説明

基板、ハードディスクおよび電子機器

【課題】強化ガラス基板からなるハードディスクよりも衝撃に強く剛性が高いハードディスクを形成することが可能な基板を提供する。
【解決手段】基板10は、スピネルからなる、ハードディスク用の基板10である。基板10のヤング率は150GPa以上350GPa以下であることが好ましい。また、前記基板の一方の主表面10aの平均粗さRaの値が0.01nm以上3.0nm以下である。基板10を構成するスピネルの組成としてはたとえばMgO・nAl2O3(1≦n≦3)が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板、ハードディスクおよび電子機器に関するものであり、より特定的には、ハードディスク用の基板、当該基板を用いたハードディスク、および当該ハードディスクを備える電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクなどのハードディスクは、通常、円板状の基板の一方の主表面上に、たとえば物理蒸着により、磁性体材料の薄膜(磁性膜)が形成された構成を有する。上記基板として、特開2010−73289号公報に示すように、強化ガラスからなる基板が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−73289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらガラスからなる基板を用いたハードディスクは、たとえ強化ガラスであっても割れやすい、衝撃に弱いという問題点を有している。また強化ガラスからなる基板は衝撃に弱い(強度が弱い)ため、基板の強度(剛性)を確保するためには当該基板を厚く加工する必要がある。このため当該基板がコスト高になる可能性がある。
【0005】
また、最近のハードディスクの記録容量の拡大により、使用時にハードディスクをより高速で回転する必要が生じている。基板を高速回転するためには高い剛性(ヤング率)が要求される。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものである。その目的は、強化ガラス基板からなるハードディスクよりも衝撃に強く剛性が高いハードディスクを形成することが可能な基板を提供することである。また、当該基板を用いたハードディスク、および当該ハードディスクを用いた電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る基板は、スピネルからなる、ハードディスク用の基板である。なおここでハードディスクとは、たとえばコンピュータで用いられる、磁気を用いて情報の読み書きがなされる磁気ディスクを意味する。本発明の発明者は鋭意研究の結果、ハードディスクに用いられる基板として、強化ガラスの代わりに、光学素子の分野で主に用いられるスピネルを用いることができる可能性があることを見出した。スピネルの強度は、強化ガラスの強度などの物性値よりも高い。スピネルを用いて形成するハードディスク用の基板も、強化ガラスからなるハードディスク用の基板と同様に実用に耐えうるという可能性を見出した。またスピネルは、ハードディスクが発生する熱を放熱するため実用上問題ないレベルの熱伝導率を有する。今後さらに高密度化が進んでも、必要とされる耐熱性を確保することができる。
【0008】
上記のハードディスク用の、スピネル製の基板のヤング率は150GPa以上350GPa以下であることが好ましい。上記の範囲のヤング率を有するスピネルを用いれば、基板を形成する加工を容易に行なうことができる。このため加工コストをより低減することができる。また上記の範囲のヤング率を有するスピネルは、実用上問題ないレベルの強度(剛性)を有するものとなる。
【0009】
上述した基板においては、基板の一方の主表面の平均粗さRaの値が0.01nm以上3.0nm以下であることが好ましい。なおここで主表面とは、表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
【0010】
スピネルの結晶は多結晶であるため、一般に隣接する結晶粒界において面粗度が大きくなる。しかしスピネルの多結晶を用いた上記基板においても、加工方法を制御することにより、主表面の平均粗さRaの値を0.01nm以上3.0nm以下という優れた平坦度にすることができることを、本発明の発明者は見出した。したがって当該基板から構成されるハードディスクの、情報の記録密度を向上することができる。
【0011】
