基材上の塗布層の乾燥速度推定方法、及び、基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法
【課題】塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合に対して適用できる基材上の塗布層の乾燥速度推定方法及びプログラムと、この推定方法から得られたデータを用いて乾燥速度分布を得る方法及びプログラムと、これらのプログラムを記憶した記録媒体とを提供する。
【解決手段】基材上の塗布層の表面に熱風加熱などを行った場合に、塗布層の表面温度などから、塗布層表面の境膜伝熱係数hs、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1、0〜t秒後における塗布層内の水分の質量変化Δwwを所定の式を用いて求めるとともに、R=(−Δww/Δt)/Aの式を用いて、塗布層の乾燥速度を推定する。
【解決手段】基材上の塗布層の表面に熱風加熱などを行った場合に、塗布層の表面温度などから、塗布層表面の境膜伝熱係数hs、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1、0〜t秒後における塗布層内の水分の質量変化Δwwを所定の式を用いて求めるとともに、R=(−Δww/Δt)/Aの式を用いて、塗布層の乾燥速度を推定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上の塗布層の乾燥速度推定方法、及び、基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上の塗布層の乾燥速度測定法として、質量変化を用いる方法(例えば、下記非特許文献1)と、塗布層(膜)の組成を分析する方法(例えば、下記非特許文献2)とが公知となっている。しかし、非特許文献1のものは、湿り厚み400μm以下,熱風風速3m以上に対する適用例はなく、現在の実用的な乾燥条件から大きく隔たっている場合がある。また、非特許文献2のものは、測定精度に著しく劣る場合があった。これらの欠点を克服する目的で最近、基板及び塗布層の表面温度変化を利用する技術が提案された(例えば、下記非特許文献3)。
【非特許文献1】Okazaki, et al.; Journal of Chemical Engineering of Japan, 7(2), pp99-106(1974))(Gehrmann, D. and W.Kast; Proceedings of 1st. Internatioal Symposium on Drying, pp.239-246, August1978, Montreal, Canada
【非特許文献2】Sullivan, D.A.;Journal of Paint Technology, 47(610), pp.60-67(1975)
【非特許文献3】Kan, D. et al.; Proceeding of International Workshop on Process Intensification in Fluid and Particle Engineering, P326, Oct.2006, Kobe, Japan
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基板及び塗布層の表面温度変化を利用した上記非特許文献3のものは、塗布層内の湿り成分の蒸発エンタルピーの温度依存性と、塗布層内の蒸発蒸気の顕熱とを考慮しておらず、湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合に対して適用することは不適当だと考えられる。
【0004】
そこで、本発明の目的は、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合に対して適用できる基材上の塗布層の乾燥速度推定方法と、この推定方法から得られたデータを用いて乾燥速度分布を得る方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
[1] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(a1)又は下記(a2)を行った場合に、下記式(1)〜(3)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(2)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(3)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(4)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(a1)熱風加熱
(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0006】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、上記(a1)又は上記(a2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0007】
[2] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(b1)又は下記(b2)を行った場合に、下記式(5)〜(7)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(6)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(7)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(8)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(b1)熱風加熱
(b2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0008】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、上記(b1)又は上記(b2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0009】
[3] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った場合に、下記式(9)〜(11)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(10)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(11)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(12)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0010】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0011】
[4] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った場合に、下記式(13)〜(15)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(14)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(15)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(16)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(c1)熱風加熱
(c2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【0012】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合において、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0013】
また、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法においては、(i)塗布層内の湿り成分が複数の場合、(ii)熱風温度などの外部乾燥条件が一定又はステップ的に複数回変化する場合、(iii)回分式(塗布層を表面に形成した基材が静止しているような場合)又は連続方式(例えば、塗布層を表面に形成した複数の基材が、順次、製造工程で流れるように搬送されているような場合)でも、各式におけるパラメータを測定又は計算などより求め、各式に適用することで、基材上の塗布層の乾燥速度を従来と同様若しくはより高い精度で推定することができる。また、厚さが薄い基材を用いていても厚い基材を用いていても、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は適用可能である。また、上記非特許文献1〜3では、乾燥所要時間20分以上の系に対する検討に限られていたが、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法によると、5分以下の短い乾燥所要時間を有する場合に対して適用できるので、有用である。
【0014】
なお、本明細書中においては、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、Tr:伝熱材の上面温度(K)、TrF:乾燥終了後の伝熱材の上面温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Tb:基材の裏面温度(K)、TbF:乾燥終了後の基材の裏面温度(K)、Tm=(Ts+Tb)/2:基材と塗布層との平均温度(K)、Tm0:基材と塗布層との初期平均温度(K)、TmF:基材と塗布層との乾燥終了後の平均温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hs:塗布層表面の境膜伝熱係数、hb:基材裏面の境膜伝熱係数、hr:基材と伝熱材との接触抵抗に由来する伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【0015】
[5] 本発明の基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法は、前記塗布層の表面全体において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布層の乾燥速度推定方法を用いて乾燥速度を推定する乾燥速度推定工程と、前記乾燥速度推定工程で得られた乾燥速度から前記塗布層の乾燥速度分布を得る工程とを有している。
【0016】
上記構成によれば、従来に比べ精度が高く且つ容易に、基材上の塗布層の乾燥速度分布を得ることができる。
【0017】
また、本発明のプログラムは、上記[1]〜[4]の方法又は上記[5]の方法をコンピュータに実行させることができるものである。また、本発明の記録媒体は、この本発明のプログラムのいずれかを記憶しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。
【0019】
図1は、基材1と、基材1の表面に塗布した塗布層2と、基材1の裏面に設けられた断熱材3とを備えている部材における塗布層2の表面に、熱風加熱を行い、放射温度計4で塗布層2の表面の温度を計測している状態を示す概念図である。なお、熱風に赤外線やマイクロ波や高周波などの放射伝熱や金属基材に対する誘導加熱や通電加熱が併用される場合も多いので、これら内部加熱を併用した片面熱風乾燥において基材裏面が完全断熱されている場合を考える。
【0020】
基材1は、厚さが薄い高分子フィルム、紙、ガラス板、金属板等であり、塗布層2は、1種以上の成分を含む水溶液である。塗布層2を表面に有する基材1を湿り材料と呼ぶこともある。断熱材3は、基材1の裏面を断熱しているが、完全に断熱することはできない。しかし、本実施形態では、完全断熱しているものとして扱う。
【0021】
(本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
薄い基材や熱伝導度の大きな基材上の塗布層では内部加熱が併用されても、厚み数mmの薄層においては内部加熱を併用しないときに限って材料温度一様の仮定が近似的に成立する(上記非特許文献3)。図1の塗布層2におけるエネルギー収支を下記式(17)に示す。塗布層の初期表面温度TS0における液状水と固体のもつエンタルピーとを基準として示し、蒸発エンタルピーの温度依存性を考慮した。また、蒸発水蒸気が熱風温度まで上昇する場合を考えた。湿り物質が水の場合、蒸発水蒸気の温度上昇に要するエネルギーは無視されることが多いが、有機溶剤の蒸発エンタルピーは、水の約1/3である。このことから、水の場合でも熱風温度が373Kを大きく越える場合や、湿り物質が有機溶剤の場合、蒸発蒸気の温度上昇に要するエネルギーを考慮すべきである。
【0022】
【数17】
【0023】
ここで、cw、cGwは液状水、水蒸気の定圧比熱容量であり、273K−373K間の平均値はそれぞれ4.18×103(J/(kg・K))、1.88×103(J/(kg・K))である(後述の変形例や他の実施形態などでも同様。)。Tasは熱風温度であり一定値とする。Tsは塗布層表面温度であり、塗布層の表面温度と基材の裏面温度との平均温度Tm=Tsと近似している。Δhw0はTs0での水の蒸発エンタルピーであり、Δhw0=3.177×106−2.47×103Ts0(J/kg−water)で表わされる(後述の第1実施形態の変形例でも同様。)。乾き材料質量基準平均含水率xm=ww/wdである。そして、塗布層2の乾燥終了後には、上記式(17)は、下記式(18)となる。
【0024】
【数18】
【0025】
ここで、QF、TsFは乾燥終了後の発生エネルギー、塗布層表面温度である。しかし、特に厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合には、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。t=0からt1までを一様ではない期間、それ以後を一様の期間とした場合、前者の期間のエンタルピー収支を表す下記式(19)は、上記式(17)をt=0からt1まで積分して得られる。
【0026】
【数19】
【0027】
ここでww0とww1はそれぞれ乾燥開始時とt=t1での水分質量である。一方、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(17)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(20)で与えられる。
【0028】
【数20】
【0029】
ここでwwFは乾燥終了時の水分質量である。全乾燥期間のエンタルピー収支は上記式(18)と上記式(19)との和で与えられる。そして、上記式(18)を変形して得た下記式(2)および上記式(17)を変形して得た下記式(3)と、下記式(4)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。なお、0≧t≧tFのデータとは、具体的には、以下のようにして求めたデータである。すなわち、ww1にΔwwを加えて、t+Δt秒後のww及びRを得る。そして、この得られたwwを用いてさらに次のΔt秒間のΔwwを得る。これをt+Δtのwwに加えることによって、t+2Δt秒後のww及びRを得る。これを繰り返して、0≧t≧tFのデータは求められる。以下の実施形態や変形例においても同様である。
