束の一部が、当該電流の流れる方向と直交する方向に設置されたセンサコイル2により、当該電流の漏れ磁束が検知される。
センサコイル2によって検知された漏れ磁束中の交流分により、コンデンサ5との共振作用で共振電流が流れ、センサコイル2のインダクタンスと前記共振電流との積に比例した電圧が地絡電流検知センサ1の出力端子6aと6bとの間に誘起される。
【0033】
検知すべき模擬地絡電流の最低値は5−20mAと低い。かつ、本発明では、取り扱いの容易さから、地絡電流検知センサ1の磁性体コア3として非リング状コアを使用して地絡電流の漏れ磁束を検知する構成を採用している。このため、地絡電流検知センサ1の感度としては、前述の特許文献1などの場合の100倍ないしは1000倍以上の高感度が必要となる。
このため、本発明では、50Hzから200Hzの低い周波数において、地絡電流検知センサ1の感度が高くなるように、極めて高い値の自己インダクタンスを有するセンサコイル2を使用する。
【0034】
図2は、図1に示した地絡電流検知センサ1の特性例を示す図である。
図2に示すように、10mAの電流が流れている電線の上に、センサコイル2の磁性体コア3が電流の方向に対し90度となるように配置し、コンデンサ5の値を変化させて、各コンデンサ値における共振周波数と、そのとき出力端子6a-6b間に誘起する交流電圧を、入力インピーダンスが50Mオーム以上の測定器で記録したものである。センサコイル2の自己インダクタンスとして80H,135Hおよび370Hの場合を示す。自己インダクタンスの値が低くなったり共振周波数が低くなると、出力端子6a-6b間に誘起する交流電圧が低くなり、50mV程度以下では、信号がノイズの影響を受けやすくなるため、安定な検知は困難である。
図2より、50−200Hzの領域で使用する地絡電流検知センサ1のセンサコイル2の自己インダクタンスとしては、130H以上が必要である。
【0035】
図2からは、センサコイル2の自己インダクタンスは大きいほど好ましいともみなされるが、インダクタンスの値が上昇すると、巻き線間などに起因した浮遊容量も増加し、センサコイル2自身の自己共振周波数が、使用する模擬地絡電流の周波数以下になる。この場合には、共振作用による地絡電流検知センサ1の高感度化は期待できなくなる。
また、インダクタンスを大きくするにはセンサコイル2の寸法も大きくなり、小型の地絡事故報知器用には適さなくなる。
このことから、本発明の目的には、インダクタンスとしては1500H以下が好ましい。
【0036】
自己インダクタンス370Hを得た例を下記に記す。
磁性体コア3として、長さ85mm、幅13mm、厚さ0.5mmの珪素鋼板を26枚積層したものを使用し、この磁性体上に、線径が0.06mmのエナメル線を8万回巻いて作成した。共振周波数として模擬課電装置で用いられる100Hzを得るために、コンデンサ5として6.8nFのコンデンサを使用した。浮遊容量による、センサコイル2自身の自己共振周波数は約600Hzであった。
同じコアに同種のエナメル線を2倍の16万回程度巻くと1500H程度のインダクタンスは得られるが、浮遊容量も増加し、自己共振周波数は50Hzを下回った。
【0037】
本発明対象での最低の自己インダクタンス値である80Hを得た例を下記に記す。
磁性体コア3として、長さ40mm、径10mm、のフェライトコアを使用し、この磁性体上に、線径が0.07mmのエナメル線を5万回巻いて作成した。共振周波数として100Hzを得るために、コンデンサ5として31nFのコンデンサを使用した。浮遊容量による、センサコイル2自身の自己共振周波数は約2300Hzであった。
【0038】
インダクタンスが80Hのコイルを用いて、本発明の対象周波数の最低周波数50Hzで共振するためには、共振コンデンサの値は、式1より、コイルの浮遊容量分を含め0.126マイクロ・ファラッドとなる。このことから、本発明の対象領域において、使用する共振コンデンサの値は、すべてこの値以下、すなわち0.13マイクロ・ファラッド以下、の小さい値に限定される。
【0039】
使用するセンサコイル2の自己インダクタンスとしては、80H以上、好ましくは130H以上で、かつ1500H以下の大きな値のもので、共振時のインピーダンスの大きい状態で使用するため、地絡電流検知センサ1の出力につながる回路のインピーダンスにより、地絡電流検知センサ1の出力端子6a−6b間の電圧は大きく影響を受ける。出力端子6a−6b間の電圧を、その開放時の値の半値以上とするには、出力端子に接続する回路のインピーダンスは少なくとも3Mオーム以上であることが必要であり、好ましくは、開放時の9割程度以上を確保できる30Mオーム以上であることが望ましい。
【0040】
前述の地絡電流検知センサ1を用いて、永久的地絡事故発生時の模擬課電装置による模擬地絡電流の検知を行う地絡事故報知器8の一例を図3に示す。
