説明

塗布液および塗膜形成方法

【課題】地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分が均一に溶解または分散され、基材表面への広がり性に優れ、かつ乾燥性に優れた塗布液、および地球環境および合成樹脂製基材に悪影響を及ぼすことなく、短時間でムラの少ない塗膜を形成できる塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】トリデカフルオロオクタン、またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物と、塗膜形成成分とを含有する塗布液;および該塗布液を基材に塗布し、溶剤を蒸発させることにより、基材上に塗膜を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体、撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤、潤滑剤等を含有する塗布液および塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素重合体、撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤、潤滑剤等の塗膜形成成分を希釈または分散させる溶剤としては、不燃性、化学的および熱的安定性に優れる1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下、R113と記す。)等のクロロフルオロカーボン類;ジクロロペンタフルオロプロパン(以下、R225と記す。)等のハイドロクロロフルオロカーボン類;パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン等のパーフルオロカーボン類(以下、PFCと記す。)等を含有するフッ素系溶剤が用いられてきた。
【0003】
しかし、R113およびR225は、オゾン破壊係数を有し、PFCは、地球温暖化係数が非常に高い。そのため、R113等のクロロフルオロカーボン類は、生産が禁止されている。R225等のハイドロクロロフルオロカーボン類については、先進国においては2020年に生産および輸入が禁止されることになっている。PFCについては、地球温暖化防止のため京都議定書の規制対象物質となっている。
また、R225は、一部の合成樹脂に対する影響が大きいため、R225を含有する塗布液を合成樹脂製基材に塗布した場合、合成樹脂の種類によっては、白化する、クラックが生じる等の問題が生ずる。
【0004】
地球環境に悪影響を及ぼさず、かつ合成樹脂に対する影響が小さいフッ素系溶剤として、ノナフルオロヘキサンが提案されている(特許文献1)。しかし、ノナフルオロヘキサンを含有する塗布液は、基材表面への広がり性が不充分であり、塗膜にムラが出ることがあるという問題がある。
また、含フッ素重合体、特にパーフルオロ化合物は、一部のPFC以外に溶解する溶剤がないという問題がある。
【特許文献1】国際公開第2004/000977号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分が均一に溶解または分散され、基材表面への広がり性に優れ、かつ乾燥性に優れた塗布液、および地球環境および合成樹脂製基材に悪影響を及ぼすことなく、短時間でムラの少ない塗膜を形成できる塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の塗布液は、トリデカフルオロオクタン、またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物と、塗膜形成成分とを含有することを特徴とする。
トリデカフルオロオクタンは、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタンであることが好ましい。
【0007】
塗膜形成成分としては、潤滑剤が挙げられる。
また、塗膜形成成分としては含フッ素重合体が挙げられる。
含フッ素重合体としては、低反射膜形成剤、低屈折率膜形成剤、撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤、耐薬品性保護膜形成剤が挙げられる。
含フッ素重合体としては、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体、ポリフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を側鎖に含有する、アクリレート、メタクリレート、マレエート、フマレートまたはスチレン等の含フッ素単量体に基づく重合単位を有する重合体または共重合体が挙げられる。
【0008】
塗膜形成成分の含有割合は0.1〜20質量%であり、トリデカフルオロオクタン、またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物の含有割合は80〜99.9質量%であることが好ましい。
