説明

塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法

【課題】電気的特性のみでなく光学的特性及び機械的特性にも優れ、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無く、しかも透明性に優れており、さらに、塗布時に環境の影響を受けることが極めて少なく、量産工程に容易に適用可能な塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の塗膜は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散してなる塗膜であり、この金属微粒子または金属酸化物微粒子を、有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法に関し、更に詳しくは、プラズマディスプレイ(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(EL)等の各種表示装置における表示面の透明性等の高度の光学的特性を有する塗膜、また、発塵による環境汚染が問題とされる製造工程においても好適に用いられ、しかも、塗布環境の影響を受け難く、量産工程に適用することが容易な塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子または金属酸化物微粒子(以下、無機微粒子と称する)を有機化合物中に分散した塗膜は、無機材料と有機材料の性質を併せ持つ機能性に優れた塗膜として利用されている。この有機化合物としては、多くはバインダー樹脂が用いられている。
この無機微粒子としては、例えば、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、スズ含有酸化インジウム(ITO)、アルミニウム含有酸化亜鉛等がある。これらの金属酸化物微粒子は、導電性を有する材料でありながら、可視光線に対して透明性を有するので、この性質を生かして、金属酸化物微粒子を導電性フィラーとして絶縁体マトリックス中に分散させた透明導電性塗料が提案され実用化されている。
【0003】
この透明導電性塗料は,塗布液を塗布するという簡単な工程により高度の電気的及び光学的機能を発現する塗膜を得ることができることから、透明プラスチック材料の帯電防止処理等として用いられている。
この塗膜の導電性は、塗膜中の金属酸化物微粒子の充填率に依存し、金属酸化物微粒子の充填率がある閾値を越えると飛躍的に増大する。この閾値は浸透閾値と称され、金属酸化物微粒子の充填率がこの閾値を越えたとき、金属酸化物微粒子は絶縁体マトリックス中で相互に結合した導電路を形成すると考えられている。したがって、塗膜に良好な導電性を発現させるためには、金属酸化物微粒子の充填率を上記の閾値以上とする必要がある。
【0004】
ところで、金属酸化物微粒子の充填率を上記の閾値以上にすると、この金属酸化物微粒子により塗膜の透明性が損なわれるという弊害が生ずることがある。
その理由は、金属酸化物の多くが可視光線の波長帯域(380nm〜780nm)のうち特定波長の帯域の光を吸収するという性質を有するために、この光吸収に起因して塗膜に着色が生じ、その結果、塗膜の透明性が損なわれるからである。
また、多くの金属酸化物は、塗料の基材として用いられる樹脂組成物と比較して屈折率が高く、この金属酸化物微粒子を塗膜中に分散させた場合、金属酸化物微粒子により光が散乱され、その結果、塗膜の透明性が低下するからである。
このような理由から、塗膜中に分散させることができる金属酸化物微粒子の比率には限界がある。
【0005】
そこで、金属酸化物微粒子を用いた透明導電性塗料の特性を改良するための様々な提案がなされている。
例えば、アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製方法(特許文献1参照)、塗料組成物(特許文献2、3参照)、塗布液中あるいは塗膜中にてアンチモン含有酸化スズ微粒子が鎖状凝集体を形成(特許文献4参照)、アンチモン含有酸化スズ微粒子凝集体が更に凝集した網目状構造体を形成(特許文献5、6参照)、等が提案されている。
【特許文献1】特開平2−105875号公報
【特許文献2】特開平5−5069号公報
【特許文献3】特開平8−27405号公報
【特許文献4】特開平9−31238号公報
【特許文献5】特開平11−343430号公報
【特許文献6】特開2001−131485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の無機微粒子の多くは、特定波長の紫外線、可視光線、あるいは赤外線を吸収する性質がある。また、この無機微粒子の屈折率は、一般的な有機樹脂の屈折率と比較して高い。このため、有機化合物中に分散された無機微粒子は紫外線、可視光線、あるいは赤外線を散乱、吸収して光学特性を悪化させる虞があるという問題点があった。特に、可視光線を吸収、散乱した場合には、高度の光学的特性を要求される用途には適用できない。そこで、無機微粒子の有する無機材料としての特性を活かしながら、高度の光学特性を満足できる塗膜、及びそれを形成するための塗料が要望されていた。
【0007】
一方、金属酸化物微粒子を用いた透明導電性塗料の特性を改良するために様々な提案がなされているが、これらの透明導電性塗料においても、形成した塗膜の僅かな着色により塗膜の透明性が損なわれ、導電性も低下するという問題点があり、透明導電性塗料の光学特性及び電気的特性のさらなる改良が必要であった。
これらの問題点の例を挙げると、上記の透明導電性塗料を液晶ディスプレイの構成部材である偏光板や導光板に適用した場合に、得られた塗膜にわずかでも着色があると、輝度や画質に悪影響を及ぼす虞がある。また、透明プラスチック板の表側に透明導電性塗料を塗布して塗膜を形成し、この透明プラスチック板の裏側に光沢性を有する金属膜を形成した場合に、塗膜のわずかな曇りが金属膜の曇りとして識別されることがある。とりわけ、3波長蛍光灯のような演色性が改良された光源のもとでは、散乱光に基づく塗膜の曇りが人間の肉眼でも容易に識別されることから、僅かな塗膜の曇りのために製品全体が不良と判断されることがある。この様なわずかな塗膜曇りは、通常の測定装置では検出することができない。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、電気的特性のみでなく光学的特性及び機械的特性にも優れ、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無く、しかも透明性に優れており、さらに、塗布時に環境の影響を受けることが極めて少なく、量産工程に容易に適用可能な塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、金属微粒子または金属酸化物微粒子を用いた塗膜、及びそれを形成するための塗料の特性を改良するために鋭意検討を重ねた結果、ナノメートル級の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散してなる塗膜においては、金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列すれば、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い塗膜が形成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の塗膜は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散してなる塗膜であって、前記金属微粒子または金属酸化物微粒子を、前記有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の塗料は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子と、溶媒と、を含有してなることを特徴とする。
