説明

塗膜の製造方法及び塗工装置

【課題】塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い液であっても塗布量分布を抑え、塗液の物性を管理することの可能なグラビアコーターを用いた塗工方法を提供する。
【解決手段】液受けパン11を二重円弧構造に形成する。二重円弧状の液受けパン11の長手方向の2つの縁部のうち、基材1への塗工を行なったグラビアロール12の部分が塗液に接触する方向に向う側に位置する縁部11uの、液受けパン11を構成する内側部材21に、液受けパン11の貯液部11aに塗液を注液するための注液口31を設け、さらに液受けパン11を構成する外側部材22の底部に外側に突出した緩衝ゾーン32を設ける。送液ポンプ17により緩衝ゾーン32に塗液を供給することにより、塗液を、内側部材21及び外側部材22間に形成された連通路24を介して注液口31に送液し、注液口31から液受けパン11の貯液部11aに注液する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘度の高い塗液をグラビアコーター等のロールコーターで塗工する場合に、塗布量分布(塗布量のばらつき)を抑え、安定した塗工を行なうことの可能な塗膜の製造方法及び塗工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア塗工方法は、現在様々な塗液の塗工方法として利用されている。
グラビア塗工方法は、塗液をグラビアロールにのせることが出来れば、ドクター刃で余分な塗液を掻き落として基材に塗工することを容易に実現できるので、塗液物性の適用可能範囲は他の塗工方式より広い。
しかしながら、グラビアロールに塗液をのせる際には、液受けパンという入れ物の中に塗液を満たした状態でグラビアロールを浸漬させながらのせていくので、液受けパンの中の塗液を管理しにくい。例えば、塗液中の溶媒は、空気開放される液受けパン内で蒸発するため、液受けパンの中で塗液に粘度上昇が起き、塗工物の品質管理上問題となる。
【0003】
このような、液受けパンの中での塗液の粘度上昇は、一般的に、液受けパンの中の塗液を廃液口から一定量抜き取りながら再度注液側に循環させ、液受けパンの中の塗液状態を一定化することにより回避している。
しかしながら、液受けパンの中の塗液を循環させるためには、ある程度塗液の粘度が低いことが必須条件となり、高粘液の場合は塗液の循環を行なうことが難しくなる。特に、液受けパン内にある状態では塗液にせん断がかかりにくいため、せん断速度の低い領域では、粘度が高い塗液の場合、液受けパン内において塗液の滞留部ができるなど扱いが難しくなる。
【0004】
ところで、塗液の品質管理の観点では、なるべく開放部を少なくして塗液の流れを一方向にすることが効果的である。塗工方法としてはグラビア法とは異なるが、ダイ塗工などはその良い例である。
また、特許文献1のように、ダイ塗工の良いところを取り入れるためにファウンテン型のノズルを直接グラビアロールに塗液を吐出させるために使用する方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−128512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ダイ塗工の場合、開放部がなく塗液の流れを一方向にすることはできるが、特に粘度が高い塗液を塗布する場合には、基材の幅方向に塗布量分布が生じ好ましくない。
また、特許文献1で提案されている方法では、グラビアロールに塗液をのせるところまでは、開放部がなく塗液の流れを一方向とした状態で実現することができるため好ましいが、ファウンテン型ノズルから吐出させて塗液をのせるためには、ロールとノズルとの間隙を適切に設定しないと、塗布量に分布を生じせしめることになる。
【0007】
特許文献1で挙げた方法では、ドクター刃とノズルとが一体化した形状ではあるが、ドクター刃で別途掻き落とすことにより塗布量分布を抑えることも可能である。しかしながら、ファウンテン型ノズルを使用していることから、装置は重厚長大となり、装置の導入費用が大きいという問題があった。
