説明

埋設無線装置

【課題】蓋付き地下空間構造に用いられる埋設無線装置を提供する。
【解決手段】本発明による埋設無線装置の地下空間構造は、地中空間,前記地中空間の金属性蓋1、および前記蓋1を取り囲む電波透過性構造材料よりなる環状領域を含む放射面2とからなる。地下無線装置は、前記地中空間内に前記蓋1と離れて配置された地下アンテナ5a,前記アンテナ5aに接続された無線装置を含む。地上無線装置は、地上アンテナ,前記アンテナに接続された無線装置を含む。前記地下アンテナと前記地上アンテナは前記環状領域を含む放射面2を介して接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置を内在する蓋付き地下空間構造に関連して設けられる埋設無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前述した地下空間構造として上下水管、ガス管、通信線、電力線等の地中埋設管に関連してそれらの点検等のために配置されているマンホールのような設備が知られている。
これらの設備に関連して地下の空間内の設備と地上の通信設備との通信についてすでに多くの研究がなされている。
これまでに、マンホールの内部と外部を無線接続する例として、
(1)マンホール鉄蓋をアンテナとして利用する方法(特許文献1)、
(2)マンホール鉄蓋に加工を施してアンテナを造り込む方法(特許文献2)、
(3)マンホール鉄蓋に開けられている穴を通して電波を通す方法(特許文献3)、
が公開されている。
上記(1)の方法では、マンホール鉄蓋の寸法(開口直径:人が出入りできる寸法)から、数百メガヘルツ以上の周波数では使えない。(2)の方法では、マンホール蓋に機械加工を施すことが利用を広げる上で難点と考えられる。(3)の方法では、特定な周波数以外、有効な電波透過を期待できない。
【特許文献1】USP5,583,492
【特許文献2】USP6,272,346
【特許文献3】登録実用新案第3061715号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述した問題を解決するために、本件発明者等は、3次元電磁界解析による数値シミュレーションを行ない、それを基礎にして、実証実験をおこなった。これによれば電波放射特性は以下の点に依存していることを見いだした。
1.マンホールなどの地中埋設構造物の幾何学的構造
2.アンテナの構造と配置位置と向き
3.使用する電波の周波数(波長)
4.土、コンクリート、アスファルトなどの誘電特性
本発明の目的は前述したマンホール鉄蓋等の障害の存在に起因する問題を解決することができる埋設無線装置を提供することにある。
本発明の現実的な目的は、既存の地下設備の構造を全く変更することなく、良好な地下地上通信を実現することができる埋設無線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明による、請求項1記載の埋設無線装置は、
地中空間,前記地中空間の金属性蓋,および前記蓋を取り囲む電波透過性構造材料よりなる環状領域を含む放射面とからなる地下空間構造と、
前記地中空間内に前記蓋と離れて配置された地下アンテナ,前記アンテナに接続された無線装置を含む地下無線装置と、
地上アンテナ,前記アンテナに接続された無線装置を含む地上無線装置と、
からなる埋設無線装置であって、
前記地下アンテナと前記地上アンテナは前記環状領域を含む放射面を介して接続されるように構成されている。
【0005】
本発明による請求項2記載の埋設無線装置は、請求項1記載の埋設無線装置において、 前記蓋の径を(D)、無線装置の搬送波の波長を(λ)とするとき、(D)と使用波長(λ)の比(D/λ)が略同等又はそれ以上であり、地表に滲み出し放射される電波の仰角は前記比と前記蓋に対する地下アンテナの位置により決定されるように構成されている。
【0006】
本発明による請求項3記載の埋設無線装置は、請求項2記載の埋設無線装置において、 前記地表に滲み出た電波は前記蓋を取り囲む電波透過性構造材料よりなる環状領域表面を含む放射面に分布する等価的波源を形成し、地上の放射電波の分布は前記等価的波源からの放射電波の合成電波により規定されるように構成されている。
【0007】
本発明による請求項4記載の埋設無線装置は、請求項1記載の埋設無線装置において、 前記地下空間構造の放射面を形成する層は、前記地中空間の壁面と同等またはそれ以上の電波透過性を持つ材料層であるように構成されている。
【0008】
本発明による請求項5記載の埋設無線装置は、請求項4記載の埋設無線装置において、 前記地下空間構造の放射面を形成する層は、防水層により形成されている。