その他の有機溶剤としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類(ただし、トリデカフルオロオクタンを除く。)、エーテル類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶剤が挙げられる。
【0009】
本発明の塗膜形成方法は、本発明の塗布液を基材に塗布し、溶剤を蒸発させることを特徴とする。
基材としては、合成樹脂製基材が好適に用いられる。
合成樹脂としては、耐薬品性の低いアクリル樹脂またはポリカーボネートを用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗布液は、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分が均一に溶解または分散され、基材表面への広がり性に優れ、かつ乾燥性に優れる。
本発明の塗膜形成方法によれば、地球環境および合成樹脂製基材に悪影響を及ぼすことなく、短時間でムラの少ない塗膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0012】
<塗布液>
本発明の塗布液は、トリデカフルオロオクタンを含む溶剤と、塗膜形成成分とを含有する。塗布液は、塗膜形成成分が溶剤に溶解した溶液であってもよく、塗膜形成成分が溶剤に分散した懸濁液であってもよい。
【0013】
(溶剤)
本発明においては溶剤として、トリデカフルオロオクタン;またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物を用いる。トリデカフルオロオクタンは、分子式C8135 で示される化合物を意味する。トリデカフルオロオクタンは、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分の溶解性または分散性に優れ、基材表面に対する濡れ性に優れ、かつ揮発性が良好であるという利点を有する。
【0014】
トリデカフルオロオクタンとしては、各種塗膜形成成分の溶解性または分散性が特に優れることから、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン、すなわちCF3 (CF25 CH2 CH3 (以下、HFC−76−13と記す。)が好ましい。
トリデカフルオロオクタンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
上記溶剤組成物は、目的に応じて、トリデカフルオロオクタンを除く、その他の有機溶剤を含有してもよい。たとえば、各種塗膜形成成分の溶解性を高めるため、または揮発速度を調節するために、その他の有機溶剤をさらに含有してもよい。
【0016】
その他の有機溶剤の量は、溶剤組成物(100質量%)のうち、40質量%未満であり、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。その他の有機溶剤の量の下限は、その他の有機溶剤を添加する目的を達成し得る最低限の量とする。その他の有機溶剤の量の下限は、通常、溶剤組成物(100質量%)のうち、0.1質量%である。溶剤組成物に共沸組成が存在する場合には、その共沸組成で用いることが好ましい。
【0017】
その他の有機溶剤としては、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類(ただし、トリデカフルオロオクタンを除く。)、エーテル類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0018】
炭化水素類としては、炭素数5〜15の鎖状または環状の飽和または不飽和炭化水素類が好ましく、n−ペンタン、2−メチルブタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、2,4−ジメチルペンタン、n−オクタン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン、3,3−ジメチルヘキサン、2−メチル−3−エチルペンタン、3−メチル−3−エチルペンタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,3,4−トリメチルペンタン、2,2,3−トリメチルペンタン、2−メチルヘプタン、2,2,4−トリメチルペンタン、n−ノナン、2,2,5−トリメチルヘキサン、n−デカン、n−ドデカン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビシクロヘキサン、シクロヘキセン、α−ピネン、ジペンテン、デカリン、テトラリン、アミルナフタレン等が挙げられ、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンが好ましい。
【0019】