そこで、この発明は、上記従来の未解決の問題に着目してなされたものであり、粘度が高い液であっても、塗布量分布を抑え塗工液の物性を管理することの可能な塗膜の製造方法及び塗工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、液受けパンへの塗液の供給方法を特定することで、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、液受けパン内の塗液に一部を浸漬させたグラビアロールを回転させつつ基材に接触させることにより、前記グラビアロールに付着した塗液を前記基材に転写する塗膜の製造方法であって、前記液受けパンを断面が円弧状となるように形成し、前記液受けパンの円弧に沿って前記グラビアロールが回転するように前記液受けパン及び前記グラビアロールを配置し、前記液受けパンへの前記塗液の注液を、前記液受けパンに対し、前記グラビアロールの回転方向の上流側から行なうようにしたことを特徴としている。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、前記塗液は、せん断速度が1[1/s]のときのせん断粘度が1000mPa・s以上20000mPa・s以下であることを特徴としている。
さらに、請求項3に係る発明は、前記液受けパンは、所定の空隙を有した二重円弧構造を有し、前記空隙を通して前記グラビアロールの回転方向の上流側の縁部から、前記塗液を注液することを特徴としている。
【0010】
また、請求項4に係る発明は、前記液受けパン及び前記グラビアロールは、前記グラビアロールの回転方向の上流側と前記グラビアロールとの距離が、前記グラビアロールの回転方向の下流側と前記グラビアロールとの距離よりも小さくなるように配置されることを特徴としている。
さらにまた、請求項5に係る発明は、前記グラビアロールの回転方向の上流側と前記グラビアロールとの距離は10mm未満であり、且つ、前記グラビアロールの回転方向の下流側と前記グラビアロールとの距離は10mm以上100mm以下であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の請求項6に係る発明は、液受けパン内の塗液に一部を浸漬させたグラビアロールを回転させつつ基材に接触させて、前記グラビアロールに付着した塗液を前記基材に転写する塗工装置において、前記塗液は、せん断速度1[1/s]のときのせん断粘度が1000mPa・s以上20000mPa・s以下の粘度を示す塗液であって、前記液受けパンは、所定の空隙を有した二重円弧構造を有し、且つ前記液受けパンは、当該液受けパンの前記グラビアロールの回転方向の上流側の縁部内側に形成された注液口と、前記二重円弧構造の空隙部に形成され前記注液口と連通し且つ前記塗液が供給される連通路と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液受けパンをその断面が円弧状となるように形成し、この液受けパンに対し、グラビアロールの回転方向の上流側から塗液を注液するようにしたため、液受けパン内において液受けパンの円弧状の内面に沿って塗液の流動が生じることになる。このため、グラビアロールの回転による塗液の流動だけでなく、液受けパンの内面に沿った部分でも塗液の流動を生じさせることができるため、塗液の滞留部の発生を抑制することができる。よって、特に塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い液であっても、塗布量分布を抑え、塗工液の物性を管理しながらグラビアコーターで塗工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用したグラビアコーターの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明における塗工装置の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したグラビアコーターの概略構成図であって、一般的なグラビアコーターである。
図1において、2はロール状に巻き取られた基材1を連続走行させるための基材巻出し部、3は基材1を連続走行可能に支持するバックアップロール、4は基材1に対して塗工を行なう塗工装置、5は基材1に塗布された塗布液を乾燥するための乾燥ゾーン、6は乾燥ゾーン5で乾燥された後の基材1をロール状に巻き取る巻き取り部である。
【0015】