なお前記地下空間構造の放射面を形成する層は、電波損失の小さな材料であり、通常の舗装材料、アスファルト層、表面をアスファルト舗装で覆った砕石層、コンクリート、レンガ、コンクリートブロックであり、必要ならば表面の数cmから30cmに水分の進入を排除する手段を設けることができる。
【0009】
本発明による請求項6記載の埋設無線装置は、請求項1記載の埋設無線装置において、 前記地下空間構造の埋設構造の表面環状部はアスファルト層であり、前記壁面はコンクリートであり、前記壁面の外は設置場所の土壌である。
【0010】
本発明による請求項7記載の埋設無線装置は、請求項1記載の埋設無線装置において、 前記地下アンテナは下方へ向かう1次放射を抑制した構造のアンテナである。
【0011】
本発明による請求項8記載の埋設無線装置は、請求項7記載の埋設無線装置において、 前記地下アンテナは、下面に反射板を備えるλ/4アンテナであり、前記地中空間で位置を選択して設定されたものである。
【0012】
本発明による請求項9記載の埋設無線装置は、請求項1〜8記載の埋設無線装置において、前記地中空間の蓋の外形が、矩形を含む円以外の形状であるとき前記径(D)を矩形の短辺の長さまたは楕円の短径に相当する実効径(D)とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による請求項1記載の埋設無線装置は、既存の地下設備をほとんど変更することなく、良好な地下地上通信を実現することができる。
本発明による請求項2記載の埋設無線装置は地表に滲み出し放射される電波の仰角は前記比D/λと前記蓋に対する地下アンテナの位置により決定できる。
本発明による請求項3記載の埋設無線装置は、地上の放射電波の分布を放射面の放射電波の合成電波により規定できる。
本発明による請求項4記載の埋設無線装置によれば、前記地下空間構造の放射面を形成する層は、前記地中空間の壁面と同等またはそれ以上の電波透過性を持つ材料層で形成できる。
本発明による請求項5記載の埋設無線装置は、防水層を形成して放射面の損失を低くできる。
本発明による請求項6記載の埋設無線装置は、一般的なマンホールに適用できる。
本発明による請求項7記載の埋設無線装置は、下方へ向かう1次放射を抑制できる。
本発明による請求項8記載の埋設無線装置は、下面に反射板を備えるλ/4アンテナを前記地中空間で位置を選択し設置され希望する放射特性を選択できる。
本発明による請求項9記載の埋設無線装置は、請求項1〜8記載の埋設無線装置において、前記地中空間の蓋の外形が、矩形を含む円以外の形状であるときにも本発明を適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図面等を参照して本発明による装置の実施の形態を説明する。図1Aは典型的な上水道マンホールに本発明による埋設無線装置を設置した状態を示す略図的な断面図である。図1Bは図1Aに示した断面図の一部を拡大して示した断面図である。
【0015】
図1A,Bに示されているように、土壌(土層)4には送水管7が埋設されており、送水管7に関連してマンホールが設置されている。マンホールはコンクリート壁3により内部に空間を確保し、上部にはマンホール鉄蓋1が設けられている。アスファルト層2はアスファルト層2に埋設固定されている受け環1bをもち、鉄蓋本体1aは、前記受け環1bで着脱または開閉自在に保持されている。コンクリート壁3の底から水道管空気弁6が内部空間内に突出させられている。配水される水の圧力,速度その他のデータは、配管に関連して設けられている図示しないセンサ等によって取得される。これらのデータは地下無線装置を介して地上に送出され、地上無線装置(図示せず)の情報も地下無線装置に伝達される。この地下無線装置の地下アンテナの配置は後述する実施例1に対応する。このような典型例を前提として、本発明の基本となる概念を説明する。
【0016】
(マンホール鉄蓋の大きさと電波の波長)各種マンホール鉄蓋の大きさ(直径あるいは縦と横の長さ)は通常無線接続に利用される電波の波長に比べて、同等程度あるいはそれよりはるかに大きい場合が多いので、地上空間への電波放射の妨げとなる。さらに、これまではマンホール周囲の土、コンクリート、アスファルトなどは電波吸収対として取り扱われてきた。そのため、前述の通りマンホール内部と外部を無線接続するには、マンホール鉄蓋をアンテナとして利用する方法、鉄蓋にアンテナを作りこむ方法、鉄蓋に穴をあけて電波を通す方法が提案されてきたが、いずれの方法も広く利用される状況にはなっていない。本発明による埋設無線装置では、電波の波長λに対するマンホール蓋の大きさを表す指標としてD/λを導入する。ここでDは便宜的に蓋の面積SからD=2(S/π)1/2で定め、実効直径とみなす。D/λ<<1ならば蓋は電波伝搬を大きく阻害することはないが、D/λ>>1ならば電波をさえぎる。各種マンホール蓋の寸法と使用が想定される電波周波数との組み合わせから、D/λの値は1から10程度となる。
