説明

塗料吹付け装置

【課題】排水横主管やこれに接続された排水立て主管の内面を高品質に塗装することを可能とする。
【解決手段】先端側の一端面を閉鎖され周壁部に複数の貫通孔を有する円筒体と、円筒体の内側中心を通り前記一端面の中心に固定された電動モータ2の回転軸16と、電動モータ2を配置した基体部1と、円筒体の先端に配置され結合部を介して前記基体部に固定された案内体5と、先端が円筒体の内側に開口された塗料供給管4とを有し、円筒体の貫通孔のうち一端面に近い側の領域の貫通孔8a、8bは、遠い側の領域の貫通孔8cよりも小さな開口面積を有し、結合部は、貫通孔8a、8bが通過する領域箇所と貫通孔8cが通過する領域箇所では、互いの回転軸16の前後方向への投影範囲が相違している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンションや集合住宅などの既設排水管などの内面を塗料で塗装する塗料吹付け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションや集合住宅などの排水管には、亜鉛メッキ鋼管などが使用されており、これがある程度の期間に亘って使用されると、その内面に錆や異物が付着して排水の流れが害され、また、管内面が腐食することがある。このような事態に対処するには、排水管を新しいものに交換することが考えられるが、これでは大工事となり、大きな経済的負担を強いられる。このため、実際には、排水管の内面を掃除し樹脂塗料などで塗装することで、排水管の機能回復や延命が図られている。
【0003】
塗装処理において使用される塗料吹付け装置としては、特許文献1に開示されたものが知られている。この塗料吹付け装置は、一端面を閉鎖され周壁部に複数の貫通孔を形成された円筒体が回転軸の先端に設けられている。この回転体を回転させることにより、回転体内に供給された塗料が遠心力で貫通孔から噴射され、排水管の内面に均一状に塗布する。しかしながら、円筒体を包囲する案内枠が設けられていないため、排水管内の曲がり箇所で円筒体と排水管の内面とが接触する現象が生じ、排水立て主管と排水横主管とを連続して塗装するような場合に使用することができない。
【0004】
これに対して特許文献2に開示された塗料吹付け装置によると、円筒体を包囲する案内体を設けて、排水管内の曲がり箇所で円筒体と排水管の内面とが接触する現象を防止しているが、円筒体の直径方向で対峙するように配置された一対の棒材で形成されているため、貫通孔から噴射さ塗料がこの棒材で妨げられ、塗り残しが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4199896号公報
【特許文献2】特開平9−201560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、排水横主管又はこれに接続された排水管の内面を塗り残しなく塗装することを可能とした塗料吹付け装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の塗料吹付け装置は、先端側の一端面を閉鎖され周壁部に複数の貫通孔を有する円筒体と、前記円筒体の内側中心を通り前記一端面の中心に固定された電動モータの回転軸と、前記電動モータを配置した基体部と、前記円筒体の先端に配置され結合部を介して前記基体部に固定された案内体と、先端が前記円筒体の内側に開口された塗料供給管とを有する塗料吹付け装置において、前記円筒体の前記貫通孔のうち前記一端面に近い側の領域の貫通孔は、前記一端面から遠い側の領域の貫通孔よりも小さな開口面積を有し、前記結合部は、前記一端面に近い側の貫通孔が通過する領域箇所と前記一端面に遠い側の貫通孔が通過する領域箇所では、互いの前記回転軸の前後方向への投影範囲が相違することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
周円筒体壁部の複数の貫通孔を同じ開口面積とすると、閉鎖された一端面に近い貫通孔から多くの塗料が噴出し、遠い貫通孔からは少ない塗料しか噴出しないことが生じる。
【0009】
