説明

基板内部検査装置、基板内部検査方法、及び基板の製造方法

【課題】測定試料の汎用的内部検査を図ることができる基板内部検査装置、基板内部検査方法、及び基板の製造方法を提供する。
【解決手段】測定試料101の表面及び裏面に、He−Neレーザ102からの参照光をビームスプリッタ103で分割した光を照射した状態で、測定試料101の表面に、Nd:YAGレーザ105から射出し、SHG結晶106にて波長調整した励起光Bをパルス照射し、ディテクタ1131、1132にてそれぞれ検出された反射光の検出信号のピーク間隔を測定して、測定試料101内部の欠陥等の内部検査を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板内部検査装置、基板内部検査方法、及び基板の製造方法に関し、特に、測定試料である基板の両面から参照光を照射し、表面、裏面からの反射光をそれぞれ検出することにより、基板内部を検査する基板内部検査装置、基板内部検査方法、及び基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板の内部検査方法として、例えば特許文献1に記載のように、半導体のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有するレーザ光を照射して、積層欠陥の有無を判定する方法や、特許文献2に記載のように、X線トポグラフィー測定を行って基底面内欠陥を検出する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2009−66547号公報
【特許文献2】特開平2009−44083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、pnダイオードに順方向電流を流した後に積層欠陥が発生するか否かを検査するものであり、汎用性に欠ける。特許文献2に記載の技術は、X線回折データから回折パターンを識別するものであるから、やはり汎用的な内部検査を実現することは難しいという問題点がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであって、汎用的に基板の内部検査を行うことが可能な基板内部検査装置、基板内部検査方法、及び基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題点を解決するために、本発明に係る基板内部検査装置は、測定対象の表面に第1の参照光を照射する第1の参照光照射手段と、前記測定対象の裏面に第2の参照光を照射する第2の参照光照射手段と、前記測定対象の表面にて反射した前記第1の参照光を検出する第1参照光検出手段と、前記測定対象の裏面にて反射した前記第2の参照光を検出する第2参照光検出手段と、前記測定対象の表面及び裏面に参照光を照射した状態で、前記測定試料の一方の面に励起光をパルス照射する励起光照射手段と、前記励起光を照射した後、前記第1参照光検出手段の検出信号に現われるピークと、前記第2参照光検出手段の検出信号に現われるピークとの間の時間間隔を求めるピーク間隔測定手段とを備えることを特徴としている。
【0007】
本発明においては、基板の表面と裏面とで、反射光に現われるピークの間隔を測定して基板の内部検査を行うため、内部欠陥の発生原因や発生条件などが特に限定されず、汎用的な内部検査を図ることが可能となる。
【0008】
前記第1及び第2の参照光照射手段は、単一の光射出手段と、前記光射出手段から射出された光を分割する光分割手段とを含む構成とすることができる。前記光分割手段は、前記光射出手段から射出された光を、同一光量の二本の光に分割して前記第1の参照光及び前記第2の参照光とすることができる。
【0009】
前記第1の参照光及び前記第2の参照光のエネルギーは前記測定対象のバンドギャップより小さく、前記励起光のエネルギーは前記測定対象のバンドギャップよりも大きい構成とすれば、前記測定対象は、前記励起光により伝導帯に励起した電子が正孔と再結合する際に、非発光再結合により熱膨張する材料から成る場合に好ましい。
【0010】
本発明に係る基板内部検査方法は、測定対象の表面に第1の参照光を照射する第1の参照光照射工程と、前記測定対象の裏面に第2の参照光を照射する第2の参照光照射工程と、前記測定対象の表面にて反射した前記第1の参照光を検出する第1参照光検出工程と、前記測定対象の裏面にて反射した前記第2の参照光を検出する第2参照光検出工程と、前記測定対象の表面及び裏面に参照光を照射した状態で、前記測定試料の一方の面に励起光をパルス照射する励起光照射工程と、前記励起光を照射した後、前記第1参照光検出手段の検出信号に現われるピークと、前記第2参照光検出手段の検出信号に現われるピークとの間の時間間隔を求めるピーク間隔測定工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る基板の製造方法は、上記本発明に係る基板内部検査装置、又は本発明に係る基板内部検査方法を用いた欠陥等の内部検査を経て製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る基板内部検査装置等によると、汎用的に基板の内部検査を図ることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態における基板内部検査装置の構成について説明するためのブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における基板内部検査装置において、検出された基板の表面及び裏面からの反射光信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態における基板内部検査装置の構成について説明するためのブロック図である。