アルコール類としては、炭素数1〜16の鎖状または環状の飽和または不飽和アルコール類が好ましく、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、α−テルピネオール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール等が挙げられ、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0020】
ケトン類としては、炭素数3〜9の鎖状または環状の飽和または不飽和ケトン類が好ましく、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、ジイソブチルケトン、メシチルオキシド、ホロン、2−オクタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、2,4−ペンタンジオン、2,5−ヘキサンジオン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン等が挙げられ、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0021】
ハロゲン化炭化水素類としては、炭素数1〜6の飽和または不飽和の塩素化または塩素化フッ素化炭化水素類が好ましく、塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン、デカフルオロペンタン等が挙げられ、塩化メチレン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレンが好ましい。
【0022】
エーテル類としては、炭素数2〜8の鎖状または環状の飽和または不飽和エーテル類が好ましく、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、アニソール、フェネトール、メチルアニソール、ジオキサン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等が挙げられ、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0023】
エステル類としては、炭素数2〜19の鎖状または環状の飽和または不飽和エステル類が好ましく、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、イソ酪酸イソブチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸ベンジル、γ−ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、酒石酸ジブチル、クエン酸トリブチル、セバシン酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等が挙げられ、酢酸メチル、酢酸エチルが好ましい。
【0024】
(塗膜形成成分)
塗膜形成成分は、各種機能を発現する塗膜を形成するための成分であり、たとえば、潤滑剤や含フッ素重合体が挙げられる。含フッ素重合体としては、低反射膜形成剤、低屈折率膜形成剤、撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤または耐薬品性保護膜形成剤等が挙げられる。塗膜形成成分は、液体または固体のどちらの形態であってもよい。
【0025】
塗膜形成成分の含有割合は、塗膜の厚さを適正範囲とする観点から、塗布液(100質量%)のうち、0.01〜50質量%が好ましく、0.05〜30質量%がより好ましく、0.1〜20質量%が特に好ましい。溶剤の含有割合は、塗布液(100質量%)のうち、50〜99.99質量%が好ましく、70〜99.95質量%がより好ましく、80〜99.9質量%が特に好ましい。
【0026】
(含フッ素重合体)
低反射膜形成剤、低屈折率膜形成剤等として用いられる含フッ素重合体としては、短波長領域までの透明性等が優れている点から、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体(以下、環構造含有フッ素系重合体と記す。)が好ましく、フッ素含量の多い環構造含有フッ素系重合体が特に好ましい。トリデカフルオロオクタンを含む溶剤は、環構造含有フッ素系重合体に対して優れた溶解性または分散性を有する。
「主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する」とは、脂肪族環を構成する炭素原子の1以上が主鎖を構成する炭素連鎖中の炭素原子であり、かつ脂肪族環を構成する炭素原子の少なくとも一部にフッ素原子またはフッ素含有基が結合している構造を有していることを意味する。また、脂肪族環は、エーテル結合を有していてもよい。
【0027】
