説明

塗膜形成方法および電子写真感光体の製造方法

【課題】円筒状の被塗布体の塗布上端近傍における塗膜の薄膜化を抑制可能な塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を行う塗膜形成方法であって、第1の円筒状の被塗布体に対して浸漬塗布を行う第1工程と、第1工程で形成された塗膜の膜厚を測定する第2工程と、第2工程で測定した膜厚と所定の膜厚とを比較して得た情報から浸漬塗布における被塗布体の引き上げ時の円筒軸を中心とした回転の条件を得る第3工程と、第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体に対して第3工程で得た回転の条件を用いて浸漬塗布を行う第4工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する塗膜形成方法、および該塗膜形成方法を用いた電子写真感光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面に膜を形成する方法は、蒸着法やスパッタリング法に代表される乾式法と、塗布法に代表される湿式法とに大別できる。塗布法としては、浸漬塗布方法、スプレー塗布方法、スピン塗布方法が挙げられる。塗布法の中でも、塗布液に被塗布体を浸漬した後に引き上げて塗膜を形成する浸漬塗布方法は生産性が高く、電子写真感光体の製造に好適に用いられている。
浸漬塗布方法は高生産性であるが、その方法の原理上、被塗布体への塗布液付着後、塗膜が流動可能な状態が存在する。塗膜が流動可能な状態においては、塗膜は重力や遠心力、振動、周囲の気流といった力の影響を受けて、形状を変化させ得る。
例えば、浸漬塗布により被塗布体の表面に形成された塗膜が重力によりダレてしまう、いわゆる液ダレがある。円筒状の被塗布体を塗布液から円筒軸の方向に引き上げて塗膜を形成する場合、該被塗布体の表面の、該被塗布体を塗布液から引き上げ始めた際に塗布液面から遠ざかる部分(以下、「塗布上端」とも称す。)近傍では、膜厚が薄くなりやすいことが知られている。
【0003】
上記塗布上端近傍における薄膜化は、塗布液の粘度が低いほど生じやすい。これは、塗布液の粘度が低いほど、液ダレを生じやすいからである。被塗布体の表面に、ある膜厚の塗膜を形成しようとする際、高粘度の塗布液を用いることによって、上記塗布上端近傍における薄膜化を抑制する事が可能である。しかしながら、単に塗布液を高粘度化しただけでは、上記塗布上端近傍以外の膜厚も厚くなってしまう。上記塗布上端近傍以外の膜厚を厚くしないためには、塗布上端近傍以外の引き上げ速度を低下させる必要が生じる。引き上げ速度を低下させると、被塗布体の全体を浸漬塗布するために要する時間が長くなり、生産性の低下を招く。
【0004】
これまでに、浸漬塗布方法において生じる液ダレを抑制するために、浸漬塗布時の温度に着目した提案がなされている。例えば、塗布液温度を被塗布体の温度よりも高くすることにより液ダレを防止し、塗膜の膜厚均一性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。また、浸漬塗布において、被塗布体を塗布液から引き上げる際に、該被塗布体の上端部分を室温より高い所定温度に加熱することにより、被塗布体の塗布上端近傍での液ダレを抑制する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
また、浸漬塗布方法において生じる被塗布体の塗布上端近傍における薄膜化現象を抑制するための提案がなされている。例えば、浸漬塗布において被塗布体の塗布上端近傍を塗布液から引き上げる際、被塗布体の引き上げ速度を引き上げ距離の増加と共に減速させる方法が開示されている(特許文献3参照)。
更に、浸漬塗布において、被塗布体の塗布上端近傍のみ塗布液から引き上げた後、再び浸漬させ、その後塗布液から全体を引き上げる方法が開示されている(特許文献4参照)。
また、これまでに、浸漬塗布方法の際に被塗布体を回転させる提案がなされている。例えば、平滑な表面を有する塗膜を得る方法として、浸漬塗布の引き上げ時に円筒状の被塗布体と塗布液を円周方向に相対的に回転させる方法が開示されている(特許文献5参照)。
また、浸漬塗布において、少なくとも被塗布体を塗布する前に被塗布体と塗布液を相対的に動かし、被塗布体周面の略接線方向にせん断力を働かせる方法が開示されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−319181号公報
【特許文献2】特開昭62−50836号公報
【特許文献3】特開2008−62131号公報
【特許文献4】特開2002−82454号公報
【特許文献5】特開昭63−259669号公報
【特許文献6】特開昭60−146238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1または特許文献2で開示されている温度制御方法では、塗膜からの溶剤揮発速度を速めるが、塗膜自体の粘度も低下してしまうために、液ダレによって生じる被塗布体の塗布上端近傍での薄膜化に関して、抑制が十分なされるとは言えない。また、特許文献3で開示されている引き上げ速度制御方法では、被塗布体の塗布上端近傍において被塗布体に付着する塗膜厚さを増加することはある程度可能である。しかし、液ダレ自体を抑制するわけではなく、被塗布体の塗布上端近傍での薄膜化に関して、抑制が十分なされるとは言えない。さらに、特許文献4で開示されている方法では、単純に引き上げだけを行うよりも浸漬塗布に要する時間がかかり、生産性が低下してしまう。特許文献5および特許文献6においては、被塗布体の塗布上端近傍での薄膜化を抑制する方法は開示されていない。
本発明の課題は、生産性を低下させることなく浸漬塗布時に発生する被塗布体の塗布上端近傍における液ダレを防止することである。そしてそれにより、被塗布体の塗布上端近傍における塗膜の薄膜化を抑制可能な塗膜形成方法の提供および該塗膜形成方法を用いた感光体製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、浸漬塗布により円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する際、塗布上端近傍において塗膜が薄膜化する現象に関して鋭意検討を行った。その結果、円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後に、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げる浸漬塗布を複数の円筒状の被塗布体に対して行うことによって、以下のことができることを見出し、本発明を成すに至った。見出したこととは、浸漬塗布に要する時間を長くし生産性を低下させることなく、被塗布体の塗布上端近傍における塗膜の薄膜化を抑制できるということである。
