説明

塊状重合成形体

【課題】光線透過率が高く、熱伝導性に優れた塊状重合成形体、及びその原料として好適に用いられる、低粘度で取扱い性が良好な重合性組成物を提供すること。
【解決手段】少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなる、光線透過率が50%以上であり、かつ熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である、塊状重合成形体、及びシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなり、前記無機充填剤の含有量が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である重合性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塊状重合成形体、及びその原料としての重合性組成物に関する。さらに詳しくは、光線透過率が高く、熱伝導性に優れた塊状重合成形体、及びその原料として好適に用いられる、低粘度で取扱い性が良好な重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光学製品分野において、シクロオレフィンモノマーなどの非晶質の高分子でレンズを作る技術が知られている。かかる分野では近年、レンズの用途により、高い光線透過率以外に、優れた熱伝導率も要求されてきている。
例えば、特許文献1には、三量体以上のシクロペンタジエンの多量体を所定量含むノルボルネン系モノマーをメタセシス錯体触媒の存在下に塊状重合してなる樹脂成形体が開示されており、携帯電話に付属するカメラ用レンズなどに好適に用いられる旨記載されている。また、樹脂成形体の特性の改良等のため、例えば、充填剤を配合できること、その量としては、ノルボルネン系モノマー100重量部に対して、通常0.001〜5重量部であることが記載されている。しかしながら、その程度、充填剤を配合したとしても充分な熱伝導率を得ることはできない。
【0003】
一方、特許文献2には、所定のメタセシス触媒により、水分放出性化合物からなる難燃剤の存在下にノルボルネン系モノマーを塊状重合するノルボルネン系樹脂成形体の製造方法が開示されており、水分放出性化合物とノルボルネン系モノマーとの重量比は80/20〜20/80であるのが好ましい旨記載されている。しかしながら、所定の難燃剤をある程度の量配合すると、配合液の粘度が高くなって取扱い性に劣り、得られる成形体では、熱伝導率は向上するものの、光線透過率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−229166号公報
【特許文献2】特開2002−356540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、光線透過率が高く、熱伝導性に優れた塊状重合成形体、及びその原料として好適に用いられる、低粘度で取扱い性が良好な重合性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を用いれば、低粘度で取扱い性が良好な重合性組成物が得られ、しかも、当該組成物を塊状重合することにより、光線透過率が高く、熱伝導性に優れた塊状重合成形体が効率よく得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなる、光線透過率が50%以上であり、かつ熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である、塊状重合成形体、
〔2〕シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなり、前記無機充填剤の含有量が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である重合性組成物を塊状重合してなるものである、前記〔1〕記載の成形体、
〔3〕少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤が、炭素数2〜10の、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、及びアルキニレン基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤である前記〔1〕又は〔2〕記載の成形体、
〔4〕無機充填剤が、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を30体積%以上含むものである前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の成形体、
〔5〕シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなり、前記無機充填剤の含有量が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である重合性組成物、並びに
〔6〕25℃における粘度が3000mPa・s以下である前記〔5〕記載の重合性組成物、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光線透過率が高く、熱伝導性に優れた塊状重合成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の塊状重合成形体、及びその原料である重合性組成物についてそれぞれ分けて詳細に説明する。
【0010】
〔塊状重合成形体〕
本発明の塊状重合成形体は、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤(以下、カップリング剤Aという場合がある。)で表面処理してなる無機充填剤(以下、無機充填剤Aという場合がある。)を含有してなり、その光線透過率は50%以上であり、かつ熱伝導率は0.5W/(m・K)以上である。
【0011】