環構造含有フッ素系重合体としては、含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子間に重合性二重結合を有する単量体または含フッ素脂肪族環を構成する炭素原子と脂肪族環外の炭素原子との間に重合性二重結合を有する単量体(以下、これら2つの単量体を環状単量体と記す。)の単独重合体、該環状単量体と他の単量体との共重合体(特公昭63−18964号公報);2個の重合性二重結合を有する単量体(以下、ジエン系単量体と記す。)を環化重合して得られる単独重合体、該ジエン系単量体と他の単量体との共重合体(特開昭63−238111号公報、特開昭63−238115号公報);環状単量体とジエン系単量体との共重合体等が挙げられる。
【0028】
環状単量体およびジエン系単量体は、フッ素原子を有する単量体であり、高度にフッ素化された単量体であることが好ましい。「高度にフッ素化された」とは、炭素原子に結合した水素原子と炭素原子に結合したフッ素原子との合計数に対する炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合が80%以上であることを意味する。環状単量体およびジエン系単量体としては、パーフルオロ単量体(炭素原子に結合したフッ素原子の数の割合が100%である単量体)が特に好ましい。
【0029】
環状単量体およびジエン系単量体は、パーフルオロ単量体のフッ素原子の1〜4個(ただし、全フッ素原子の数の1/2以下)が塩素により置換されたパーハロポリフルオロ単量体であってもよい。
環状単量体またはジエン系単量体と共重合させる他の単量体としても、パーフルオロ単量体またはパーハロポリフルオロ単量体が好ましい。
【0030】
環状単量体としては、化合物(1)〜(3)が挙げられる。
【0031】
【化1】

【0032】
ただし、X11、X12、X21、X22、X31、X32、R11、R12、R21、R22、R31、R32は、それぞれフッ素原子、炭素数4以下のパーフルオロアルキル基または炭素数4以下のパーフルオロアルコキシ基を表す。
11、X21、X31、X32としては、フッ素原子が好ましく、X12、X22としては、フッ素原子、トリフルオロメチル基または炭素数2以下のトリフルオロメトキシ基が好ましい。R11、R12、R21、R22、R31、R32としては、フッ素原子またはトリフルオロメチル基が好ましい。
【0033】
ジエン系単量体としては、化合物(4)が好ましい。
CF2 =CF−Q−CF=CF2 ・・・(4)。
ただし、Qは、炭素数10以下の、エーテル性酸素原子を有していてもよいパーフルオロアルキレン基を表す。エーテル性酸素原子はパーフルオロアルキレン基の一方の末端に存在していてもよく、両末端に存在していてもよく、炭素原子間に存在していてもよい。エーテル性酸素原子を有しないパーフルオロアルキレン基の場合、炭素数は2〜6が好ましい。一方の末端または炭素原子間にエーテル性酸素原子を有するパーフルオロアルキレン基の場合、炭素数は1〜4が好ましい。両末端にエーテル性酸素原子を有するパーフルオロアルキレン基の場合、炭素数は1〜3が好ましい。
【0034】
化合物(4)の環化重合により、下式(4−1)〜(4−3)の単位を有する重合体が得られる。下式のように、ジエン系単量体の環化重合により得られる重合体の主鎖の炭素原子は、2個の重合性二重結合の4個の炭素原子に由来する。
【0035】
【化2】

【0036】
ジエン系単量体の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
CF2 =CFOCF2 CF2 CF=CF2
CF2 =CFOCF2 CF(CF3 )CF=CF2
CF2 =CFOCF2 CF=CF2
CF2 =CFOCF(CF3 )CF=CF2
CF2 =CFOCF2 OCF=CF2
CF2 =CFOC(CF32 OCF=CF2
【0037】
他の単量体としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)等が挙げられる。
環構造含有フッ素系重合体としては、ジエン系単量体と環状単量体との共重合体が好ましく、たとえば、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)またはパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)とパーフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)との共重合体が挙げられる。
【0038】
環構造含有フッ素系重合体の製造方法としては、たとえば、特開平4−189880号公報、特開平4−226177号公報、特開平11−279504号公報に記載の方法が挙げられる。
環構造含有フッ素系重合体は、官能基を有していてもよい。官能基を導入する方法としては、(i)官能基含有環状単量体または官能基含有ジエン系単量体を重合させる方法、(ii)環状単量体およびジエン系単量体以外の官能基含有単量体を、環状単量体またはジエン系単量体と共重合させる方法、(iii)重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する重合体末端基を官能基として利用する方法が挙げられ、(ii)または(iii)の方法が好ましく、(iii)の方法が特に好ましい。
