説明

塗布ヘッドおよびプラズマディスプレイ用部材の製造方法

【課題】
塗液の漏れなく、基材に対する高精度な平行度をもつ塗布ヘッドであって、複数の金属部材とそれらに挟み込まれるシール部材から構成され、組み立てた状態で一定期間経た後に分解しても、シール部材が金属部材に固着することなく、シール部材と金属部材を容易に分離することができる塗布ヘッドを提供することを目的とする。
【解決手段】
第1の金属部材と第2の金属部材のそれぞれの接合面が互いに向き合うように配置され、かつ第1の金属部材の接合面側に設けられた溝部内にシール部材が配置され、シール部材を圧縮する応力により第1の金属部材および第2の金属部材とが固定されてなり、第2の金属部材の接合面のうちシール部材と接触する部分の表面の最大高さが、第2の金属部材の接合面のうちシール部材と接触せず直接第1の金属部材と向き合う部分の表面の最大高さより大きいことを特徴とする塗布ヘッドとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと略称することもある)に代表されるディスプレイパネル、液晶カラーフィルター(LCM)、有機EL、光学フィルター、プリント基板、集積回路、半導体等の、特に高粘度な塗液を塗布するような分野に使用可能であり、例えばPDP製造工程における、ガラス基板などの基材表面に薄膜パターンを形成するにあたって好適に用いられる塗布ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な方式で多様化するディスプレイの中で注目されているものの一つに、大型で薄型軽量化が可能なPDPがある。PDPは、前面板と背面板の間に形成された放電空間内で放電を生じさせ、この放電によりキセノンガスから波長147nmを中心とする紫外線が生じて、この紫外線が蛍光体を励起することによって表示が可能となる。赤(R)、緑(G)、青(B)に発光する蛍光体を塗り分けた放電セルを駆動回路によって発光させることにより、フルカラー表示に対応できる。
【0003】
このPDPにおいて代表的なAC型プラズマディスプレイは、表示電極/誘電体層/保護層を形成した前面ガラス板と、アドレス電極/誘電体層/隔壁層/蛍光体層を形成した背面ガラス板とを貼り合わせ、ストライプ状あるいは格子状の隔壁で仕切られた放電空間内にHe−Xe、または、Ne−Xeの混合ガスを封入した構造を有している。R、G、Bの各蛍光体層は、粉末状の蛍光体粒子を主成分とする蛍光体が、背面板に形成された色毎に一方向に延びる隔壁、またはこのような隔壁とこれに直交する補助隔壁により形成された凹部に充填されてなる。蛍光体層は蛍光体粉末および有機成分を含む蛍光体ペーストを上述の隔壁、または隔壁および補助隔壁によって形成された凹部に塗布し、乾燥し、必要に応じ焼成することによって形成される。このような構造のものを高い生産性と高品質で製造するには、蛍光体ペーストを一定のパターン状に塗り分ける塗布技術が重要となる。
【0004】
この蛍光体ペーストの塗布方法として、塗液の使用効率が高いことや安価で塗布が容易なことから、塗液溜り部と複数の吐出孔を有する塗布ヘッドを使用し、この塗布ヘッドを背面板と対向させ、塗布ヘッドと背面板を相対的に移動させながら、吐出孔から蛍光体ペーストを吐出して塗液を凹部に充填する方法が提案、検討されている。(参考文献1参照)
この塗布方法において、塗液である蛍光体ペーストの吐出方法としては、塗布ヘッド内の塗液溜り部の塗液に圧力を加えて吐出孔より押し出すことにより行う方法が提案されている。(参考文献2参照)。この吐出方法において塗液溜り部の塗液への加圧は、塗液が高粘度であっても吐出制御が容易で、高価な機器を必要としないことから、塗布ヘッド内部に塗液溜り部および塗液溜り部の上方に空間部を有するマニホールドを形成し、この空間部に吐出制御用気体を供給することにより行う。塗液の吐出は、この加圧された塗液溜り部の塗液を、略一直線状に配列される複数の吐出孔より押し出すことで行われる。
【0005】
ところで、特にPDP背面板などの枚葉の基材への塗液の塗布は、基材に応じて、各基材に対して一度に、または複数回に分けて、所定の長さの塗布を繰り返して行われる。そのため、枚葉の基材に塗液を塗布する塗布ヘッドは、基材の大型化に対応し、かつ塗布効率を上げるために、基材のサイズに応じて、吐出孔の配列する方向への長尺化が図られてきている。
【0006】