本発明によれば、案内体を設けることにより排水管内の曲がり箇所を通過できるようにするとともに、案内体を基体部に結合する結合部は、円筒体の一端面に近い側の貫通孔が通過する領域箇所と遠い側の貫通孔が通過する領域箇所では、互いの前後方向の投影範囲が相違するようにした上で、一端面に近い側の貫通孔よりも遠い側の貫通孔の開口面積を大きくしている。このため、塗料がいずれの貫通孔からも噴出されるようになり、結合部がいずれかの領域箇所において貫通孔の噴出を妨げても他の領域箇所においてこれを妨げることがないため、排水管の内面を塗り残し無く塗装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】上記塗料吹付け装置の使用状態を示す正面視説明図である。
【図2】本発明に係る塗料吹付け装置の主要部を示す斜視図である。
【図3】図1の一部を拡大して示した断面視正面図である。
【図4】上記塗料吹付け装置に装着される円筒体を示す。
【図5】マンションや集合住宅における一般的な排水管系統を示す斜視説明図である。
【図6】上記塗料吹付け装置の案内枠の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施例を説明する。
この塗料吹付け装置は、図1に示すように、基体部1、円筒体3、塗料供給管4、案内体5及び結合部13を備えている。
【0012】
ネック部14には樹脂塗料を供給するためのホース6の一端が結合されている。 ホース6の内側には、電動モータ2に電力を供給するためのケーブル15が挿入されており、長さが数十mにも及ぶものである。ホース6のネック部14には、塗料供給管4が接合されている。
【0013】
基体部1には、外周囲を包囲するように位置されたカバー体7が外嵌状に固定されている。このカバー体7は前方f1へ向かうほど径大化された円錐状の筒体である。
【0014】
基体部1には電動モータ2が配置され、基体部1から前方f1へ向けて延長された電動モータの回転軸16を回転させる。
【0015】
円筒体3の詳細について、図4に示す。図4Aにおいて、円筒体3は、周壁部3aとこれの一端面を閉鎖した端面部3bとからなっている。端面部3bは前方f1側に位置し、この端面部の中心孔に回転軸16の先端部を内挿され、これら端面部3bと回転軸16とをネジ止め構造で締結することにより回転軸16と同心状に固定されている。周壁部3aには多数の貫通孔8a、8b、8cが形成されており、これら貫通孔8a、8b、8cのうち端面部3bに近い前方f1側の領域a1の貫通孔8a、8bは、端面部3bから遠い後方側の領域の貫通孔8cより小さな開口面積を有している。
【0016】
円筒体3は合成樹脂材からなり、前後方向f0の長さは30〜40mmであり、外周面の直径は40〜50mmであり、周壁部の肉厚は3〜5mmである。前方f1側の領域a1内には、前後2つの周方向箇所のそれぞれに断面が円形で中心線の方向が円筒体3の半径方向に合致された円形の8つの貫通孔8a、8bが周方向に等間隔に形成されている。
【0017】
一方、後側の領域a2内には、周方向箇所に断面が前後方向f0へ長い長方形とされ図4Bに示すように中心線b1が円筒体3の半径方向外側へ移行するに伴って回転軸16の回転方向c1後側へ偏倚するように傾斜された8個〜10個の貫通孔8cが周方向の等間隔に形成されている。そして、各貫通孔8cの開口面積は、先の1つの貫通孔8a、8bの数倍(例えば5倍〜10倍)である。また、円筒体の外周面の断面の外形を表す円d2の接線と中心線b1との角度は、30〜60度程度である。
【0018】
図3において、塗料供給管4は、金属又は合成樹脂などの硬質な材料で形成され、基体部1の内方を経た後、円筒体3の内側に到達される。塗料供給管4の先端4aは、前端を円筒体3の端面部3bに対向した状態で開口されている。
【0019】
案内体5は、円筒体3の先端の外周囲を包囲する環状体である。案内体5は、基体部1に対して、前後方向f0に80mm〜90mmの範囲内の長さの結合部13により固定されている。結合部13は、円筒体3の中心線b2上の離間した複数位置に該円筒体3の半径面に沿って配置される少なくとも2つ以上からなる複数の環状部材13a、13bと、案内体5及びこれら環状部材13a、13bのうち前後方向f0で隣接した一対のものの相互間を結合する梁13d、13eとからなるものである。
【0020】