【0039】
撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤として用いられる含フッ素重合体は、ポリフルオロアルキル基またはパーフルオロポリエーテル基を側鎖に含有する、アクリレート、メタクリレート、マレエート、フマレートならびにスチレン等の含フッ素単量体に基づく重合単位を有する重合体または共重合体、ポリフルオロアルキル基を側鎖に有するポリオルガノシロキサン化合物、ポリフルオロアルキル基を有する、リン酸エステル、脂肪酸エステルまたはウレタン化合物等が挙げられる。
【0040】
(潤滑剤)
潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、シリコン系潤滑剤、固体潤滑剤が挙げられる。トリデカフルオロオクタンを含む溶剤は、これら潤滑剤に対して優れた溶解性または分散性を有する。
【0041】
フッ素系潤滑剤としては、フッ素系オイル、フッ素系グリース等が挙げられる。
シリコン系潤滑剤としては、シリコンオイル、シリコングリース等が挙げられる。
固体潤滑剤としては、ポリテトラフルオロエチレンの粉末、グラファイト、二硫化モリブデン粉末等が挙げられる。
【0042】
フッ素系オイルとしては、パーフルオロポリエーテル等が挙げられ、下式(5)〜(7)の構造を有するパーフルオロポリエーテルが好ましい。
−(CF2CF2CF2O)m−CF2CF2− ・・・(5)、
−[CF2CF(CF3)O]n−CF2− ・・・(6)、
−[OCF(CF3)−CF2p−(OCF2CF2q−(OCF2r− ・・・(7)。
ただし、m、n、p、qおよびrは、それぞれ0または1以上の整数を表す。
【0043】
式(5)の構造を有するパーフルオロポリエーテルとしては、ダイキン工業社製のデムナムが挙げられる。
式(6)の構造を有するパーフルオロポリエーテルとしては、デュポン社製のクライトックスが挙げられる。
式(7)の構造を有するパーフルオロポリエーテルとしては、ソルベイ社製のフォンブリンが挙げられる。
【0044】
パーフルオロポリエーテルの末端基としては、ヒドロキシル基、−CH2 OH、カルボキシル基、炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基、アリール基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基の塩、スルホン酸基の塩、カルボキシル基の塩、ピペロニル基の塩等が挙げられる。
【0045】
パーフルオロポリエーテルとしては、末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテルが好ましく、たとえば、化合物(5−1)(ダイキン工業社製のデムナム)、化合物(6−1)(デュポン社製のクライトックス)、化合物(7−1)(ソルベイ社製のフォンブリンZ−DOL)が挙げられる。
F−(CF2CF2CF2O)m−CF2CF2−CH2OH ・・・(5−1)、
F−[CF2CF(CF3)O]n−CF2−CH2 OH ・・・(6−1)、
HOCH2CF2O−(CF2CF2O)p−(CF2O)q−CF2CH2OH ・・・(7−1)。
ただし、m、n、pおよびqは、それぞれ1以上の整数を表す。
【0046】
以上説明した本発明の塗布液にあっては、溶剤として、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分の溶解性または分散性に優れ、基材表面に対する濡れ性に優れ、かつ揮発性が良好であるトリデカフルオロオクタンを含む溶剤を用いているため、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分が均一に溶解または分散され、基材表面への広がり性に優れ、かつ乾燥性に優れる。
【0047】
<塗膜形成方法>
本発明の塗膜形成方法は、本発明の塗布液を基材に塗布し、溶剤を蒸発させる方法である。本発明の塗膜形成方法によって形成される塗膜は、固体の膜であってもよく、液体の膜であってもよい。
【0048】
基材としては、金属製基材、合成樹脂製基材、ガラス製基材、セラミックス製基材等が挙げられる。本発明の塗布液は合成樹脂に対する影響が少ないため、合成樹脂製基材に好適である。なお、本発明の塗布液は、粘度および表面張力が小さいため、金属製基材等であっても、薄く均一に塗布できる。
【0049】
合成樹脂としては、アクリル樹脂またはポリカーボネートも用いることができる。アクリル樹脂およびポリカーボネートは、溶剤の種類によってはクラックが発生する、白化する等の問題が生じる場合があったが、本発明の塗布液を用いた場合は、これらの問題が生じない。
【0050】
塗布方法としては、浸漬法、スピナーによる回転塗布法等の公知の方法が挙げられる。