【0030】
【数2】
【数3】
【数4】
【0031】
なお、基材1と塗布層2との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。上記式(1)〜(4)及び(17)〜(20)は、上記非特許文献3の技術に、内部加熱効果と蒸発エンタルピーの温度依存性と蒸発蒸気の顕熱の効果とを加えた場合に対応している。また、熱風温度Tasには、乾燥実験終了後にQF=0として定常材料温度T*sFを実測し、この値を充てる。これは、乾燥実験終了後の熱風温度と乾き材料温度の測定誤差とが熱風から材料への伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。この点を考慮して、上記式(18)〜(20)からhsを求める下記式(1)が得られる。そして、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(4)から乾燥速度Rを得る。
【0032】
【数1】
【0033】
なお、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の片面表面温度を、t=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、内部加熱がないとき、1.21L2/αで与えられる(Crank、 J; The Mathematics of Diffusion、 p.59、 Oxford University Press、 England 1975)。ここで、αは平板の熱拡散率である。したがって、塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1=t’1として近似する。内部加熱効果は一様温度化を促進させるので、この近似は安全側である。
【0034】
(本実施形態における装置の構成)
次に、本発明の第1実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定及び基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法を実行する装置の構成について説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定及び基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法を実行する装置(コンピュータ)のハードウェアの構成を示すブロック図である。図3は、本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定処理のフローチャートである。
【0035】
図1に示すように、コンピュータ100は、本体110と、入力装置であるキーボード111と、モニターなどの表示部112とを有しており、ネットワーク109と接続されている。
【0036】
本体110は、予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うCPU101と、各部などへ送信するための各種制御指令(コマンド)等が格納されているROM102と、CPU101によってROM102又は後述する記憶及び読取部107から呼び出されて各種コマンドなどがセットされるRAM103と、各部を通信可能に接続するシステムバス104と、キーボード111のインターフェースを制御するキーボードコントローラ(KBC)105と、表示部112のインターフェースを制御する表示部112のコントローラ106と、データを記憶できるとともに、記憶したデータを読取れる記憶及び読取部107と、ネットワーク109との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)108とを有している。
【0037】
ネットワーク109には、図1の放射温度計4の計測値を送信できる制御装置(図示せず)などが接続されており、放射温度計の計測値を記憶及び読取部107に記憶させたり、表示部112に表示したりすることができるようになっている。
【0038】
記憶及び読取部107は、例えば、ハードディスクドライブであり、図3に示すフローチャートの処理を実行するプログラムなどがインストールされている。実行時には、RAM103にロードされ、CPU101の制御によって実行される。なお、記憶及び読取部107には、図示していないが、さらに、磁気式ドライブや光学式ドライブなどの他のデバイスが接続されていてもよく、図3に示すフローチャートの処理を実行するプログラムなどが記憶された記録媒体(フロッピー(登録商標)ディスクやCD−ROMなど)からデータを読み取って、記憶及び読取部107にインストールするような構成であってもよい。
【0039】
次に、図3に示すフローチャートの処理について説明する。まず、上記式(1)〜(3)において必要なパラメータの値を入力する(ステップS1)。なお、予め記憶及び読取部107に記録されていた値や、直前に測定された値が自動的に入力されるものであるが、これはキーボード111からの手動入力であってもよい。また、必要なパラメータの値は、上記各非特許文献に記載されている方法や、すでに公知の方法で得ることができる。
【0040】
次に、上記式(1)で得たhsを上記式(2)に代入し、ww1を得る計算を行う(ステップS2)。続いて、上記式(1)で得たhsを上記式(3)に代入し、Δwwを得る計算を行う(ステップS3)。
【0041】
このようにして得たww1及びΔwwを適用して、上記式(4)から塗布層2の乾燥速度を推定する計算を行う(ステップS4)。
【0042】
さらに、塗布層2の他の位置における乾燥速度を推定するかどうかを入力する(ステップS5)。さらに推定する場合には(ステップS5:YES)、ステップS1に戻る。推定しない場合には(ステップS5:NO)、表示部112へ結果(データ)を出力する処理を行い(ステップS6)、終了する。なお、ステップS6においては、結果(データ)を記憶及び読取部107に記憶させて、得られた結果から乾燥速度分布を得る処理を行ってもよい。
【0043】
なお、ステップ5の代わりに、最初から塗布層2の所定箇所を指定しておいて、その部分全てについて、乾燥速度を推定することとしてもよい。また、連続方式で、基材1が搬送されているなら、ステップ5の代わりに、最初から、搬送方向の同じ複数位置について一定時間間隔で計測し、塗布層2の搬送方向についての乾燥速度を連続して推定するように処理することとしてもよい。ただし、この場合、乾燥速度が変われば、最終含水率wwFも変化するので、wwF≒0のときのみ実用的である。
【0044】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材1と、基材1の表面に塗布した塗布層2と、前記基材の裏面に設けられた断熱材3とを備えている部材における塗布層2の表面に、(a1)熱風加熱や、(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱を行った際の、基材1上の塗布層2の乾燥速度を推定できる。
【0045】
また、(i)塗布層2内の湿り成分が複数の場合、(ii)熱風温度などの外部乾燥条件が一定又はステップ的に複数回変化する場合、(iii)回分式(塗布層2を表面に形成した基材1が静止しているような場合)又は連続方式(例えば、塗布層1を表面に形成した複数の基材1が、順次、製造工程で流れるように搬送されているような場合)でも、各式におけるパラメータを測定又は計算などより求め、各式に適用することで、基材1上の塗布層の乾燥速度を従来と同様若しくはより高い精度で推定することができる。また、厚さが薄い基材を用いていても厚い基材を用いていても、本実施形態に係る基材1上の塗布層2の乾燥速度推定方法は適用可能である。また、上記非特許文献1〜3では、乾燥所要時間20分以上の系に対する検討に限られていたが、本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法によると、5分以下の短い乾燥所要時間を有する場合に対して適用できるので、有用である。
【0046】
<第1実施形態の変形例>
次に、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。本変形例は、第1実施形態のように、完全断熱ではなく、熱が基材裏面から伝熱する(不完全断熱を含む)場合を考えたものである。
【0047】
(本変形例に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
熱が基材裏面から伝熱する(不完全断熱を含む)こと(図1の断熱材が伝熱すること、若しくは、図1の断熱材が伝熱材であることを想定していること)を除いては、基本的に第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態と同様に部分について、説明を省略することがある。
【0048】
第1実施形態と同様に、塗布層におけるエネルギー収支を考えると、下記式(21)となる。そして、乾燥終了後には下記式(21)から下記式(22)が成立する。
【0049】
【数21】
【数22】
【0050】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(21)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(23)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(21)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(24)で与えられる。
【0051】
【数23】
【数24】
【0052】
そして、上記式(23)を変形して得た下記式(6)、及び、上記式(21)を変形して得た下記式(7)と、下記式(8)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0053】
【数6】
【数7】
【数8】
【0054】
ここでも第1実施形態と同様、基材1と塗布層2との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。熱風温度Tasは乾燥実験終了後に基材底面を完全断熱しQF=0として定常材料温度T*sFを実測してこの値を充てる.伝熱板上面温度Trには実測値を充てる。なお、上記式(22)、(23)、(24)から、hsを求めるための下記式(5)が得られる.hrはhsを上記式(22)に代入して得る。そして、hr、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(8)から乾燥速度Rを得る。
【0055】
【数5】
【0056】
なお、ここでも、第1実施形態と同様、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の片面表面温度を、t=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、内部加熱がないとき、1.21L2/αで与えられる。ここで、αは平板の熱拡散率である。したがって、塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1=t’1として近似する。内部加熱効果は一様温度化を促進させるので、この近似は安全側である。さらに、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させた場合はt’1=1.21(L/2)2/αとなるため、伝導伝熱でもこの近似は安全側である。
【0057】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(5)、(6)、(7)を順に用いる点が異なっている。
【0058】
上記構成の本変形例によれば、伝熱材或いは不完全な断熱しかできない断熱材が基材1の裏面に設けられていても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、基材21と、基材21の表面に載置された合成ゴム製のリング25と、基材21の表面のリング25内部に塗布した塗布層22と、基材21及びリング25を支持し、基材21及びリング25の側周面にリング状に設けられた断熱材23と、断熱材23を支持する支持板26とを備えている部材における塗布層22の表面及び基材21の裏面に、熱風加熱を行い、放射温度計24a、24bで塗布層22の表面及び基材21の裏面の温度を計測している状態を示す概念図である。したがって、本実施形態は、第1実施形態のように、塗布層表面側のみを熱風加熱するものではなく、基材裏面からも熱風加熱する場合について考えるものである。なお、第1実施形態と同様の部分においては、その説明を省略することがある。
【0060】
基材21は、高分子フィルム、紙、ガラス板、金属板等であり、塗布層22は、1種以上の成分を含む水溶液である。なお、ここでは、塗布層22は、基材21の厚さよりも十分厚いものとなっているが、第1実施形態のように基材と同程度の厚さであってもよい。
【0061】
(本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
本実施形態のような塗布層22の表面及び基材21の裏面の両面を熱風で乾燥する場合は、対流伝熱面積が乾燥面積の2倍となる。両面熱風乾燥におけるエネルギー収支を下記(25)に示す。塗布層表面温度をTs、基材底面温度をTbとし、基材21及び塗布層22の平均温度をTm=(Ts+Tb)/2、蒸発はTsで生じていると近似した。エネルギー収支は、基材21及び塗布層22の初期平均温度Tm0(=Ts0)における液状水と固体のもつエンタルピーを基準として示し、蒸発水蒸気は熱風温度まで上昇する場合を考えた。基材21と塗布層22とは平面を水平に静止しているとする。ここで、Δhw0は、Ts0での水の蒸発エンタルピーであり、Δhw0=3.177×106−2.47×103Tm0(J/kg−water)で表される(後述する変形例でも同様である。)。また、乾燥終了後には、下記式(25)から下記式(26)が成立している。
【0062】
【数25】
【数26】
【0063】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(25)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(27)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(25)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(28)で与えられる。
【0064】
【数27】
【数28】
【0065】
そして、第1実施形態と同様に、上記式(27)を変形して得た下記式(10)と、上記式(28)を変形して得た下記式(11)と、下記式(12)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0066】