【0012】
前記ミセル粒子またはエマルジョン粒子は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を含み数平均分子量が5000以下であるオリゴマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有するとともに、アクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有してなることが好ましい。
【0013】
本発明の他の塗料は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子と、溶媒と、を含有してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の塗膜の製造方法は、本発明の塗料を基材上に塗布し、得られた塗膜に乾燥処理、加熱処理、放射線照射のうち1つ以上を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の塗膜によれば、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散し、前記金属微粒子または金属酸化物微粒子を前記有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列したので、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れたものとなる。
【0016】
また、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列したので、金属微粒子または金属酸化物微粒子が活性が高いにもかかわらず、極めて安定したものとなる。
【0017】
本発明の塗料によれば、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子と、溶媒と、を含有したので、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を容易に形成することができる。
【0018】
本発明の他の塗料によれば、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子と、溶媒と、を含有したので、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を容易に形成することができる。
【0019】
本発明の塗膜の製造方法によれば、本発明の塗料を基材上に塗布し、得られた塗膜に乾燥処理、加熱処理、放射線照射のうち1つ以上を施すので、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を容易かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の塗膜及び塗料並びに塗膜の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0021】
「塗膜」
本発明の塗膜は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散してなる塗膜であり、前記金属微粒子または金属酸化物微粒子を、前記有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列してなる塗膜である。
【0022】
ここで、金属微粒子または金属酸化物微粒子を、有機化合物中にて鎖状に配列してなる構造とは、金属微粒子または金属酸化物微粒子の1次粒子が1つづつ一本の鎖のようにつながって並んだ鎖状構造(以下、一本鎖構造と称する)のことである。ここで「つながる」とは、1次粒子同士が接触しているのみではなく、鎖状に配列された1次粒子間に3nm以下の間隙がある場合も含む。
その理由は、この塗膜を例えば導電性材料として用いた場合、この3nm以下の間隙が、粒子間にトンネル効果等による電子移動が可能となる間隙だからである。
また、分岐鎖を有する鎖状構造とは、鎖状構造が途中で分岐している構造(以下、一本鎖分岐構造と称する)であり、分岐した鎖も1つの鎖状構造となっている。
【0023】
この塗膜は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子が、有機化合物中で一本鎖構造または一本鎖分岐構造を形成しているので、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りがほとんどない。
この一本鎖構造または一本鎖分岐構造の長さは、長鎖の部分の長さが50nm以上、より好ましくは100nm以上である。この長さの上限については特に制限はない。また、50nm以下の長さの一本鎖構造または一本鎖分岐構造が含まれていても構わない。
【0024】
また、一本鎖分岐構造の長さとは、その構造体の最も長い鎖の部分の長さであり、この一本鎖分岐構造がコイル状構造あるいは網目状構造を有する場合、コイル状構造あるいは網目状構造の差し渡しの長さである。
この一本鎖構造または一本鎖分岐構造の長さ、金属微粒子または金属酸化物微粒子の一次粒子径、粒子間の間隙を測定する方法としては、例えば、電子顕微鏡を用いる方法がある。
【0025】
金属微粒子または金属酸化物微粒子の種類は、特に限定されず、塗膜の目的に応じて適宜選択することができる。
この金属微粒子または金属酸化物微粒子の一次粒子径は、コロイドサイズであることが好ましく、例えば、3nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは3nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。
【0026】
ここで、金属微粒子または金属酸化物微粒子の一次粒子径を上記のように限定した理由は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の微細な粒子であれば、塗膜中にて光の散乱が請じ難くなり、したがって、透明な塗膜を得ることができるからである。なお、一次粒子径が30nmを超えると、粒子が光の散乱を引き起こし、透明性を損なう慮があり、また、粒子径が3nm未満であると、導電膜として使用した場合、粒子間の接触抵抗に起因する導電不良が発生する慮があるからである。