このような塗布に用いられる塗布ヘッドとしては、複数の吐出孔を高精度に加工できる加工性や、塗布使用後の洗浄性、塗液の漏れ性などを考慮して、接合面にOリングなどのシール手段を挟み込んだ複数の金属部材により構成される塗布ヘッドが提案されている。(参考文献3、4参照)
ここで、特許文献1に示すような塗液の塗布方法において、背面板と塗布ヘッドの距離(以下、クリアランス)は一定に保持することが好ましい。なぜなら、クリアランスが増大すると塗布ヘッドの吐出量が増大するためである。そのため、先述した複数の吐出孔を有する長尺化した塗布ヘッドにおいては、複数の吐出孔からの吐出量を一定にするために、各吐出孔と基材との距離を一定に保持することが必要であり、そのために、基材と対向する塗布ヘッドは基材に対する非常に高精度な平行度が必要となる。
【0007】
しかし、上記のような塗布ヘッドにおいては、以下のような問題があった。
【0008】
複数の金属部材で構成される塗布ヘッドは、基材に対する高精度な平行度を得るために高精度に組み立てる必要があり、そのために金属部材同士の接合面は、高精度に平滑にする必要がある。しかし、このような塗布ヘッドは組み立て後、ある一定期間以上を経ると、塗液の漏れ防止のために金属部材間に挟み込まれたシール部材が固着して、金属部材から取り除く際にそのシール部材が破損してしまうとともに、金属部材にシール部材が残留してしまうことがあった。また、それにより、塗布ヘッドの洗浄に多大な時間を要してしまったり、新たな金属部材やシール部材の製作、購入が必要となってしまうことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−027543号公報
【特許文献2】特許4055580号公報
【特許文献3】特許4127096号公報
【特許文献4】特開2008−080227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記を鑑みてなされたものであり、複数の金属部材とそれらに挟み込まれるシール部材から構成される塗布ヘッドであって、塗液の漏れがなく、基材に対する高精度な平行度を有する場合であっても、組み立てた状態で一定期間経た後に分解してもシール部材が金属部材に固着することなく、シール部材と金属部材を容易に分離することができる塗布ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、塗液溜り部および前記塗液溜り部の上方に位置する空間部を有するマニホールドと、略一直線状に配列される複数の吐出孔を有する塗布ヘッドであって、少なくとも第1の金属部材、シール部材および第2の金属部材からなり、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材のそれぞれの接合面が互いに向き合うように配置され、かつ前記第1の金属部材の接合面側に設けられた溝部内に前記シール部材が配置され、前記シール部材を圧縮する応力により前記第1の金属部材および前記第2の金属部材とが固定されてなり、前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触する部分の表面の最大高さが、前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触せず直接前記第1の金属部材と向き合う部分の表面の最大高さより大きいことを特徴とする塗布ヘッド、を提供する。
【0012】
また、前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触する部分の表面の最大高さが、0.3μm以上であることが好ましい。
【0013】
さらに、前記シール部材が、ゴム成型物であることが好ましい。
【0014】
本発明は、上記塗布ヘッドの前記第1の金属部材の接合面と前記第2の金属部材の接合面が、前記シール部材を介せず直接接触するメタルタッチ部分を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は上記の塗布ヘッドを用いて蛍光体ペーストを塗布することを特徴とするプラズマディスプレイ用部材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、第2の金属部材の接合面のうちシール部材と接触する部分の表面の最大高さを、第2の金属部材の接合面のうちシール部材と接触せず直接第1の金属部材と向き合う部分の表面の最大高さより大きくすることにより、塗布ヘッドが基材に対する高精度な平行度を得るために平滑に仕上げられた第1の金属部材と第2の金属部材の接合面において、その平滑な仕上げにより、シール部材が第2の金属部材に固着することを防止でき、シール部材を取り外すときのシール部材や第2金属部材の損傷も防止できる。