【数10】
【数11】
【数12】
【0067】
ここでも第1実施形態と同様、基材21と塗布層22との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。乾燥実験終了後の乾き基材21の底面を断熱して測定した定常材料温度を上方の熱風温度Tas、塗布層22表面を断熱して測定した定常材料温度を下方の熱風温度Tabとみなす。これは乾燥実験終了後の熱風温度と基材21と塗布層22との平均温度の測定誤差とが、熱風から基材21及び塗布層22への伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。なお、上記式(26)、(27)、(28)から、hsを求めるための下記式(9)が得られる.hbはhsを上記式(26)に代入して得る。そして、hb、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(12)から乾燥速度Rを得る。
【0068】
【数9】
【0069】
なお、長い乾燥所要時間を有する塗布層を有する基材や薄層の乾燥実験においても、層厚みが大きく有効熱伝導度の小さな材料を対象とする場合には、短い乾燥所要時間を有する厚みの小さな塗布層を有する基材の場合と同様、乾燥開始直後の塗布層及び基材内の非定常伝熱に伴う塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間に関する検討が必要である。初期温度分布が一様で厚みが2Lの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、第1実施形態と同様、1.21L2/αで与えられる。したがって、第1実施形態と同様、基材21と塗布層22との平均温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1≒t’1で近似できる。
【0070】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(9)、(10)、(11)を順に用いる点が異なっている。
【0071】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層22の表面及び基材21の裏面が同時に熱風で加熱されている場合においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
<第2実施形態の変形例>
次に、第2実施形態の変形例について説明する。第2実施形態においては、熱風加熱のみを考慮したものであったが、本変形例では、熱風加熱に、赤外線やマイクロ波や高周波などの放射伝熱や金属基材に対する誘導加熱や通電加熱を併用する場合を考える。なお、第1実施形態と同様の部分においては、その説明を省略することがある。
【0073】
(本変形例に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
第2実施形態と同様に、エネルギー収支を示すと、下記式(29)のように表される。ここで、Qは放射または誘導・通電による発生エネルギーである。なお、基板と塗布層との平均一様温度を仮定し、塗布層表面温度Tsで近似した。エネルギー収支は、Ts0における液状水と固体のもつエンタルピーを基準として示し、蒸発水蒸気は熱風温度まで上昇する場合を考えた。また、乾燥終了後には、下記式(29)から下記式(30)が成立する。
【0074】
【数29】
【数30】
【0075】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(29)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(31)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(29)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(232)で与えられる。
【0076】
【数31】
【数32】
【0077】
そして、上記式(31)を変形して得た下記式(14)、及び、上記式(32)を変形して得た下記式(15)と、下記式(16)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0078】
【数14】
【数15】
【数16】
【0079】
ここでも第1実施形態と同様、基材と塗布層との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。乾燥実験終了後の乾いた基材と塗布層との底面(基材の裏面)を完全断熱しQF=0として測定した定常材料温度を上方の熱風温度Tas、塗布層の表面を断熱しQF=0として測定した定常材料温度を下方の熱風温度Tabとみなす。これは乾燥実験終了後の熱風温度と塗布層及び基材との温度の測定誤差とが熱風から基材と塗布層とへの伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。なお、上記式(30)、(31)、(32)から、hsを求めるための下記式(5)が得られる.hbはhsを上記式(30)に代入して得る。そして、hb、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(16)から乾燥速度Rを得る。
【0080】
なお、長い乾燥所要時間を要する塗布層を有する基材や薄層の乾燥実験においても、層厚みが大きく有効熱伝導度の小さな材料を対象とする場合には、短い乾燥所要時間を有する厚みの小さな塗布層及び基材の場合と同様、乾燥開始直後の塗布層及び基材内の非定常伝熱に伴う塗布層及び基材の温度一様の仮定が成立しない乾燥期間に関する検討が必要である。初期温度分布が一様で厚みが2Lの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、第1実施形態と同様、1.21L2/αで与えられる。したがって、第1実施形態と同様、基材と塗布層との平均温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1≒t’1で近似できる。内部加熱効果は一様温度化を促進させるのでこの近似は安全側である。
【0081】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(13)、(14)、(15)を順に用いる点が異なっている。
【0082】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層の表面及び基材の裏面が同時に熱風で加熱されている場合だけでなく、内部加熱を行っている場合においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
第1実施形態の方法を用いて、図1と同状態の実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0084】
基材としてのポリエステル製フィルム(厚さ100μm)の表面に、塗布層としてポリビニルアルコール(PVA)水溶液を主成分とした市販合成のり液(初期含水率約7kg−water/kg−PVA)を、直径80mmの円形となるようにプレードコートし(厚さ156μm、246μm、377μmの3種類を用意)、実験試料を3種類用意した。そして、それぞれの試料について、ポリエステル製フィルムの裏面を発泡スチロールで断熱して上面にのみ熱風を流す下記のような対流乾燥実験を実施した。
【0085】
試料表面の温度変化データは、1s毎に放射温度計((株)堀場製作所製 放射温度計IT−550F、分解能0.1K)により自動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後試料上方向から供給した。試料付近での熱風温度は60〜65℃、熱風速度は約2.4m/sだった。乾燥実験終了後の乾き塗布層を有する基材下に1mmφのシース熱電対(Kタイプ)を入れデジタル温度計で測定した温度と放射温度計の測定温度とを比較したところ、放射率を0.99としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。
【0086】
このように実験して得られた結果を、図5の各点として示す。図5からわかるように、150〜320s付近までの表面温度が湿球温度、その後の熱風温度に至るまでの昇温期間が240〜550sまで見られた。このときの蒸発水分量は0.13〜0.31gだった。これらのデータおよび既知のパラメータの値を上記式(1)〜(3)に適用して得られた乾燥曲線を図5の各線として示す。そして、乾燥速度曲線を図6に示す。
【0087】
なお、上記乾燥曲線及び乾燥速度曲線を算出するにあたって、水の比熱容量cw=4180J/(kg・K)、PVAの比熱容量cd=1500J/(kg・K)、ポリエステルフィルムの比熱容量cb=1680J/(kg・K)で定数と近似した。また、前述のように熱風温度Tasは最終材料表面温度TsFと等しいとみなし、基材裏面を完全断熱と近似した。得られた境膜伝熱係数はhs=61〜65W/(m2・K)だった。またこのときの最終材料温度TsF=熱風温度Tas=60.4〜62.5℃だった。得られたhsは風速2.4m/sの垂直流に対して不適当な値ではない。
【0088】
したがって、本実施例の結果から、第1実施形態の効果を実証できたことがわかる。
【0089】
なお、本実施例では厚み100μmポリエステルフィルム基材上に157μm、246μm、377μmの合成のり膜をそれぞれ形成させ乾燥実験を行ったが、ポリエステルフィルム基材及び合成のり膜全体を合成樹脂、水の中で最小のαを示す樹脂で近似すれば、t1≒1.21L2/α=0.7〜2.5sを得る。このときの平均含水率xmは初期含水率とほぼ等しく、この値以後の時刻で乾燥速度曲線が有効である。先行技術では考慮されなかった点のひとつである。ここでα=λ/(cpρ)で定義され、代表物質に対する概略値を以下に示す。なお、後述する実施例においても、同様である。
【0090】
水(α=1.4×10−7m2/s、λ=0.6W/(m・K)、cp=4200J/(kg・K)、ρ=1000kg/m3)、アクリル樹脂(α=1.1×10−7m2/s、λ=0.2W/(m・K)、cp=1500J/(kg・K)、ρ=1200kg/m3)、ガラス(α=3.4×10−7m2/s、λ=0.6W/(m・K)、cp=700J/(kg・K)、ρ=2500kg/m3)、ガラス微粒子充填層(α=4.4×10−7m2/s、λ=0.2W/(m・K)、cp=350J/(kg・K)、ρ=1300kg/m3)、鉄(α=2.5×10−5m2/s、λ=80W/(m・K)、cp=400J/(kg・K)、ρ=7900kg/m3)、紙(α=5.6×10−8m2/s、λ=0.06W/(m・K)、cp=1200J/(kg・K)、ρ=900kg/m3)
【0091】
(実施例2)
次に、第2実施形態の方法を用いて、図4と同状態の実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0092】
ガラス微粒子(粒子径37〜63μm、東京硝子器械(株)製 No.0.05)を蒸留水と混合し、これを塗布層として、基材としてのガラス板(厚さ1.8mm)上に接着した内径66mmの合成ゴム製リング(高さ3.0mm、5.0mmのもの2種類を用意)に、それぞれ所定の初期液相率φ0=0.50(m3−water/m3−void)、空隙率ε=0.39〜0.42(m3−void/m3−layer)となるように充填し、実験試料を2種類用意した。そして、図4と同様、各試料の側面のみを発泡スチロールで断熱して、塗布層表面及び基材裏面に同温熱風を流す両面乾燥実験を実施した。このとき、図4と同様、上述のようにして作製した試料をそれぞれ、直径66mmの円形穴を開けた厚さ3mmの積層木製支持板上に設置して、下記実験を実施した。
【0093】
なお、本実施例では、塗布層の表面側熱風温度Tas=321K(塗布層厚さ5mmの場合)、321K(塗布層厚さ3mmの場合)、基材の裏面側熱風温度Tab=319K(塗布層厚さ5mmの場合)、318K(塗布層厚さ3mmの場合)として実験した。また、上記式(7)で求めたhsは51W/(m2・K)(塗布層厚さ5mmの場合)、51W/(m2・K)(塗布層厚さ3mmの場合)であった。なお、得られたhsは風速2.5m/sの垂直流に対して不適当な値ではない。
【0094】
試料表面の温度変化データとガラス板裏面の温度変化データを1分毎に放射温度計((株)コス製 CT−30、分解能0.1K)により手動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後、試料上下方向から供給した。試料付近での熱風温度は319K〜323K、熱風速度は約2.5m/sであり、上下方向で別個の熱風発生器を用いた。この際、温度変化法で測定した乾燥速度の妥当性を検証する目的で、平均含水率の経時変化データを10分毎に質量変化法で測定した。
【0095】
なお、別途、塗布層の側面と基材の裏面とを断熱した乾き材料層内に1mmφのサーミスタセンサー(佐藤計量器製作所(株)製 MC−T100)を埋め込み、乾燥実験と同条件の熱風下で定常伝熱実験を行い、デジタル温度計(佐藤計量器製作所(株)製 SK−1250MC)で測定した温度と放射温度計の測定温度を比較したところ、放射率を0.91としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。
【0096】
まず、上述のように実験して得られた塗布層(厚さ5mm)の表面及び基材の裏面の2種類の温度データの結果を、図7に示す。図7からわかるように、両温度にはかなりの差が見られ一様材料温度の近似は成立せず、また両温度は1500s付近で交差している。蒸発面積<伝熱面積なので、定率乾燥期間であっても表面温度は湿球温度より高い。そして、材料温度が熱風温度に漸近途中の2500s付近で材料は絶乾となり、その後3000sまで乾き材料の昇温期間が見られ、典型的な非親水性多孔平板の乾燥挙動が得られた。なお、蒸発水分量は3.4gだった。
【0097】
次に、上述のように実験して得られた塗布層(厚さ3mm)の表面及び基材の裏面の2種類の温度データの結果を、図8に示す。図8からわかるように、5mmの場合と同様の結果が得られた。なお、蒸発水分量は2.0gだった。
【0098】
また、上記式(5)、(6)を用いて求めた塗布層厚さ5mmの場合と塗布層厚さ3mmの場合との乾燥曲線を、図7及び図8に実線で示す。なお、上記式(5)、(6)の計算においては、水比熱容量cw=4200J/(kg・K)、乾き材料比熱容量cd=480J/(kg・K)、容器比熱容量cb=800J/(kg・K)で定数と近似した。乾き材料昇温期間のデータを含めない場合の結果である。この扱いは非親水性材料に限定されたものであり、塗布層を有する基材においては一般に乾燥終了まで水分蒸発が継続する。基材裏面側の境膜伝熱係数はhb=32W/(m2・K)(塗布層厚さ5mm)、29W/(m2・K)(塗布層厚さ3mm)となった。また、このときの塗布層の最終表面温度TsF=321K(塗布層厚さ5mm)、320K(塗布層厚さ3mm)、基材の最終裏面温度TbF=320K(塗布層厚さ5mm)、320K(塗布層厚さ3mm)となった。上下面でほぼ同じ風速だったにもかかわらずhbがhsよりも小さな値となったのは、試料を支持するための板厚の影響で境膜厚さが大きくなった結果と考えられる。結果は質量変化法による実測含水率変化を精度良く再現できた。