本発明に係るハードディスクは、上記のスピネル製の基板を備える。上記のように、スピネル製の基板を用いれば、強化ガラス製の基板を用いたハードディスクより強度や剛性の高いハードディスクを提供することができる。したがって、より記録容量が大きく、高速に動作する電子機器(ハードディスクドライブ)を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強化ガラス製の基板を用いたハードディスクよりも強度の高い基板(ハードディスク)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態に係る基板の態様を示す概観図である。
【図2】図1の基板を用いたハードディスクドライブの内部の態様を示す概略平面図である。
【図3】図2におけるハードディスク部分の構成を示す概略図である。
【図4】本実施の形態に係る基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態のハードディスク4は、基板10と磁性膜11とを有している。基板10は、たとえば主表面10aが直径2.5インチであり、スピネルからなるウェハである。基板10を構成するスピネルの組成としてはたとえばMgO・nAl(1≦n≦3)が挙げられる。基板10の主表面10a上に、たとえば物理蒸着などの一般公知の方法により、一般公知の磁性膜11が形成されている。
【0015】
図2は、ハードディスク4が収納されたハードディスクドライブ1(電子機器)の内部の構成を示している。ここでハードディスクドライブ1とは、収納されたハードディスク4に情報を読み書きする補助記憶装置の全体を指し、ハードディスク4を内蔵する電子機器の総称である。
【0016】
ハードディスクドライブ1は、スピンドルモータ2が搭載されたスピンドル3と呼ばれる軸に貫通されるように、複数のハードディスク4が配置された構成となっている。つまりハードディスク4を構成する平面の中心には円形状の孔が形成されており、この孔をスピンドル3が貫通する。このようにしてハードディスク4はスピンドル3に固定され、スピンドル3の周りに回転することができる。ハードディスク4への情報の記録や、ハードディスク4からの情報の読み取りは、ロータリーアクチュエータ5の周りに回転するアーム6の先端部に取り付けられた磁気ヘッド7によりなされる。以上に述べたスピンドルモータ2、スピンドル3、ロータリーアクチュエータ5が、ハードディスクケース8に固定されることにより、各部品がハードディスクドライブ1の内部に固定される。
【0017】
ハードディスク4は複数枚のディスクからなる構成であってもよい。具体的には図3を参照して、ハードディスク4はプラッタ4a、4b、4c、4dと呼ばれる個々の円盤状の機材(ディスク)が一定の間隔ごとに積まれた構成を有していてもよい。この場合、アーム6はアーム6a、6b、6c、6dのたとえば4本が積まれており、プラッタ4aにはアーム6aが、プラッタ4bにはアーム6bが、プラッタ4cにはアーム6cが、プラッタ4dにはアーム6dが、それぞれ設置された構成となっている。そしてアーム6a、6b、6c、6dのそれぞれの先端部に磁気ヘッド7a、7b、7c、7dが取り付けられている。
【0018】
アーム6a、6b、6c、6dのそれぞれには、磁気ヘッド7を適度にハードディスク4の各プラッタの表面上に押し当てるための、サスペンション6a1、6b1、6c1、6d1が取り付けられている。アーム6(アーム6a、6b、6c、6d)と磁気ヘッド7(磁気ヘッド7a、7b、7c、7d)とサスペンション6a1、6b1、6c1、6d1との3つが一体化されたヘッドアセンブリが弧を描くように動作することにより、磁気ヘッド7がハードディスク4(各プラッタ)上のデータにアクセスする。なおデータは、各プラッタの表面を同心円状にトラック、回転方向にセクターと呼ばれる微小領域に分割して記録される。
【0019】
ハードディスク4が複数枚のプラッタからなる場合においても、各プラッタ4a、4b、4c、4dが、図1のハードディスク4と同様に、スピネルからなるウェハ(基板10)と磁性膜11とからなる構成であることが好ましい。
【0020】
以上に述べる、ハードディスク4(プラッタ)用の基板10は、データの読み書き時における高速回転に耐えうる強度(剛性)を有することが好ましい。また基板10は衝撃に強いことが好ましい。本実施の形態における基板10はスピネルにより構成される。このため、たとえば基板10が強化ガラスからなる場合に比べて高い強度や剛性、耐衝撃性を確保することができる。
【0021】