【0017】
(マンホール周囲からの電波放射)マンホール周囲の構造は、表面層がアスファルトあるいはコンクリートで舗装されている場合が多い。数百MHzから数GHz周波数帯域におけるアスファルトとコンクリートの電波吸収率は、土に比べて低い。従って、アスファルトあるいはコンクリート舗装層を透過して地表に滲み出てくる電波を利用して、マンホール内外の無線接続を確立することが可能である。
【0018】
仮にアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装が施されていない場合でも、地表に近い土層から電波は地表に滲み出てくる。この場合、地上空間へ放射される電波は土の含水率に応じて変化し、多くの場合、アスファルトあるいはコンクリートで舗装されている場合に比べて弱くなる。
本発明によれば、地表に滲み出てくる電波を積極的に利用して、埋設構造物内に置かれた電子装置と地上に置かれた電子装置を無線接続できる。
【0019】
本発明では、与えられた条件、即ち、マンホールの大きさ、設置場所の電波環境、無線接続に使用できる電波周波数のもとで、マンホール内外の無線接続技術を提供する。無線接続を確立するための技術的要素は:
1.マンホール内無線装置の出力電力を、有効に上部空間に放射するためのアンテナの位置の選択。
2.マンホール内に置かれた無線装置の出力電力を、有効に上部空間に放射するアンテナ構造。
3.安定した電波伝搬路を確保するために有利な、上部空間配置無線装置の位置選択。
に関わる技術である。
【0020】
上記の技術要素の実現には、3次元電磁界解析(数値シミュレーション)による電波放射特性予測が強力なツールとなる。その理由は、マンホール鉄蓋、コンクリート壁、アスファルト層などの電波散乱体、電波吸収体が無線機アンテナの近傍に存在しており、3次元電磁界数値解析を実行する以外に精度高く放射特性を予測できないからである。
上部空間への電波放射特性は、
1.マンホールなどの地下埋設構造物の構造
2.アンテナの構造
3.アンテナの(マンホール構造に対する相対的な)位置と向き
4.使用する電波の周波数
5.土、コンクリート、アスファルトなどの誘電特性
などに依存する。
マンホールの構造及び土、コンクリート、アスファルトなどの誘電特性は与えられた条件として取り扱ってモデルを構築し、3次元電磁界解析(シミュレーション)を実行する。
【0021】
典型的な上水道マンホールのモデル断面図を図1Aに示す。マンホール鉄蓋の直径は82cmである。アスファルト層の厚さを、下部砕石層を含めて、24cmとした。実際のマンホールコンクリート壁の形状は回転対象からずれているが、このモデルでは回転対象形で近似した。マンホール内に置く無線装置用アンテナは反射板付き棒状λ/4(λ:波長)アンテナとし、マンホール鉄蓋の中心軸上に配置した。アンテナから下方へ向かう1次放射を抑えることで土に吸収される電力を抑え、上空への放射電力を強める目的で金属円盤を付した。
【0022】
(誘電特性)前述の通り、電波放射特性を解析するためには、土、コンクリートとアスファルトの誘電特性が既知である必要がある。ここでは、文献[1,2,3]に記載されている値から、使用が想定される周波数における値を推計して、3種のモデルを導出して、数値解析に使う。
文献
[1] A. von Hippel Ed., Dielectric Materials and Applications, Artech House, 1995; Originally published by Technology Press of MIT, 1954.
[2] ITU-R P.527-3, Electrical Characteristics of The Surface of the Earth.
[3] ITU-R P.1238-3, Propagation Data and Prediction Methods for Planning of Indoor Radiocommunication Systems and Radio Local Area Networks in the Frequency Range 900MHz to 100GHz.