本発明の塊状重合成形体は、塊状重合可能であり、光透過性の成形体を生成しうる重合性モノマーと、無機充填剤Aと、を混合してなる重合性組成物を塊状重合してなるものである。前記重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレンモノマー、ビニルエステルモノマー、及びシクロオレフィンモノマー等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」はメタクリル酸又はアクリル酸を意味する。これらの重合性モノマーは、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、塊状重合が容易であり、機械的強度、耐熱性、及び光透過性に優れた成形体が得られることから、重合性モノマーとしては、シクロオレフィンモノマーを用いるのが好ましい。本発明の塊状重合成形体は、その生産性に優れることから、特に、後述する、シクロオレフィンモノマーを含有してなる、本発明の重合性組成物を塊状重合してなるものが好ましい。
【0012】
前記重合性モノマーを塊状重合して得られる成形体は、通常、50%以上の光線透過率を有する。しかしながら、当該成形体が、0.5W/(m・K)以上の熱伝導率を有しうるように無機充填剤を配合すると、光線透過率は、通常、50%未満となる。本発明においては、カップリング剤Aで表面処理してなる無機充填剤(無機充填剤A)を配合することから、塊状重合成形体は、所望の光線透過率と熱伝導率とを有する。無機充填剤Aを用いることによる塊状重合成形体の光線透過率の改善機序の詳細は明らかではないが、塊状重合時に、炭素−炭素不飽和結合基を介してカップリング剤Aがポリマー骨格に共有結合的に取込まれ、無機充填剤とポリマーとの界面での密着性が向上することが、得られる成形体の光線透過率の改善に寄与するものと推定される。本発明の塊状重合成形体の光線透過率としては、光透過性を高める観点から、好ましくは60%以上である。なお、その上限としては、通常、80%程度である。また、熱伝導率としては、放熱性を高める観点から、好ましくは0.7W/(m・K)以上、より好ましくは1W/(m・K)以上である。なお、その上限としては、通常、3W/(m・K)程度である。光線透過率及び熱伝導率は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0013】
(無機充填剤A)
無機充填剤Aは、カップリング剤Aにより無機充填剤の表面を処理したものである。カップリング剤の構造は一般に、TiやAl等の金属元素やSiなどに結合したアルコキシ基等からなる親水基と、樹脂などの疎水性表面と相互作用する疎水基とからなる。親水基中のアルコキシ基等としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、及びセトキシ基などが挙げられる。親水基は、アルコキシ基等の部分が加水分解し、縮合することで無機充填剤の表面と結合しうる。本発明に用いるカップリング剤Aは、カップリング剤の疎水基部分に少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有する。
【0014】
炭素−炭素不飽和結合基とは、脂肪族炭素−炭素二重結合又は脂肪族炭素−炭素三重結合を含む原子団をいう。炭素−炭素不飽和結合基としては、特に限定されないが、塊状重合時にポリマー骨格に取込まれやすいことから、炭素数2〜10の、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、又はアルキニレン基が挙げられる。カップリング剤A中、炭素−炭素不飽和結合基は、例えば、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、ノルボルニル基、及びスチリル基などとして存在しうる。カップリング剤A中の炭素−炭素不飽和結合基の数としては、通常、1〜3個である。カップリング剤A中に複数の炭素−炭素不飽和結合基が存在する場合、1種類のものからなっても、相異なる2種類以上のものからなってもよい。
【0015】
カップリング剤Aを構成するカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミネートカップリング剤、及びジルコネートカップリング剤などが挙げられる。中でも、無機充填剤への結合性に優れることから、シランカップリング剤が好適である。
【0016】
本発明に用いられるカップリング剤Aとしては、本発明の塊状重合成形体において光線透過率と熱伝導率とをバランス良く向上させる観点から、炭素数2〜10の、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、及びアルキニレン基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤が特に好適である。かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ノルボルニルトリメトキシシラン、ノルボルニルエチルトリメトキシシラン、及びスチリルトリメトキシシランなどが挙げられる。中でも、本発明の塊状重合成形体の光線透過率を向上させる観点から、ビニルトリメトキシシラン、ノルボルニルトリメトキシシラン、ノルボルニルエチルトリメトキシシラン、及びスチリルトリメトキシシランが好ましい。
【0017】
なお、無機充填剤の表面処理にカップリング剤A以外のカップリング剤Bを併用してもよい。カップリング剤Bとしては、特に限定されないが、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキサニルメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、δ−メタクリロキシブチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、及びN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。中でも、無機充填剤Aの分散性を向上させる観点から、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ヘキサニルメトキシシラン、及びオクタデシルトリメトキシシランを併用するのが好ましい。カップリング剤Bを併用する場合、本発明の塊状重合成形体において光線透過率を良好に保つ観点から、カップリング剤Aとカップリング剤Bとの割合としては、重量比(カップリング剤A/カップリング剤B)の値で、通常、0.001〜10である。カップリング剤Aとカップリング剤Bは、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