【0017】
また、第2の金属部材の接合面のうちシール部材と接触する部分の表面の最大高さを0.3μm以上にすることにより、より確実に、シール部材の第2の金属部材への固着と、シール部材を取り外すときのシール部材や第2金属部材の損傷を防止できる。
【0018】
さらに、シール部材がゴム成型物であることにより、容易に変形ができる弾性体であるため、複雑な形状を有する金属部材であってもシールを確実に行うことができ、その上で塗布ヘッドが基材に対する高精度な平行度を得ることができる。
【0019】
本発明の塗布ヘッドの第1、第2の金属部材の接合面は、シール部材を介せず直接接触するメタルタッチ部分を有するようにすることにより、シール性を確保しながら、塗布ヘッドは基材に対する高精度な平行度を得ることができる。
【0020】
本発明における塗布ヘッドをプラズマディスプレイ基板における蛍光体ペースト塗布に適用することにより、塗布ヘッドの基材に対する平行度不良による吐出量バラツキなどの塗布欠点のない、プラズマディスプレイパネル基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明における塗布ヘッドの吐出孔の配列方向の断面形状と、その塗布ヘッドを用いた塗液の塗布装置の一例を示した模式図である。
【図2】図1に示す塗布ヘッドの吐出孔の配列方向と垂直な方向の断面図である。
【図3】図1に示す塗布ヘッドの第1の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図4】図1に示す塗布ヘッドの第2の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図5】本発明の別の一実施態様に係る塗布ヘッドの吐出孔の配列方向と垂直な方向の断面図である。
【図6】図5に示す塗布ヘッドの第1の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図7】図5に示す塗布ヘッドの第2の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図8】従来の塗布ヘッドの第2の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図9】比較例3の塗布ヘッドの第1の金属部材の接合面側から見た外観を表す模式図である。
【図10】比較例3の塗布ヘッドのシール部材の形状を表す模式図である。
【図11】比較例3の塗布ヘッドの吐出孔の配列方向と垂直な方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
まず、本発明に係る塗布ヘッドを用いた塗液の塗布装置、特に凹凸基板(例えば、プラズマディスプレイパネル用部材)への塗液の塗布装置の例について説明する。図1は、本発明の一実施態様に係る塗布ヘッドを用いた塗布装置における塗液の補給と吐出に係る部分の構成と、複数の吐出孔の配列方向の塗布ヘッドの断面形状を示した模式図である。
【0024】
まず、図1に示す塗布装置1における塗布ヘッド20への塗液の補給に係る部分について説明する。塗布ヘッド20には、マニホールド24内に塗液を補給するための配管4が補給口29に接続され、この配管4の反対側先は、塗液の補給を制御する開閉バルブ5を介して、塗液を貯蔵する塗液容器3が接続されている。開閉バルブ5は、コントローラ12によりその開閉を制御される。塗液容器3には、塗液を押し出して塗布ヘッド20に補給するための吐出制御用気体を供給する配管7が接続され、この配管7の反対側先には、減圧弁8を介して、吐出制御用気体源6に接続されている。減圧弁8は、吐出制御用気体源6の吐出制御用気体を塗液の補給に必要な圧力に調整することができる。
【0025】