【0027】
上記の有機化合物としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子を含有したものが好ましい。
このミセル粒子またはエマルジョン粒子としては、金属微粒子または金属酸化物微粒子と複合体を形成したものが好ましい。
【0028】
また、上記の有機化合物としては、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子を含有したものであってもよい。
この水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子としては、金属微粒子または金属酸化物微粒子と複合体を形成したものであってもよい。
【0029】
「塗料」
本発明の塗料は、次の(1)、(2)のいずれかの塗料である。
(1)一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子と、溶媒とを含有する塗料。
このミセル粒子またはエマルジョン粒子は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を含み数平均分子量が5000以下であるオリゴマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有するとともに、アクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有してなることが好ましい。
【0030】
(2)一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子と、溶媒とを含有する塗料。
【0031】
以下、本発明の塗料について詳細に説明する。
本発明の塗料は、(A)アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子、あるいは(B)ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子を含むが、これら(A)または(B)粒子は、自己乳化性を有する紫外線硬化型樹脂、放射線硬化型樹脂前駆体のいずれかを含有することが好ましい。
【0032】
ここで、放射線硬化型樹脂前駆体とは、UV光照射あるいは電子線照射によって液体状態の前駆体から固体状態の樹脂に変化する前駆体のことである。
この放射線硬化型樹脂前駆体は、構成成分としてアクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基、ウレタン結合のいずれかを含み、かつ自己乳化性を有するエマルジョン粒子が好ましい。
【0033】
また、(A)または(B)粒子は、平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下、好ましくは10nm以上かつ5μm以下、より好ましくは10nm以上かつ1μm以下、さらに好ましくは100nm以上かつ1μm以下である。
ここで、平均粒子径を上記のように限定した理由は、上記の範囲とすることで塗膜の表面が平滑となり、良好な透明性が得られるからである。
例えば、導電性塗料の場合では、形成される塗膜の導電性を高めるためには、(A)または(B)粒子の平均粒子径が出来るだけ大きいほうが好ましい。
【0034】
その理由は、(A)または(B)粒子の粒子径と、金属微粒子または金属酸化物微粒子の粒子径との違いに起因する排除体積効果によるものと考えられ、(A)または(B)粒子の粒子径が大きすぎる場合には、塗膜の透明性が損なわれる。これは、塗膜の表面及び内部に形成される凹凸により光が散乱されるためである。
【0035】
この(A)または(B)粒子の平均粒子径は、例えば、動的光散乱法を用いたレーザードップラー型粒度分布計によって測定することができる。動的光散乱法とは、媒質中に分散している粒子にレーザー光線を照射し、粒子によって散乱あるいは反射される光の波長の変化から粒子の大きさを推定する方法である。
粒度分布に幅がある試料の粒子径を表す方法としては、累積百分率粒子径のほかに、体積平均粒子径、数平均粒子径、面積平均粒子径などがあるが、本発明の塗料では、動的光散乱法により測定した累積百分率粒子径(50%)を用いて平均粒子径を定義した。
【0036】
(A)粒子は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を含み数平均分子量が5000以下であるオリゴマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有するとともに、アクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有してなることが好ましい。
その理由は、このような組成の化合物は、自己乳化により容易にミセルまたはエマルジョンを形成し易く、かつ後述するスポンジ相(または、バイコチニュアス及びマルチコチニュアス構造)を形成し易いからである。
【0037】
この塗料においては、溶媒は特に限定されず、通常使用される有機溶媒、水等を適宜選択して使用すればよい。
【0038】
本発明の塗料は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、(A)または(B)粒子とを、溶媒(分散媒)中で分散させた後、必要に応じて溶媒(分散媒)を除去することにより、溶媒(分散媒)の濃度を90重量%以下の濃度に調整することができる。この溶媒(分散媒)の比率を適宜調整することにより、塗布性能にすぐれた塗料、及び溶媒(分散媒)の基板及び環境に与える影響を低減した塗料を提供することができる。
【0039】
本発明の塗料にて使用される金属微粒子または金属酸化物微粒子の種類は、特に限定されず、塗膜の目的に応じて適宜選択することができる。
この金属微粒子または金属酸化物微粒子の一次粒子径は、コロイドサイズであることが好ましく、好ましくは3nm以上かつ30nm以下、より好ましくは3nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。
【0040】
この金属微粒子または金属酸化物微粒子の一次粒子径を3nm以上かつ30nm以下と限定した理由は、このような粒径の微粒子であれば、形成した塗膜中にて光の散乱が生じ難く、したがって、透明な塗膜を得る目的に適しているからである。
ここで、一次粒子径が30nmを超えると、粒子が光の散乱を引き起こし塗膜の透明性を損なう慮があるからであり、一方、一次粒子径が3nm未満であると、例えば、導電膜として使用した場合、粒子間の接触抵抗に起因する導電性不良が発生する慮があるからである。
【0041】