梁13d、13eは、回転軸16の前後方向f0に案内体5に投影したとき、互いの投影範囲が異なるように形成されている。本実施例においては、図2に示すように、それぞれの梁13d、13eの長手方向の途中の各箇所が円筒体3の周方向へ90度、ずれた状態に位置している。
【0021】
次に上記した塗料吹付け装置をマンションや集合住宅の排水管系統に対し使用する場合の取扱い例及び各部の作用について説明する。
【0022】
図5にはマンションや集合住宅の排水管系統が示してある。この図中、9は建物の各階を従通する排水立て主管であり、10は排水立て主管9に円弧状に曲がった接続部11を介して一線状に接続された排水横主管である。これら排水立て主管9及び排水横主管10及び接続部11は何れも呼び径100Aであるとする。なお、12は各階の流し台14と排水立て主管9の分岐部9aとを接続した分岐管である。
【0023】
上記した排水横主管10及び排水立て主管9を継続して塗装する場合、まずはそれに先だってこれら主管9、10及び接続部11の内面を従来同様に清掃し温風などで乾燥させた状態とする。この後、作業者は、排水立て主管9の一時的に開口された上端近傍箇所を通じて、排水立て主管9、接続部11及び排水横主管10の内方へこの順に塗料吹付け装置を挿入する。
【0024】
次に作業者は、ケーブル15を介して電動モータ2に電力を供給し、電動モータ2を始動させる。ホース6及び、塗料供給管4を介して排水管系統の外方から回転中の円筒体3内に樹脂塗料を適当流量で圧送する。
【0025】
図3は、円筒体3の貫通孔8a、8b、8cから噴射された樹脂塗料が漸次に肉厚となるように排水立て主管9の内面に塗布され、塗装層h1が形成される様子を示している。圧送された樹脂塗料は円筒体3内で端面部3bの内面に接触しその回転による遠心力で半径方向の外側へ矢印g1で示すように案内されつつ、さらに貫通孔8a、8bから噴出しきれない塗料が矢印g2で示すように流動する。樹脂塗料は前方f1側の領域a1の貫通孔8a、8bを通じて放射状に噴射される。一方、貫通孔8a、8bの開口面積からの噴射量に較べて塗料供給管4から円筒体3内に供給される樹脂塗料の流量が大きいため、樹脂塗料は前方f1側の領域a1を通過して後方側の領域a2の貫通孔8cまで到達されて噴出する。
【0026】
後方側の領域a2の貫通孔8cは貫通孔8a、8bよりも開口面積が大きく、また、貫通孔8a、8bにおいて噴出し得ずに後方側の領域a2にまで達した樹脂塗料が円筒体3の後端から溢れることがないように、これを十分噴出しきれる大きさとなっている。
【0027】
また、その中心線b1が適当に傾斜しているため、起風作用が生じ、貫通孔8c内を円筒体3の内方から外方へ向かって流動する空気流が生成されるため、後端から溢れ出しをさらに抑止している。この空気流は、電動モータ2を介して流動するようにしておけば、電動モータ2の冷却にも効果を資するものである。
【0028】
このような貫通孔8cからの樹脂塗料の噴出による塗布処理が行われている状態の下で、作業者はホース6を巻上げて、排水横主管10内をこれの上流側へ引き戻し移動させる。この引き移動速度や円筒体3内への樹脂塗料の供給を適当に制御することにより、排水横主管10の内面は連続的に塗装される。
【0029】
塗料吹付け装置の引き戻し移動による塗装処理中、円筒体3の貫通孔8a、8b、8cから噴射される樹脂塗料は円筒体3の周壁部3aの全周囲から放射状に噴射される状態となるが、環状部材13a、13b間に前後方向f0に沿って存在する梁13dが存在するため、この梁13dの存在範囲で樹脂塗料が放射を遮られて排水管10の内面に到達することができないことになる影の領域が一時的に形成される。しかし、塗料吹付け装置が梁13dの長さだけ引き移動されると、案内体5と環状部材13a間には前記影の領域と同じ範囲を影の領域とする梁は存在していない。このため、案内体5と環状部材13aとの間から放射される樹脂塗料が前記影の領域に吹き付けられ塗布される。一方、案内体5と環状部材13aとの間には梁13eが存在しており、この梁13eによる別の影の領域が新たに形成されるが、この別の影の領域は先行側である貫通孔8cを通じて放射される樹脂塗料が既に吹き付けられて塗布された状態となっている。したがって、塗料吹付け装置が通過した後の排水管横主管10の内面の全体が塗り残し無く塗装される。
【0030】