無機充填剤としては、公知の無機充填剤を用いればよく、特に限定されないが、本発明の塊状重合成形体において光線透過率を向上させる観点から、白色度が、通常、70以上、好ましくは85以上、より好ましくは90以上である無機充填剤を用いるのが好適である。なお、白色度の上限としては、通常、99.9である。白色度はJIS P8123に示される方法で測定することができる。また、屈折率が、通常、2以下、好ましくは1.8以下である無機充填剤を用いるのが好適である。なお、屈折率の下限としては、通常、1.3である。屈折率は、例えば、アッベ屈折率計により測定することができる。更に、本発明の塊状重合成形体において熱伝導率を高める観点から、通常、1W/(m・K)以上の熱伝導率を有する無機充填剤を用いるのが好適である。熱伝導率は、ホットディスク法により測定することができる。
本発明の塊状重合成形体において光線透過率と熱伝導率とをバランスさせる観点から、無機充填剤として具体的には、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、及び酸化ベリリウムなどの無機酸化物;や、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化カルシウムなどの金属水酸化物;が好ましく、前記バランスを保って光線透過率を向上させる観点から、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムがより好ましく、前記バランスを保って光線透過率と熱伝導率とを向上させる観点から、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムが特に好ましい。これらの無機充填剤は、所望の白色度を有するものを市販品として入手可能である。なお、シリカの屈折率は1.5程度、熱伝導率は2W/(m・K)程度であり、水酸化アルミニウムの屈折率は1.6程度、熱伝導率は7W/(m・K)程度であり、水酸化マグネシウムの屈折率は1.6程度、熱伝導率は8W/(m・K)程度である。
【0019】
無機充填剤としては、前記無機酸化物や金属水酸化物の他、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、及び窒化ケイ素などの無機窒化物;炭化ケイ素などの無機炭化物;銅、銀、鉄、アルミニウム、ニッケル、及びチタンなどの金属又は合金;ダイヤモンド、炭素繊維、及びカーボンブラックなどの炭素系化合物;石英や石英ガラス;ガラス繊維;などを併用してもよい。本発明の塊状重合成形体において光線透過率と熱伝導率とをバランスさせる観点から、無機酸化物及び金属水酸化物以外の無機充填剤を併用する場合、用いる無機充填剤中、無機酸化物及び/又は金属水酸化物の含有量は、通常、30体積%以上、好ましくは60体積%以上である。無機充填剤としては、通常、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を30体積%以上、特に60体積%以上含むものが好適に用いられる。無機充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
無機充填剤の粒子径(平均粒子径)は、所望により適宜選択すればよいが、粒子を三次元的にみたときの長手方向と短手方向の長さの平均値で、通常、0.01〜200μm、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜50μmの範囲である。
【0021】
カップリング剤Aによる無機充填剤の表面処理方法としては、特に限定されず、乾式法、湿式法、及びインテグラルブレンド法などの公知の方法で行うことができる。例えば、ヘンシェルミキサー内に無機充填剤を入れ、攪拌しながら、所望によりカップリング剤Bと共に、カップリング剤Aを噴霧し、次いで、100〜200℃で5〜120分間攪拌することで、所望の無機充填剤Aを調製することができる。カップリング剤Aの無機充填剤表面への付着の程度は、本発明の所望の効果が発現されうる限り、特に限定されるものではない。無機充填剤の表面処理において、カップリング剤Aの使用量(カップリング剤Bを併用する場合、カップリング剤Aとカップリング剤Bの合計使用量)は、無機充填剤100重量部に対して、通常、0.01〜30重量部である。
【0022】
無機充填剤Aとして、例えば、炭素数2〜10の、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、及びアルキニレン基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤により、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を30体積%以上含む無機充填剤の表面を処理することにより得られたものを用いることにより、本発明の塊状重合成形体の光線透過率及び熱伝導率を好適な値とすることができる。
【0023】
本発明の塊状重合成形体における無機充填剤Aの含有量としては、光線透過率と熱伝導率とのバランスを良好に維持する観点から、通常、10〜90体積%、好ましくは20〜80体積%、より好ましくは30〜70体積%である。なお、無機充填剤Aの含有量は、本発明の塊状重合成形体における無機充填剤自身の含有量と概略一致する。
【0024】
続いて、本発明の塊状重合成形体の製造方法につき、本発明の重合性組成物を用いる場合について説明する。
【0025】
〔重合性組成物〕
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び無機充填剤Aを含有してなり、前記無機充填剤Aの含有量は、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である。
【0026】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明で用いるシクロオレフィンモノマーは、炭素−炭素二重結合を含む脂環式構造を有する化合物であればよく、特に限定されないが、ノルボルネン環構造を有するノルボルネン化合物が好ましい。
【0027】
かかるシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン等の二環体;ジシクロペンタジエン(シクロペンタジエン二量体)、ジヒドロジシクロペンタジエン等の三環体;テトラシクロドデセン等の四環体;シクロペンタジエン三量体等の五環体;シクロペンタジエン四量体等の七環体;などを挙げることができる。これらのシクロオレフィンモノマーは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の、炭素数1〜10のアルキル基;ビニル基等の、炭素数2〜10のアルケニル基;エチリデン基等の、炭素数2〜10のアルキリデン基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の、炭素数6〜14のアリール基;などの置換基を有していてもよい。更に、これらのシクロオレフィンモノマーは、カルボキシル基、炭素数1〜10のアルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、オキシ基、シアノ基、及びハロゲン原子等の極性基を有していてもよい。
【0028】
シクロオレフィンモノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、シクロペンタジエン−メチルシクロペンタジエン共二量体、5−エチリデンノルボルネン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、5−シクロヘキセニルノルボルネン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4−メタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−ヘキサヒドロナフタレン、及びエチレンビス(5−ノルボルネン)などが挙げられる。これらのシクロオレフィンモノマーは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
中でも、シクロオレフィンモノマーとしては、入手が容易であり、重合反応性に優れ、得られるポリマーの耐熱性が向上することから、三環体、四環体又は五環体のシクロオレフィンモノマーが好ましい。
【0030】
また、生成するポリマーが、架橋剤の存在下に熱硬化可能なものとなるのが好ましく、かかる観点から、シクロオレフィンモノマーとしては、対称性のシクロペンタジエン三量体等の、反応性の二重結合を二個以上有する架橋性モノマーを含むものを用いるのが好ましい。用いる全シクロオレフィンモノマー中の架橋性モノマーの割合は、2〜30重量%であるのが好ましい。
【0031】
なお、本発明の目的を損なわない範囲で、シクロオレフィンモノマーと開環共重合し得る、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロオクテン、及びシクロドデセン等の単環シクロオレフィン等を、コモノマーとして用いてもよい。
【0032】
(メタセシス重合触媒)
メタセシス重合触媒としては、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能である、通常、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン、及び化合物などが結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、第5族、第6族及び第8族(長周期型周期表による。以下、同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。これら遷移金属原子の中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明に使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウム又はオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、得られる本発明の塊状重合成形体には未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質な成形体が得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。
【0033】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(1)又は一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【化1】

【0034】
上記一般式(1)及び一般式(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【0035】
1及びX2は、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0036】
1及びL2はそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又は当該化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子とは、周期律表第15族及び第16族の原子を意味し、具体的には、N、O、P、S、As、Se原子などを挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、N、O、P、S原子などが好ましく、N原子が特に好ましい。
【0037】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(3)又は一般式(4)で示される化合物が挙げられる。
【化2】

【0038】
式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0039】
中性の電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類などが挙げられ、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0040】
なお、上記式(1)及び(2)において、RとRは互いに結合して環を形成してもよく、さらに、R、R、X1、X2、L1及びL2は、任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0041】