次に、塗布ヘッド20からの塗液の吐出に係る部分について説明する。塗布ヘッド20内のマニホールド24には、吐出制御用気体の供給と排出をするための通路となる配管9が接続され、この配管9の反対側先は、吐出バルブ10が接続されている。吐出バルブ10は三方弁となっており、一方は減圧弁11を介して吐出制御用気体源6に接続する配管9に接続し、もう一方は大気に開放されている。減圧弁11は、吐出制御用気体源6の吐出制御用気体を塗布ヘッド20からの塗液の吐出に必要な圧力に調整することができる。吐出バルブ10は、塗布ヘッド20内のマニホールド24が吐出制御用気体源6と大気のどちらと連通するかを切り換えることができ、その切り換えはコントローラ12により制御される。
【0026】
図1に示す塗布装置1において、塗布を実施する場合はまず、塗液容器3から塗布ヘッド20のマニホールド24内に塗液を補給する。塗布ヘッド20への塗液の補給は、開閉バルブ5を開くことにより行われ、補給が完了した後には開閉バルブ5を閉じる。
【0027】
このとき塗液は、塗布ヘッド20のマニホールド24内に、空間部26を残す形で所定量に貯えられる。マニホールド24内の塗液の量は、吐出毎に、マニホールド24内の塗液溜り部25の上方に位置する空間部26内に吐出制御用気体が充填されて吐出孔より塗液を吐出するまでの時間を均一にするために、一定に保つ必要がある。そのため、塗液を吐出した後は常に空間部26の容積が所定量になるまで塗液をマニホールド24内の塗液溜り部25に補給する。そのため、塗布ヘッド20内の塗液量を検出する塗液量検出手段(図示しない)を有することが好ましい。
【0028】
塗布ヘッド20からの塗液の吐出は、塗布ヘッド20と吐出制御用気体源6が連通するように吐出バルブ10を切り換えて、塗布ヘッド20のマニホールド24内の空間部26に吐出制御用気体を供給することにより、吐出孔23から塗液を押し出すことで行われる。また、塗布ヘッド20からの塗液の吐出の停止は、吐出バルブ10を切り換えて空間部26が大気に開放されるようにすることで、吐出制御用気体の供給を停止し、空間部26から吐出制御用気体を排出することで行われる。
【0029】
なお、塗布ヘッド20への塗液の補給および吐出孔23からの塗液の吐出の制御は、塗布ヘッド20内の塗液量検出手段、開閉バルブ5、および吐出バルブ10が繋がれたコントローラ12により制御される。
【0030】
図1に示す塗布ヘッド20について、図2に吐出孔23の配列方向と直角な方向の断面図、図3に塗布ヘッド20の第1の金属部材21の、第2の金属部材22との接合面側から見た模式図、図4に塗布ヘッド20の第2の金属部材22の、第1の金属部材21との接合面側から見た模式図を示し、これらを用いて塗布ヘッド20について詳細に説明する。
【0031】
この塗布ヘッド20は、略一直線状に配列された吐出孔23と、これに連通して内部に塗液溜り部25と塗液溜り部25の上方に位置する空間部26を有するマニホールド24と、塗液をマニホールド24内に補給するための入口となる補給口29と、からなる。
【0032】
ここに示す塗布ヘッド20は、破線部B−Bで示す接合面で上下に2分割される構造となっており、ボルト締結(図示しない)により各々を結合している。この塗布ヘッド20において、略一直線状に吐出孔23が配列されている部材を第1の金属部材21、塗液を補給するための補給口29が設けられている部材を第2の金属部材22とする。図3に示す第1の金属部材21には、マニホールド24に接せずに、マニホールド24の一回り外側でマニホールド24を取り囲むように溝部27が形成されており、ここに塗液が洩れ出ないようにするためのシール手段となるOリング28が嵌め込まれる。
【0033】
図3に示す第1の金属部材21において、第2の金属部材22との接合面の、第2の金属部材22と直接向き合う部分の表面粗さは、組み立て後の塗布ヘッド20が基材2に対する高精度な平行度を得られるように、極めて平滑に仕上げられている。ここで、塗布ヘッドの基材に対する平行度とは、塗布ヘッドにおいて、基材と向かい合って吐出孔が形成されている面の、基材に対する平行度のことである。一方、Oリング28を嵌め込む溝部27内の表面粗さは、JIS規格(1991 JIS B 2406)に沿った最大高さとしている。
また、図4に示す第2の金属部材22において、第1の金属部材21との接合面の、第1の金属部材21と直接向き合う部分の表面粗さは、組み立て後の塗布ヘッド20が基材2に対する高精度な平行度を得られるように、第1の金属部材21と同様に極めて平滑に仕上げられているのに対して、第1の金属部材21の溝部27に嵌め込まれているOリング28と接触する部分101に限り、表面の最大高さは、第1の金属部材21と直接向き合う部分よりも大きくしている。
