説明

塗料組成物

【課題】 金属や金属に塗布された有機塗膜に対し、良好な密着性を有する塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂、(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物、および(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを含み、前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して0.8〜4.0質量部含まれる塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関し、さらに詳述すると、プラスチックやプレコートメタルの塗装に好適な塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窯業系素材、鉄鋼、建材等の各種産業製品の表面に、アクリルウレタン樹脂組成物等の合成樹脂系塗料組成物を塗布し、塗膜を形成することで、意匠効果を付与したり、耐候性や耐食性等を向上させたりすることが行われている。
近年、都市近郊では排気ガス等の浮遊物質の増加によって建築物の雨筋状汚染が問題視されている。特に、耐候性に優れた塗膜は、補修・塗り替えまでの期間が長く、長期に亘って大気に曝されることから、優れた耐汚染性を兼ね備えることが要求される。
【0003】
この問題点を解消する手段として、塗料組成物中に、汚染低減成分としてテトラアルコキシシラン等のアルコキシシラン化合物やその部分加水分解縮合物などを配合する手法が開発されている(特許文献1〜3等参照)。
しかしながら、これら従来の塗料組成物から形成される塗膜は、耐汚染性という点では良好であるものの、金属表面や、金属に塗布されたポリエステル等の有機塗膜面との密着性が低く、剥離し易いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−331136号公報
【特許文献2】特開平11−106684号公報
【特許文献3】特開2001−329227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、金属や金属に塗布された有機塗膜に対し、良好な密着性を有する塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂を主剤とし、その硬化剤として、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシラン化合物を所定量含むものを用いることで、得られた塗料組成物が、被塗布物である金属や、金属に塗布されたポリエステル塗膜等の有機塗膜に対し、良好な密着性を有する塗膜を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. (A)水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂、(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物、および(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを含み、前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して0.8〜4.0質量部含まれることを特徴とする塗料組成物、
2. 前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものである1の塗料組成物、
3. 前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との部分加水分解縮合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものである1の塗料組成物、
4. 前記メルカプト基含有アルコキシシラン化合物が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、および3−メルカプトプロピルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種である2または3の塗料組成物、
5. 前記その他のアルコキシシラン化合物が、テトラアルキルシリケートである3の塗料組成物、
6. 前記ポリイソシアネート化合物が、3個以上のイソシアネート基を有する3〜5のいずれかの塗料組成物、
7. さらに(D)アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物を含む1〜6のいずれかの塗料組成物、
8. (E)有機溶剤を含む1〜7のいずれかの塗料組成物、
9. プラスチック用またはプレコートメタル用である1〜8のいずれかの塗料組成物
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗料組成物は、硬化剤の一成分として、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを用いているため、金属サイディング表面等の従来の塗料では密着性に乏しい基材に対しても密着性に優れた塗膜を与え得る。
さらに、当該塗料組成物に、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物を配合することで、耐汚染性にも優れた塗膜をも与え得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る塗料組成物は、(A)水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂、(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物、および(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを含み、(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、(A)アクリル樹脂100質量部に対して0.8〜4.0質量部含まれるものである。
【0010】
(A)アクリル樹脂
本発明の塗料組成物では、主剤であるアクリル樹脂として、水酸基およびカルボキシル基を有するものを用いる。
上記水酸基およびカルボキシル基の含有量は、特に限定されるものではないが、得られる被膜の基材に対する密着性をより高めることを考慮すると、水酸基価として20〜100mgKOH/gが好ましく、30〜70mgKOH/gがより好ましく、カルボキシル基としては、酸価で0.5〜5mgKOH/gが好ましく、1〜4mgKOH/gがより好ましい。
【0011】
上記アクリル樹脂は、例えば、水酸基含有アクリルモノマーおよびカルボキシル基含有アクリル系モノマーのラジカル重合(共重合)や、水酸基およびカルボキシル基含有アクリル系モノマーのラジカル重合(単独重合)などで得られたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