地絡電流検知センサ1の共振周波数は、商用周波数の通常2倍程度である模擬課電装置の周波数に設定している。
入力インピーダンスとして50Mオーム以上の値が確保できるオペアンプを用いたボルテージフォロア回路9を出力端子6a-6bに接続してインピーダンス変換を行っている。このため、ボルテージフォロア回路9の出力としては、地絡電流検知センサ1の出力端子6a−6b間の電圧の開放端電圧に近い電圧が出力される。
その後電圧増幅回路10により信号増幅を行った後、整流平滑化回路11により交流電圧を整流ならびに平滑化し直流に変換し、比較回路12により基準値との大小を比較し、報知回路13によりその値(現在値)が基準値以上であればトランジスタ131によりブザー132を鳴らす構成としている。この基準値は、用途により変更可能である。
本装置は、ブザー132を鳴らす部分以外はエネルギーをあまり消費しないため、低消費電力のオペアンプやコンパレータなどを用いれば、プラス・マイナス5Vないしは15Vで5mA−50mA程度の低消費電力にて構成可能であり、小型で、電池駆動の携帯用に適した装置に構成できる。なお、報知手段としては、光の点灯や点滅など他の手段も可能であることはもちろんである。
地絡電流検知センサ1の磁性体コア3は、被測定対象物である架空配電線の支持物7やその接地線に直交するように近づけて、模擬地絡電流の漏れ磁束を検知する構成となっており、従来例のように、測定する支持物7を変える毎に磁性体コアを着脱したりする必要はない。このため、1台の地絡事故報知器8を用いて、事故発生区間中の複数の支持物7を順次かつスピーディに検査し、永久的地絡事故点の特定ができる利点がある。
【0041】
前述の地絡電流検知センサ1を用いて、間欠的地絡事故発生時の報知を行う地絡事故報知器8の報知回路の例を図4の8に示す。
地絡電流検知センサ1は、商用周波数に対し共振回路を構成しており、その後の、ボルテージフォロア回路9、電圧増幅回路10、整流平滑化回路11および比較回路12は図3と同様である。
比較回路12により、地絡電流検知センサ1の出力端6a-6b間電圧が、所定の値以上と認識されたときは、比較回路12の出力が高レベルとなり報知回路13A中のトランジスタ131をオンし、トランジスタ131のコレクタにつながっているソレノイドコイル133を駆動し、ソレノイドコイル133に連動する表示器(図示せず)で地絡事故の検知を表示する。
なお、ソレノイドコイル133の他端には、トランジスタ131のエミッタとの間にはコンデンサ134が、プラスの電源との間には充電用高抵抗135が接続されており、このコンデンサ134は通常プラスの電圧に充電されている。
地絡事故が発生したときには、このコンデンサ134に蓄えられていた電荷がソレノイドコイル133とトランジスタ131を経由して放電され、この放電時にソレノイドコイル133を駆動する。
一度コンデンサ134の電荷が放電してしまうと、ソレノイドコイル133には充電用高抵抗135に起因する微弱の電流しか流れなくなり、地絡電流検知センサ1の出力端6a-6b間電圧が、所定の値以下となるとトランジスタ131は非導通となる。
表示器(図示せず)は通常、リセット操作により「非検知」の表示にロックしているが、一度ソレノイドコイル133が駆動されるとロックがはずれて表示器は「検知」の表示にかわり、ソレノイドコイル133に電流が流れなくなっても、「検知」の表示を保持する様に、機械的機構で自己保持性を付与している。
【0042】
図4に示すように、表示内容に自己保持性を持たせることにより、表示にリセット操作を加えた後、現在までに所定以上の地絡事故電流が生じたかどうかの履歴を示すこととなる。この期間に1度でも所定以上の地絡事故電流が生じていれば、報知回路の表示は「検知」の状態に変わり、次にリセット操作を行う迄、「検知」の報知状態が保持される。
リセット操作後の地絡事故の有無の履歴を知りたい場合には、図4に示す間欠的地絡検知用の地絡事故報知器8を、間欠的地絡事故発生区間の全部の支持物7に設置するとよい。
報知手段として、機械的な自己保持機能を用いれば、大きな電流が流れる期間は、地絡事故を検知したときにソレノイドコイル133に流れる短い期間のみであるため、平均的消費電流を大幅に低減することができる。したがって、電池駆動式であっても、1年ないし数年間電池の交換なしに使用できる利点がある。
【0043】
間欠的地絡検知用の地絡事故報知器8の自己保持機能は、前記の機械的機構以外でも、図5の報知回路13Bに示すようにフリップフロップ回路136により電子回路的に保有させたり、CPUを使用してソフト的に保有させる等、電子的に付与することもできる。電子的な自己保持機能を使用する場合には、リセット操作もリセットスイッチ137や他からの信号により電子的に行える利点がある。