【0015】
本実施の形態では、内部検査の対象となる半導体基板である測定試料101の両面から参照光A1及びA2を照射した状態で、励起光Bを照射する。参照光A1及びA2としては、He−Neレーザ102から射出された波長632.8nm、出力8mJのレーザ光Aを、ビームスプリッタ103で、両者の光量が等しくなるようにレーザ光A1、A2に分割して用いる。
【0016】
ビームスプリッタ103でのレーザ光Aの分割位置から、測定試料101の表面(参照光A1の照射側)及び裏面(参照光A2の照射側)までの、それぞれの光路長が等しくなるように、ミラー1041及びミラー1042で、参照光A1、A2を反射させる。
【0017】
本実施の形態で用いた測定試料101は、市販のガリウムヒ素(GaAs)基板であるが、内部検査の対象がガリウムヒ素基板に限定されないことは勿論である。測定試料101の表面で反射した参照光A1は、励起光カットフィルタ1021を通してディテクタ1031で検出される。また、測定試料101の裏面で反射した参照光A2は、励起光カットフィルタ1022を通してディテクタ1032で検出される。励起光カットフィルタは、励起光Bがディテクタ1031、1032に入射することを防止する市販のものである。ディテクタ1031、1032による検出信号はデジタルオシロスコープ200に入力される。
【0018】
励起光Bとしては、Nd:YAGレーザ105から射出された波長1064nmのレーザ光を、SHG(第二高調波生成)結晶106を通して波長532nmとしたものを用いる。本実施の形態では、SHG結晶106と通過したレーザ光を、ミラー1071、1072、1073で反射させ、さらにスライドガラス108で反射させて測定試料101表面へと導く。
【0019】
スライドガラス108を通過したレーザ光の一部はディテクタ109に到達する。ディテクタ109の検出信号はデジタルオシロスコープ200に入力される。スライドガラス108で反射したレーザ光の一部がピンホール110を通り、レンズ111で集光されて、励起光Bとして測定試料101表面に照射される。本実施の形態では、励起光Bが測定試料101に照射される際、スポットの直径は約1mmである。
【0020】
励起光Bはパルス光であり、測定試料101表面に励起光Bが照射されると、ディテクタ1131及び1132の検出信号に、各々異なった変化が生じる。この検出信号はPTD(光熱拡散分光)信号である。図2は、測定試料101として、Non−dopeのGaAs(膜厚620μm、キャリア濃度8.01×10)を用いて測定を行った結果を示す図である。同図の例では、ディテクタ1131の検出信号(実線で表される)のピークと、ディテクタ1132の検出信号(点線で表される)のピークとの時間間隔は、0.4μ秒と測定された。
【0021】
本願発明者らは、半導体基板測定試料について、励起光の照射により価電子帯から伝導帯へと励起した電子が正孔と再結合する過程について検討を進めている。再結合には「発光再結合」と「非発光再結合(熱が発生する)」とが一般に知られているが、上記図2の結果は、非発光再結合過程において生じた熱により測定試料101が熱膨張し、測定試料101表面及び裏面に状態の変位が生じていることを示すものである。このような表面及び裏面の状態変位を、ディテクタ1131及び1132で、それぞれ検出し、現われた検出信号のピークの間隔をトレースすることにより、測定試料101内部の欠陥等の検査に利用することができる。なお、図2の結果は室温にて計測したものであるが、液体窒素等で冷却することにより、よりノイズの少ない信号が得られる可能性が高い。
【0022】
測定試料101内部に欠陥等が存在すると、欠陥等が存在しない場合と比較して、励起光Bによる励起により、励起光Bが照射された側(図1の例では表面側)で発生する非発光再結合による熱の測定試料101裏面への伝播に要する時間が変化する。従って、測定試料101の全面において、ディテクタ1131で検出された検出信号のピークとディテクタ1132で検出された検出信号のピークとの間の時間間隔を測定することにより、測定試料101の内部検査を行うことができる。前記した両ピークの時間間隔に有意な変化が検出された場合、その近傍に欠陥が存在することが推認されるからである。
【0023】
なお、励起光Bにより熱膨張した測定試料101は、一定時間(GaAsの場合、ほぼ0.003秒)の経過後には元の状態に戻るから、本実施の形態で説明した測定試料101の内部検査は、測定試料101を非破壊的に検査することができる。なお、励起光Bの波長や出力強度などは、測定試料101の種類や厚さ等により適宜調整すれば良く、上記に説明した具体例に限定されることはない。
【0024】
また、上記実施の形態では、測定試料として、ドーピングのないガリウム砒素(GaAs)を用いたが、励起光による電子の励起、非発光再結合及び熱膨張が生じ得る材料であって、その内部状態により、試料両面に照射された参照光の反射光検出信号ピーク間の時間間隔に有意の差が生じるものであれば、内部検査に適用することは可能である。測定試料の厚さについても、一方の面への励起光の照射により生じる熱が伝達可能な厚さであれば、適用することは可能である。
【0025】