塗膜形成方法を浸漬法を例に挙げて説明する。
まず、塗布液に、基材を適度な速度で浸漬し、適度な浸漬時間を保った後、適度な速度で引き上げる。ついで、溶剤を蒸発させることにより、塗膜形成成分からなる塗膜を基材上に形成できる。
塗膜の厚さは、塗布条件、塗布液濃度、乾燥条件等によって調節できる。
【0051】
以上説明した本発明の塗膜形成方法にあっては、地球環境に悪影響を及ぼさず、合成樹脂製基材に対する影響が少なく、各種塗膜形成成分が均一に溶解または分散され、基材表面への広がり性に優れ、かつ乾燥性に優れた塗布液を用いているため、地球環境および合成樹脂製基材に悪影響を及ぼすことなく、短時間でムラの少ない塗膜を形成できる。
【実施例】
【0052】
〔例1〜7〕
表1の例1〜7に示すHFC−76−13を含む溶剤を、それぞれ潤滑剤であるパーフルオロアルキル基を有するフッ素系オイル(ソルベイ社製、フォンブリンZ−DOL)と混合し、フッ素系オイルの含有割合が0.5質量%である塗布液(溶液)を7通り作製した。
それぞれの塗布液を、鉄製の板にアルミニウムを蒸着させたアルミニウム蒸着板の表面に塗布し、溶剤を風乾することにより、アルミニウム蒸着板表面に潤滑剤塗膜を形成した。このときの溶剤の乾燥性および得られた塗膜の状態を肉眼で観察した。結果を表1に示す。
【0053】
表1における「塗膜の状態」の評価は、◎;良好な塗膜であった、○;ほぼ良好な塗膜であった、△;部分的にムラが見られた、×;かなりムラが見られた、で表した。
「乾燥性」の評価は、◎;直ちに乾燥した、○;10分間以内に乾燥した、△;1時間以内に乾燥した、×;1時間で乾燥しなかった、で表した。
溶剤の項目における括弧内の数値は、2種の溶剤の混合比(質量基準)を示したものである。たとえば、例2については、HFC−76−13とn−ヘプタンとの混合比率が、HFC−76−13/n−ヘプタン=95/5であることを示す。
【0054】
【表1】

【0055】
〔例8〜14〕
表2の例8〜14に示すHFC−76−13を含むを、それぞれ潤滑剤であるポリアルキルシロキサンからなるシリコンオイル(信越化学工業社製、KF−96)と混合し、シリコンオイルの含有割合が0.01質量%である塗布液(溶液)を7通り作製した。
それぞれの塗布液を、ステンレス鋼板の表面に塗布し、溶剤を風乾することにより、ステンレス鋼板表面に潤滑剤塗膜を形成した。このときの溶剤の乾燥性および得られた塗膜の状態を肉眼で観察した。結果を表2に示す。
【0056】
表2における「塗膜の状態」および「乾燥性」の評価方法は、例1〜7と同様の方法で行った。
溶剤の項目における括弧内の数値は、2種の溶剤の混合比(質量基準)を示したものである。
【0057】
【表2】

【0058】
〔例15〜21〕
表3の例15〜21に示すHFC−76−13を含む溶剤を、それぞれ潤滑剤である、粒径が0.1〜100μmのポリテトラフルオロエチレン粉末とパーフルオロポリエーテルオイルとからなるフッ素系潤滑剤と混合し、フッ素系潤滑剤の含有割合が2質量%である塗布液(懸濁液)を6通り作製した。
それぞれの塗布液を、ポリカーボネート板の表面に塗布し、溶剤を風乾することにより、ポリカーボネート板表面に潤滑剤塗膜を形成した。このときの溶剤の乾燥性および得られた塗膜の状態を肉眼で観察した。結果を表3に示す。
【0059】
表3における「塗膜の状態」および「乾燥性」の評価方法は、例1〜14と同様の方法で行った。
溶剤の項目における括弧内の数値は、2種の溶剤の混合比(質量基準)を示したものである。
【0060】
【表3】

【0061】
〔例22〜24〕
表4の例22〜24に示す溶剤に、アクリル樹脂およびポリカーボネートを室温で24時間浸漬し、その後取り出した樹脂の外観の変化を観察した。結果を表4に示す。
外観の評価は、◎;変化なし、△;若干白化や溶解が見られた、×;白化やクラックや溶解が見られた、で表した。
溶剤の項目における括弧内の数値は、2種の溶剤の混合比(質量基準)を示したものである。
【0062】
〔例25(比較例)〕
R225(旭硝子株式会社製、アサヒクリンAK−225)を用いて、例22〜24と同様の試験を行い、樹脂の外観の変化を観察した。結果を表4に示す。
【0063】
【表4】

【0064】
〔例26〕
表5の例26に示すHFC−76−13に、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有するパーフルオロ重合体(旭硝子社製、サイトップ−CTX)を混合し、溶解の状態を肉眼で観察し、溶解性を評価した。評価結果を表5に示す。
【0065】
〔例27、28(比較例)〕
表5の例27に示すR225、例28に示す含フッ素エーテル溶剤(住友スリーエム社製、NovecTM HFE−7100)を用いて、例26と同様の試験を行い、溶解性を評価した。結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
〔例29〕