この金属微粒子または金属酸化物微粒子は、適当な溶媒(分散媒)に単独で分散した状態では、分散性がよいことが好ましい。また、塗膜形成時のバインダー成分として機能する(A)または(B)粒子と共に溶媒(分散媒)中に分散したときには、(A)または(B)粒子との複合体を形成するものであることが好ましい。このような性質を有する金属微粒子または金属酸化物微粒子は、表面電荷を帯びていることが好ましい。例えば、半導体の金属酸化物微粒子をpH6以上かつ8以下の水に分散させて金属酸化物微粒子の表面電荷をゼータ電位計で測定した場合、そのゼーター電位は−80mV以上かつ−20mV以下が好ましく、より好ましくは−60mV以上かつ−30mV以下である。このゼータ電位は、例えば、電気泳動・レーザードップラー法により測定することができる。
【0042】
本発明の塗料は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、(A)または(B)粒子とが複合体を形成していることが好ましい。複合体としては、特に限定されないが、例えば、(A)または(B)粒子と溶媒(分散媒)との界面に金属微粒子または金属酸化物微粒子が吸着または付着された複合体が好ましい。
この複合体の平均粒子径は、10nm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは100nm以上かつ10μm以下、さらに好ましくは100nm以上かつ5μm以下である。
ここで、複合体の平均粒子径を上記の範囲に限定した理由は、このような粒径の複合体であれば、形成した塗膜中にて光の散乱が生じ難く、したがって、透明な塗膜を得る目的に適しているからである。
【0043】
この複合体は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と(A)または(B)粒子とを、溶媒中で混合することにより作製することができる。例えば、溶媒中の金属微粒子または金属酸化物微粒子の表面電位を調整することにより、(A)または(B)粒子に金属微粒子または金属酸化物微粒子を吸着または付着を誘起する方法により製造することができる。
この複合体粒子は、極めて安定したものであるから、塗布時に環境の影響を受けることが極めて少なくなり、量産工程に容易に適用することができる。
なお、この複合体を定量的に評価する方法としては、例えば、分散媒中に存在する複合体粒子の濃度を、レーザードップラー型粒度分布計により測定する方法等がある。
【0044】
本発明の塗料を基材上に塗布し、得られた塗膜を乾燥または加熱することにより、本発明の塗膜を得ることができる。
この塗膜の製造方法としては、少なくとも下記の2工程を有することが好ましい。
(1)塗工工程
塗料を基材上に塗布し、この基材上に溶媒(分散媒)を含有する塗膜を形成する工程。
(2)乾燥工程
0℃以上かつ50℃以下、相対湿度が10%以上かつ70%以下の環境中に、少なくとも30秒以上放置し、塗膜の表面から溶媒(分散媒)を揮発させて乾燥塗膜を形成する工程。
【0045】
この乾燥工程にて塗膜が十分に硬化すれば、以下の工程は必要ないが、塗膜が硬化していなければ、下記の1工程を施す必要がある。
(3)膜の硬化工程
乾燥工程の温度より更に高い温度にて加熱処理を施すか、あるいは放射線照射を施すことにより、塗膜を硬化させる工程。
【0046】
これらの工程のうち乾燥工程では、塗膜から溶媒(分散媒)が揮発するに従って、塗膜に含まれる溶媒(分散媒)の比率は徐々に低下する。
乾燥工程においては、塗膜中の好ましい溶媒(分散媒)の比率は、0.001%以上かつ90%以下である。この比率の範囲においては、溶媒(分散媒)は塗膜のマトリックス中にて連続相を形成することが好ましい。このような連続相を形成する方法としては、塗料を乾燥して塗膜を形成する過程で、(A)または(B)粒子の形態が変化する相転移を誘起させることが好ましい。
【0047】
より具体的には、相転移により、内部に線状あるいは管状の連続層を含有するスポンジ状、ラメラ状、またはオニオン状の構造体を形成することが好ましい。その理由は、金属微粒子または金属酸化物微粒子が自己組織化(または自己集合)により形成する微細構造と、有機化合物が自己組織化により形成する微細構造との相互作用により、より偏析した構造体が形成されるからである。このような偏析した構造体は、絶縁体の中で有効な導電路として機能する。
【0048】
このスポンジ状、ラメラ状、またはオニオン状の構造体は、例えば、両親媒性分子の存在下で容易に形成される。
このような構造体としては、金属微粒子または金属酸化物微粒子が一本の鎖状に配列してなる一本鎖構造体、または分岐鎖を有する一本の鎖状に配列してなる一本鎖分岐構造体がある。
【0049】
図1〜図3は、本発明の一本鎖構造体の形成過程を示す模式図であり、金属微粒子または金属酸化物微粒子の自己組織化と樹脂分散体(有機化合物)の自己組織化との相互作用により、塗膜中に一本鎖構造体が生成する過程を示したものである。
図1は形成過程の初期段階を示しており、塗料を基材上に塗布した直後には、分散媒中に、金属微粒子または金属酸化物微粒子(小点)と樹脂分散体(大円)とが分散している。
【0050】
図2は形成過程の中期段階を示しており、塗料を乾燥する過程で、金属微粒子または金属酸化物微粒子は自己組織化により一本鎖構造体を形成し、一方、樹脂分散体は連続した相構造を形成する。
図3は形成過程の最終段階を示しており、塗膜中に金属微粒子または金属酸化物微粒子が分岐部を有する鎖状に配列した一本鎖分岐構造体が形成される。
【0051】
本発明の塗膜及び塗料を適用した好ましい例は、可視光線に対する透明性と電気導電性を併せて発現する透明導電膜及び透明導電性塗料である。
この透明導電性塗料は、金属微粒子または金属酸化物微粒子として、バンドのエネルギーギャップが3.0eV以上のワイドギャップ半導体である金属酸化物微粒子を用いることが好ましい。
この金属酸化物としては、例えば、スズ、アンチモン、インジウム、亜鉛のいずれかを含有する金属水酸化物を200℃以上、より好ましくは350℃以上かつ500℃以下の温度に一定時間保持する加熱工程を経て作製される金属酸化物半導体が好適である。
【0052】
本発明の透明導電性塗料では、1次粒子径が3nm以上かつ30nm以下であり、バンドのエネルギーギャップが3.0eV以上であるワイドギャップ半導体である金属酸化物微粒子と、10nm以上かつ1μm以下の(A)または(B)粒子とにより、10nm以上かつ10μm以下の複合体粒子を形成したので、塗布時に環境の影響を受けることが極めて小さくなり、量産工程に容易に適用することができる。
【0053】
この透明導電性塗料では、バンドのエネルギーギャップが3.0eV以上であるワイドギャップ半導体である金属酸化物微粒子とエマルジョン粒子あるいはラテックス粒子とからなる複合体粒子を形成し、必要に応じて、溶媒(分散媒)を適当な手段で除去することにより、溶媒(分散媒)の濃度を90重量%以下の濃度にすることができる。また、溶媒(分散媒)の比率を選択することにより、塗布性能にすぐれた塗料、及び溶媒(分散媒)の基材及び環境に与える影響を低減した塗料を提供することができる。
【0054】
次に、本発明の適用形態の一つである透明導電性塗料及び透明導電膜について詳細に説明する。
「透明導電性塗料」
本発明の透明導電性塗料は、次の(1)、(2)のいずれかの塗料である。
