説明

塗料粒子の荷電量分布計測方法

【課題】静電塗装機のベル及び被塗物間の高圧により荷電された不均一な粒径の塗料粒子の荷電量分布を計測可能にする塗料粒子の荷電量分布計測方法を提供する。
【解決手段】ブースエアを発生している塗装ブース内でベルから噴霧される塗料粒子が、高電圧下で荷電される荷電量の分布状態を計測するために、静電塗装機のベル11に対向する被塗物位置に被塗試験板21を配置した塗装状態で、レーザ式の粒子分布計測装置30により側方から噴射パターンの横断面の塗料の粒径分布を計測して、その粒径の塗料粒子に塗料粒子密度を乗算することにより塗料粒子の質量分布データを作成し、被塗試験板21に単位時間当りに塗着した塗料の質量と、被塗試験板21及び高電圧の基準電位間に流れる電流とを計測し、計測したこの電流及び質量を基に塗料粒子の比電荷を算出し、質量分布データに比電荷を乗算することにより塗料粒子の荷電量分布データを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブースエアを発生している塗装ブース内で静電塗装機のベルから噴霧される塗料粒子が、ベル及び被塗物間に印加されている高電圧下で荷電される荷電量の分布状態を計測するための塗料粒子の荷電量分布計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1により、送風が行われている塗装ブース内で塗装される自動車ボデーの塗膜シミュレーション方法において、三次元形状によって変化する各塗面区画に沿った送風の気流速度を求め、ベルに対するずれ角度及びずれ距離に対応してシミュレートした各塗面区画の膜厚値に、さらに基準気流速度を各塗面区画の気流速度で除算した除算値に対応する補正係数を乗算することにより、気流補正を行った膜厚を算出するシミュレーション方法が提案されている。
【0003】
この方法は、ブースエアの存在下での膜厚のシミュレート精度を向上させるものであるが、あくまで各塗面区画の基準膜厚値は、試験により実測したものである。一方、気流によって搬送される微粒子がどこに付着するかをニュートンの運動方程式を前提に予測する試みも広く行われている。一次元で表記するとして、例えば下記のランジュバン(Langevin)の方程式も周知となっている。
【0004】
dv/dt=mk(u−v)+F+B・・・・・(1)
v:粒子速度
u:流体速度
F:外力
B:ブラウン拡散
:粒子質量
k:抗力係数
【0005】
ここで、Fは次の一次結合で表される量である。
F=G+L+C+H
G:重力
L:揚力
C:静電気力
H:熱泳動
【0006】
この外力Fについて、ダウンエアを発生させている塗装ブース内において塗料粒子を噴射させる場合、前述のブラウン拡散B、揚力L、熱泳動Hを無視するとして、またエアシェーピング及びブースエアの流体速度u並びに塗料粒子の重力Gは計測可能もしくは既知として、静電気力C=QE(Q:荷電量、E:電界強度)を基に、ベル高圧により帯電した塗料粒子の互いの斥力による静電気力を規定することができれば、静電塗装機のベルから噴霧される帯電した塗料粒子が被塗物へ塗着する際の挙動が、前述の式(1)に従い、塗料粒子の粒子速度vをベクトル量としてそのベクトル速度を逐次所定の時間間隔ごとに計算することにより解析される。ここで、電界強度E=−∂V/∂x(V:ベル高圧、塗料粒子の荷電量分布及び被塗装面により形成される空間電位、x:ベル、被塗面間の位置座標)の関係があり、したがって空間電位Vを規定することができれば電界強度分布が求まり、塗料粒子の荷電量との乗算により静電気力Cが算出される。このように、前述の種々のパラメータを入力して、図3に示すように、噴射パターン1を解析装置の画面2に画像表示するコンピュータプログラムにより、噴射パターン或はその塗装による膜厚等を試験無しで解析することが可能になる。
【特許文献1】特開2002−172350号公報
【特許文献2】特開平7−209169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような解析手法において、前述の静電気力は、現状では塗料粒子の荷電量分布等を経験的に推定して空間電位Vを算出することにより、前述の関係を基に規定しており、解析結果の信頼度の点で改良の余地が残されていた。
【0008】
本発明は、各塗料粒子に作用する静電気力は、塗料粒子の荷電量を考慮した空間電位を基に規定し得ることに鑑みて、静電塗装機のベル及び被塗物間の高圧により荷電された不均一な粒径の塗料粒子の荷電量分布を計測可能にする塗料粒子の荷電量分布計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、この目的を達成するために、請求項1により、ブースエアを発生している塗装ブース内で静電塗装機のベルから噴霧される塗料粒子が、ベル及び被塗物間に印加されている高電圧下で荷電される荷電量の分布状態を計測するための塗料粒子の荷電量分布計測方法であって、静電塗装機のベルに対向する被塗物位置に被塗試験板を配置した塗装状態で、レーザ式の粒子分布計測装置により側方から噴射パターンの横断面の塗料の粒径分布を計測して、その粒径の塗料粒子に塗料粒子密度を乗算することにより塗料粒子の質量分布データを作成し、被塗試験板に単位時間当りに塗着した塗料の質量と、被塗試験板及び高電圧の基準電位間に流れる電流とを計測し、計測したこの電流及び質量を基に塗料粒子の比電荷を算出し、質量分布データに前記比電荷を乗算することにより塗料粒子の荷電量分布データを作成することを特徴とする。