【0034】
第2の金属部材において、シール部材と接触する部分の表面の最大高さに限り、第1の金属部材との接合面の、第1の金属部材と直接向き合う部分の表面の最大高さより大きくすることにより、塗布ヘッドを組み立てたときにシール部材が第2の金属部材と接触する面積を減らすことができ、それゆえ、シール部材が第2の金属部材に固着することを防止できる。また、第2の金属部材のシール部材との接触する部分の表面の最大高さを0.3μm以上とすることが好ましい。これにより、さらに確実にシール部材が第2の金属部材に固着することを防止できる。さらに好ましくは、シール部材と接触する部分の最大高さを0.8μm以下にすると、固着防止と共に、吐出孔より塗液を吐出するための吐出制御用気体の圧力が高圧となるような使用環境下でも漏れを防止できる。また、これらのようにすることにより、塗布ヘッドの第1の金属部材、第2の金属部材と、シール部材とを容易に分離できることから、塗布ヘッド内部の洗浄を容易に行うことができ、また、各部材を繰り返して使用することができる。
【0035】
なお、表面の最大高さは、JIS規格(2001 JIS B 0601)により定められており、基準長さにおける輪郭曲線(粗さ曲線)における山高さの最大値と谷深さの最大値の和である。
ここで、第1の金属部材と第2の金属部材の材質は、例えば、クロム鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼などの合金鋼や、炭素鋼、アルミニウムや銅、その合金などの非鉄金属などの、いかなるものであっても構わない。
【0036】
また、第1の金属部材と第2の金属部材の結合方法は、シール部材がシールに必要な圧縮応力を得ることができ、塗布ヘッドの組み立てと分解が容易で、かつ塗布に使用するのに必要な結合力が得られるのであるならば、ボルトによる締結以外でも、例えばクランプによる締結や接着剤などであっても良い。
【0037】
さらに、図1に示す塗布ヘッド20においては、シール部材としてOリング28を用いているが、そのシール部材形状はOリングでなくても良く、シート状のガスケットなどどのようなものでも構わない。
【0038】
シール部材の材質は、安価で繰り返しの使用が可能であり、かついかなる形状にも成型が容易なゴム成型物が好ましい。ゴム成型物であれば、接合面の限られた範囲を効率良くシールでき、塗布ヘッドのような特殊な形状にも対応できる。なお、ここに述べたような特性を満たすものであるならば、ゴム成型物以外の、樹脂や金属、さらにそれらを組み合わせたものなどであっても良い。
【0039】
ここで、第1の金属部材と第2の金属部材の互いの接合面は、シール部材を介せずに直接接触するメタルタッチ部分を有することが好ましい。なぜなら、極めて平滑に仕上げた接合面同士を接触させるメタルタッチ部分を有することで、第1の金属部材と第2の金属部材を組み立ててなる塗布ヘッドが、基材に対する高精度な平行度を得ることができるからである。
【0040】
図5〜7は、本発明の別の一実施態様に係る塗布ヘッド30およびそれを構成する第1の金属部材31、第2の金属部材32の形状を示す。図5に吐出孔33の配列方向と直角な方向の断面図、図6に塗布ヘッド30の第1の金属部材31の、第2の金属部材32との接合面側から見た模式図、図7に塗布ヘッド30の第2の金属部材32の、第1の金属部材31から見た模式図を示し、これらを用いて塗布ヘッド30について詳細に説明する。
【0041】
この塗布ヘッド30は、略一直線状に配列された吐出孔33と、これに連通して内部に塗液溜り部35と塗液溜り部35の上方に位置する空間部36を有するマニホールド34と、マニホールド34に連通し、マニホールド34に塗液を供給するスリット41a、41bと、スリット41a、41bに連通し、吐出孔33の配列方向に塗液を拡幅させる供給用塗液溜め部40a、40bと、供給用塗液溜め部40a、40b内に塗液を補給するための入口となる補給口39a、39bと、からなる。
【0042】
ここに示す塗布ヘッド30は、破線部C−Cで示す接合面で上下に2分割される構造となっており、ボルト締結(図示しない)により各々を結合している。この塗布ヘッド30において、略一直線状に吐出孔33が配列されている部材を第1の金属部材31、塗液を補給するための補給口39a、39bが設けられている部材を第2の金属部材32とする。図6に示す第1の金属部材31には、マニホールド34とスリット41a、41b、供給用塗液溜め部40a、40bの塗液に接する接液部分に接せずに、マニホールド34とスリット41a、41b、供給用塗液溜め部40a、40bの一回り外側でこれらを取り囲むように溝部37が形成されており、ここに塗液が洩れ出ないようにするためのシール手段となるOリング38が嵌め込まれる。