水酸基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N−メチロール化アクリルアミド、ε−カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、カーボネート変性メタクリレート(ダイセル化学工業(株)製、HEMAC)等が挙げられる。
カルボキシル基含有アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸や、水酸基を含有するアクリルモノマーの末端水酸基を無水コハク酸、無水グルタル酸のような脂肪族ジカルボン酸等の酸無水物と反応させて得られる化合物などが挙げられる。
これら水酸基含有アクリル系モノマーおよびカルボキシル基含有アクリル系モノマーは、それぞれ単独で用いても、それぞれの種類で2種以上組み合わせて用いても、両者を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
また、本発明のアクリル樹脂の製造にあたっては、上記水酸基やカルボキシル基を有するアクリル系モノマーと共重合可能なその他のモノマーを用いてもよい。
共重合可能なその他のモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル基含有(メタ)アクリル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有(メタ)アクリル系モノマー;アクリロニトリル等のニトリル基含有(メタ)アクリル系モノマー;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等の芳香族炭化水素系ビニルモノマー;マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸等のスルホン酸含有ビニルモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和結合含有酸無水物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロプレン等の塩素含有モノマー;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等の水酸基含有アルキルビニルエーテル;エチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル等のアルキレングリコールモノアリルエーテル類;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のα−オレフィン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル等のアリルエーテルなどが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、水酸基含有アルキルビニルエーテル等の水酸基等を有するモノマーを用いる場合、これとカルボキシル基含有アクリル系モノマーを共重合させて水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂とすることもできる。
【0013】
上記重合は、適当な有機溶媒の存在下、ラジカル重合開始剤を用いて行われる。
有機溶媒としては、反応に悪影響を及ぼさないものであれば任意であり、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂肪族または脂環族炭化水素;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、低沸点芳香族ナフサ、高沸点芳香族ナフサ等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−アミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ジメチルフォルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチレンカーボネート等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0014】
ラジカル重合開始剤としては、公知のものから適宜選択することができ、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシドなどが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
反応温度は、通常、60〜120℃程度である。反応時間は、通常、6〜12時間程度である。
【0015】
組成物中における、アクリル樹脂の含有量は、特に限定されるものではないが、アクリル樹脂溶液中の固形分として10〜75質量%が好ましく、20〜65質量%が好ましい。
本発明で用いるアクリル樹脂の分子量としては、特に限定されるものではないが、数平均分子量3,000〜100,000が好ましい。
なお、数平均分子量は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。
【0016】
(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物
本発明の組成物では、得られる塗膜の耐候性等を高める観点から、硬化剤の一成分として、無黄変型ポリイソシアネート化合物を用いる。
無黄変型イソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチル−ペンタン−1,5−ジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリオキシエチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;ノルボルナンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加キシレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートや、これらのアロファネート体、ビューレット体、ヌレート体や、上記ジイソシアネートとトリメチロールプロパンとのアダクト体(TMPアダクト体)などが挙げられる。
【0017】
上記各ポリイソシアネート化合物は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよいが、本発明においては、3官能以上のポリイソシアネート化合物を用いることが好ましいため、少なくとも、上記各ジイソシアネートの、アロファネート体、ビューレット体、ヌレート体、TMPアダクト体のいずれかが含まれるポリイソシアネート化合物を用いることが好ましい。
中でも、HDIのアロファネート体、ビューレット体、ヌレート体、TMPアダクト体が好ましい。
【0018】