また、基板10の強度が高いため、必要に応じて基板10を薄くし、基板10のコストを低減することができる。
【0022】
基板10などの構造体は一般に、ヤング率が高いと強度が高くなり、ヤング率が低いと強度が低くなる。したがって基板10は、上述した条件での使用に耐えうる強度を備えるために、ヤング率が150GPa以上350GPa以下であることが好ましい。基板1のヤング率が150GPa以上であれば、上記条件での使用に耐えうる強度を有するものとなる。また構造体は一般に、ヤング率が高いと硬度が高くなり、ヤング率が低いと硬度が低くなる。このためたとえば基板1のヤング率が350GPaを超えると、基板1の硬度が過剰に高くなるためにチッピングを起こす可能性が高くなる。また、基板1の硬度が過剰に高くなるために加工が困難となる。このため適切な強度を有し、かつチッピングなどの不具合を抑制する観点から基板1のヤング率は上記範囲内であることが好ましく、そのなかでも180GPa以上300GPa以下であることが最も好ましい範囲であるといえる。
【0023】
また、ハードディスク4(プラッタ)の記録密度を向上するためには、ハードディスク4(プラッタ)の情報を記録する表面、すなわち磁性膜11の表面が平坦性に優れることが好ましい。このためには磁性膜11が形成される基板10の主表面10aが平坦性に優れることが好ましい。具体的には、主表面1aの平均粗さRaの値が0.01nm以上3.0nm以下であることが好ましい。
【0024】
次に、上記基板10の製造方法について説明する。図4のフローチャートに示すように、まず高純度スピネル粉末準備工程(S10)を実施する。これは具体的には、上述したスピネルからなる基板10を形成する材料としてのスピネル粉末を準備する工程である。より具体的には、組成式がMgO・nAl(1≦n≦3)であり、平均粒径が0.1μm以上0.3μm以下であり、純度が99.5%以上であるスピネル粉末を準備することが好ましい。
【0025】
上述した組成のスピネル粉末を準備するためには、MgO(酸化マグネシウム)粉末とAl(アルミナ)粉末とを、1≦Al/MgO≦3の混合比率(物質量比)となるように混合することが好ましい。
【0026】
なお、ここで粉末粒子の粒径とは、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法を用いて測定した場合における、小粒径側から大粒径側に向けて当該粉末の体積を積算した累積体積が50%となる箇所における粉末断面の直径の値を意味する。上述した粒子径分布測定方法とは具体的には、粉末粒子に照射したレーザ光の散乱光の散乱強度分布を解析することにより、粉末粒子の直径を測定する方法である。準備したスピネル粉末中に含まれる複数の粉末粒子の粒径の平均値が、上述した平均粒径である。
【0027】
次に図4に示す成形工程(S20)を実施する。これは具体的には、プレス成形またはCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間等方圧加工法)により成形する。より具体的には、たとえば工程(S10)で準備したMgAlの粉末を、まずプレス成形により予備成形した後、CIPを行ない、成形体を得ることが好ましい。ただしここではプレス成形とCIPとのいずれか一方のみを行なってもよいし、たとえばプレス成形を行なった後にCIPを行なうなど、両方を行なってもよい。
【0028】
ここでプレス成形においてはたとえば10MPa以上300MPa以下、特に20MPaの圧力を用いることが好ましく、CIPにおいてはたとえば160MPa以上250MPa以下、特に180MPa以上230MPa以下の圧力を用いることが好ましい。
【0029】
次に図4に示す焼結工程(S30)を実施する。焼結工程として具体的には、真空雰囲気下に成形体を載置して焼結する真空焼結法や、たとえばアルゴン雰囲気下に成形体を載置して加圧焼結するHIP(Hot Isostatic Pressing;熱間等方加圧)を用いることが好ましい。あるいは上記方法の代わりにホットプレス法を用いてもよい。真空焼結法とHIPなどとのいずれかのみを行なってもよいし、たとえば真空焼結法を行なった後にHIPを行なうなど、複数を行なってもよい。さらにHIP後に再度熱処理を行なってもよい。
【0030】