【0043】
ここで、図7に示す第2の金属部材32における第1の金属部材31との接合面の一部は、塗布ヘッド30組み立て時に塗液が流れるスリット41a、41bの内壁を形成するため、その表面粗さは、組み立て後の塗布ヘッド30が基材に対する高精度な平行度を得られ、かつ塗液の流れを抗することがないように、極めて平滑に仕上げられている。しかし、第2の金属部材32における、第1の金属部材31の溝部37に嵌め込まれているOリング38と接触する部分102に限り、表面の最大高さは、第1の金属部材31と直接向き合う部分よりも大きくしている。これにより、Oリング38が第2の金属部材32に固着することを防止できる。
【0044】
このように本発明は、第1の金属部材や第2の金属部材の接合面が、シール部材と接触する部分と、直接互いに向き合う部分と、で構成されるような塗布ヘッドだけでなく、接合面が塗液と接する部分も有する構成のような塗布ヘッドにも適用できる。なお、塗液が接する部分の表面粗さは、塗液の流れを抗することがないようなものであれば、シール部材と接触する部分と同じであってもよく、直接互いに向き合う部分と同じであっても良く、またそれら以外であっても良い。
【0045】
図2や図5で示すような塗布ヘッドは、塗布する基材のサイズに合わせて選択され、1回の塗布動作で塗布を完了するために、複数の吐出孔が略一直線状に配列して設けられる。例えば、塗布する基材がプラズマディスプレイの背面板のような凹凸基板の場合は、R、G、B何れかの蛍光体粉末を含んだ塗液を塗布することが好ましく、その場合、塗布ヘッドにはその塗布する凹部に対応した数、ピッチで吐出孔が略一直線状に設けられる。
【0046】
ここで、塗布ヘッドは、吐出孔の数を減らして複数回の塗布動作で基材1枚への塗布を完了するものであってもよい。つまり、短尺型のものであったり、吐出孔のピッチを広げたものであってもよい。また、塗布ヘッドの吐出孔の大きさや形状も、塗液を塗布する幅や、塗布する塗液の量に応じて選定すればよく、吐出孔の大きさや形状、数は特に限定されるものではなく、塗布する目的によって、如何なるものであってもよい。たとえば、塗液をシート状に吐出する場合は、吐出孔ではなく、塗布ヘッドの幅方向に長い開口部(スリット)を有する形状にしてもよい。
【0047】
これまで一種類の塗液を塗布する場合の塗布ヘッドについて言及したが、R、G、B3色の塗液を同時に塗布するような塗布ヘッドの場合にも本発明は適用でき、さらに、基材の表面に形成された格子状の凹部に塗布する場合にも適用できる。
【実施例】
【0048】
実施例1
次に、本発明の一実施態様に係る塗布ヘッドを用いて、プラズマディスプレイ背面板に塗液を塗布した場合の実施例を示す。
【0049】
枚葉の基材であるプラズマディスプレイ背面板は、サイズ990×600mm、被塗布
面に高さ0.12mmで頂部の幅0.05mmのリブが、ピッチ0.3mmで3097本
形成されており、これにより隣り合うリブとの距離(溝幅)が0.25mm、溝の数が3
096本のものを用いた。また、塗液は粘度50Pa・sの緑色の蛍光体粉末を含む蛍光
体ペーストを使用した。
【0050】
上記のプラズマディスプレイ背面板における隔壁間に蛍光体ペーストを塗布する塗布装置として、図2〜4に示す本発明の塗布ヘッド20を用いた図1に示す塗液の塗布装置1を用いた。この塗布装置1は、気温が23℃一定に保たれている環境下に設置している。
【0051】
塗布ヘッド20は、複数の吐出孔23が略一直線上に配列している第1の金属部材21と、シール部材となるOリング28、および第2の金属部材22からなる。なお、第1の金属部材21、第2の金属部材22共に、材質はステンレス鋼製(SUS304)である。
【0052】
第1の金属部材21には、孔径がφ0.12mmの吐出孔が、ピッチ0.9mmで1032孔、略一直線状に配列するように形成されている。また、溝部27は、溝幅4.7mm、溝深さ2.7mmとした。
【0053】
シール部材となるOリング28は、材質がシリコン、線径3.5mmのものを用いている。