すなわち、本発明は、円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を行う塗膜形成方法であって、
第1の円筒状の被塗布体に対して浸漬塗布を行う第1工程と、
該第1工程で形成された塗膜の膜厚を測定する第2工程と、
該第2工程で測定した膜厚と所定の膜厚とを比較して得た情報から浸漬塗布における被塗布体の引き上げ時の円筒軸を中心とした回転の条件を得る第3工程と、
前記第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体に対して前記第3工程で得た回転の条件を用いて浸漬塗布を行う第4工程と
を有することを特徴とする塗膜形成方法に関する。
さらに本発明は、前記塗膜形成方法を用いたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、浸漬塗布の際、生産性を低下させることなく被塗布体の塗布上端近傍において発生する塗膜の薄膜化を抑制した塗膜形成方法を提供することができ、更に該塗膜形成方法を用いた感光体製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における塗膜形成方法の流れを示すフローチャートである。
【図2】本発明における塗膜形成方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明の塗膜形成方法は、円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を行う塗膜形成方法であって、
第1の円筒状の被塗布体に対して浸漬塗布を行う第1工程と、
該第1工程で形成された塗膜の膜厚を測定する第2工程と、
該第2工程で測定した膜厚と所定の膜厚とを比較して得た情報から浸漬塗布における被塗布体の引き上げ時の円筒軸を中心とした回転の条件を得る第3工程と、
前記第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体に対して前記第3工程で得た回転の条件を用いて浸漬塗布を行う第4工程と
を有することを特徴とする塗膜形成方法である。
【0012】
浸漬塗布方法は、被塗布体を塗布液へ浸漬し、その後、被塗布体を塗布液から引き上げることによって、被塗布体の表面に塗膜を形成する方法である。被塗布体の表面への塗膜の形成は、より詳細には、以下に示す過程に分けて考えることができる。
まず、被塗布体を塗布液に浸漬することにより被塗布体の表面に塗布液が付着する過程がある。(以下、「浸漬過程」とも称す。)
次に、前記被塗布体を塗布液から引き上げる事により被塗布体の表面に流動可能な状態の塗膜が形成される過程がある。(以下、「塗膜仮形成過程」とも称す。)
続いて、被塗布体の表面に形成された流動可能な状態の塗膜が重力等の力の影響を受けて形状を変化させると共に、前記塗膜の粘度が上昇するにつれて前記塗膜の流動性が低下する過程がある。(以下、「塗膜変形過程」とも称す。)前記塗膜の粘度の上昇は、例えば、流動可能な状態の塗膜に含まれる溶媒が揮発することによりなされる場合や、塗膜自体の温度変化によってなされる場合が挙げられる。
最後に、塗膜の粘度の上昇が十分になされて塗膜の流動性が実質的に無くなり、被塗布体の表面へ流動しない塗膜の形成が完了する過程がある。(以下、「塗膜固定過程」とも称す。)
【0013】
上記過程のうち、被塗布体の塗布上端近傍における薄膜化現象に対しては、塗膜変形過程が大きく影響すると考えられる。
塗膜変形過程において、被塗布体の各位置の膜厚は、該被塗布体を塗布液から引き上げ始めた際に塗布液面へと近づく方の端部(以下、「塗布下端」とも称す。)側へダレて減少すると共に、塗布上端側から塗膜がダレてくることにより増加する。このため、各位置の最終的な膜厚は、各位置から塗布下端側に塗膜がダレて各位置の膜厚が減少する分と、塗布上端側から各位置へと塗膜がダレて各位置の膜厚が増加する分との総和になる。
しかしながら、被塗布体の塗布上端近傍においては、塗膜が塗布下端側へダレて膜厚が減少する一方で、塗布上端側からの塗膜のダレによる塗膜の供給がなされない。これは、被塗布体の塗布上端の、塗布下端と反対側には、塗膜が存在していないためである。従って、被塗布体の塗布上端近傍においては、塗膜の膜厚が薄くなる。
【0014】
前記塗膜仮形成過程において引き上げ速度を速めると、形成される流動可能な状態の塗膜を厚くすることが可能である。しかしながら、被塗布体の塗布上端近傍においては、塗布下端側へと塗膜がダレて膜厚が減少する一方で、被塗布体の塗布上端の、塗布下端と反対側からの塗膜のダレが存在しない。よって、前記塗膜仮形成過程において引き上げ速度を速めたとしても、被塗布体の塗布上端近傍の膜厚が薄くなる現象は依然として生じ得る。
このように、浸漬塗布方法においては、被塗布体の表面へ塗布液をどのようにして付着させるかだけではなく、被塗布体の表面へ塗布液を付着させた後、いかにして望む膜厚に塗膜を固定化するかが、重要となる。
【0015】
本発明者らは、浸漬塗布における被塗布体の引き上げ時に被塗布体を被塗布体の回転軸を中心として回転させることにより、得られる塗膜の厚さを制御できることを見出し、本発明を成すに至った。即ち、本発明の塗膜形成方法は前記のとおり、円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を、複数の円筒状の被塗布体に対して行うことによって、該複数の円筒状の被塗布体のそれぞれの外周面に塗膜を形成する塗膜形成方法である。
本発明において被塗布体の塗布上端近傍における薄膜化が抑制される理由としては、被塗布体を塗布液から引き上げる際に該被塗布体を回転させることにより、塗膜に遠心力が加わり、重力による液ダレが抑制されているものと推測している。
【0016】
本発明における複数の円筒状の被塗布体は、各々の円筒状の被塗布体の表面が同一の物質から構成されていても良く、異なる物質から構成されていても良い。また、各々の円筒状の被塗布体の長さは異なっていても良いが、各々の円筒状の被塗布体の径は、同一であることが好ましい。
本発明における円筒状の被塗布体は、円筒形状であれば良く、内部が空洞であっても、内部に詰物を有しても良い。また、内部に空洞を有さない円柱形状であっても良い。
【0017】
本発明における塗膜形成方法の流れを、図1に示す。
本発明では、まず、第1の円筒状の被塗布体に対して浸漬塗布を行い、前記第1の円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する第1工程を行う。第1工程の引き上げ速度は、被塗布体の塗布上端近傍以外における塗膜の膜厚が、該被塗布体の外周面に最終的に得ようとする所定の膜厚となるように、予め設定されていることが好ましい。