【0099】
したがって、本実施例の結果から、第2実施形態の効果を実証できたことがわかる。
【0100】
また、本実施例での塗布層厚さ5mmの場合と塗布層厚さ3mmの場合との乾燥速度曲線を、図9、図10に示す。薄い塗布層が塗布された薄い基材に比べて、遥かに厚い材料に対して有効である本実施例が、薄い塗布層が塗布された薄い基材に対しても有効なことは自明である。
【0101】
本実施例では、厚み1.8mmのガラス板上に5mmまたは3mmのガラス粒子スラリー層を形成させ、両面乾燥実験を行ったが、湿り材料全体をガラス、ガラス微粒子充填、水の中で最小のαを示す水で近似すれば、t1≒1.21L2/α=99s(塗布層厚さ5mm)または49s(塗布層厚さ3mm)を得る。このときの平均含水率xmは=0.13(塗布層厚さ5mm、3mm両方)である。したがって、図7及び図8の乾燥速度曲線は、0.13以下のxmで有効である。
【0102】
(実施例3)
次に、第2実施形態の変形例の方法を用いて、図11に示す実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0103】
図11に示すように、ガラス板(厚さ1.8mm)の基材31の表面上に、市販のアクリルエマルジョン水系塗料を厚み約120〜130μmで塗布し、塗布層32を形成し、試料を作製した。なお、厚み約5mmの断熱材36(発泡スチロール板)を試料の支持板とし、これを基材31のサイズにくり貫き、基材31の塗布面が断熱材36上面と一致するよう試料を設置し、上下面に同温熱風を流す両面熱風乾燥実験を下記のように実施した。
【0104】
塗布面とガラス板底面の温度変化データを10〜30s毎に放射温度計((株)堀場製作所製 放射温度計IT−550F、分解能0.1K)により手動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後、試料上下方向から供給した。上下方向で別個の熱風発生器を用いることで、塗布面と基材裏面付近での熱風温度をそれぞれ60℃と40℃または40℃と60℃に設定した。熱風速度は両方向とも約2m/sとした。乾燥実験終了後、基材裏面を断熱材で覆って得た試料表面温度を上面方向熱風温度として、試料表面を覆って得た試料底面温度を下面方向熱風温度として採用した。別途、表面に1mmφの熱電対(Kタイプ)を埋め込んだ断熱材上に乾き試料を置き、乾燥実験と同条件の熱風下で定常伝熱実験を行った。デジタル温度計(佐藤計量器製作所(株)製 SK−1250MC)で測定した温度と放射温度計の測定温度を比較したところ、塗布面では放射率を0.85、ガラス面では0.70としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。なお、このときの塗布層の表面側熱風温度Tas=331K(塗布層の表面への所望熱風温度60℃−基材裏面への所望熱風温度40℃の場合(以下、60℃−40℃とする))、313K(塗布層の表面への所望熱風温度40℃−基材裏面への所望熱風温度60℃の場合(以下、40℃−60℃とする))、底面側熱風温度Tab=312K(60℃−40℃)、333K(40℃−60℃)であった。また、最終塗布層厚みは、塗布層の表面への所望熱風温度60℃−基材裏面への所望熱風温度40℃の場合、塗布層の表面への所望熱風温度40℃−基材裏面への所望熱風温度60℃の場合のどちらも約50μmだった。
【0105】
このように実験して得られた、60℃−40℃の場合の結果を、図12に各点で示す。図12からわかるように、材料予熱期間と定率乾燥期間では塗布面温度>底面温度となったが、減率乾燥期間では一様材料温度の近似が成立した。なお、蒸発水分量は0.24gだった。
【0106】
また、40℃−60℃の場合の結果を、図13に示す。材料予熱期間と定率乾燥期間では塗布面温度<底面温度となったが、減率乾燥期間では一様材料温度の近似が成立した。なお、蒸発水分量は0.27gだった。
【0107】
塗布層と基材とを平均一様温度と近似し、塗布層の表面温度変化のみを用いて、上記式(13)において、Q=0として求めた塗布層の表面側境膜伝熱係数hsは、41W/(m2・K)(60℃−40℃)、34W/(m2・K)(40℃−60℃)、底面側境膜伝熱係数hbは、46W/(m2・K)(60℃−40℃)、34W/(m2・K)(40℃−60℃)であった。
【0108】
次に、上記式(14)、(15)を用いて求めた乾燥曲線と乾燥速度曲線を図12、図13、図14(塗布層の表面についてのみのもの)、図15(塗布層の表面及び基材の裏面の両方についてのもの)に示す。この際、水の比熱容量cw=4180J/(kg・K)、乾き材料の比熱容量cd=1460J/(kg・K)、容器の比熱容量cb=800J/(kg・K)で定数と近似した。実際には、予熱期間と定率乾燥期間とで塗布層の表面温度と基材の裏面温度には差が存在する。そこで、両温度変化を用いて第2実施形態の式(9)で求めた塗布層の表面側境膜伝熱係数hsは41W/(m2・K)(60℃−40℃)、33W/(m2・K)(40℃−60℃)、底面側境膜伝熱係数hbは、47W/(m2・K)(60℃−40℃)、36W/(m2・K)(40℃−60℃)となった。これらからすると、実施例2と本実施例との結果は、良く一致していることがわかる。
【0109】
なお、本実施例で用いた基材であるガラス板の伝熱係数(=熱伝導度/厚み)は約330W/(m2・K)だったが、100〜30μmの厚みのプラスチックフィルムでは2000〜7000W/(m2・K)、1mmの厚みの鉄板では80000W/(m2・K)にも及び、ガラス板と比べて遥かに小さな温度差が期待でき、基板の裏面の温度変化の実測が困難な場合において、本実施例における蒸発面の温度変化のみによる近似解析法が有効だと考えられる。
【0110】
したがって、本実施例の結果から、第2実施形態の変形例の効果を実証できたことがわかる。
【0111】
なお、本実施例では、厚み1.8mmのガラス板上に120〜130μm 厚の水性塗料膜を形成させ両面乾燥実験を行った。湿り材料全体をガラス、アクリル樹脂、水の中で最小のαを示すアクリル樹脂で近似すれば、t1≒1.21L2/α=10sを得る。このときの平均含水率xmは=1.15である。したがって、図12〜図15の乾燥曲線・乾燥速度曲線は1.15以下のxmで有効である。
【0112】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、乾燥器の乾燥ムラを定量的に推定できることから、乾燥器の乾燥条件の最適化や、乾燥器の改良に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1実施形態の実験設備を説明するのに用いる概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の方法を実行する装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る計算の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態の実験設備を説明するのに用いる断面図である。
【図5】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層の表面温度との関係、及び、乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフであって、塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層(厚さ5mm)の平均含水率との関係、及び、乾燥時間と試料の温度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層(厚さ3mm)の平均含水率との関係、及び、乾燥時間と試料の温度との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、塗布層(厚さ5mm)の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、塗布層(厚さ3mm)の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例3の実験設備を説明するのに用いる概略構成図である。
【図12】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃の乾燥時間と塗布層表面及び基材裏面の温度との関係、並びに、60℃−40℃の乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、40℃−60℃の乾燥時間と塗布層表面及び基材裏面の温度との関係、並びに、40℃−60℃の乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図14】塗布層表面の温度のみを考慮した本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃及び40℃−60℃の塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図15】塗布層表面及び基材裏面の温度を考慮した本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃及び40℃−60℃の塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
1、21、31 基材
2、22、32 塗布層
3、23、36 断熱材
4、24a、24b 放射温度計
25 リング
26 支持板
100 コンピュータ
104 システムバス
105 キーボードコントローラ
106 表示部のコントローラ
107 記録及び読取部
109 ネットワーク
110 本体
111 キーボード
112 表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上の塗布層の乾燥速度推定方法、及び、基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材上の塗布層の乾燥速度測定法として、質量変化を用いる方法(例えば、下記非特許文献1)と、塗布層(膜)の組成を分析する方法(例えば、下記非特許文献2)とが公知となっている。しかし、非特許文献1のものは、湿り厚み400μm以下,熱風風速3m以上に対する適用例はなく、現在の実用的な乾燥条件から大きく隔たっている場合がある。また、非特許文献2のものは、測定精度に著しく劣る場合があった。これらの欠点を克服する目的で最近、基板及び塗布層の表面温度変化を利用する技術が提案された(例えば、下記非特許文献3)。
【非特許文献1】Okazaki, et al.; Journal of Chemical Engineering of Japan, 7(2), pp99-106(1974))(Gehrmann, D. and W.Kast; Proceedings of 1st. Internatioal Symposium on Drying, pp.239-246, August1978, Montreal, Canada
【非特許文献2】Sullivan, D.A.;Journal of Paint Technology, 47(610), pp.60-67(1975)
【非特許文献3】Kan, D. et al.; Proceeding of International Workshop on Process Intensification in Fluid and Particle Engineering, P326, Oct.2006, Kobe, Japan
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基板及び塗布層の表面温度変化を利用した上記非特許文献3のものは、塗布層内の湿り成分の蒸発エンタルピーの温度依存性と、塗布層内の蒸発蒸気の顕熱とを考慮しておらず、湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合に対して適用することは不適当だと考えられる。
【0004】
そこで、本発明の目的は、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合に対して適用できる基材上の塗布層の乾燥速度推定方法と、この推定方法から得られたデータを用いて乾燥速度分布を得る方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
[1] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(a1)又は下記(a2)を行った場合に、下記式(1)〜(3)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(2)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(3)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(4)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(a1)熱風加熱
(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0006】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、上記(a1)又は上記(a2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0007】
[2] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(b1)又は下記(b2)を行った場合に、下記式(5)〜(7)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(6)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(7)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(8)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(b1)熱風加熱
(b2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0008】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、上記(b1)又は上記(b2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0009】
[3] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った場合に、下記式(9)〜(11)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(10)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(11)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(12)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【0010】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0011】