【0054】
第2の金属部材22の、第1の金属部材21との接合面のうちOリング28と接触する部分の表面の最大高さは、直接第1の金属部材21と向き合う部分の最大高さより大きく、第1の金属部材21と向き合う部分の表面の最大高さが0.2μmであるのに対して、Oリング28との接触する部分の最大高さは0.3μmとしている。なお、第1の金属部材21において、第2の金属部材22と向き合う部分の表面の最大高さは0.2μmとしている。
【0055】
塗布ヘッド20は、第1の金属部材21の溝部27にOリング28を嵌め込み、これと第2の金属部材22とをボルトにより締結することで組み立てた。この塗布ヘッド20の基材2に対する平行度を測定したところ、平行度は10μmであった。
【0056】
塗液容器3には、減圧弁8により圧力0.35MPaに調整された吐出制御用気体が付与されている。また、塗液容器3から塗布ヘッド20に塗液の補給を制御するための開閉バルブ5は、ダイアフラムバルブを用いた。
【0057】
塗布ヘッド20のマニホールド24内の蛍光体ペーストは、液面の高さが吐出孔23から25mmの高さで管理される。したがって、塗布ヘッド20より蛍光体ペーストを吐出した後は、開閉バルブ5の開閉の制御により、液面高さが25mmになるまで、蛍光体ペーストが塗布ヘッド20に補給される。
【0058】
塗液である蛍光体ペーストを吐出するために塗布ヘッド20に付与する圧力は、減圧弁11により圧力0.70MPaに設定した。
【0059】
上記の条件にて、図2〜4の示す塗布ヘッド20を用いた図1に示す塗布装置1で、基材1000枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った。
【0060】
蛍光体が塗布された基材を乾燥すると、隔壁による凹部に蛍光体層が形成された基材が得られた。この蛍光体層が形成された基材に、波長254nmの紫外線ランプを照射して蛍光体層を発光させ、目視で発光状態を確認したところ、いずれの基材についても、基材全面に渡って均一に発光しており、塗布不良がないことを確認した。
【0061】
塗布作業終了後、塗布装置1より塗布ヘッド20を取り外し、洗浄するために第1の金属部材21と第2の金属部材22を締結しているボルトを外し、分解したところ、シール部材であるOリング28は第1の金属部材21にも第2の金属部材22にも固着しておらず、分解作業はスムーズに行え、洗浄作業に容易に移行できた。
【0062】
比較例1
次に、図8に示す第2の金属部材51を用いた従来技術における塗布ヘッドを準備し、これを用いた塗布装置1にて、基材への塗布を実施した。なお、塗布ヘッドの第1の金属部材、Oリングや、基材、塗液、塗布装置を構成する吐出バルブ、減圧弁などは、実施例1と同じものを用いている。
【0063】
ここで、図8に示す第2の金属部材51の、第1の金属部材21との接合面の表面の最大高さは0.2μmとしている。
【0064】
この塗布ヘッドを用いた塗布装置1で、基材1000枚に所定の長さの塗布を繰り返して行った後、塗布装置より塗布ヘッドを取り外し、塗布ヘッド内部を洗浄するために第1の金属部材21と第2の金属部材51を締結しているボルトを外して分解したところ、シール部材であるOリングは第2の金属部材51に固着しており、それらを分離しようとしたところ、Oリングが切れて第2の金属部材51にはOリングが残留してしまった。
【0065】
比較例2
次に、シール部材として、外形は実施例1で用いたものと同じであるが、材質がSUS316であるものを用いた塗布ヘッドを準備し、これを用いた塗布装置1にて、基材への塗布を実施した。なお、塗布ヘッドの第1の金属部材、第2の金属部材や、基材、塗液、塗布装置を構成する吐出バルブ、減圧弁などは、実施例1と同じものを用いている。
【0066】
この塗布ヘッドの基材に対する平行度を測定したところ、平行度は30μmであり、実施例1に比べて平行度が悪化していた。この塗布ヘッドを用いて、基材に塗布をしたところ、各吐出孔からの塗布量にバラツキがあり、塗布された基材を乾燥すると斑が見られ、その基材は不良となった。
【0067】
比較例3
次に、図9に示す溝部のない第1の金属部材55と、図8に示す第2の金属部材51と、これらの接合面の形状をした図10に示すシール部材58を用いて、第1の金属部材55と第2の金属部材51の間にシール部材58を挟み込んでなる図11に示す塗布ヘッド60を準備した。この塗布ヘッド60において第1の金属部材55と第2の金属部材51は、接合面形状をしたシール部材58を挟み込むことにより、互いに接触していない。なお、シール部材58は、材質がシリコンで厚みが0.5mmである。