真空焼結法においては具体的には、成形体を真空雰囲気中に載置し、1600MPa以上1850MPa以下の圧力を加えた条件の下で1600℃以上1800℃以下に加熱し、1時間以上3時間以下保持することが好ましい。このようにすれば、密度が95%以上の焼結体を形成することができる。またHIPにおいては、上記焼結体を(あるいはホットプレスによる焼結を行なっていない成形体を)アルゴン雰囲気中に載置し、150MPa以上250MPa以下の圧力を加えながら1600℃以上1900℃以下に加熱し、1時間以上3時間以下保持することにより焼結する。上述した圧力および温度により焼結を行なえば、形成される焼結体の密度を、最終的に形成される基板に要求される強度(ヤング率)の条件を満たすに足りる密度とすることができる。これは加圧によりスピネル焼結体の組成変形が起こるとともに、拡散機構により当該焼結体内部の空孔が外部へ除去されるためである。
【0031】
以上により焼結がなされた焼結体に対して、図4に示すように加工工程(S40)を行なう。これは具体的には、まず上記焼結体を所望の(基板10の)厚みとなるようにダイシング加工により切断(切削加工)する。これにより、所望の厚みを有する基板10の下地が完成する。なおここで所望の厚みとは、最終的に形成したい基板10の厚みと、後工程における基板10の主表面10aの研磨しろ等を考慮した上で決定することが好ましい。
【0032】
次に、上記基板10の下地の主表面を研磨する。具体的には、上述したように最終的に形成される基板10の主表面10aを、平均粗さRaが所望の値となるように研磨する工程である。特に上述したように、ハードディスク用の基板10は、主表面10aを上述した所望のRaとなるように研磨することが好ましい。
【0033】
基板10の主表面10aを、優れた平坦度を達成するために研磨する場合は、粗研磨と通常研磨と、ダイヤ砥粒を用いた研磨との3段階の研磨を順に行なうことが好ましい。具体的には、第1段階である粗研磨および第2段階である通常研磨において、研磨機(たとえばナノファクター社製NF−300)を用いて主表面10aを鏡面加工する。ここで粗研磨と通常研磨とでは、研磨に用いる砥粒の番手が異なる。具体的には、粗研磨においては砥粒の番手が#800〜#2000であるGC砥石を、通常研磨においては砥粒の粒径が3〜5μmであるダイヤモンド砥石を用いることが好ましい。
【0034】
次に第3段階である仕上げ加工としての研磨は、上述したようにダイヤ砥粒を用いて行なうことが好ましい。ダイヤ砥粒は硬度が非常に高く、かつ砥粒の平均粒径が0.5μm〜1.0μm程度と非常に小さいことから、高精度な鏡面加工用の砥粒として用いることに適している。当該砥粒を用いてたとえば10分間研磨加工を行なう。このようにすれば、上述した主表面10aの平均粗さRaが0.01nm以上3.0nm以下である平坦性の高い主表面10aを実現することができる。したがって特にハードディスク用の基板10を含むハードディスク4(磁性膜11)における、情報の記録密度が向上される。たとえば上記処理により、基板1の主表面1aの平均粗さRaの値を2nm程度とすることができる。
【0035】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、強化ガラス基板からなるハードディスクよりも、衝撃に強く強度や剛性に優れるハードディスクを製造する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0037】
1 ハードディスクドライブ、2 スピンドルモータ、3 スピンドル、4 ハードディスク、4a,4b,4c,4d プラッタ、5 ロータリーアクチュエータ、6,6a,6b,6c,6d アーム、6a1,6b1,6c1,6d1 サスペンション、7,7a,7b,7c,7d 磁気ヘッド、8 ハードディスクケース、10 基板、10a 主表面、11 磁性膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピネルからなる、ハードディスク用の基板。
【請求項2】
ヤング率が150GPa以上350GPa以下である、請求項1に記載の基板。
【請求項3】
前記基板の一方の主表面の平均粗さRaの値が0.01nm以上3.0nm以下である、請求項1または2に記載の基板。
【請求項4】
請求項1に記載の基板を備える、ハードディスク。
【請求項5】
請求項4に記載のハードディスクを備える、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−14817(P2012−14817A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152926(P2010−152926)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】