また、電子記憶用メモリーを具備させれば過去の地絡事故発生日時時刻や地絡電流の大きさなどの履歴情報を記録することもできる。
なお、図5では、発光ダイオード139に流れる電流を大幅に低減するため、オンの期間が短い間欠発振器138により、発光ダイオード139に流れる電流の期間を短く(例えば1/10以下)し、低消費電力化を図っている。
【0044】
前述の地絡電流検知センサ1を用いて、間欠的地絡事故発生時の報知を行う地絡事故報知器8の報知回路13の他の例を図6に示す。
図6では、図5の回路に、無線通信回路14を追加し、無線通信により、地絡事故の有無の履歴を上位装置20に報知する場合の例である。
なお、各地絡事故報告器8には、複数個の16進ロータリースイッチなどで構成されたアドレス設定回路146により、前もって通信上の異なるアドレスを指定している。
無線信号はアンテナ142からアンテナ切替スイッチ143を経由して受信回路144に入力され復調後デコードされる。
無線信号中のアドレス指定値がアドレス設定回路146の値と異なる場合には、それ以降の復調やデコードは行わない。
無線信号中のアドレス指定値がアドレス設定回路146の値と一致した場合には、その後の指示内容を復調およびデコードし処理回路141のI3端子に入力する。処理回路141のI1端子/I2端子の信号を、受信した指示内容に従い、処理回路141のO2端子を経由して送信回路145に入力し、必要な信号を付加しコード化ならびに変調処理を施してアンテナ切替スイッチ143を経由してアンテナ142から無線送信する。
指示内容が、履歴情報をリセットする指示であった場合には、処理回路141のO1端子からの信号により、報知回路13B中のフリップフロップ136をリセットする。
なお、O2端子から信号を送信回路145に送出するのに同期して、ないしはそれに先行して、O3端子からの出力により、アンテナ切替スイッチ143を送信回路145の出力側に倒しておき、送信信号の終了後には受信回路144の入力側に切り替える。
【0045】
図7は、支持物に装着された中継器に組み込まれた上位装置20と、複数の地絡事故報知器8−1・・・8−nとの間で、地絡事故情報を無線にて確認する通信シーケンスの例(ポーリング)を示す。
上位装置20の近くに設置された一つの地絡事故報知器8のアドレスを指定しかつ指示内容を送付する。対応するアドレスの地絡事故報知器8は、その指示内容にしたがって、地絡状態を報告する。報告内容としては、地絡発生の履歴情報として、地絡履歴の有無のみならず地絡事故時刻情報や地絡電流値情報などを追加することもできる。
地絡上位装置20は報告を受けると別の地絡事故報知器8のアドレスを指定しかつ指示内容を送付する。このようにして、上位装置20は付近の複数の地絡事故報知器8からの地絡情報を自動的に入手することができる。
上位装置20が入手した地絡情報は、インターネット回線を含む有線ないしは無線の手段にて中央のコントローラに自動的に報告する。この報告は、中央のコントローラの指示により、事故発生時は高い報告頻度で報告し、通常時は大幅に低い報告頻度で報告する。報告後は上位装置20からの指示に従い事故情報のリセットを行う。
このように各地絡事故報知器の情報の伝達を通信手段により自動化すれば、間欠的地絡事故の発生情報を即座かつ自動的に中央コントローラに報告できるため、事故点の特定が瞬時にできる利点がある。
【0046】
上記の上位装置20との通信手段がない場合には、測定用車両等に上記の上位装置20と同等の機能を装備させることにより、測定用車両から数mないしは数百mの近傍にある複数の地絡事故報告器からの地絡事故情報を無線にて自動的に収集することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
これまで述べてきた本発明は、50Hzや60Hzの交流を伝送する架空配電線の地絡測定に有用であるだけではない。たとえば、交流の全波整流や半波整流された直流の伝送においても、共振周波数を商用周波数の2倍に設定すれば、同様な測定が可能である。
本発明は、これらの応用に限定するものではなく、50Hz以上200Hz以下の低い周波数の交流成分を有する電流が流れる場所の電流の検知にも適用できることは、もちろんである。
【0048】
本発明によれば、80H以上の高いインダクタンスを有するセンサコイル2と共振用コンデンサ5とによる直列共振によって、50Hzから200Hzの低い周波数領域においても、共振効果により検知出力が大幅に増大できるように構成したので、地絡事故検知センサ1の部分は電源の供給は不要であり、かつ高感度で微弱な電流の検知が可能となった。
【0049】
