説明

基板表面汚染の評価方法および表面抵抗率の測定装置

【課題】基板表面の汚染状況を簡易な手法で評価する。
【解決手段】本発明の評価方法は、評価対象の基板1の表面抵抗率を測定するに際して、少なくとも測定点付近の湿度を連続的あるいは断続的に変化させて測定を行い、湿度変化に伴う表面抵抗率の変化状況に基づいて汚染状況を評価する。
本発明の測定装置は、基板1の表面に電極2aを接触させて表面抵抗率を測定するための測定器本体2と、該測定器本体を内部に収容した状態で電極を基板表面に接触させ得る湿度可変チャンバー3と、該湿度可変チャンバーに測定空気を供給するための測定空気供給機構4を具備し、該測定空気供給機構には測定空気の湿度を調整するための湿度可変機構4aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクリーンルーム内での各種電子部品の製造技術に関連し、特に基板表面の汚染状況を簡易に評価するための評価方法およびそのための測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、クリーンルーム内での半導体やフラットパネルディスプレイをはじめとする各種電子部品の製造や加工に際しては、その素材である基板表面に空気中の化学物質が吸着することによる表面汚染が製品品質に重大な影響を及ぼすことから、製造工程において基板表面の汚染状況を測定し評価することは製品の品質安定や良品率を向上させるために必要不可欠である。
【0003】
基板表面の汚染状況の評価・分析方法としては、たとえば以下のような手法が知られている。
(1)昇温脱離ガス分析法(TDS):評価対象の基板を密閉容器内において昇温し、基板表面から汚染成分を脱離させてガスクロマトグラフ(GC)や質量分析装置(MS)で分析する。
(2)表面洗浄法:基板表面を有機溶媒や純水で洗浄し、その洗浄液をGC、MS、イオンクロマトグラフ(IC)で分析する。
(3)拭き取り法:基板表面の汚染物質に不織布や石英ウールで拭き取り、有機溶媒や純水で汚染成分を溶出させ、GCやMSで分析する。
【0004】
さらに、フーリエ変換型赤外分光装置(FT−IR)を用いる光学的な方法や、二次イオン質量分析法も知られているが、そのような従来の方法はいずれもGCやMSといった複雑かつ高価な分析装置を必要とするばかりでなく、オンサイトでの分析・評価ができるものではないし、上記(1),(2)によるものでは大きな基板を非破壊的に分析することも不可能であり、製造工程上でのプロセス管理を行うことは困難である。
【0005】
そのため、上記各方法に比較してより簡易な評価法として、たとえば特許文献1に示されるように、基板表面の表面抵抗率(少なくとも2点間の電気抵抗値)を測定し、それを有機物付着量に換算して有機物汚染を評価する方法も提案されている。
これは、基板表面に各種化学物質が吸着すると(つまり基板表面が化学物質により汚染されると)、基板表面での水分子との親和性が変化して水分子の吸着量が変化し、それに起因して表面抵抗率が変化するという現象、より具体的には、基板表面が汚染されるほど親水性が低下して表面抵抗率が大きくなるという現象を利用したもので、高価な分析装置を必要とせずに簡易な測定器による表面抵抗率の測定のみで汚染評価が可能なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−338822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、基板表面の表面抵抗率を指標として汚染を評価する方法は上述したような高価な分析装置による場合に比較すれば充分に簡易に実施できるものではあるが、特許文献1に示される方法は評価対象の基板を隔離空間内に収容した状態で表面抵抗率を測定することから、大型基板の汚染状況をオンサイトで非破壊的に評価することは不可能であり、その点では事情は同じである。
また、表面抵抗率は測定点での湿度の影響を受けることから、測定に際しては隔離容器内の湿度を厳密に調整する必要があるし、測定中に湿度が不用意に変化しないように一定に保持する必要もあり、その点では必ずしも容易に測定できるものではないし測定精度も必ずしも充分ではない。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は基板表面の汚染状況を簡易な手法で評価することが可能な有効適切な評価方法とそのための測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、基板表面の汚染状況を該基板表面の表面抵抗率を指標として評価するための方法であって、評価対象の基板の表面抵抗率を測定するに際して、少なくとも測定点付近の湿度を連続的あるいは断続的に変化させて測定を行い、湿度変化に伴う表面抵抗率の変化状況に基づいて汚染状況を評価することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の方法により基板表面の汚染状況を評価するに際して評価対象の基板の表面抵抗率を測定するための装置であって、基板表面に電極を接触させて表面抵抗率を測定するための測定器本体と、該測定器本体を内部に収容した状態で前記電極を基板表面に接触させ得る湿度可変チャンバーと、該湿度可変チャンバーに測定空気を供給するための測定空気供給機構を具備し、該測定空気供給機構には測定空気の湿度を調整するための湿度可変機構を備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クリーンルーム内での各種電子部品の製造に際して基板表面の汚染状況を非破壊、オンサイト、リアルタイムで評価することが可能であって、そのような評価工程を製造プロセスに支障なく組み込むことが可能となる。また、連続測定や自動測定も可能であり、表面汚染の変化を経時的に評価することも可能であるから、良品率の向上や簡易で有効なプロセス管理、品質管理に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理を説明するための図であって、清浄基板と汚染基板の表面抵抗率と湿度との関係を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である測定装置によって基板の表面抵抗率の測定を行っている状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したように基板表面の汚染状況を表面抵抗率を指標として評価する場合、従来においては湿度の影響を排除する必要から湿度を一定に保持して表面抵抗率を測定していたのであるが、本発明では敢えて湿度を連続的あるいは断続的に変化させて測定を行い、その測定値の変化の状況から評価を行うことを主眼とするものであり、まず図1を参照して本発明の原理を説明する。