本発明において円筒状の被塗布体の回転は、円筒軸を中心とすれば良く、回転方向は任意である。
【0018】
次に、前記第1工程で形成された塗膜の膜厚を、前記第1の円筒状の被塗布体の円筒軸方向に3箇所以上で測定する第2工程を行う。
前記塗膜の膜厚を測定する位置は、被塗布体の塗布上端近傍の膜厚変化が十分に分かるように選択することが好ましい。被塗布体の塗布上端近傍において、どの程度の範囲にわたって薄膜化が生じているか分からない場合には、被塗布体の円筒軸方向全域にわたって膜厚を測定することが好ましい。また、前記塗膜の膜厚Rを測定する位置の総数は、被塗布体の塗布上端近傍の膜厚変化が十分に分かる数である事が好ましい。前記塗膜の膜厚を測定する位置同士は、等間隔であってもよく、等間隔でなくてもよい。例えば、浸漬塗布において、一定の速度で被塗布体を塗布液から引き上げる場合は、塗布上端近傍において、塗膜の膜厚が大きく変化する。このような場合は、塗布上端近傍において前記塗膜の膜厚Rを測定する位置を多く設定することが好ましい。前記塗膜のうち最も厚い部分の膜厚を100%とした場合には、隣り合う膜厚測定位置における膜厚差が10%以内となるように、前記塗膜の膜厚を測定する位置を設定することが好ましい。
【0019】
次いで、下記式(1)で表わされる値Xnが、被塗布体の塗布上端からの距離に対して極小となる位置(極小となる位置が存在しない場合は最小となる位置)のうち、値nが最小である位置と塗布上端との距離Lを求める第3工程を行う。
Xn=|Rn−In| (1)
(式(1)中、nは前記第2工程の膜厚測定点のうち塗布上端から数えてn番目の測定点であることを示し、Rnは前記塗布上端から数えてn番目の測定点における該第1工程で得られた塗膜の膜厚を示し、Inは前記塗布上端から数えてn番目の測定点における所定の膜厚を示す。)
前記値Xnは、前記第2工程で膜厚を測定したそれぞれの位置における膜厚と所定の膜厚との差異の大きさを示している。前記値Xnの値が0に近いほど、前記第1工程において所定の膜厚に近い塗膜が形成できていることを示す。前記値Xnが、円筒軸方向の距離に対して単調に減少もしくは単調に増加している場合は、前記値Xnのうち値が最小である位置を、前記値Xnが円筒軸方向の距離に対して極小となる位置Lであるとみなす。
【0020】
続いて、前記第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体を該塗布液に浸漬した後に、下記に示す回転条件により引き上げて前記第2の円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する第4工程を行う。
【0021】
(R1<I1の場合:S141でYESの場合)
塗布上端から距離L引き上げる間の被塗布体の回転速度は該第1工程と同じとし、塗布上端から距離L引き上げた後の被塗布体の回転速度を該第1工程より増加させる。
(R1>I1 かつ該第1工程において、該第1の円筒状の被塗布体を塗布液面から距離L引き上げた後に該第1の被塗布体を回転させていた場合:S144でNOの場合)
塗布上端から距離L引き上げる間の被塗布体の回転速度は該第1工程と同じとし、塗布上端から距離L引き上げた後の被塗布体の回転速度は該第1工程より減少させる。
(R1=I1の場合 または 該第1工程において、R1>I1 かつ該第1の円筒状の被塗布体を塗布液面から距離L引き上げた後に該第1の被塗布体を回転させていなかった場合:S144でYESまたはS143でNOの場合)
引き上げ時の被塗布体の回転速度は、該第1工程と同じとする。
【0022】
前記第1の円筒状の被塗布体においてR1<I1となるのは、前記第1工程で得られた前記第1の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lまでの塗膜の厚さが、所定の膜厚よりも薄い場合である。
この場合、前記第4工程における前記第2の円筒状の被塗布体を前記距離Lまで引き上げる間の回転速度は、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体を前記距離Lまで引き上げる間の回転速度と同じとする(S142)。回転速度を同じとすることによって、前記第4工程において前記第2の円筒状の被塗布体を前記距離Lまで引き上げる間は、被塗布体の外周面に流動可能な状態の塗膜を十分厚く形成することができる。次いで、前記第4工程における前記第2の円筒状の被塗布体を前記距離Lまで引き上げた後の回転速度を、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体を前記距離Lまで引き上げた後の回転速度よりも増加させる(S142)。回転速度を増加させることによって、前記第2の円筒状の被塗布体において塗布上端から前記距離Lの間の塗膜の厚さが、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体における塗布上端から前記距離Lの間の塗膜の厚さより厚くなる。これは、回転速度を増加させることによって、既に形成されている前記第2の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lの間の流動可能な状態の塗膜のダレが抑制されることによるものと推定している。
【0023】
前記第1の円筒状の被塗布体においてR1>I1となるのは、前記第1工程で得られた前記第1の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lまでの塗膜の厚さが、所定の膜厚よりも厚い場合である。
この場合、前記第4工程における前記第2の円筒状の被塗布体を前記距離L引き上げる間の回転速度は、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体を前記距離L引き上げる間の回転速度と同じとする(S145)。次いで、前記第4工程における前記第2の円筒状の被塗布体を前記距離L引き上げた後の回転速度を、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体を前記距離L引き上げた後の回転速度よりも減少させる(S145)。回転速度を減少させることによって、前記第2の円筒状の被塗布体において塗布上端から前記距離Lまでの流動可能な状態の塗膜の厚さが、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体における塗布上端から前記距離Lの間の塗膜の厚さより薄くなる。これは、被塗布体の回転速度を減少させることによって、既に形成されている前記第2の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lまでの流動可能な状態の塗膜のダレが抑制されなくなることによるものと推定している。
