説明

基材を被覆する装置および方法

本発明は、物理的蒸着を利用して基材を被覆する装置であって、コイル中で変動電流を用いて、ある量の導電性材料(10)を空中浮揚状態に維持し、かつ該材料を加熱および蒸発させるためのコイル(1)が配置された真空チャンバを備えてなり、該コイルを空中浮揚された材料から隔離するための手段(3)が該コイル中に配置されている、装置に関する。本発明によれば、該装置は、該隔離手段が、非導電性材料製の容器(2)の一部であり、該容器が、蒸発した導電性材料を被覆されるべき該基材に導くための一個以上の開口部(5)を有することを特徴とする。本発明は、物理的蒸着を利用して基材を被覆する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理的蒸着を利用して基材を被覆する装置であって、コイル中で変動電流を用いて、ある量の導電性材料を空中浮揚状態に維持し、かつ該材料を加熱および蒸発させるためのコイルが配置されたチャンバを備えてなり、該コイルを空中浮揚された材料から隔離するための手段が該コイル中に配置されている、装置に関する。本発明は、物理的蒸着を利用して基材を被覆する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
導電性材料の空中浮揚および蒸発は、国際公開第03/071000号パンフレットから公知である。ここでは、真空チャンバ中で気相から基材上に凝縮させた導電性材料の層で基材を被覆する技術が記載されている。ある量の導電性材料を、様々な電流を供給するコイル上で浮揚状態に維持する。この電流により、コイル中に交番電磁界が発生する。電磁界は、上向きの力を導電性材料に作用させる。電流は、空中浮揚した導電性材料を加熱するための電気エネルギーも供給するので、導電性材料は融解し、最終的に蒸発するが、導電性材料の一部は融解せず、昇華する。コイルと空中浮揚した材料との間には電気的隔離手段、例えばチューブまたはダクト、が存在し、コイルの巻線間のアーク発生を阻止し、コイルおよび真空チャンバの汚染を防止する。発生した蒸気は、ダクトの末端を通して放出され、基材の被覆に使用される。
【0003】
上記の装置には、基材上の被覆層を制御するのが困難であるという欠点がある。特に、真空チャンバを通過するストリップを連続的に被覆することに該装置を使用する場合、一様な厚さおよび組成を有する被覆を該ストリップの幅全体にわたって施すのが困難である。
【0004】
この欠点を克服するために、国際公開第02/06558号パンフレットには、真空チャンバ中でストリップを搬送することができ、閉塞条件下で蒸気が堆積されるように一つ以上の制限部を有するダクトにより、蒸気をストリップに搬送することができる、真空チャンバが提供される。この文献には、2種類の蒸気を同時に堆積させる方法が記載されているが、この方法は、1種類の蒸気のみにも使用することができる。この方法では、制限部に複数の開口部を使用し、ダクトが十分に広い場合に、一様な被覆をストリップ上に施すことができる。
【0005】
しかし、この方法を使用して施された被覆には、基材に対する被覆の密着性が最適ではないという欠点がある。もう一つの欠点は、被覆の密度が最適ではないことである。このために、被覆された基材を別の処理工程、例えばストリップ用の圧延、にかける必要がある。
【発明の具体的説明】
【0006】
本発明の目的は、物理的蒸着を用いて基材を被覆し、改良された被覆を基材上に施すことができる装置および方法を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、物理的蒸着を用いて基材を被覆し、密着性および密度を高くした被覆材料の層を基材上に製造することができる装置および方法を提供することにある。
【0008】
これらの目的の一つ以上は、物理的蒸着を利用して基材を被覆する装置であって、コイル中で変動電流を用いて、ある量の導電性材料を空中浮揚状態に維持し、かつ該材料を加熱および蒸発させるためのコイルが配置された真空チャンバを備えてなり、該コイルを空中浮揚された材料から隔離するための手段が該コイル中に配置され、該隔離手段が非導電性材料製造の容器の一部であり、該容器が蒸発した導電性材料を被覆されるべき該基材に導くための一個以上の開口部を有する、装置により達成される。
【0009】