【0010】
これにより、噴射パターン中の塗料粒子の荷電量の空間分布データ、即ち後述する周知の関係により空間電位が求められ、したがって前述のランジュバンの方程式の静電気力C=QE(C:静電気力、Q:荷電量E:電界強度)が、さらにこの空間電位の分布データを基に電界強度の分布デーを算出することにより求められる。浮遊粒子の濃度、粒径のレーザ光による計測方法は、特許文献2等により周知である。
【0011】
その際、ベル前方領域のエアの高圧電界に伴うイオン発生による計測精度の低下を回避するには、請求項2により、塗料粒子の荷電により生じる電流を計測する際に、被塗試験板の前方にエア中のイオンをトラップするメッシュを配置する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、ブース流のエア圧、特定の静電塗装機のシェーピングエアのエア圧、塗料の種類、吐出流量、被塗物のベルに対する標準距離等を前提条件として、ベル及び被塗装面間に形成される空間電位を算出可能にする塗料粒子の荷電量分布が実測されることにより、噴射パターン、膜厚、所定の標準距離位置での塗装範囲或はその位置での被塗物面の曲面に対応した膜厚変化等が試験に依ることなく解析される。その際、請求項2の発明によれば、比電荷の計測精度が向上することにより、噴射パターンの解析精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1及び図2を基に本発明の実施の形態による塗料粒子の荷電量分布計測方法を説明する。図1はその方法を実施するための計測装置を示すもので、静電塗装機10のベル11に対向する荷電電流計測装置20と、この装置及びベル11間の側方に配置されるレーザ式の粒子分布計測装置30とより構成されている。
【0014】
荷電電流計測装置20は、電流計22を介してアースされ、かつベル11から被塗物が配置される例えば30cm離間した標準位置に配置され、かつ概略予想される噴射パターンの拡りに対応した1.5m平方の被塗試験板21と、その例えば5cm前方に離間して配置されて電流計25を介してアースされ、かつ銅製のフレーム23aに例えば3cm間隔で銅線23bが配列された対応形状のイオントラップメッシュ23とより構成されている。
【0015】
粒子分布計測装置30は、照射したレーザビームの反射光を検出する検出器31と、噴射パターンの幅に対応する縦幅を有し、入射光を平行光線に変換するレンズ32と、このレンズを介して噴射パターンを光走査するように、検出器31から出射されるレーザビームをスイングしつつ反射するミラー33と、付属の処理回路(図示せず)とより構成されている。これにより、噴射パターンを側方から吐出速度よりも十分大きな高速で光走査し、検出器31で時系列的に検出される塗装粒子の微小散乱光のパターンを基に、噴射パターン横断面の塗装粒子の個数及びその粒径を検出して、粒径分布データを作成させる。この種の粒子分布計測機としては、例えば米国アーティアム社(Artium
Technologies Inc.)製の位相ドップラー式レーザ粒子分析計(Phase Doppler Interferometer)を用いることができる。
【0016】
荷電電流計測装置20において、ベル11から吐出されて高圧により荷電された塗装粒子の大部分は、被塗試験板21に塗着して荷電電流となる。一方、高圧電界によりイオン化されたエアのイオン流は相対的に軽量であり、したがって浮遊状態でその大部分は前方のイオントラップメッシュ23に捕捉されてイオン電流になる。したがって、荷電電流は下記の連立方程式よりイオン電流の混流分を除去して求められる。
【0017】
w=(1−a/100)I+(b/100)I
s=(a/100)I+(1−b/100)I
w:イオントラップメッシュ23に流れる電流
s:被塗試験板21に流れる電流
:イオン電流
:荷電電流
a:漏れ率(イオン電流が被塗試験板21に流れる割合)
b:阻害率(荷電電流がイオントラップメッシュ23に流れる割合)
【0018】
前述の両式により、荷電電流及びイオン電流は次のようなる。
={(100−a)Is−aIw}/(100−a−b)・・・・(2)
={(100−b)Iw−aIs}/(100−a−b)
【0019】
ここで、阻害率bは次のように規定される。
b=100Wo−Ww/Wo
o:イオントラップメッシュ23を配置しないときに、被塗試験板21に塗着した乾燥塗膜重量
w:イオントラップメッシュ23を配置したときに、被塗試験板21に塗着した乾燥塗膜重量
【0020】
漏れ率aは、塗料を吐出しない状態で、イオントラップメッシュ23及び被塗試験板21に流れるイオン電流を計測して、その比より求めることができ、図2に示す関係が確認され、イオン電流の増加に伴って低下する傾向にある。これにより、荷電電流Iは、前述の式(2)を基にエアのイオン化の影響を回避して計測される。この荷電電流は、連続的な塗装粒子の吐出状態で略一定レベルであり、したがって単位時間、つまり1秒についての積算電荷量に相当する計測した電流値が電気量qに相当する。このような連立方程式による塗料粒子の荷電電流の計測方法自体は周知である。