上記文献に記載されている値から、300MHzから3GHzの範囲で、誘電損失の大きさは、大略、土、コンクリート、アスファルトの順である。アスファルトは誘電損失が小さく、厚さ10cm〜30cm程度であれば、実用的な強度の電磁波透過が期待できる。
【0023】
電波の周波数としては、数百MHzから数GHz程度の帯域内にあって、利用が法的に許される可能性のある周波数、例えば、868MHz,915MHz,1500MHz,1900MHz,2400MHzなどを想定する。
誘電特性の異なった3種の Material Models、MMI,MMII,MMIIIを表1,表2,表3として、以下に示す。
【0024】
【表1】

【表2】

【表3】

【0025】
(実施例1)
本発明による埋設無線装置の実施例1では、図1Aに示されているように、地下無線装置5は、λ/4アンテナ5a,金属性の反射板5b,無線機ケース5c,処理装置5dを含んでいる。処理装置5dは前述したセンサ等からの信号の処理または、その他の回路に制御信号等を送出する機能をもち、無線機ケース5cに含まれる高周波送受信回路に接続されている。後述するようにλ/4アンテナ5aは目的に応じて空間内の位置の調整が可能であるがこの実施例ではz方向で,コンクリート壁3の中心に垂直に配置されている。
【0026】
この上水道マンホールモデルに対して、430MHzにおいてに3次元電磁界解析を実行した。解析に用いた座標系を図2に示す。マンホール鉄蓋表面の中心点を座標原点とした。この座標系は、後述する他の実施例にも同様に用いられる。図において、座標原点はマンホール鉄蓋表面の中心点であり、蓋の直径は82cmである。P点は、電磁界の観測点を示す。
マンホールの構造、使用する周波数、土、コンクリート、アスファルトの誘電特性が与えられた後、3次元電磁波解析を実行して上部空間への電磁波放射特性を予測する。放射電界強度予測値が一定値を超える場所に、外部無線装置用アンテナを設置して、マンホール内外の無線接続を確立する。
【0027】
(実施例1のデータ)
マンホール(蓋):典型的な上水道マンホール
マンホール蓋直径:82cm
周波数 :430MHz(自由空間波長:λ=69.8cm)
蓋の大きさ指標 :D/λ=1.17
誘電特性 :MMI
土(粘土質、水分含有率13.7%)ε/ε0 =20, tanδ=0.16
コンクリート ε/ε0 =7.0, tanδ=0.12
アスファルト ε/ε0 =3.15, tanδ=0.026
アンテナ位置 :マンホール中心軸上
【0028】
実施例1における3次元電磁界数値解析では、図3に示した計算空間、
地上空気層 :半径2.7m、高さ5.0m
アスファルト層 :半径2.7m、厚さ0.24m
アスファルト舗装下面以下の土壌層:半径2.7m、深さ2.06m
を多数(約6×106 個)の格子領域に分割して、PC上で直接数値計算を実行して3次元電磁界分布を算出した。
【0029】
この数値計算によって得られたxz面内の電界(絶対値)分布のスナップショットを図4に示す。白黒図面で白に近い部分が電界強度の強い部分に対応する。
周波数は430MHzで、モデル誘電特性はMMIである。
【0030】
図4に示す数値計算結果は以下の状況を良く示している。
(1)アンテナから放射された電波は周囲の壁面とマンホール蓋で反射され、複雑な電磁界分布をマンホール内空間につくる。マンホール内空間の電磁界強度は高い、
(2)放射電波の一部はコンクリート壁を通過し土壌に吸収される、
(3)放射電波の一部は、アスファルト層内を半径方向に短い距離(数波長)伝播する、
(4)アスファルト層内を半径方向に伝播する電波の一部が、地表上空間に滲みだす、
(5)鉄蓋周辺のドーナツ型アスファルト層から滲み出た電磁波が波源となって、地上空間に電波が放射される。
【0031】
図3は、実施例1の3次元電磁界数値解析の対象である計算空間を示す斜視図である。空気層の半径は2.7mであり、高さは5mである。アスファルト層の半径を2.7mとし、厚さを0.24mとしてある。計算対象とした土壌層の半径は2.7mとし、深さは2.06mとした。
図3の計算空間より広い空間の3次元電磁界解析は、PCのメモリー容量による制限から、直接数値計算を実行することができないので、遠方領域の電磁界は遠方解近似を導入して計算する。
遠方解近似計算によって求めた2次元電磁界放射パターンを図4に示してある。
【0032】
図5には、φ=0°及びφ=180°面内電界強度(絶対値)のθ依存性を示した。電界強度は直線スケール表示した。主ローブ方位角は23.0度。主ローブ半値幅(3dB)は26.5度である。周波数は430MHz、モデル誘電特性はMMIとした。3次元電磁界放射パターンは図5のパターンをz軸の周りに回転して得られる逆円錐形状となる。