本発明においては、メタセシス重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いることが、生産効率を高める観点から、好ましい。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、O原子、N原子等が挙げられ、好ましくはN原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリン構造やイミダゾリジン構造が好ましい。
【0042】
このようなヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒としては、上記一般式(1)又は(2)で表され、L1又はL2としてヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒を好適に用いることができる。ヘテロ原子含有カルベン化合物を構成するヘテロ原子としては、N原子が好ましい。このようなヘテロ原子含有カルベン化合物の具体例としては、例えば、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0043】
また、ヘテロ原子含有カルベン化合物からなる配位子を有するルテニウム触媒の具体例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ原子含有カルベン化合物と該化合物以外の中性電子供与性化合物とが結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
【0044】
本発明において、メタセシス重合触媒の使用量は、反応に使用するモノマー1モルに対し、通常、0.01ミリモル以上、好ましくは0.1ミリモル以上、且つ、50ミリモル以下、好ましくは20ミリモル以下である。メタセシス重合触媒の使用量が少なすぎると重合活性が低すぎて反応に時間が掛かるため生産効率が悪く、使用量が多すぎると反応が激しくなるため、成形不充分な状態で硬化したり、触媒が析出したりし易くなり、重合性組成物の保存が困難になる傾向がある。
【0045】
メタセシス重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。このような溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、及び脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0046】
(重合性組成物の調製)
本発明の重合性組成物は、上述したシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び無機充填剤Aを含有してなるものであるが、所望により、重合調整剤、重合反応遅延剤、老化防止剤、及びその他の配合剤などを添加することができる。
【0047】
前記無機充填剤Aの含有量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である。重合性組成物の粘度を適正に保ち、得られる塊状重合成形体において光線透過率及び熱伝導率をバランス良く向上させる観点から、好ましくは50〜700重量部、より好ましくは100〜500重量部である。
なお、シクロオレフィンモノマー以外の前記重合性モノマーで重合性組成物を調製する場合においても、当該組成物中、重合性モノマー100重量部に対し、無機充填剤Aを10〜1000重量部の範囲で配合することにより、所望の特性を有する塊状重合成形体を得ることができる。
【0048】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものである。重合調整剤としては、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の配合量は、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、好ましくは1:0.05〜1:100、より好ましくは1:0.2〜1:20、さらに好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0049】
重合反応遅延剤は、本発明の重合性組成物の重合反応の進行に起因する粘度増加を抑制し得るものである。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。重合反応遅延剤を用いる場合における、重合反応遅延剤の配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0050】
老化防止剤としては、例えば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤、及びイオウ系老化防止剤などが挙げられ、これらの老化防止剤を配合することにより、得られる塊状重合成形体の耐熱性を高度に向上させることができる。これらの中でも、フェノール系老化防止剤及びアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤を使用する場合における、老化防止剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、好ましくは0.0001〜10重量部、より好ましくは0.001〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0051】
また、本発明の重合性組成物には、上記した配合剤以外にその他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、架橋剤、連鎖移動剤、分散剤、光安定剤、消泡剤、及び発泡剤などが挙げられる。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。
【0052】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、メタセシス重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマー、無機充填剤A、及び所望によりその他の配合剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。このようにして得られる本発明の重合性組成物は、低粘度であり取扱い性に優れたものであるが、当該粘度としては、室温(25℃)にて20rpmの回転速度でE型粘度計により測定した値で、通常、3000mPa・s以下、好ましくは2000mPa・s以下、より好ましくは1000mPa・s以下、特に好ましくは500mPa・s以下、最も好ましくは300mPa・s以下である。なお、下限としては、通常、50mPa・sである。