【0014】
図1は、汚染状況が既知の2枚の基板、すなわち充分に清浄な清浄基板と、意図的に汚染させた汚染基板とを対象として、相対湿度を5%から75%までほぼ連続的に変化させてそれぞれの表面抵抗率を測定した結果を示すものである。
この図1から、清浄基板よりも汚染基板の方が表面抵抗率が高くなること、およびいずれも湿度が高くなると測定値が低下する傾向があることが分かるが、汚染基板は清浄基板に比べて湿度の影響が顕著に生じることが分かる。
具体的には、清浄基板では湿度が5〜50%程度の範囲では湿度変化の影響は殆どなく50%を超えてはじめて緩慢に低下していくのであるが、汚染基板では25%程度まではほぼ一定であるがそれ以上では急激に低下することが分かる。つまり、いずれも湿度の影響は受けるものの汚染基板の方が遙かに顕著に影響を受け、特に汚染基板は高湿度領域では僅かな湿度変化でも測定値が大きく変化することになる。
【0015】
本発明は以上の知見に基づき、湿度を変化させて表面抵抗率を測定した場合における測定値の変化の状況から汚染状況を定性的に評価するものである。
すなわち、本発明は汚染状況が不明の基板を対象として、少なくとも測定点付近の湿度を変化させて上記と同様の測定を行うことにより、その結果から測定値があまり変化しなければ清浄であり、大きく変化すれば汚染されていると評価するものである。
したがって本発明では、湿度を連続的あるいは断続的に変化させて表面抵抗率を測定することのみで、複雑かつ高価な分析装置を必要としないばかりでなく、何ら面倒な操作や複雑な制御も必要とすることなく、極めて簡易に汚染状況の評価が可能である。
【0016】
なお、湿度変化に伴う表面抵抗率の変化は汚染の程度が高いほど大きくなるものであり、その変化の状況をより確実かつ明確に把握するためには湿度を広範囲に変化させてその範囲内で表面抵抗率を測定することが好ましいといえるが、湿度変化の影響が顕著に表れるような条件下であれば少なくとも2回の測定を行うことのみでも有意な評価が可能である。
たとえば湿度を25%から50%に変化させて2回の測定を行った場合、図1に示されるように清浄基板では測定値は殆ど変化しないのに対し、汚染基板では測定値が大きく変化して約60%も低下するから、単に2回の測定を行うことのみで変化の状況を確実に把握でき、そのことから汚染の有無や程度を定性的に評価することが可能である。
このように、異なる湿度間における表面抵抗率の変化量から表面汚染を評価することは、たとえば測定間隔が大きくて両測定値のドリフトが生じるような場合、あるいは表面抵抗率の測定を器差のある複数台の測定器で行う場合のように、表面抵抗率の直接比較ができない場合に特に有効である。
【0017】
また、本発明は以上のような湿度の影響による測定値の変化の状況から汚染状況を定性的に評価するものであって、これ自体では汚染物質の同定や基板表面への吸着量を定量的に測定するものではないが、このような定性評価をクリーンルーム内での各種電子部品の製造工程に組み込むことでオンサイトでのプロセス管理、品質管理を容易に実施することが可能となり、それにより品質向上と良品率の向上に寄与できるからこれ自体で充分に有効なものである。
勿論、予め汚染状況が既知の基板に対して様々な条件で試験を行って多くのデータを蓄積しデータベースを構築しておけば、本発明による測定結果を既知データと対照することにより定量的な評価を行うことも不可能ではない。
【0018】
以上で説明した本発明の評価方法は、評価対象基板の表面抵抗率を湿度を変化させて測定する限りにおいて適宜の測定装置を使用可能であるが、特に図2に示す構成の測定装置が好適に採用可能である。
これは2本ないし4本の電極2aを有する測定器本体2(すなわち2端針プローブあるいは4端針プローブ)を主体とし、その電極2aを評価対象の基板1に接触させて表面抵抗率を測定することを基本とするものであるが、測定器本体2を湿度可変チャンバー3内に収納した状態で電極2aを基板1に接触可能としておいて、その湿度可変チャンバー3内に測定空気を供給するための測定空気供給機構4を具備し、その測定空気供給機構4には測定空気の湿度を調整するための湿度可変機構4aを備えているものである。
これによれば、湿度可変機構4aによって測定空気の湿度を連続的あるいは断続的に変化させ、その測定空気を測定空気供給機構4によって湿度可変チャンバー3に供給しつつ、測定器本体2によって表面抵抗率を連続的あるいは断続的に測定することにより、図1に示したような表面抵抗率と湿度との関係を容易に把握することができることはもとより、自動測定や連続測定も可能であるし、表面汚染の経時変化も評価可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 基板
2 測定器本体
2a 電極
3 湿度可変チャンバー
4 測定空気供給機構
4a 湿度可変機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面の汚染状況を該基板表面の表面抵抗率を指標として評価するための方法であって、
評価対象の基板の表面抵抗率を測定するに際して、少なくとも測定点付近の湿度を連続的あるいは断続的に変化させて測定を行い、湿度変化に伴う表面抵抗率の変化状況に基づいて汚染状況を評価することを特徴とする基板表面汚染の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法により基板表面の汚染状況を評価するに際して評価対象の基板の表面抵抗率を測定するための装置であって、
基板表面に電極を接触させて表面抵抗率を測定するための測定器本体と、該測定器本体を内部に収容した状態で前記電極を基板表面に接触させ得る湿度可変チャンバーと、該湿度可変チャンバーに測定空気を供給するための測定空気供給機構を具備し、該測定空気供給機構には測定空気の湿度を調整するための湿度可変機構を備えてなることを特徴とする表面抵抗率の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−149771(P2011−149771A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10265(P2010−10265)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】