鉄蓋(直径D=82cm)周辺のドーナツ状波源から電波が放射され、波源の実効的直径と波長が同等の大きさなので(自由空間波長λ=69.8cm,D/λ=1.17)、1個の放射ローブ(主ローブのみ)が形成される。放射エネルギーの大部分は、コンクリート壁と土壌層に吸収される。これを抑制し、地上への放射効率を高める目的で、図1と図4に示したように、金属反射板を導入する。反射板の半径は、大きいほど有効であるが実装上小さいことが望まれるので、両者を勘案して、1/4波長程度とする。数値計算結果によると、この例の場合、アンテナから放射された電力の約16%が地上空間へ放射されている。
【0033】
図5の放射指向性パターンから、地表上空間の各観測点における電界強度を求めることができる。地表からの高さh=1.5mとh=3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)分布を図6A及び図6Bに示す。この計算では、送信機出力を10mWと仮定した。
各図においてrはマンホール蓋中心からの水平距離を示している。
図6の結果から、(電界強度)>(主ローブ半値)を満たす安定接続領域は、
h=1.5mで
(電界強度)>51.9mV/m,0.25<r<1.5m
h=3.0mで
(電界強度)>28.8mV/m,0.5<r<2.8m

(電界強度)>10mV/mを満たす受信用アンテナ設置推奨領域は、
h=1.5mで、0.25<r<3.7m
h=3.0mで、0.25<r<5.0m

(電界強度)>1mV/mを満たす実用的受信限界領域は、
h=1.5mで、0.25<r<5.0m
h=3.0mで、0.25<r<5.0m
となっている。
通常使用されている高感度受信機(感度:1μV)と標準ダイポールアンテナを組み合わせた受信装置で、受信機入力端子電圧を1μVとするために必要な電界強度は、約35μV/mと推計できる。ここでは、便宜的に、[安定接続領域]を(電界強度)>(主ローブ半値) 、[受信用アンテナ設置推奨領域]を(電界強度)>10mV/m、[実用的受信限界領域]を(電界強度)>1mV/mと定め、対応するx軸上のrの範囲を示した。結局、実施例1では、マンホール蓋中心から半径5m以内、高さ3m程度以下の領域内のほぼ全域(中心軸上の狭い領域を除く。)に外部受信機用アンテナを配置することによって、マンホール内外の無線接続が確立できる。さらに、主ローブ領域内に外部受信機用アンテナを配置すれば、安定した無線接続を確保できる。
【0034】
(実験による数値計算法の検証)430MHzにおいて実験を行い、数値計算法の妥当性を検証した。実験では、放射電界の垂直成分(z成分)を測定した。結果の一例を図7に示す。図7は、本発明による埋設無線装置の第1の実施例の地上の電界分布の実測値と計算結果を比較して示したグラフである。
測定には、感度(最小受信機入力端電圧)1μVの測定器を使用した。
直接数値計算値、遠方近似計算値は測定値に比べてやや大きめとなったが、分布形状は一致している。数値計算法の妥当性が実証された。
【0035】
(他の周波数における無線接続の可能性の検討)前述の実施例で示した計算と迅速を行なった周波数以外に使用を想定した周波数868MHz,915MHz,1500MHz,1900MHz,2400MHzの中から、915MHz,1500MHz,2400MHzにおける放射指向性パターン及び高さh=3.0mの直線に沿った電界強度分布を計算した結果を以下に示す。
【0036】
(実施例2)
前述の実施例1とは使用周波数を変えた実施例2について説明する。
図8は、本発明による埋設無線装置の第2の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフ、図9は、同実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
(実施例2のデータ)
マンホール :典型的な上水道マンホール(図1)
マンホール蓋直径:82cm
周波数 :915MHz(自由空間波長:λ=32.79cm)
蓋の大きさ指標 :D/λ=2.50
誘電特性 :MMI
土(粘土質、水分含有率13.7%)ε/ε0 =20, tanδ=0.15
コンクリート ε/ε0 =7.0, tanδ=0.12
アスファルト ε/ε0 =3.11, tanδ=0.025
アンテナ位置 :マンホール中心軸上
【0037】
図8は、915MHzにおけるφ=0度及びφ=180度面内放射指向性パターンで主ローブ方位角12.0度、主ローブ半値幅11.5度である。また、2つのサイドローブがある。
図9は、高さh=3.0mの直線に沿った915MHz電界強度(絶対値)分布を示し、この計算では、送信機出力を10mWと仮定した。
図9の結果から、h=3.0mで
(電界強度)>46.7mV/m,0.25<r<1.2m:安定接続領域
(電界強度)>10mV/m,0.25<r<3.9m:受信用アンテナ設置推奨領域
(電界強度)>1mV/m, 0.25<r<5.0m:実用的受信限界領域