この装置により、真空チャンバ中で、容器内側の圧力が容器外側の圧力より高くなるように、蒸発した材料を封じ込めることができる。驚くべきことに、容器内側の高圧により、容器中に、蒸発した材料からなり、部分的にイオン化したガス、すなわち原子、イオン、ラジカル、および電子を含むガスである、プラズマを発生させることができることを知見した。プラズマは、国際公開第03/071000号パンフレットに記載されているように、変動電流の周波数、例えば50kHz以上の周波数で発生し、これは、プラズマを発生するための公知の周波数よりはるかに低い。プラズマの一部は開口部を通して導かれ、これらの開口部の前に、被覆されるべき基材が配置されている。イオンが帯電しているために、被覆の基材に対する密着性がより優れており、被覆の密度もより高い。イオンが導電性の壁に接触すると、そのイオンは原子になるので、容器は非導電性材料製である必要がある。
【0010】
好ましくは、容器は両端に密封部を有するダクトの形態を有し、密封部には一個以上の開口部が存在する。これによって、簡便な型の容器が得られ、使用中にプラズマが容器の中に封じ込められ、開口部を通して部分的に放出され、基材を被覆する。
【0011】
好ましい実施態様によれば、容器は、一端に密封部を有し、他端に箱状の突出部を有するダクトの形態を有し、突出部は、複数の開口部を有する。この好ましい実施態様は、箱状突出部が、実質的に被覆されるべき基材の形態を有する表面を有して、表面と基材の間隔を等しくすることができるので、ストリップを被覆するのに特に好適である。これによって、基材上に一様な被覆が得られる。
【0012】
好ましくは、突出部は、被覆されるべき基材と少なくとも同じ幅を有する。これは、ストリップ状材料、すなわち少なくとも長さが数百メートルあり、真空チャンバを通して搬送される材料、を被覆する時に、特に重要である。ストリップは、紙、金属、プラスチック、または他の材料から製造することができる。本実施態様の容器で、ストリップ状材料は、その全幅にわたって被覆されることができる。
【0013】
好ましくは、開口部は、穴またはスリットの形態を有する。これによって、プラズマを効果的に放出することができる。
【0014】
好ましい実施態様によれば、容器は、容器を加熱するための加熱手段を備えている。蒸気およびプラズマが低温の壁に対して凝縮するので、容器は加熱されるべきである。
【0015】
好ましくは、容器は、導電性材料、例えばモリブデンまたはタングステンの抵抗線、から製造された加熱素子を備えている。これによって、非導電性の容器を加熱するための、比較的簡便な加熱素子が得られる。
【0016】
好ましい実施態様によれば、容器が、セラミック材料、例えば窒化ホウ素または窒化ケイ素、から製造されている。セラミック材料は、装置がさらされる条件、例えば高温および高い熱衝撃および応力、に非常に好適である。その上、セラミック材料は、熱伝導率が高い。
【0017】
本発明の別の態様によれば、物理的蒸着を利用して基材を被覆する方法であって、真空中で、ある量の導電性材料を空中浮揚状態に維持し、かつその材料を加熱および蒸発させるためのコイルを用い、ここで、変動電流が該コイル中に存在し、隔離手段が該コイルと空中浮揚された材料との間に配置され、該隔離手段が、非導電性材料製の加熱された容器の一部であり、該容器が蒸発した導電性材料を被覆されるべき基材に導くための一個以上の開口部を有し、該蒸発した材料が該容器中でプラズマを形成し、該プラズマが該容器中の該開口部を通して放出され、該基材を被覆する、方法を提供する。
【0018】
この方法は、容器中でプラズマを形成し、上記の利点を有する。
【0019】
好ましくは、容器を、空中浮揚される材料の温度以上に加熱する。これによって、蒸気またはプラズマは容器の壁上に凝縮できない。
【0020】
好ましい実施態様によれば、容器中にあるプラズマの圧力は10−1〜10−5mbar、好ましくは10−2〜10−4mbarである。10−5mbarを超える、好ましくは10−4mbarを超える圧力で、プラズマが容器中で発生し、このプラズマは、圧力が高くなり過ぎない限り、つまり、10−1mbarを超えない、好ましくは10−2mbarを超えない限り、維持される。この圧力は、蒸発させる導電性材料の種類、空中浮揚する導電性材料の温度、ならびに容器および容器中の開口部のサイズによって左右されることは明らかであろう。その上、容器中の開口部を通してプラズマが放出されることができるように、真空チャンバ中にある容器の外側の圧力は、プラズマの圧力より低い必要があることは明らかであろう。好ましくは、真空チャンバ中の圧力は、真空チャンバ中の圧力の10分の1〜1000分の1,より好ましくは約100分の1である。
【0021】
一実施態様によれば、被覆される基材が、容器に対して連続的に搬送されるストリップである。本発明の方法により、緻密で、良く密着した被覆を有するストリップを得ることができる。
【0022】