【0053】
本発明の塊状重合成形体は、上述した本発明の重合性組成物を塊状重合することにより効率的に製造することができる。重合性組成物を塊状重合する方法としては、例えば、(a)重合性組成物を支持体に塗布し、塊状重合する方法や、(b)重合性組成物を型内に注ぎこみ、塊状重合する方法などが挙げられる。
【0054】
上記(a)の方法に用いる支持体としては、特に限定されないが、金属箔、樹脂フィルム、又は金属若しくは樹脂の板が好ましい。金属箔や金属板を構成する材料としては、例えば、鉄、ステンレス鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などが挙げられる。また、樹脂フィルムや樹脂板を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどが挙げられる。これらの支持体の表面は、例えば、銀、銅、及びニッケルなどによりめっきされていてもよい。支持体として、金属箔または樹脂フィルムを用いる場合における、これらの厚さは、作業性などの観点から、好ましくは1〜150μm、より好ましくは2〜100μm、さらに好ましくは3〜75μmである。これらの支持体の表面は平滑であることが好ましい。金属板または樹脂板を用いる場合は、強度の関係から好ましくは50μm〜5mm、より好ましくは100〜3mm、さらに好ましくは200μm〜2mmである。これらの金属板または樹脂板は、所望の形状を有するように、打ち抜き加工などで加工されたものであってもよい。また、重合性組成物を支持体に塗布する方法は特に制限されず、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法等の公知の塗布方法を採用できる。重合性組成物を支持体上に塗布した後、重合性組成物を加熱し塊状重合することにより、樹脂と支持体との複合体として塊状重合成形体が得られる。
【0055】
また、上記(b)の方法で用いる型としては、従来公知の成形型を用いることができる。例えば、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入した後、重合性組成物を加熱して塊状重合させることにより、塊状重合成形体を得る。なお、成形型の形状、材質、及び大きさなどは特に制限されない。またこの際、例えば、アルミや銅などの金属板などを、所望により、打ち抜き加工などにより予め所望の形状に加工して、金型内に設置した後、重合性組成物を注入し、塊状重合することで、かかる金属板などと一体化してなる塊状重合成形体を得ることもできる。あるいは、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、重合性組成物を加熱して塊状重合させることにより、塊状重合成形体を得てもよい。
【0056】
本発明の重合性組成物は低粘度であり取扱い性に優れる。また、該重合性組成物の塊状重合は、通常、200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下と比較的低い加熱温度で、かつ、通常、30分間以下、好ましくは10分間以下、より好ましくは5分間以下と比較的短い時間で、効率よく行なうことができる。しかも、得られるポリマーは、高いコンバージョン(重合転化率)を有するものとすることができる。具体的には、得られる塊状重合成形体中の残留モノマー含有量(40℃から260℃まで加熱した際の加熱減量)を、通常、2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、より好ましくは1重量%以下と低く抑えることができる。このように、得られるポリマーを、高いコンバージョンを有するものとすることができ、得られる塊状重合成形体の残留モノマー含有量を低減できることから、塊状重合成形体を加熱した場合の不良、例えば、膨れや割れを防ぐことができる。なお、前記加熱温度の下限としては、通常、50℃程度であり、前記加熱時間の下限としては、通常、10秒間程度である。
【0057】
以上のようにして得られる本発明の塊状重合成形体は、光線透過率が高く、熱伝導性に優れたものであるため、例えば、ビル、自動車、及び電車の窓ガラスなどの構造部材、光ファイバー、レンズ、及び光導波路などの光学材料(又は光学部材)、パソコン筐体や電球などの電子機器筐体、液晶ディスプレイ、タッチパネル、及びフレキシブルディスプレイなどの表示部材、光配線、プリント基板、透明電極、回路基板、及びアンテナなどの電子材料部材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0059】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従い測定し、評価した。
(1)粘度
重合性組成物の粘度は、E型粘度計(CAP−2000+、BROOK FIELD社製)を用いて、室温(25℃)にて20rpmの回転速度で測定し、以下の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○: 300mPa・s以下
△: 300mPa・s超、3000mPa・s以下
×: 3000mPa・s超
【0060】
(2)光線透過率
サンプルを厚さ1mm×長さ50mm×幅50mmの大きさに加工して試験片を得、該試験片について光線透過率を色差計(Spectrophotometer SE2000、日本電色工業株式会社製)で測定し、以下の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○: 60%以上
△: 50%以上、60%未満
×: 50%未満
【0061】
(3)熱伝導率
サンプルを厚さ1mm×長さ50mm×幅50mmの大きさに加工して試験片を得、23℃の恒温室に48時間以上静置した後、該試験片について熱伝導率を迅速熱伝導率計(QTM−500、京都電子工業株式会社製)を用いて非定常熱線比較法により測定した。なお、熱伝導率既知の比較用標準板として、シリコンスポンジ〔0.1W/(m・K)〕、シリコーンゴム〔0.2W/(m・K)〕、石英〔1.4W/(m・K)〕、ジルコニア〔3.4W/(m・K)〕、及びムライト〔5.7W/(m・K)〕を用いた。測定結果を、以下の評価基準で評価した。