前記塗工装置4は、塗液が供給される液受けパン4aと、グラビアロール4bと、グラビアロール4bと対向して配置されたバックアップロール4cと、ドクター刃4dと、前記液受けパン4aに塗液を供給するための送液ポンプ4eと、液受けパン4aから廃液を回収するための送液タンク4fとを備える。
前記乾燥ゾーン5には、例えば、基材1に塗布された塗布液を乾燥するための乾燥装置、乾燥後の塗膜を硬化するための例えば、電位放射線照射装置等の硬化装置が設けられている。
【0016】
そして、液受けパン4aに塗液が供給されると、グラビアロール4bによって塗液が掻き揚げられてドクター刃4dで計量された後、基材1に転写される。また、液受けパン4aの塗液の一部は、液受けパン4aの図示しない廃液口から送液タンク4fに回収され、送液ポンプ4eにより再度塗液として液受けパン4aに送られ、前記液受けパン4a、送液タンク4f、送液ポンプ4eにより形成される循環系4gにより、塗液を循環利用している。
【0017】
ここで、グラビアロール4bが基材1の走行方向に対して同じ方向に進むものをダイレクト方式といい、逆方向に進むものをリバース方式という。また、バックアップロール4cがグラビアロール4bに対して押し付ける位置に設置されるものやバックアップロール4cがないキス方式などあるが、本発明はどの方式のものであっても有効である。
また、本発明は、液受けパン4aへの塗液の供給方法を規定するものであり、ドクター刃4dの形状や材質、設置位置や角度には効果を限定されない。また、グラビアロール4bについても同様で、彫刻されるパターンやロール径、材質等には限定されない。
【0018】
前記液受けパン4aへの塗液の供給は、一般的には送液ポンプ4eと接続されるチューブなどを液受けパン4a内へ設置し、送液ポンプ4eによりチューブを介して送液することにより行なっている。
しかしながら、本発明に用いられるようなせん断速度が低い領域での粘度が高い液では、液受けパン4a内に塗液を供給するための塗液の供給口近傍及び回転するグラビアロールの近傍でしか塗液の流動性がなく、塗液の滞留部が発生する。
【0019】
本発明者は、鋭意検討の結果、液受けパン4aへの塗液の供給方法を特定することで、塗液の滞留を抑制することができ、塗布量分布(塗布量のばらつき)を抑制することができることを見出した。
すなわち、本発明における塗工装置4は、図2に示すように、長手方向に垂直な断面が円弧状を有する液受けパン11において、グラビアロール12が基体1に接した後、液受けパン11の塗液に接する方向に移動する側の液受けパン11の縁部11u側から塗液を供給するようにした。そのため、グラビアロール12の回転による塗液の流動と、塗液の注液による塗液の流動とが生じることになり、グラビアロール12近傍と、液受けパン11の円弧状の内面に沿った部分とで塗液の流動を生じさせることができ、液受けパン11内の塗液をより広い範囲で流動させることができる。このため、塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い液でも塗布量分布を抑えることができた。
【0020】
以下、図2に示す、本発明を適用した塗工装置4について説明する。
図2は、本発明を適用した塗工装置4の一例を示す断面図であって、11は塗液が供給される液受けパン、12はバックアップロール13と対向して配置されたグラビアロール、14はドクター刃、15は液受けパン11からオーバーフローした塗液を回収するための廃液回収パン、16は廃液回収パン15で回収した廃液を回収する送液タンク、17は送液タンク16に回収した廃液を液受けパン11に送液するための送液ポンプである。
【0021】
液受けパン11は、図2に示すように、その長手方向に垂直な断面が、円弧状の2つの部材が一定の空隙を以て貼り合された二重円弧構造を有し、内側部材21が、塗液を貯液する貯液部11aを形成している。前記二重円弧構造の液受けパン11は、グラビアロール12の円弧に沿った円弧状の底面を有し、その円弧は、前記グラビアロール12の同心円の一部を形成している。この液受けパン11は、貯液部11a内の塗液にグラビアロール12の長手方向全体を浸漬可能な長さに形成される。
【0022】