図5に戻り、塗装処理が進行して、塗料吹付け装置が排水横主管10から排水立て主管9へ移行する接続部11の円弧状の曲がり通路内に到達する。このとき、案内体5が存在しないときは円筒体3と曲がり通路の内面とが接触する。案内体5が存在することにより、このような事態の発生は阻止され、円筒体3は円弧状の曲がり通路内であっても回転を継続できる。
【0031】
塗料吹付け装置は、接続部11を通過して、排水立て主管9内に到達した後には、ホース6で垂直姿勢に吊り下げられた状態となる。上方への引き移動に伴って、塗料吹付け装置が通過した後の排水立て主管9の内面が塗装される。
【0032】
次に案内梁13の変形例について説明する。
図6Aに示すように、案内体5と環状部材13bとの間を、一対の梁13fで結合している。梁材13fは案内体5と環状部材13bとの間範囲の全長に渡って、前後方向f0に対し角度θ1だけ傾斜されている構成とする。
【0033】
また図6Bに示すように、案内体5と環状部材13a、13bとの間を、前後で隣接した各一対の環状部材間(案内体5と環状部材13aの間、環状部材13aと環状部材13bの間)を棒状体からなる梁13f1、13f2で結合する場合には、梁13f1、13f2は、前後方向f0に対し図6Aの場合と同様に傾斜されている状態とする。また、梁13f1、13f2は、前後方向f0に案内体5へ投影したときの投影範囲が互いに相違した状態となるように配置する。
【0034】
上記した図6A及びBに示すような結合部5であっても、円筒体3の貫通孔8a、8b、8cから噴射される樹脂塗料の放射が梁13f、13f1、13f2に遮られて排水管の内面に樹脂塗料の塗布されない影の領域が塗料吹付け装置の通過した後の排水管の内面に形成される事態は回避される。
【符号の説明】
【0035】
1 基体部
2 電動モータ
3a 周壁部
3 円筒体
4 塗料供給管
5 案内体
8a 貫通孔
8b 貫通孔
8c 貫通孔
9 排水立て主管
10 排水横主管
13 結合部
13a、13b 環状部材
13d、13e 梁
14 ネック部
16 回転軸
a1 領域
a2 領域
b1 中心線
c1 回転方向
f0 前後方向
f1 前方


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側の一端面を閉鎖され周壁部に複数の貫通孔を有する円筒体と、前記円筒体の内側中心を通り前記一端面の中心に固定された電動モータの回転軸と、前記電動モータを配置した基体部と、前記円筒体の先端に配置され結合部を介して前記基体部に固定された案内体と、先端が前記円筒体の内側に開口された塗料供給管とを有する塗料吹付け装置において、
前記円筒体の前記貫通孔のうち前記一端面に近い側の領域の貫通孔は、前記一端面から遠い側の領域の貫通孔よりも小さな開口面積を有し、
前記結合部は、前記一端面に近い側の貫通孔が通過する領域箇所と前記一端面に遠い側の貫通孔が通過する領域箇所では、互いの前記回転軸の前後方向への投影範囲が相違することを特徴とする塗料吹付け装置。
【請求項2】
前記一端面から遠い側の領域の貫通孔は、その中心線が前記円筒体の半径方向外側へ移行するに伴って前記回転軸の回転方向後側へ偏倚するように傾斜されていることを特徴とする請求項1記載の塗料吹付け装置。
【請求項3】
前記近い側の貫通孔が通過する領域箇所と前記遠い側の貫通孔が通過する領域箇所の間に中間環状部材をさらに設け、前記結合部は前記案内体と前記中間環状部材と結合する箇所と、前記中間環状部材と前記基体部を結合する箇所を有することを特徴とする請求項1記載の塗料吹付け装置。
【請求項4】
前記案内体は、前記円筒体の先端を包囲する環状体であることを特徴とする請求項1記載の塗料吹付け装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−92917(P2011−92917A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286314(P2009−286314)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000133939)テラル株式会社 (48)
【出願人】(506206694)いずみテクノス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】