組成物中における、無黄変型ポリイソシアネート化合物の含有量は特に限定されるものではないが、(A)アクリル樹脂100質量部(固形分として、以下同様)に対して、5〜20質量部が好ましく、10〜15質量部がより好ましい。
【0019】
なお、塗膜の耐候性等に影響を与えない限り、必要に応じて、上記無黄変型ポリイソシアネートとともに、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;キシリレン−1,4−ジイソシアネート、キシリレン−1,3−ジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、およびこれらのアロファネート体、ビューレット体、ヌレート体、TMPアダクト体などを一部併用してもよい。
【0020】
(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシラン
本発明の組成物では、得られる塗膜の金属表面等との付着力向上、着色の低減、組成物の貯蔵安定性の向上等の観点から、硬化剤の一成分として、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを用いる。
このイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランとしては、特に限定されるものではないが、金属表面等との付着力をより向上させることを考慮すると、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものや、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との部分加水分解縮合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものが好適であり、中でも、後者の手法で得られたイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが好ましい。
【0021】
上記メルカプト基含有アルコキシシラン化合物としては、特に限定されるものではく、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、このメルカプト基含有アルコキシシラン化合物と部分加水分解縮合させるその他のアルコキシシラン化合物としても、特に限定されるものではなく、例えば、テトラメチルシリケート(テトラメトキシシラン)、テトラエチルシリケート(テトラエトキシシラン)、テトラ−n−プロピルシリケート(テトラn−プロポキシシシラン)、テトライソプロピルシリケート(テトラi−プロポキシシシラン)、テトラ−n−ブチルシリケート(テトラn−ブトキシシラン)、テトライソブチルシリケート(テトラi−ブトキシシラン)、テトラ−t−ブチルシリケート(テトラt−ブトキシシラン)等のテトラアルキルシリケート;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、メチルトリ−sec−オクチルオキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン;メチルトリフェノキシシラン等のアルキルトリアリールオキシシラン;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのグリシドキシトリアルコキシシラン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、得られる塗膜の金属表面等に対する密着性をより高めることを考慮すると、テトラアルキルシリケートが好適であり、特に、テトラエチルシリケートが好ましい。
【0023】
部分加水分解の手法としては、例えば、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との混合物に、水を添加し、部分加水分解させて縮合させる手法が挙げられる。
この場合、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との混合比率は任意であるが、1/1〜1/2(モル比)が好ましい。
なお、これらの部分加水分解縮合物は、市販品を用いてもよく、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとテトラエチルシリケートとの部分加水分解縮合物であるX41−1805(信越化学工業(株)製)等を用いることができる。
【0024】
上述したメルカプト基含有アルコキシシラン化合物や、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との部分加水分解縮合物と反応させるポリイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、上記(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物で例示した、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、およびこれらのアロファネート体、ビューレット体、ヌレート体、TMPアダクト体から適宜選択して用いることができるが、この場合も、得られる塗膜の耐候性等を考慮すると、無黄変型ポリイソシアネートが好ましく、特に、3官能以上である、無黄変型ポリイソシアネート化合物のアロファネート体、ビューレット体、ヌレート体、TMPアダクト体がより好ましく、HDIのヌレート体が最適である。
【0025】
本発明において、組成物中における、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランの含有量は、(A)アクリル樹脂100質量部に対して、0.8〜4.0質量部とする。含有量がこの範囲外であると、得られる塗膜の金属表面に対する密着性が不十分になる。
【0026】
(D)アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物
本発明の組成物には、得られる塗膜の耐汚染性を高める目的で、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物を配合してもよい。
このアルコキシシラン化合物としては、上記(C)で述べたものと同様のものを用いることができる。
アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、テトラメチルシリケートの部分加水分解縮合物である三菱化学(株)製MKCシリケートMS56S、MS56、MS51、(株)コルコート製エチルシリケート40、エチルシリケート48、メチルシリケート51等を用いることができる。
組成物中における、アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物の含有量は特に限定されるものではないが、(A)アクリル樹脂100質量部に対して、2〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。