【0024】
前記第1工程において、前記第1の円筒状の被塗布体を塗布液面から距離L引き上げた後に回転させていない場合は、回転速度を減少させることができない。
この場合は、引き上げ速度を遅くする、塗布液の粘度を減少させるなど、回転速度以外の条件を変えることにより、前記第2の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lの間の塗膜の厚さを減少させることができる。
また、前記第1の円筒状の被塗布体においてR1=I1となる場合は、前記第1工程で得られた前記第1の円筒状の被塗布体の塗布上端から前記距離Lまでの塗膜の厚さが、所定の膜厚である場合である。この場合は、前記第4工程における前記第2の円筒状の被塗布体を引き上げる間の回転速度は、前記第1工程における前記第1の円筒状の被塗布体を引き上げる間の回転速度と同じとすれば良い(S146)。
以上の条件を満たす塗膜形成方法を用いることにより、生産性を低下させることなく、浸漬塗布の際に被塗布体の塗布上端近傍において発生する塗膜の薄膜化を抑制した塗膜形成方法を提供することができる。
【0025】
また、以上の条件を満たす塗膜形成方法を繰り返し用いることにより、より所定の膜厚に近い膜厚を有する塗膜を得ることが可能である。前記値Xnが、値nによらず十分小さくなるまで(図2のステップS201でYESとなるまで)、以上の条件を満たす塗膜形成方法を繰り返し用いることにより、所定の膜厚に近い膜厚を有する塗膜を得ることが可能である。
本発明の塗膜形成方法を繰り返し用いる場合の工程の流れを図2に示す。
【0026】
本発明の塗布液の粘度は、40mPa・s以上1000mPa・s以下であることが好ましい。本発明において粘度は、単一円筒型回転粘度計ビスメトロンVS−A1(芝浦システム(株)製)を用いて測定した。
粘度が40mPa・sよりも小さい場合は、液ダレを抑制する効果が得られにくい。
粘度が1000mPa・sよりも大きい場合は、塗膜に膜厚ムラが生じやすくなる。

【0027】
また、本発明の引き上げ時の被塗布体の外周面における最大遠心加速度は、1m/s以上9.8m/s以下であることが好ましい。
本発明において被塗布体の外周面における遠心加速度は、次式によって求めることができる。
a=r×ω2 (2)
(式(2)中、aは被塗布体の外周面における遠心加速度を示し、rは被塗布体の外径の半径を示し、ωは被塗布体の角速度を示す。)
被塗布体の外周面における最大遠心加速度が1m/sより小さい場合は、液ダレを抑制する効果が得られにくい。
被塗布体の外周面における最大遠心加速度が9.8m/sより大きい場合は、塗膜に膜厚ムラが生じやすくなる。
【0028】
更に、引き上げ開始時の被塗布体の外周面における遠心加速度と引き上げ時の被塗布体の外周面における最大遠心加速度の差は、1m/s以上9.8m/s以下であることが好ましい。
引き上げ開始時の被塗布体の外周面における遠心加速度と引き上げ時の被塗布体の外周面における最大遠心加速度の差が1m/sより小さい場合は、液ダレを抑制する効果が得られにくい。
引き上げ開始時の被塗布体の外周面における遠心加速度と引き上げ時の被塗布体の外周面における最大遠心加速度の差が9.8m/sより大きい場合は、塗膜に膜厚ムラが生じやすくなる。
さらに、本発明の塗膜形成方法を用いて電子写真感光体を製造することが好ましい。
【0029】
次に、本発明による電子写真感光体の製造方法について説明する。
本発明において電子写真感光体は、導電性を有する円筒状の被塗布体上に感光層を形成することによって製造される。本発明において電子写真感光体の各層は、公知の方法により形成することが可能であるが、少なくとも一層は前記塗膜形成方法によって形成する。前記塗膜形成方法による形成を行わない層に関しては、浸漬塗布以外の公知の方法により形成しても良い。生産性の観点からは、製造される電子写真感光体の全ての層が浸漬塗布方法により形成されることが好ましい。
【0030】
次に、本発明により製造された電子写真感光体の構成について説明する。
本発明により電子写真感光体を製造する場合は、少なくとも外周面に導電性を有する円筒状の被塗布体を用いる。
導電性を有する円筒状の被塗布体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金またはステンレスのような金属製の円筒状の被塗布体を用いることができる。アルミニウムまたはアルミニウム合金の場合は、押出・引抜工程により製作されるED管、押出・しごき工程により製作されるEI管を用いることができる。また、ED管やEI管を切削、電解複合研磨(電解作用を有する電極と電解質溶液による電解および研磨作用を有する砥石による研磨)、湿式または乾式ホーニング処理したものも用いることもできる。また、アルミニウム、アルミニウム合金または酸化インジウム−酸化スズ合金を真空蒸着によって被膜形成された層を有する前記金属製の円筒状の被塗布体や樹脂製の円筒状の被塗布体を用いることもできる。被塗布体は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、フェノール樹脂、又はポリプロピレン又はポリスチレン樹脂で形成されている。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子または銀粒子のような導電性粒子を樹脂や紙に含浸した円筒状の被塗布体や、導電性結着樹脂を有する樹脂製の円筒状の被塗布体を用いることもできる。
導電性を有する円筒状の被塗布体において、被塗布体の外周面が導電性を付与するために設けられた層である場合、その層の体積抵抗率は、1×1010Ω・cm以下であることが好ましく、特には1×10Ω・cm以下であることがより好ましい。
電子写真感光体を製造する場合、被塗布体の外周面は、レーザー光の散乱による干渉縞の防止を目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理を施してもよい。
【0031】
本発明により製造する電子写真感光体の感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質とを同一の層に含有する単層型感光層であっても、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層であってもよい。感光層は、被塗布体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層した順層型感光層であっても、被塗布体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層した逆層型感光層であってもよい。また、電荷発生層を積層構造としてもよく、また、電荷輸送層を積層構成としてもよい。さらに、耐久性能向上等を目的とし感光層上に保護層を設けることも可能である。