【0021】
ここで、比電荷Qs=q/m(q:電気量、m:質量)の関係があり、したがって単位時間について被塗試験板21に塗着した塗料の重量を計測することにより、比電荷が算出される。これにより、静電塗装機を特定すると共に、ダウン流であるブース流の流速、塗料の種類、その吐出流量、送風部12からベル11の周囲に沿って送風されるシェーピングエアの流速及び高電圧を設定して、荷電電流Ipを求めることにより、所定の塗装条件下で塗料粒子の比電荷が算出される。
【0022】
一方、粒子分布計測装置30により、噴射パターン中の塗料粒子の個数及び粒径、即ち一般的に50μm程度を中心にした粒径分布が計測される。その塗料の比重はその塗膜の重量計測により算出され、したがって計測された粒径分布データは、粒径に対応した球形の塗料粒子として質量分布データに換算可能である。したがって、この質量分布データに比電荷Qを乗算することにより、塗料粒子の荷電量Qの空間分布データが作成される。
【0023】
これにより、試験により求めた荷電量の空間分布データからベル電圧、被塗装面の電位等の塗装環境の電位を境界条件として、下記の周知のガウスの定理に基づく計算により、前述のランジュバンの運動方程式による噴射パターンの解析が高精度に行える。
V/∂x=−Q/εoεs
ここで、
V:空間電位
Q:場の荷電量
εo:真空誘電率
εs:比誘電率
x:位置座標
【0024】
つまり、場の荷電量Qが噴射パターン中の塗料粒子の荷電量Qの空間分布データに相当し、これで算出される空間電位Vの分布データからE=−∂V/∂xの定義により、前述のC=QEにおける電界強度Eの分布データが求まり、これにより均一でない粒径により異なる荷電量の塗料粒子について前述の運動方程式に入力すべき静電気力Cが求められる。
【0025】
したがって、図3に示すように、ベル21及び被塗試験板21間の高電圧下の荷電量中に吐出された個々にばらつきのある荷電量の塗料粒子について、互いに斥力により拡散しつつ荷電量に沿って半径方向に粒子個数密度を減少させつつ被塗物に向かう噴射パターンが解析される。これにより、例えば自動車ボデーに対する塗装範囲及び所定の吐出時間についての膜厚も予測可能となる。その曲面に対して解析装置の画面上でのカーソル指示による任意の位置の粒子密度もしくは膜厚も確認可能となる。また、ブースエア又はシェーピングエアの流速、被塗物のベルに対する距離等を変更した場合、再度試験を行うことなく概略解析可能である。静電塗装機の構造、塗料の種類等が変更される場合は、同様な静電気力を確認する試験を新たに行う。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態による荷電量分布データ作成するために用意する装置の構成を説明する図である。
【図2】同荷電量分布データを作成する際に用いるイオン電流に対する漏れ率を求めるためのグラフを示す図である。
【図3】同荷電量分布データを運動方程式に入力して解析された噴射パターンの画像を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 静電塗装機
11 ベル
12 送風部
20 荷電電流計測装置
21 被塗試験板
30 粒子分布計測装置
23 イオントラップメッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブースエアを発生している塗装ブース内で静電塗装機のベルから噴霧される塗料粒子が、ベル及び被塗物間に印加されている高電圧下で荷電される荷電量の分布状態を計測するための塗料粒子の荷電量分布計測方法であって、
静電塗装機のベルに対向する被塗物位置に被塗試験板を配置した塗装状態で、 レーザ式の粒子分布計測装置により側方から噴射パターンの横断面の塗料の粒径分布を計測して、その粒径の塗料粒子に塗料粒子密度を乗算することにより前記塗料粒子の質量分布データを作成し、
前記被塗試験板に単位時間当りに塗着した塗料の質量と、前記被塗試験板及び高電圧の基準電位間に流れる電流とを計測し、
計測したこの電流及び前記質量を基に前記塗料粒子の比電荷を算出し、
前記質量分布データに前記比電荷を乗算することにより前記塗料粒子の荷電量分布データを作成することを特徴とする塗料粒子の荷電量分布計測方法。
【請求項2】
塗料粒子の荷電により生じる電流を計測する際に、被塗試験板の前方にエア中のイオンをトラップするメッシュを配置することを特徴とする請求項1記載の塗料粒子の荷電量分布計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−216189(P2007−216189A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−42405(P2006−42405)
【出願日】平成18年2月20日(2006.2.20)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(390018474)新日本空調株式会社 (88)
【Fターム(参考)】