となっている。
(h=3.0m,r=1.5m)付近(θ=29度付近) に電界強度分布にディップがあるが、電界強度=19mV/m程度であり、無線接続を保持するに十分な強度である。
【0038】
実施例2では、蓋の大きさの指標がD/λ=2.50と1を大きく超えるので、主ローブ方位角(12度)及び主ローブ半値幅(11.5度)と小さくなり、サイドローブ(副ローブ)を生じた。その結果、観測点位置の僅かな変化に応じて電界強度が大きく変動するので好ましい放射特性とは言えない。この点を改良するための手法として、マンホール蓋の辺縁部に近くアンテナを設置する方法が有効である。実施例3及び実施例4で、その有効性を示す。
【0039】
(実施例3)
前述の実施例2の実施例を変形した実施例3について説明する。
図10は、本発明による埋設無線装置の第3の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフであり、図11は、同実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
(実施例3のデータ)
マンホール :典型的な上水道マンホール(図1)
マンホール蓋直径:82cm
周波数 :1500MHz(自由空間波長:λ=20.0cm)
蓋の大きさ指標 :D/λ=4.1
誘電特性 :MMI
土(粘土質、水分含有率13.7%)ε/ε0 =20, tan δ=0.14
コンクリート ε/ε0 =7.0, tan δ=0.12
アスファルト ε/ε0 =3.07,tan δ=0.024
アンテナ位置 :(x=−18.8cm,y=0)垂直線上で
アンテナ中心線―マンホール蓋辺縁間距離=22.1cm
図10は、1500MHzにおけるφ=0度及びφ=180度面内放射指向性パターンを示す。アンテナ中心軸がx軸の負方向18.8cmの位置にあるため、3次元電界放射パターンは軸対称ではなく、放射電磁界強度はx軸の正方向で弱く、負方向で強くなる。主ローブ方位角は(θ=−65.0°,φ=180°)である。φ=180°面内の主ローブ半値幅は28.2度と広い。φ=0°方向にも放射ローブが形成されるが、φ=180°方向に形成される主ローブを利用するほうが有利である。
【0040】
図11は、φ=180°面内の高さh=3.0mの直線に沿った放射電界強度分布を示している。
図11の結果から、h=3.0mで
(電界強度)>33.3mV/m,2.5<r<5.0m:安定接続領域
(電界強度)>10mV/m,0.25<r<1.2m,1.8<r<5.0m:受信用アンテナ設置推奨領域
(電界強度)>1mV/m, 0.25<r<5.0m:実用的受信限界領域
となっている。
実施例3では、蓋の大きさの指標がD/λ=4.1と1を大きく超える。この条件のもとでアンテナをマンホール蓋中心軸上に置くと、複数のサイドローブが生じ、観測点位置の僅かな変化に応じて電界強度が大きく変動するので好ましくない。
この点を改良するため、マンホール蓋の辺縁部の近くにアンテナを設置した。その結果、図11に示したように、rの広い範囲で電界強度が10mV/mを超える電界分布となった。また、主ローブ方位角が−65度(仰角25度)と地表面に近づいた。
【0041】
(実施例4)
図12は、本発明による埋設無線装置の第4の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフであり、図13は、同実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
(実施例4のデータ)
マンホール :典型的な上水道マンホール(図1)
マンホール蓋直径:82cm
周波数 :2400MHz(自由空間波長:λ=12.5cm)
蓋の大きさ指標 :D/λ=6.56
誘電特性 :MMI
土(粘土質、水分含有率13.7%)ε/ε0 =20, tanδ=0.13
コンクリート ε/ε0 =7.0, tanδ=0.12
アスファルト ε/ε0 =3.07, tanδ=0.022
アンテナ位置 :(x=−22.0cm,y=0)垂直線上。
アンテナ中心線―マンホール蓋辺縁間距離=19.0cm
【0042】
図12は、2400MHzにおけるφ=0度及びφ=180度面内放射指向性パターンを示す。アンテナ中心軸がx軸の負方向22.0cmの位置にあるため、3次元電界放射パターンは軸対称ではなく、放射電磁界強度はx軸の正方向で弱く、負方向で強くなる。主ローブ方位角は(θ=−69.0°,φ=180°)である。φ=180°面内の主ローブ半値幅は22.9度と広い。θ=0°方向にも弱い放射ローブが形成されるが、φ=180°方向に形成される主ローブを利用する。
【0043】
図13は、φ=180°面内の高さh=3.0mの直線に沿った放射電界強度分布を示す。図13の結果から、h=3.0mで