被塗布体と、後述の中間層又は感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間には、レーザー光の散乱による干渉縞の発生防止や、被塗布体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。これは導電性粉体を適当な結着樹脂に分散させた塗布液を塗工することにより形成される層である。
【0032】
このような導電性粉体としては、以下のようなものが挙げられる。カーボンブラック、例えばアセチレン法により製造されたアセチレンブラック;アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛又は銀のような金属の粉体;導電性酸化スズ又はITOのような金属酸化物の粉体。
また、同時に用いられる結着樹脂としては、以下の熱可塑樹脂、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂樹脂が挙げられる。ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂又はアルキッド樹脂。
【0033】
導電層は、上記導電性粉体と結着樹脂を、テトラヒドロフラン又はエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル系溶剤;メタノールのようなアルコール系溶剤;メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤;トルエンのような芳香族炭化水素溶剤に分散し、または溶解し、これを塗布することにより形成することができる。導電層の平均膜厚は0.2μm以上であり、かつ40μm以下であることが好ましく、1μm以上であり、かつ35μm以下であることがより好ましく、さらには5μm以上であり、かつ35μm以下であることがより一層好ましい。
導電性顔料や抵抗調節顔料を分散させた導電層は、その外周面が粗面化される傾向にある。
【0034】
被塗布体又は導電層と、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)との間には、バリア機能や接着機能を有する中間層を設けてもよい。中間層は、例えば、感光層の接着性改良、塗工性改良、被塗布体からの電荷注入性改良、感光層の電気的破壊に対する保護のために形成される。
中間層は、硬化性樹脂を塗布後に硬化させて樹脂層を形成する、あるいは、結着樹脂を含有する中間層用塗布液を導電層の表面に塗布し、乾燥することによって形成することができる。
中間層の結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリグルタミン酸又はカゼインのような水溶性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂又はポリグルタミン酸エステル樹脂。電気的バリア性を効果的に発現させるためには、また、塗工性、密着性、耐溶剤性および抵抗のような観点から、中間層の結着樹脂は熱可塑性樹脂が好ましい。具体的には、熱可塑性ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、溶液状態で塗布できるような低結晶性または非結晶性の共重合ナイロンが好ましい。中間層の平均膜厚は、0.05μm以上であり、かつ7μm以下であることが好ましく、さらには0.1μm以上であり、かつ2μm以下であることがより好ましい。
また、中間層において電荷(キャリア)の流れが滞らないようにするために、中間層の中に、半導電性粒子を分散させる、あるいは、電子輸送物質(アクセプターのような電子受容性物質)を含有させてもよい。
【0035】
次に本発明により製造された電子写真感光体の感光層について説明する。
感光層に用いられる電荷発生物質としては、以下のものが挙げられる。モノアゾ、ジスアゾ又はトリスアゾのようなアゾ顔料;金属フタロシアニン又は非金属フタロシアニンのようなフタロシアニン顔料;インジゴ又はチオインジゴのようなインジゴ顔料;ペリレン酸無水物又はペリレン酸イミドのようなペリレン顔料;アンスラキノン又はピレンキノンのような多環キノン顔料;スクワリリウム色素、ピリリウム塩又はチアピリリウム塩、トリフェニルメタン色素;セレン、セレン−テルル又はアモルファスシリコンのような無機物質;キナクリドン顔料、アズレニウム塩顔料、シアニン染料、キサンテン色素、キノンイミン色素又はスチリル色素。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンあるいはクロロガリウムフタロシアニンのような金属フタロシアニンは、高感度であるため、好ましい。
【0036】
積層型感光体の場合、電荷発生層に用いる結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂又は塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂。特には、ブチラール樹脂が好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤と共に分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、乾燥することによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。分散方法としては、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター又はロールミルを用いた方法が挙げられる。電荷発生物質と結着樹脂との割合は、10:1〜1:10(質量比)の範囲が好ましく、特には3:1〜1:1(質量比)の範囲がより好ましい。
【0037】
電荷発生層用塗布液に用いる溶剤は、使用する結着樹脂や電荷発生物質の溶解性や分散安定性から選択される。有機溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤又は芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。
電荷発生層の平均膜厚は5μm以下であることが好ましく、特には0.1〜2μmであることがより好ましい。