[4] 本発明における基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った場合に、下記式(13)〜(15)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(14)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(15)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、前記ww1及び前記Δwwを下記式(16)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有している。
(c1)熱風加熱
(c2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
【0012】
上記構成によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合において、基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った際の、基材上の塗布層の乾燥速度を推定できる。
【0013】
また、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法においては、(i)塗布層内の湿り成分が複数の場合、(ii)熱風温度などの外部乾燥条件が一定又はステップ的に複数回変化する場合、(iii)回分式(塗布層を表面に形成した基材が静止しているような場合)又は連続方式(例えば、塗布層を表面に形成した複数の基材が、順次、製造工程で流れるように搬送されているような場合)でも、各式におけるパラメータを測定又は計算などより求め、各式に適用することで、基材上の塗布層の乾燥速度を従来と同様若しくはより高い精度で推定することができる。また、厚さが薄い基材を用いていても厚い基材を用いていても、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法は適用可能である。また、上記非特許文献1〜3では、乾燥所要時間20分以上の系に対する検討に限られていたが、上記[1]〜[4]の基材上の塗布層の乾燥速度推定方法によると、5分以下の短い乾燥所要時間を有する場合に対して適用できるので、有用である。
【0014】
なお、本明細書中においては、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、Tr:伝熱材の上面温度(K)、TrF:乾燥終了後の伝熱材の上面温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Tb:基材の裏面温度(K)、TbF:乾燥終了後の基材の裏面温度(K)、Tm=(Ts+Tb)/2:基材と塗布層との平均温度(K)、Tm0:基材と塗布層との初期平均温度(K)、TmF:基材と塗布層との乾燥終了後の平均温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hs:塗布層表面の境膜伝熱係数、hb:基材裏面の境膜伝熱係数、hr:基材と伝熱材との接触抵抗に由来する伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【0015】
[5] 本発明の基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法は、前記塗布層の表面全体において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布層の乾燥速度推定方法を用いて乾燥速度を推定する乾燥速度推定工程と、前記乾燥速度推定工程で得られた乾燥速度から前記塗布層の乾燥速度分布を得る工程とを有している。
【0016】
上記構成によれば、従来に比べ精度が高く且つ容易に、基材上の塗布層の乾燥速度分布を得ることができる。
【0017】
また、本発明のプログラムは、上記[1]〜[4]の方法又は上記[5]の方法をコンピュータに実行させることができるものである。また、本発明の記録媒体は、この本発明のプログラムのいずれかを記憶しているものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。
【0019】
図1は、基材1と、基材1の表面に塗布した塗布層2と、基材1の裏面に設けられた断熱材3とを備えている部材における塗布層2の表面に、熱風加熱を行い、放射温度計4で塗布層2の表面の温度を計測している状態を示す概念図である。なお、熱風に赤外線やマイクロ波や高周波などの放射伝熱や金属基材に対する誘導加熱や通電加熱が併用される場合も多いので、これら内部加熱を併用した片面熱風乾燥において基材裏面が完全断熱されている場合を考える。
【0020】
基材1は、厚さが薄い高分子フィルム、紙、ガラス板、金属板等であり、塗布層2は、1種以上の成分を含む水溶液である。塗布層2を表面に有する基材1を湿り材料と呼ぶこともある。断熱材3は、基材1の裏面を断熱しているが、完全に断熱することはできない。しかし、本実施形態では、完全断熱しているものとして扱う。
【0021】
(本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
薄い基材や熱伝導度の大きな基材上の塗布層では内部加熱が併用されても、厚み数mmの薄層においては内部加熱を併用しないときに限って材料温度一様の仮定が近似的に成立する(上記非特許文献3)。図1の塗布層2におけるエネルギー収支を下記式(17)に示す。塗布層の初期表面温度TS0における液状水と固体のもつエンタルピーとを基準として示し、蒸発エンタルピーの温度依存性を考慮した。また、蒸発水蒸気が熱風温度まで上昇する場合を考えた。湿り物質が水の場合、蒸発水蒸気の温度上昇に要するエネルギーは無視されることが多いが、有機溶剤の蒸発エンタルピーは、水の約1/3である。このことから、水の場合でも熱風温度が373Kを大きく越える場合や、湿り物質が有機溶剤の場合、蒸発蒸気の温度上昇に要するエネルギーを考慮すべきである。
【0022】
【数17】
【0023】
ここで、cw、cGwは液状水、水蒸気の定圧比熱容量であり、273K−373K間の平均値はそれぞれ4.18×103(J/(kg・K))、1.88×103(J/(kg・K))である(後述の変形例や他の実施形態などでも同様。)。Tasは熱風温度であり一定値とする。Tsは塗布層表面温度であり、塗布層の表面温度と基材の裏面温度との平均温度Tm=Tsと近似している。Δhw0はTs0での水の蒸発エンタルピーであり、Δhw0=3.177×106−2.47×103Ts0(J/kg−water)で表わされる(後述の第1実施形態の変形例でも同様。)。乾き材料質量基準平均含水率xm=ww/wdである。そして、塗布層2の乾燥終了後には、上記式(17)は、下記式(18)となる。
【0024】
【数18】
【0025】
ここで、QF、TsFは乾燥終了後の発生エネルギー、塗布層表面温度である。しかし、特に厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合には、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。t=0からt1までを一様ではない期間、それ以後を一様の期間とした場合、前者の期間のエンタルピー収支を表す下記式(19)は、上記式(17)をt=0からt1まで積分して得られる。
【0026】
【数19】
【0027】
ここでww0とww1はそれぞれ乾燥開始時とt=t1での水分質量である。一方、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(17)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(20)で与えられる。
【0028】
【数20】
【0029】
ここでwwFは乾燥終了時の水分質量である。全乾燥期間のエンタルピー収支は上記式(18)と上記式(19)との和で与えられる。そして、上記式(18)を変形して得た下記式(2)および上記式(17)を変形して得た下記式(3)と、下記式(4)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。なお、0≧t≧tFのデータとは、具体的には、以下のようにして求めたデータである。すなわち、ww1にΔwwを加えて、t+Δt秒後のww及びRを得る。そして、この得られたwwを用いてさらに次のΔt秒間のΔwwを得る。これをt+Δtのwwに加えることによって、t+2Δt秒後のww及びRを得る。これを繰り返して、0≧t≧tFのデータは求められる。以下の実施形態や変形例においても同様である。
【0030】
【数2】
【数3】
【数4】
【0031】
なお、基材1と塗布層2との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。上記式(1)〜(4)及び(17)〜(20)は、上記非特許文献3の技術に、内部加熱効果と蒸発エンタルピーの温度依存性と蒸発蒸気の顕熱の効果とを加えた場合に対応している。また、熱風温度Tasには、乾燥実験終了後にQF=0として定常材料温度T*sFを実測し、この値を充てる。これは、乾燥実験終了後の熱風温度と乾き材料温度の測定誤差とが熱風から材料への伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。この点を考慮して、上記式(18)〜(20)からhsを求める下記式(1)が得られる。そして、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(4)から乾燥速度Rを得る。
【0032】
【数1】
【0033】
なお、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の片面表面温度を、t=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、内部加熱がないとき、1.21L2/αで与えられる(Crank、 J; The Mathematics of Diffusion、 p.59、 Oxford University Press、 England 1975)。ここで、αは平板の熱拡散率である。したがって、塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1=t’1として近似する。内部加熱効果は一様温度化を促進させるので、この近似は安全側である。
【0034】
(本実施形態における装置の構成)
次に、本発明の第1実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定及び基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法を実行する装置の構成について説明する。図2は、本発明の第1実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定及び基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法を実行する装置(コンピュータ)のハードウェアの構成を示すブロック図である。図3は、本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定処理のフローチャートである。
【0035】
図1に示すように、コンピュータ100は、本体110と、入力装置であるキーボード111と、モニターなどの表示部112とを有しており、ネットワーク109と接続されている。
【0036】
本体110は、予め設定されたプログラムに従って制御動作を行うCPU101と、各部などへ送信するための各種制御指令(コマンド)等が格納されているROM102と、CPU101によってROM102又は後述する記憶及び読取部107から呼び出されて各種コマンドなどがセットされるRAM103と、各部を通信可能に接続するシステムバス104と、キーボード111のインターフェースを制御するキーボードコントローラ(KBC)105と、表示部112のインターフェースを制御する表示部112のコントローラ106と、データを記憶できるとともに、記憶したデータを読取れる記憶及び読取部107と、ネットワーク109との接続のためのネットワークインターフェースコントローラ(NIC)108とを有している。
【0037】
ネットワーク109には、図1の放射温度計4の計測値を送信できる制御装置(図示せず)などが接続されており、放射温度計の計測値を記憶及び読取部107に記憶させたり、表示部112に表示したりすることができるようになっている。
【0038】
記憶及び読取部107は、例えば、ハードディスクドライブであり、図3に示すフローチャートの処理を実行するプログラムなどがインストールされている。実行時には、RAM103にロードされ、CPU101の制御によって実行される。なお、記憶及び読取部107には、図示していないが、さらに、磁気式ドライブや光学式ドライブなどの他のデバイスが接続されていてもよく、図3に示すフローチャートの処理を実行するプログラムなどが記憶された記録媒体(フロッピー(登録商標)ディスクやCD−ROMなど)からデータを読み取って、記憶及び読取部107にインストールするような構成であってもよい。
【0039】
次に、図3に示すフローチャートの処理について説明する。まず、上記式(1)〜(3)において必要なパラメータの値を入力する(ステップS1)。なお、予め記憶及び読取部107に記録されていた値や、直前に測定された値が自動的に入力されるものであるが、これはキーボード111からの手動入力であってもよい。また、必要なパラメータの値は、上記各非特許文献に記載されている方法や、すでに公知の方法で得ることができる。
【0040】
次に、上記式(1)で得たhsを上記式(2)に代入し、ww1を得る計算を行う(ステップS2)。続いて、上記式(1)で得たhsを上記式(3)に代入し、Δwwを得る計算を行う(ステップS3)。
【0041】
このようにして得たww1及びΔwwを適用して、上記式(4)から塗布層2の乾燥速度を推定する計算を行う(ステップS4)。
【0042】
さらに、塗布層2の他の位置における乾燥速度を推定するかどうかを入力する(ステップS5)。さらに推定する場合には(ステップS5:YES)、ステップS1に戻る。推定しない場合には(ステップS5:NO)、表示部112へ結果(データ)を出力する処理を行い(ステップS6)、終了する。なお、ステップS6においては、結果(データ)を記憶及び読取部107に記憶させて、得られた結果から乾燥速度分布を得る処理を行ってもよい。
【0043】
なお、ステップ5の代わりに、最初から塗布層2の所定箇所を指定しておいて、その部分全てについて、乾燥速度を推定することとしてもよい。また、連続方式で、基材1が搬送されているなら、ステップ5の代わりに、最初から、搬送方向の同じ複数位置について一定時間間隔で計測し、塗布層2の搬送方向についての乾燥速度を連続して推定するように処理することとしてもよい。ただし、この場合、乾燥速度が変われば、最終含水率wwFも変化するので、wwF≒0のときのみ実用的である。