好ましい実施態様によれば、電位勾配を、イオンが基材に向かって加速されるように、基材と容器との間で維持する。この電位勾配により、イオンが基材の表面に衝突する時に、イオンは高い運動エネルギーを有する。この高い運動エネルギーにより、イオンが基材または基材上にすでにある被覆に密着して、基材上に非常に緻密で、非常に良く密着した被覆を形成するか、またはイオンのエネルギーが高すぎるために、基材の表面上でイオンが跳ね返される。しかし、後者の場合、イオンのエネルギーの一部が基材上の被覆により吸収されて、被覆がさらに圧縮される。基材と容器との間の電位は10〜40ボルトであることができる。
【0023】
添付の図面を参照しながら本発明を説明する。
【0024】
図1は、本発明の装置の好ましい実施態様を示す。真空チャンバ(図示せず)中にコイル1を配置する。容器2は、コイル1中に配置されたダクト状部分3を有し、その中で蒸気が形成される。この部分3は、その下端部が閉鎖され、その上端部が、被覆されるべき基材に適合するように設計された箱状部分4に接続されている。部分4の表面には、開口部5が存在する。
【0025】
図1に示す実施態様で、容器2は、容器2の上を短い間隔で搬送されるストリップ(図示せず)を被覆するのに好適である。この理由から、ストリップの全幅を被覆できるように、容器2の部分4は細長い。
【0026】
図2は、図1に示す容器2の他の断面A−Aを示す。この断面図は、箱状部分4を示し、箱7の中にチューブ6が挿入され、電気コイルまたはワイヤ8がチューブ6と箱7との間に配置されている。
【0027】
この装置を作動させる際、導電性材料を容器2のダクト状部分3に、供給装置(図示せず)を使用して導入する。コイル1の中で、変動電流が生じ、交番電磁界が発生する。この電磁界により、導電性材料がコイルの上で空中浮揚状態に維持され、同時に、導電性材料が加熱される。導電性材料は、ほとんどの場合、融解して滴10を形成し、蒸発するが、融解せずに昇華する場合もある。
【0028】
容器2は、複数の開口部5を除いて、閉じているので、滴10の蒸発により、容器内側の圧力は、周囲の真空チャンバにおける圧力よりも高くなる。
【0029】
驚くべきことに、これによって、容器の内側でプラズマを発生させ、容器自体の材料として、電気的に隔離する材料または非導電性材料を使用することにより、このプラズマを容器の内側に維持することができる。容器中のプラズマは、圧力が10−1〜10−5mbar、好ましくは10−2〜10−4mbarである。10−5mbarを超える、好ましくは10−4mbarを超える圧力で、プラズマが容器中で発生し、このプラズマは、圧力が高くなり過ぎない限り、つまり、10−1mbarを超えない、好ましくは10−2mbarを超えない限り、維持されることができる。プラズマは、国際公開第03/071000号パンフレットに記載されているように、変動電流の周波数で、例えば50kHz以上の周波数で発生し、これは、プラズマを発生するための公知の周波数よりはるかに低い。もちろん、開口部5を通してプラズマが放出されることができるように、周囲の真空チャンバ中における圧力は、容器中の圧力より低い必要がある。
【0030】
その上、容器は、蒸気/プラズマの温度以上の温度に加熱し、容器の壁上に蒸気/プラズマが凝縮するのを防止する必要がある。これを行うために、容器壁の内側に電気コイルまたはワイヤ8を使用する。容器は、耐熱性および耐熱衝撃性であり、高い熱伝導率を有する必要があり、セラミックは非導電性であるので、通常はセラミック材料、例えば窒化ホウ素または窒化ケイ素、を使用するが、他のセラミック、例えば酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、臭化ハフニウム、または臭化ジルコニウムも使用可能である。
【0031】
容器中にある開口部は、どのような形でもよいが、通常は丸い穴またはスリットである。開口部の総表面積は、容器の容積および被覆速度によって左右される。開口部同士の間隔も可変であり、穴が存在する容器の表面と被覆されるべき基材との間隔によって左右されるであろう。通常、容器から穴を通して放出されるプラズマの形態は火炎状である。
【0032】
プラズマ中のイオンは帯電しているので、イオンは基材に効果的に密着し、緻密な被覆を形成することができる。
【0033】