〔評価基準〕
○: 0.7W/(m・K)以上
△: 0.5W/(m・K)以上、0.7W/(m・K)未満
×: 0.5W/(m・K)未満
【0062】
実施例1
ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 51部と、トリフェニルホスフィン 79部とを、トルエン 952部に溶解させることにより、触媒液を調製した。
【0063】
また、上記とは別に、ヘンシェルミキサー内に、平均粒子径8μmの水酸化アルミニウム(白色度:95;H−32、昭和電工株式会社製)1000部を入れて、攪拌しながら、カップリング剤Aとしてのノルボルニルエチルトリメトキシシラン 5部と、カップリング剤Bとしてのメチルトリメトキシシラン 5部〔量比(A/B)の値=1〕を噴霧し、次いで、120℃で15分間攪拌することで、水酸化アルミニウムをカップリング剤Aで表面処理してなる無機充填剤Aを得た。
【0064】
さらに、上記とは別に、反応容器内に、シクロオレフィンモノマー〔ジシクロペンタジエン:シクロペンタジエン三量体=90:10(重量比)〕100部、及び上記にて得られた無機充填剤A 200部を入れ、ホモジナイザーにより、攪拌・混合することにより、モノマー液を得た。
【0065】
そして、上記にて得られたモノマー液に、上記にて得られた触媒液を、モノマー液100g当たり0.12mLの割合で加えて、攪拌することにより、重合性組成物を得た。
【0066】
得られた重合性組成物を、厚さ1mm×長さ100mm×幅100mmの平板成形用の金型(一対のヒーター付きクロームメッキ鉄板に、コの字型スペーサーを挟んでなる金型)に流し込み、金型温度として製品面側温度160℃及び裏面側温度160℃の条件で、5分間加熱して塊状重合することにより、サンプル(塊状重合成形体)を作製した。得られたサンプルを用いて、上記(1)〜(3)にしたがい、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
実施例1で、カップリング剤Aとしてのノルボルニルエチルトリメトキシシラン 9部と、カップリング剤Bとしてのメチルトリメトキシシラン 1部〔量比(A/B)の値=9〕にした以外は、同様な操作を行い、サンプルを得た。結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
実施例1で、カップリング剤Aとしてのノルボルニルエチルトリメトキシシラン 2部と、カップリング剤Bとしてのメチルトリメトキシシラン 8部〔量比(A/B)の値=0.3〕にした以外は、同様な操作を行い、サンプルを得た。結果を表1に示す。
【0069】
実施例4
実施例1で、カップリング剤Aとして、ノルボルニルエチルトリメトキシシランに替えてビニルトリメトキシシランを用いた以外は、同様な操作を行い、サンプルを得た。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
実施例1で、無機充填剤Aの配合量を5部にした以外は、同様な操作を行い、サンプルを得た。結果を表1に示す。
【0071】
比較例2
実施例1で、無機充填剤Aの配合量を1500部にした以外は、同様な操作を行った。しかし、重合性組成物の粘度が高すぎて、成形できず成形体のサンプルが得られなかった。
【0072】
比較例3
実施例1で、カップリング剤Aとしてのノルボルニルエチルトリメトキシシランを用いず、カップリング剤Bとしてのメチルトリメトキシシランを10部とした以外は、同様な操作を行い、サンプルを得た。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1より、実施例1〜4では、重合性組成物が低粘度であり、光線透過率と熱伝導率の高いサンプルが得られたことが分かる。一方、比較例1では、無機充填剤Aの配合量が不充分であり、サンプルが熱伝導率に劣り、比較例3では、実施例1の無機充填剤Aに替えて、カップリング剤Bで表面処理した無機充填剤を用いたところ、重合性組成物の粘度が増加し、得られたサンプルは光線透過率に劣ることが分かる。比較例2では、無機充填剤Aの配合量が過剰であり、重合性組成物の粘度上昇が大きく、成形体のサンプルが得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなる、光線透過率が50%以上であり、かつ熱伝導率が0.5W/(m・K)以上である、塊状重合成形体。
【請求項2】
シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなり、前記無機充填剤の含有量が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である重合性組成物を塊状重合してなるものである、請求項1記載の成形体。
【請求項3】
少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤が、炭素数2〜10の、アルケニル基、アルケニレン基、アルキニル基、及びアルキニレン基からなる群から選択される少なくとも1つの基を有するシランカップリング剤である請求項1又は2記載の成形体。
【請求項4】
無機充填剤が、シリカ、水酸化アルミニウム、及び水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を30体積%以上含むものである請求項1〜3いずれか記載の成形体。
【請求項5】
シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、及び少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合基を有するカップリング剤で表面処理してなる無機充填剤を含有してなり、前記無機充填剤の含有量が、前記シクロオレフィンモノマー100重量部に対して10〜1000重量部である重合性組成物。
【請求項6】
25℃における粘度が3000mPa・s以下である請求項5記載の重合性組成物。

【公開番号】特開2012−153846(P2012−153846A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16208(P2011−16208)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】