【0044】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層内の湿り成分が単独でも有機溶剤の場合や熱風温度が373Kを大きく超える場合においても、基材1と、基材1の表面に塗布した塗布層2と、前記基材の裏面に設けられた断熱材3とを備えている部材における塗布層2の表面に、(a1)熱風加熱や、(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱を行った際の、基材1上の塗布層2の乾燥速度を推定できる。
【0045】
また、(i)塗布層2内の湿り成分が複数の場合、(ii)熱風温度などの外部乾燥条件が一定又はステップ的に複数回変化する場合、(iii)回分式(塗布層2を表面に形成した基材1が静止しているような場合)又は連続方式(例えば、塗布層1を表面に形成した複数の基材1が、順次、製造工程で流れるように搬送されているような場合)でも、各式におけるパラメータを測定又は計算などより求め、各式に適用することで、基材1上の塗布層の乾燥速度を従来と同様若しくはより高い精度で推定することができる。また、厚さが薄い基材を用いていても厚い基材を用いていても、本実施形態に係る基材1上の塗布層2の乾燥速度推定方法は適用可能である。また、上記非特許文献1〜3では、乾燥所要時間20分以上の系に対する検討に限られていたが、本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法によると、5分以下の短い乾燥所要時間を有する場合に対して適用できるので、有用である。
【0046】
<第1実施形態の変形例>
次に、本発明の第1実施形態の変形例について説明する。本変形例は、第1実施形態のように、完全断熱ではなく、熱が基材裏面から伝熱する(不完全断熱を含む)場合を考えたものである。
【0047】
(本変形例に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
熱が基材裏面から伝熱する(不完全断熱を含む)こと(図1の断熱材が伝熱すること、若しくは、図1の断熱材が伝熱材であることを想定していること)を除いては、基本的に第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態と同様に部分について、説明を省略することがある。
【0048】
第1実施形態と同様に、塗布層におけるエネルギー収支を考えると、下記式(21)となる。そして、乾燥終了後には下記式(21)から下記式(22)が成立する。
【0049】
【数21】
【数22】
【0050】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(21)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(23)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(21)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(24)で与えられる。
【0051】
【数23】
【数24】
【0052】
そして、上記式(23)を変形して得た下記式(6)、及び、上記式(21)を変形して得た下記式(7)と、下記式(8)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0053】
【数6】
【数7】
【数8】
【0054】
ここでも第1実施形態と同様、基材1と塗布層2との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。熱風温度Tasは乾燥実験終了後に基材底面を完全断熱しQF=0として定常材料温度T*sFを実測してこの値を充てる.伝熱板上面温度Trには実測値を充てる。なお、上記式(22)、(23)、(24)から、hsを求めるための下記式(5)が得られる.hrはhsを上記式(22)に代入して得る。そして、hr、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(8)から乾燥速度Rを得る。
【0055】
【数5】
【0056】
なお、ここでも、第1実施形態と同様、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の片面表面温度を、t=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、内部加熱がないとき、1.21L2/αで与えられる。ここで、αは平板の熱拡散率である。したがって、塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1=t’1として近似する。内部加熱効果は一様温度化を促進させるので、この近似は安全側である。さらに、初期温度分布が一様で厚みがLの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させた場合はt’1=1.21(L/2)2/αとなるため、伝導伝熱でもこの近似は安全側である。
【0057】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(5)、(6)、(7)を順に用いる点が異なっている。
【0058】
上記構成の本変形例によれば、伝熱材或いは不完全な断熱しかできない断熱材が基材1の裏面に設けられていても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、基材21と、基材21の表面に載置された合成ゴム製のリング25と、基材21の表面のリング25内部に塗布した塗布層22と、基材21及びリング25を支持し、基材21及びリング25の側周面にリング状に設けられた断熱材23と、断熱材23を支持する支持板26とを備えている部材における塗布層22の表面及び基材21の裏面に、熱風加熱を行い、放射温度計24a、24bで塗布層22の表面及び基材21の裏面の温度を計測している状態を示す概念図である。したがって、本実施形態は、第1実施形態のように、塗布層表面側のみを熱風加熱するものではなく、基材裏面からも熱風加熱する場合について考えるものである。なお、第1実施形態と同様の部分においては、その説明を省略することがある。
【0060】
基材21は、高分子フィルム、紙、ガラス板、金属板等であり、塗布層22は、1種以上の成分を含む水溶液である。なお、ここでは、塗布層22は、基材21の厚さよりも十分厚いものとなっているが、第1実施形態のように基材と同程度の厚さであってもよい。
【0061】
(本実施形態に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
本実施形態のような塗布層22の表面及び基材21の裏面の両面を熱風で乾燥する場合は、対流伝熱面積が乾燥面積の2倍となる。両面熱風乾燥におけるエネルギー収支を下記(25)に示す。塗布層表面温度をTs、基材底面温度をTbとし、基材21及び塗布層22の平均温度をTm=(Ts+Tb)/2、蒸発はTsで生じていると近似した。エネルギー収支は、基材21及び塗布層22の初期平均温度Tm0(=Ts0)における液状水と固体のもつエンタルピーを基準として示し、蒸発水蒸気は熱風温度まで上昇する場合を考えた。基材21と塗布層22とは平面を水平に静止しているとする。ここで、Δhw0は、Ts0での水の蒸発エンタルピーであり、Δhw0=3.177×106−2.47×103Tm0(J/kg−water)で表される(後述する変形例でも同様である。)。また、乾燥終了後には、下記式(25)から下記式(26)が成立している。
【0062】
【数25】
【数26】
【0063】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(25)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(27)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(25)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(28)で与えられる。
【0064】
【数27】
【数28】
【0065】
そして、第1実施形態と同様に、上記式(27)を変形して得た下記式(10)と、上記式(28)を変形して得た下記式(11)と、下記式(12)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0066】
【数10】
【数11】
【数12】
【0067】
ここでも第1実施形態と同様、基材21と塗布層22との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。乾燥実験終了後の乾き基材21の底面を断熱して測定した定常材料温度を上方の熱風温度Tas、塗布層22表面を断熱して測定した定常材料温度を下方の熱風温度Tabとみなす。これは乾燥実験終了後の熱風温度と基材21と塗布層22との平均温度の測定誤差とが、熱風から基材21及び塗布層22への伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。なお、上記式(26)、(27)、(28)から、hsを求めるための下記式(9)が得られる.hbはhsを上記式(26)に代入して得る。そして、hb、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(12)から乾燥速度Rを得る。
【0068】
【数9】
【0069】
なお、長い乾燥所要時間を有する塗布層を有する基材や薄層の乾燥実験においても、層厚みが大きく有効熱伝導度の小さな材料を対象とする場合には、短い乾燥所要時間を有する厚みの小さな塗布層を有する基材の場合と同様、乾燥開始直後の塗布層及び基材内の非定常伝熱に伴う塗布層と基材との温度一様の仮定が成立しない乾燥期間に関する検討が必要である。初期温度分布が一様で厚みが2Lの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、第1実施形態と同様、1.21L2/αで与えられる。したがって、第1実施形態と同様、基材21と塗布層22との平均温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1≒t’1で近似できる。
【0070】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(9)、(10)、(11)を順に用いる点が異なっている。
【0071】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層22の表面及び基材21の裏面が同時に熱風で加熱されている場合においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0072】
<第2実施形態の変形例>
次に、第2実施形態の変形例について説明する。第2実施形態においては、熱風加熱のみを考慮したものであったが、本変形例では、熱風加熱に、赤外線やマイクロ波や高周波などの放射伝熱や金属基材に対する誘導加熱や通電加熱を併用する場合を考える。なお、第1実施形態と同様の部分においては、その説明を省略することがある。
【0073】
(本変形例に係る基材上の塗布層の乾燥速度推定方法における原理)
第2実施形態と同様に、エネルギー収支を示すと、下記式(29)のように表される。ここで、Qは放射または誘導・通電による発生エネルギーである。なお、基板と塗布層との平均一様温度を仮定し、塗布層表面温度Tsで近似した。エネルギー収支は、Ts0における液状水と固体のもつエンタルピーを基準として示し、蒸発水蒸気は熱風温度まで上昇する場合を考えた。また、乾燥終了後には、下記式(29)から下記式(30)が成立する。
【0074】
【数29】
【数30】
【0075】
次に、第1実施形態と同様に、厚い基材や熱伝導度の悪い基材を使用した場合を考慮すると、実験開始からしばらくの間は基材内での温度分布が一様ではない。そこで、第1実施形態と同様に、上記式(29)をt=0からt1まで積分して、t=0からt1までのエンタルピー収支を求めると、下記式(31)のように表される。また、t=t1以降の期間のエンタルピー収支は、上記式(29)をt=t1からtFまで積分して得られた下記式(232)で与えられる。
【0076】
【数31】
【数32】
【0077】
そして、上記式(31)を変形して得た下記式(14)、及び、上記式(32)を変形して得た下記式(15)と、下記式(16)と、0≧t≧tFのデータとを用いて、t1≧t≧tFの乾燥速度が得られる。ただし、後述するが、hsを求める必要がある。
【0078】
【数14】
【数15】
【数16】
【0079】
ここでも第1実施形態と同様、基材と塗布層との平均温度が熱風条件の湿球温度以下になる高湿度条件下以外では、Δw<0でなければならない。乾燥実験終了後の乾いた基材と塗布層との底面(基材の裏面)を完全断熱しQF=0として測定した定常材料温度を上方の熱風温度Tas、塗布層の表面を断熱しQF=0として測定した定常材料温度を下方の熱風温度Tabとみなす。これは乾燥実験終了後の熱風温度と塗布層及び基材との温度の測定誤差とが熱風から基材と塗布層とへの伝熱速度となり、乾燥速度の測定精度低下の原因となるため、それを防止するための工夫である。なお、上記式(30)、(31)、(32)から、hsを求めるための下記式(5)が得られる.hbはhsを上記式(30)に代入して得る。そして、hb、hs、ww1、Δwwを適用して、上記式(16)から乾燥速度Rを得る。
【0080】
なお、長い乾燥所要時間を要する塗布層を有する基材や薄層の乾燥実験においても、層厚みが大きく有効熱伝導度の小さな材料を対象とする場合には、短い乾燥所要時間を有する厚みの小さな塗布層及び基材の場合と同様、乾燥開始直後の塗布層及び基材内の非定常伝熱に伴う塗布層及び基材の温度一様の仮定が成立しない乾燥期間に関する検討が必要である。初期温度分布が一様で厚みが2Lの平板の両面表面温度をt=0でステップ的に上昇させ一定値を保った場合、平板平均温度が上昇温度分の95%にまで上昇するに要する時間t’1は、第1実施形態と同様、1.21L2/αで与えられる。したがって、第1実施形態と同様、基材と塗布層との平均温度一様の仮定が成立しない乾燥期間t1≒t’1で近似できる。内部加熱効果は一様温度化を促進させるのでこの近似は安全側である。
【0081】
(本変形例における装置の構成)
第1実施形態とほぼ同様であるが、図3の乾燥速度推定の処理ルーチンにおいて、式(1)、(2)、(3)に代えて、式(13)、(14)、(15)を順に用いる点が異なっている。
【0082】
上記構成の本実施形態によれば、塗布層の表面及び基材の裏面が同時に熱風で加熱されている場合だけでなく、内部加熱を行っている場合においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
第1実施形態の方法を用いて、図1と同状態の実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0084】