【0068】
この塗布ヘッド60を用いた塗布装置1にて、基材への塗布を実施した。なお、基材、塗液、塗布装置を構成する吐出バルブ、減圧弁などは、実施例1と同じものを用いている。
【0069】
この塗布ヘッド60の基材に対する平行度を測定したところ、平行度は60μmであり、実施例1に比べて平行度が悪化していた。この塗布ヘッド60を用いて、基材に塗布をしたところ、各吐出孔からの塗布量にバラツキがあり、塗布された基材を乾燥すると斑が見られ、その基材は不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、プラズマディスプレイ用部材に用いる塗布ヘッドに限らず、液晶ディスプレイ用カラーフィルターや有機ELにおける塗液の塗布に用いる塗布ヘッドなどにも応用することができ、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0071】
1 塗布装置
2 基材
3 塗液容器
4 配管
5 開閉バルブ
6 吐出制御用気体源
7 配管
8 減圧弁
9 配管
10 吐出バルブ
11 減圧弁
12 コントローラ
20 塗布ヘッド
21 第1の金属部材
22 第2の金属部材
23 吐出孔
24 マニホールド
25 塗液溜り部
26 空間部
27 溝部
28 Oリング
29 補給口
30 塗布ヘッド
31 第1の金属部材
32 第2の金属部材
33 吐出孔
34 マニホールド
35 塗液溜り部
36 空間部
37 溝部
38 Oリング
39a、39b 補給口
40a、40b 供給用塗液溜め部
41a、41b スリット
51 第2の金属部材
52 補給口
53 マニホールド
55 第1の金属部材
56 吐出孔
57 マニホールド
58 シール部材
60 塗布ヘッド
101 シール部材と接触する部分
102 シール部材と接触する部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗液溜り部および前記塗液溜り部の上方に位置する空間部を有するマニホールドと、略一直線状に配列される複数の吐出孔を有する塗布ヘッドであって、少なくとも第1の金属部材、シール部材および第2の金属部材からなり、前記第1の金属部材と前記第2の金属部材のそれぞれの接合面が互いに向き合うように配置され、かつ前記第1の金属部材の接合面側に設けられた溝部内に前記シール部材が配置され、前記シール部材を圧縮する応力により前記第1の金属部材および前記第2の金属部材とが固定されてなり、前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触する部分の表面の最大高さが、前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触せず直接前記第1の金属部材と向き合う部分の表面の最大高さより大きいことを特徴とする塗布ヘッド。
【請求項2】
前記第2の金属部材の接合面のうち前記シール部材と接触する部分の表面の最大高さが、0.3μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の塗布ヘッド。
【請求項3】
前記シール部材が、ゴム成型物であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗布ヘッド。
【請求項4】
前記第1の金属部材の接合面と前記第2の金属部材の接合面が、前記シール部材を介せず直接接触するメタルタッチ部分を有することを特徴とする請求項1〜3に記載の塗布ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布ヘッドを用いて蛍光体ペーストを塗布することを特徴とするプラズマディスプレイ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−192305(P2012−192305A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56113(P2011−56113)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】