被覆の密着性および密度は、容器と、被覆されるべき基材との間に電位差を印加することにより、さらに改良することができる。この電位差により、イオンは基材に向かって加速され、表面に高速度で衝突する。これによって、密度が高く、非常に良く密着した被覆が形成される。好適な電位差は10〜40ボルトである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の装置の一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図2】図1の装置の他の断面A−Aを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的蒸着を利用して基材を被覆する装置であって、コイル中で変動電流を用いて、ある量の導電性材料を空中浮揚状態に維持し、かつ前記材料を加熱および蒸発させるためのコイルが配置された真空チャンバを備えてなり、前記コイルを空中浮揚された材料から隔離するための手段が前記コイル中に配置され、
前記隔離手段が非導電性材料製の容器の一部であり、前記容器が蒸発した導電性材料を被覆されるべき前記基材に導くための一個以上の開口部を有する、装置。
【請求項2】
前記容器が、両端に密封部を有するダクトの形態を有し、一個以上の開口部が密封部に存在する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記容器が、一端に密封部を有し、他端に箱状の突出部を有するダクトの形態を有し、前記突出部が複数の開口部を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記突出部が、被覆されるべき前記基材と少なくとも同じ幅を有する、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記開口部が、穴またはスリットの形態を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記容器が、前記容器を加熱するための加熱手段を備えている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記容器が、導電性材料、例えばモリブデンまたはタングステンの抵抗線、から製造された加熱素子を備えている、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記容器が、セラミック材料、例えば窒化ホウ素または窒化ケイ素、から製造されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
物理的蒸着を利用して基材を被覆する方法であって、真空中で、ある量の導電性材料を空中浮揚状態に維持し、かつ前記材料を加熱および蒸発させるためのコイルを用い、ここで、変動電流が前記コイル中に存在し、隔離手段が前記コイルと空中浮揚された材料との間に配置され、
前記隔離手段が、非導電性材料製の加熱された容器の一部であり、前記容器が蒸発した導電性材料を被覆されるべき前記基材に導くための一個以上の開口部を有し、前記蒸発した材料が前記容器の内側でプラズマを形成し、前記プラズマが前記容器中の前記開口部を通して放出され、前記基材を被覆する、方法。
【請求項10】
前記容器が、前記空中浮揚された材料の温度以上に加熱される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記容器中にある前記プラズマの圧力が、10−1〜10−5mbar、好ましくは10−2〜10−4mbarである、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆される基材が、前記容器に対して連続的に搬送されるストリップである、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
電位勾配が、イオンが前記基材に向かって加速されるように、前記基材と前記容器との間で維持される、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−542537(P2008−542537A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513954(P2008−513954)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003924
【国際公開番号】WO2006/128532
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(505008419)コラス、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ (15)
【氏名又は名称原語表記】CORUS TECHNOLOGY BV
【Fターム(参考)】