センサ1の出力端子6a-6b間電圧を3Mオーム以上の入力インピーダンスを有する回路を経由し信号を増幅した後に、基準値との大小の比較結果を報知するようにしているため、センサ1の高感度性を損なうことなく、小型かつ低い消費電力で永久的地絡事故点の特定や間欠的地絡事故の検知を行うことができる。このため、電池により長期間計測が可能で、携帯用ないしは長期設置可能な小型の地絡事故報器を構成できる利点がある。
【0050】
本発明によれば、架空配電線路の永久的地絡事故時に、区分開閉器によって区分された事故区間を切り離し、小電力の模擬課電装置で課電して、地絡事故箇所から支持物ないしはその接地線を通して大地に流れ込む交流成分を有する模擬地絡電流による磁束の一部をセンサコイルで検知し、その検知信号をもとに報知する構成としている。このため、架空配電線系統の支持物単位で地絡事故箇所を特定できるとともに、検知作業も支持物ないしは接地線表面にセンサコイル2を近づけるだけでよく、対象の支持物毎にセンサの着脱を行う必要もなく、労力の節減、と探査時間の短縮に寄与することができる。
【0051】
本発明の地絡事故報知器を、間欠的地絡を生じている事故発生区間の架空配電線系統の全支持物に設置すれば、地絡事故発生時に支持物単位で地絡事故箇所が特定でき、変圧器などの機器内部で発生し事故箇所が外観からは発見できない場合においても、地絡事故箇所の発見がきわめて容易となる。
【0052】
本発明の無線で報知する地絡事故報知器を使用すれば、間欠的地絡事故発生時に、各支持物設置の地絡事故報知器を個々に確認することなく、自動的に地絡事故情報を入手できるため、労力の大幅な節減と、探査時間の大幅な短縮を図ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1・・・地絡電流検知センサ;2・・・センサコイル;3・・・コア;4・・・コイル;5・・・共振用コンデンサ;6aおよび6b・・・地絡電流検知センサの出力端子;7・・・支持物(断面);8・・・地絡事故報知器;9・・・インピーダンス変換回路;10・・・増幅回路;11・・・整流平滑化回路;12・・・比較回路;13・・・報知回路(永久的地絡報知用);13A・・・報知回路(間欠的地絡報知用);13B・・・報知回路(間欠的地絡報知用);14・・・無線通信回路;20・・・上位装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知することを特徴とする地絡電流検知センサ。
【請求項2】
インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知する地絡電流検知センサを備え、
前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号が基準電圧値を超えたとき地絡電流の発生を報知する構成としたことを特徴とする地絡事故報知器。
【請求項3】
インダクタンスとして、80ヘンリー以上で、かつ1500ヘンリー以下の磁性体コアに巻かれたコイルと、共振用コンデンサとにより50Hz以上、200Hz以下の周波数の直列共振を生じるように構成し、流れている電流の漏れ磁束を検知する地絡電流検知センサを備え、
前記地絡電流検知センサの出力電圧を、入力インピーダンスが3Mオーム以上のインピーダンス変換回路を経由して電圧増幅し、さらに整流平滑化処理を施した信号がリセット手段操作後に始めて基準電圧値を超えたとき、自己保持機能を有する報知動作を開始させるとともに、当該報知動作を終了させるリセット手段を有することを特徴とする地絡事故報知器。
【請求項4】
インピーダンス変換回路として、オペアンプによるボルテージフォロワ回路を用いることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の地絡事故報知器。
【請求項5】
外部からの通信による要求に従い、地絡事故報知器の現在の報知状態を通信回線で報告する機能と報知動作の内容をリセットする機能とを有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の地絡事故報知器
【請求項6】
整流平滑化処理後の値が基準電圧値を超えた時刻を記録する手段を有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の地絡事故報知器

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117744(P2011−117744A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273012(P2009−273012)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(598133676)株式会社羽野製作所 (9)
【Fターム(参考)】