(電界強度)>40.2mV/m,0.6<r<2.2m,2.9<r<5.0m:安定接続領域
(電界強度)>10mV/m,0.25<r<5.0m:受信用アンテナ設置推奨領域
(電界強度)> 1mV/m,0.25<r<5.0m:実用的受信限界領域
となっている。
【0044】
実施例4では、蓋の大きさの指標がD/λ=6.56と1を大きく超える。そのため、マンホール蓋の辺縁部の近くにアンテナを配置した。その結果、図13に示したように、rの広い範囲で電界強度が10mV/mを超える電界分布となった。また、主ローブ方位角が−69度(仰角21度)と地表面に近づいた。
実施例3と実施例4に対するシミュレーション結果は、波長に比べてマンホール蓋が大きい場合、即ち、D/λが1を大きく超える場合に、マンホール蓋の辺縁部の近くにアンテナを配置する方法が有効であることを示している。また、2400MHz程度の高い周波数まで、本発明の技術が利用できることを示している。
【0045】
(異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響の検討)
次に異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響を実施例1〜4について検討した結果について説明する。モデルの誘電特性をMMI, MMII,MMIIIと仮定して、水平距離rに対する電界強度分布を計算した。結果を図14〜17に示す。
図14は、実施例1における異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響を示す。
周波数:430MHz,観測点の高さ:h=3.0m。
図15は、実施例2における異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響を示す。
周波数:915MHz,観測点の高さ:h=3.0m。
図16は、実施例3における異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響を示す。
周波数:1500MHz,観測点の高さ:h=3.0m。
図17は、実施例4における異なった誘電特性が電界強度分布に与える影響を示す。
周波数:2400MHz,観測点の高さ:h=3.0m。
【0046】
表1〜表3及び図14〜図17から、次の結論を導くことができる。
(1)MMIとMMIIは土壌が異なるが、アスファルトは同一である。上部空間への電波放射特性は殆ど同じである。
(2)MMIIIとMMIは土壌が同一であるが、アスファルトが異なる。MMIIIのアスファルトは比誘電率がやや低く、誘電損失が小さい。その結果、他のモデルに比べて上部空間への電波放射がやや強く、電界強度の変動幅がやや大きくなる。
(3)電波放射特性に大きな差異はない。
(4)実施例1〜4で、3モデルとも放射電界強度は、高さh=3.0mの直線に沿って、0.25<r<5.0mの範囲で実用的受信限界1mV/mを越えている。
【0047】
以上詳しく説明した実施例について、本発明の範囲内で種々の変形を施すことができる。蓋が円形でない場合においても、適宜な実効径を用いることにより、本発明の実施例の特性から放射電界を類推できる。また地上から地下への情報の伝送も当然可能であり、本発明の範囲を逸脱するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明による埋設無線装置によれば、現存するマンホール等での地下地上通信システムにおいて、地下の構造に殆ど手を加えることなく地下地上通信システムを容易に実現でき、確実な通信が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1A】本発明による埋設無線装置を設置した典型的な上水道マンホールの概略図である。
【図1B】前記埋設無線装置の構造の一部を拡大して示した拡大断面図である。
【図2】本発明による埋設無線装置の解析および実験に用いる座標系を示す斜視図である。
【図3】実施例1の3次元電磁界数値解析の対象である計算空間を示す斜視図である。
【図4】実施例1におけるxz面内の電界(絶対値)分布のスナップショットを示す説明図である。
【図5】本発明による埋設無線装置の第1の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフである。
【図6A】本発明による埋設無線装置の第1の実施例の地表から1.5mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
【図6B】本発明による埋設無線装置の第1の実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
【図7】本発明による埋設無線装置の第1の実施例の地上の電界分布の実測値と計算結果を比較して示したグラフである。