そして、図2の断面において、基材1への塗工を行なったグラビアロール12の部分が液受けパン11内の塗液に接触する方向に向う側を、グラビアロール12の回転方向の上流側、液受けパン11内の塗液と接触したグラビアロール12の部分が基材1と接触する方向に移動する側をグラビアロール12の回転方向の下流側としたとき、液受けパン11の長手方向の2つの縁部のうち、グラビアロール12の回転方向の上流側に位置する縁部11uの内側部材21には、液受けパン11の貯液部11aに塗液を注液するための注液口31が、内側部材21の長手方向全体にわたって形成されている。
【0023】
また、液受けパン11の外側部材22の底部には、外側に突出した、断面が略正方形状の緩衝ゾーン32が、外側部材22の長手方向全体にわたって形成されている。
さらに、グラビアロール12の回転方向の下流側に位置する液受けパン11の縁部11dから緩衝ゾーン32までの間の、内側部材21と外側部材22との間に形成される空隙部23には樹脂シート33が埋め込まれ、この空隙部23への塗液の侵入の防止が図られている。前記樹脂シート33の材質は使用する塗液に対する耐性を考慮して選定すれば良く、フッ素樹脂などが好適である。
【0024】
前記緩衝ゾーン32には図示しない供給口が設けられ、塗液は、送液チューブ17aを通って送液ポンプ17により前記供給口から緩衝ゾーン32に供給される。
そして、緩衝ゾーン32と、液受けパン11のグラビアロール12の回転方向の上流側の縁部11uとの間の内側部材21及び外側部材22で形成される空隙部分が緩衝ゾーン32と注液口31とを連通する連通路24となり、送液ポンプ17により緩衝ゾーン32に供給された塗液は緩衝ゾーン32においてその供給圧が長手方向全体にわたって伝達され、これにより緩衝ゾーン32の全幅において塗液が連通路24を通って注液口31に送液されて注液口31から液受けパン11の貯液部11aに注液される。そして、液受けパン11からオーバーフローした塗液は、廃液回収パン15で回収された後、送液タンク16に送られる。
【0025】
ここで、塗液の注液口31は、液受けパン11のグラビアロール12の回転方向の上流側の縁部11u近傍に設けられているため、グラビアロール12の回転方向の上流側から、液受けパン11の貯液部11aに塗液が供給されることになる。このため、液受けパン11内の塗液において、グラビアロール12の回転による塗液の流動と注液口31からの塗液の注液による塗液の流動とが生じるため、グラビアロール12近傍の塗液と液受けパン11の内面に沿った部分の塗液とを流動させることができ、より広い領域で流動させることができる。したがって、その分、塗液のせん断速度が低い領域で粘度が高い液であっても塗布量分布を抑えることができる。
【0026】
また、液受けパン11とグラビアロール12とは、グラビアロール12の回転中心に対し、液受けパン11の二重円弧構造の円弧中心が、グラビアロール12の回転方向の下流側にずれた位置となるように配置される。
具体的には、前記液受けパン11の断面において、グラビアロール12の回転方向の上流側の縁部11uに設けられた注液口31における液受けパン11及びグラビアロール12間の距離(以後、上流側の距離という。)Luが10mm未満であり、且つ、グラビアロール12の回転方向の下流側の縁部11dにおける液受けパン11及びグラビアロール12間の距離(以後、下流側の距離という。)Ldが10mm以上100mm以下であることが好ましい。
【0027】
前記上流側の距離Luが10mm未満ではグラビアロール12の回転によるせん断力によって塗液の流動性が得られるため、上流側の縁部11uの近傍では、滞留部分をほぼゼロにすることができる。しかしながら、液受けパン11の二重円弧全体にわたって、すなわち上流側の縁部11uから下流側の縁部11dにわたって液受けパン11とグラビアロール12との間の距離を10mm未満に設定した場合、液受けパン11を設置したことによる緩衝の効果が出ない。なお、緩衝の効果とは、一度液受けパン11に塗液を入れることにより、液受けパン11内でレベリングされた塗液がグラビアロール12に塗工されること(直接塗工せず、レベリングされること)による効果を指す。
【0028】
そこで、下流側の距離Ldを10mm以上100mm以下に広げることにより、緩衝の効果を残しつつ、塗液の滞留部を減らすことができる。さらに、下流側の距離Ldを100mm以上広げた場合には滞留部が増える恐れがあり、好ましくない。