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤および/または可塑剤を必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷(キャリア)の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質(アクセプターのような電子受容性物質)を含有させてもよい。
【0038】
感光層に用いられる電荷輸送物質としては、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ピラゾリン化合物、オキサゾール化合物、チアゾール化合物又はトリアリルメタン化合物が挙げられる。これら電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。
積層型感光体の場合、電荷輸送層に用いる結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキッド樹脂又は不飽和樹脂。特には、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂又はジアリルフタレート樹脂が好ましい。これらは単独、混合または共重合体として1種または2種以上用いることができる。
【0039】
電荷輸送層は、電荷輸送物質と結着樹脂を溶剤に溶解して得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、乾燥することによって形成することができる。上記電荷輸送物質のうち単独で成膜性を有するものは、結着樹脂を用いずにそれ単独で成膜し、電荷輸送層とすることもできる。また、電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、2:1〜1:2(質量比)の範囲が好ましい。
電荷輸送層用塗布液に用いる溶剤としては、以下のものが挙げられる。アセトン又はメチルエチルケトンのようなケトン系溶剤;酢酸メチル又は酢酸エチルのようなエステル系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキソラン、ジメトキシメタン又はジメトキシエタンのようなエーテル系溶剤;トルエン、キシレン又はクロロベンゼンのような芳香族炭化水素溶剤。これら溶剤は、単独で使用してもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素溶剤を使用することが、樹脂溶解性のような観点から好ましい。
電荷輸送層の平均膜厚は5〜50μmであることが好ましく、特には8〜35μmであることがより好ましい。
また、電荷輸送層には、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤および/または可塑剤を必要に応じて添加することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
(実施例1)
温度23℃、湿度60%RH(相対湿度)環境下で熱間押し出しすることにより得られた、直径24mm、長さ257mmのアルミニウムシリンダー(JISにおいて材料記号A3003として規定されているアルミニウム合金のED管、昭和電工(株)製)を被塗布体(円筒状被塗布体)とした。
次いで、以下の成分をモノクロロベンゼン450部及びジメトキシメタン250部の混合溶剤中に溶解した後、モノクロロベンゼン:ジメトキシメタン=9:5の混合溶剤を更に追加することにより粘度100mPa・sの塗布液を得た。
下記構造式(3)で示される電荷輸送物質(正孔輸送物質)65部
下記構造式(4)で示される電荷輸送物質(正孔輸送物質)65部
下記構造式(5)で示される繰り返し単位から構成されるポリカーボネート樹脂(ユーピロンZ−200、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)165部
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
上記塗布液を用いて被塗布体を回転させずに浸漬塗布を行った。このとき、被塗布体を塗布液から引き上げる速度は、250mm/min.とした。次いで、温度120℃に加熱されたオーブン内で30分間、加熱乾燥することにより、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が15μmの塗膜を形成した。ここまでを第1工程とする。
次に、第2工程として、前記塗膜の膜厚を測定した。前記膜厚の測定は、被塗布体の塗布上端から、塗布上端より20mmの位置にかけては2.5mm毎に行い、塗布上端より20mmの位置から塗布上端より125mmの位置にかけては5mm毎に行った。
次いで、第3工程として、|R−I|が極小となる位置Lを求めた。続いて、第4工程として、上記浸漬塗布を行っていないアルミニウムシリンダーを被塗布体とし、回転条件を変更して塗布を行った。前記、第2工程から第4工程までは3回繰り返して行い、最後に得られた被塗布体に対して、第2工程および第3工程を行なった。なお、塗膜の所定の膜厚は、被塗布体の外周面に形成される塗膜の全領域に渡って、15μmとした。前記工程における被塗布体の回転条件および測定結果を表1に示す。
また、前記第2工程から第4工程までを3回繰り返して行い、最後に得られた被塗布体の、塗布上端から2.5mm下端側の位置におけるR/Iの値(塗膜の所定の膜厚に対する、実際に付着した塗膜の膜厚の割合)は、0.90であった。
【0045】
(実施例2)
実施例1で用いた被塗布体を、下記に変更した以外は実施例1と同様に浸漬塗布を行った。結果を表2に示す。
実施例1で用いたアルミニウムシリンダーに対して、湿式(液体)ホーニング装置を用いて、湿式ホーニング処理を行い、被塗布体とした。湿式ホーニング処理後のアルミニウムシリンダーの表面粗さは、最大高さRmaxD=1.1μm、十点平均高さRz=0.3μm、中心線平均粗さRa=0.1μm、凹凸の平均間隔Sm=58μmであった。なお、研磨材としては、球状アルミナビーズ(商品名:CB−A30S、昭和電工(株)製、平均粒径:30μm)を用いた。
【0046】
(実施例3)
以下の成分をメタノール400部/n−ブタノール200部の混合液に溶解した中間層用塗布液を得た後、実施例2で用いたアルミニウムシリンダーの外周面に浸漬塗布した。次いで、温度100℃に加熱されたオーブン内で30分間、加熱乾燥することにより、被塗布体上端から125mmの位置の平均膜厚が0.60μmの中間層を形成した。
共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ(株)製)10部