(1)一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属酸化物微粒子を、(A)または(B)粒子の表面に吸着または付着させ、この金属酸化物微粒子が吸着または付着した粒子を極性溶媒中に分散させて分散液とし、この分散液中の粒子の濃度を1%以上かつ90%以下とした塗料。
【0055】
(2)一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属酸化物微粒子を、オリゴマーを含む紫外線硬化型樹脂を成分とする(A)または(B)粒子の表面に吸着または付着させ、この金属酸化物微粒子が吸着または付着した粒子を分散媒中に分散させて分散液とし、この分散液中の分散媒の濃度を7%以下とした塗料。
【0056】
以下、本発明の透明導電性塗料及びその製造方法について詳細に説明する。
「金属酸化物微粒子」
金属酸化物微粒子の一次粒子径は、この金属酸化物微粒子が導電性フィラーとして機能することを考慮すると、コロイドサイズであることが好ましく、3nm以上かつ30nm以下が好ましく、より好ましくは3nm以上かつ20nm以下、さらに好ましくは3nm以上かつ15nm以下である。
【0057】
この金属酸化物微粒子の一次粒子径を3nm以上かつ30nm以下と限定した理由は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の微細な粒子であれば、塗膜中にて光の散乱が生じ難く、したがって、透明な塗膜を形成する目的に適しているからである。
ここで、一次粒子径が30nmを越えると、粒子が光の散乱を引き起こし透明性を損なう虞があり、また、一次粒子径が3nm未満であると、粒子間の接触抵抗に起因する導電性不良が発生する虞があるからである。
【0058】
この金属酸化物微粒子の可視光線に対する透過性を維持するためには、金属酸化物のバンドギャップ(Eg)は3.0eV以上であることが好ましい。このような性質を備えた金属酸化物としては、スズ、アンチモン、インジウムのいずれかを含有する金属酸化物が好ましい。例えば、アンチモン含有酸化スズ(ATO)、酸化スズ、スズ含有酸化インジウム(ITO)は、可視光線の透過性と電気導電性を併せ持つ金属酸化物であり、本発明のごとき透明導電性膜を作製するうえで好適である。このほか、インジウム、亜鉛、ガリウム、アルミニウム等を含有する金属酸化物を用いることができる。
この金属酸化物微粒子に対しては、他の微細な金属微粒子を加えてもよい。このような金属微粒子の例としては、金、銀、ルテニウム、パラジウム等を挙げることができる。
【0059】
この金属酸化物微粒子は、ある一定の固形分濃度範囲において、微粒子分散液がゾル状態からゲル状態に変化する性質を有することが好ましい。より好ましくは、この金属酸化物微粒子の表面が親水性であり、この微粒子を水中に分散した水分散液が10%以上かつ50%以下の固形分の濃度範囲でゾル状態からゲル状態に変化する性質、即ちゾル−ゲル相転移を起こす性質を有することが好ましい。ゾル−ゲル相転移は、例えば粘度の急激な変化として観測される。
【0060】
この金属酸化物微粒子は、適当な分散液に単独で分散した状態では、分散性がよいことが好ましい。また、バインダー成分として機能する粒子と伴に分散した際には、表面に吸着して凝集体を形成してもよい。
このような性質を有する金属酸化物は、表面電荷を帯びていることが好ましい。表面電荷は、ゼーター電位計で計測され、pHが6以上かつ8以下の水に分散した場合に、−80mV以上かつ−20mV以下の範囲、より好ましくは−60mV以上かつ−30mV以下の範囲にあることが好ましい。
【0061】
このような条件を満たす金属酸化物微粒子は、水熱合成法において製造条件を適当に制御した時に得られる。製造条件の制御は、反応前駆体に含まれるアルカリ成分および塩成分の含有率を制御することが効果的である。また、反応温度は、例えば酸化スズ微粒子を作製する場合、150℃以上かつ400℃以下の範囲とすることが好ましい。また、アンチモンを0.01重量%以上かつ15重量%以下の範囲で含むアンチモン含有酸化スズ微粒子を作製する場合、250℃以上かつ400℃以下の範囲とすることが好ましい。このアンチモン含有酸化スズ微粒子では、反応温度が250℃未満の場合、異種元素が均一に含有されず、結晶性の高い金属酸化物を生成し難いからであり、また、反応温度が400℃を越えると、反応が遅延し、生産性に問題が生ずるからである。
【0062】
「金属酸化物微粒子を粒子の表面に吸着または付着」
上記の金属酸化物微粒子を、(A)または(B)粒子の表面に吸着または付着させるか、または、オリゴマーを含む紫外線硬化型樹脂を成分とする(A)または(B)粒子の表面に吸着または付着させる。
これにより、金属酸化物微粒子−樹脂またはラテックスによる複合体を形成することとなる。
【0063】
本発明のバインダー成分である(A)または(B)としては、水酸基、カルボキシル基等の極性基を有する水分散性樹脂、またはその前駆体、あるいは水分散性樹脂が好ましい。例えば、水性エマルジョン型の紫外線(UV)硬化型樹脂、またはその前駆体、あるいは水分散性ラテックスが好ましく、より好ましくは、水系である放射線硬化型エマルジョン樹脂であり、さらに好ましくは、水系であるUV硬化型エマルジョン樹脂である。
具体的に挙げると、水系であるUV硬化型アクリルエマルジョン樹脂、自己分散型エマルション樹脂、マレイミド基を含有するアクリルエマルジョン樹脂等である。
【0064】
このエマルション型樹脂、またはその前駆体、あるいはラテックスの大きさは、平均粒子径で表した場合、10nm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは100nm以上かつ5μm以下である。
また、生成した金属酸化物微粒子−樹脂またはラテックスの複合体の大きさは、数平均粒子径で表した場合、10nm以上かつ10μm以下が好ましく、より好ましくは100nm以上かつ5μm以下である。
【0065】
平均粒子径を上記のように限定した理由は、この範囲で塗膜の表面が平滑となり、良好な透明性が得られるからである。
平均粒子径の測定方法は、例えば、動的光散乱法により測定することができる。この動的光散乱法とは、媒質に分散している粒子にレーザ光を照射し、粒子により散乱あるいは反射される光の波長の変化から粒子の大きさを測定する方法である。
【0066】
「金属酸化物微粒子が吸着または付着した粒子を極性溶媒中に分散」
金属酸化物微粒子が吸着または付着した粒子、すなわち金属酸化物微粒子−樹脂またはラテックスの複合体粒子を分散する分散媒としては、水、アルコール等の極性溶媒が好ましく、さらに好ましくは、少なくとも水を80%以上含む水性分散媒である。
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等の一価アルコール、エチレングリコール等の二価アルコールが好適に用いられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。
【0067】