【図8】本発明による埋設無線装置の第2の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフである。
【図9】本発明による埋設無線装置の第2の実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
【図10】本発明による埋設無線装置の第3の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフである。
【図11】本発明による埋設無線装置の第3の実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
【図12】本発明による埋設無線装置の第4の実施例のxz平面における電波の指向特性の例を示すグラフである。
【図13】本発明による埋設無線装置の第4の実施例の地表から3.0mの線に沿った電界強度(絶対値)の分布を示すグラフである。
【図14】本発明による埋設無線装置の第1の実施例で地表面の誘電特性が異なった場合に電界強度分布に及ぼす影響を周波数が430MHzの場合について示したグラフである。
【図15】本発明による埋設無線装置の第2の実施例で地表面の誘電特性が異なった場合に電界強度分布に及ぼす影響を周波数が915MHzの場合について示したグラフである。
【図16】本発明による埋設無線装置の第3の実施例で地表面の誘電特性が異なった場合に電界強度分布に及ぼす影響を周波数が1500MHzの場合について示したグラフである。
【図17】本発明による埋設無線装置の第4の実施例で地表面の誘電特性が異なった場合に電界強度分布に及ぼす影響を周波数が2400MHzの場合について示したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 マンホール鉄蓋
1a 鉄蓋本体
1b 受け環
2 アスファルト層
3 コンクリート壁
4 土壌(土層)
5 無線装置
5a アンテナ
5b 反射板
5c 無線機ケース
5d 処理装置
6 水道管空気弁
7 送水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中空間,前記地中空間の金属性蓋,および前記蓋を取り囲む電波透過性構造材料よりなる環状領域を含む放射面とからなる地下空間構造と、
前記地中空間内に前記蓋と離れて配置された地下アンテナ,前記アンテナに接続された無線装置を含む地下無線装置と、
地上アンテナ,前記アンテナに接続された無線装置を含む地上無線装置と、
からなる埋設無線装置であって、
前記地下アンテナと前記地上アンテナは前記環状領域を含む放射面を介して接続されるように構成されている埋設無線装置。
【請求項2】
前記蓋の径を(D)、無線装置の搬送波の波長を(λ)とするとき、(D)と使用波長(λ)の比(D/λ)が略同等又はそれ以上であり、地表に滲み出し放射される電波の仰角は前記比と前記蓋に対する地下アンテナの位置により決定される請求項1記載の埋設無線装置。
【請求項3】
前記地表に滲み出た電波は前記蓋を取り囲む電波透過性構造材料よりなる環状領域表面を含む放射面に分布する等価的波源を形成し、地上の放射電波の分布は前記等価的波源からの放射電波の合成電波により規定される請求項2記載の埋設無線装置。
【請求項4】
前記地下空間構造の放射面を形成する層は、前記地中空間の壁面と同等またはそれ以上の電波透過性を持つ材料層である請求項1記載の埋設無線装置。
【請求項5】
前記地下空間構造の放射面を形成する層は、防水層により形成されている請求項4記載の埋設無線装置。
【請求項6】
前記地下空間構造の埋設構造の表面環状部はアスファルト層であり、前記壁面はコンクリートであり、前記壁面の外は設置場所の土壌である請求項1記載の埋設無線装置。
【請求項7】
前記地下アンテナは下方へ向かう1次放射を抑制した構造のアンテナである請求項1記載の埋設無線装置。
【請求項8】
前記地下アンテナは、下面に反射板を備えるλ/4アンテナであり、前記地中空間で位置を選択して設定されたものである請求項7記載の埋設無線装置。
【請求項9】
前記地中空間の蓋の外形が、矩形を含む円以外の形状であるとき前記径(D)を
矩形の短辺の長さまたは楕円の短径に相当する実効径とする請求項1〜8記載の埋設無線装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−43280(P2007−43280A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222675(P2005−222675)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(594088341)エネジン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】