基板の内部検査のためには、光源を単一として、測定試料101上を参照光及び励起光が走査するような実施形態も可能であるが、光源を複数設けて各々の光源で測定試料の異なる位置を測定するような実施形態も可能である。測定試料を回転させつつ、水平方向に動かす(あたかも、従前の音楽レコードを再生する場合におけるレコード針とレコードとの関係のように、参照光、励起光と測定試料との間の相対的位置関係を変化させる)ような実施形態であれば、測定試料の回転速度、水平方向の移動速度などを調整することで、基板全体の内部検査を行うことができる。
【0026】
測定試料101としては、所望のサイズにカットした後のサンプルを用いても良いが、上記のように、よりサイズの大きな基板全体を検査した後に、欠陥等が存在しない部分のみを切り出して実用に供することもできる。
【0027】
欠陥等の有無の測定のためには、基準となる(欠陥等が存在しない場合の)ピーク間隔を予め測定(決定)しておいて、欠陥等の存在を検査する方法でも良いし、測定試料である基板の材料、製造方法によっては、ピーク間隔が他の部分と有意に異なる場合に欠陥等が存在すると判断するような方法も可能である。これらの判断は、デジタルオシロスコープ200内で行うようにしても良いし、ディテクタ1131等に接続されたコンピュータで判断してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、例えば、半導体基板の内部検査に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
101 測定試料
102 He−Neレーザ射出装置
103 ビームスプリッタ(キューブハーフミラー)
1041、1042 ミラー
105 Nd:YAGレーザ射出装置
106 SHG結晶
1071〜1073 ミラー
108 スライドガラス
109 励起光ディテクタ
110 ピンホール
111 レンズ
1121、1122 励起光カットフィルタ
1131、1132 参照光ディテクタ
200 デジタルオシロスコープ
A He−Neレーザ光
A1、A2 参照光
B 励起光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の表面に第1の参照光を照射する第1の参照光照射手段と、
前記測定対象の裏面に第2の参照光を照射する第2の参照光照射手段と、
前記測定対象の表面にて反射した前記第1の参照光を検出する第1参照光検出手段と、
前記測定対象の裏面にて反射した前記第2の参照光を検出する第2参照光検出手段と、
前記測定対象の表面及び裏面に参照光を照射した状態で、前記測定試料の一方の面に励起光をパルス照射する励起光照射手段と、
前記励起光を照射した後、前記第1参照光検出手段の検出信号に現われるピークと、前記第2参照光検出手段の検出信号に現われるピークとの間の時間間隔を求めるピーク間隔測定手段とを備える
ことを特徴とする基板内部検査装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の参照光照射手段は、単一の光射出手段と、前記光射出手段から射出された光を分割する光分割手段とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の基板内部検査装置。
【請求項3】
前記光分割手段は、
前記光射出手段から射出された光を、同一光量の二本の光に分割して前記第1の参照光及び前記第2の参照光とする
ことを特徴とする請求項2に記載の基板内部検査装置。
【請求項4】
前記第1の参照光及び前記第2の参照光のエネルギーは前記測定対象のバンドギャップより小さく、前記励起光のエネルギーは前記測定対象のバンドギャップよりも大きい
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の基板内部検査装置。
【請求項5】
前記測定対象は、
前記励起光により伝導帯に励起した電子が正孔と再結合する際に、非発光再結合により熱膨張する材料から成る
ことを特徴とする請求項4に記載の基板内部検査装置。
【請求項6】
測定対象の表面に第1の参照光を照射する第1の参照光照射工程と、
前記測定対象の裏面に第2の参照光を照射する第2の参照光照射工程と、
前記測定対象の表面にて反射した前記第1の参照光を検出する第1参照光検出工程と、
前記測定対象の裏面にて反射した前記第2の参照光を検出する第2参照光検出工程と、
前記測定対象の表面及び裏面に参照光を照射した状態で、前記測定試料の一方の面に励起光をパルス照射する励起光照射工程と、
前記励起光を照射した後、前記第1参照光検出手段の検出信号に現われるピークと、前記第2参照光検出手段の検出信号に現われるピークとの間の時間間隔を求めるピーク間隔測定工程とを含む
ことを特徴とする基板内部検査方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の基板内部検査装置、又は請求項6に記載の基板内部検査方法を用いた欠陥等の内部検査を経て製造することを特徴とする基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−13130(P2011−13130A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158448(P2009−158448)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 「第29回 レーザー学会学術講演会」 主催者名 社団法人 レーザー学会 開催日 平成21年1月12日
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】