ここで、複合体粒子として、金属酸化物微粒子を、エマルジョン中の樹脂を成分とする粒子またはラテックス中の粒子の表面に吸着または付着させた複合体粒子を用いた場合、分散液中の粒子の濃度は1%以上かつ90%以下が好ましい。
濃度を上記のように限定した理由は、金属酸化物微粒子が極性分散媒のなかで良好な分散状態を保つからである。分散液中の粒子の濃度が1%未満であると、塗料の表面張力が高くなり、塗料が基板表面ではじかれて塗布できないことがあるからである。この場合には、塗料に少量の低表面張力分散媒、あるいは界面活性剤などを加えることもできる。
【0068】
このようにして得られた本発明の透明導電性塗料を基材の表面に塗布し、乾燥もしくは熱処理することにより、基材の表面に塗膜を形成することができる。
この塗膜に顕著な特徴は、可視光線に対する平均透過率が90%以上、ヘイズが0.3%以下、表面抵抗(Ω/□)が1.0×1011Ω/□以下である透明導電性の膜であり、とりわけ、演色性を改良した光源のもとでも塗膜の曇りが生じないことである。演色性を改良した光源とは、例えば3波長型蛍光灯である。
本発明の効果を確認する方法としては、塗膜から30cm程度離れた位置に30W程度の3波長型蛍光灯を配置し、この3波長型蛍光灯の光を塗膜に照射した場合の塗膜における曇りの有無を肉眼で識別する方法を用いることができる。
【0069】
このように、本発明の透明導電性塗料を用いて基材の表面に塗膜を形成することにより、塗膜マトリックスにおける導電性フィラーの充填率、すなわち金属酸化物微粒子の充填率が非常に低い場合であっても、幅広い塗布環境条件下で、透明性、導電性、機械的強度に優れた塗膜を再現性よく作製することができる。
特に、3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源の下においても、散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を提供することができる。
さらに、金属酸化物微粒子によりバインダー樹脂の結合が阻害され難い。また、UV硬化型樹脂をバインダー樹脂として使用した場合においても、金属酸化物微粒子による紫外線の吸収あるいは散乱による硬化阻害が生じ難い。
【0070】
以上により、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を提供することができる。また、環境に対する影響の大きい有機溶媒を使用しないので、環境に対する負荷が極めて小さい透明性の塗膜を提供することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
「実施例1」
(1)表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製
SnCl・2HO428重量部及びSbCl22.8重量部を6Nの塩酸3000重量部に溶解し、この溶液を攪拌しながら20%のアンモニア水を200重量部加え、沈殿物を生成させた。
得られた沈殿物を濾過洗浄して塩化アンモニウムを除去した後、脱イオン水を加えて固形成分1重量%の濃度に調整し、反応原料とした。
【0073】
次いで、この反応原料に適量のアンモニア(NH)を添加し、得られた溶液をオートクレーブに投入し、次いで350℃にて5時間加熱し、その後室温(25℃)まで冷却した。冷却後、反応液を取り出した。
次いで、この反応液をエバポレーターを用いて濃縮処理し、その後、脱アンモニア処理し、さらに再分散処理を施し、表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製した。
【0074】
このアンチモン含有酸化スズ微粒子を透過型電子顕微鏡で観察して求めた一次粒子径は6nmから10nmの範囲であった。また、このアンチモン含有酸化スズ微粒子の粒度分布を、動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、5nmから11nmの間の狭い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は約8nmであった。この結果は、透過型電子顕微鏡による測定結果と一致した。
また、このアンチモン含有酸化スズのゼータ電位を測定した結果、その値はpH7.0±0.5の水に分散した状態で−45mVであった。
【0075】
(2)塗料の作製
ヘキサメチレンジイソシアネート120重量部、2,6−ジ−tert−ブチルクレゾール1.0重量部、ジブチルスズジラウリルレート0.01重量部をガラス製反応容器に投入し、60℃にて攪拌しながらペンタエリスリトールトリアクリレート180重量部を1時間かけて滴下し、さらに5時間攪拌して反応を進行させた。得られた反応液を50℃に冷却した後、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル200重量部を1時間かけて滴下した。得られた反応液を60℃に加熱した後、この温度にて5時間保持し、ポリイソシアネート系誘導体を作製した。
【0076】
次いで、このポリイソシアネート系誘導体を60℃に加温し、攪拌しながら60℃の脱イオン水を加えて乳化させ、固形成分が35重量%のイソシアネート誘導体乳濁液を得た。次いで、この乳濁液100重量部に、光開始材として1−(4−(2ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバスペシャリテーケミカルス社製:イルガキュア2959)0.7重量部を加え、樹脂前駆体分散液(樹脂前駆体:35重量%)を作製した。
この樹脂前駆体の粒度分布を動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、平均粒子径(50%)は約50nmであった。
【0077】
次いで、この樹脂前駆体分散液(樹脂前駆体:35重量%)を25℃にて攪拌しながら、表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を固形成分に対して5重量%の割合になるまで加え、固形成分の濃度が30重量%の微粒子分散液を得た。この微粒子分散液に対してさらに25℃にて12時間攪拌を行い、実施例1の塗料Aを作製した。
得られた塗料Aの粒度分布を、動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、10nmから500nmの間の広い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は約75nmであった。
【0078】
この表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子は、上述したようにpH7.0±0.5の水に分散した状態で5nmから11nmの間の狭い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)が約8nmであった。
また、ゼータ電位の測定を、アンチモン含有酸化スズ微粒子をpH7.0±0.5の水に分散した状態で、動的光散乱電気泳動装置 ELS−800(大塚電子社製)を用いて行った。その結果、ゼータ電位は−45mVであった。
【0079】
(3)塗膜の作製及び評価
厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板材(旭化成社製:デラグラス)を基板とし、この基板上に、塗料Aをバーコート法(ワイヤバーバー:#14)により塗布し、この塗膜付基板を温度25℃、相対湿度60%の大気中で1分間乾燥処理を行い、乾燥塗膜を作製した。この乾燥塗膜の含水率をカールフィッシャー水分計 MKA−610(京都電子工業社製)にて測定したところ、その含水率は1%であった。
次いで、この乾燥塗膜を80℃にて5分間加熱した後、高圧水銀ランプを用いて紫外線照射処理を行い、実施例1の塗膜を作製した。
【0080】
この塗膜の断面を集束イオンビーム型電子顕微鏡 SMI2050(セイコーインスツルメンツ社製)によって処理し、この断面におけるアンチモン含有酸化スズ微粒子の分布を透過型電子顕微鏡 H−800(日立製作所社製)により観察した。また、塗膜表面における微粒子分布の観察を電界放射型電子顕微鏡(FESEM)を用いて行った。
その結果、塗膜断面および塗膜表面においては、アンチモン含有酸化スズ微粒子が一本の鎖状に配列した一本鎖構造体を形成していることが確認された。また、この一本鎖構造体の大きさは、鎖の長さが100nm以上かつ500nm(測定限界)以下であった。
【0081】
「実施例2」
(1)表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製
実施例1に準じて表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製した。
(2)塗料の作製
実施例1に準じてイソシアネート反応及び乳化反応を行い、固形成分が35重量%のイソシアネート誘導体乳濁液を得た。次いで、この乳濁液100重量部に、アクリル酸2ヒドロキシプロピル20重量部、1−(4−(2ヒドロキシエトキシ)−フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバスペシャリテーケミカルス社製:イルガキュア2959)0.7重量部、及び脱イオン水を加え、樹脂前駆体分散液(樹脂前駆体:35重量%)を得た。
【0082】
この樹脂前駆体の粒度分布を動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、50nmから2μmまでの広い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は約345nmであった。
次いで、この樹脂前駆体分散液(樹脂前駆体:35重量%)を25℃にて攪拌しながら、表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を固形成分に対して5重量%の割合になるまで加え、固形成分の濃度が30重量%の微粒子分散液を得た。この微粒子分散液に対してさらに25℃にて12時間攪拌を行い、実施例2の塗料Bを作製した。
【0083】
得られた塗料Bの粒度分布を、動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、50nmから2μmまでの広い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は約350nmであった。
【0084】
(3)塗膜の作製及び評価
この塗料Bを実施例1に準じて処理し、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板材上に乾燥塗膜を形成した。この乾燥塗膜の含水率をカールフィッシャー水分計 MKA−610(京都電子工業社製)にて測定したところ、その含水率は1%であった。
次いで、この乾燥塗膜を80℃にて5分間加熱した後、高圧水銀ランプを用いて紫外線照射処理を行い、実施例2の塗膜を作製した。
【0085】
この塗膜の評価を実施例1に準じて行った。
その結果、塗膜断面および塗膜表面においては、アンチモン含有酸化スズ微粒子が一本の鎖状に配列した一本鎖構造体を形成していることが確認された。また、この一本鎖構造体の大きさは、鎖の長さが100nm以上かつ500nm(測定限界)以下であった。
【0086】
「実施例3」
(1)表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製
実施例1に準じて表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製した。
(2)塗料の作製
水溶性ポリエステル樹脂(日本合成社製:ニチゴーポリエスタ−)を脱イオン水に分散して固形成分の濃度が35重量%の樹脂分散液を作製した。次いで、この樹脂分散液を25℃にて攪拌しながら、表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を固形成分に対して5重量%の割合になるまで加え、固形成分の濃度が30重量%の微粒子分散液を得た。
この微粒子分散液に対してさらに25℃にて12時間攪拌を行い、実施例3の塗料Cを作製した。
【0087】
得られた塗料Cの粒度分布を、動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、30nmから80nmまでの広い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は10nmであった。
【0088】
(3)塗膜の作製及び評価
この塗料Cを実施例1に準じて処理し、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板材上に乾燥塗膜を形成した。この乾燥塗膜の含水率をカールフィッシャー水分計 MKA−610(京都電子工業社製)にて測定したところ、その含水率は1%であった。
次いで、この乾燥塗膜を80℃にて15分間加熱し、実施例3の塗膜を作製した。
【0089】
この塗膜の評価を実施例1に準じて行った。
その結果、塗膜断面および塗膜表面においては、アンチモン含有酸化スズ微粒子が一本の鎖状に配列した一本鎖構造体を形成していることが確認された。また、この一本鎖構造体の大きさは、鎖の長さが100nm以上かつ500nm(測定限界)以下であった。
【0090】
「実施例4」
(1)表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製
実施例1に準じて表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製した。
(2)塗料の作製
水分散性アクリル系ラテックス樹脂(住友精化社製:ザイクセンAC)を脱イオン水に分散して固形成分の濃度が35重量%の樹脂分散液を作製した。次いで、この樹脂分散液を25℃にて攪拌しながら、表面電位調整アンチモン含有酸化スズ微粒子を固形成分に対して5重量%の割合になるまで加え、固形成分の濃度が30重量%の微粒子分散液を得た。
この微粒子分散液に対してさらに25℃にて12時間攪拌を行い、実施例4の塗料Dを作製した。
【0091】