【0027】
さらに、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、脱水剤、艶消し剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、硬化触媒等の各種添加剤を、組成物中に、0.1〜30質量%配合してもよい。
脱水剤としては、例えば、2,2−ジメトキシプロパン、オルソ蟻酸メチル、オルソ蟻酸エチル、オルソ酢酸メチル、オルソ酢酸エチル等が挙げられる。
艶消し剤としては、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
硬化触媒としては、2−エチルヘキサン酸錫、n−オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ナフテン酸鉄、オクチル酸鉛等の有機金属化合物が挙げられる。
【0028】
本発明の組成物は、上記各成分を任意の順序で適宜配向して調製することができ、その調製の際には有機溶剤を用いてもよい。
有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸n−アミル等のエステル溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶剤;ミネラルスピリット等の石油系炭化水素溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、グリコールエーテルエステル類溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
溶剤の使用量には特に制限はないが、組成物中の総固形分量が10〜70質量%程度となる量が好ましい。
なお、有機溶剤としては、上述したアクリル樹脂製造時の残留溶媒をそのまま用いることもできる。
【0029】
以上説明した塗料組成物の使用法としては、例えば、基材表面に直接本発明の組成物を塗布し、これを乾燥する手法が挙げられる。
この場合、本発明の組成物の塗布法は特に限定されるものではなく、刷毛塗り、ローラ塗りなどの公知の手法から適宜選択すればよい。また、塗布量、塗膜の厚み、乾燥時間などは、基材の材質や被覆品の用途などに応じて適宜なものとすればよい。
【0030】
本発明の組成物を適用する基材は任意であるが、特に、従来の塗料では密着性に乏しい材質からなる基材に対しても良好な密着性を発揮する。
そのような基材としては、例えば、金属基材、プラスチック基材等が挙げられる。
金属基材としては、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、合金化亜鉛めっき鋼板、錫めっき鋼板、クロムめっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、鉛めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板、アルミニウム板、マグネシウム合金板、チタン板、ステンレス板等が挙げられる。
プラスチック基材としては、ABS樹脂、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、MS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、トリアセチルセルロース等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各物性は、以下の手法によって測定した。また、以下において、「部」は「質量部」を意味する。
(1)分子量
装置:東ソー(株)製 高速GPC装置 HLC−8120GPC
カラム:東ソー(株)製 TSK−GEL SUPER H2000の2個連結
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
溶離液:THF
カラム流速:0.6ml/min
(2)粘度
装置:芝浦システム(株) ビスメトロン VG−A
【0032】
[合成例1]アクリル樹脂の合成
撹拌機、温度計、還流冷却器、窒素ガス導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、トルエン2044部、キシレン108部、水酸基含有モノマー(HEMA)118.7部、メチルメタクリレート(MMA)782部、スチレン216部、n−ブチルアクリレート(n−BA)311.3部、アクリル酸4.3部、および反応開始剤(パーブチル−O、日本油脂(株)製)7部を仕込み、窒素ガスで内部を置換して95℃まで加温した。この中に、トルエン363部、キシレン182部、HEMA203部、MMA1332部、スチレン365部、n−BA527部、アクリル酸7.2部、および反応開始剤(パーブチル−O、日本油脂(株)製)29部の混合物を、110℃に反応温度を維持しつつ、4時間かけて滴下して反応を行った。滴下終了後、さらに反応開始剤(パーブチル−O)7部および酢酸n−ブチル468部を2時間かけて滴下し、熟成反応を3時間継続して固形分54質量%、粘度8200mP・s/25℃、水酸基価20.9mgKOH/g、酸価1.7mgKOH/g、分子量(Mn)20580のアクリル樹脂溶液を得た。
【0033】
[合成例2]イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランAの製造
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとテトラエチルシリケートとの部分加水分解縮合物(X41−1805、信越化学工業(株)製)91部、HDIのヌレート体(コロネートHX、日本ポリウレタン工業(株)製)585部、キシレン451部、およびジブチル錫ジラウレート(DBTDL)触媒0.10部を加え、内部を窒素ガスで置換し、80℃で6時間反応を行い、固形分60質量%、NCO含量10.6質量%のイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランAを得た。
【0034】
[合成例3]イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランBの製造
撹拌機、温度計、還流冷却器、および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとテトラエチルシリケートの部分加水分解縮合物(X41−1805、信越化学工業(株)製)91部、HDIのビューレット体(タケネートD−165N,三井化学ポリウレタン(株)製)533部、キシレン505部、およびDBTDL触媒0.09部を加え、内部を窒素ガスで置換し、80℃で6時間反応を行い、固形分56質量%、NCO含量10.6質量%のイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランBを得た。
【0035】
[合成例4]イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランCの製造