また、液受けパン11の貯液部11aへの塗液の注液は、液受けパン11の底部に設けた緩衝ゾーン32に塗液を供給することにより行なう。塗液を、液受けパン11の幅方向に均一に広げるための圧力損失が得られるのであれば、塗液を連通路24に供給する位置、すなわち緩衝ゾーン32の位置に制約はないが、清掃などのメンテナンス性を考慮すると、緩衝ゾーン32は、液受けパン11の底部に設けるほうが好ましい。
【0029】
前記二重円弧構造の液受けパン11の内側部材21及び外側部材22間の空隙の距離は、送液ポンプ17の耐圧に影響を与えない範囲で設定されるべきで、100μmから2mmの間の値に設定される。
前記液受けパン11の貯液部11aへの塗液注液のための注液口31の長手方向の開口幅は、グラビアロール12のグラビア版の塗工幅(版の模様が彫刻されている幅)とほぼ同等が好ましいが、完全に等しい必要はない。塗工幅よりも狭い場合には幅方向端部付近に、不均一などの問題が生じる可能性があるが、塗工幅よりも広い場合には、塗工幅と開口幅との差が100mmほどの範囲であれば問題ない。
【0030】
前記送液ポンプ17による液受けパン11の緩衝ゾーン32への塗液の供給量については、グラビアロール12への塗工量となるべく等しくすることが望まれる。図2に示すように、液受けパン11からオーバーフローした塗液を受けて適切に排出するための廃液回収パン15を設置することも可能である。ただし、このときに塗液物性管理の観点から、塗液を、図2に示すように元の供給系に戻すのではなく、廃棄する工程を設けてもよい。廃液物性管理の観点からも供給量は管理されるべきである。
【0031】
液受けパン11の幅は、その端部が、グラビアロール12の長手方向のロール面端部位置よりも50mm以内の位置となる幅におさめる。それより長くなると、液受けパン11の端部に滞留部ができやすく、本発明に用いられるようなせん断速度が低い領域での粘度が高いものになればなるほど、その滞留による問題は大きくなる。ただし、グラビアロール12と液受けパン11の端部とが接触すると異物故障を発生させたりするため、液受けパン11の幅はロール面長よりも5mm以上長くする必要がある。
【0032】
液受けパン11を構成する材質は、ステンレスやアルミなど金属であることが一般的で、形状の精度がそこまで要求されないため、軽い材質で製作することが望ましい。洗浄性を考えて内面をフッ素樹脂コーティングしておくことも可能である。
また、前記塗液としては、せん断速度が1[1/s]のときのせん断粘度が1000mPa・s以上20000mPa・s以下の粘度を示す塗液を適用することができる。
【0033】
また、上記実施形態においては、グラビアロール12の回転方向の上流側の縁部に注液口31を設けた場合について説明したが、必ずしも縁部に限るものではなく、グラビアロール12の回転方向の上流側の位置であり且つ、注液口31からの注液により液受けパン11内の塗液に流動を生じさせ、この流動により滞留部の発生を抑制することの可能な位置であれば任意の位置に設けることができる。
【0034】
また、上記実施の形態においては、液受けパン11を二重円弧構造に形成し、グラビアロール12の回転方向の上流側の縁部から注液を行なう場合について説明したがこれに限るものではなく、例えば、グラビアロール12の回転方向の上流側の縁部に緩衝ゾーンを設け、この緩衝ゾーンに設けた注液口から塗液を注液するように構成してもよく、要は、液受けパン11の長手方向縁部の、グラビアロール12のグラビア版の塗工幅と同等程度の領域から塗液を中継することができればどのような構成であってもよい。
【0035】
また、上記実施の形態においては、液受けパン11を一定の空隙をもった二重円弧構造に形成した場合について説明したが、必ずしも一定の空隙である必要はない。緩衝ゾーン32から注液口31までの連通路24を形成することができ、且つ注液口31の長手方向において均等に注液を行なうことができればよく、また、緩衝ゾーン32から注液口31までの間のみを二重構造として連通路24を確保するように構成してもよい。
【実施例】
【0036】
図1に示すような一般的なグラビアコーターと、本発明を適用した図2に示す塗工装置4を備えたグラビアコーターとを使って塗工を行なった。