得られた塗料Dの粒度分布を、動的光散乱法により粒度分布計 マイクロトラックUPA(日揮装社製)を用いて測定したところ、30nmから1μmまでの広い粒度分布を呈し、平均粒子径(50%)は約10nmであった。
【0092】
(3)塗膜の作製及び評価
この塗料Dを実施例1に準じて、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板材上に乾燥塗膜を形成した。この乾燥塗膜の含水率をカールフィッシャー水分計 MKA−610(京都電子工業社製)にて測定したところ、その含水率は1%以下であった。
次いで、この乾燥塗膜を80℃にて15分間加熱し、実施例4の塗膜を作製した。
【0093】
この塗膜の評価を実施例1に準じて行った。
その結果、塗膜断面および塗膜表面においては、アンチモン含有酸化スズ微粒子が一本の鎖状に配列した一本鎖構造体を形成していることが確認された。また、この一本鎖構造体の大きさは、鎖の長さが100nm以上かつ500nm(測定限界)以下であった。
【0094】
「比較例」
(1)アンチモン含有酸化スズ微粒子の作製
SnCl・2HO428重量部及びSbCl22.8重量部を6Nの塩酸3000重量部に溶解し、この溶液を攪拌しながら25%のアンモニア水を200重量部加え、沈殿物を生成させた。
得られた沈殿物を濾過洗浄して塩化アンモニウムを除去した後、脱イオン水を加えて希釈し、次いで、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥を行い、次いで、加熱炉を用いて500℃にて2時間加熱処理を行い、アンチモン含有酸化スズ微粒子を作製した。
【0095】
(2)塗料の作製
このアンチモン含有酸化スズ微粒子25重量部、メチルエチルケトン24重量部、トルエン24重量部、バインダー樹脂(東洋紡社製:バイロン20SS)23.3重量部を、サンドグラインダーを用いて機械的分散処理を行い、塗料Eを作製した。
【0096】
(3)塗膜の作製及び評価
この塗料Eを実施例1に準じて、厚さ3mmの透明なアクリル樹脂板材上に塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を80℃にて30分間加熱し、比較例の塗膜を作製した。
この塗膜の評価を実施例1に準じて行った。
その結果、塗膜断面および塗膜表面においては、一本鎖構造体等の特別な塗膜構造は確認されなかった。
【0097】
「塗膜の電気的及び光学的特性の評価」
実施例1〜4及び比較例それぞれの塗膜の電気的及び光学的特性の評価を行った。特性の評価方法は下記のとおりである。
(1)表面抵抗
表面抵抗計 ロレスタAP(三菱油化社製)を用いて測定した。
(2)全光線透過率及びヘイズ
日本工業規格JIS K 5400に準じ、ヘーズメータ Automatic HazeMeter model TC−H3DPK(東京電色社製)を用いて測定した。
【0098】
(3)塗膜曇り
塗膜の曇りの評価は、上述したヘイズ値による評価の他、目視によっても行った。目視評価は、60Wの3波長型蛍光灯の光を30cmの高さから照射し、この塗膜を透過する透過光を目視で観察することにより評価した。
最終評価は、ヘイズ値が0.3%以下であり、かつ塗膜曇りが目視でも認められなかったものを「曇りはない」と判定し、曇りが認められたものを「曇りがある」と判定した。
(4)特性の総合評価
電気的特性(導電性)と光学的特性(透明性)の双方が優れているものを「良い」と判定し、いずれかの特性が劣るものを「悪い」と判定した。
【0099】
表1に、実施例1〜4及び比較例それぞれの塗膜の電気的及び光学的特性の評価結果を示す。なお、塗膜が形成されていないアクリル樹脂板材の全光線透過率は92%、ヘイズは0.07%であり、この表1に記載した測定値には、このアクリル樹脂板材の光学特性に依存する特性の変化が含まれる。
【0100】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の塗膜は、一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を、有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列したことで、可視光線に対する透過率が極めて高く、かつ3波長蛍光灯のような演色性を改良した光源のもとにおいても散乱光に基づく白色の曇りが殆ど無い透明性に優れた塗膜を形成することを可能としたものであるから、PDP、LCD、EL等の表示面の高度の光学的特性を要求される処理、あるいは発塵による環境汚染が問題とされる製造工程における帯電防止処理等はもちろんのこと、自動車、建築物等の窓材等の帯電防止や塗膜の曇り防止が必要な様々な工業分野においても、その効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の一本鎖構造体の形成過程の初期段階を示す模式図である。
【図2】本発明の一本鎖構造体の形成過程の中期段階を示す模式図である。
【図3】本発明の一本鎖構造体の形成過程の最終段階を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子を有機化合物中に分散してなる塗膜であって、
前記金属微粒子または金属酸化物微粒子を、前記有機化合物中にて鎖状または分岐鎖を有する鎖状に配列してなることを特徴とする塗膜。
【請求項2】
一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、
アクリロイル基、メタアクリロイル基、アリル基、アシル基の群から選択された1種以上を含み平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下のミセル粒子またはエマルジョン粒子と、
溶媒と、
を含有してなることを特徴とする塗料。
【請求項3】
前記ミセル粒子またはエマルジョン粒子は、アクリロイル基またはメタアクリロイル基を含み数平均分子量が5000以下であるオリゴマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有するとともに、アクリロイル基またはメタクリロイル基を含むモノマー成分を1重量%以上かつ50重量%以下含有してなることを特徴とする請求項2記載の塗料。
【請求項4】
一次粒子径が3nm以上かつ30nm以下の金属微粒子または金属酸化物微粒子と、
ポリエステル樹脂またはアクリル樹脂を含む平均粒子径が10nm以上かつ10μm以下の水溶性樹脂粒子または水分散性ラテックス粒子と、
溶媒と、
を含有してなることを特徴とする塗料。
【請求項5】
請求項2、3または4記載の塗料を基材上に塗布し、得られた塗膜に乾燥処理、加熱処理、放射線照射のうち1つ以上を施すことを特徴とする塗膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−211155(P2007−211155A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33481(P2006−33481)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】