N−メトキシメチル化6ナイロン樹脂(商品名:トレジンEF−30T、ナガセケムテックス(株)製)30部
【0047】
次に、以下の成分を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で4時間分散した後、酢酸エチル700部を加えて電荷発生層用塗布液を得た後、上記中間層上に浸漬塗布した。次いで、温度80℃に加熱されたオーブン内で15分間、加熱乾燥することにより、被塗布体上端から125mmの位置の平均膜厚が0.17μmの電荷発生層を形成した。
ヒドロキシガリウムフタロシアニン(CuKα特性X線回折において、7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°、28.3°(ブラッグ角度(2θ±0.2°))に強い回折ピーク有するもの)20部
下記構造式(2)で示されるカリックスアレーン化合物0.2部
ポリビニルブチラール(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)10部
シクロヘキサノン600部
【0048】
【化4】

【0049】
次いで、上記電荷発生層の上に、実施例1の塗布液を用いて浸漬塗布を行い、電荷輸送層を形成した。電荷輸送層を浸漬塗布した際の塗布条件には、実施例1で最終的に得られた条件を用いた。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例4)
実施例1の塗布液に対して、モノクロロベンゼン:ジメトキシメタン=9 :5の混合溶剤を更に追加することにより、粘度40mPa・sの塗布液を得た。該塗布液を用い、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が7μmとなるようにした以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0051】
(実施例5)
実施例1の塗布液に対して、モノクロロベンゼン:ジメトキシメタン=9 :5の混合溶剤を更に追加することにより、粘度20mPa・sの塗布液を得た。該塗布液を用い、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が7μmとなるようにした以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0052】
(実施例6)
実施例1の塗布液に含有される溶媒の一部を揮発させることにより、粘度1000mPa・sの塗布液を得た。該塗布液を用い、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が25μmとなるようにした以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0053】
(実施例7)
実施例1の塗布液に含有される溶媒の一部を揮発させることにより、粘度1200mPa・sの塗布液を得た。該塗布液を用い、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が25μmとなるようにした以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。また、作製した被塗布体の外観を確認したところ、塗膜にわずかにムラが確認された。
【0054】
(実施例8〜実施例12)
実施例1において、最終的な塗布条件を表2のように変えた以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0055】
(実施例13)
実施例1において、最終的な塗布条件を表2のように変えた以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。また、作製した被塗布体の外観を確認したところ、塗膜にわずかにムラが確認された。
【0056】
(実施例14)
実施例1において、最終的な塗布条件を表2のように変えた以外は、実施例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0057】
(実施例15)
以下の成分からなる溶液を約20時間、ボールミルで分散し導電層用塗料を調製した。
酸化スズの被覆層を有する硫酸バリウム粒子からなる粉体(商品名:パストランPC1、三井金属鉱業(株)製)60部
酸化チタン(商品名:TITANIX JR、テイカ(株)製)15部
フェノール樹脂(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分60%)43部
シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レ・ダウコーニング(株)製)0.015部
シリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120、GE東芝シリコーン(株)製)3.6部
1−メトキシ−2−プロパノール50部
メタノール50部
【0058】
上記方法にて調製した導電層用塗布液に、1−メトキシ−2−プロパノール:メタノール=1:1の混合溶剤を更に追加することにより粘度70mPa・sの塗布液を得た後、実施例1のアルミニウムシリンダーの外周面に浸漬塗布した。次いで、140℃に加熱されたオーブン内で1時間、加熱硬化することにより、被塗布体の塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が20μmの塗膜を形成した。ここまでを第1工程とする。
次に、第2工程として、前記塗膜の膜厚を測定した。前記膜厚の測定は、被塗布体の塗布上端から、塗布上端より20mmの位置にかけては2.5mm毎に行い、塗布上端より20mmの位置から塗布上端より125mmの位置にかけては5mm毎に行った。
次いで、第3工程として、|R−I|が極小となる位置Lを求めた。続いて、第4工程として、上記浸漬塗布を行っていないアルミニウムシリンダーを被塗布体とし、回転条件を変更して塗布を行った。前記、第2工程から第4工程までは3回繰り返して行い、最後に得られた被塗布体に対して、第2工程および第3工程を行なった。なお、塗膜の所定の膜厚は、被塗布体の外周面に形成される塗膜の全領域に渡って、20μmとした。前記工程における被塗布体の回転条件および測定結果を表1に示す。
また、前記第2工程から第4工程までを3回繰り返して行い、最後に得られた被塗布体の、塗布上端から2.5mm下端側の位置におけるR/Iの値(塗膜の所定の膜厚に対する、実際に付着した塗膜の膜厚の割合)を表2に示す。
【0059】
(実施例16)