基材としてのポリエステル製フィルム(厚さ100μm)の表面に、塗布層としてポリビニルアルコール(PVA)水溶液を主成分とした市販合成のり液(初期含水率約7kg−water/kg−PVA)を、直径80mmの円形となるようにプレードコートし(厚さ156μm、246μm、377μmの3種類を用意)、実験試料を3種類用意した。そして、それぞれの試料について、ポリエステル製フィルムの裏面を発泡スチロールで断熱して上面にのみ熱風を流す下記のような対流乾燥実験を実施した。
【0085】
試料表面の温度変化データは、1s毎に放射温度計((株)堀場製作所製 放射温度計IT−550F、分解能0.1K)により自動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後試料上方向から供給した。試料付近での熱風温度は60〜65℃、熱風速度は約2.4m/sだった。乾燥実験終了後の乾き塗布層を有する基材下に1mmφのシース熱電対(Kタイプ)を入れデジタル温度計で測定した温度と放射温度計の測定温度とを比較したところ、放射率を0.99としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。
【0086】
このように実験して得られた結果を、図5の各点として示す。図5からわかるように、150〜320s付近までの表面温度が湿球温度、その後の熱風温度に至るまでの昇温期間が240〜550sまで見られた。このときの蒸発水分量は0.13〜0.31gだった。これらのデータおよび既知のパラメータの値を上記式(1)〜(3)に適用して得られた乾燥曲線を図5の各線として示す。そして、乾燥速度曲線を図6に示す。
【0087】
なお、上記乾燥曲線及び乾燥速度曲線を算出するにあたって、水の比熱容量cw=4180J/(kg・K)、PVAの比熱容量cd=1500J/(kg・K)、ポリエステルフィルムの比熱容量cb=1680J/(kg・K)で定数と近似した。また、前述のように熱風温度Tasは最終材料表面温度TsFと等しいとみなし、基材裏面を完全断熱と近似した。得られた境膜伝熱係数はhs=61〜65W/(m2・K)だった。またこのときの最終材料温度TsF=熱風温度Tas=60.4〜62.5℃だった。得られたhsは風速2.4m/sの垂直流に対して不適当な値ではない。
【0088】
したがって、本実施例の結果から、第1実施形態の効果を実証できたことがわかる。
【0089】
なお、本実施例では厚み100μmポリエステルフィルム基材上に157μm、246μm、377μmの合成のり膜をそれぞれ形成させ乾燥実験を行ったが、ポリエステルフィルム基材及び合成のり膜全体を合成樹脂、水の中で最小のαを示す樹脂で近似すれば、t1≒1.21L2/α=0.7〜2.5sを得る。このときの平均含水率xmは初期含水率とほぼ等しく、この値以後の時刻で乾燥速度曲線が有効である。先行技術では考慮されなかった点のひとつである。ここでα=λ/(cpρ)で定義され、代表物質に対する概略値を以下に示す。なお、後述する実施例においても、同様である。
【0090】
水(α=1.4×10−7m2/s、λ=0.6W/(m・K)、cp=4200J/(kg・K)、ρ=1000kg/m3)、アクリル樹脂(α=1.1×10−7m2/s、λ=0.2W/(m・K)、cp=1500J/(kg・K)、ρ=1200kg/m3)、ガラス(α=3.4×10−7m2/s、λ=0.6W/(m・K)、cp=700J/(kg・K)、ρ=2500kg/m3)、ガラス微粒子充填層(α=4.4×10−7m2/s、λ=0.2W/(m・K)、cp=350J/(kg・K)、ρ=1300kg/m3)、鉄(α=2.5×10−5m2/s、λ=80W/(m・K)、cp=400J/(kg・K)、ρ=7900kg/m3)、紙(α=5.6×10−8m2/s、λ=0.06W/(m・K)、cp=1200J/(kg・K)、ρ=900kg/m3)
【0091】
(実施例2)
次に、第2実施形態の方法を用いて、図4と同状態の実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0092】
ガラス微粒子(粒子径37〜63μm、東京硝子器械(株)製 No.0.05)を蒸留水と混合し、これを塗布層として、基材としてのガラス板(厚さ1.8mm)上に接着した内径66mmの合成ゴム製リング(高さ3.0mm、5.0mmのもの2種類を用意)に、それぞれ所定の初期液相率φ0=0.50(m3−water/m3−void)、空隙率ε=0.39〜0.42(m3−void/m3−layer)となるように充填し、実験試料を2種類用意した。そして、図4と同様、各試料の側面のみを発泡スチロールで断熱して、塗布層表面及び基材裏面に同温熱風を流す両面乾燥実験を実施した。このとき、図4と同様、上述のようにして作製した試料をそれぞれ、直径66mmの円形穴を開けた厚さ3mmの積層木製支持板上に設置して、下記実験を実施した。
【0093】
なお、本実施例では、塗布層の表面側熱風温度Tas=321K(塗布層厚さ5mmの場合)、321K(塗布層厚さ3mmの場合)、基材の裏面側熱風温度Tab=319K(塗布層厚さ5mmの場合)、318K(塗布層厚さ3mmの場合)として実験した。また、上記式(7)で求めたhsは51W/(m2・K)(塗布層厚さ5mmの場合)、51W/(m2・K)(塗布層厚さ3mmの場合)であった。なお、得られたhsは風速2.5m/sの垂直流に対して不適当な値ではない。
【0094】
試料表面の温度変化データとガラス板裏面の温度変化データを1分毎に放射温度計((株)コス製 CT−30、分解能0.1K)により手動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後、試料上下方向から供給した。試料付近での熱風温度は319K〜323K、熱風速度は約2.5m/sであり、上下方向で別個の熱風発生器を用いた。この際、温度変化法で測定した乾燥速度の妥当性を検証する目的で、平均含水率の経時変化データを10分毎に質量変化法で測定した。
【0095】
なお、別途、塗布層の側面と基材の裏面とを断熱した乾き材料層内に1mmφのサーミスタセンサー(佐藤計量器製作所(株)製 MC−T100)を埋め込み、乾燥実験と同条件の熱風下で定常伝熱実験を行い、デジタル温度計(佐藤計量器製作所(株)製 SK−1250MC)で測定した温度と放射温度計の測定温度を比較したところ、放射率を0.91としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。
【0096】
まず、上述のように実験して得られた塗布層(厚さ5mm)の表面及び基材の裏面の2種類の温度データの結果を、図7に示す。図7からわかるように、両温度にはかなりの差が見られ一様材料温度の近似は成立せず、また両温度は1500s付近で交差している。蒸発面積<伝熱面積なので、定率乾燥期間であっても表面温度は湿球温度より高い。そして、材料温度が熱風温度に漸近途中の2500s付近で材料は絶乾となり、その後3000sまで乾き材料の昇温期間が見られ、典型的な非親水性多孔平板の乾燥挙動が得られた。なお、蒸発水分量は3.4gだった。
【0097】
次に、上述のように実験して得られた塗布層(厚さ3mm)の表面及び基材の裏面の2種類の温度データの結果を、図8に示す。図8からわかるように、5mmの場合と同様の結果が得られた。なお、蒸発水分量は2.0gだった。
【0098】
また、上記式(5)、(6)を用いて求めた塗布層厚さ5mmの場合と塗布層厚さ3mmの場合との乾燥曲線を、図7及び図8に実線で示す。なお、上記式(5)、(6)の計算においては、水比熱容量cw=4200J/(kg・K)、乾き材料比熱容量cd=480J/(kg・K)、容器比熱容量cb=800J/(kg・K)で定数と近似した。乾き材料昇温期間のデータを含めない場合の結果である。この扱いは非親水性材料に限定されたものであり、塗布層を有する基材においては一般に乾燥終了まで水分蒸発が継続する。基材裏面側の境膜伝熱係数はhb=32W/(m2・K)(塗布層厚さ5mm)、29W/(m2・K)(塗布層厚さ3mm)となった。また、このときの塗布層の最終表面温度TsF=321K(塗布層厚さ5mm)、320K(塗布層厚さ3mm)、基材の最終裏面温度TbF=320K(塗布層厚さ5mm)、320K(塗布層厚さ3mm)となった。上下面でほぼ同じ風速だったにもかかわらずhbがhsよりも小さな値となったのは、試料を支持するための板厚の影響で境膜厚さが大きくなった結果と考えられる。結果は質量変化法による実測含水率変化を精度良く再現できた。
【0099】
したがって、本実施例の結果から、第2実施形態の効果を実証できたことがわかる。
【0100】
また、本実施例での塗布層厚さ5mmの場合と塗布層厚さ3mmの場合との乾燥速度曲線を、図9、図10に示す。薄い塗布層が塗布された薄い基材に比べて、遥かに厚い材料に対して有効である本実施例が、薄い塗布層が塗布された薄い基材に対しても有効なことは自明である。
【0101】
本実施例では、厚み1.8mmのガラス板上に5mmまたは3mmのガラス粒子スラリー層を形成させ、両面乾燥実験を行ったが、湿り材料全体をガラス、ガラス微粒子充填、水の中で最小のαを示す水で近似すれば、t1≒1.21L2/α=99s(塗布層厚さ5mm)または49s(塗布層厚さ3mm)を得る。このときの平均含水率xmは=0.13(塗布層厚さ5mm、3mm両方)である。したがって、図7及び図8の乾燥速度曲線は、0.13以下のxmで有効である。
【0102】
(実施例3)
次に、第2実施形態の変形例の方法を用いて、図11に示す実験設備を用意し、基材上の塗布層の乾燥速度推定実験を行った。以下に、具体的に説明する。
【0103】
図11に示すように、ガラス板(厚さ1.8mm)の基材31の表面上に、市販のアクリルエマルジョン水系塗料を厚み約120〜130μmで塗布し、塗布層32を形成し、試料を作製した。なお、厚み約5mmの断熱材36(発泡スチロール板)を試料の支持板とし、これを基材31のサイズにくり貫き、基材31の塗布面が断熱材36上面と一致するよう試料を設置し、上下面に同温熱風を流す両面熱風乾燥実験を下記のように実施した。
【0104】
塗布面とガラス板底面の温度変化データを10〜30s毎に放射温度計((株)堀場製作所製 放射温度計IT−550F、分解能0.1K)により手動測定した。電気式熱風発生機((株)竹綱製作所製 TSK−10)で発生させた熱風を金網で整流した後、試料上下方向から供給した。上下方向で別個の熱風発生器を用いることで、塗布面と基材裏面付近での熱風温度をそれぞれ60℃と40℃または40℃と60℃に設定した。熱風速度は両方向とも約2m/sとした。乾燥実験終了後、基材裏面を断熱材で覆って得た試料表面温度を上面方向熱風温度として、試料表面を覆って得た試料底面温度を下面方向熱風温度として採用した。別途、表面に1mmφの熱電対(Kタイプ)を埋め込んだ断熱材上に乾き試料を置き、乾燥実験と同条件の熱風下で定常伝熱実験を行った。デジタル温度計(佐藤計量器製作所(株)製 SK−1250MC)で測定した温度と放射温度計の測定温度を比較したところ、塗布面では放射率を0.85、ガラス面では0.70としたときにほぼ一致したので、本実施例の全実験を通してこの値を用いて温度を測定した。なお、このときの塗布層の表面側熱風温度Tas=331K(塗布層の表面への所望熱風温度60℃−基材裏面への所望熱風温度40℃の場合(以下、60℃−40℃とする))、313K(塗布層の表面への所望熱風温度40℃−基材裏面への所望熱風温度60℃の場合(以下、40℃−60℃とする))、底面側熱風温度Tab=312K(60℃−40℃)、333K(40℃−60℃)であった。また、最終塗布層厚みは、塗布層の表面への所望熱風温度60℃−基材裏面への所望熱風温度40℃の場合、塗布層の表面への所望熱風温度40℃−基材裏面への所望熱風温度60℃の場合のどちらも約50μmだった。
【0105】
このように実験して得られた、60℃−40℃の場合の結果を、図12に各点で示す。図12からわかるように、材料予熱期間と定率乾燥期間では塗布面温度>底面温度となったが、減率乾燥期間では一様材料温度の近似が成立した。なお、蒸発水分量は0.24gだった。
【0106】
また、40℃−60℃の場合の結果を、図13に示す。材料予熱期間と定率乾燥期間では塗布面温度<底面温度となったが、減率乾燥期間では一様材料温度の近似が成立した。なお、蒸発水分量は0.27gだった。
【0107】
塗布層と基材とを平均一様温度と近似し、塗布層の表面温度変化のみを用いて、上記式(13)において、Q=0として求めた塗布層の表面側境膜伝熱係数hsは、41W/(m2・K)(60℃−40℃)、34W/(m2・K)(40℃−60℃)、底面側境膜伝熱係数hbは、46W/(m2・K)(60℃−40℃)、34W/(m2・K)(40℃−60℃)であった。
【0108】
次に、上記式(14)、(15)を用いて求めた乾燥曲線と乾燥速度曲線を図12、図13、図14(塗布層の表面についてのみのもの)、図15(塗布層の表面及び基材の裏面の両方についてのもの)に示す。この際、水の比熱容量cw=4180J/(kg・K)、乾き材料の比熱容量cd=1460J/(kg・K)、容器の比熱容量cb=800J/(kg・K)で定数と近似した。実際には、予熱期間と定率乾燥期間とで塗布層の表面温度と基材の裏面温度には差が存在する。そこで、両温度変化を用いて第2実施形態の式(9)で求めた塗布層の表面側境膜伝熱係数hsは41W/(m2・K)(60℃−40℃)、33W/(m2・K)(40℃−60℃)、底面側境膜伝熱係数hbは、47W/(m2・K)(60℃−40℃)、36W/(m2・K)(40℃−60℃)となった。これらからすると、実施例2と本実施例との結果は、良く一致していることがわかる。
【0109】
なお、本実施例で用いた基材であるガラス板の伝熱係数(=熱伝導度/厚み)は約330W/(m2・K)だったが、100〜30μmの厚みのプラスチックフィルムでは2000〜7000W/(m2・K)、1mmの厚みの鉄板では80000W/(m2・K)にも及び、ガラス板と比べて遥かに小さな温度差が期待でき、基板の裏面の温度変化の実測が困難な場合において、本実施例における蒸発面の温度変化のみによる近似解析法が有効だと考えられる。
【0110】
したがって、本実施例の結果から、第2実施形態の変形例の効果を実証できたことがわかる。
【0111】
なお、本実施例では、厚み1.8mmのガラス板上に120〜130μm 厚の水性塗料膜を形成させ両面乾燥実験を行った。湿り材料全体をガラス、アクリル樹脂、水の中で最小のαを示すアクリル樹脂で近似すれば、t1≒1.21L2/α=10sを得る。このときの平均含水率xmは=1.15である。したがって、図12〜図15の乾燥曲線・乾燥速度曲線は1.15以下のxmで有効である。
【0112】
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、乾燥器の乾燥ムラを定量的に推定できることから、乾燥器の乾燥条件の最適化や、乾燥器の改良に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の第1実施形態の実験設備を説明するのに用いる概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態の方法を実行する装置の概略構成図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る計算の処理ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態の実験設備を説明するのに用いる断面図である。