塗液として、アクリル樹脂を主成分としてメチルエチルケトンを溶媒とした塗液を用いた。塗液中に架橋剤を加えることで、せん断速度が1[1/s]のときのせん断粘度が7000[mPa・s]であった。このせん断粘度の測定は、ハーケ社製のレオメーターRS75を用いて行なった。
【0037】
一般的なグラビアコーターを用いた場合には、時間がたつにつれて溶媒の蒸発が進み、液受けパン11の端部に滞留部が生じ、そのため次第にグラビアロール12により塗液が掻き揚げられなくなり、塗工幅方向に膜面の抜けが観察されるようになった。
一方で本発明による塗工装置4を備えたグラビアコーターを用いた場合には、滞留部が生じることはなく、特に問題なく塗工が可能であった。以上より本発明の効果が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
塗液の管理がシビアなものでもグラビアコーターで問題なく塗工でき、グラビアコーターで塗工する製品であれば遍く有効である。
【符号の説明】
【0039】
1 基材
4 塗工装置
5 乾燥ゾーン
11 液受けパン
12 グラビアロール
13 バックアップロール
14 ドクター刃
15 廃液回収パン
16 送液タンク
17 送液ポンプ
24 連通路
31 注液口
32 緩衝ゾーン
33 樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液受けパン内の塗液に一部を浸漬させたグラビアロールを回転させつつ基材に接触させることにより、前記グラビアロールに付着した塗液を前記基材に転写する塗膜の製造方法であって、
前記液受けパンを断面が円弧状となるように形成し、前記液受けパンの円弧に沿って前記グラビアロールが回転するように前記液受けパン及び前記グラビアロールを配置し、
前記液受けパンへの前記塗液の注液を、前記液受けパンに対し、前記グラビアロールの回転方向の上流側から行なうようにしたことを特徴とする塗膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗液は、せん断速度が1[1/s]のときのせん断粘度が1000mPa・s以上20000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載の塗膜の製造方法。
【請求項3】
前記液受けパンは、所定の空隙を有した二重円弧構造を有し、
前記空隙を通して前記グラビアロールの回転方向の上流側の縁部から、前記塗液を注液することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗膜の製造方法。
【請求項4】
前記液受けパン及び前記グラビアロールは、
前記グラビアロールの回転方向の上流側と前記グラビアロールとの距離が、前記グラビアロールの回転方向の下流側と前記グラビアロールとの距離よりも小さくなるように配置されることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の塗膜の製造方法。
【請求項5】
前記グラビアロールの回転方向の上流側と前記グラビアロールとの距離は10mm未満であり、且つ、前記グラビアロールの回転方向の下流側と前記グラビアロールとの距離は10mm以上100mm以下であることを特徴とする請求項3記載の塗膜の製造方法。
【請求項6】
液受けパン内の塗液に一部を浸漬させたグラビアロールを回転させつつ基材に接触させて、前記グラビアロールに付着した塗液を前記基材に転写する塗工装置において、
前記塗液は、せん断速度1[1/s]のときのせん断粘度が1000mPa・s以上20000mPa・s以下の粘度を示す塗液であって、
前記液受けパンは、所定の空隙を有した二重円弧構造を有し、
且つ前記液受けパンは、当該液受けパンの前記グラビアロールの回転方向の上流側の縁部内側に形成された注液口と、
前記二重円弧構造の空隙部に形成され前記注液口と連通し且つ前記塗液が供給される連通路と、を備えることを特徴とすることを特徴とする塗工装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−71284(P2012−71284A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220003(P2010−220003)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】