実施例15で最終的に得られた、外周面に導電層を有するアルミニウムシリンダーを被塗布体とし、該被塗布体の外周面に、実施例3と同様に、中間層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成した。電荷輸送層を浸漬塗布した際の塗布条件には、実施例1で最終的に得られた条件を用いた。結果を表2に示す。
【0060】
(実施例17)
実施例1で用いたアルミニウムシリンダーに対して、実施例1で最終的に得られた条件を用いて浸漬塗布を行なった。ここまでを第1工程とする。
ここで、塗膜の所定の膜厚を、塗布上端から、塗布上端より10mm下端側の位置までは12μmに変更し、塗布上端より10mm下端側の位置から、塗布下端の位置までは15μmのままとした。
次いで、実施例1と同様に、実施例1に記載の第2工程から第4工程までを3回繰り返して行った。前記工程における被塗布体の回転条件および測定結果を表3に示す。また、最後に得られた被塗布体の、塗布上端から2.5mm下端側の位置におけるR/Iの値(塗膜の所定の膜厚に対する、実際に付着した塗膜の膜厚の割合)は、1.00であった。
【0061】
(比較例1)
実施例1で用いたアルミニウムシリンダーを被塗布体として、実施例1で用いた粘度100mPa・sの塗布液を用いて、被塗布体を回転させずに浸漬塗布を行った。このとき、被塗布体を塗布液から引き上げる速度は、250mm/min.とした。次いで、温度120℃に加熱されたオーブン内で30分間、加熱乾燥することにより、塗布上端から125mmの位置の平均膜厚が15μmの塗膜を形成した。塗膜の所定の膜厚は、実施例1と同じく、被塗布体の外周面に形成される塗膜の全領域に渡って15μmとした。
塗布上端から2.5mm下端側におけるR/Iの値(塗膜の所定の膜厚に対する、実際に付着した塗膜の膜厚の割合)を表2に示す。
【0062】
(比較例2)
被塗布体を塗布上端より10mm、塗布液から引き上げるまでの引き上げ速度を350mm/min.とし、その後の引き上げ速度を250mm/min.とした以外は、比較例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0063】
(比較例3)
引き上げ開始時から引き上げ完了時まで、被塗布体を、被塗布体の外周面における遠心加速度2m/sで回転させ続けた以外は、比較例1と同様に作製した。結果を表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を行う塗膜形成方法であって、
第1の円筒状の被塗布体に対して浸漬塗布を行う第1工程と、
該第1工程で形成された塗膜の膜厚を測定する第2工程と、
該第2工程で測定した膜厚と所定の膜厚とを比較して得た情報から浸漬塗布における被塗布体の引き上げ時の円筒軸を中心とした回転の条件を得る第3工程と、
前記第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体に対して前記第3工程で得た回転の条件を用いて浸漬塗布を行う第4工程と
を有することを特徴とする塗膜形成方法。
【請求項2】
円筒状の被塗布体を塗布液に浸漬した後、円筒軸を中心として円筒状の被塗布体を回転させながら引き上げて、円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する浸漬塗布を、複数の円筒状の被塗布体に対して行うことによって、該複数の円筒状の被塗布体のそれぞれの外周面に塗膜を形成する塗膜形成方法であって、
前記複数の円筒状の被塗布体のうち、第1の円筒状の被塗布体に対して前記浸漬塗布を行い、前記第1の円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する第1工程と、
前記第1工程で形成された塗膜の膜厚を前記第1の円筒状の被塗布体の円筒軸方向に3箇所以上で測定する第2工程と、
下記式(1)で表わされる値Xnが、被塗布体の塗布上端からの距離に対して極小となる位置(極小となる位置が存在しない場合は最小となる位置)のうち、値nが最小である位置と塗布上端との距離Lを求める第3工程と、
前記第1工程を経ていない第2の円筒状の被塗布体を前記塗布液に浸漬した後に、下記に示す回転条件により引き上げて前記第2の円筒状の被塗布体の外周面に塗膜を形成する第4工程とを有することを特徴とする塗膜形成方法。
Xn=|Rn−In| (1)
(式(1)中、nは前記第2工程の膜厚測定点のうち塗布上端から数えてn番目の測定点であることを示し、Rnは前記塗布上端から数えてn番目の測定点における前記第1工程で得られた塗膜の膜厚を示し、Inは前記塗布上端から数えてn番目の測定点における所定の膜厚を示す。)
(R1<I1の場合の回転条件)
塗布上端から距離L引き上げる間の被塗布体の回転速度は前記第1工程と同じとし、塗布上端から距離L引き上げた後の被塗布体の回転速度を前記第1工程より増加させる。
(R1>I1 かつ 前記第1工程において、前記第1の円筒状の被塗布体を塗布液面から距離L引き上げた後に前記第1の被塗布体を回転させていた場合の回転条件)
塗布上端から距離L引き上げる間の被塗布体の回転速度は前記第1工程と同じとし、塗布上端から距離L引き上げた後の被塗布体の回転速度は前記第1工程より減少させる。
(R1=I1の場合 または 前記第1工程において、R1>I1かつ前記第1の円筒状の被塗布体を塗布液面から距離L引き上げた後に前記第1の被塗布体を回転させていなかった場合の回転条件)
引き上げ時の被塗布体の回転速度は、前記第1工程と同じとする。
【請求項3】
前記塗布液の粘度が、40mPa・s以上1000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗膜形成方法。
【請求項4】
引き上げ時の前記被塗布体の外周面における最大遠心加速度が1m/s以上9.8m/s以下であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗膜形成方法。
【請求項5】
引き上げ開始時の被塗布体の外周面における遠心加速度と引き上げ時の被塗布体の外周面における最大遠心加速度の差が、1m/s以上9.8m/s以下であることを特徴とする請求項4に記載の塗膜形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の塗膜形成方法を用いたことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−45863(P2011−45863A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199053(P2009−199053)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】