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン62部、HDIのヌレート体(コロネートHX、日本ポリウレタン工業(株)製)692部、キシレン503部、およびDBTDL触媒0.19部を加え、内部を窒素ガスで置換し、80℃で6時間反応を行い、固形分60質量%、NCO含量10.6質量%のイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランCを得た。
【0036】
〈塗料組成物の調製〉
[実施例1]
合成例1で得られたアクリル樹脂100.0質量部(固形分として)、HDIのヌレート体(コロネート−HX、日本ポリウレタン工業(株)製)13.2質量部、合成例2で得られたイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランA0.8質量部(固形分として)、およびアルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物(MKC−シリケートMS56S、三菱化学(株)製)9.7質量部を撹拌・混合し、塗料組成物を調製した。
【0037】
[実施例2〜6,比較例1〜4]
表1の組成に変更した以外は実施例1と同様にして、塗料組成物を調製した。
【0038】
【表1】

【0039】
上記各実施例および比較例で調製した塗料組成物について、各基材に対する接着性および雨筋状汚染性を、以下の手法により測定・評価した。結果を表2に示す。
(1)接着性
(1−1)塗膜の作製
各基材表面に、上記各実施例および比較例で調製した塗料組成物を、No.12のバーコーターで塗布した後、200℃で40秒乾燥し、塗膜を形成した。
(1−2)標準接着試験
上記手法により、各基材上に塗膜を硬化形成した後、JIS K 5600−5−6(2007年版)の碁盤目試験に基づき、塗膜面に5×5にマス目を作成し、セロハンテープ(ニチバン(株)製CT−24)を貼り、上方に引っ張り剥離状況を確認した。剥がれなかったマス目を記録し、評価基準はJISに基づき下記のとおりとした。
○:分類0〜2
△:分類3〜4
×:分類5
(2)雨筋状汚染試験
300×10×1mmのアルミ板に上記実施例および比較例で調製した各塗料を乾燥膜厚50μmとなるようにスプレー塗装し、標準状態で3日間乾燥養生した後、上方から3分の1の長さのところで内角度が150°になるように折り曲げた。作製した試験体を、埼玉県久喜市において、南面に向けて面積が狭い面を上部になるようにし、面積が広い面を垂直になるように設置して、屋外暴露を実施した。3ヶ月後の雨筋汚れを以下の基準により評価した。
○:雨筋汚れがほとんど認められないもの
△:雨筋汚れが少し認められるもの
×:雨筋汚れがはっきりと認められるもの
【0040】
【表2】

【0041】
表2に示されるように、各実施例で調製した塗料組成物から形成された被膜は、各種基材に対する接着性に優れていることがわかる。
これに対し、比較例1で調製した塗料組成物は、硬化剤の一成分としてイソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを用いていないため、得られた塗膜は金属基材に対する密着性に劣っていることがわかる。
また、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランに換えて、メルカプト基含有アルコキシシランの部分加水分解縮合物を用いた比較例3で調製した塗料組成物から得られた塗膜も金属基材に対する密着性に劣っていることがわかる。
さらに、イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランの含有量がアクリル樹脂に対して0.8〜4.0質量部の範囲外である比較例2,4で調製した塗料組成物から得られた塗膜も、金属基材に対する密着性が不十分であることがわかる。
なお、実施例6で調製した塗料組成物は、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を含有していないため、得られた塗膜の耐汚染性は不十分であるが、実施例2のように、アルコキシシランの部分加水分解縮合物を加えることで、十分な耐汚染性が発揮されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基およびカルボキシル基を有するアクリル樹脂、(B)無黄変型ポリイソシアネート化合物、および(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランを含み、
前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、前記(A)アクリル樹脂100質量部に対して0.8〜4.0質量部含まれることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものである請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記(C)イソシアネート基含有チオウレタン変性アルコキシシランが、メルカプト基含有アルコキシシラン化合物とその他のアルコキシシラン化合物との部分加水分解縮合物に、ポリイソシアネート化合物を反応させて得られたものである請求項1記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記メルカプト基含有アルコキシシラン化合物が、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、および3−メルカプトプロピルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種である請求項2または3記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記その他のアルコキシシラン化合物が、テトラアルキルシリケートである請求項3記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート化合物が、3個以上のイソシアネート基を有する請求項3〜5のいずれか1項記載の塗料組成物。
【請求項7】
(D)アルコキシシラン化合物の部分加水分解縮合物を含む請求項1〜6のいずれか1項記載の塗料組成物。
【請求項8】
(E)有機溶剤を含む請求項1〜7のいずれか1項記載の塗料組成物。
【請求項9】
プラスチック用またはプレコートメタル用である請求項1〜8のいずれか1項記載の塗料組成物。

【公開番号】特開2012−62378(P2012−62378A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206358(P2010−206358)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000116301)亜細亜工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】