表6の例29に示すHFC−76−13に、潤滑剤であるパーフルオロアルキル基を有するフッ素系オイル(ソルベイ社製、フォンブリンZ−DOL)を5質量%となるように混合し、30度に傾けたポリエチレンテレフタレートフィルムの上に塗布し、フッ素系オイルの広がり性を測定した。評価結果を表6に示す。
「広がり性」の評価は、広がったフッ素オイルの面積を測定し、◎;10cm2 以上に広がった、△;10cm2 未満であるが5cm2 以上に広がった、×;5cm2 未満にしか広がらなかった、で表した。
【0068】
〔例30、31(比較例)〕
表6の例30に示すノナフルオロヘキサン(旭硝子社製、アサヒクリンAC−4000)、R225(旭硝子社製、アサヒクリンAK−225)を用いて、例29と同様の試験を行い、広がり性を評価した。結果を表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
〔例32〕
特開2005−336234号公報の実施例記載の方法により合成したポリフルオロアルキル基を有するモノマーに基づく繰り返し単位を含む重合体からなるフッ素系撥水撥油剤を0.5質量%となるようにHFC−76−13に溶解し、塗布液を作製した。得られた塗布液を、試験布であるポリアミド布にスプレーしたところ、試験布は1分間未満で乾燥して加工布が得られた。得られた加工布についてJIS L1092の撥水性試験を行ったところ、5級を示し、しみ残りも見られなかった。
【0071】
本発明の塗布液は、実施例から明らかなように、溶解性または分散性、乾燥性、広がり性に優れたものであり、該塗布液を用いて形成される塗膜には、ムラ等は観察されない。また、本発明の塗布液に用いたHFC−76−13は、従来のR113、R225、PFC、ノナフルオロヘキサンと同様に、塗膜形成成分の適度な溶解性を有し、金属、プラスチック、エラストマー等からなる基材に悪影響を与えることがない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の塗布液は、各種機器、基板の製造において、機器、基板の所定の部位に塗布できる。たとえば、モーターのローター部分、ハードディスクの表面、ベアリング、カメラ部品(オートフォーカスのレンズの回転部分、フィルムの巻き取りの回転部分等。)、コピー機のロール、スキャン部等におけるギヤ部品、コンピュータ部品(CDまたはDVDのトレー部におけるギヤ部品)等、回転部分、ギヤ部分、摩擦面等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリデカフルオロオクタン、またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物と、
塗膜形成成分と
を含有する、塗布液。
【請求項2】
トリデカフルオロオクタンが、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタンである、請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
塗膜形成成分が、潤滑剤からなる請求項1または2に記載の塗布液。
【請求項4】
塗膜形成成分が、含フッ素重合体からなる請求項1または2に記載の塗布液。
【請求項5】
上記含フッ素重合体が、低反射膜形成剤、低屈折率膜形成剤、撥水撥油剤、フラックス這い上がり防止剤または耐薬品性保護膜形成剤である請求項4に記載の塗布液。
【請求項6】
含フッ素重合体が、主鎖に含フッ素脂肪族環構造を有する重合体である、請求項4または5に記載の塗布液。
【請求項7】
塗膜形成成分の含有割合が0.1〜20質量%であり、トリデカフルオロオクタン、またはトリデカフルオロオクタン60質量%以上およびその他の有機溶剤からなる溶剤組成物の含有割合が80〜99.9質量%である、請求項1〜6のいずれかに記載の塗布液。
【請求項8】
その他の有機溶剤が、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素類(ただし、トリデカフルオロオクタンを除く。)、エーテル類およびエステル類からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶剤である、請求項1〜7のいずれかに記載の塗布液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の塗布液を基材に塗布し、溶剤を蒸発させる、塗膜形成方法。
【請求項10】
基材が、合成樹脂製基材である、請求項9に記載の塗膜形成方法。
【請求項11】
合成樹脂が、アクリル樹脂またはポリカーボネートである、請求項10に記載の塗膜形成方法。

【公開番号】特開2009−91373(P2009−91373A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17154(P2006−17154)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】