【図5】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層の表面温度との関係、及び、乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例1の実験結果を示すグラフであって、塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層(厚さ5mm)の平均含水率との関係、及び、乾燥時間と試料の温度との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、乾燥時間と塗布層(厚さ3mm)の平均含水率との関係、及び、乾燥時間と試料の温度との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、塗布層(厚さ5mm)の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2の実験結果を示すグラフであって、塗布層(厚さ3mm)の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例3の実験設備を説明するのに用いる概略構成図である。
【図12】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃の乾燥時間と塗布層表面及び基材裏面の温度との関係、並びに、60℃−40℃の乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、40℃−60℃の乾燥時間と塗布層表面及び基材裏面の温度との関係、並びに、40℃−60℃の乾燥時間と塗布層の平均含水率との関係を示すグラフである。
【図14】塗布層表面の温度のみを考慮した本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃及び40℃−60℃の塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【図15】塗布層表面及び基材裏面の温度を考慮した本発明の実施例3の実験結果を示すグラフであって、60℃−40℃及び40℃−60℃の塗布層の平均含水率と乾燥速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
1、21、31 基材
2、22、32 塗布層
3、23、36 断熱材
4、24a、24b 放射温度計
25 リング
26 支持板
100 コンピュータ
104 システムバス
105 キーボードコントローラ
106 表示部のコントローラ
107 記録及び読取部
109 ネットワーク
110 本体
111 キーボード
112 表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(a1)又は下記(a2)を行った場合に、下記式(1)〜(3)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(2)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(3)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(4)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(a1)熱風加熱
(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項2】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(b1)又は下記(b2)を行った場合に、下記式(5)〜(7)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(6)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(7)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(8)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(b1)熱風加熱
(b2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Tr:伝熱材の上面温度(K)、TrF:乾燥終了後の伝熱材の上面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hr:基材と伝熱材との接触抵抗に由来する伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項3】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った場合に、下記式(9)〜(11)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(10)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(11)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(12)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、Tb:基材の裏面温度(K)、TbF:乾燥終了後の基材の裏面温度(K)、Tm=(Ts+Tb)/2:基材と塗布層との平均温度(K)、Tm0:基材と塗布層との初期平均温度(K)、TmF:基材と塗布層との乾燥終了後の平均温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hb:基材裏面の境膜伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、である。
【請求項4】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った場合に、下記式(13)〜(15)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(14)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(15)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(16)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(c1)熱風加熱
(c2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項5】
前記塗布層の表面全体において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布層の乾燥速度推定方法を用いて乾燥速度を推定する乾燥速度推定工程と、
前記乾燥速度推定工程で得られた乾燥速度から前記塗布層の乾燥速度分布を得る工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の乾燥速度推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の乾燥速度分布を得る方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項6に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記録媒体。
【請求項9】
請求項7に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記録媒体。
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた断熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(a1)又は下記(a2)を行った場合に、下記式(1)〜(3)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(2)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(1)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(3)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(4)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(a1)熱風加熱
(a2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項2】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層と、前記基材の裏面に設けられた伝熱材とを備えている部材における前記塗布層の表面に、下記(b1)又は下記(b2)を行った場合に、下記式(5)〜(7)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(6)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(5)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(7)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(8)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(b1)熱風加熱
(b2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Tr:伝熱材の上面温度(K)、TrF:乾燥終了後の伝熱材の上面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hr:基材と伝熱材との接触抵抗に由来する伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項3】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に熱風加熱を行った場合に、下記式(9)〜(11)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(10)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(9)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(11)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(12)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、Tb:基材の裏面温度(K)、TbF:乾燥終了後の基材の裏面温度(K)、Tm=(Ts+Tb)/2:基材と塗布層との平均温度(K)、Tm0:基材と塗布層との初期平均温度(K)、TmF:基材と塗布層との乾燥終了後の平均温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、hb:基材裏面の境膜伝熱係数、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、である。
【請求項4】
基材と、前記基材の表面に塗布した塗布層とを備え、前記基材の裏面が大気と接触している部材における前記塗布層の表面及び前記基材の裏面に、下記(c1)又は下記(c2)を行った場合に、下記式(13)〜(15)のパラメータにそれぞれ対応した値を代入する工程と、
下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(14)に代入して、t1秒後における塗布層内の水分の質量ww1を得る工程と、
下記式(13)で得た塗布層表面の境膜伝熱係数hsを下記式(15)に代入して、Δt秒間における塗布層内の水分の質量変化Δwwを得る工程と、
前記ww1及び前記Δwwを下記式(16)に適用して、前記塗布層の乾燥速度を推定する工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度推定方法。
(c1)熱風加熱
(c2)放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱のいずれか1つ以上と、熱風加熱
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
ここで、R:乾燥速度(kg−water/(m2−material・s)、A:塗布層の表面積(m2)、tF:乾燥終了時間(s)、ww:塗布層内の水分の質量(kg)、wwF:塗布層内の乾燥終了後の水分の質量(kg)、ww0:塗布層内の初期の水分の質量(kg)、wd:乾き塗布層の質量(kg)、wb:基材の質量(kg)、Tas:塗布層表面における熱風の温度(K)、Tab:基材裏面における熱風の温度(K)、Ts:塗布層の表面温度(K)、Ts0:塗布層の初期表面温度(K)、TsF:塗布層の乾燥終了後の表面温度(K)、cw:水(液)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cGw:水(蒸気)の定圧比熱容量(J/(kg・K))、cd:乾いた塗布層の比熱容量(J/(kg・K))、cb:基材の比熱容量(J/(kg・K))、Δhw0:Ts0での水(液)の蒸発エンタルピー、Q:放射加熱、誘導加熱、又は通電加熱による発生エネルギー、である。
【請求項5】
前記塗布層の表面全体において、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗布層の乾燥速度推定方法を用いて乾燥速度を推定する乾燥速度推定工程と、
前記乾燥速度推定工程で得られた乾燥速度から前記塗布層の乾燥速度分布を得る工程とを有していることを特徴とする基材上の塗布層の乾燥速度分布を得る方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の乾燥速度推定方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項7】
請求項5に記載の乾燥速度分布を得る方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項8】
請求項6に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記録媒体。
【請求項9】
請求項7に記載のプログラムを記憶していることを特徴とする、コンピュータにより読取り可能な記録媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−203045(P2008−203045A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38495(P2007−38495)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]